「シィーーーッ!!」
リーゼロッテの短い掛け声と共に放たれる拳を躱す。威力では無くて速度を重視しているせいか速いだけの物なので躱す事に集中していれば万が一でもまぐれが起こっても、当たるなんて事はない。それに威力が無い事で手数の回転率が上がり、躱したかと思えばすぐに次の拳が、或いは蹴りがやって来る。
速度を重視しているので破壊力は無いが、それを当然理解しているのだろう狙う箇所は水月、喉、腎臓などの急所狙い。殺せる程の威力は無いが、当たればダメージが残るように考えられている。デバイスを持たず、管理局に所属していたリーゼロッテは管理局のルールに従って非殺を心掛けている。以前ならばそれでも良かったかもしれないがこちら側に来た以上、それは悪癖に成り下がっている。近いうちに矯正しなければならないと考えながら頭部を狙ったハイキックをしゃがんで躱し、軸足を払う。
唯一支えとなっていた足が地面から離れたことでリーゼロッテの身体は宙を舞う。魔法の使用が制限されている上に自分の意思で地面から離れた訳ではないので行動をとる事が出来ない。
そして隙だらけの彼女の鳩尾に、掌底を全力で放つ。
「ガーーーッ!!」
防御を固める事が出来なかった以上、リーゼロッテにはそれを受ける以外の選択肢が存在していない。ミチリと筋肉と肋骨が軋む音が耳に届き、彼女の口からは息が溢れる。そして投げられた人形のように受け身を取る事すら出来ずに地面を弾みながら転がりーーー起き上がらなかった。
芝居である事を警戒しながら寝転がるリーゼロッテに近づく。しかし間合いに入っても彼女は起き上がるどころか反応する素振りすら見せない。彼女の足を強めに蹴っても反応を見せなかった。そこで彼女の手を取って脈を取り、仰向けにして胸に耳を当て、瞼をこじ開けて瞳孔を確認する。
結論から言ってーーーリーゼロッテは死んでいた。いや、心臓に強い衝撃が来たのが原因で止まったのだから心肺停止状態と言うのが正しいだろう。心臓は止まっているが、まだ生きている状態。このまま放置すればそのまま死んでしまうことになるのだが。
なので足を上げ、リーゼロッテの胸に、正確には心臓に振り下ろす。加減をしていない一撃に彼女の身体が跳ね上がりーーー心臓が再び動き出した事で息を吹き返す。
「ーーーッ!?エホッ、エホッ……!!」
「そのまま暫く深呼吸しておけ。ちょっとの間とは言え心臓止まったんだからな」
むせるリーゼロッテの背中をさすりながら深呼吸を促す。自分に何があったのか理解出来ずに混乱しているようだったが俺の言う通りに深呼吸を始め、数十秒後には落ち着きを取り戻していた。
「ふぅ……ふぅ……今のは一体?」
「体験したそのままだけど?心臓に強い衝撃を与える事で停止させるってだけのものだ。覚えておくと便利だぞ?生け捕りにする時なんか仮死状態にしてる訳だから暴れられる心配も無いし。まぁ、ちゃんと生き返してやらないとそのまま死ぬことに注意しないといけないけどな」
軽くリーゼロッテの事を診てみるが、即座に蘇生させたので後遺症が残っていないようだった。彼女が残っている事を隠している可能性もあるが、不調があればすぐに申し出るように言いつけてあるのでその心配は無いだろう。
ともあれ、生き返らせたとは言え仮死状態になったのでこれ以上無理をさせるのは愚行だと判断して今日の鍛錬を終えることにする。今は大人の姿で、いつもならばここで子供の姿に戻ってリーゼロッテにもたれ掛かるのだが、今日は少しばかり趣向を変えてみようと思う。座り込んで胡座を組み、股の間にリーゼロッテを乗せる。大人の姿であるが彼女の身体は思っていたよりも軽い。もう少し肉を付けた方がいいんじゃないかと思う。
まぁ、一部の肉付きは愛歌が嫉妬する程に付いているのだが。
「りょ、リョウヤ!?」
「いいからいいから。後遺症はないかもしれないけど一度心臓止まってるんだから暫く休んでおけ」
「で、でも……こんな事したらマナカが怒るんじゃ……」
「大丈夫。リーゼロッテの恥ずかしがってる写真と引き換えで許してもらうって話になってるから」
「え?嘘?てかいつのまにか撮ったの?」
「たった今」
リーゼロッテの顔の前についさっき撮った写真ーーー恥ずかしそうに顔を赤らめている顔のドアップの写真を投影し、見せびらかすように愛歌に向けて送信する。数秒ほどでサムズアップの絵文字付きのメッセージが届いた。俺の周りに女の姿があれば嫉妬する愛歌だが、どうやらリーゼロッテはその枠から外れているらしい。月村やイレインもその枠から外れているので、無関係な者だけに反応しているように見える。
「ほら、良くやったって返事きたぞ。ん?次はもう少し服を乱してのバージョンが欲しいってさ……よし、ちょっとやってみようか」
「やるの!?本当にやるの!?私なんかがそんな事しても全然つまらないよ!?」
「馬鹿野郎!!リーゼロッテの羞恥を堪えながらの着崩した写真だぞ!?エロいに決まってるじゃないか!!」
「なんか趣旨変わってきてない!?」
愛歌に頼まれたと言うこともあるが、俺もその姿を見たいので実行させる事にする。口では否定的な事を言っていたリーゼロッテだが、俺の言葉には逆らえないのか本当にいいのかなぁ?なんて口にしながらも着ている服のボタンを緩め、肌の露出を多くする。その姿にエロいなぁと思いながら写真を撮り、愛歌に送る。
数秒後には返事が帰って来た。ブラヴォー、マーベラスといった賞賛する言葉と一緒に愛歌がリーゼロッテと同じように服を着崩しながらポーズを取っている写真が添付されている。それを見てもリーゼロッテの時のようなエロいなぁという感想よりも、微笑ましいと思ってしまう。それは愛歌の身体が未熟だからなのだろう。
写真を保存し、その旨を書いたメッセージを送る。
数秒後には口に出して言えないような罵詈雑言をメッセージの文字数制限一杯までに書き連ねたメッセージが帰って来た。
「相変わらずこの手に関しての暴走がヤバイな」
「マナカが気にしてるって分かってるのに話題にしちゃうんだね……」
「最近、この話が鉄板になりつつあるんだよなぁ……イレインが話題にして、愛歌が過剰に反応するのに慣れたんだろ」
初めは恥ずかしそうにしていたが、今ではそれよりも俺と触れている事が嬉しいのだろう落ち着いた様子のリーゼロッテとの会話を楽しむ。ここはジェイルが作った作品の試運転をする為の実験室で、頑丈なだけの殺風景な部屋だが、基本的に静かで誰もやってこないので会話をするにはうってつけの部屋でもある。
「……ねぇ、気になった事聞いても良い?答えにくかったら話さなくてもいいから」
「おう、何が聞きたいんだ?」
「前に話してたよね?リョウヤは悪役になろうとしているって。それなのにリョウヤはどうしてそんなに関わろうとするの?マナカから聞いたんだけどジュエルシードの時だって必要以上に関わってたみたいだし、今回の闇の書の事だってそう。どうして?」
言われるほどに関わったのかと首を傾げながら思い返す。
ジュエルシードの時はフェイトと成り行きだったとは言え友人になり、家の近くで暴れられているという理由からアクロ・ダカーハとして姿を見せた。そしてフェイトの事情を知っているが故に事前に時の庭園に乗り込んでプレシアと接触し、しなくても良い洗脳をして親バカに仕立て上げた。必要最低限に動くのなら無印編の最終盤面だけに姿を見せるだけで良いのにだ。
今回だってそうだ。手駒が欲しいからと言ってリーゼロッテを洗脳し、リーゼアリアとギル・グレアムを殺した。愛歌と行動している時の闇の書の騎士たちとの邂逅は不可抗力だったとは言え、アクロ・ダカーハの姿で桜木を誘ってまで管理局と闇の書の騎士たちを巻き込んでのドンパチは流石にやり過ぎている。必要最低限の接触なら、裏で管理局員から魔力を蒐集して騎士たちに渡すだけで良かったのに。
結果として、確かにリーゼロッテの言うように些か深く関わり過ぎている気がする。その事実に納得しながらも、同時に何故そうなったのかという理由にも心当たりがあった。
「リーゼロッテには俺の起源について話したっけな?」
「起源って……確か、《干渉》って言ってたの?レアスキルみたいなもので色んな物に干渉できるって言ってたけど」
「間違っちゃ無いけど説明が足りてなかったな。教えてくれた奴が言うには起源っていうのはそのモノの原初の方向性、そのモノがそのモノである事をたらしめるものを起源と言って、この世の全ての形あるものには何かしらの起源があってそれに沿うように行動してるんだとさ。普通はそれを自覚していないから目立ってそうしているようには見えないけど、中には起源に目覚めた奴がいる。そういう奴の事を起源覚醒者というんだけどな、そいつらは起源を自覚しているからより起源により強く惹かれてしまうんだ。例えば起源が《剣》だったら剣に対して執着するようになるし、《食べる》事だったら人一人を平気で食べるようになる」
「だったら、リョウヤの《干渉》は?」
「文字通りの意味だよ。他人の事に立ち入って口を出したり、自分の考えを押し付けようとする。それが転じて他者への干渉能力が上がってるけど、リーゼロッテが言ったように関わらなくても良い事なのに深く関わってしまうんだ」
霊体に触れたり、リーゼロッテやプレシアに行った洗脳行為が普通以上の効果を発揮したり、魔術で大気を操れたりと、起源を自覚しているが故に《干渉》という行為に関しては常人以上の能力を発揮する事ができる。しかし、そうであるが故に本来ならば関わらなくてもいい事にまで深く踏み込んでしまうのだ。前世でもそういう経験はあった。
自覚していたはずなのにその事をリーゼロッテに指摘されるまで気がつく事が出来なかった。マーリンが起源に目覚めればいずれは起源に人格を塗りつぶされる事になると言っていた事と関係があるのかもしれない。精神力に関しては常人とは比べものにならない程に強いという事を自負しているが、それでもいずれは起源に飲み込まれてしまうかもしれない。
「あぁ……そうだな。だからリーゼロッテ、1つだけ頼みがある」
「何?」
「俺が完全に起源に飲み込まれて、以前の俺とは違う俺になったと判断した時には俺を殺してくれ。そんなつもりは無いけど、《干渉》する為だけに動く俺とかどう考えても害悪だからな」
自分の能力の高さは理解している。起源に完全に飲み込まれて、それに沿うだけの存在となった俺はどう考えても害を齎す存在でしか無くなる。望みはしっかりと敵対者として相応しい存在に成長した黒須に倒される事だが、そうなってしまえば悪役もクソも無くなってしまう。だからこそ、そんなつもりは無いとはいえ万が一に備えてリーゼロッテにこの役目を頼む事にした。愛歌にこんな事を頼むわけにはいかないし、桜木なら事情を話せば理解してやってくれそうだが俺の心情的に頼みたく無い。
そこで俺の手駒で、道具でもあるリーゼロッテに任せる事にした。消去法で選んだ上に酷な役割を任せる事になるが、それは仕方がないと割り切ってもらうしかない。
「……どうしても、そうしなくちゃいけないの?」
「あぁ、どうしてもだ」
「……分かった。もしもの時には、私がリョウヤを止めてあげる。だけどね」
「だけど?」
「リョウヤにはマナカがいる。ルイだっているし、イレインもいる。例え起源に飲み込まれても、みんなリョウヤの事を助けようとするんじゃないかな?勿論、私だって助けるつもりだから」
「ーーー」
リーゼロッテの言葉に呆気に取られてしまい、そうだったと上を仰ぐ。俺がみんなの事を少なからず思っているように、みんなも俺の事を思ってくれている。もしも俺が起源に飲み込まれてしまったとしても、必ず助けるんだと奮戦するがみんなの姿が簡単に想像出来てしまう。
あぁーーーだとしたら、みんなに迷惑かけるわけにはいかないから飲み込まれるわけにはいかないな。
「ごめん、やっぱり無しで。そんなの聞かされたら闇落ちしてる場合じゃないわ」
「でもそうなってどうしようもなかった場合、マナカがリョウヤの事を捕まえそうじゃない?」
「……超分かる。なんか鉄の檻に閉じ込められて首輪付けられてる未来が見えたんだけど」
「すっごい簡単に想像出来た」
起源に飲み込まれて害悪になった俺を檻の中に閉じ込め、首輪から伸びた鎖を手にしながら目のハイライトを亡くして笑う愛歌の姿が簡単に想像出来てしまった。リーゼロッテもその光景を想像してしまったのか真顔で俺の言葉に同意し、見つめ合っておかしくなって同時に吹き出してしまう。
そして身体と心が少しばかり軽くなっているのに気がついた。どうやら無意識の内に起源に飲み込まれる事を懸念していたようだった。考えてみれば前世では転生するなんて考えてもいなかったので飲み込まれる前に死ぬだろうと思っていた。それが転生してしまい、無意識の内に起源に飲み込まれる事を恐れていたらしい。リーゼロッテに指摘され、自覚し、そうなる訳にはいかないなと決心した事で改善されたようだが。
ともあれ、これで俺は起源に飲み込まれるなんて下らない終わりを迎える事が出来なくなってしまった。正義として相応しい存在になった黒須に倒されるために、みんなに起源に飲み込まれて害悪になった俺を助けるなんて要らない手間を掛けさせないために。
そして何よりーーー想像してしまった愛歌に檻の中で飼われるペットエンドを迎えない為に。
FGOのイベントが忙しかったり、シノアリスが面白かったり、暑くなってきて仕事で体力を使ってしまったりとで時間が取れなくて書くのが遅くなってしまった!!ゴメンね!!ぐだイベ面白かった!!沖田オルタちゃん可愛い!!(宝具レベル2)シノアリスもダークな雰囲気がグッド!!(赤ずきん推し)
カガっちが起源に飲み込まれたら目に付いた事、興味を惹かれた事に何でもかんでも干渉してどんどん事を大きくするだけして解決しないクッソ害悪な存在になるぞ!!例を挙げると火種が燻ってる状態の戦線に干渉して、全面戦争にしたりとか!!
そうなった場合、愛歌ちゃまによるカガっちペットエンドを迎える訳だけど。