道化の名は必要悪   作:鎌鼬

77 / 83
darkness heart・4

 

 

口に咥えていたタバコを放し、肺一杯に取り込んでいた空気と一緒に煙を吐き出す。高所にいるせいか強い風に煙は流されて、瞬く間に見えなくなってしまった。それに少しばかり儚さを感じながら、最終的にはどうでもいい事だなと結論付けて、フィルターまで燃え尽きたタバコを捨てて踏み躙る。

 

 

「ハスター、中の様子は?」

 

『索敵中……どうやら八神はやて1人のようですね。シグナム、ヴィータ、シャマル、八神めぐりは高町なのはたちを連れて屋上へと向かっています。自分たちと八神はやてとの関係がバレたので決着をつけるつもりなのでしょう』

 

「一番楽な口封じは殺す事だからな。死人に口無しっていうくらいだし。まぁそうしたらそうしたで管理局にバレてより厄介な状況になるんだけどな」

 

 

12月24日の夕方、ついに高町たちに八神が闇の書の主であるということがバレてしまった。月村が友達が入院していると高町たちに伝え、一緒にお見舞いに行こうとしたところ病室でばったりとシグナムたちと鉢合わせたのだ。流石にその場で事を起こす程に短気では無かったようで若干ギスギスした空気ではあるがお見舞いを終わらせ、月村とバニングスが帰ってから話があると言って屋上へと誘ったようだ。

 

 

まったくもってお粗末としか言いようの無いバレ方だ。僅かな手掛かりから地道に捜査をして犯人たちのアジトを見つけている者たちの努力が馬鹿馬鹿しく思える程に呆気なく、彼女たちは今回の事件の主犯格でありながら部外者でもある八神の元に辿り着いてしまった。流石に念話の阻害が施されていて管理局にはバレてはいないかもしれないがこの後に起こる事を考えれば確実にバレるだろう。寧ろバレない方がおかしい。

 

 

「ザッフィーの姿が見えないのが気になるけど好都合っちゃ好都合だ。今の内に動かせてもらおうか」

 

『マスター、結界の展開を確認しました』

 

 

予想していた通りに三角錐型のベルカ式の結界が展開される。結界の色合いからして術者は恐らくシャマルだろう。これまでと同じ対象としたものだけを取り込むタイプの結界だと予測出来、このままでは見つかっていない俺は結界に弾かれて中に入る事が出来なくなってしまう。

 

 

だが、問題ない。この結界はすでに何度も見てきた。故にそれに対する対策はすでに出来上がっている。

 

 

「任せたぞ、ハスター」

 

『Yes master』

 

 

足元にドス黒く光り輝く魔法陣が現れ、魔力光が黒から徐々に結界と同じ色合いのものに近づいていく。そして目の前まで結界が迫りーーー弾かれる事なく結界の中へと取り込まれた。

 

 

結界から弾き出されるのは対象に取られていないからである。ならば対象であると誤認させれば弾かれる事なく結界に取り込まれることが出来るわけだ。どういった理屈で結界を展開した時に人を取り込むのかを調べていた過程で思いついたのだが、ハスターがそれを魔法として形にしてくれたのだ。

 

 

『侵入成功です。同時に隠蔽を施しているので術者にも気付かれていないはずです』

 

「上々だな」

 

 

最悪は結界の一部を破壊しての侵入を考えていたが、ハスターのお陰で誰にも気付かれること無く結界内に侵入することが出来た。これでシグナムたちと高町たちは俺に気付くこと無く、上でドンパチを繰り広げてくれるだろう。

 

 

何気無しに病院の屋上を見れば、ピンクと赤の砲撃や雷に炎、果ては剣が飛び交う戦場が出来上がっていた。

 

 

赤の砲撃は赤城の物であり、剣は引きこもっていたはずの御剣の物で違いないだろう。心が折れてリタイアしたと思っていたがどうやら再起を果たしてくれたようだ。それが自力によるものなのか、それとも他者からの叱咤激励によるものなのかは興味を惹かれるのだが今は好奇心で動く場面ではないので自重する事に決めながら八神の病室を目指す。ハスターによれば八神も結界の中にいるとの事。巻き込まれる可能性を考えて外に避難させておいた方が良いのではないかと考えたが、シグナムたちの立場で考えればそれは不安でしかないだろう。目の届く場所にいて欲しいという気持ちは分からないでもない。

 

 

それは俺にとって好都合以外の何でもないのだが。

 

 

人気の無い病院をアクロ・ダカーハの姿……つまり仮面装着の完璧な不審者ルックで悠々をと歩いて行く。上で激しい戦闘が行われているのだから多少なりともその影響はあるはずなのだが、病院の中は静かなままで揺れ一つ感じない。シャマル辺りが結界を展開する際に何か仕掛けを施したのだろう。シグナムたちとは違い、純粋な後衛であるシャマルならばこれくらいはやってのけるという確信がある。

 

 

そして数分後には何事もなく八神の病室にまで辿り着く。もしかしたらザフィーラ辺りが警護でもしているのでは無いかと警戒していたが姿は見えず、気配も八神のものしか感じられないので完全に別行動を取っているようだ。いざ開けようと手を伸ばして扉を引いてもビクともしない。感触からして鍵が掛けられているのでは無くて固定されているように思えた。恐らくはシャマル辺りが魔法でやったのだろう。力任せに破るには少々骨が折れ、解析して解除するにしても時間がかかり、その間に騎士たちが来るのが目に見えている。

 

 

だけど、まぁ、相手が悪かった。悪性情報を含めた魔力を手を覆うような形で付属し、扉に触れる。それだけでひび割れる様な音がして扉は普通に開いた。

 

 

「ん?誰やーーーホンマに誰や!?」

 

「good evening!!八神はやて!!12時を迎えるよりも先に不審者サンタのアクロ・ダカーハさんの登場だ!!」

 

 

今日はイブとはいえクリスマス。なのでバリアジャケットのコートの色を赤色にし、所々にファーをあしらったサンタ風のコーディネートにしてみた。勿論帽子も装備しているし、つけ髭も抜かりない。

 

 

結果として仮面装備の不審者エセサンタの出来上がりである。改めて言葉にしてみると思っていた以上に酷い。

 

 

ベッドの上で身体を起こしながら本を読んでいた八神だが、不審者エセサンタとなっている俺の姿を見て身構えながら警戒を露わにしている。その際に俺から見えない様にナースコールのボタンを連打している辺り抜け目ない。

 

 

「ナースを呼ぼうとしても無駄だよ。今の病院は俺とお前しか居ないからな」

 

「何でや!?誰もおらへんなんておかしいやろ!?」

 

「アレだよ、魔法魔法。魔法で限られた人間しか居られない様にしてるんだ……つーかこの格好飽きたな」

 

 

いつもと違う格好というのは存外落ち着かない。その上、八神は俺の登場に驚きすぎていてサンタコーディネートに関して何もリアクションをしてくれないのだ。飽きたのでハスターに指示していつも通りの黄色のコートに戻してもらう。

 

 

「服が変わった!?……もしかしてアンタも魔法使いなん?」

 

「Yes!!I'm magician!!そして今日は病気に苦しんでいる君にプレゼントをしようと思ってきたんだ」

 

 

前に出ただけで八神がビクリと身体を震わせるが仕方がない。何せ今の俺は八神の友人である加賀美両夜では無く、仮面装備の不審者魔法使いなのだから。

 

 

「最近、君の家族がコソコソと何かやってるみたいだけど何をやってるか知りたくないかい?」

 

「そ、それは……」

 

「気になるよね?気にならないわけがないよね?普段だったら穀潰しになっている君のお姉さんまで忙しそうにコソコソしてるんだからさぁ」

 

「ウチのお姉ちゃんの事まで……だ、だけど、それはみんなが内緒にしよう思ってるからであって……」

 

「これが、君に内緒で彼女たちがやってる事だよ」

 

 

八神が見やすい様に顔の前にモニターを投影する。そこに映るのは外の光景ーーーつまり、シグナムたちが高町たちと戦っている映像だった。

 

 

「っ!?なのはちゃんにフェイトちゃん!?それに龍斗君たちまで……何で何でみんなと戦ってるんや!?」

 

「シグナムたちが裏でコソコソやってたことが原因だよ。彼女たちがやっていた事は魔法側からすれば見事に犯罪行為に当てはまっててな?それを止めようとしている高町たちと戦ってるっていうわけだ」

 

 

映っている映像が余程ショックだったのか、普通ならば偽物だと疑って当たり前なのだが八神はこの映像を信じ、俺の言葉を信じている。まぁ、疑われてもこの映像はリアルタイムで送られている物だし、シグナムたちが犯罪行為を行っていたのは事実なのだが。

 

 

「と、止めな……みんなを止めな!!」

 

「行くんだったら連れて行くぜ?その為に来た様なものだし」

 

 

部屋の片隅に置かれていた車椅子をベッドの側まで持っていき、八神を座らせる。そして八神に知らせる様にフィンガースナップを行い、魔法陣を展開して高町たちとシグナムたちがドンパチを行なっている屋上へと転移した。

 

 

「やめてぇぇぇーーー!!」

 

「ッ!?はやて!?」

 

「はやてちゃん!?」

 

 

予期していなかった八神の乱入に戦っていた全員の手が止まる。リアルタイムで観ていたから分かるが、戦況はシグナムたちが有利だった。数では優っているとはいえ高町たちはまだ未熟であるし経験も少ない。シグナムたちにはその程度の有利など覆せる程の地力と経験を有している。このまま決着がつくまで戦っていればシグナムたちが勝ち、高町たちは殺されるか重傷を負っていたに違いない。そう考えればタイミングとしては良かったのだろう。

 

 

初めは八神の声で驚いていた高町たちとシグナムだが、彼女の座る車椅子を俺が押していることに気がついて顔色を変える。高町たちは経験が浅いが故に困惑し、シグナムたちが八神を助けようと行動に移すよりも先にナルカミを展開し、背後から八神の首筋に突き付ける。

 

 

「え?あ?……え?」

 

「stop and freeze.言うことを聞かなかったらどうなるか……分かるだろ?」

 

 

そう言いながら露出している口元を歪め、困惑している八神の事を嘲笑う様に笑った。

 

 

 






サンタコーディネートをしながら仮面装備の不審者が原因不明の難病に苦しんでいる少女の元に現れたらしい。どこからどう見ても立派な事案です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。