「え?……これは、一体、何で……」
「俺の事を親切な仮面装備の不審者魔法使いだとでも思っていたのか?残念、実は俺は悪い仮面装備の不審者魔法使いだったんだ。サンタクロースじゃなくてサタンクロース的な存在だと思えば間違ってないぞ?」
首筋に突きつけられたナルカミの刀身に困惑しながらも口を開いた八神に敬意を表して答えてやる。この場にわざわざ八神を連れてきたのはシグナムたちの秘密を彼女に教えるためでは無く、彼女1人を人質にして戦場を硬直させる為だ。
シグナムたち闇の書の騎士は言わずもがな。歴代の主たちとは違い、自分たちの事を道具としてではなく人間として接してくれる八神の事を深く敬愛している。それこそ、八神を救う為なら八神の命令に背く程に。こうして八神の命を握ってしまえば彼女たちは動くことが出来ない。
高町たち管理局勢もそうだ。八神の身を案じているというものあるだろうが、ここで八神が殺されれば主を無くした闇の書は何をするのか分からない。転生機能により別の世界に移動するだけならばまだしも、これまでで蒐集された魔力が火薬の様に爆発でもすればどれだけの被害を齎らすのか判断出来ない。
転生者たちはここで闇の書が覚醒し、最終的に破壊される事を知っている。その話の流れを変えたくないと考えるのなら、この場では動けなくなる。事実、この場にいる俺と桜木を除いた転生者全員が本来のストーリーでは現れなかった俺の行動に対して怒りの篭った視線を向けている。
「さて、この状況を理解することの出来ないド低脳が存在しなくて結構結構」
「テメェ……何が目的だぁッ!!」
「んん〜?どこかから不審者に負けたクソ雑魚ロリータの喚き声が聞こえるなぁ?……まぁ良い。で、俺の目的だっけ?」
不審者に負けたクソ雑魚ロリータと言ったところで心当たりがあったのかヴィータが若干苦しそうにしながら無い胸を押さえている。どうやら表面上では平気そうに振舞っていても、あの日の出来事が心に刻み込まれているのだろう。
「みんなはさぁ、積み木って積み上げるのが楽しいタイプ?俺は積み重ねたのを崩すのが楽しいタイプでさぁ、特に誰かの積み重ねたヤツを崩すのが楽しくて仕方がないわけよ。そいつの頑張りを否定するみたいでさ」
「……何が言いたい」
「暴露だよ、暴露。中心人物でありながら部外者扱いされて除け者にされている八神さんちのはやてちゃんに、懇切丁寧に何がどうなっているのかを教えてやろうと思ってな」
「ッ!?止めろ!!それだけは……止めてくれ!!」
「止めて欲しいよなぁ?話して欲しく無いよなぁ?……だけど話す。彼女には話を聞くことが出来る資格じゃなくて、話を聞かなければならない義務があるからな」
「ーーーヴィータ!!今よ!!」
余程話されたくなかったのか必死になって止めようとしているシグナムを嘲笑っていると身体が糸の様な物で縛り上げられる。声から判断するにシャマルが俺の事を拘束しているのだろう。だとするならシグナムのあれは囮だったのか。
事前に念話で話し合っていたのか、シャマルが叫ぶよりも速くにヴィータが突貫してくる。狙いは動けない俺ーーーではなくて八神の方。流石に真っ先に俺を倒しに来る程に冷静さを失ってはいない様で人質にされている八神の救助を優先してきた。
まぁ、そんな行動は想定内でしか無いが。
爪先で軽く地面を蹴るアクションをすれば足元からこんこんと泥が湧き上がり、それが触手となってヴィータへと殺到する。愛歌が良く悪性情報を具現化させた物を使っているのでそれを真似てみたのだ。一刻も早く八神を助けたいという思いが強いのか、ヴィータは悪性情報の触手を前にしても無視するように突っ込んできた。恐らく自分なら無視してでもいけると考えているのだろう。
悪性情報の触手がヴィータの腕に、足に、首に巻き付く。振り解こうと槌のロケット噴射の勢いを強くするが、そんなもので振り解ける程やわでは無い。触手は千切れる気配を欠片も見せず、それでも前へ前へと進もうとしてあるせいでヴィータの身体をより一層締め付ける形になっている。
「ーーーお?」
ヴィータの無駄な頑張りを眺めいると、突如として視界がブレた。何があったのか、その答えは逆さまになった視界に映るシグナムと、頭から上が無くなっている自分の身体を見て理解した。どうやらヴィータは囮で、本命はシグナムによる奇襲だったらしい。俺の事を危険だと認識しているからこその生かすつもりの無い初撃必殺。しかも八神に俺の死体と殺した瞬間を見せない為に背後に首を跳ね飛ばすという心遣いまで見せている。
そしてーーー
「何ッ!?」
シグナムが驚愕しながら飛びのくものの、それよりも泥が触手となって彼女を捕らえる方が早い。腕に絡みついて動きを鈍らせ、脚に絡みつい動きを封じ、首に絡みついて締め上げる。これでヴィータとシグナムの動きを封じた。
狙いは良かった。行動も悪くなかった。一切躊躇うことなく殺しに来た辺りは非常に好感が持てる。
残念なのは俺の想定を超えられなかったという一点だけである。
そんな事を考えながら、背後からシャマルの腹部をナルカミで貫く。
「……え?」
「シャマルゥーーー!!」
「残念、俺が本物だよ」
優しく耳元で正解を教えながら放電する。流石に後衛メインのシャマルでは体内を直接雷で焼かれるという経験は無いのか、声にならない悲鳴をあげながら悶える。数秒程放電を続けてシャマルという名の楽器が奏でる
それではつまらないのでナルカミを捻り、内臓をかき混ぜてその痛みで目覚めさせる。
「止めてぇ!!もう止めて!!」
「何もしなければ手を出さないさ。これは向こうから手を出したから、正当防衛ってヤツだよ」
「みんなが……みんなが何をしたっちゅうんや!!そないな事をされなあかん様な事をしたんか!?」
「したともさ」
ナルカミをシャマルから引き抜きながら、八神の涙ながらに叫ぶ声に応じる。
「こいつらはお前を救う為には闇の書を完成させる必要があると信じて魔力を集めていた。問題なのはその対象だ。魔力を持っているのなら動物であろうが人間であろうがお構いないで集めたんだ。それはとてもとても辛い事だ。何せ生きたまま心臓から直接採血している様なもんだからな」
変身魔法で姿を変えていたリーゼアリアに一度魔力を蒐集されそうになったのがそれが苦痛だと理解している。リンカーコアに触れられただけでも内臓を素手で触れられているような不快感を覚えたのだ。あのまま魔力を蒐集されればどうなっていたものか。
「その上でだ、騎士たちは主である君に義理立てしてなのか、蒐集しても対象を生かしておいた。それが不味いんだよ。地球育ちだとイマイチ理解出来ないかもしれないが、基本的に魔法至上主義なんだよ。だっていうのにリンカーコアから魔力を蒐集したせいで、そこが異常をきたして魔法が使えなくなってしまう奴が現れる。そうなった奴は悲惨だろうな。マトモな生活を送る事も出来ずに村八分よろしく差別されて惨めに生きる事になるんだからな」
高町やフェイトのように魔力を蒐集されてもリンカーコアが再生するのはほんの一例でしかない。殆どの者は蒐集されたことが原因でリンカーコアが異常をきたして貯蔵出来る魔力が減るか、魔法が使えなくなったりするらしい。魔法至上主義の中で生きているものからすればそれは地獄でしか無いだろう。何せ魔力があるから、魔法が使えるから優遇されるのであって、それらの要素が無くなればあっという間に迫害される側に落とされる事になる。
命は助かったかもしれないが、社会的地位を失ってしまえば現代社会では人間が生きる事は不可能に近い。シグナムたちがやってる事は、遠回しな殺人と何も変わらなかった訳である。これならば殺された方が良かったと考える人間は山ほどいそうだ。
「そんな……そんな事を……」
「お?何自分は関係無いみたいなツラしてるんだ?言っておくけどこれはお前の監督責任でもあるんだからな?騎士たちが登場した時にその役割を聞かされた筈だ。それを良しとしなかったら、何がなんでも蒐集させないようにしなくちゃならなかったんだよ。お前はそれを怠ったーーーつまり、お前が全て悪い」
重傷で呻き声しか出せないシャマルは兎も角、縛られただけのヴィータとシグナムがそれは違うと反論しそうなので拘束に使っている泥を変形させて猿轡にしておく。シグナムが縛られている姿は興奮するのだが、ヴィータが縛られている姿を見ても何も感じないのはやはり身体が貧相なのだからだろう。
俺が言った内容は一理あると考える者もいるだろうが殆どがこじ付けである。暴論も暴論である。騎士たちがただの道具であったのなら、人間の感情を持ち合わせていなかったのなら、自身の感情に揺さ振られる事はなく機械的に八神の命令に従っていただろう。最も、闇の書に縛られている以上、完成を最優先に行動していたかもしれないが。
結論、一番悪いのは夜天の書を闇の書に魔改造決めた奴である。
だが、今回は八神を追い詰める為にそういうことにしておく。桜木によれば、闇の書の覚醒条件は闇の書の完成、そして八神が絶望する事であるらしい。闇の書を完成させる為には騎士たちのリンカーコアを蒐集すれば事足りるらしい。
なので、それまでの間に八神を追い詰める必要があるのだ。
言葉責めはもう十分だろう。優しい八神では、自分の為に誰かが犠牲になっているという事実が負荷になっているように見える。
故に、次は行動で絶望に落とす。
なんの前触れも無しに、屋上に転がって動けないシャマルの心臓をナルカミで貫いた。プログラムだとはいえ人間を模して作られているからなのか、人間と同じ箇所が急所であるという事はヴィータをクソ雑魚ロリータ認定した時に調べてある。死ぬ事を覚悟し、八神に何か言おうとしているのを許さず、心臓に直接電気を流し込んで即死させる。
「……え?」
シャマルが死んだという事実を受け入れられないのか、八神からはそんな間抜けな声が上がった。現実逃避大いに結構。最も、逃避したところでシャマルが死んだという事実には変わりないが。
続けて拘束されているヴィータの元に近づき、頭を掴んで一息で頭部を捻じ切る。ブツリブツリと筋肉が千切れる音が、ゴキャリと頸椎が砕ける音が、そしてなにより飛び散る鮮血がヴィータの死を何よりも強調する。
「あ……あぁ……!!止めて……止めてぇ……!!」
シャマルが殺された。ヴィータが殺された。ならば次はシグナムだ。それを予想した八神が止めて止めてと涙ながらに懇願するが止めるつもりは無い。これ以上俺を自由にさせるのは不味いと漸く気がついた高町たちが動き出そうとするが、横合いから飛び込んで来た乱入者ーーーボロ切れを身に纏い、俺と同じ青白い仮面で顔を隠したリーゼロッテに防がれる。
「何か最後に言い残す事は?」
「……地獄へ落ちろ、狂人め」
「聞き慣れた素敵な捨て台詞をありがとう」
騎士ならば最後にどんな言葉を残すのだろうかと興味を持ち、猿轡を外してシグナムの言葉を聞いたのだが、出て来たのは前世で嫌というほどに聞いた台詞だった。そのことに少しだけ残念に思いながら、だけど騎士であるシグナムがそんな台詞を吐き捨てた事に驚きながらーーーナルカミでシグナムの首を刎ねた。
首が桃色の髪と鮮血を撒き散らしながら宙を舞い、八神の足元に転がる。
「ヒグッ、ヒグッ……!!シグナムぅ……シャマルぅ……ヴィータぁ……!!」
「そら、守ってくれる騎士が死んだぞ?だったら、動くよなぁ?」
シグナム、シャマル、ヴィータの騎士たち3人が死亡した。闇の書がどこまでも機械的な判断をするというのなら、既存の戦力では主を守護する事は不可能と判断して覚醒しようとするだろう。
その考えは正しかったようで、八神の側に一冊の本が現れる。
『ーーー烈火の将シグナム、湖の騎士シャマル、鉄槌の騎士ヴィータの死亡を確認。魔力の蒐集を開始します』
機械的な音声が終わるのと同時に死んだ3人の胸部からリンカーコアが現れ、闇の書に蒐集される。魔力量がそれ程の量なのか、それとも完成の為のキーだからなのか、闇の書のページは目まぐるしい勢いで埋められていき、残すところザフィーラの分で闇の書は完成するだろう。
そうして数十秒で蒐集は完成し、魔力で作られていたシグナムたちは文字通りに何も残さずに消えていった。
「オォォォォォーーーッ!!」
「なんだ、来てたのか」
横合いから猛スピードで突貫して来たザフィーラの一撃を躱す。これまで見たことの無い殺意のこもった攻撃だったが冷静さを残しながらも感情的になり過ぎているのか大振りであるので恐ろしくは無かった。
「貴様がぁ……!!貴様がぁぁぁーーー!!」
「うっわ、これが本当の負け犬の遠吠えってやつ?悪いけど負け犬の戯言に付き合ってられる程暇じゃ無いんでねーーーさっさと餌になれ」
ザフィーラの攻撃を躱しながら腕を掴んで投げ飛ばす。飛ぶ事が出来るので空中で体勢を立て直されてしまうのだが、目的はそれでは無くて投げた方向にーーー闇の書に近づけさせる事なので問題ない。
『盾の守護獣ザフィーラを確認、蒐集を開始します』
「なッ!?待て!!まだ戦える!!」
『蒐集』
闇の書から蛇が数匹現れ、それがザフィーラを拘束して無慈悲な蒐集が始まる。リンカーコアから魔力を奪われる苦しみに呻きながらも、それでも俺への怒りを抑える事が出来ないのか射殺さんばかりの視線で俺の事を睨みつけ、必死になって手を伸ばしている。
だが目と鼻の先、俺に触れられるかどうかの辺りで蒐集が完了し、ザフィーラは消え去った。
『全666ページの蒐集を確認』
「みんなーーーう、あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
全てのページを埋め尽くして完成された闇の書、そして新しい家族である闇の書の騎士たちを目の前で殺されて絶望を味わって泣き叫んでいる八神。
『闇の書、起動します』
そして全ての条件をクリアした闇の書が動き出す。
純粋な少女に事実を叩きつけた上に家族を目の前で奪い去るとかいうクッソ外道ムーヴ。闇の書の完成と覚醒に必要な事だから仕方ないよね(無慈悲