闇の書の覚醒が始まるのと同時に八神の足元にベルカ式の魔法陣が現れ、暴風かと間違える程の魔力が吹き荒れて思わず顔を庇う。幸いな事に吹き飛ばされる程のものではないが、前に進む事が出来る程に弱くは無い。高町たちは魔力に吹き飛ばされたのと突如として起きた変化に警戒してから八神から距離を取り、リーゼロッテはそんな高町たちから離れた場所まで避難している。
そうして八神の変貌が始まった。幼かった少女の肢体は瞬く間に成熟した女性のそれへと変わり、肩程で揃えられた茶髪は伸びて銀色に変化する。魔力の暴風が収まった頃には八神はやてという少女はこの場から消え失せ、代わりに銀髪赤眼の女性ーーー闇の書の中で見かけた管制人格が無表情ながらに涙を流しながら立っていた。側には完成した闇の書と、無数の蛇が蠢きながら球体を作り上げている。
「劇的ビフォーアフターってか?視聴者が見たら間違いなく別人だろって突っ込みたくなるような変わりようだなぁオイ」
軽口を叩き、管制人格の意識がこちらに向くように仕向けながらハスターに念話で指示を出して今の状態をスキャニングする。結果、外見は完全に管制人格の物になってしまったが、DNAやリンカーコアは八神のそれと一致しているという情報が得られた。しかも俺が使っているような変身魔法による物ではなく、実際に肉体が変化して管制人格の肉体になっている。
記憶が確かならば、管制人格の正体はユニゾンデバイス。ハスターのようなAIの組み込まれたインテリジェントデバイスでは無く、クロノの使っているようなAIの組み込まれていないストレージデバイスとも違う。ユニゾンデバイスと銘打っているように所有者と融合して共に戦うデバイス。強いて言えばインテリジェントデバイスに近いのかもしれないが、こうして実物を目の当たりにすると全く別物だと分かられる。
「ーーーお前が、主を絶望へと落としたのか」
管制人格の赤眼が俺を射抜く。現界条件が闇の書が完成してから暴走を開始するまでの間だけなので感情は希薄だと考えていたのだが、無表情ながらにも敵意と怒りを滲ませている視線を向けられている辺り、もしかすると思っていた以上に人間味はあるのかもしれない。
少なくともバブアス・オギャアやキャストオフ桜木の話を聞いても爆笑もドン引きもしなかったナハトヴァールよりも。
「Exactly!!俺が八神はやてという少女から家族を奪い、闇の書の覚醒を促した張本人だ」
「何故だ、何故このようなことをした?この呪われた魔導書に魅入られた時から彼女の運命は決まっていた。なら、その終わりは安らかであるべきだ。なのに何故、彼女を絶望へと落としたのだ」
俺の事を敵だと認め、俺に対して怒りを抱いているのは間違いない。しかし、管制人格はそれらを抑えて俺との対話を選んでいた。これは機械的な思考では理解しきれて無いからという理由によるものなのか、それとも純粋に彼女が疑問に思っているからなのかは分からない。だが、暴走するまでの間という僅かな時間を使ってくれているのだ。例え理解されなくても、その疑問には答えてやらなければならない。
「理由は二つある。一つはさっさと目覚めて欲しかったから。闇の書なんていう危険物が近くにあるんだ、一体いつ暴走するのか気になって仕方がなくてな。それならいっそのこと暴走させた方がいいんじゃないかと考えたんだよ」
人差し指と中指を立てた手を管制人格に突き出し、その内の中指を折り畳む。桜木から、そしてうろ覚えになりつつある原作から闇の書の覚醒はクリスマスの辺りだという事は分かっていた。しかし、俺の行動により本来なら覚醒させるはずのリーゼ姉妹は片方は俺の手駒となって片方は人生から御退場してしまっている。最もそれはアニメ版の話で劇場版だとナハトヴァールによって強制覚醒させられるらしいのだが、そうなるとは限らない。
なので俺の手で覚醒させる事にした。時期を合わせるために、そして管制人格との戦いに備えて仕込みをしておくために。流石に世界を滅ぼせるだけの危険性を待っている相手に勢いで立ち向かえる気はしない。
「んで、もう一つの理由はーーー」
そして、何よりーーー
「ーーー闇の書の……いや、夜天の書の管制人格。お前に会いたかったからだ」
「私に……だと?」
そうだと答えながら困惑の入った管制人格の目を見つめる。
「希少な魔法、スキルを集めて研究する為に作られた魔導書だというのに魔改造されて破壊と殺戮を齎すだけの兵器になってしまった憐れで可哀想な魔導書。そんなお前が何を思い、何を考えているのか気になって気になって仕方がないんだ」
「そんな……そんな事を知る為だけに主を絶望へと陥れたというのか……」
「然り然り。それにそんな事だなんて下卑た言い方はやめてくれよ。人間観察って言うの?俺の趣味なんだからさーーーまぁ、お前がそれに当てはまるかどうかは微妙なところだけどな」
作られた当初は夜天の書としての役割を果たせていただろう。その為に作られたから、当時はきっと彼女は嬉々としてその役割に徹していたかもしれない。しかし、いずれかの主の手によって夜天の書は闇の書へと堕とされた。やりたくも無い破壊を、殺戮を行う。人間ならば余程精神が強靭であるか、完全にそれはそれだと割り切れるタイプの者で無ければ発狂してもおかしくない行為。それを長年の間強制されていた管制人格はどういう心境でいるのか、それが知りたくて仕方がなかった。
そして一目で理解してしまった。管制人格は自分の境遇に対して絶望し、自分の行いに対して諦観しーーーだけども心の底では救いを求めている事を。殺戮と破壊を振り撒くだけの装置と成り果てて絶望しているのは分かる。諦めても仕方がないだろう。だが、それでも助けて欲しいと思っている。プログラムである管制人格は未熟なAIと同じように機械的な判断しか出来ないと思っていたが、彼女は機械的な判断で救いがない事を理解していながらもそれでも救いを求めていた。
なんともまぁ可愛らしいことか。最も、彼女に救いを齎すのは八神の役割なので俺は何をしようとは思わないが。
「そうか……度し難い程に狂っているのだな」
「自覚はしているから口にしてくれなくて結構ーーーで、それを理解したお前はどうするんだ?お前の主を絶望へと陥れた俺を、騎士たちを皆殺しにした俺を、自分の欲求を満たすためだけにお前を呼び起こした俺をどうしたい?」
にたりと露出している口を歪ませながら管制人格に問いかける。分かり易い程の挑発、こんな事をしなくても彼女がする行動なんてはなっから決まっているというのにだ。
ここから先は完全に俺の趣味である。気の向くままに、思うがままに、やりたい事だけを好き勝手するだけの利益度外視のサービスタイムだ。世界を滅ぼす事が出来る闇の書、その管制人格を相手にしてどこまで戦う事が出来るのかが知りたいという理由で、俺は彼女に挑まなくてもいい勝負を挑む。
「ーーー無論、滅びを。主が最後の時を穏やかに過ごす為に、主を悲しませ騎士たちを傷つけた貴様を滅ぼす」
「ーーーいいねぇ、気の強い女は嫌いじゃない。殺すように愛でてやろう、砕け散る程に抱き締めてやろう、貪るように組み伏せてやろう。何、女から誘われたら応じると言うのが男の役目という奴だ。遠慮せずに来るがいい」
『マスター、マナカ様から恐ろしい勢いでメッセージが送られていますが……』
『終わってから目を通すから今は保留で!!』
結界に覆われているとはいえ、内部の光景を外に伝える手段は幾らでもある。今回はジェイルのデータ収集を兼ねた協力で機械による盗撮が行われていて、その映像は愛歌たちも見ているのだ。どうもさっきの台詞が愛歌の琴線に触れるようなものだったらしい。こちらに集中する為にチャットは敢えて繋いでいないのだが、見たらとんでもない事になっていそうだ。
管制人格の怒りと殺意に満ちた視線を受け止めながら、これが終わったら愛歌の機嫌取りをしなくてはいけないなと内心で冷や汗をかくのだった。
夏の暑さとソシャゲのイベントラッシュにやられて筆が遅くなってしまう……どうしたら良いんだコンチクショウがぁッ!!
闇の書を覚醒させてリインフォース(仮名)を出現させる事には成功したのであとはカガっちの趣味のお時間。世界を滅ぼせるだけの危険性を持った魔導書を相手に趣味に走れるキチガイがいるらしい。
その裏で愛歌ちゃま激おこぷんぷん丸。だってカガっちの最後のセリフってリインフォース(仮名)の事を口説いているようにも聞こえるしネ!!