道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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意識が夢から現実に帰ってくるのと同時に腹部に何かがのしかかって来た。日頃から行なっている士郎さんとの鍛錬の成果と、のしかかってきたものが思いのほか重たくなかったから然程ダメージは受けていない。のしかかってきたものの正体に察しをつけ、視線をそちらに向ければ予想していた通りの人物が乗っかっていた。

 

 

「……おはよ、愛歌」

 

「フフッ、おはよう両夜」

 

 

下手人は予想をしていた通りにお隣に住む幼馴染の少女愛歌だった。窓から差し込んでくる朝日に照らされているせいで彼女の金髪がキラキラと輝き、彼女の容姿と相まって一枚の絵画の様に見える。

 

 

「そしておやすみ」

 

「ちょ、二度寝はダメよ!!」

 

 

寝てからハスターの元に飛ばされ、マーリンと再会したせいで精神的な疲労が取れていない。主に前者の方が原因なのだが、今は少しでも眠りたい気分なのだ。だから二度寝をする為に布団を頭まで覆い被さって寝ようとしたのだが、愛歌に剥ぎ取られてしまう。

 

 

「もう、折角作った朝御飯が冷めちゃうじゃない!!」

 

「あと30分は寝ても間に合うと思うんだけどなぁ……」

 

「ダメよ。綾香がお腹空かせて待ってるんだから」

 

「綾香も来てるのか……なら起きないとダメだな。って、沙条さんは?」

 

「お父さんなら今頃一人でご飯食べてるんじゃないかしら?」

 

 

愛歌の沙条さんへの対応が厳し過ぎる様に思えるのだが、あの人はダンディズム溢れる見た目でありながら娘からの対応は塩でも砂糖でも大喜びするという人間なので問題無いのだ。一歩間違えればただの危ない人なのだが、親子だから許されると思われる。

 

 

でも愛歌がこんな対応をするのは理由があったりする。沙条さん、流石に勝手に愛歌の日記を読むのはダメだと思う。

 

 

「だから早く起きて……」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

 

突然言葉を切った愛歌が何かを確かめる様に俺の身体に顔を近づける。どうやら匂いを嗅いでいる様だ。今では慣れたので特に反応はしないのだが、ある日突然俺の匂いを嗅ぐと安心すると言って匂いを嗅いできた時は本当に驚いた。

 

 

どうせ今日もそんな感じだと思いーーー

 

 

「ーーー知らない女の匂いと花の匂いがする」

 

 

ーーーその言葉に一瞬身体を硬直させてしまった。

 

 

知らない女というのはマーリンの事だろう。しかしなんで分かった?彼女とは夢の中で出会ったのだから現実の肉体に匂いなんて移る筈がないのに。しかもそれだけではなくて花の匂いまで気づいている。一体どういう嗅覚をしているのか教えて欲しい。

 

 

光の消えた目で、愛歌が俺の顔を覗き込んで来た。

 

 

「ねぇ、一体誰の匂いなのかしら?」

 

「落ち着け。知らない匂いがすると言われても全く覚えが無い。風呂に入ってそのまま寝たから外にも出てないしな。お前なら分かるだろ?」

 

「確かに……お風呂場の電気が消えてからすぐに家が暗くなってたわね。夜も家から出た気配は無かったし……」

 

 

自分で言っておいてなんだが、どうしてこの幼馴染様は俺の行動を把握しているのだろうか。家に監視カメラや盗聴器が仕掛けられていないことは前世からの習慣で毎日確認している。なら覗き見されたのではと考えるが、俺が寝たのは士郎さんとの鍛錬が終わったからなので夜中……つまり、愛歌はもう寝ているはずの時間帯なのだ。ハスターに愛歌が寝ているかどうか確認してもらったから鍛錬をしているのに。

 

 

「むむぅ……分からないわね、でも匂いはする。だから上書きするわ!!」

 

「あ〜ハイハイ」

 

 

上書きすると宣言して愛歌がした行動は抱きつく事。ギュウっという擬音が付きそうな程に力一杯抱きしめて来て、俺もそれを拒まずに受け入れて抱きしめ返す。こうしてやらないとその日一日愛歌の機嫌が悪くなるのだから仕方がない。不機嫌になった愛歌は桜木が怖気付く程に謎のプレッシャーを発揮するのだ。直接的な被害は全て沙条さんに向かうので無害といえば無害なのだが、怖いから不機嫌にさせないでくれと桜木から懇願されている。

 

 

「……ん、もうしないわね。大丈夫よ」

 

「だったら着替えるから降りてくれ」

 

 

は〜いと機嫌良く返事をして部屋から出て行く愛歌を見送ってから寝間着を脱ぎ捨ててハンガーに吊るしてあった服ーーー私立聖祥大付属の制服に着替える。原作の舞台である海鳴市内には住んでいるものの、主人公である高町なのはと近い方が行動しやすいから、それと学校に通わなければ不自然だからという理由で二度目の人生で学校に通っている。前世では学校なんて話に聞いただけの存在で、勉強はすべてマーリンから教えられていたので為になるかどうかは別として、新鮮で楽しい。

 

 

白を基調とした制服なのだが個人的には似合ってない気がする。桜木に見せた時も腹を抱えて大笑いされたし、そんな桜木にドロップキックを決めていた愛歌も私服で頑張れと言われた。

 

 

「そういえばそろそろだったな」

 

 

制服に袖を通したところで桜木から前に言われた事を思い出していた。

 

 

原作にどハマりしていたわけではないので俺の知識は大まかな話の流れや登場人物、重要な語句だけに留まっている。細かな事は桜木の方が詳しく覚えていたので教えてもらったのだが、高町なのはが小学三年生の時に無印が始まるのだと教えられた。現在、俺は小学三年生。そして高町なのはも同じ小学三年生。つまり、そろそろ無印の始まるタイミングなのだ。

 

 

「やっとか……何というか、感慨深いな」

 

 

ようやくタナカからの依頼を果たす時が来た。そう思うと少しばかり緊張してしまい、すぐに湧き上がる興奮に塗り潰される。頼まれたからという理由が存在しているものの、もし頼まれなくてもこの世界がどんな世界なのか分かっていたら同じように行動をしていただろう。

 

 

なにせ、俺は悪役だ。

 

 

公共の敵(public enemy)、絶対悪、必要悪、善性の否定者にして肯定者……善というものがこの世の中に存在していることを証明する為に悪を行う性格異常者。それが俺なのだ。一度死んだ程度では変わらない、邪神の狂気に晒されたとしてもブレない、そういう生き方をすると決めて、そういう生き方を貫き通す愚か者。

 

 

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辛いと感じた事はある、苦しいと思った事はある。だけども、前世でそうやって生きて、後悔したことなど一度も無かった。きっと決めたからなのではなく、俺はこういう生き方をするしか出来なかったのだろう。

 

 

「物語が始まったら祝福してやるよ、善性様。だからどうか、(おれ)が倒されるに相応しい存在であってくれ」

 

 

悪役とはトドのつまり、正義に倒される存在である。高みへと持ち上げる為の踏み台、強さを浮き彫りにする為のやられ役、輝かせる為のかませ犬……そうであると決めた瞬間から負ける事が確定される役職である。

 

 

だからこそ、望むのはたった1つだけ。こいつならば倒されても惜しくはないと思えるような正義であってほしいという事。そう思えるような存在に打ち負かされるのならば、俺は拍手喝采しながら地獄に堕ちたって構わない。

 

 

だが、もしも俺の眼鏡に敵わない様な存在が善神側の転生者として現れ、朗々と正義を歌うのなら、俺はそいつを迷う事なく滅ぼす。そして次の正義を待つ。

 

 

だから願わずにはいられない。どうか相応しい存在であってくれ。タナカからの依頼を果たさせてくれ。

 

 

そう考えていると鏡が視界に入り、そこには邪悪な笑みを浮かべた俺の顔が写っていた。愛歌たちにこんな顔は見せられないとすぐにいつもの顔に戻し、彼女たちが待っているリビングに向かう事にした。

 

 






愛歌ちゃまが根源に接続していないはずなのにヤベー奴になりつつある。根源に接続しているから万能であって、接続しなくて万能じゃなくてもかなりのハイスペックになるイメージがある。

カガっち的悪役の美学。よーするに小物に倒されたって満足出来ねえぜ!!ってこと。仮に倒されたとしても、どこかの光の奴隷よろしく蘇りそうなんだよなぁ……ちなみに前世ではカガっちが納得出来る様な正義が存在していたぞ。

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