大丈夫大丈夫と内心で自分の事を励ましながらナルカミとカスパールを展開する。それと同時に管制人格は傍に浮かんでいた蛇の塊に左腕を突っ込んだ。何をしているのかと思っていたが、蠢いていたはずの蛇が徐々に数を減らしていき、全ていなくなった時に彼女の腕には槍のような物を備え付けた籠手が装着されていた。あれがナハトヴァールの武装形態なのだろう。見たところパイルバンカーのような形をしていて、破壊力と貫通力がありそうだ。
さて仕掛けるかと身体を沈めーーー全身を寒気が襲った。まるで身体の中に直接氷でも入れられたかのような悪寒には覚えがある。
「ッ!!来い!!」
何をされるのか分からない。しかしこのままでは死ぬと判断し、リーゼロッテを呼び寄せて抱きしめ、可能な限り密着した状態で悪性情報の泥を出して周囲を囲う。リーゼロッテがこの行動に可愛い声を上げて驚いていたが、状況が状況なので反応している余裕は無い。
泥によって管制人格の姿が見えなくなる間際、彼女は右腕を高々と掲げる。闇の書は忙しなくページを捲り、彼女の掌には黒い球体が脈打っておりーーー
「ーーー闇に染まれ」
『Diabolic Emission』
ーーー悪性情報の囲いが完成するのと同時に、それが解放された。一拍の間を空けて、凄まじい揺れが襲い掛かってくる。
『マスター、恐らくは広域空間攻撃魔法だと推測されます。どうやら術者を中心とした一帯を純粋魔力で攻撃するタイプの物です』
「初手空間爆撃かーーーハッ!!戦争でもやってる気分だなぁオイ!!」
「ちょ……!!ひ、ひっつき過ぎだって……!!」
「密度上げとかないと落ちそうだったからな!!我慢してくれ!!」
魔法であるとはいえ、攻撃自体は純粋な魔力によるものであるので悪性情報による汚染は期待出来ない。こうして耐える事が出来ているだけでもありがたい。
咄嗟の判断で壁を厚くしていたがそれが功を称したようで広域空間攻撃魔法を防ぐ事が出来ている。もしも楽をしようとして薄くしていたり、囲うのでは無く壁を一方にだけ出していたら落とされていたに違いない。泥越しにでも、それを確信させるだけの衝撃があった。
そして徐々に揺れが収まっていき、広域空間攻撃魔法の終わりを迎える。このまま泥に囲まれていてもその内に突破される事が目に見えているので泥を崩し、外へ飛び出しながら周囲の確認を手早く済ませる。
管制人格は正面、周囲には血を思わせる程に赤い短剣が浮かんでいる。恐らくはシューター系のような魔法だと思われる。威力は不明だが、先ほどの広域空間攻撃魔法の時のように生存本能があればヤバイと叫んでいるので俺を殺すには十分な威力を持っているのだろう。
高町たちは落ちていなかった。高町のシールドと、御剣のレアスキルの応用らしい盾を使ってさっきの魔法は耐えたらしい。高町と御剣はガードしたからなのか肩で息をしているが、他の面子は無傷でダメージを負っているようには見えない。
さり気無く高町たちの側にめぐりが混じっているが、これからどうするつもりなのだろうか。妹である八神が闇の書の主であり、さらに管制人格に身体を乗っ取られているのだ。助けるために動きたいのだろうが、力不足を理解しているだろうから高町たちに協力を仰がなければならない。彼女にその選択をする事が出来るのだろうか。
まぁ高町たちに関しては敵にならなければそれで良い。管制人格を相手にしながら更に高町たちの相手までするのは御免被りたい。この三つ巴の状況下で戦力で圧倒しているのは管制人格、数で優っているのは高町たちの管理局勢で、一番劣っているのは俺たちなのだ。管制人格と協力し、俺たちを先に始末するという可能性はなくもないのだ。
そうなった場合でも負けるつもりは無いのだが、制限時間までに管制人格を倒せるかどうかが怪しくなってくる。そうなれば待ち受けるのは地球崩壊に加えて闇の書存命エンドだ。そうなった場合は
状況の把握を済ませ、管制人格にカスパールの銃口を向ける。
「ーーー刃以て、血に染めよ。穿て」
『Blutiger Dolch』
「ーーー五重式」
『
管制人格の周囲に浮かんでいた短剣が高速で放たれる。射出されるのと同時に軌道を修正しながら飛んで来ていることから誘導機能もあると思われる。躱したところで追尾してくる上に、そもそも短剣の速度が速いので回避自体が困難である。躱すよりも撃ち落とした方が早いと考え、魔法陣を五つ展開し、悪性情報に汚染された砲撃を放つ。
いつもならばある程度濃度を下げて使うのだが、管制人格を相手にそんな加減をしている余裕は無い。高速で飛翔してくる短剣が、砲撃に触れた瞬間に
それを見て即座に管制人格は障壁を展開し、砲撃を受け止めた。魔法ならば即座に無効化するはずの悪性情報に汚染された砲撃を受け止められているところを見ると、魔法だけでは無く魔力を放出させて防いでいると思われる。たったの一瞬で悪性情報の危険性と対処法に気がついたようだ。考えれば闇の書の大元である夜天の書は古代ベルカ時代の物だ。似たようなスキルを蒐集し、対抗策を講じていたとしてもおかしくは無い。
ともあれ、管制人格は砲撃を受け止める事に集中している。カスパールから空の薬莢を五つ叩き出しながら管制人格に接近し、ナルカミで刺突を放つ。手応えは硬かった。あれだけの高威力の魔法を連発するのだから防御の方は幾らか手薄になっていないかと期待していたがそんなことは無いらしい。考えてみれば高火力で砲撃魔法を連発している高町だって防御は硬いのだ。フェイトのような高速機動タイプでも無い限り、魔力が多い魔導師は防御が硬いと思っておいた方が良いかもしれない。
刺突を防がれた事に舌打ちをしながら飛び退いて管制人格から距離を取る。刺突は防がれたものの、管制人格の障壁に触れるという目的は果たしている。ナルカミで障壁に触れた瞬間にハスターが障壁のデータを収集、そして解析し、アンチプログラムを製作してくれる。これで次は障壁を乗り越える事が出来る。
だが、管制人格だって馬鹿では無い。破られたのを見れば即座に障壁の術式を変えてくるだろう。チャンスは1度と考えて行動するべきだ。
「ーーー烈火の剣を」
『Laevatein』
カスパールの銃口を向けながらどう攻めるか考えていると、管制人格が先に動いた。俺の悪性情報の泥の危険性を理解している筈なのに背中から生やした翼を羽ばたかせながら接近し、赤黒く染まったシグナムのデバイスを振るってきた。マジかよ、と思いながらもナルカミでそれを受け流し、返す刀で振るわれた切り上げを上体を逸らして躱す。
管制人格が剣を振るったのは2度だが、これは物だけではなく技術までシグナムの剣であると理解出来た。
考えてみればそれは当然の事だった。闇の書は覚醒のために騎士たち全員のリンカーコアを蒐集している。本来ならば蒐集出来るのは魔法やスキルなのだが、騎士たちは元より闇の書の一部である。騎士たちの技術がデータとして闇の書の中にある以上、管制人格である彼女が騎士たちのデータを利用できてもおかしくは無い。寧ろ使えて当然だと考えるべきだった。
仰け反った勢いを利用しながら宙返りで距離を取るが、シグナムのデバイスからヴィータのデバイスに切り替えられ、彼女の持ち味だった突貫力によって出来た距離を潰される。カウンターのつもりで刺突を放つも、容易く見切られて紙一重で避けられてしまう。距離を潰されてしまったが同時にこの間合いではヴィータのデバイスは威力を十二分に発揮することは出来ないはず。
それを理解しているから体勢が崩れた状態で、無理やり足の力だけで後ろに飛び退き、管制人格の拳を自分から吹き飛ばされる形で威力を殺す。
見切りからの流れるような一撃は剣術では無くて体術によるもの、つまりザフィーラの技術だった。管制人格の華奢な身体では鍛え上げられたザフィーラと同じ威力は発揮出来ないと思っていたが魔力で強化しているのか、それともそれだけの膂力が設定されているのか本家と同じかそれ以上の威力があるように思えた。しかもご丁寧にバリアブレイクまで付属してある。自分から飛んでいなければ良くて内臓破裂、最悪は上半身と下半身が別々になっていただろう。
この調子ならばシャマルのデバイスや技術まで使われそうだが、そちらは警戒しなくても良いだろうと考える。シャマルのデバイスは一度しか確認していないが、ワイヤーのような物を使って悪性情報の泥で作った俺の分身のことを拘束していた。仮にまた拘束されたとしても悪性情報の汚染で対処出来るし、そもそも彼女のタイプはサポート型である。使おうとしたところで隙にしかならない。
管制人格もそれを理解しているはずだが、ヴィータのデバイスが消え、代わりに彼女の指にシャマルのデバイスだと思われる指輪が装着される。AIである彼女が無駄な事をするはずが無い。何かあるはずだと警戒していると指輪から複数のワイヤーが伸びるが、そのどれもが俺には伸びずに別々のところに伸ばされている。
「は……ハハ……マジかよ」
目の前の光景に思わず乾いた笑いしか出てこない。何かあると色々なパターンを予想していたが、これは流石に予想外だ。実際にこの光景を見れば、誰だって乾いた笑いが出てくるに決まっている。
何故ならーーー管制人格の指に嵌められているシャマルのデバイス。そこから伸びるワイヤーは周囲のビルに向けられていて、
リインフォース(仮名)の魔力量でヴォルケンズのデバイスだけじゃなくて技術やら使えたら強いだろうなーって考えた結果、高威力の魔法を連発しながらヴォルケンズの技術使って殴りかかってくるリインフォース(仮名)が誕生した。寧ろこのくらいなら出来て当然じゃね?って考えてる。