道化の名は必要悪   作:鎌鼬

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first time・2

 

「さてさてっと」

 

 

深夜に愛歌が寝静まった事を確認してから海鳴市の都市部に建てられた高層ビルの屋上を陣取る。海鳴市で一番高い建物という事だけあって、そこにいれば市内を見渡すことが出来るからだ。物語の始まりが間近に迫っていると桜木から教えられてから、異変があったらすぐに分かるようにと暇を見つけてはここで過ごす様にしている。

 

 

「ーーーなんだ、貴様も来ていたのか」

『こんばんわ、加賀美さんも来てたんですか?』

 

 

そこに現れたのは黄金に光り輝く船に乗った金髪の少年。神からの呪いによって強制的なロールプレイをさせられている桜木だった。

 

 

桜木が話しかけた事により、右目では彼の姿を捉えながら左目には空中に投影されたモニターが写り、桜木の言葉に合わせる様にして文字が走る。桜木は神からの呪いのせいで口頭ではまともに話すことが出来ず、筆談でしか正確に意思の疎通を行うことが出来なかった。しかし一々筆談をしていたら面倒だという事で、念話を応用したチャット機能の様なものをデバイスに組み込んだのだ。

 

 

これのおかげで俺は桜木の言葉を正確に理解する事が出来るようになった。最近では慣れたのであの王様口調の翻訳も出来るようになったのだが、それでも何が言いたいのか正確に分かった方が良いに決まっている。

 

 

黄金に光り輝く船が宙に浮いているというのに、地上にいる人間たちは誰一人として騒いでいない。恐らく、桜木の言っていた宝物庫の財宝とやらを使って彼らの認識を阻害しているのだろう。

 

 

「よぉ桜木、相変わらず違うようで同じ事を話してるな」

 

「あの忌々しい神の呪いが原因だ。善神と悪神によって罰されているのならば多少は胸がすくのだがな」

『腐れ神の呪いのせいですよ。善神と悪神が罰をしているらしいですから多少はスッキリしましたけどね。会う機会があったら乖離剣見舞わせてやる……!!』

 

「内側の方、相変わらずその神に対する殺意たけーなぁ……で、もうそろそろ原作の始まりだっけ?」

 

「その通りだ」

『その通りです』

 

 

そう言いながら桜木は船から飛び降りて俺の隣に座る。そして背後に黄金の渦を展開させ、そこから黄金の盃2つと市販のジュースのボトルを取り出して俺に渡して来た。それは俺の気に入っているメイカーの製品で、律儀に適温に冷やされている。言葉こそ傍若無人を地で行く様な桜木だが、根は善良で真面目な少年だ。学校でも言動から始めはドン引きされていたが、今ではクラスの長をクラスメートたちから推薦される程に親しまれている。

 

 

「ユーノ・スクライアが発掘したロストロギア、ジュエルシードを乗せた輸送船がプレシア・テスタロッサに襲撃されて海鳴にばら撒かれる。で、ユーノ・スクライアがそれを集めようと行動している最中に高町なのはと接触して戦闘民族出身のJSからリリカルな魔法少女JSにジョブチェンジを果たす……だったよな?」

 

「間違ってはおらんがもう少し言い方というものがあるであろうが、戯けが」

『間違いじゃないですけど少し悪意的な変質を感じるんですけど……』

 

「ワザとだよ」

 

 

悪意のある変質をしているのは認める。でも間違ってないから問題ないはずだ。現在高町家にいるはずの士郎さんの視覚を〝干渉〟を利用して借りれば、そこには自室で机に向かって勉強をしている高町なのはの姿があった。桜木から原作の始まりが近いことを教えられてから、士郎さんには高町なのはの事を気にかけて欲しいと伝えていたがその通りにしてくれているらしい。

 

 

酷い時には桃子さんの入浴シーンとか映ったりするのだが。そして翌日になって愛歌に怪しまれるまでがデフォルトだったりする。

 

 

『で、加賀美さんは悪神に頼まれた悪役に徹するんでしたよね?』

 

 

桜木の口からではなく、モニターに映る文字だけを見てああと返事を返す。彼が会話をするのが面倒になって来た時によくやる事だ。面倒臭がるなと言いたいのだが、自分の考えている通りの言葉を出せないのだからどうも強く言うことが出来ない。

 

 

「タナカが言うには、結果的に善神の転生者に()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから研究用にいくつかジュエルシードパクって、最終的にはこの騒動は俺が起こしたっていう風に思わせるつもりだ」

 

 

前世ならば迷う事なくジュエルシードがばら撒かれた瞬間に表立って活動をしていたが、生憎と今の俺は子供だ。なので無印とA's編は出来るだけ動かず、所々で思わせぶりな言動をとる事で俺が悪だと思わせる事にすると決めた。本音を言えばすぐにでも動きたいのだが、今は準備期間だと自分に言い聞かせる事で堪える。

 

 

それに悪神の転生者である俺が子供である様に、善神の転生者も子供なのだ。少なくともstrikers編で身体が出来上がって来た頃合いになってからじゃないとつまらない。

 

 

『イかれてますね……普通悪役なんて自覚して自分からやりたがりませんよ。貴方、前世は何をやってたんですか?』

 

「前世でも悪役をやってたぞ?それこそ国際指名手配されて賞金を掛けられる程に有名だったな」

 

『根っからの悪役だよこの人』

 

「自覚はしているさ……自重はせんがな!!」

 

 

そんなものは前世の頃から自覚している。悪役になる事を決めて、悪役をやっていて気づいたのだ。過程はどうであれ、()()()()()()()()()()()()()()。運命という言葉はあまり使いたく無いのだが、こればかりは運命だと言うしかない。

 

 

『そう言えば善神の転生者って分かってるんですか?まだ顔も分かりませんとかだったら間抜けなんですけど』

 

「既に調べてある。ハスター、データを頼む」

 

『Yes sir.』

 

 

ハスターに声をかけるとチャットモニターとは別のモニターが投影される。そこに映るのは高町なのはと一緒に歩いている黒髪の少年の写真。楽しそうに笑う高町なのはと共に、彼も楽しそうに笑っていた。

 

 

「名前は黒須龍斗(くろすりゅうと)、聖祥大付属の小学三年生で高町なのはと同じクラスだ。タナカに確認を取っているから間違いないぞ」

 

『写真見た限りだと誠実そうな奴ですね』

 

「性格は真面目で努力家。正義感は強いもののだからといっても頭が硬いわけじゃなく、相反する意見を聞いて妥協点を出せる様な柔軟さを持っているらしい」

 

『何ですかそのどこかのゲームの主人公的なステータスは』

 

「残念だが事実だ。周囲からの聞き込みと俺の目で確かめた事だからな」

 

 

前世で絶対正義としてあった俺の親友とは違ったタイプの人間だが、彼の様な人間も正義のあり方の1つだ。今はまだ未熟だが、それは言い換えれば成長の余地があるということに他ならない。願わくば、最後に俺と対峙する時には俺が認められる様な素晴らしい存在になっていてほしい。

 

 

『でも戦えるんですか?加賀美さんの様に前世の経験にプラスして士郎さんに憑かれて稽古をしているのなら分かりますけど』

 

「問題ない。あいつの家は道場を開いていて剣を教えている。それも、実戦形式のな。恐らく転生する時にそういう家に生まれる様に頼んだんじゃないか?」

 

『なんて御都合主義』

 

 

タナカから聞いたのだが、黒須は前世では喧嘩もしたことの無い人生を歩んでいたらしい。だからこそ戦える様になりたくてそういう家に生まれる様に頼んだのだろう。桜木たちからすれば転生特典の様に思えるだろうが、俺はそうは思わない。

 

 

桜木たちは戦える力を直接神から与えられ、黒須は戦える力を学べる機会を与えられた。同じように聞こえるだろうが、その2つは絶対的に異なっている。

 

 

「御都合主義?それの何が悪いんだ?」

 

 

そして、俺は御都合主義は嫌いでは無い。

 

 

「どうしようもない絶望に見舞われる事があるだろう。己の無力を嘆く事があるだろう……誰にもどうすることが出来ない状況、そんな時に祈らなかったか?()()()()()()()()()()()って」

 

『それは、ありますけど』

 

「嘆きなんて、悲しみなんて、絶望なんて無いに越した事はない物だ。それにぶち当たった時に御都合主義を望み、御都合主義を授かり、御都合主義で解決する。誰もが笑顔で迎えられるハッピーエンド、大団円で終わるのなら御都合主義だって悪いものじゃないさ」

 

『でもなぁ……あの腐れ神に助けを求めるってものなぁ……』

 

「そこかぁ」

 

 

全ての神が悪い訳ではないと桜木も理解しているだろうが、染み付いた苦手意識はそう簡単には無くならない。桜木が気に入らないというのなら、それはそれで良いのだ。俺の考えと桜木の考え、その2つを統一させる必要なんて無いのだから。

 

 

「ッーーーと、来たみたいだな」

 

『そうみたいですね』

 

 

乾いた喉を湿らせようと盃にジュースを注いでいると、空中に突然魔力の塊が現れ、21に分かれて別々の方向へと飛んでいった。恐らくはあれがジュエルシードだろう。桜木の言う通りにことが進むのであれば、この後にユーノ・スクライアがやって来る事になる。

 

 

「今の内に1つだけでも回収しておくか……山の辺りに落ちた奴があるな。それにしておこう」

 

『山の中……温泉の時のかな?まぁ、争いの種が減ると考えればそうした方が良いですね。僕のヴィマーナに乗って行きます?』

 

「マジで?助かるわ。夜の内に往復出来ない距離じゃないけど、そうすると朝が辛くてな……ん?」

 

『何かありました?』

 

「黒須につけた魔力スフィアが反応してる……黒須が動いたのか?」

 

 

黒須につけていた監視用の魔力スフィアが反応している。それは黒須が行動を起こしていると言う証拠。なので映像を繋げると、黒須がデバイスと思われるアクセサリーを手にしながら夜の街を走っていた。黒須の走っている方角からおおよその目的地を割り出し、予め町中に仕掛けていた監視用の魔力スフィアの映像を空中に投影する。

 

 

するとそのうちの一つが民族衣装のような衣服に身を包んだ少年と、地球では見ることが出来ない不定形生物とが戦っている光景を映し出していた。

 

 

「おぉ、もしかしてユーノ・スクライアに助太刀するつもりか?」

 

『……マジで?』

 

 

 





この作品に高評価と低評価が交互に付けられていて面白いんじゃが。


別に悪役になるっていっても、最初から最後まで暗躍する必要は無いんのだよ。やり過ぎると地球滅亡待った無しだから適度に抑えつつ、だけど悪役として認知されるように動けば良い。

つまり本番はstrikers編になってから。それまでは要所要所で介入するだけ。

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