皆さんは魔王と言う存在をご存じだろうか?
まあ、所謂悪の組織の親玉だとか、ラスボスとか言われるアレだ。
そんなラスボスだが、過去の文献によると魔王は実在し、しかも一人ではなく複数存在していたと記載されている。
それも二人や三人なんて生易しい数じゃなく、一つの軍隊レベルの規模で存在していたらしい。
世が世なら人類絶滅不可避である。
まあ、魔王が存在するなら勇者は存在しなかったのかと聞かれたら、その答えはイエスだ。
これも文献にかかれていたことだが、勇者は確かに存在していた。
ただ、魔王軍隊に対して勇者は何人いたのかと聞かれたら、残念なことに1人しかいなかった。
だが驚くことに勇者は数人で編成されたパーティを率いて、魔王軍隊に神風特効よろしく何度も突撃をかましていたらしい。
らしいと言うのは、その事実が余りにも荒唐無稽な絵空事で、真実味に欠けることから、実話を脚色した話と言う意見もあり、今も学者の中ではよく口論が交わされているからだ。
その最たる理由が魔王の実力の高さだ。
魔王の実力がどれくらいかと聞かれると、魔王一人の力で国一つ滅ぶという逸話が残る程度には実力があったと現代ではされている。
そんな相手が軍隊規模でいるのだ。普通に考えたら圧倒的戦力差で敵う筈が無い。
だからこそ、世間ではこの話は事実を脚色したものだと言う見解を述べる者と、勇者はそれだけ実力が高かったのだと主張する者でわかれている。
当時少年だった頃は、そんな些細なことなど気にすることなく、「勇者かっけぇー!」と興奮していたが、今になって思い返すと、余りにも非現実的で、仮にそれが事実だとするなら、ラスボスの群れを相手にして生き残る勇者ってどんな化物だって話で、どっちがラスボスかわかったもんじゃない。
まあそんな嘘か真か定かではない話はさておき、勇者にはお決まりの専用装備、聖剣と称される『勇者の剣』なるものがある。
この武器は勇者ではない者が使うと頑丈な剣でしかないが、勇者が使うだけでトンでも装備に速変わりする。
1つ、剣からビームが出る―――――意味がわからない。
2つ、剣からバリアが発生する―――――盾どこにやった。
3つ、剣が自動で傷を治してくれる―――――回復呪文使えよ。
4つ、剣が勝手に攻撃してくれる―――――勇者必要ないだろ。
5つ、剣は勇者から離れない―――――聖剣どころか呪いの装備だろ。
以下の通り、勇者が装備するだけで勇者が付属品になり下がる伝説の聖剣、それが『勇者の剣』。
多くの人は勇者の剣、伝説の聖剣、最強の武器だと称えるが、こんな武器の何処が良いのか俺にはさっぱりだ。
まあ、そんなこんなで勇者の働きもあり、魔王は討伐されたのだ。
そして勇者は来るべき時の為に、聖剣を封印することにした。
そう、したのだが、ここでまた問題が起きた。
聖剣を装備から取り外せなかったのだ。
5つ目に記された様に、勇者の剣は教会の神父にお祓いを頼んでも、高名な黒魔術師に頼んでも、装備の取り外しができなかった。
神殿に聖剣を奉納するもビームで辺り一帯更地にされ、人里離れた洞窟の奥深くに封ずるとビームで洞窟を崩落させ、何やかんやで最後には必ず勇者の元へ戻ってくるのだ。
これだけの事をやっておきながら、それでも尚、人々から祀られるほどの聖剣なのだから、世の中分からないものだ。
まあ、そんなことで困った勇者は、ある街の一角に聖剣を突き刺し、特殊な鎖で雁字搦めにする事でようやく封ずることに成功し、『大いなる闇が世界を覆う時、新たな勇者がこの聖剣を抜くであろう』と言い残し、早足でその場を去った。
以後、その街では毎年『勇者の剣』を抜くことができるか、と言う祭りが開催されることとなり、街の活性化として一役買うことになった。
この催しは数十年も続いているが、その間に聖剣を引き抜いた者は一人としていなかった。
だが、そんな日々も終わりを迎えた。
ある日を境に、聖剣はその姿を消した。
毎年街を賑わしていた聖剣の影も今は無く、あるのは地面から生える鈍く光った物体だけ。
この事件はすぐに公になり、世界は大きく震撼した。
やれ伝説の勇者の生まれ変わりだ、新しい勇者が現れたとよ喜ぶ者もいれば、魔王が復活する兆しだと言う者まで現れる始末だ。
ここで話が九十度から百八十度程変わるが、少し俺の話、と言うか愚痴を聞いてほしい。
今俺の手には、一つの駄剣が握られている。
こいつを装備から取り外したいのだが、いったいどうすれば取り外すことができるのだろうか?
『ちょっと、さっさと私に見合った鞘を見つけてきなさい』
「黙れ駄剣、追加でもう少し折っとくか」
『ふざけんなこの脳筋!ビームぶっ放すわよ!』
これは俺と駄剣の馬鹿な旅の話だ。
暖かな日差し、仕事に勤しむ人々、穏やかな空気が流れる村の中、、一人の青年が背中に布で覆われた荷物を背負いながら歩き回っていた。
「あー、だらけながら稼げる楽な仕事がどっかに転がってないかねえ」
気だるげそうな雰囲気に、欠伸を吐き出しながらぼやくその姿は放浪者にも見える。
実際、彼は職に就かず各地を転々としている為、間違いではないが、青年の名誉の為に説明すると、彼はつい先日まで職には就いていたのだが、ある理由がきっかけで失う事になっただけだ。
青年はおもむろに懐から巾着を取り出し、ジャラジャラと音をたてながら嘆息する。
「路銀も色々使ってたら無くなってきたし、ここらで働かないとなぁ」
すっかり軽くなった巾着に悲しみながら一人愚痴を零していると、それを叱咤するような声が上がる。
『そうよ、さっさと働いて私の鞘を買いなさいよ。こんな安物の生地でできた布なんかで私を包むなんて、本当ならビームで頭焼け野原にしてるところよ』
訂正、叱咤ではなく恐喝紛いだった。
「よーし、今からこの駄剣質屋に入れてくるか。当分の飯代にはなるだろ」
『ちょっ!待ちなさいよ!そんなことしたら街事あんたを焼け野原にするわよ!?』
端から見たら突如腹話術を始めた様にしか見えない光景。
しかし、青年にとってこの会話は、最近日常とかしていることだ。
「物騒なこと言うんじゃありません。この呪われた剣が」
『誰が呪いの装備よ!私は魔王を倒した偉大なる聖剣様よ!もっと敬え!そして剣身直せ!』
この青年が背中に背負っている荷物、それこそ現在世界を騒がす原因となった代物、過去に伝説の聖剣と称され、勇者の街にて封じられていた最強の聖剣。
この聖剣、驚くことに自我を持っており、こうして人と話すこともできる。先代勇者の努力によって自我は封じられたのだが、なんやかんやと一悶着あり、その結果強引に封印を解いたことによって、自我が甦ったのだ。
「何が偉大なる聖剣様だ。装備したら最後、教会に行っても外せない呪い持ちなんざ呪われた装備で十分だ」
『うっさい!パラメーター全部筋力に振り切ったようなタツヤに言われたくないんだけど!』
「喧しい!元をたどれば、お前が手入れしろとか言って砥石とか買わせるからこうなったんだよ!」
『何十年も手入れらされなくて汚かったんだから、しょうがないじゃない!』
「値段を考えろ値段を!」
そう、青年、タツヤが現在金欠となっている理由の一つは、聖剣の手入れにあった。
聖剣は長さ170cm程の両刃で出来た両手剣だ。
その剣身は見る者を魅了する煌びやかな黄金の輝きを放ち、樋には使用する妨げにならない程度にあしらわれた三色の宝石、見た目だけで言えば、まさしく聖なる剣そのものだ。
だが、何十年も地面に突き立てられ、何百人もの人間が無理やり引き抜こうとした弊害か、聖剣は酷くダメージを受けていた。
雨風に晒され続けた剣身は汚れ、握りと鍔は手汗や鳥の糞でぎとぎとになり、鋭かった刃先は凸凹に歪み、とてもじゃないが、手入れせずには使えない状況だった。
そこで自我を取り戻した聖剣は半泣きになりながら、手入れしてくれとタツヤに懇願したのだ。
最初に話を聞いた彼も、流石に不憫だろうと思い路銀を切り崩し、急遽聖剣の手入れに取り掛かることになったのだ。
人間で例えるなら数十年間歯磨きせず、風呂に入らなかったようなものだ。これに同情するなと言う方が難しい。
しかし、鍛冶師でも何でもない者が本格的な手入れをできるはずも無く、作業中は聖剣から悲鳴に似た叫び声が響き渡る珍事件が勃発したが、それもある意味当然のことだろう。
と言う事件があり、絶賛青年は金欠の真っ只中なのだ。
「ほんと止めてくんない?お前のせいで散財するは、変な連中に追いかけ回されるは、変な奴に勧誘されるし、俺っていつからそんな人気者になったんだよ」
『言っとくけど、それってあんた関係ないから。わ・た・しの威光のおかげだから!あんたは付属品に過ぎないの、そこのところおわかり?』
「マジで圧し折ってやろうかしらこの駄剣」
そう言いつつも村の中を歩き回り、日払いの仕事を捜すタツヤ。
現在の所持金は辛うじて食事できる程度、このままでは数日も立たずに路銀は底を尽きるだろう。
最悪サバイバル生活もできないことはないが、そんな生活よりもごく一般の生活をしたいと考えるのは当然のことだ。
しかし、そんな気前のいい仕事がそう簡単に見つかる訳も無く、仕事探しを早々に諦め、いつの間にか辿り着いた酒場で安酒を飲みながらダラダラと時間を過ごしていた。
様々な情報が行き交う酒場、ここで何か都合の良い儲け話でもないか駄目もとで聞き耳を立てていると、面白い噂が聞こえた。
「そう言えばあの噂を知ってるか?」
「ああ、あの眉唾もんの?」
「そうそう、亡者が財宝を守ってるって言うアレ」
「どうせガセだろ?」
「いいや、あそこは昔魔王と勇者が戦った場所だからな。あながち嘘じゃないかもしれん」
「だからと言って、取りに行くわけでもないだろ?」
「当たり前だろ。あの森には――――――――――」
その二人の話を聞き終わる前に、タツヤは酒場から飛び出した。
黒い外套をはためかせながら走る青年は、第三者から見たら通報されかねない表情を浮かべ、ある場所に向かって疾走する。
『聞いた聞いた!?財宝ですって!』
「これで当分の間は食い扶持に心配しなくて済みそうだ!」
『財宝見つけたら鞘買ってよ!私に相応しいゴージャスで気品のある煌びやかな鞘を!』
「見つけたらそん位買ってやるよ!」
『わーい!タツヤ大好き!』
既に財宝はある物だと考えて会話する馬鹿達、常識のある者がここにいれば必ず制止を促していただろうが、残念ながらそんな常識人は此処には居ない。
今の一人と一振りに噂と言う曖昧な言葉はない。
頭にあるのは、輝かしい未来に思い馳せる幻想のみ。
火のないところに煙は立たぬと言う言葉がある通り、噂も何もない所から出てくることはない。
一見根も葉もない噂話に聞こえたが、その財宝のあると噂される場所が場所だけに、行ってみる価値があるとタツヤは判断したのだ。
場所は勇者と魔王が初めて矛を交えた土地
魔境『眠りの森』