呪いの装備にご注意ください   作:ZEKUT

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眠りの森

日の光が届かない鬱蒼とした暗い森の中、タツヤはゲッソリとした表情で草木をかき分けながら歩く。

 

 最初こそ酒場から勢いよく飛び出した彼だったが、その勢いも長くは続かなかった。

 

『ほんとタツヤも馬鹿よね』

 

「黙れ駄剣、引きずってくぞ」

 

 かき分けた木が跳ね返り、ベシッと言う痛々しい音が頭部から響く。

 

「地味に痛いし、鬱陶しい」

 

『そりゃ何十年も放置されてるもの。そんだけあれば木々も伸びるし、草も十分に生えるわよ』

 

「他人事みたいに言うの止めてくんない?」

 

『だって私に実害はないし』

 

「マジで引きずってくぞ」

 

 愚痴を零しながら進むが、財宝と思しき物は欠片も見当たらず、気分は下がる一方。

 

 高く伸びた木が空を遮り、生い茂った枝は視野を狭め、獣道すらない生え渡った草が歩みを緩慢にする。

 

 代り映えしない景色に飽き飽きしながら歩くこと一時間、流石にタツヤも辟易としてきた頃、我慢の限界が来た。

 

『あーもう!面倒だからここら一帯ビームで吹き飛ばしちゃいましょ!こんな滅入るようなとこ私嫌いなのよ!』

 

「阿呆か!この森を火の海にする気か!」

 

『だってだって!そうすれば道は開けるし、陽は見えるようになるし、余計な者はなくなるじゃん!」

 

「その過程でいろんな物失うだろうが!」

 

『もー無理!ちょっとだけだから!ちょっとスッキリさせるだけだから!』

 

 背に背負っていた聖剣が独りでに浮かび上がり、覆われた布から輝きが溢れる。

 

「馬鹿!ここの近くに財宝があったらどうする気だ!一回落ち着け!」

 

 必死の制止により、輝きが収まり、最悪の事態に至らなかったことに安堵する。

 

 聖剣の火力はそれこそ小さな村を半壊させるほどの大火力を有している。

 

 そんな大規模火力が手加減とはいえ、力を解放されれば森が全焼することは避けられないだろう。

 

『……さっさとお宝見つけなさいよ』

 

「はいよ」

 

 渋々と言った感じで納得する聖剣を背負い直し、再び歩みを進めようとしたが

 

「殺気!」

 

 瞬時に振り返り、その場から飛び退く。

 

 先程までタツヤが立っていた場所に、大きな氷柱が数本突き刺さる。

 

 地面に刺さる氷柱の角度から術者の位置を探ろうとするが、それよりも早く第二波が迫る。

 

 背後から押し寄せる水鉄砲、追撃の可能性は考慮していたが、まさか初撃の逆方向から来るとは予想できず、半歩遅れてから回避行動に移る。

 

「マジか」

 

 辛うじて躱した二撃目だったが、タツヤはその威力に驚きを隠せなかった。

 

 目標を見失った水鉄砲は次々と木々を切断していき、やがて見えなくなった。

 

「あっぶね!俺じゃなかったら上半身と下半身お別れだったろ!?」

 

『うっさい!次、下からくるわよ!』

 

「知ってるけど間に合わん!」

 

『このノロマ!』

 

 見事無傷で避けたことを自画自賛するも、その後が続かず、罵倒される。

 

 そして聖剣の助言通り地面から土が盛り上がり、半球状となりタツヤを覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「捕えた?」

 

 茂みから現れたのはボロ布を纏った小柄な少女。

 

 彼女は恐る恐ると言った足取りで、土の檻に近づいて行く。

 

「この人どうしよ」

 

 重傷を負わすつもりで攻撃を仕掛けたものの、相手が思いのほかすばしっこく、予め用意しておいた捕縛用の魔法を使いようやく捕えることに成功したが、捕まえた後の事を一切考えてなかったので、対処に困ってしまう。

 

 あれだけ殺傷能力の高い魔法を使っておいてあれだが、殺す必要が無いのに殺すと言うのもどうかと思い、かと言ってあれだけ物騒な発言をしていた相手を解放するのも不安が残る。

 

「記憶を消せばいいかな?」

 

 一番無難な方法だが、どうやって魔法をかければいいのかが思いつかなかった。

 

 忘却魔法は多量の集中力を要する魔法であり、間違っても戦闘中や捕縛済みで無い敵を前に使用できるものでは無い。

 

 今回彼を捕縛している魔法は、対獣用に仕込んでおいた捕縛魔法で、効果は精々動きを制限することぐらいだ。

 

 解除したら最後、再び戦闘になることは予想に難くない。

 

「放置は流石に拙いよね?」

 

 これ以上かかわりたくない、放っておこうかと考えたが、このまま放置しておけば中の者は、餓死することは避けられないだろう。

 

 ボコッ

 

「えっ?」

 

 少女が思案くれていると、目の前の土の檻から不穏な音が聞こえた。

 

 その事実にありえない、気のせいだと断じるも

 

 ボコボコッ

 

「ッ!?」

 

 さらに不穏な音が、少女の不安を助長させる。

 

―――――ありえない!この土の牢獄は水晶並みの強度をしているのに!

 

 およそ純鉄の十倍の硬度を誇る水晶、高度な魔法を使用すれば破壊は可能だろう。

 

 しかし、そんな高度な魔法を閉鎖空間で使うなど自殺行為に等しい。したがって、相手は攻撃魔法を使った可能性は低い。

 

 なら強化魔法でも使ったのかと考えるが、それでもありえないと断定せざるを得ない。

 

 いくら強化したとしても、余程の名刀で無い限り、水晶並みの強度を誇る土を斬れば逆に剣が折れる。

 

 ボコン!

 

「ほら、俺の予想通りだろ?」

 

『即興で考えた言い訳じみたこと言ってんじゃないわよ』

 

 土の牢獄から現れたのは、痛そうに手をさする黒い外套を着た黒髪の青年、その姿は魔王を彷彿させるようないで立ちだ。

 

「……ッ!どうやって、この牢を破ったの?」

 

 少女は声を上擦りながら問いかける。

 

「ん?ああ、あれね。土にしてはちょっと硬かったけど、ニ、三回殴ったら壊れたよ」

 

 おかげで手が痛いのなんの、そう苦笑を零しながら答えた言葉に、少女はあり得ないと言った面持ちをする。

 

 元は土とは言え、水晶並みの強度を持つ土を数回素手で殴っただけで破壊する。

 

 武器を使われたのなら百歩譲ってもまだ納得できる。だが、魔法で強化されたとしても、素手は納得も理解もできなかった。

 

 それと同時に悟った、自分は手を出してはいけない相手に手を出してしまったのだと。

 

 身体がガタガタと震える。

 

―――――逃げなければ、でもどうやって逃げれば。

 

 数秒に満たない戦闘だったが、俊敏性が自身より高い事は先の戦闘で理解した。

 

 あの反応速度と高い回避能力を有する敵を仕留めるのは困難、そう考えたからこそ、搦め手を使い、あらかじめ仕掛けておいた捕縛魔法陣まで誘導したのだ。

 

 そしてそれも大した意味もなさず破られた。

 

 余力はまだ残っているが、素手で捕縛魔法を破壊するような相手に対した意味はなさないだろう。

 

 少女は今更ながら目の前の彼に手を出したことを悔いた。

 

 もしかしたら、この森に迷い込んだだけだったかもしれなかった。あのまま放置しておけば、何事も無かったかもしれなかった。

 

 言いようもない不安と後悔の念が押し寄せ

 

「えっぐ、えっぐ……」

 

 涙腺が崩壊、少女はとうとう泣きだしてしまった。

 

「え、ちょ、何で泣くの!?俺なんかやった!?」 

 

『そりゃあんたみたいな奇怪な生物見たら泣きたくなるわよ』

 

「お前マジで言ってんなら根元から圧し折るぞ」

 

 森の中で泣きだした少女をあやす青年と言う奇妙な光景が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タツヤが少女をあやし始めて数分が経過した。

 

「もう大丈夫か?」

 

「うん、ありがとう…」

 

 涙で赤く腫れあがった瞳を拭いながらコクリと頷くその仕草は、さながら小動物を彷彿させる愛くるしさが見える。

 

 奇襲と言う形であれ、先程まで戦っていた相手を泣き止ませるため、四苦八苦すると言うのも何ともおかしな話だが、その甲斐もあり少女は落ち着くを取り戻した。

 

「さてと、君も落ち着いたことだし、質問があるんだけどいいか?」

 

 ちょっと前まで意味も解らず泣き始めた少女だ。彼女がいくらあれだけの魔法を扱えるとしても、その精神は魔法に追いついていない。

 

 できるだけ刺激せず、声音と口調に注意を払いながら問いを投げる。

 

「あ、あの、いきなり襲い掛かってごめん、なさい」

 

「あー、その、気にしてないことはないけど、そんなに怯えながら謝らんでくれ。被害者のはずが加害者の気分になってくる」

 

 タツヤは困ったように苦笑を零しながら、自分は敵意がない事を告げる。

 

 すると少女の顔は徐々に青ざめていき、恐る恐ると言った様子で言葉を口にする。

 

「えっ、なら、私の聞き間違い?」

 

「聞き間違い?一体何の事だ?」

 

 少女の言う聞き間違いと言う言葉に、何故か機敏な反応をみせるタツヤ。

 

 見知らぬ他人に糾弾される様な後ろめたいことをした覚えはさらさらないが、何故か嫌な汗が止まらない。

 

「えっと、確か、ビームで吹き飛ばすって聞こえたんだけど」

 

「誠に申し訳ございません」

 

 少女が言葉を言い終えるや否、タツヤは地面に額を擦りつけんばかりの勢いで頭を下げる。

 

 彼女の一言で、彼の脳内裁判でどちらが有罪であるか、その判決は即座に満場一致で可決された。

 

 判決、被告タツヤ、有罪!

 

 申し開きの無い程、圧倒的に彼らの言動に非があった。

 

「あ、頭を上げてください!」

 

「いやどう見ても俺が、いや、この駄剣が悪かったです。ほんとすんません」

 

『ちょっと!何さりげなく私に責任擦り付けようとしてんの!』

 

「だまらっしゃい!どう考えてもお前の無責任な言葉が原因だろうが!反省しろ!」

 

『ちょ、痛い痛い!?折れる折れる!?』

 

 確かにタツヤにも責任はあるかもしれないが、あたかも自分に非はないと宣う駄剣を何度も岩石に叩きつけ、剣身を痛めつける。

 

 さりげなく刃先ではなく、剣身の腹を岩石に叩きつける辺り、どれだけ彼が怒っているのかが窺えるものだ。

 

―――――またか!またこいつのせいなのか!?

 

 もはやタツヤにはこの駄剣が勇者の剣なんて大層な物では無く、曰く付きのタチの悪い呪い装備にしか見えなかった。

 

「え、物が…喋ってる…?」

 

「あ、やべっ」

 

 面倒事が重なり、今まで蓋していたフラストレーションが噴き出し、うっかり普段の癖で口を滑らせたことに、先程とは違った嫌な汗が額に浮かび上がった。

 

 

 

 

 

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