仮面ライダーだけど、俺は死ぬかもしれない。   作:下半身のセイバー(サイズ:アゾット剣)

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初投稿です(震え声)
・・・失踪したと疑われ忘れ去れた頃にこっそり投稿するゴミですどうぞよろしく。
皆さまから頂いたご感想に返信できておりませんが、しっかり読ませていただいています。ありがとうございます。
あと今回ながーいです。ご了承を。


♫.俺はこれで最後かもしれない。

 小日向未来が立花響と合流を果たしたのは、ライブの始まりを告げる前奏を流す数分前であった。十万にも及ぶ客席を埋め尽くす人の群れに圧倒されつつ、未来はチケットに記載された番号の席を探す。

 会場内は微かな照明だけで、不自由のない最低限の明るさしか保たれておらず、探し当てるのは至難かと思われたが、未来の目を持ってすれば響の後頭部を探すことなど造作もなかった。

 ───見つけた。

 指定された席には、一人で心細いかったのか、少し肩身を狭そうにしている響がサイリウム片手に未来の到着を待ちわびていた。未来が発見して数秒のラグを経て、響も未来の存在に気づき、満面の笑みを浮かべる。

 

(ま、まぶし〜い‼︎)

 

 未来にとって、響の笑顔は何よりも輝かしいものだった。

 

「ごめん、響……待った?」

 

「ううん。今来たところだよー!」

 

「それはそれで問題じゃない?」

 

 まさかのデートの常套句を挟みつつ、巨大な会場を呑み込む緊張感と興奮に二人はそっと身を委ねる。未来は受付で貰った『ツヴァイウイング』のパンフレットに目を通す。響は熟読済みだったらしいが、横からひょっこりと覗き込んでいた。

 

「天羽奏さんって、レッスン中にケガして入院してたんだよね」

 

「うん。だから、今日が退院初のライブになるんだって」

 

 数えきれないほどのファンが一堂に会する騒然とした景色が二人の眼下に広がっていた。ここに居る誰もが二人の歌姫を待っているのだろう。期待と羨望、憧憬の交じった黄色い声がいくつも上がっていた。

 響は広大な会場に渦巻く期待や興奮の中に、歌姫・天羽奏を心配する不安な想いを感じ取っていた。彼女の入院はそれこそニュースになっていたし、実質的な『ツヴァイウイング』の活動休止は世間を大きく騒がせた。かなり前から予定されていたこの大型ライブも開催中止となるのではないかと懸念の声が囁かれていたが、ファンの不安は天羽奏の復帰と共に歓喜へと変わった。

 退院後の初ライブ。事前に出回った情報では、事務所やスポンサー企業がかなり力を入れているらしく、緊張感が観客席まで届いてきそうだった。

 チケットは即完売した。立花響と小日向未来が抽選という細い糸を見事手繰り寄せたのは幸運というより、奇跡に近いものがあった。あるいは、運命という必然なのかもしれない。それを二人は知る由もないが。

 

「はぁー、なんだか私まで緊張してきちゃったよ」

 

「こんなイベント初めてだもんね。翔一さんも来たら良かったのに」

 

「……そうだね」

 

 曖昧な返事をする響に、観察眼に優れた未来は訝しんだが、何かを必死に誤魔化そうと微笑みかえす彼女を今は信じることにした。

 

「そろそろだね、未来! 楽しみだなぁ」

 

「うん。なんだか緊張してきたかも」

 

 そっと二人は手を重ねた。

 この一瞬一秒を大切にするために。

 これから始まる素晴らしいものを一緒に記憶するために。

 あるいは、今日来れなかった哀れな青年に土産話を持って帰るために。

 

 そして、すべての物語が始まる。

 

 僅かに灯されていたライトが消え、一面を暗闇に染めると、ざわめく観衆の期待に添えられ、ステージに光芒が輝いた。

 天井が割れて、太陽に照らされた青空が曝け出された。

 そして、舞い降りた───二人の歌姫が。

 天羽奏。

 風鳴翼。

 ツヴァイウイング。

 天に舞う鳥を模した可憐な衣装に包んだ二人の登場は、会場のボルテージを一気に最大へ昇華させた。曲が流れると誰もが座っていられるほどの正気を失って熱狂した。響と未来はただ圧倒された。十万人にも及ぶ熱気ではなく、ただ二人の歌姫に圧巻した。

 その歌声に、胸を穿たれたような衝撃を受ける。

 人はこんなにも心に響く声を奏でられるのか。

 人はこんなに美しい音色を調律できるのか。

 

 歌というものが、こうも胸躍るものだとは知らなかった。

 

 程なくして、会場は興奮の熱気に包まれる。

 響も未来も会場に渦巻く震え立つ熱の一部であった。

 まずは一曲を終えて、興奮の余韻が残る最中、マイクを持った天羽奏と風鳴翼の祝辞に加えて、不慮の怪我によってユニットを短期間とはいえ活動休止せざるを得なかったこととファンに心配をかけさせたことへの奏からの謝罪があった。

 

「───入院中、とある通りすがりのライダーと出会いました。そいつは私の歌声を聞いて、子守り唄に丁度いいなんて言いやがったんです。私は少し馬鹿にされているのかと思って、そいつの頭にゲンコツを喰らわせてやろうと思ったんです。でも、そいつは続けて『歌で心が安らいだのは初めてだった』と言って、『怒りや悲しみじゃ子供の笑顔は守れない。優しさに満ちた想いだけが子供を守る。だから、あなたの歌は子を守る唄みたいに優しいんだ』なんて言って……何言ってんのかわからなくて、なんだかおかしくって、でも、なぜか私はすごく嬉しかったんです。私はそんな唄をちゃんと歌えていたのかって」

 

 そんな談笑を交えて。

 

「なんか翔一さんあたりが言いそうだね、子を守る唄って」

 

「うん……」

 

 響は喧嘩別れしてしまった青年の顔を思い浮かべる。

 優しい男だった。柔和な笑顔を絶やさず、どんな人にも親しく接する温厚が過ぎるぐらいの青年。

 響は彼と出会って、彼に憧れた。

 彼は優しいだけじゃなかった。彼は強かった。理不尽や不条理に真っ向から立ち向かえる誠実な心の強さがあった。間違っていることを間違っていると言える強さ。でも、否定だけじゃなくてしっかりとその人の心に寄り添う優しさ。泣いていたら、寂しくないように、黙って側にいてくれるような優しさと強さ。

 響はそんな彼を見てきた。彼のようになれたらいいなと思えた。

 それがどうして今はこんなにモヤモヤするのだろうか。

 ───どうか、響ちゃん、これだけは覚えておいてくれ。響ちゃんは俺が命をかけてでも守ってみせるから。

 言い合いの最後に、そのような格好良いのか悪いのか判断し兼ねる台詞を一方的に言い放って、釈然とした様子で一人立ち去った青年。響は彼が怒っていたと思っていたのに、あんな優しい表情をされたら混乱してしまう。

 

 子供を守る唄。

 確かに、彼にとって響はまだ守るべき子供なのだろう。

 

「翔一さんのバカ」

 

 子ども扱いが腑に落ちない。そんな乙女心だった。

 

「二曲目、いくぞぉーっ!!」

 

 一人の少女の憂いなど振り払うように会場の凄まじい熱狂はけたたましい勢いを荒らげて、二人の歌姫を讃えるように熱風の如き興奮が渦巻ていた。

 響も気持ちを切り替えて、ライブに集中しようと顔を上げた。

 そうだ。それでいい。帰ったら、きちんと話を聞くんだ。

 思えば、あの人はいつも何かを守ろうとしていた気がする。何か大切なものを守るために必死で戦っている。そんな人だった。きっと、今日だって、どこかで戦っているんだ。

 彼が守ろうとしているもの。次に会う時にキチンと話させよう。渋るかもしれないけれど、未来と一緒にお願いしたらきっと喋ってくれるよね。

 あの人はそういう人だから───。

 

「ノイズだッ‼︎ ノイズが出たぞぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 会場が絶望の狂乱に包まれたのはその直後だった。

 

 

***

 

 

 ───見えた。

 

 疾走するマシントルネイダーの上で、深紅の複眼が巨大なドーム状のライブ会場を捉えた。

 人間の聴覚を遥かに上回るアギトは、数キロに及ぶ彼我の距離を残しながら、ノイズの無差別な殺戮から逃げ惑う人々の悲痛な叫びを嫌というほど聞いていた。数十万人の歓喜と熱狂に震えるはずだった会場は、天災たるノイズの予期せぬ到来で、今や非情な殺戮を繰り返す地獄に変貌しているに違いない。スロットルを回し、全速力で駆動するマシントルネイダーは熱い雄叫びを上げて、悍しい戦場へ文字通り頭から突っ込んでいく。

 無我夢中で走るか弱き人々の涙が、ノイズに飲み込まれて無情な死を遂げる。その一瞬を目にした津上翔一は怒りという衝動を露わにした。

 逃げ惑う雑踏に一台のバイクが突っ込んでいく。

 そして、誰かが声を漏らした。「仮面ライダーだ」「仮面ライダーがきた」一筋の光明に縋るように、その名を呼び続けた。

 黒い絶望を染める希望の光はすぐに伝播した。会場から一歩でも離れようと必死の形相で逃げていた人々は、蜘蛛の子を散らすように仮面ライダーへと花道を譲り、アギトに鼓舞されたかのようにその後を追った。

 

 空気が逆転していた。期待に満ちた多大なエールを背に、黄金の戦士はライブ会場の入り口めがけて突進する勢いでマシントルネイダーの爆発するようなエンジンを叫ばせた。だが、溢れんばかりのノイズは門の守護者を語るように、太陽の下で憎きアギトを待ち受けていた。

 会場から逃げおおせた観客を貪欲に追って外に出たノイズは、あくまで一部に過ぎない。しかし、ここから目視できるノイズの数だけでも気が遠くなるような大群であり、天災を体現するが如く獰猛な勢いを得て、凶暴な地獄をありありと翔一に見せつける。

 本当に間に合うのか。───思わず弱音を吐きそうになる。

 その憂いをかき消したのは、この場より過酷な惨状であるはずのライブ会場から響き渡る二人の歌姫の奏でる唄に他ならない。戦いは始まっているのだ。撤退? あり得ない。ここが、俺の命を懸けるべき正念場だ。

 

 アギトは全体重を偏らせるように真横に身を寄せ、ドリフトの応用で車体を寝かせると全力でバイクを蹴り飛ばした。乗り手を失ったまま、豪快な火花と共に滑走するマシントルネイダーが迫る悪魔の先頭集団を轢き飛ばす。大地に放り出されたアギトは間髪入れず走り出した。鉄をも引き裂く手刀で悪魔を辻斬りしながら、地獄と化したレクイエムを希望の音色に覆い奏でる。

 もはや、一切の躊躇はなかった。研ぎ澄まされた無我の境地は一種の殺戮兵器として完成されていた。自分に投げられた莫大な歓声や神に祈る願いさえ、津上翔一の深層心理には届いていなかった。

 〝殺す〟

 その狂気がアギトを覆う。破壊衝動ではない。純粋な敵意。今ここに晒された雑音を一匹残らず殺し尽くす。そのためなら、心を捨てることも厭わない。ただの殺戮兵器でも構わない。

 この身、朽ち果てようと、殺戮の先に、守るべき笑顔があるのなら───。

 死に物狂いで飛びかかるノイズの鳩尾に左右同時の拳打を叩きこむ。

 

「はぁぁ……ッ‼」

 

 蹴り飛ばし、投げ飛ばし、殴り飛ばす。どこ見ようが、どこを向こうが、邪悪なノイズによって埋め尽くされた四面楚歌の視界は絶望と呼ぶに相応しい。だが、アギトは怯まない。その害たる大波に喰らいつく。

 極めて理不尽な数によるノイズの瞬きすら許さぬ猛撃に対し、一瞬の猶予も求めない凄まじく迅速な反応。

 止まることを知らぬ敵の攻撃を体術で受け流し、ほんの僅かに生まれた隙をこじ開け、そこへ格殺の一撃を叩き込む執念にも似た殺意。

 それを一つの条件反射だけで完成させる。

 これが無我の境地。

 アギト───津上翔一は自分でも気づかぬ内に、本来の彼自身のファイトスタイルに戻っていた。それは確実に敵の息の根を断つ、重圧的な殺意に満ちたカウンター。敵の攻撃をわざと誘い、重心で受け止めて、至近距離から刹那に等しい一撃で粉砕する。

 荒々しい理知的な獣───あるいは、暴力の達人。

 我武者羅だった。理性はほとんど無かった。眠っていた魂が沸々と目覚める感覚に従い、微かな勝機を確固たる意識で掴み、アギトは一糸乱れぬ構えに伴い、クロスホーンを解放した。

 一気呵成に叩き込め───‼

 

【ライダーキック】

 

 武人の雄叫びが地に唸ると、黄金の脚力を秘めた回し蹴りが乱舞した。それは嵐のように敵を吹き飛ばし。あるいは逆巻く業火のように敵を薙ぎ払う。哀れなノイズに真の天災とは何か知らしめんと金色を纏った凄まじい蹴りの猛襲が前後に炸裂する。

 轟々しい爆散四散が死する煤を巻き上げる。

 競り上がった呼吸を抑え、獣から人へ戻るように津上翔一は我に返った。

 

(今の感覚は一体……?)

 

 ───汝に眠った忌々しい記憶に過ぎん。

 

 彼の疑問に火のエルが応えた。その声には憤りに近しいものがあった。記憶とはなんだ。俺の失った記憶なのか。 翔一の更なる疑問は地のエルの怒気にかき消された。

 

 ───まさに愚かな人間に相応しい闘いよ。無駄が多く、玉砕覚悟な上、体力も続かん。まさに獣である。血に飢えた(けだもの)よ。汝には不向きな力であろう。先の感覚……忘我の殺意、とく忘れよ。さもなくば、くだらん死が待つことになる。

 

 脅迫めいた地のエルの言葉には棘があった。何か引っかかりを覚え、逡巡するアギトに風のエルが叱咤のように語り掛けた。

 

 ───なにをしている。今は悩むべき刻ではなかろう。守らなければならぬ者が待っているのだろう。既に索敵は開始している。どうやら、会場とやらに取り残されているらしいぞ。急げ、アギト。

 

 そうだ。俺は行かねばならない。

 翔一はすぐにライブ会場へと足を向けた。まだ歌は聴こえる。二人の戦姫はまだ戦っている。悪戦苦闘しているのか、声音はとても厳しいものだが、呼吸のリズムは乱れていない。

 間に合う。間に合わせてみせる。

 たとえ『戦姫絶唱シンフォギア』が辿るべき絵図(シナリオ)を根本から破壊することになっても、あの子たちの命を、心を、想いを、笑顔を守れるのなら、俺は何であろうとブチ壊してみせる。ああ、壊してやる。それが罪なら背負う。どんな罰でも受ける。命ならくれてやる。

 悲劇(シリアス)は全部、俺が奪う───‼︎

 高ぶる呼吸を整え、力んだ拳を石のように固め、未だ鳴り止まぬ戦いの唄に導かれるように走り出す、その直前───。

 

「ありがとう仮面ライダー!」

 

 ()()()()()()()

 

「来てくれるって信じてた!」

 

「ありがとうありがとう……本当にありがとうっ!」

 

「怖かったよ。でも、助かった!」

 

 いつの間にか、()()()を取り囲むように人だかりが生まれていた。彼らは涙で頬を濡らしながら口々に感謝の言葉を述べていた。皆、絶体絶命の危機に怯えていたのだ。颯爽と現れたアギトはさながら救世主(メシア)にでも見えたのだろう。安堵に我を忘れ、感謝の祈りを捧げ、その場で泣き崩れるものもいた。

 誰も正気を保てる時間ではなかったのだ。

 翔一は困惑した。彼らを強引に撥ね退けてしまえば、この脆弱な人間の包囲網を脱出することは容易い。だが、アギトの状態で───今さっき我を失いかけていたにもかかわらず───微量であろうと力を込めて、彼らを押しのけてしまえば、どんな悲惨が待ち受けることになるか、想像に難くない。

 焦る気持ちとは裏腹に、なるべく穏便にと、アギトは見当たらない肩と肩の隙間に何とか身体をねじ込ませ、さっさと通り抜けようとした。

 しかし、その手は掴まれてしまった。

 

「お願い! まだ息子が中にぃぃ!」

 

 泣き喚く女性は半狂乱に陥っていた。途方に暮れるような思いが駆け巡った翔一の───アギトの腕に別の重みが加わる。

 

「妻がいないんだっ! ライダーどうか、どうか!」

 

 正常な思考など役に立たない。誰もが自分のことで精一杯だったのだ。感謝と懇願。喝采と嗚咽。陰と陽が混ざり合った混沌の中心で無力な焦燥だけが先走る。

 この場に悪意はない。

 あるのは願い───都合だけだ。

 動けない。揺さぶられる身体と泣きすがる声の果てしない重み。

 守るべき人が、守ってきた人が、今、翔一の障害となっていた。そして、腹を括って、犠牲を承知で、無理にでも群衆を掻き分け突破しようという心意気さえ持てない自分の弱さに嫌悪した。

 

(そうだ。俺は弱かったんだ……)

 

 仮面ライダーであろうと、なかろうと、津上翔一は人間としてあまりに弱かった。そんなことさえ、記憶と共に忘れてしまっていたのか。

 

(なにが仮面ライダーだ……。俺にそんな資格は無かったんだ……)

 

 何もできない絶望がそこにはあった。

 

 ───命は等しく尊ぶべき存在だ。だが、人は所詮、我が身の命しか知らぬ。命が死に差し迫ったとき、人は己と隣人の尊き価値を訴えることしかできん。知らぬ存ぜぬ他人の為などに節度を有すると思ったか? いくら綺麗事を並べようと人間の愚かさはそこに帰結する。淡い夢でも見ていたのか、アギトよ。

 

 その声は誰だったのだろうか。もう思い出せない。

 

 

 ***

 

 

 津上翔一は走っていた。失った時間を取り戻すため、一心不乱にライブ会場を走り回っていた。

 彼は今、生身の人間だ。

 変身を解除するしかなかった。あの悲しみで形成された群衆を辛うじて這い出ることに成功して、翔一は自身に対する悔恨を残しつつ、必死に身を隠し、仮面ライダーであることを中断した。希望をもたらす英雄ではなく、単なる人間としてなら見向きもされない。

 彼は津上翔一として逃げて行く人々とは真逆の方向へ走り、混沌極まる会場へ足を踏み入れることに成功した。

 長い通路を走りながら、幾度となく風に晒された煤の塊を目にして、翔一は御せぬ感情を抱かずにはいられなかった。───もっと早く着いていたら。自分に覚悟があれば。

 後悔を飲み込んで、ひたすら足を動かした。すっかり掠れた声で呼び慣れた名前を何度も叫ぶ。

 

「響ちゃん! 未来ちゃん! いるなら返事をしてくれ!」

 

 罪なき民衆の渦中から何とか逃れようとした際、ライブ会場に逃げ遅れた人々の中に立花響が残されていることを超越感覚(フレイムフォーム)の強化された五感により知覚した。これは不謹慎であるが、当初の予定通りと言える。彼の知る『戦姫絶唱シンフォギア』の物語における筋書きになぞらえている。

 彼女は───立花響はそこで戦姫としての力を不本意ながら受け継ぐのだ。

 

「止めないと、止めなきゃいけない! なのに、なのにッ‼︎」

 

 翔一は今にも拳を壁に叩きつけそうな焦燥と憤怒に澱んだ表情で駆ける。それはまさに予定外の事態。最も忌むべきイレギュラーが彼の焦りを際立たせていた。

 

「なんで、なんで未来ちゃんもいるんだ!?」

 

 小日向未来————彼女の存在は誤算だった。

 間違えるはずがない。あの子の声を聞き間違えるはずかない。人智を越えた感覚神経を持つアギトが捉えた少女の声を二つ耳にした時の彼の心は、まさに無という失望に相応しいものがあった。

 群衆にもみくちゃにされながら、翔一が呆然と立ち竦んでいたのは、この信じがたい事実も一役買っていたと言えるだろう。

 翔一の知り得る『戦姫絶唱シンフォギア』の物語冒頭では、小日向未来は身内の不幸によって、立花響と共に赴く予定であったツヴァイウイングのライブに急遽行けなくなってしまう。ある意味、奇跡的な危機回避を彼女はして、ライブの悲劇の生還者として世間から糾弾を受けるのは、あくまで、立花響ただ一人だけになる。————そのはずだったのに。

 

「俺の知ってる物語が変わっている……!」

 

 ───我々は介入し過ぎたのかもしれん。

 

 火のエルは言う。

 

 ───未来(みらい)というものは脆い。無数の選択肢によって絶えず枝分かれしている未来という事象は、その決定権をあらゆるものに委ねている。どこかの誰かが選んだ選択肢。行動や意思。それらが一つでも変われば、無限に近い未来の一つが決定され、残りの未来は全て排斥される。引き起こされるはずだった可能性は消え、決定された未来における新たな可能性が芽生える。未来とはそういうものだ。

 

 それに、と火のエルは続ける。

 

 ───汝の知る世界に、汝は居たのか?

 

 翔一は奥歯を噛み締めて、苦渋に満ちた顔をするしかなかった。

 

「そんなことは」

 

 目の前に立ち塞がったノイズを翔一は生身のまま蹴り飛ばす。

 

「わかっている!」

 

 翔一の乱暴な上段蹴りが炸裂し、ノイズはコンクリートの壁に叩きつけられる。そのまま頭を踏み抜かれて霧散するように灰になった。

 アギトの恩恵。オルタリングの力。その一端として翔一は素手であろうとノイズに触れることができた。位相障壁を生身で無効化しているのだ。

 とはいえ、所詮は非力な人間の暴力。彼はアギトと成ることで極地に至る達人へと変貌するが、彼は人間である限り、肉体の枷がある限り、津上翔一はどうしても人間の域を出ることは叶わない。

 それでも彼は強い。無我であろうが、なかろうが、ノイズ一匹を蹴り殺すことは容易であった。しかし、ノイズの最たる脅威である数を相手にするとなれば、話は変わってしまう。

 物量に対する手段など、翔一はアギトになるしか持ち合わせていない。

 変身には時間がかかる。リキャストタイムと言えば伝わるだろうか。

 一度、アギトから変身を解くと、オルタリングが変身中に無差別に吸収した大気に漂うエネルギーの浄化を行うため、しばらく変身できなくなってしまうのだ。無理に変身しようものならアギトは完全な状態を保てず、予期せぬ形で変身が強制解除され、逆流したフォニックゲインが一気に翔一を襲うことになる。

 今は我慢の時だった。邪魔な単体のノイズを蠅を仕留めるように倒しながら、道中で二人を探すしかない。

 

「おい、まだ見つからないのか⁉︎」

 

 翔一は飛びかかってきたノイズを押さえつけながら、超感覚によって立花響と小日向未来の二人の捜索をしているエルロードらに果敢に吠えた。この危機的状況に大天使を敬う気持ちはほぼ失われている。

 

 ───待たれよ、数が多すぎるのだ……。

 

 風のエルの苦渋の声に、翔一は舌打ちをして、ノイズを蹴り飛ばし、鬼気迫る表情で声を荒らげる。

 

「くそ、くそッ! 結局、俺は何のために……ッ」

 

 何のために必死で戦ってきたんだ。

 

 ───む。

 

 その時、風のエルが何かを受信した。

 

 ───待て、近くにいるぞ! 黒い髪の方だ!

 

「ッ⁉︎ 未来ちゃん!」

 

 閉じられていた防火扉をこじ開け、関係者以外立ち入り禁止と書かれた通路を走り抜ける。舞台裏だろう。人の気配はなく、行手を阻むノイズも居ない。薄暗い照明が幅五メートルほどの散らかった通路を延々と照らしている。

 堆く積まれた段ボールの山を乗せた台車の後ろに人影があった。

 息を殺して身を隠している少女を発見して、翔一は安堵せずにはいられなかった。

 

「未来ちゃんっ!」

 

「翔一さん⁉︎」

 

 翔一は小日向未来を発見した。

 彼の呼び声に未来は涙ぐんだ瞳を潤わせていた。何故居るはずもない翔一がここに居るのか。疑問はあっただろうが、それに勝る圧倒的な安心感が未来の不安を包んでいた。この非常事態で、彼女にとって一番そばにいて欲しかった人間が彼なのだから。

 ただ未来は一人ではなかった。その腕にはもう一人の幼い少女が抱かれていた。ノイズから逃げている最中、親とはぐれてしまったのだろうか。幼い顔は今にも不安に押しつぶされそうな表情をしていた。

 未来は親とはぐれた幼女を抱きかかえながら、ここまで逃げてきたのか。彼女の表情は疲労を隠せない憂鬱としたものだったが、親と離れて、不安で泣き出してしまいそうな女の子を心配させまいと未来の真っすぐな瞳に恐怖は滲ませていなかった。

 

 強い子だ。改めて翔一はそう思った。

 

「あの、あの……翔一さん……の、ノイズが……急に会場に……」

 

 震えて巧く回らない呂律で何とか事件のあらましを説明しとうとする未来を翔一は宥める。

 

「大丈夫。大丈夫だから。わかってる。ほら、行こう」

 

 その細い手を引いて、何とか立たせる。しかし、未来のしなやかな脚は小刻みに震えて、バランスを失わせる。咄嗟に翔一が受け止めるものの、未来は今まで耐え忍んできた涙を吐露するように翔一に縋った。

 

「響が……響がまだ……!」

 

 思わず、息を呑んだ。

 

「響がまだ……私のせいで!」

 

「ああ。大丈夫。響ちゃんも連れて帰る。だから、今は歩くことだけを考えて。お嬢ちゃんは歩ける?」

 

 未来の腕の中でコクリと幼い少女が頷いた。

 

「よし。じゃあ行こう。あっちの非常口ならノイズも少ない。何とか逃げられるさ」

 

 安心させようと未来の背中を撫でてやるも、翔一の精神もまた焦りを隠せなかった。震える掌を強く握り締めて、彼女から見えないようにすることしかできない。

 立花響───彼女を救えなくて、何が覚悟だ。

 だが、一先ずは未来を救出できたことを喜ぶべきだろう。予測不能(イレギュラー)であった彼女を見つけ出せたのは、間違いなく行幸なのだ。恐らく、響は会場の観客席に身を隠しているのだろう。そこで天羽奏と風鳴翼の熾烈な戦いを目撃しているに違いない。

 まだ間に合う。この二人を安全な場所まで連れていって、そこから変身して戻れば、天羽奏の命をかけた絶唱には間に合うはずだ。いや、間に合わせる。何が何でも必ず、立花響も天羽奏も助けてみせる————!

 その覚悟は揺るがなかった。

 ただし、それを嘲笑うのが運命というものであった。

 

 ───アギト、後ろだッ!

 

 地のエルの警告とほぼ同時に翔一は気付いた。

 天井から音もなく滲み出した災厄の影を。

 

「ッ————危ないッ!!」

 

 一瞬の判断だった。

 考える暇など与えられなかった。

 それが最善の行動だったのか、最悪の行動だったのか、今となっては永遠に判らない。ただし、反射的に翔一はそうせざるを得なかった。

 抱き寄せた。抱きしめた。小日向未来という怯える少女を。その細い身体を包むようにして、必死に守るようにして、未来が抱きしめる小さな少女ごと、必死に抱きしめて————。

 その命を抱きしめて。

 ()()()()、と。

 

「ッ―――……………………」

 

「翔一さん……?」

 

 抱き寄せられたのも束の間、何かじわりとした感触に未来は息を呑んだ。

 苦しそうに顔を歪める翔一は未来らを乱暴に突き放すと、背中に張り付いたノイズを裏拳で殴り飛ばした。

 ノイズの位相障壁に対し、生身でさえ免疫を得ている翔一に何も知らない未来が驚愕の眼差しで見つめていると、彼の全身が軸を失ったように大きく()()()と揺らめいだ。

 そして、世界は静止する。

 翔一は呆然と立ち尽くし、何もない虚空を凝視したまま動かない。ノイズを前に電池の切れた玩具のように焦点の合わない目で俯いている。不規則に揺れる肩。微かに痙攣する指先。閉じた口の隙間から漏れる呼吸が荒く震えているのがわかった。

 様子がおかしい。すると、ぽとり、と床に何かが滴り落ちた。ぞっと寒気が走った。未来が感じた途方もない不安が現実となるまでにそう時間はかからなかった。まず、未来は否応なく自分の掌にべっとりと付着した真っ赤な血に気がついた。それは彼女の白くしなやかな腕を赤く犯すだけでなく、想像もしたくない悪夢めいた真実を囁いていたのだ。

 なぜなら、未来は怪我などしていなかったのだから。

 その血が誰のものか、考えずとも、答えは出ていた。

 

「翔一さん」

 

 ぽた、ぽた、と動かなくなった翔一の腹部から止め処なく血液がこぼれる。時計の針が丁寧に時間を刻むように永遠とした赤い血は地に落ちると微かに跳ねた。

 すっと魂が抜ける感覚に未来は涙ぐんだ目で「翔一さん」と祈るように呼び続けた。何度も繰り返してその名を呼んだ。何も応えない彼に、彼女は無心で頭を振った。あり得ない。ありえないありえない。津上翔一という男は、いつも飄々としていて、社畜根性が染み付いていて、子供っぽさばかりが目立つ朴念仁で、誰かが泣いていたら黙って傍にいてくれるような優しい人で、それで、それで……。

 私の、大好きな───。

 

「翔一さん、翔一さん」

 

 未来は混乱していた。どうしても、眼前に広がる悪夢を───受け入れ難き現実を否定したかった。いつものように甘えた声で呼んでみても、返ってくるはずの「なに、未来ちゃん? まーた響ちゃんが何かやらかしたの?」という気の抜けた笑顔はやってこない。やってくるはずがない。

 彼は今、死を体感しているのだから。

 刺されたのか、突かれたのか。背中から穿たれ、貫通した生々しい傷から滲んだ血痕がシャツに染み渡り、その現実を未来の目に残酷にもしっかり焼き付けるように無秩序にじわりと広がった。そして、ついに翔一は口から滝のような血を不動のまま吐瀉した。背中から抉られた傷が容赦なく命を貪り、ついに翔一は膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。

 まさに、死んでしまったように。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」

 

 悲鳴も虚しく、応える英雄(ヒーロー)はおらず。

 死に瀕した翔一が吐き出した無情な血だまりだけが存在を許された。

 指一本動かせない。寒い。息苦しい。心臓が錆びた歯車のように、ゆっくりと鼓動をとめようとしているのがわかった。

 痛みは不思議にも頭に入ってこなかった。代わりに凄まじい眠気が襲った。凍えるような寒気が睡魔となって、自分を死の世界へ誘おうとしているのだと気付いた。気付いたのに、それに抗うすべは残されていなかった。考える力さえない。ここにあるのは死だけだ。

 瞼を閉じようとすると、脳裏にいくつもの声が重なった。だれだろう。もうなにもおもいだせない。なにもできない。

 

 ───俺は、死ぬのか。

 

 薄れゆく意識の中、誰かの名前を呼びながら泣き叫ぶ少女を見た。にげて、と口にすることすら許されない。

 

 ───俺は、何を、したかったんだっけ。

 

 思考が止まる。守りたかったものさえ、もう思い出せない。

 

 ───なんで、がんばってたんだっけ。

 

 ぷつりと途切れた意識。死の淵を歩く翔一の脳が何かに足を止めた。

 それは失ったはずの()()の記憶。

 報われない男の報われなかった人生。

 救おうと足掻いた少年の救われなかった想い。

 命を救うことだけは唯一の絶対的正義だと信じ、戦って、戦って、世界に裏切られた。───おもいだせない。

 新たな命で罪を背負い、苦痛を耐え忍んで、運命に抗って、戦って、戦って、人としての形さえ失った。───おもいだせない。

 求めたもの、愛したもの。全部つまらない戯言だった。懲りずに頑張ってその都度、痛い目をみた。それでも、最後には必ず誰かの笑顔が待っていたから。ああ、苦労した甲斐があったと笑えたから。ぐしゃぐしゃになった心が一瞬でも報われたのだと感じたから、だから、俺は、おれは───。

 

 〝……くんは、私にとっての仮面ライダーだから〟

 

 ドクンと心臓が迸る。今のは誰の声だったのだろう。忘れてしまった。忘れてしまったのに、こんなにも愛おしくて、切なくて、苦しくて。

 

 〝だから、もう泣かないよ、絶対に。あなたが笑ってくれるから〟

 

 こんなにも誇らしく胸に響く。忘却された記憶が、眠りかけていたその魂を急激に目覚めさせる。名も思い出せない少女は笑っていて、それがたまらなく嬉しくて───津上翔一はきっと戦ってこれたから。

 

 ───ああ、そうだ。そうだったんだ。俺は、人の笑顔が大好きだったんだ。それだけの理由だった。

 

 指先に力が宿る。息吹が蘇る。血反吐に汚れた肉体が、震える両足に身を任せて、少女の涙に再び()()()()()。それは紛れもないヒーローとしての覚悟であった。

 

「……逃げて、未来ちゃん」

 

 その声に、未来は嘆くように首を振る。

 

「でも」

 

「いいからはやくッ‼」

 

 あの翔一の声とは思えないほど荒々しい叱咤に、肩を震わせた未来は驚愕と動揺に動けずにいた。だが、なおも大量の血反吐を流しながら、想像を絶する死の苦痛を堪え、それでも優しく微笑んでくれた彼に、未来は涙を拭って覚悟を決めた。腕の中にいる幼き少女を強く抱きしめながら出口へと走る。

 振り向くと大量のノイズに囲まれてもなお、最後まで笑顔で見送る翔一の姿があった。

 未来は叫んだ。声が枯れるまで。声が尽きるまで。その笑顔が再び、戦士としての覚悟に塗り替えられるまで。

 

 ただ一人残された翔一はノイズと向かい合った。そして、体内に分泌されたオルタリングを呼び起こし、無我に至りし変身の構えをとる。

 

 ───いかん、傷が深い! 撤退せよ、アギト!

 

 地のエルの焦る言葉を無視して、翔一は神経を研ぎ澄まさんと右手を押し出した瞬間、壮絶なる激痛が腹部から地鳴りのように響き、苦悶の叫びを吐き出しながら片膝をつく。傷から致死量の血液が溢れていた。生命を維持できる量の血は残されていなかった。脈は今にも静かに運動を停止させて、楽になろうとしている。

 死がこんなにも近い。でも───。

 額の汗を拭うことすら放棄し、狂ってしまいそうな激痛を噛み締め、それでも怒涛の剣幕で立ち上がった。

 

 ───変身してはならん! 今は治癒に全力を注げ!

 

 風のエルが叫ぶ。エルロードは、翔一の生命の灯が消えかかっていることを知っていた。このままの状態で人智を超越したアギトに変わろうものなら、彼はそれだけのエネルギーで力尽きるかもしれない。加えて、変身を完了したところで傷口は塞がらない。それどころか、強化された細胞の代謝が体力を削り、傷を悪化させる恐れがある。弱り切った今の翔一にとっては致命的なダメージ他ならない。

 なおかつ、そんな状態で戦えるはずがない。

 アギトは万能ではない。

 アギトは神ではない。

 そして、人間はあまりに脆弱なのだ。

 

 そんなことは、わかっている。

 

 吐血と苦悶に苛まれながらも翔一は忘我の勢いで変身を強行する。アギトに変身したところで、自分が耐えきれないことは重々承知の上。むしろ、()()()()()()()()()翔一は誰よりもそれを痛いほど理解していた。だが、覚悟は決して覆らない。決意はみなぎっている。意志は固く紡がれて、死力を尽くさんと胸が熱く高鳴っている。

 

 ───アギト! このままでは本当に()()()()()()ぞ!

 

 次の瞬間には、火のエルの息を呑む声が聞こえた。今、彼の肉体は途轍もない精神力によって完全に支配されている。神の化身たるエルロードの束縛を物ともしない尋常ならざる不屈の魂が死に際に宿っていたのだ。大いなる神に遣えし大天使らは感じた。いや、思い出したのだ。津上翔一という人間の覚悟の在り方を。

 死に予兆などない。命に無限などない。そして、運命に絶対などない。

 故に、覚悟に時間など必要ない(Ready to go, Count zero.)

 翔一は口元に溢れる血を拭いながら、眼前の敵を睨みつけた。

 

「……上等」

 

 オルタリングが待ち侘びたと言わんばかりの脈打つ鼓動を叩き、眩く光る賢者の石が正面の敵を照らし出した。

 突き出した右手が小刻みに震える。酔った視界は疎らに反転を繰り返し、敵も、自分の手も、景色さえもが何重にも分身して幻惑のように瞳にうつす。意識が限界を訴える。肉体が悲鳴を上げている。薄れゆく体温と消えかかった感覚に鞭を打ち、翔一は必死に叫ぼうとした。

 だが、絞り出たのは声ではなく無情な血液の塊だった。吐血しながら、真っ赤になりながら、死に近づきながら————それでも彼は終局の淵でただ独り希望(いのち)を叫んだ。

 

 変わるために。

 

 変えるために。

 

 その言葉(セリフ)を叫ぶ。

 

「───変身ッ‼」

 

 キィィィィン、と激しい光が世界を包んだ。

 命の閃光だったのかもしれない。

 一瞬の儚い光の束に包まれて、彼は運命を覆すものへと変身した。

 命を燃やす覚悟の輝き。残酷なまでに美しい黄金に晒された戦士(ヒーロー)は小さく拳を握った。

 

「もう誰も泣かせるものか……誰の命も奪わせるものか……」

 

 黄金の鎧から滲む血を抑えて、アギトは叫ぶ。

 

「俺が()()()()()()である限りッ!!」

 

 最期の戦いが始まる。

 

 

 

 




戦っても生き残れない。でも戦わなくては守れない。




・・・過労で死ぬ? バッカキャロー! 物理で死ねい!←(鬼畜)
次回、最終回(?)
書いてる途中で「あ、これ最終回だ」と思いました。やっぱ血吐きながら戦う主人公は最高でっせ(趣味)当初の予定では全然書く気はなかったオリ主の走馬燈。彼を最初に「仮面ライダー」と呼んだのは一体誰なんでしょうか・・・。
いや次が最終回なんでまじまじ作者ウソツカナイホントホント()

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