仮面ライダーだけど、俺は死ぬかもしれない。   作:下半身のセイバー(サイズ:アゾット剣)

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イコン画の詳細については後書きを参照することをおすすめします。申し訳ない。作者の文章力がうんち過ぎた。絵を文字にするって難しい。勉強になりました。


♪05.Destiny's Play

 一匹の蠅が頬に留まって、津上翔一は浅い眠りから目覚めた。

 湿気の濃い空気が不快な目覚めを呼び覚まし、鉛のように重たい目蓋を否応なく開けねばならない憂鬱な気分がのしかかる。だが、都合の良い選択肢は用意されていない。ここにあるのはどうしようもない現実だけだ。津上翔一という現実からは逃れられない。

 夢であれば良かったのに───俺という存在そのものが。

 一匹の蠅が翅を自由に羽ばたかせて日が昇った空へ飛んでいった。

 空は青かった。

 青く広がっていた。

 朝を知らせる陽射しが届かない薄暗い路地裏からでも翔一には空の青さがよくわかった。澄み渡るように青くて、推し量れないほどに大きくて、気持ちの良い空。なのに、疲れた身体は何も反応してくれない。荒んだ心は少しも弾まない。重苦しいだけの現実(いま)が響く。

 虚しい心だけが津上翔一に残されていた。

 落書き塗れの汚い壁を背にし、片膝を抱えたまま死人のように眠っていた翔一はビルに挟まれた青空を眺めた。何も考えていない。ただ、亡者のように小さな額縁に収まる空を仰いでいた。

 青空と見つめ合う。

 やがて、空から逃げるように目線を逸らせて、翔一はゆっくりと己の掌を確かめた。なんてことのない───ただの成人男性の手であった。骨張った手。体温が残る手。人間の手。

 握ってみたり、開いてみたり、また握ってみたり。

 あの感触を忘れぬように。

 少女を殺めようとしたその手の感触を戒めるように強く握って、汗ばんだ額に烙印を刻むように押し当てる。すると、その拳は怯えているように震え始めた。手から悲痛な叫びが聞こえてきそうだった。やめてくれ。もう嫌だ。戦いたくない。あの子を殴りたくない。あの子と戦いたくない。

 嫌なんだよ、もう───人を殴ることを躊躇わない獣になるのは。

 恐怖が滲んだ拳は弱音ばかりを吐いていた。

 

「………………」

 

 逃げてはならない。逃げるわけにはいかない。

 たとえ、それで人間であることを捨てることになったとしても、ただの怪物に成り下がったとしても───俺は逃げられない。

 今の俺にはノイズを狩らなきゃいけない理由がある。その過程であの子たちを傷つけることになったとしても───今は、今だけは、戦わなくちゃいけない。あと少しだと思う。もう少しなんだと思う。やっと(ギルス)に慣れてきたんだ。その実感があるんだ。もうじき、新たな賢者の石碑(ワイズマン・モノリス)が生成されるはずなんだ。確証があるんだ。

 そうしたら、きっと、奏ちゃんは人間として真っ当な道を進むことができて───俺は……俺は…………おれ、は…………?

 

「何をいまさら」

 

 彼のか細い独り言に応える者はいない。

 天羽奏はまだ彼の意識が覚醒したことに気付いていない。だから、この声は───今だけは彼女に伝わらない。この時だけは、津上翔一の思考は自由を許され、隠さねばならない本音が零れる唯一の時間だった。

 天羽奏すら知らない───津上翔一の壊れかけの心。

 

「仮面ライダーでもないくせに」

 

 守りたかったものさえ、守れなくて。

 あの子をあんなに傷つけている。ただの女の子を幾度となく殺そうとしている。泣いている女の子を悲しませて、苦しませて、戦わせて───今度は別の女の子を泣かせようとしているのか。

 なにが仮面ライダーだ。お前はただの化け物じゃないか。

 わかってる。もうわかってるんだ。

 戦えば、戦うほどに───俺の肉体(カラダ)は飢えた獣とへ変貌していく。心が血肉に穢されて、人間としての想いが容易く失われていく。理性なき忘我の化け物へと成り代わろうとしている悪意が絶えず俺を覆っている。

 もう止めることはできない。

 止まることなんてできやしない。

 だから、この仕事が片付けば、その時は───荒んだ心を嘲笑って、硬くなった表情を崩すために翔一は口を大きくあけて息を吸った。

 

「奏ちゃん、おっはよおおおおおおって、ここどこおおおおおおっ⁉︎」

 

 ───うるせぇ! このバカ!

 

「朝から罵倒していただきありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 どうか、俺が心なき(バケモノ)になる前に───終われますように。

 

 

 

***

 

 

 こ こ を キ ャ ン プ 地 と す る(迫真)

 

 ───……。

 

 そこは奏ちゃん、ただの道端じゃないですかって笑いながらツッコミを入れるところだよ。何年俺のツッコミ担当してるのよ。頂戴よ、奏ちゃんの丹精込めたツッコミを! ギブミーツッコミ! ギブミーユアハート!

 

 ───いや、だって、キャンプ地とするっていうか……したじゃん。道端でバイク停めて、そのへんの路地裏で、倒れるみたいに寝たじゃん。

 

 だから、こうして面白エピソードとして補完しようとしているんでしょう!

 

 ───面白くねぇよ! ほとんど気絶みたいな感じだったろ!

 

 〜回想シーン(前回の後)〜

 

「あ、ちょ、ムリかも」

 

 ───え?

 

「すんごい眠い。家までもたないね、これ」

 

 ───え、ええ? せめて、バイク停めて、どっかの駐車場に……。

 

「ZZZ……」

 

 ───ばっか、運転したまま寝るな⁉︎ 前見ろ、前!

 

「生まれ変わったら奏ちゃんのおっぱいになりたZZZ」

 

 ───ならんし、させるか! いいからどっかでバイクを停めろ!

 

「まかせZZZ……」

 

 〜回想シーン終〜

 

 ロクな回想シーンじゃなかったね。

 

 ───居眠り運転なんかするんじゃねぇよ。

 

 昨夜は張り切り過ぎたからね。パーリーピーポーなノイズたんに触発されて、俺も無我の境地(笑)から無我の境地(いたいけな女の子傷つけて仮面ライダー名乗るとかウケるんですけど笑)になっちゃったし、翼ちゃんも相変わらず俺のこと叩き割ろうとしてくるし、くそアンノウンもどきはいつも通りだったし、響ちゃんは俺にクソビビってたし……(溜め息)

 

 ───……なんつーか、その、元気出せよ。

 

 元気? なに言ってんの奏ちゃん。俺はいつでも元気だぜ? バイブスはいつだって青天井よ。グーグルの検索に元気って打ってみ? 予測変換に俺が出てくるから。ちなみに今試した人はバカです。俺はもっとバカです。ナカーマ。フゥー!

 

 ───だったら、バイクの横で三角座りしていじけんのやめろよ。

 

 違う違う。これは別に女の子に暴力を振るってしまったことへのショックから全然立ち直れないわけではなくて、ちょっとお尻が地面とディープなキスをしたいという願望を叶えるためにやむを得ずって感じであってね、まさか、仮面ライダー以前に一人の大人である俺がだよ、スゲェ痛そうな顔してた響ちゃんを思い出して、罪悪感に押し潰されそうになってるわけなんてあるわけないでしょう? まったく奏ちゃんは想像力が豊かだなぁ。豊かなのはおっぱいだけにしてくれよ。

 

 ───はいはい。翼の時は一週間だったから、今回はどれくらい引きずるんだろうな。

 

 ぐぬぬ、なんだその「この子はいくら言っても聞かないから私が折れるしかないのよね」みたいな言い方は。奏ちゃんはいつから俺のお母さんになったの? いやでも確かにバブみはあるか。その温かな抱擁力は聖母のそれに近いし、つまり、奏ちゃんは俺のママだった……?(驚愕の事実)

 

 ───勝手にあたしの子供になるな!

 

 ママァ〜! 奏ママァ〜!I'm a shameful baby. (訳:私は頭ん中が残念な赤ちゃんです) Help me.(訳:助けてください)

 

 ───疲れてんの?

 

 さあ?

 

 ───さあって、おまえな……とりあえず今日は休めよ。

 

 やすむ? ヤスムさん? 誰それアタシ知らないわ、そんな人……。

 

 ───あたしも知らねぇよ、そんな人。

 

 よし、そろそろ地面と名残惜しく別れて立ちますか。ハァーヨッコイショ!

 いやはや、しっかし、まさか、朝までこんな路地裏で爆睡してしまうとは。社畜って最終的にこう野垂れ死ぬんかな。なにそれ怖ッ……時間もねぇし、トレーニングしてる暇は無ぇし、家帰って身支度だけして、さっさとお仕事に行くか。くぅ〜社畜は辛いぜぇ〜!

 

 ───相変わらずタフだな、翔一は。

 

 まあ、それだけが取り柄だかんね。

 フフフ〜ン(鼻歌) 今日も良い天気だな〜……ラジオ体操でもするか? よっし! 新しい朝がキャモン!!! それイーチニーサァァァァン!!! イイニーサァァァァン!!!(^U^)<イイアサダナカンドウテキダナダガムイミダ(バイクのエンジンをふかす) FOOOOOOO!!!(キチガイテンション)

 あ、やっべ、スロットル回し過ぎて若干の小ウィリーしちゃった。おかげで股間を座席にグランインパクトしちゃって、そりゃもう悶☆絶よ(モジモジモジモジ) あっ、通りすがりの奥さん! 決して別にそういうわけじゃないんです!新しいリビドーに目覚めてるわけじゃないんです! 違うから! これは違うから! だから通報しないでえええ⁉︎

 

 ───なんで朝からそんなに騒がしくできるんだよ。

 

 鍛え方が違うんだよ(ドヤァ)

 

 ───どこをどう鍛えてんだよ。脳味噌か? 脳味噌にシャウティングチキンでもぶっ刺してんのか?

 

 いやいや、さすがにアレほどはうるさくないでしょ。ああ、でも、お店とかの棚にぶら下がってんの見たら、なんかすげぇ鳴らしたくなるんだよな、あの鶏。

 

 ───わかる。真顔で押しちゃう。

 

 で、自分でびっくりするんだろ。

 

 ───しちゃうね。

 

 イエーイ(脳内ハイタッチ)

 

 ───いえーい。

 

 でも、あの鶏は天地ひっくり返っても欲しいとは思えないんだよなぁ。

 

 ───翼は欲しがってたぞ。

 

 ????????????(?????????)

 

 ───いや、冗談だけど。

 

 ………………………あっぶね、息止まったわ。

 

 ───そこまで⁉︎

 

 俺の中のSAKIMORIは清いイメージだから。

 

 ───確かに翼は良くも悪くも純粋だけどさ、翔一がSAKIMORI SAKIMORIって揶揄うから、なんかあたしも防人って何だっけってなってきた。

 

 そんなの決まってんでしょ。SAKIMORIはSAKIMORI以外の何MORIでもないし、由緒正しきSAKIMORIでしかないよ! こんなの広辞苑にのってるぐらい常識だよ!

 

 ───どこの異国の広辞苑だ。

 

 俺の心という名のパーフェクトキングダム。

 

 ───滅べ、三日で。

 

 三日天下⁉︎ 俺の心火は余命三日なの⁉︎

 ……と、くだらない会話をしながら運転してたら、お好み焼き屋ふらわーに到着した。やっぱりバイクって偉大だわ。オフロードバイクに変えてから若干スピードが遅く感じる気がするけど、これはこれでノイズたん轢きやすいし、俺を捕獲しようと集まってきたパトカーの上に乗っかって無理やり逃亡できるし、何かと便利だったりする。

 バイクを停めて、キー抜いて、ヘルメット脱いでっと……。

 あ、ご近所さんおはようございます。先日いただいたジャガイモ、美味しかったですよー! 今度、ほうれん草のおひたしご馳走しますね!

 あ、常連さんおはようございます。ワンちゃんのお散歩ですか。ウィーカワウィィナオイ(ワシャワシャ)ん? 俺ですか? これから仕事ですよ! 新メニュー作ったんで、今度ぜひ食べに来てください!

 あ、響ちゃんのお父さん! これからご出勤ですか? また一緒に飲みに行きましょう! 前回は、ホストとキャバ嬢相手になぜかバスケットボールしていたところまでは記憶があるんですが、そこからどういう経緯でBARのマスターとカバディに発展したのかは覚えていないんですよ。えっ、お父さんも覚えていらっしゃらないんですか? 気付いたら俺たち響ちゃんに正座させられていましたからね。今度は酔い潰れないようにしましょう!

 あ、ご近所さんの友人の方! 昨日はどうも! まさか、ニンニクとプリンにあんな可能性があるとは! 一歩間違えればダークマター……食は深いですね。ええ、思いついたんですよ、新メニュー。早速今晩やってみますね!

 あ、響ちゃんのお父さんの職場の方! この前一緒に食べに行った激辛坦々麺はまさに地獄でしたね。まさか麺よりも唐辛子の方が多いとは。舌大丈夫ですか? 俺は大丈夫じゃなかったですよ。はぁー強いんですね! 俺も負けてられないな! 今度は駅前の激辛麻婆拉麺食べに行きましょう! 店主が怖くて有名なんですよ!

 あ、常連さんの知り合いのご友人の方! この前の怪我大丈夫ですか! 俺もまさか力士の大相撲に巻き込───(以下省略)

 

 ……ふう、いつもはトレーニングしながらの挨拶だから、ついつい話し込んじゃうな。いけないいけない。

 

 ───どうなってんだよ、翔一の人望は。

 

 これぐらい普通っしょ。

 

 ───出会って十秒で肩組むぐらいに仲良くなるのは普通じゃない。

 

 きっと、俺の前世は陽キャだったんだろうなぁ。オタクだから陰キャだと思っていたけど、よーくよく考えてみればたまにウェーイって叫びながら戦うこともあるし、きっと、パリピの陽キャかオンドゥル星人の二択なんだろうな。……なんか嫌だな、この二択。

 

 ───まあ、翔一は陽気だけど、陽気なんだけど、なんだろう……違う気がする。

 

 じゃあ、オンドゥル星人になっちゃうじゃん! ウゾダドンドコドーン!

 まあ、ボドボドなのは変わんないからいいけどさ。

 よぉーし、飯食って、身支度整えて、朝の仕込みを済ませてから、用務員のお仕事に向かうか。うん。今日も多忙なスケジュールだぜ。でも、一番厄介なのはノイズたんのゲリラライブなんだよな。あのくそアンノウンもどきは割と出てくるようになったし、ノイズたんは不定期だし、俺は社畜だし、奏ちゃんおっぱいだし(おい!)、いっぱい寝たから元気1000%だけど、なんか原作ってここから色々とハードな覚えがなきにしもあらず───あ、そっか。南半球……駄目だ、聖遺物の名前が出てこねぇ。乳しか出てこねぇ。チチボインの鎧? くっそ、感性が小学生だよこれ。

 あーもー面倒くさい。考えるのやーめた。

 とにかく、今週の目標を立てよう! 目標は翼ちゃんと会って謝罪すること! ごめんねってしっかり謝るの! これが目標だから!わかったかい、奏ちゃん⁉︎

 

 ───あたしも謝んの? 全然構わないけどさ。

 

 いいや、俺が謝る! 俺が殴ってんだから俺が謝る! 奏ちゃんは俺が逃げないように見といて!

 

 ───逃げないだろ、翔一は……。

 

 いつもいつも殴ってしまい申し訳ありませんって、それとなく伝えて謝っちゃうぞ! バレないように謝るんだぞ、俺! なんなら土下座も辞さない。土下寝だって解禁だ。大和文化に精通したSAKIMORIなら俺の古来より受け継がれてきた日本の魂たるDOGEZAの真摯な意図も伝わるはず。

 

 ───翔一の土下座ってなんか安いんだよなぁ。

 

 ゑ?

 

 ───だって、困ったらすぐするじゃん。

 

 ぐぬぬ……言われてみれば、確かに俺はすぐに土下座をしてお相手の靴をprprしてしまうな……!

 

 ───そこまで言ってねぇよ。

 

 くっ……ぐぅぅ……よし。わかった。わかったよ。土下座は今後しない。封印するよ。

 

 ───おお。

 

 俺にも自尊心ってモンが残ってるからね。エルさんの靴をprprして磨いていたあの苦行の日々とは決別するよ。

 

 ───舐めたのっ⁉︎ 本当に舐めてたの⁉︎

 

 冗談だよ、冗談。あの天使さまたち、そもそも肉体ねぇもん。身体どこやったんですかって聞いたら、未来への先行融資とかマジ意味不明なこと言われたし、なんか地のエルさんは今度は負けないとかブツブツ言ってたし、多分、神にでも返したんじゃない?(753風)

 まっ、どうでもいいけどさ。(ポケットゴソゴソ)……あれ? ないな(ズボン)ない(上着)どこにも(全身)ない(落胆)

 

 ───どうした?

 

 家の鍵がない。

 

 ───落としたのか?

 

 どこで? どこで? どこで落としたの⁉︎ どこに落とす機会があったの⁉︎ どこで踏み間違えたの⁉︎ 俺たち目指すべき場所は同じだったのに、なんでこんなことになっちゃったの⁉︎

 

 ───落ち着けよ。なんか闇落ちした仲間との悲劇的な再会みたいになってんぞ。

 

 あそこか? 寝てた道端か? あの路地裏か?

 

 ───考えられるとしたら、そこだろうな。

 

 うわ〜ん⁉︎ 神さま仏さまエルロードさま! お願いしますから俺に家の鍵を返してくださいまし!(脳内土下座)

 

 ───土下座解禁RTAすんな。

 

 ぴえん。

 

 ……その後、なんとかカギを見つけて家に帰った俺は職場の学校でたまたま出会った393(怒)に、昨夜連絡しても一切出なかったことについての追及を受けて、やっぱり土下座するのであった。お詫びに靴を舐めようとしたらゴミを見るような目で当然のように背中に座られました。五分ぐらい。これがドMへの第一歩ですか。我々の業界ではご褒美です。泣けりゅ。

 

 

 

***

 

 

 

「未確認生命体第三号について、教えてください」

 

 立花響は曇りない(まなこ)でそう言った。

 放課後、一年生の教室を訪ねてきた風鳴翼によって特異災害対策機動部二課本部に連行された響は、二課の司令官である風鳴弦十郎や研究員である櫻井了子の話を聞き、シンフォギアが何たるかを教わった。

 立花響の肉体に宿った聖遺物の欠片───ガングニール。

 ライブ会場の惨劇───ノイズの魔の手から響を守ろうとした天羽奏の撃槍(アームドギア)が砕け散り、その破片が響の小さな身体を穿ってしまった。その後、響は病院に緊急搬送されたが、破片は摘出不可能とされ、そのまま立花響の胸に残されたままとなった。

 そして、二年の時を経て、まるで天羽奏の意志を継ぐように槍の破片は立花響の窮地を救わんと彼女にノイズと対抗し得るシンフォギアの力を与え、戦姫として覚醒させたのだ。

 FG式回天特機装束(アンチノイズプロテクター)───人類が有するノイズへの唯一の対抗手段。歌によって起動し、歌によって力が増す、歌の兵器。それを扱えるものは風鳴翼と天羽奏。そして、立花響の三人のみであり、その内、天羽奏は二年前のあの事件から昏睡状態が続いており、目覚めの兆しは未だ見えていなかった。

 二課はシンフォギアを身に纏う装者として立花響に協力を求めた。

 それは戦いの中に身を投じる覚悟を問うもの。生半可な気持ちでは決め兼ねぬものであった。───しかし、当の響はあっさりと協力を承諾した。

 天羽奏から受け継いだものは(シンフォギア)だけではない。想いだって受け取った。生きることを諦めない。生きることの大切さ。それを脅かすノイズを黙って見過ごせるわけがない。だから、戦うことに躊躇いはなかった。

 それにいつか行方不明となった未確認生命体第二号にライブ会場の御礼を言える機会が来るかもしれない。

 そんな期待があったから、どうしても聞きたいことが響の胸の内にはあったのだ。

 

「あの未確認生命体って何なんですか? すっごい強いし、なんか怖かったし……でも」

 

 私を助けてくれた……殺そうともしていたけれど。

 

「知りたいんです。第三号のこと。それに第二号───()()()()()()のことも」

 

「ッ───……」

 

 その名を口にすると、無言のまま壁を背にして佇んでいた風鳴翼が冷たい表情を崩して───悔恨が滲む表情を見せた。

 仮面ライダー───未確認生命体第二号。

 あのライブ会場の惨劇をほぼ一人で押し留めた紛うことなき英雄。彼の尽力が無ければ、あの場で戦っていた風鳴翼もあの場に残された立花響も、今もなお意識を取り戻さない天羽奏さえも確実に命を落としていただろう。血を吐きながら、命を削りながら、慟哭の叫びを響かせて、天災の如く強大な力を振るった黄金の戦士は───その後、行方を晦ましてしまった。

 彼は私たちの代わりに死んでしまったのだろうか。憶測で語るべきではないのだろうが、やはり、どうしてもそう考えてしまう。

 あの血を───あの苦しそうに叫んでいた戦士を思い出すと今も胸が締め付けられる。何の感謝も、何の謝罪も、何も言えていない。あの仮面の戦士に助けてくれてありがとうの一言さえ翼は言えていない。それが悔しくて、悲しくて───。

 あの時、私は何もできなかった。でも、それはきっと言い訳なのだろう。

 少なくとも、あの戦士は何かを為すために、命を尽きる覚悟で戦っていた。

 あれこそが、防人のあるべき姿なのではないか───。

 

「翼さん」

 

「大丈夫です」

 

 翼のマネージャーを務める緒川慎次の心配する声を制して、自分に向けられたキョトンとした響の視線を櫻井了子へと戻させるべく翼はわざとらしく咳払いをした。

 

「そうね。あなたには知る権利があるわ」

 

 櫻井了子は頷いた。

 腕を組んだままの風鳴弦十郎は気が乗らないような顔でしぶしぶ重たい口を開いてその言葉を告げる。

 

「未確認生命体()()()───世界で初めて『仮面ライダー』と呼ばれた飛蝗(バッタ)のような生命体を知っているか」

 

「え、えーと、名前だけは」

 

 響は曖昧に答えた。

 〝未確認生命体第一号〟───それは有名な都市伝説のようなものだった。知らない人はいないほどの知名度を誇る伝説の()()()()が未確認生命体第一号たる仮面ライダーである。

 世界情勢が安定していなかった頃、過酷な紛争地帯にバイクと共に現れて、パンチとキックで悪党を叩きのめし、困っている人々を救って回ったと言われるスーパーヒーローの都市伝説。後の第二号が仮面ライダーと呼ばれたのは先人たる第一号の面影を重ねたからであった。

 響も仮面ライダーについては興味があったので調べてはいたが、ソースは大体ゴシップ雑誌だったので、正確な情報は持っていなかった。ただ、第一号(それ)がこの世で最も純然たる正義を執行していたことだけはわかる。

 弦十郎は補足の必要があると淡々と語り始めた。

 

「今からおよそ八年ほど前、アメリカを中心にして、その姿が度々目撃されるようになったバッタあるいはイナゴのようでありながら極めて霊長類に近い特徴を持った謎の生命体だ。

 未確認生命体と呼称するしかないほど、前例のない生態をした第一号は世界各地の紛争地帯に現れては敵味方の区別なく戦闘行為の鎮圧を行い、ノイズによる被害が頻出した区域では出現したノイズをすべて破壊し、数え切れないほどの人命をその手で救った。一説では、第一号がいなければ国が四つ滅んでいたとも言われているほどだ」

 

「はぇー、すごいヒーローだったんですね」

 

 響の素っ頓狂な声音は未確認生命体第一号が成し遂げた偉業とも言える()()の規模の大きさに頭がついて行けていなかった故である。人助けが趣味である響にとって、それは到達すべき目標なのかもしれなかったが───ピンと来ない。

 それは響にだって、わかってしまうこと。

 誰もが不可能だと断ずるような聖人君子の善行を全うした未確認生命体第一号は如何なる力を持っていたのだろうか。きっと、手に余るほどの強さだったに違いない。何人たりとも寄りつかせない極限だったのだろう。───それは少し悲しい話だと思ってしまった。

 響が少し気難しい表情をしたことに気付いた弦十郎は感慨深く頷きながら続ける。

 

「未確認生命体第一号が()()()()()()と呼ばれるようになったのは米国で初めて目撃されてから一年もかからなかった。名前が定着するのが早すぎる。これがどうにも怪しくてな……どこかの秘密組織の陰謀説が実しやかに囁かれていたが、まさしく漫画や映画に出てくるスーパーヒーローのような行動をしていた第一号は、過酷な時代を生きる多くの人々の希望の星となっていたのも確かだ。誰もが第一号を正義の味方として信じて疑わなかった」

 

 そこまで話して、弦十郎は恥ずかしそうに頬をかいた。

 

「……かくいう俺も少し憧れていてな。まさに、映画(スクリーン)から飛び出してきたような男の中の漢! 人々の涙に立ち上がる正義のヒーロー! ───いや、男とは限らんのだが、まあ、とにかく、たとえ、その正体が人間でなくとも、そのような生き方ができるものは等しく尊敬すべき対象だからな」

 

 うんうん───と響は同意するように素早く頷く。

 

「だが、今から六年ほど前に第一号は突然、その消息を絶った。遺体は未だ見つかっていない」

 

「……第二号と同じですね」

 

「ああ」

 

 最後に目撃されたのは米国のとある研究機関───それ以降は未確認生命体第二号が日本に出現するまでは仮面ライダーという正義の英雄(ヒーロー)の名誉たる名は伝説となっていた。

 伝説───現実に現れた正真正銘の正義の味方。

 ただ、誰もその正体を知らない。人々のために戦い続けた仮面の奥は知られることなく───心底残念そうに溜め息をついた弦十郎の話を引き継ぐような形で了子が話し始めた。その口調はサッパリとしていた。

 

「当時、研究者の間ではね、未確認生命体第一号は何らかの聖遺物と人間が不慮の事故によって完全融合してしまった存在(もの)だと推測されていたの。でも、第一号が居なくなってから、世界情勢も一先ずは落ち着きを取り戻して、私たち研究者も本格的な研究が進められるようになってから、()()()()に第一号、そして第二号と類似した存在が描かれていることがわかったのよ」

 

「あるもの?」

 

「イラクの古代遺跡で発見されたイコンよ。とある完全聖遺物と一緒にね」

 

「……れんこん?」

 

「おいしいわよねぇ蓮根。からっと揚げても美味しいし、そのまま食べても美味しい。でも、残念。これはイコン」

 

「いこん? イコンって何ですか?」

 

「宗教画よ。教会によって色々と使い方が変わっちゃうんだけど……そうね、神さまや天使さまが描かれていたり、聖書にまつわるエピソードが絵になった大変ありがたい絵画だと思ってちょうだい」

 

「は、はぁ」

 

「まっ、実物を見てもらった方が早いかしら」

 

 いまいちな反応を見せる響に百聞は一見に如かずを実践させるべく、了子は手元の液晶ディスプレイを慣れた手付きで操作する。すると、響にシンフォギアの大まかな原理を解説するために用いられていた巨大なモニター画面が一枚の大きな絵に切り替わった。

 その時、はじめて立花響は聖像(イコン)が何たるかを知った。

 モニターに映し出された画像が聖像(イコン)と呼ばれる神秘に溢れた絵画だということは一目でわかった。美しいとか、綺麗とか、そういうものではない。ただ、目を奪われるほどの神々しさだけが伝わってくる。

 慈愛に満ちた母の如く温かな〝神〟と思しき()が遙かな蒼天に坐していた。彼を慕うように六枚の翼を羽ばたかせる七人の熾天使が並び、その下には様々な動物を模した天使が青空を覆っている。

 神々の時代───遥か天より大地を司る創造神によって支配されていた遠い(いにしえ)地球(ほし)。絶対なる神によって(もたら)される秩序。この聖像(イコン)が語るのは神代の平穏だったのかもしれない。

 神と人。

 天と地。

 その繋がりは終わりを迎える。

 聖像(イコン)は長方形───創世の物語は下へと続いていた。

 そして、立花響は息を呑んだ。

 彼女に芸術を嗜む趣味があるわけではない。絵画を批評できるほどの優れた感性を持っているわけでもない。神と天使が描かれているだけで尊ぶべき芸術なんだと鵜呑みするほどの知識しか響は持ち得ていない。

 なのに、立花響はこの聖像(イコン)を忌避すべきものとはっきりと断ずることができる。この聖像(イコン)は、この聖なる物語だけは別だ───。

 

 あまりに悲し過ぎる。

 

「了子さん、これ……」

 

「ええ。()()の画よ」

 

 はじまりは(いかずち)だった。

 神々の暮らす天より下───地上に築かれた大いなる塔は砕かれ、聖なる大地は引き裂かれた。それは神が人に与えた天罰のように見える。一体何が神々の逆鱗に触れたのかは定かではない。だが、その一筋の雷によって人間は果てなき怨嗟の妄執に囚われ、誰もが狂ったように殺し合っていた。

 引き裂かれた大地は業火によって焼き払われ、怒れる海は血で赤く染まる。

 それでも人間は争いを絶やすことはなかった。

 死屍累々と遺骸を積み上げる地上で憎悪に満ちた表情のまま武器を振るう。泣いているようにも見えた。叫んでいるようにも感じた。それでも人間は人間を殺すことをやめなかった。混沌とした戦争の渦中にはノイズのような異形の生物も見られた。人類の共通の敵───それがノイズであるはずが、聖像(イコン)に描かれた人間は決して殺人の手を緩めることはなかった。

 なんで、どうして───?

 誰もが光を失った。生命(いのち)を奪い合い、死の感覚に溺れて、心を捨て去った。それこそが神の呪いであると語るように……。

 

「遠い昔、神々の時代、傲慢な人間の蛮行に激しい怒りを覚えた神々は裁きを下した。それは言葉の喪失。言葉を失わせることによって争いを生ませたの。人と人が互いを理解できずに殺し合う───そんな天罰を人類に課してしまったの」

 

 了子は淡々と説明した。その表情はどこか暗い。

 

「でも、神に仕える熾天使の内の一人が神を裏切った」

 

「裏切っ……た?」

 

「神は人類が速やかに滅びることを望んでいたの。でも、その熾天使は人間を哀れんだのでしょうね。自分の中にある神の力を人間に与えてしまったのよ」

 

 それはこの聖像(イコン)における()()の〝光〟であった。

 絶望という闇に染まった悲しみの連鎖を断ち切るべく、天に仕える熾天使と大地に生きる人間が手と手を伸ばし、明日(みらい)を紡ぐ希望の光を掴み取らんと───新たなる生命(いのち)を芽生させた。

 

「そうして、神に等しい力を得た者が生まれたわ。(はじまり)(おわり)の名を冠する〝AGITΩ(アギト)〟が───神をも超越する不浄の怪物が。

 ……これが未確認生命体第一号と第二号。ね? 似ているでしょ、仮面ライダーに」

 

 そこには()()()()()が描かれていた。

 灼熱の炎に包まれた真紅の体躯を持つ戦士(アギト)

 朱の翼で禍々しい風を巻き起こす虫襖の鎧を着た戦士(アギト)

 絶望に染まる大地───姿形がまったく異なる二人の戦士(アギト)が血と死が蔓延する世界を光で満たさんと君臨する。なんて雄々しいのだろうか。天に坐す神に等しい神秘なる風貌は聖像(イコン)で輝きを放っていた。

 だから、聖像(イコン)は語る。

 言葉ではなく───想いで。

 (アギト)とは、願いであったのだろう。祈りであったのだろう。いつか人間は分かり合えると───殺し合わずに生きていけると、切なる想いが込められて、熾天使の祝福を授かった人間(ひと)(アギト)へと姿を変えたのだ。

 

 だが、聖像(イコン)に描かれた二人の希望(アギト)は───……。

 

「どうして、戦っているんですか?」

 

 二つの(アギト)は戦って───殺し合っていた。

 聖戦(たたかい)があった。

 殺戮という狂気に彩られた世界を救済するわけでもなく、己に宿った光さえも信じられないと、悲しみに暮れた憂いの心を殺意へ変えて───二つの(アギト)は破滅を望んだ。

 祈りは届かなかった。

 人間は(アギト)を手に入れても、分かり合えることは永遠になかった。

 それが世界の哀れな終末であった。

 

「人間には過ぎた力だったのよ。神の如き力なんてものはね」

 

 櫻井了子の言葉はどことなく皮肉めいた口調だった。

 

「アギト……」

 

 響は小さな声でその名を呼んだ。

 聖像(イコン)の中で拳を振り上げる二人の戦士(アギト)は確かに彼女が知る第二号の姿によく似ていた。飛蝗(バッタ)と酷似される第一号の特徴もあっているのだろう。でも、立花響には信じたくないものであった。

 彼女は仮面ライダーを見た。

 二年前のライブ会場の惨劇で───黄金の(アギト)を見た。

 優しい光だった。響が知るとある青年の笑顔のように温かい光だった。それが暴力に訴えることしかできない闇に変わるなどと───思いたくはない。

 アギトは───悪いもの?

 でも、私は───私……?

 思わず、響はその場から立ち上がった。机の角に膝をぶつけるほどの勢いで。

 

「痛ッ⁉︎ じ、じゃなくて、私、あの蛇の、えーと、ロードノイズ? に『おまえはアギトにちかい』って言われました!」

 

 その言葉に一同が目を見開いた。

 

「何ッ⁉︎ それは本当か⁉︎」

 

「翼ちゃんと同じね」

 

 風鳴翼は黙ったまま眉に皺を寄せた。

 

「装者はアギトになる可能性が高いのかしら? それとも聖遺物を用いたシンフォギアのシステムがアギトと似ている? ……謎は深まるばかりね」

 

 興味ありと目を爛々に輝かせる了子───響は話の腰を折ってしまったと申し訳なさそうに訊いた。

 

「あのー、アギトって、結局、何なんです?」

 

「人類が進化したものよ。神の力によってね」

 

 さも当然のようにそう答えた。

 

「まあ、これはあくまで伝説。出所も怪しい神話よ。深く受け止めないでちょうだい」

 

「ええっ⁉︎ もう無理ですよ! ───って、アギトに近いって、もしかして私、なんか変わっちゃってます⁉︎ そういえば最近、体重が増えた気が……!」

 

「大丈夫よ、大丈夫。アギトに関しては謎も多いけど、史実上では未だ確認されていないわ。第一号と第二号を除いてね」

 

 良かったぁ〜───と安堵の声を漏らす響だったが、その時、ふと不思議に思ってしまった。なぜ、私は今、アギトではないことを喜んだのだろうか。この画に描かれたアギトのようになりたくないから? 人間でありたいから? 人間? アギトはもう人間とは別のものなのだろうか?

 恐らくは響が抱いた形容のしようがない疑問を察した了子は聖像(イコン)の話を続けた。

 

「アギトはもう人間ではないのよ。少なくとも生物学上では人類に属するものではなくなるでしょうね。人類よりも遥か上位の存在なのだから、もう人間とは呼べないわ。

 それにアギトに成れなかった者はその姿を恐ろしい獣へと変えたの。それが〝ネフィリム〟───あなたが知りたがっていた未確認生命体第三号よ」

 

 了子は聖像(イコン)の中で尚も繰り広げられる憎悪に満ちた争いの渦中で人間とは全く異なる怪物が跋扈している箇所をズームして見せた。それはノイズですらない。まさに(バケモノ)───大顎で人間を喰らい、同族すら喰いちぎる、暴食の欲望を余すことなく発散させている怪物は二つに隔たられた大地の双方で至る場所に存在していた。

 これが神の力を抑えられなかった異形の怪物。天が与えし光を闇に変えた戦士(アギト)のなり損ない───堕天の獣(ネフィリム)

 これがあの第三号───?

 にわかには信じ難い話であった。確かに響の目の前に現れた第三号も節度を弁えぬ肉食獣のようにロードノイズを喰らおうとしていた。だが、それでも彼は、ずっと、ずっと───。

 

「で、でも、私が見た第三号とは全然違いますよコレ! もっとシュッとしていて、なんかこう、人間っぽいカッコいい肉体(カラダ)していました! それにあのヘビみたいなノイズは第三号のことを『ギルス』って呼んでいました! ネフなんとかって一回も呼んでいませんでしたよっ」

 

 どうして、こんなに熱くなっているのか、響は自分自身でも不思議で仕方がなかった。あの第三号は私を殺そうとしていたのに───どうして、こんなにも胸が苦しくなってしまうんだろう?

 必死に弁明するような熱が籠った響の言い分に了子は顎に手を当てて悩む素振りをした。どう()()()()()納得してもらえるか───そんな風に考えているわけではないのだろうが、響はどこか一抹の不安を覚えた。

 そこに思わぬ援護が入る。

 

「それなら私も聞いたことがある」

 

 口を挟んだのは意外にも翼だった。絵に描かれた怪物を第三号と認めたくなかった響に加勢したわけではないが、ネフィリムとギルスの違いは気にはなっている様子であった。

 

「確かにロードノイズは第三号のことを頑なにネフィリムではなくギルスと呼んでいました。この二つに何か違いがあるのですか」

 

「んー……現状では何もわからないわね。そもそもギルスなんてものはイコン画には描かれていないし、遺跡の文献でもギルスなんて言葉は見当たらなかったわ。そうね、ネフィリムの一種と今は考えておくべきかしら」

 

 結論は曖昧であったが、聡明な研究者である櫻井了子に異を唱える者などこの場にはいなかった。

 それでも響は認めたくなかった。あるいは、信じてみたかった。

 未確認生命体第三号───あれは人間の慟哭であった。

 人間と獣の狭間で踠き苦しむ異形の戦士は立花響を殺めようとした。だが、彼に宿った人間の心が殺人を踏み留まらせたのではないか。そして、第三号は人間としてロードノイズの魔の手から響を救おうとしたのではないか。考えすぎだろうか。都合の良い解釈だろうか。

 

 でも、でも───あの人は泣いていた。

 そんな気がした。

 

 風鳴翼と死闘を繰り広げていた時は───まるで、泣いているような叫びに聞こえた。()()()()()()と涙ながらに叫んでいた。それがたまらなく苦しそうだった。

 響はなんだか自分でもよくわからなくなって、逃げるように聖像(イコン)を見つめた。

 その後の聖像(イコン)───荒れ狂う大地を浄化すべく、熾天使の力によって大きな洪水を起こし、アギトやネフィリムもろとも深い水面の底へと封印した。これが創世の物語───世界の終末。

 やがて、深い呼吸をした響は最後の疑問を口にする。聖像(イコン)の全貌を目に焼き付けた時、真っ先に感じた深い悲しみは絵画の一番下───その最後にあった。

 

「どうして、この人たちは泣いているんですか?」

 

 それは神秘に満ちた聖像(イコン)の終わり───神々の時代が血で血を洗うような壮絶なる終末を迎え、熾天使による大洪水が新たな世界が切り開いた遠い未来の物語───謂わばそれは現代。

 今この時を生きる響たちの世界。

 方舟によって救済された夫婦(つがい)の聖徒を始祖とする今や七十億を超える人々の時代。聖像(イコン)が示す現在(いま)という物語。

 現代(ここ)神の力(アギト)は存在してはならない───予言めいた聖像(イコン)が語る疑わしき真実。

 

 アギトは滅びる。

 人間の手によって。

 

 美しき虹色の翼を羽ばたかせた乙女のような天使が九人───泣いていた。

 天使は真っ白な衣を身に纏い、それぞれが異なる武器を携えて、涙を流して憂うように儚い空を舞っている。その中で一人だけ武器を持たない天使は腕の中で安らかに眠る黄金の戦士(アギト)を抱き締めるように泣いていた。

 彼を偲ぶように九人の天使のような乙女は涙を流していた。

 それはきっと、そう遠くない未来(あした)───。

 いずれ、来たる悲劇の物語。

 

 

 

***

 

 

 

「はっくちゅん」

 

 ───なんだ、その可愛いくしゃみは。

 

 やめてよ。結構、気にしてんだからさ。

 

 ───いつも発狂してるから、ものすごい違和感があるな。

 

 その言い方だと、まるで、俺がSAN値ピンチの永続的な発狂しているヤヴァイ人みたいじゃないか。

 

 ───発狂スイッチ〝は〟

 

「は───ば、バガモンはいいやつだったのに……バガモオオオオオオオオオオオオオオオオオオン⁉︎(お好み焼きをひっくり返しながら) アッ(熱い汁が顔面に当たる)熱ッッッ───盛ィィィィィッ‼︎(拳を天に掲げる)」

 

 ───(腹抱えて笑ってる)

 

「ね? 翔一さんって、面白いでしょ?」

「面白いけど、ヒナの好みって、なんていうか、独特なんだね」

「なんか意味不明なギャグアニメから飛び出てきたみたいね」

「あれって独り言なんですか? 何かしらの電波拾っていませんか?」

 

 なんかあっちの席で未来ちゃんが連れて来たJK三人娘に笑われながら悲しい評価を下された気がする。泣けりゅ……と、見せかけてかーらーのぉー?

 

「HEY! お好み焼き大回転!( ∫՞ਊ ՞)ノ<イツモヨリマワッテオリマス!」

「すごい! お好み焼きがヘラの上でピザみたいに回ってる!」

「すごいけど、津上さんの顔がうるさくて集中できない!」

「ちなみに回す理由は」

「ご ざ い ま せ ん(※食べ物で遊んじゃいけません。マネしないでね)」

「正座」

「はい」




※オリ主はイコン画とか第一号とか知りません。

○原作とのネタバレイコン画の違い。(つまり下記に記されていないものは原作と大体同じ)
 絵の上から順に補足
・人間vs人間なのでマラークさんはお空でステイ
・人と家畜の絵は塔が雷に壊されてる絵に変わってる
・二つに分かれた大地で人間さんが殺し合ってる
・大地はどこもかしこも燃えてるし、草木は一切残っていない
・ノイズたんイコン画に参戦
・ギルスっぽいものの代わりにネフィリムたん(犬みたいなやつ)がわんさか
・真ん中の海は赤い(あんまり気にしないで)
・どこぞのエルと女性がピカーンしてる真下で赤と緑のアギトが殴り合ってる
・裏切り者のエルは粛清されていないのでピカーン後には落ちてない
・で、洪水と方舟(海が青くなる)
・四体のエルが羽根をもがれて落ちているが、その内一体だけ羽根がもがれていない(ここほんへでまったく書けなくて申し訳ない)
・洪水後に歩み続ける人類の代わりに羽の生えた天使(?)が9人泣いている
・そのうちの一人がぐったりとしたアギトっぽいものを抱きかかえている
 ・・・以上です。勘のいい(ry
(このネタバレイコン画はあくまで本作品を楽しむにあたってのフレーバーとして味わっていただければ幸いです)


Q.未確認生命体第一号って何?
A.一年ぐらい前にオフ会開いてたやつ
Q.未確認生命体第一号って誰?
A.みんなもうわかってんだろ?そゆことやで
Q.二人のアギトって何?
A.蝗害と火災
Q.9人?
A.9人(真顔)

タグに一切の偽りはない
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