仮面ライダーだけど、俺は死ぬかもしれない。   作:下半身のセイバー(サイズ:アゾット剣)

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時系列は過労編のどっか(曖昧)
一次創作書いてたら投稿が遅くなってたとか口が裂けても言えないでやんす。


♯.ボーナストラック - 買い物

「デートに行きます」

 

 確固たる意志を宣言するかのように小日向未来は花の咲いたような笑顔を向けた。

 六畳間の一室で洗濯物のパンツを恥ずかしげもなく物干しハンガーに吊るしながら津上翔一は少女の言葉にほっこりと微笑んだ。

 

「そうなの? いってらっしゃーい」

 

 千切れ雲が快晴の空に浮かぶ日曜の朝──洗濯日和の休日を迎えて翔一の顔と脳は(たる)んでいた。洗濯が終わればお昼寝でもしようか。それとも甘いお菓子でも作ろうか。日夜繰り広げられる災害(ノイズ)との熾烈な業務は彼に細やかな現実逃避をさせるまでに至っていた。

 脳内がお花畑な青年(バカ)に真意を伝えるべく、未来は語気を強めて先程の宣告を繰り返した。

 

「だから、デートに行きますよ、翔一さん」

「だから、いってらっしゃ──ん? もしかして俺もかい?」

「今日はアルバイトお休みなんですよね」

「そうだけど……誰からその情報仕入れたの?」

「ふふふ」

「いま笑うとこあった? なんか怖いんだけど」

「逃げられませんよ」

「逃げる必要がある案件なの⁉︎」

 

 可憐な微笑を浮かべる未来に一抹の不安を感じて(おのの)いていると、背後からひょっこりと立花響が顔を覗かせた。しまった後ろに伏兵だ──!

 

「ふらわーのおばちゃんからのリークです! さっき教えてもらいました!」

「俺のプライバシーはどこいっちゃったの」

「南の島でバカンスにでも行ってるんじゃないですか?」

「俺も連れてって欲しかったなあ」

 

 翔一が夢の南国リゾートに思いを馳せている隙を突いて、響と未来は左右に回り込み、彼の両腕にがっちりとしがみついた。

 

「確保ー!」

「確保」

 

 女子中学生に捕獲された。

 恐らくだが、理不尽かつ不当な確保であった。

 

(JCに身柄を拘束される俺ってなに……?(哲学))

 

 誰にも答えられない問いであった。

 

「とにかく、デートに行きます!」

「行きますって、もうあからさまに拒否権が無いのね」

「はい! 決定事項です!」

「翔一さんが失っているものはプライバシーだけじゃありませんから」

「そんなに深刻なもの奪われてんの俺?」

 

 果たして彼に社会権は残されているのだろうか。ちなみに労働基本権は言わずがもな、生存権も根こそぎもっていかれた。彼だけ時代観が古代ローマの奴隷である。

 

「荷物持ちならお安い御用なんだけど……。ちょっと待ってね。いま頭ん中でGサミット開催すっから」

「どういう意味ですかそれ」

「あんまり気にしちゃダメだよ響。基本的に翔一さんは意味不明なんだから。内容がおかしいインド映画みたいな世界観に引き込まれるよ」

「なにそれ怖えよ。俺がいつダンス踊ったのよ、未来ちゃん」

「隙あらばいつも踊ってません?」

「…………」

 

 翔一は目を閉じて黙秘した。

 二人の俗に言うジト目が刺さる。

 

(え、エルさーん! 俺は別に踊ってな──じゃなかった。俺はJCが展開する百合の生得領域に踏み込んでも大丈夫ですかー⁉︎ 原作ファンに刺されませんかァー⁉︎ 俺なら刺してまーす!(自己申告))

 

 津上翔一という青年の肉体には、偉大な神の御使いたる三体の熾天使(エルロード)が住み着いている。何の目的あってかは不明であるが、彼らは津上翔一に惜しみない助力をしている。時には戦闘の助言を。時には労働の催促を。時にはネチネチと小言を──いや全部小言じゃね?──気付いてはならない事実に目を背きつつ、翔一は暇を取る許しを得るために彼らを呼んだ。

 火のエル。地のエル。風のエル。

 万物を構築する四大元素を司り、(あまね)く生命の頂点に君臨する究極の存在が凄まじい威圧を放ちながら翔一の脳内に降り立った。

 

 ──おのれ火のエル! 初手でだいまっくすは無粋ゆえに辞めよとあれほど申したであろう⁉︎ 貴様の耳は飾りか!

 

 ──地のエル、汝のぱーてぃに我のえーすばーんを止められる物の怪はおらず。素直にすかーふかぶりあすを後出しすることだな。

 

 ──みみっきゅを……! らぷらすを見せておいて……! 選出できるものか……‼︎

 

 ──ならば、我はだいじぇっとを迷うことなく連打するのみ!

 

 ──火のエルぅぅウウウ‼︎

 

(いや、人の頭ん中でポケ○ンバトルすんな)

 

 今日も熾天使(ラスボス)たちは仲良し(皮肉)で元気であった。

 

 ──我らに構わなくても良い、アギトよ。

 

(おお。話のわかる風のエルさん!(※当社比))

 

 ──次は大乱闘すま○らである。我のめておが猛威を振るう。

 

(別にゲーム内容にケチつけてるわけじゃないです。それでいいのか天使の威厳ってことです)

 

 ──あと汝は暇さえあれば踊っているぞ。

 

(答えなくていいこと答えるのは嫌がらせですか)

 

 問答とすら言えないほどの短い会談を終えて、翔一は呼吸を整えた。

 どのような因果律かは皆目検討もつかないが、どうやら今日は誰もが等しく休暇(オフ)の日らしい。

 響と未来に掴まれた両腕をぶんぶんと揺さぶられながら、津上翔一はしばらく短慮な思案を繰り返して、結論を絞り出した。

 

「洗濯物だけ干していい?」

「手伝います」

「私もー!」

 

 

***

 

 

 てなわけで──ショッピングモールなう。

 

 千差万別の小売店が延々と両側に並ぶ道に溢れんばかりの人々の喧騒が響いている。

 商品棚に陳列された目紛しい物品の数々。ガラスの向こう側に佇む洒落た服装のマネキン。鼻腔を(くす)ぐる甘美な香りは子供の手に持つアイスクリームから漂っていた。

 なんかテンション上がるよね、こういう場所って。

 和気藹々と買い物を楽しんでいる雰囲気は元からけっこう好きな部類だ。スーパーの安売りセールとかは主婦による殺伐とした空気があって、ご遠慮したいけど、ショッピングモールはそーゆーのあんまり感じないので心和やかに買い物を楽しめるよね。

 

 物欲を煽られる目紛(めまぐる)しい量のお店。行き交う人々の幸せそうな声。

 これぞ人間の営みなんだなって感じがする。交易という手段を得たのは人類ぐらいだもの。盛んな商いが行われている場所にいると、ついつい財布の紐も緩んでしまうのも必然でしょう。

 頭を空っぽにしてぶらぶら悠々自適に歩いていると、気付かぬうちに興味もない店の中へ吸い込まれるように入ってしまったりするものだ。とりあえず店内を散策して、何事もなく退出するか、まったく新しい出会いを果たすか──あるいは、特売セールと書かれたワゴンに乗せられた在庫処分の物品から宝物を掘り出し、深く考えることもせず、幻惑されたかのようにレジに持っていってしまい、しばらくしてから「あれ?俺なにしに来たんだっけ?」と自問自答しつつも握り締めたびっくりチキンを鳴らす時もある。

 

 ──それ汝だけでは?(火のエル)

 

 鋭い指摘が飛ぶが、節約の達人たる俺は動揺しない。

 火のエルさん、これは例えです。例えばの話ですよ。どこの層の需要を満たしているかも不明瞭な(たぐい)の商品を俺が購入するわけないじゃないですか。お買い物に関しては常日頃から財布の紐を固くしているんです。節制ですよ。貧乏人の社畜なら当然のことです。

 

「翔一さん、その鼻メガネは何ですか」

「これはアレだよ、未来ちゃん。男の目元の冷たさと優しさを隠すためのアレだよ」

「アレってなんですか。というか目元じゃなくて鼻しか隠れてませんけど」

「じゃあ、男の鼻の冷たさを隠してるんだよ。寒いと真っ赤になるじゃん? アレだよ」

「今そんなに寒くありませんけど」

「男の心にはいつだって冷たい風が吹いているのさ」

「鼻関係ありませんね。だったらそのメガネはやく外してください。こっちが恥ずかしいです」

「え〜」

「返事」

「はい」

 

 くっ……JC393に逆らえない……‼︎ しぶしぶながらも鼻メガネ(税抜500円)を外すが──この笑いを取ることに異常な情熱を捧げる翔一さんが黙って従うと思わない方がいいぜ、未来ちゃん!

 鼻メガネを外したら、そこには陽キャ御用達(※自社調べ)の星型の鼻メガネが! 隙のない二段構えだZE! さあ、百合夫婦よ、震えて眠れ!(←???)

 

「ふははは、残念ながら二枚重ねだ!」

「…………」

「しかも、ここのスイッチを押すとLEDが発光する! おおっとボタン電池は忘れるなよ?」

「翔一さん」

「これで突然のお誕生日パーティーにも難なく参加できるぜ! HEY! 海・老・バ・リ! 社ッFULLしよう世・界! だって人生はイッ──」

「ここで正座します?」

「……はい。マジすんません。調子のってました」

 

 三色に輝くスターな鼻メガネ(税抜800円)を外して、俺は今度こそ素顔に戻った。一瞬だけ未来ちゃんの背後にアーク様が見えたのは気のせいだろう。じゃないと俺がヘルライジングにコンクルージョンしてしまう。

 

「翔一さんって、絶っ対、将来尻に敷かれるタイプですよね〜」

 

 隙のない隙だらけのダブル鼻メガネでこっそり腹を抱えていた響ちゃんが個人的には頷き難いことを言った。

 ダニィ⁉︎ 俺がそんな情けない男に見えるってのか⁉︎ それは納得キャンノット! 日本男児の皆はSAMURAIの血を引き、HOMAREの高い益荒男の素質を備えているんだ。女に尻を叩かれるようなヤワな男などこのジパングにはおらぬ! そうだろエルさん⁉︎ 言ってやって下さいよ!

 

 ──知らん。(エルロード一同の意見)

 

「響、この人は少しでも目を離すと星の彼方まで暴走するから、尻に敷かないとダメなんだよ」

「うへえ、大変だぁ……私にできるかな?」

「大丈夫。二人ならできる」

 

 何を二人してコソコソしているのか知らないが、とにかく俺は女の子にヘコヘコして頭が上がらないような安い男ではないのだ。いやマジマジ。ワタシウソツカナイ。

 

「フッ、この俺をコントロールできるレディなんて、宇宙のどこを探してもいやしないぜ」

「安心してください! 二人で縛りつけるので大丈夫です!」

「逃しませんから。安心ですね」

「今のどこに安心できる要素が?」

「将来ですかね」

「将来ですね」

「俺には暗黒の時代しか見えないよ」

 

 なんだろう。俺は永遠にこの二人にこき使われるのだろうか。百合夫婦のパシリか……なんか怖えな……そこには就職したくねえな……(遠い目)

 こうして、俺はJCカップルに両脇をがっちり固められた。腕を組まれるというか体格的にはしがみつかれる感じである。oh……なんというカルマ。男としては嬉しいっちゃ嬉しいけれども、これは間違いなく地獄行き快速急行の片道切符である。ブッタも笑顔で中指を立てるレベル。こりゃ来世はハエとかダニとかに生まれ変わりそうだ。百合に挟まる男を体現してしまった罪深き社畜をどうかお許しくださいと祈るばかりである。いや、ここにもろ天の御使い居るけどそういうの絶対聞き入れてくれるタイプじゃないから……。

 

 ──左様。(火のエル)

 

 こいつらやっぱり天使つーか悪魔では???

 

「なーんで翔一さんそんな嫌な顔してるんですか。虫さん踏んじゃったみたいな顔してますけど」

「踏んづけられた虫さんの気持ちになってんの」

「じゃあ元気になるまで楽しみましょう!」

 

 いくら徳を積んでも取り返しのつかない原罪(ギルティ)に絶望している俺をぐいぐい引っ張って、響ちゃんと未来ちゃんは日曜のショッピングモールを愉快そうに進んでいく。

 休日ということもあってモール内は大勢の人たちで混雑している。ワイワイガヤガヤと皆さんエンジョイしている。なのに俺は一人でくわばらくわばらとスーパー懺悔タイム。いっそのこと刺してくれ。

 

 しかしだ。

 まさに両手に花と言えるこの状況を勘違いしてはいけない。

 俺はあくまで二人のデートの付き添いなのだ。彼女たちはまだ中学生。二人きりで遠出するには色々と危惧せねばならない現代社会だ。そこで白羽の矢が立ったのが暇そうにしてた社畜というわけである。謂わば俺は保護者の代理。響ちゃんと未来ちゃんが健全にイチャイチャするのを陰ながら見守るのが役目。おお。そう考えると役得って素直に思えるようになってきたぞ。へへ、俺はじめて転生して良かったと思えてるかも……!

 いやいや、だからこそ、しっかりとしなければ。気を引き締めろ。我大人也。我百合尊也。我無也。我百合間挟空気也。我空也。百合最高也。非我。百合万歳也。なんか変な方向に解脱しそうになってきた。ブッタが俗世にカンバックって言ってる(幻聴) これアレだ。わっかりにくいけど無我の境地(笑)が発動しかけてるわ。あぶないあぶない。戦ってる最中はいいけど、日常で発動するとマジで気持ち悪いからねアレ。脳味噌ぐちゃぐちゃされてる気分よ。あーやだ。きもちわりゅい。

 

「翔一さーん?」

 

 響ちゃんが俺の横顔を至近距離でまじまじと見上げていたので、何事かと目線を向けると、響ちゃんの大きな瞳に俺の無我ってる残念な顔が映る。やだ瞳孔ひらいてるわ。死人みたい(小並感)

 すると、ぼふんっと噴火の音がしそうな感じで響ちゃんの顔色が茹で上がった。

 

「せ、セクハラですよ⁉︎ そんなカッ──顔してちゃダメですッ!」

 

 ??????(宇宙ネコ爆誕中)

 

「その顔で歩かれたら大問題なんです! 大・問・題‼︎ 鼻メガネの方がまだマシですよぉ!」

「それかなりキツめの悪口ストレートに言ってない? もうちょっと間接的に言おうぜ響ちゃん。俺のHPがいくら高くても、ザラキは平等に一発なんだよ」

「い、いやその決して悪口とかじゃなくて……えーと、うーんと、し、翔一さんはふやけたフライドポテトみたいにヘラヘラ笑っていないとダメなんです! お外でキリッとした顔しないでくださぁい‼︎」

「……? よくわかんないけど、とりあえず、ふやけたポテトはヘラヘラではなく()()()()では?」

「それじゃあ()()()()笑ってください」

「おっと自分で難易度上げてしまった。へなへな笑うってどうすりゃいいの? どう表情筋を動かせばいいの? どっかに参考資料ない? あっもしかして──こうかな(^U」

「ストーップ‼︎ そのままだと何かよからぬものが生まれちゃいます! 勘ですけど無性に腹立つ気がしますっ!」

 

 俺の内なるニイサンを過敏に察知した響ちゃんは悪しき笑顔(スマイル)が顔に現れる前に、俺の頬っぺたをぺちぺち可愛らしく叩きはじめた。どんな止め方だよ。いやでも待てこれは……‼︎ 少し背伸びをしながら手を上げる発育の良い女子中学生との密着具合は──……お巡りさん、わたしです。わたしが……やりました。(諦観)

 社畜(おれ)中学生(ビッキー)の法的に危うい濃厚接触を真横からちょっと怖い顔で見つめる未来ちゃん。やっべ天罰が下る前に393にムッコロされるやつだこれ。しかし、未来ちゃんは額を押さえてやれやれといった感じで小さな嘆息をつくばかりだった。

 

「イケメン、高身長、筋肉質。三拍子揃ってるのに本人が無自覚すぎるのはなんでなんだろう……」

 

 残念な人物(もの)を見るような呆れた顔で何か呟いた様子だが、巨大なモール内は常に人々の喧騒で賑わっているため、俺のクソザコイヤーが捉えることは叶わなかった。だが安心してほしい。俺はデビ○マン顔負けの地獄耳をお持ちである上司の方々に直接聞くことができる。有能な上司の靴を舐めて、難聴ラノベ主人公と差をつけろ!(他力本願)

 エルさぁーん(媚びを売る声) 未来ちゃんはぃまなんて仰ってましたかぁー? ゥチわぜんぜんきこぇなくてまぢ無理ィ……このとしでぇゥチわもぅ難聴ってコト……ぃまから手首を斬る……烈火抜刀、勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く! ぶれいぶどらごおおおん! あっ逆だったわこれ。

 

 ──汝は一度、然るべき修行を受け、煩悩滅却の(のち)に悟りを開くべきではないか。(風のエル)

 

 んなっ⁉︎ 堪忍してくだしゃい‼︎(脳内土下座の構え) 拙者から煩悩を取り上げたら何が残るんです⁉︎ カレーライスから具とルーとライスが消えたようなもんです! ……ただのお湯じゃん‼︎(セルフツッコミ)

 

 ──あの娘も汝のことを莫迦(ばか)だと申しておる。(地のエル)

 

 おいおいJCにもいよいよ勘づかれちまったのか……! 翔一さんの威厳が消えちまうぜ!(最初からない) 果たして俺が有能であることをアピールする機会は今後あるのでしょうか⁉︎ うん。多分ないなこれ!(謎の確信)

 でも、響ちゃんの難解なクエスチョンに的確な回答を提示しないと即おバカ認定されるのは難易度が高いと言わざるを得ない。東大生100人に訊いてからやってほしい。誰も答えられないでしょ? 外出時には真面目な顔しちゃダメって何の謎かけですか? 俺の顔面は違法建築か!(?) ちなみに響ちゃんと未来ちゃんに俺ができる男だと感じさせるような汚名返上のチャンスはありますか?

 

 ──もう無いだろうな。(火のエル)

 

 PIEN☆

 

「あーっ! その顔、そのマヌケな顔がイイです! そのなんか妙に腹立つアヒル口とかちょっと白目むいた変顔が絶妙な塩梅ですよ! これならライバルも増えません」

 

 なんのライバルだよ。変顔してくるライバルでも彷徨(うろつ)いてんの? 目と目があったら睨めっこバトルしてくる奴でもいんの? 何番道路なのよここ。いいよ。かかってこいよ。おじさん負けないぞ。こちとらニーサンとダディーヤナザァーンが取り憑いたように迫真の表情を再現できんだからな! ──って、そういうワケじゃないよね、たぶん。

 んまあ、イマイチよくわかんねぇけど、響ちゃんが喜んでっからいっか(思考放棄)

 

 

***

 

 

 CDショップ。

 一応『戦姫絶唱シンフォギア』ってバリバリの近未来の物語で、大体の人はCDとかじゃなくて携帯端末とかにダウンロードするってのが主流なんだけど、やっぱり手に残る現物は他の何物に変えがたい良さがあるものだ。

 俺そんなに音楽嗜まないけど──と、今季の売上ランキングと書かれた小棚から適当にCDを取って、パッケージを一通り見た後、元に戻すという行為を繰り返す。うーんよくわからん。おじさん若い子の流行りとかについていけてないわこれ。いまEXI○Eが何人いるかも知らないしね。

 すると、背後から未来ちゃんが不思議そうに顔を覗かせた。どうやら一連の行動を見られていたらしい。

 

「翔一さんは何か好きな音楽とかあります?」

「長○剛とか玉○浩二とか?」

「おいくつですか」

 

 伝わったことにビックリしたわ。いたのかよ、この世界に長○剛と玉○浩二。

 意外と元の世界の知識が通じる時があるんだよな。やっぱり異世界っていう立ち位置よりも並行世界っていう考え方のほうが合ってるんかな? バイクとかのメーカー割とそのまんまあるし……まあいいや。俺そもそも前世の記憶すら無えし。

 

「よく知らないんだよね。流行りの曲とか。ツヴァイウイングぐらいしかわかんないもん」

「はいはーい! だったら私が教えますよっ!」

 

 元気よくぴょんぴょん跳ねる響ちゃんが商品棚から一枚のCDを手に取った。

 

「これはアメリカ出身の歌姫のなんですけど、姉妹でそれぞれデビューしてから今すっごく注目されてるんです! 姉の方は力強くてハキハキとした歌い方で、妹の方はアイドルみたいに優しくて可愛い歌い方をするんですよ!」

「へえ〜」

「でも、たまに感じる切なさというか、哀愁のこもった歌声というか、死に別れた想い人のために歌った曲なんて聴いてたら、もう涙ぽろぽろ出てきちゃいますよっ!」

「あ。松任○由実あんじゃん」

「聞いてます⁉︎」

「だから翔一さんおいくつなんですか」

 

 失敬な。心は永遠の六歳児だぞ。

 

 

***

 

 

 ゲームセンター。

 大衆の娯楽を満たす騒音に溢れ返った場所になら、詳細の知れない前世の記憶にガッチリ当てはまるような筐体の一つぐらいは、未来の世界であれ、どうにか残っていないものかと薄っぺらい望みを抱いていたら──。

 

 〝モグラたたき〟

 

 あったわ。

 すげえな。電子マネーが浸透した近未来の時代観で、硬貨一枚でひたすら叩き殴られることを甘んじて受け入れているのかおまえ。こんなに傷だらけになって……ちょっと泣きそうになった。求められているんじゃなくて、そこにあることが大切なんだよね。ありがとう。なんだか勇気をもらった気分だ。俺明日もがんばるよ。お互いに頑張ろうな……。

 

「未来、なんで翔一さん、モグラたたきを熱く抱き締めてるの?」

「ノスタルジー感じてるんじゃないかな」

 

 JCの残念なものを見る目が背中に刺さるぜ……!

 

「翔一さんエアホッケーしましょう!」

「うわっなんて懐かしい響きなんだエアユッケ」

「エアホッケーです。ユッケをエアで食べても虚しいだけですよ」

 

 未来ちゃんの正しいツッコミを受けてから、俺たちは台の配置につく。響ちゃんと未来ちゃんの百合夫婦のペアと対峙するは翔一さんことぼっちライダーである。……ちゃうもん。俺には心優しい上司が三人もついてるから独りじゃないもん! 別にロンリーじゃないもん! エルさん俺たちはズッ友だよ!

 

 ──それは嫌。(火のエル)

 

 な ん で や ね ん。

 

「二対一でも本気でいきますよー!」

 

 響ちゃんは楽しそうにマレット(パックを打つやつ)をぶんぶんと掲げる。

 なるほど。たしかに人数の差は純粋な戦力の差に直結する。たとえ二つのマレットを両手で使ったとして、思考と判断を下す脳が二つに分裂してくれるわけではない。二人で分担する場合に比べて、確実に反応の速度に違いが生まれてしまうのは必定である。

 ならば、俺がすべきことは開いてしまった戦力差を別の要素で埋め合わせることだ。難しいことじゃない。俺が日々の戦いで会得した力の一端をお見せしようではないか──!

 

「……⁉︎ こ、これは」

 

 いま、二人の目には俺の身体が左右に幾人にも分身しているように見えているだろう。波打つように緩やかな動きはそのような錯覚を起こさせるに至る。

 人間というものは修行しだいでこういう不思議な身の軽やかさを体得できるのだ!

 

 ──なにそれ知らんぞ。気持ち悪ッ。(地のエル)

 

 ──また勝手に変な能力を開発しておる。(風のエル)

 

 おどろく響ちゃんを他所に、未来ちゃんは冷めた目で俺の動きを凝視していた。

 

「なにあの気色の悪い動き方」

「あ、あの動きはまさか……! 究極の奥義……‼︎」

「え。どうしたの響? そういうノリなの?」

「たしか、そこそこ昔に、ヘンテコな石の仮面で生まれたとかいう吸血鬼かなんかを倒すために呼吸を使ったなんかスゴい武術のひとつで結局は作中で一度も決まらなかったとかいうサンダーなんとかアタック……!」

「曖昧が過ぎる」

 

 ブブーと筐体から試合開始の合図が鳴り、円盤(パック)がフィールドに放たれた。パックは盤上を滑りながら、百合夫婦の陣地内へと収まった。ククク。先攻はくれてやるぜ! せいぜいよぉく狙うんだな!

 

「この無敵の必殺技を破った格闘者は一人していない! 覚悟しろデ○オお!」

「誰ですかそれ」

「えい」

「ぐわあ⁉︎ ば、バカな⁉︎ こんなにいともたやすく我が奥義を打ち破るだと……?」

「もういっちょ!」

「うわあああ⁉︎ ダ○アーさあああん⁉︎」

「だから誰ですかそれ」

 

 普通にボッコボコにされた。

 

 

***

 

 

 洋装店(ブティック)

 最近のJCはこんなお洒落なお店で服を購入するのかと中身がおっさんである俺は戦慄を隠せない。値段とか結構するんじゃない? あっ、でもええ感じの服めっちゃあんじゃん。キャ〜! なにこのワンピースすげえきゃうわうぃうぃ〜!(オカマ口調) このアウターとかもシンプルでごっつぎゃんわゔぃゔぃ〜!(人間からかけ離れた口調) ウホホウホウホウホホホホホ〜‼︎(そしてゴリラへと退化)

 

「ねぇ響、なんでこの人今日一番テンション上がってるんだろうね……」

「翔一さんって、ちょくちょく乙女みたいな思考になるから……うん」

 

 たし蟹。

 ハッ(閃き)もしかして俺って前世は女の子だったのでは……! 無駄に家事スキル高いし、家庭料理とか得意だし、裁縫とか好きだし……まさか俺の前世は世話焼き系幼馴染の美少女だったのか!(IQ一億ぐらいの閃き) おっしゃあ! 前世は勝ち組じゃあああ‼︎ 今世は知らねえええ! 前世に戻りてえええ‼︎

 

 ──我等は何も言わんぞ。面倒くさい。(火のエル)

 

 ……はい。

 

「翔一さーん、こっちこっち」

 

 響ちゃんに手招きされてホイホイついていくと、そこは試着室の前だった。

 やっべえ。こいつは噂に聞く、客観性と高度な褒め文句が必要となってくる「こっちとこっち。どっちが似合ってる?」問答の時間じゃないか⁉︎ うわっどうしよう俺は服自体はデザインの良し悪しにある程度の評価は下せるけど、そこに着用する人間の要素が加わると途端にダメになるんだ! だってみんな似合ってんじゃん! 顔が良いんだから何でも似合うに決まってんじゃん!

 いや、この不毛な問答に必要なのは正当な評価ではなく、如何なる場合でも褒めることが大事なんだ。褒めて褒めて褒めまくって、購入の是非は本人に丸投げする──これが正解(Answer)! でも俺そんなに語彙力無いよ! 褒め文句なんて片手で数えるぐらいしかないよ! うわあああどうしよおおお⁉︎ でも、こんな時こそ頼れる上司が役に立つんです──。

 

 

 緊 急 脳 内 G サ ミ ッ ト 開 催

 

 ドドン! 議題「助けてエルえもん! 女の子を褒める語彙が圧倒的に足りてないよぉ!」

 

 ──知らん。(地のエル)

 

 ──自分で探せ。(火のエル)

 

 ──我等に聞くな。(風のエル)

 

 緊急脳内Gサミット 〜終〜

 

 

「これとかどう思います?」

「かわいい」

「このスカートとか少し丈が短いですかね?」

「かわいい」

「ハイソックスとニーハイソックスならどっちが好きですか?」

「かわいい」

「1+1は?」

「かわいい」

「ほーんを売るなら?」

「ブッ○オフ──ハッ⁉︎」

 

 鬼畜天使の皆さまがあまりに辛辣すぎて意識が彼方にフライアウェイしてた。

 我に返ると目の前には、頬をぷくーっと膨らませ上目遣いで睨むJCが二人いた。もちろん響ちゃんと未来ちゃんである。なるほど。だいたいわかった。どうしよう(懺悔) とりあえずKAWAII(語彙力)

 

「私たちは翔一さんの好みを聞いてるんですよ。なんでもかんでもかわいいで済まさないでください。……嬉しいですけど」

 

 と、響ちゃん。

 

「男の人ならありますよね、好きな女性のタイプ。翔一さんはそういうこと一切話さないので、いい機会だと思って色々と準備してたんですよ?」

 

 と、未来ちゃん。

 

 ああ。そういう感じ? 客観性より一成人男性の選り好みを優先してるのね。うーむ……個人的な意見ね……役に立つとは思えないが……俺の好み……か……俺の……好きな……女性……好みの女の人……好きだった人──…………。

 

 

 

 〝ほら、笑って笑って〟

 

 ──────。

 

 〝今日から立派な社会人だよ。これからキミはいっぱい人の笑顔を見るんだから。働きたくないでござるとか駄々こねないの。何のために免許とったの〟

 

 ………………。

 

 〝ほら、ムスッとしてないで笑って。いつもみたいに。キミが笑うとわたしも笑えるから。それだけでお仕事がんばれるかもしれない。本当だよ? かもしれないってだけだけど。ふふっ〟

 

 ──────…………。

 

 

 

 

「翔一さーん? 聞こえてますかー?」

 

 ぱちんと巨大な泡沫が割れ、微睡の白昼夢から目覚めたかのように俺は現実に呼び戻された。記憶にない記憶だった。俺の知らない光景だった。そのくせ懐かしくて堪らない──大切なアルバムの1ページのような、そんな淡い幻の景色だった。

 

 なんだあれ。てか誰だ今の。

 

「…………」

 

 ──でも、嫌な気分じゃないなこれ。むしろ良い気分だ。

 だって、なんだか、すっごく優しく笑ってくれて、これはきっと、うん、そういうことなんだろう。正直、もう記憶の引き出しからすり落ちていくように忘れてしまったけれど、また思い出せる時がくるかもしれない。かもしれないってだけだけど、そんな曖昧さ加減が俺には丁度良いのかもしれない。

 

「……良い人」

「何がです?」

「俺の好きな女性のタイプは良い人だよ。間違いない」

 

 二人は目をパチクリさせ、互いの顔を見合わせて、しばらくポクポクと逡巡してから──。

 

「「どういう意味ですかそれ」」

 

 HAHAHA──俺もわかんね(真顔)

 

「よぉーし。なんか変な空気になったけど、俺ァ何時間でも服選びだろうと何だろうと買い物に付き合うぜ響ちゃん未来ちゃん! FOOOOOO──!(オールウェイズキチガイハイテンション)」

「いや、なに露骨に話逸らしてるんですかっ⁉︎」

「良い人……? GOOD(グッド)HUMAN(ヒューマン)……? それ即ちナニ……?」

「未来が珍しくショートしてるぅ⁉︎ 翔一さんが意味不明なことばっかり言うからですよ!」

「失礼な。俺はいつだって真面目に考えて発言してるんだぞ」

「だから大問題なんですよぉー!」

 

 

 

 こういう一日があった。

 そんな日常もあったらしい。

 

 いつか記憶は過去と化して消えていく。

 やがて時間は癒すように過去を忘れ去っていく。

 だから、これは記録に残すのも馬鹿らしい、俺の大切な記憶の一つであって、それ以外のなにものでもない。

 

 ただのステキな思い出である。

 

 ……なんちゃって。

 

 




クソギャグに満足したのでほんへ戻ります。(息継ぎを許さない鬼畜の思考)

以下、祝辞&御礼。
このたびハーメルン内の原作『戦姫絶唱シンフォギア』において総合評価で検索をかけると一番上に表示されるようになりました。大変光栄でございます。応援してくださる読者さまには靴を舐めても舐めたりません。ありがとうございます。しかしながらクソゴミ作者としては、こんなしょーもねぇ勢いだけのギャグとかパロディしかできないうんちみたいなオリ主ライダー二次創作がデカい顔するのはどうかと思います。ですので、適合者の皆さまがもっと素晴らしい作品を執筆していただけることを首とおち○ち○を長くしてお待ちしております。作者を楽にしてください。ほんとマジで。

あとTwitterはじめます(戒め) 生存確認にでも使って下さい。

以下、うんちみたいなおまけ
大公開(誰得)オリ主のマイホームの間取り(ほんとに誰得)

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