仮面ライダーだけど、俺は死ぬかもしれない。 作:下半身のセイバー(サイズ:アゾット剣)
立花響が〝彼〟と出会ったのは、ちょっとした些細なきっかけであった。
いや、響にとってはかけがえのない思い出に違いない。
中学生になったばかりの響は例の如く、度を超えたお人好しに勤しんでいた。
「ほーら、怖くないから怖くないから……」
「ニャー」
背が高く細身である木に猿のような慣れた手つきで登り、スカートであるにも関わらず、木から降りれなくなった子猫を救わんと奮闘していた。
ちなみに、その日は至って平日。遅刻は確定。
陸上部に入り、朝練へ向かった親友のモーニングコール虚しく寝坊したので半ば諦めていたと言っても過言ではないが。
「う〜ん、あと少しあと少し……」
そぉっと手を伸ばし、優しく子猫を抱きかかえようとした時、ミシリと嫌な音が聞こえた。
それは間違いなく腕が折れそうだと木が上げた悲鳴であった。それに気づいた時には、響は子猫もろとも落下していた。
「うぇぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」
「うわぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
衝撃、と悲鳴が二つ。
「いたたたぁ……あれ? 無事?」
骨折はする。と、落下時に過ぎったが、意外にも外傷は無い。お尻がじーんと痛む程度だ。
割と相当な高さからロクな受け身も取れずに落ちたはずだったが、響も咄嗟に守るように抱き締めた子猫も無事である。
これは奇跡か? 日頃の行いか?
「ぐべぇ……っ」
困惑している間に、下から魂が解き放たれた声がした。
見れば、下敷きになっている青年がいるではないか。それも口を半開きにし、目が白くなっている。
明らかにヤバい。
「えええええっ⁉︎ す、すすすみません‼︎ あとしっかりして下さい!」
飛び出すように退いて、半死状態の青年を揺さぶる。男は糸の切れた人形のように為されるまま動かない。
「……せ、仙人がみえる」
意味は分からないが、恐らく死の淵に立っていることだけは分かる。響は更に強く青年を揺さぶる。
「頑張ってください‼︎ 死んじゃダメですよ!」
「auアイコンを十五コ? そんなことよりたこ焼き食べようぜ」
「どうしよ……この人本気でやばい」
もしかして三途の川で誰かとやり取りしているのではないか。焦る響の思考も路線がズレていく。
ついに青年が「マツンダゴー‼︎イッテイーヨ!」と奇声を発した時には響の決意も固まっていた。
無礼を承知で思いっきり青年のお腹にヒップドロップ。青年の意味不明な死に際の言葉は、壊れたPCを叩いて直すレトロチックな考え方を響にもたらしたのだ。
「せやぁ‼︎」
「うゔぁッ⁉︎」
どこぞの緑の欲望の名を断末魔に飛び起きる青年。そのまま噎せながら息を吹き返す。
そう、響が苦肉の策として行った荒治療レベルMAXは、この青年にとっては有効であったのだ。
「あれ、どうして俺、寝てたんだっけ? 確か普通に歩いてたら『親方、空から女の子が』って頭に浮かんだ光景が……」
ちらりと青年が正座する響を発見した。膝の上には子猫が「ニャー」と鳴いている。
「へへへ……っ」
頭を掻きながら何故か笑う響。
「ははは……っ」
とりあえず、つられて笑ってみる青年。
「「…………」」
しかし、ぎこちない笑いは直ぐに沈黙へと変わった。
「あの、すいませんでした!」
「いや、いいよ。うん」
頭を下げる響に青年は一人頷いた。そして、遠くを見つめるように哀愁を漂わせる。
「なんかさ、もう色々と察しちゃうよね」
この時、青年がこぼした言葉の意味を響は理解することはないだろう。例え、仮に理解したとしても、青年の心の内まで共感することは誰にもできやしないだから。
ましてや、穏やかに微笑む青年が今この時に〝命尽きるまで戦う覚悟〟を抱いたことなどまだ中学生の響にわかるはずもない。
何よりも、
「あ。私、立花響っていいます! 13歳です!」
まさか、
「響ちゃんね。えーと、俺は、そうだなぁ」
目の前の何気ない普通の青年が、
「翔一……うん。津上翔一でいいよ」
名前すら考えねばならないほどの〝記憶喪失〟だと予想できはしないだろう。
***
「翔一さん、何か言い訳は?」
「ナニモゴザイマセン」
お好み焼き屋『ふらわー』にて、床に正座させられている青年が一人。現状、最もヒエラルキーが下であろう津上翔一である。
腕を組み、正座をさせている女子中学生こと立花響。
その横で涼しげにカウンター席に座る女子中学生こと小日向未来。
厨房で微笑ましく傍観しているおばちゃんことおばちゃん。
異様な空間が広がっていた。
翔一に至っては所在無さげに、しかして助けを求める人もおらず、己に課せられる刑を待つ罪人のような心境だった。
まさか、帰ってきて早々「正座」と響に言われ、笑いながら軽く流そうとすると未来から「正座」と身も凍るほどの声音で命じられるとは思いもしなかった。
果たして司法は俺を守ってくれるのか。薄っぺらい希望を祖国に託し、翔一は腹を括った。
裁判官たる『私、怒ってるよ』感漂う響が口を開く。
「確認しましたよね? 明日は居るって」
「左様でございます」
「で、実際は」
「少々席を外しておりました」
「理由は」
「人助け、です」
歯切れの悪い言葉に気まずくて目線を逸らす。
大丈夫。嘘は言ってない。過程はどうあれ、その行為によって誰か一人でも救われたのなら、それは紛れもない〝人助け〟になるはずだ。
懸念すべきは、人間一人なら容易に射殺せるほどの眼光を一瞬のみ向けた未来のドス黒い心情か。
響の冷たい目が縮こまる翔一の横にぽつんと置かれたヘルメットとグローブに注がれる。
「バイクでどこ行ってたんですか」
「こ、公園……?」
翔一は頭の中でぼんやりと浮かんだ光景に身震いした。辛うじて大きな滑り台の頭が見えたので公園だったのだろう。だが、それよりも過激なアトラクションがうじゃうじゃいたので記憶に薄い。
できるなら二度と行きたくない
だが、くたくたになって帰ってきたと思えば、いきなり女子中学生二人に捕まり、その場で正座させられるここも地獄か。
我が安息の地は
「反省してる?」
「してます」
「じゃあ、謝罪を」
「すべて私の責任だ。だが、私は謝らない(キリッ」
後悔しても反省はしない。それが俺の生き様───byしょーいち
「ちょっと未来ぅ、この
人として必要な何かしらをどこかに忘れてきたであろう翔一に止むを得ず響は
最終なのに早すぎじゃね? これが本当の最初からクライマックスってやつか。などと呆けたことを考えていた翔一は事の重大さに気づき戦慄を禁じ得なかった。
未来が笑っている。
ただし、背後には金剛力士像というか、十面鬼とかキングダークが見える。
何も言わず、感情を発さず、ただ死にゆく罪人の首を切り落とす処刑人の如く、その笑顔には中身というものが無かった。
響の怒りはまだ可愛いものがある。子犬がきゃんきゃん鳴いているようなもの。
だが、未来の怒りはヤバい。何がヤバいかって、とにかくヤバい。語彙力が死ぬほどヤバい。子犬とか比べることが
「あ、あのー、未来ちゃん?」
「なにかな、翔一さん」
全く変わらない穏やかな声が逆に怖い。彼女たちとはかれこれ二年近くの付き合いだが、経験上から翔一は未来おこフェーズ4に入りかけていると判断。つまり、やばい。
最終段階フェーズ5に移行すれば、彼女を止められるものは地球上から姿を消し、淡い希望を太陽系に存在するどこかの惑星に託すしかない。
謝らなければ死に至る状況下、翔一の判断は早かった。
「えっと、その…………誠に申し訳ございませんでした」
誠心誠意の土下座。
残り僅かなプライドを没シュート。
情けないことに、翔一にはこれしか生き残る術が無かった。
***
女子中学生二人に頭が上がらない男性がいるらしい。ええ〜そんな哀れな奴いる〜? ……はい、俺です。
津上翔一、年齢不明、趣味はツーリングと料理。お好み焼き屋『ふらわー』で住み込みで働き、夜は警備員のバイトをして辛うじて息をしている仮面ライダー顎です。ヨロシクネ。
「ほら、未来、見て見てこの記事! また〝仮面ライダー〟が出たんだって!」
「最近多いね。ノイズが増えてるのかな?」
「警報鳴る前に倒しちゃうから分かんないなぁ。でも、やっぱりかっこいいなぁ〜仮面ライダー!」
「ほんと好きだね仮面ライダー」
「そりゃ今のトレンドは『ツヴァイウィング』と『仮面ライダー』だからね!」
お好み焼き屋『ふらわー』の二階の空室を借りた六畳間の我が家では、なぜか女子中学生二人が畳に寝転がって、壮大に話に花を咲かせて寛いでいる。
JC二人が一人暮らしの男性の家に……もしもしポリスメン? などと通報されても文句は言えまいが、それだけは勘弁願いたい。
というか、いつものことなのだ。
この二人が自分の家のように我が家で寛ぐのは日常茶飯事のことである。
我が六畳間には記憶喪失らしく私物がほとんど無い。しかし、この二人がズカズカと部屋に押し入るものだから、響ちゃんと未来ちゃんの私物が置かれちゃったりしている。
小さな箪笥の横に置かれたそれよりも大きな衣装ケースは二人の着替えだし、押入れには当然の如く未来ちゃんの部活用品や響ちゃんの雑誌などが置かれている。
お泊まりセットまで置いてあるのは如何なものか。それに良い年頃なんだから尚のこと駄目でしょ。
そんなことを聞いたら、別にいいじゃんと素で返されたので、何も言えなくなった俺は心を無にしている。
おかしい。見ず知らずのおっさんの部屋にJCが寝泊まりとか、まず親が絶対許さんだろうに(※公認済み)。
多分、都合のいい奴だと思われている。……学校から近いしねここ。
こうして、淡々と夕飯を作る俺を尻目に畳の上でゴロゴロしているのは、大方俺の晩飯たかる気満々なのだろう。
おかしいな。俺、貧乏なんだけど……。
「翔一さーん! ずばり、今日の献立は?」
「スーパーで安くて美味しい茄子をゲットしたから、今日は豚肉と茄子の味噌炒めかな」
「異議ナ〜シ!」
謎のハイテンションの響ちゃんと静かに目を輝かせる未来ちゃん。週二のペースで来るもんだから、食材はきっちり多めに保存してあるぜ! 特にお米は対響用に五合炊いてらぁ!(ヤケクソ)
さあ、出来たぜ……地獄のフルコースがよォ‼︎ 豚の餌ァァとは言わせんぞ!
「「「いただきます」」」
みんなで手を合わせて晩御飯。
相変わらず物凄いスピードでご飯を口にかき込む響ちゃんの吸引力に軽い恐怖心を覚えずにはいられない。多分、響ちゃんとライオンはベストマッチする。
「お〜いひぃ〜」
そんな幸せそうな顔されてもなぁ……。
「響、ほっぺたにご飯粒ついてるよ」
「んっ、ありがとう未来」
響ちゃんの頬についた米粒を未来ちゃんが摘んで取ってそのままパクり。何この圧倒的百合(歓喜)
やっぱりシンフォギアは百合作品ってはっきりわかんだね。
「なんでそんな嬉しそうなんですか翔一さん」
「いや、なんでもないよ」
未来ちゃんのジト目を受け取り、ご飯を口にする。やっぱり日本の米は世界一ィィ!
ふと、響ちゃんと目があった。もぐもぐとリスのように膨らんだ頬のまま、その目は不思議そうにじっと俺を捉えていた。
「響ちゃん、俺は食べられないよ」
「食べませんよ!」
「そんな⁉︎ 私を差し置いて、どうして翔一さんなの響⁉︎」
「未来も悪ノリしないでよぉ⁉︎」
俺と未来ちゃんのコンビネーション技。弄り甲斐のある響ちゃんをもっと弄くり回したいという共感が、やがて同感、時を得て信頼感に変わり、今では打ち合わせが無かろうと以心伝心で弄れる。
無言で未来ちゃんとハイタッチ。これが友情。
(今の響の顔、見ました?)
(チョー可愛かった)
((〝固い握手〟))
これでも、最初は未来ちゃんにすっごい嫌われていたのだ。なんか親の仇を見るような目だった。理由はわかる。響ちゃんが妙に俺に懐いたからだ。
嫁が夫についた悪い虫を駆除するのは当たり前。いつ未来ちゃんに刺されるんだろうかと内心思いながら過ごしていたら、なんかいつの間にか仲良くなってた。ほんと知らない間に。
多分、俺如きでは脅威にすらなり得ないと判断されたのだろう。……うん。それはそれで悲C。
「で、響はなんで翔一さんのこと見てたの」
「えーと……」
じぃ〜と俺を見つめる響ちゃん。ヤダ恥ずかしい///
「いつも思うんだけど、記憶喪失なのに辛くないのかなって」
おうふ……。
思ったりよりも内容が重かった。
響ちゃんも失言だったかと瞳を僅かに潤わせている。
助けの視線を未来ちゃんに寄せるものの、その目は申し訳無さそうだが明らかに興味深々。答えざるを得ない。
まあ、大したことではないのだが。
「全然。別に今のところ不便も無いし」
これは本音だ。現状、職もあるし、住処もある。生きていく上では何ら問題はない環境が幸運なことに俺には揃っている。
それに、記憶喪失と言っても、前世の記憶は気持ち程度に残っている。完全に喪失しているわけではない。
「割と今は幸せだし、なんなら記憶が戻んなくてもいいかなって」
キョトンとした響ちゃんと未来ちゃんは互いの顔を見合わせ、やがて複雑な表情で俺を見た。
「でも、自分の過去とか知りたくないんですか?」
「別に。今、生きていれたらそれでいいかな」
「でも、翔一さんにも家族がいるかもしれないんですよ? 心配してますよ絶対」
「その時はその時だって。今はこうやって……」
大皿に盛られた豚肉と茄子を白米の上に乗せ、見せつけるように豪快に食す。口の中で味噌が効いた絶妙な甘味が広がる。
「みんなでご飯食べてる方がいいかな俺は」
もぐもぐ口を動かしていると、二人はすっかり呆れてしまったようだ。
「あいかわらず、翔一さんは能天気だね」
「響も人のこと言えないよ?」
「しょ、翔一さんよりはマシだもん!」
俺も響ちゃんよりはマシだと思ってるんだけどなぁ。
能天気な性格であることに異議はないし、天然な所も生前から受け継がれたものだろうし、正直この咄嗟に名乗った〝津上翔一〟という名も伊達じゃない。
それでも俺は響ちゃんみたいなドが付くほどのお人好しにはなれない。優しさと慈しみに溢れた人間にはなれない。
だって、俺が戦うのは他でもない……。
「───……ッ⁉︎」
突然の耳鳴りが脈打つように俺の全身を覚醒させる。
俺の第六感が勤務開始のお知らせを伝える。頭の中で飛び回る情報を知覚しつつ、身体の衝動に身を任せて立ち上がる。
跳び上がった俺に、二人は口を開けてポカンと見上げていた。悪いが、釈明している時間はない。急いで上着を羽織ってバイクのキーを取る。
「ごめん、タイムセール忘れてた! 今から行ってくるから留守番よろしく!」
捨て台詞と共に、俺は家を飛び出した。
大丈夫。嘘は言ってない。
ただし、これから始まるのはノイズのバーゲンセールなんだが。うっわ、行きたくねぇ……。
***
嵐のように飛び出して行った翔一の残像を見つめるように静かになった六畳間で未来は心配そうに眉をしかめた。
津上翔一という男は、突拍子もなく走り出すことが多い。いや、ほぼ毎日のようにどこかへ向かって走っているのが彼だ。
未来としては、彼に最も近しい存在が〝人助け〟が趣味ともいえる響なのだが、二人には大きな違いがある。
それは単純にどこへ向かっているのか。
響はいつも満足げに誰かのために頑張ったと嬉々として未来に語ろうとする。人の笑顔に辿り着いたと笑いながらだ。
しかし、翔一は辿り着く場所も何の為に走るのかさえ、誰にも語ろうとしない。言おうとしない。
行き先を教えてくれたことはない。聞いたところではぐらされてしまう。そして何かに急かされるように、いつも焦りながらバイクに跨り出発する。
その顔は、いつも常に絶やさない笑顔とは程遠い真剣そのもの。
そして、帰ってきた彼の顔はいつも疲れ切っていて、未来や響の顔を見ると無理やり笑ってみせるのだ。
その姿が、あまりに痛々しくて、心苦しくて、どうしようもなくて───。
「早く帰ってくるかな……」
「う〜ん、どうかなぁ」
横でむむむっと顎に手を当て悩む響は卓袱台の下に放り捨てられたある物に気がついた。
「見て見て! 財布忘れてるよ翔一さん」
それは翔一が愛用して止まないダディャーナザァーン財布であった。がま口財布に(0M0)がプリントされた安っぽく、すぐにボロボロになりそうな見た目をしているそれを翔一は
中はずっしりと重く、今もなお翔一が愛用していることが分かった。
「そんなに急がなくてもいいのにね。おっちょこちょいだね翔一さんは」
「…………」
それを響が言うか。
未来は突っ込むことを止め、いつか自分自身で気づいてくれることを静かに願うのであった。
一方その頃───
(やだあああああエッティな液体かけんなああああ誰得ゥゥゥゥ⁉︎)
翔一ことアギトは大量のノイズ相手に四苦八苦していたのであった。〈後でノイズは
次回、ついに三体のヒロインが…?(大嘘)
XD未来さんがきません。でも、メイド姿が拝めるならワンチャン生きれる。もう石ないけど。