仮面ライダーだけど、俺は死ぬかもしれない。   作:下半身のセイバー(サイズ:アゾット剣)

7 / 36
感想欄に勘のいい読者が増えてきて嬉しいけどなんか怖い今日この頃。


♩.俺は例の如く間に合わないかもしれない。

 また彼は走っていた。

 転んで怪我をしようと、足を滑らせ川に落ちようと、謎の発火現象でお尻に火が点こうとも、彼は挫ける選択肢を選ばなかった。

 

 時折、何かを思い出したかのようにバイクに乗って何処かへ行ってしまい、一時間もしない内に戻ってきては、疲れた顔でまた走り出す。

 何が彼を突き動かすのか。

 自分や他の人と一緒に居る時は常に笑顔を絶やさず、まるで生きていることが幸せとでも言いそうな男。───そんな辛そうな顔は見たくなかった。

 

 腫れた両足に鞭を打ち、次の日もまた次の日も走る。

 殴るような雨が降ろうと燃えるような陽射しに晒されようとその足を止めない。

 

 彼はとあるお好み焼き屋に住み込みでアルバイトをし、夜は警備員のバイトに勤しんでいると聞く。果てには記憶喪失で生きるためには死に物狂いで働かねばならないらしい。

 片手間に我武者羅に走る理由が解らない。

 仕事中に見せてくれたあの笑顔が忘れられない。

 苦しいならやめればいいのに。どうして、まだ走ろうとするのか。

 

 別に陸上選手でもスポーツをしているわけでもない。如何に健康のためとはいえ、ものには限度があるだろう。

 必死になれる理由が他にあるのではないか。

 興味と疑心が胸の中で混ざり合い、ついに小日向未来は大の字で倒れた青年の元へやって来た。

 

「未来ちゃん?」

 

 目を合わせるなり、上下していた胸を押さえ込み、元気良く起き上がってみせる青年。明らかに無理をして笑っているのが嫌でも解った。

 

 この時の未来の顔は青年への根拠なき不信感が募り、自然と顰め面が出来上がっていた。

 何よりも走ることへの情熱が挫折していた彼女からすれば、意味もなく走り続ける青年はどこか羨ましく、同時に恨めしいものであったからだ。

 

「どうして、そんなに頑張れるんですか」

 

 彼女らしくない挨拶もない直球的な言葉に青年は腕を組んでほんの一瞬だけ考えた。

 

「アイデンティティの喪失を防ぐためかな、うん」

 

 小首を傾げる少女に苦笑しながら青年は後ろ髪を掻きながら恥ずかしそうに応える。

 

「俺さ、他になーんにも持ってないから。だから、せめて今だけは守りたいんだよ」

 

 それは〝今〟という存在。

 

 本来、彼はそこに在ってはならない異分子である。数ある世界を一つの物語として(くく)り付けるならば、決して現れることのない存在(キャラクター)であるのが彼・津上翔一である。

 意味のない存在。価値のない存在。

 それでも命があるならばと生きてきた。だが、その果てに想像を絶する痛みが待っていた。

 望んでもいない役割。覆しようのない現実。終わりの見えない未知という不安。誇れる過去もなく、自身の知る未来が自分の手で壊れてしまうかもしれない恐怖。

 

 苦痛という〝今〟だけが残る。

 

 それでも、彼にはそれしかなかった。

 

 それしか無いから守る。どうしようもないから戦う。

 正義などではない。優しさでもない。

 誰かが呼んでくれた〝仮面ライダー〟という現在(いま)を守るため、必死に地を這い続ける。

 

 だから、とりあえずライダーキックは守る。ライダーキックしない仮面ライダーは無数にいるけど、アギトは絶対にいる。───みんなもそう思うだろ? え、思わない? あっそう……。

 

「それにゴールがあるって良いことだしね」

 

 どっこいしょ! 立ち上がり足を延ばす青年。ボキボキというよりゴキッゴキッゴッと真面目にヤバそうな音が鳴る。

 

 未来にはわからなかった。いや、誰にもわかるはずがないのだ、仮面ライダーという名の重みがどれほど彼を苦しめているかを。

 その名を持つが故に、何もかも振り切って戦い続けなければならない呪いにも似た宿命が。

 

 だから、今は少しだけ、その直向(ひたむ)きな生き方がほんの少しだけ───

 

「ちょっとカッコいいです」

 

「ん? そう?」

 

「少しだけですけど」

 

「そっか」

 

 へへへっ、鼻の下を伸ばして嬉しそうに笑う。

 びっくりするほど裏表がない人だ。年齢不明とはいえ、成人しているであろう男性が中学生の(おだ)てに本気で喜んでいる。

 類は友を呼ぶというのか。立花響が彼を信頼する理由が分かった気がする。

 

「あ、そうだ。未来ちゃん陸上部だよね」

 

「そうですけど」

 

「100mを11秒以内で走れる方法知らない?」

 

「…………」

 

 それができたら悩んでいない。

 本気で訊いているであろう津上翔一に対して未来はなんだか真剣に考えている自分が馬鹿らしく思えて、自然な微笑みを返した。

 

「私も探してる最中です」

 

「そっかぁ、俺もまだ見つけてないんだよ。エルさんたちは考えるより行動!っていう脳筋だし……」

 

「翔一さんは無理し過ぎなんですよ。そういうところが響と似てますね」

 

「喜んでいいのか否定すべきか。ああ、もうとにかく走ろう!」

 

「結局ですか⁉︎」

 

「エルさんたちが謎の手拍子カウントダウン始めてるの! それに───」

 

 足踏みしながら、初めて彼の名を知った時と同じような笑顔を向けた。

 

「走ってるとなんか気持ちいいしね!」

 

 ものには限度があるけど! 付け足した言葉は自分に向けてか、己の中に潜む天使に向けてか。それでも途方もないお気楽な考え方で走り出した青年の背中。どこか脆くヒビ割れているものの、数えきれないほどの人々を支えてきたであろう立派な背中。

 

 いつかあの背中に追いつければいいな……。

 

 未来もまた走り出した。解き放たれたかのような軽やかになった両足で、ゆっくりと自分のペースのまま進み始める。

 その優しい背中を当面の目標(ゴール)に定めて。

 

 

 

 

***

 

 

 

『───なので、先に会場で待ってますね! 遅れたりしたら未来、かなり怒りますよ〜』

 

「うん。知ってる」

 

 知ってた。

 仮面ライダーが交わす約束は大体がフラグになるって。仮面ライダーに限らずヒーローものなら大体そんな気がするけどさ。その悪しき習慣マジでやめない? せめて、子供の晴れ舞台ぐらいは行かせろやゴラ。

 

『未来の出番はお昼前だから……11時過ぎです!』

 

「わかってるわかってる」

 

 わかってた。

 そろそろどっかの全裸系ラスボスが杖持って準備運動してることぐらい。ふざけやがって。杖へし折ってやろうか。裂けるチーズみたいに縦に折って半分だけ返してやろうか。嫌がらせか? 嫌がらせだよ。

 

『未来、翔一さんに練習の成果を見せるんだって張り切ってましたからね───ってこれ内緒にしてって言われたんだったッ! 今のは忘れてください!』

 

「うんうん。おーけー忘れた」

 

 忘れていた。

 ノイズたんは空気読まないことを。いや、逆に読んでいるのかこの場合。ふざけんな。そんな大学生の飲み会のノリみたいな読み方じゃなくて、俺を労わる方向で空気読めよ。

 なんでエブリデイサプライズパーティみてぇに俺に的確な嫌がらせを仕掛けてくんだよ。暇か。頭パリピか。パリピ大学生かノイズたん。アメリカのホームドラマでもそんなにパーリナイトしねぇーぞオイ。

 

「それじゃあ響ちゃん、また会場でね」

 

『はい! 翔一さんもお仕事頑張ってください』

 

 ぷつりと切れる通話。項垂れながら必死に我慢していた溜め息を吐き出す。はいはいお仕事お仕事。仮面ライダーのお仕事は(ノイズたん)野望(すなあそび)を打ち砕くことです。

 

 バイクのエンジンの駆動だけが澄み切った空気に響く。未来ちゃんとの約束への罪悪感と最近やたらと元気のいいノイズたんへの疲労感の板挟みが辛い。常日頃からシンフォギア女子勢と陰湿なOLみてぇなエルロード勢に精神的に挟まれてるんだけどね。……どっかのチェリーディーラーがこっち見てんな。お前は岩盤浴でもしてろ。

 

 ヘルメット外してバイクの上に置き、キーを抜き取り足場の悪い大地に二本の足で立つ。深呼吸すると空気が美味かったことだけが唯一の救いである。

 

 俺も一話ごとに愚痴りたいわけじゃないのよ。

 もっと誠実な優しいお兄さん感出したいよ。頼れる大人って空気出したいよ。仮面ライダーっぽい正義に熱い男的な雰囲気も出したいよ。

 

 でもさ、無理やん。おかしいやん色々と。

 別に今、休み欲しいとか一言も思ってないで? ただ、妙に懐いてる親戚の子供と他愛ない約束をして、それを守ろうと仕事を早めに切り上げるおじさんみたいなことしかしてないんやで?

 ひとりの大人として、至極真っ当なことを為そうとしてるわけであって、悪いことしてるわけじゃないと思うの。

 

 でも、世界は俺を殺しにきてる。過労(ノイズたん)という手段を用いて。

 

「世界は俺のこと嫌いなのかな……」

 

 ───何を今更。

 

 まるで万国共通認識と言わんばかりに地のエルさんに即答されたので俺は上を向いて出もしない涙が溢れないように歩く。

 静寂に砂利を踏み散らす音だけが鳴る。

 びっくりするほどキレイな青空が今日は絶好のランニング日和を伝える。未来ちゃんもこれなら全力で走れると言うもの。

 

 ……なのに、なんで俺は既視感のある採石場にいるんですかねぇ? はいはいノイズたんねアイノウアイノウ。

 

 てか、こんな山奥の採石場跡地に来る人とかいる? いるとしたらクライシス帝国ぐらいよ。一体何人のクライシスがこの「いつもの」で通じる採石場でクライシスしてしまったのか……。

 気配を探ってみても人っ子一人どころか怪人一匹としていやしない。いたら困るけど。来られても困るから勝手に通行禁止の立て札かけたけど。

 

 ───あんな出来の悪い〝この先工事中〟の看板は初めて見たがな。

 

 ゔっ……美術の才能がないのはわかってんだよ!

 それでも世界が俺を殺しにきてるから何かしら対策立てないと、遅刻した時に未来ちゃんに何かしら恐ろしいことされるでしょうが!

 

 時すでに遅しであるが、約束自体がフラグだと直感していた俺は昨日は不眠(そこ、毎日ほぼ不眠とか言わない)で超能力謎電波を発信し、ノイズたん出現を監視しまくっていた。

 予知能力に近い俺のノイズたんレーダーは先回りが可能であり、俺が頑張ればより早くノイズたんのやる気を受信することができるのだ。

 

 まあ、本気出すとちょっと頭痛くなったり、心臓に激痛が走ったりするから極力使わないけど。

 

 ───来るぞ、アギトよ。

 

 滲み出す空間。

 現世を侵食するノイズたんの登場。その数は……。

 

「ん? いつもより少ないぞ」

 

 おろ? 普通に百匹ぐらいなんだけど。あと三倍ぐらいは出てくると思ってたのに。それはそれでなんか怖E。

 

 ───ほう、終焉の巫女め、焦ったな。

 

 火のエルさんが一人納得している。さっすが〜! エルロード様に死角は無いんですね。あとさらりとラスボスの正体明かすのやめません? ムリだな。天使だもんね。

 

 ───ソロモンの杖だ。恐らく喚び出したノイズの種が違ったのだろう。急いで門を閉じたが、別の場所でこじ開けられてしまったようだ。

 

 その瞬間、耳鳴りに近い金属音が脳内を揺さぶる。ここと数キロ先と更にその奥にもう一箇所。合計三箇所である嘘やん。

 てか、ノイズの種って何ぞ? こじ開けるって何そのホラー。ノイズたんって杖でリモートできるんじゃなかったの? 完全に従えてないじゃんリモート(笑)じゃんそれ。俺の知ってる設定とチガウヨォ……(震え声)

 

 ───汝が今、気に留めることではあるまい。それにもの歌い共も動き出した。汝はアギトとして戦えばいい。……遅れたくはないのだろう?

 

 地のエルさんに言われてはっとする。

 そうだ、まだ終わりじゃない。絶望にはまだ早い。

 仕事を早急に片付けてバイクをかっ飛ばせば、ギリ間に合うかもしれないのだ。……息子の運動会の日にお仕事入ったお父さんの気持ちってこうな感じなのだろうか。

 だとすれば、全国のお父さんお母さんに応援のエールを。俺も過労なりに頑張りますから、皆さんも仕事と育児を頑張ってください。

 

『a*a÷€<g〒°→☆☀︎i:◎#t=o+……⁇』

 

 どうも、ノイズたん。そして───

 

「変身……!」

 

 どうか、頼むから早く帰ってくれ。

 あと翼ちゃんと奏ちゃんはファイト。俺はワケあって援護に行けないから。

 じゃないと、怒った未来ちゃんにどんな恐ろしいことされるかわかったもんじゃない。

 

 

 

***

 

 

「ありがとう。キミの歌で我々は救われた」

 

 あれはどこの国であったか。

 地図にすら載っていない村。軍隊がその防衛を諦めた境界線。

 歌を唄った。それだけで泣かれた。

 知らない言語であったため、なんて言われたのか判らず首を傾げると、

 

「〝ありがとう〟」

 

 不慣れな発音でその五文字で連なる感謝を述べてくれた。

 それが堪らなく嬉しかった。

 感謝とは無縁の人生だったから。

 ノイズに家族を殺されてからは復讐の道であったから。

 

 生まれて初めて、人の為に歌えたのだと思った。

 

 天羽奏の人生に、光が射した気がしたから。

 

「……って何考えてんだあたしは」

 

 疲れているのだろうか。

 市街地上空を滑空するヘリの中、天羽奏はワケもなく思い出に浸っていた。

 二課の装者としてのノイズとの戦いに加え『ツヴァイウイング』としての多忙な仕事をこなす若き少女は自身に失笑した。

 

 こんな程度で根を上げていれば、未確認生命体第2号に一生追いつけない。

 ノイズの出現警報。それも三箇所に同時。

 既に第2号は動いているはず。奏と翼は二手に分かれて各個ノイズを撃破する作戦を決断。理由は至って簡単。

 

 三箇所の内、二つが市街地のど真ん中にあるのだ。残りはあまり人が訪れないであろう十年以上も放置されている採石場の跡地。ここが他二点より一番離れている。

 第2号の目撃情報が上がっていないことで予測するに、第2号は人通りが少ない採石場へ向かったのではないか。

 

 ならば、必然的に市街地が危ない。

 

 よもや、不本意ながら採石場の方は第2号に任せるしかあるまい。

 今は人命救助が先だ。

 開かれるヘリのスライドドア。突風が茜色の髪を弄ぶが、等の奏は気合いの拳を掌に叩きつけると、

 

「さて、お仕事だ」

 

 迷いなく大空へ飛び出した。

 

「───Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 

 その歌は、戦えない誰かの為に。

 この槍は、恐怖を振り撒く悪を滅する為に。

 

 戦士(シンフォギア)の〝魂〟は、音奏で尽きるまで舞い上がる為に。

 

 その先には必ず笑顔が待つと信じているから。

 

「先制だ、いくぞッ‼︎」

 

 強力な重力にさえ、揺るぎなく制する神の槍から生まれし鎧のポテンシャルを引き出すのは、間違いなくそれを装う者。

 その点、撃槍(ガングニール)と天羽奏は見事なまでに意気投合するが如く調和が取れていた。

 

 槍とは、剣とは違い突貫じみた勢いが無ければ攻撃に転じることができない。大きさ故に小細工は不躾の戦法。己の槍に貫けぬモノは無いとただ信じる猛虎の精神こそが撃槍の真意。

 天羽奏はそれを持ち得ていた。

 手間はかからない。粋な技なら相方が担ってくれる。

 

 自分はただ、全力全霊を懸けて、この一振りの槍を撃ち込むだけ───!

 

 【STARDUST∞FOTON】

 

 千とも足りぬ神槍が雨となり、ノイズの大群を無慈悲に穿つ。

 固いアスファルトに着地後、未だ土煙に埋もれた敵へと奏は疾走を開始する。

 止まることを知らない撃槍が討ち漏らしたノイズに風穴を開け、次々と煤に葬り去っていく。

 

「おっちゃん、避難状況は⁉︎」

 

『80%───少し難行しているッ』

 

 軽く舌打ちをする。

 現戦場は市街地。少し目を逸らせば民家が建ち並ぶ最中、ノイズの猛攻は依然として終わらない。

 奏に課せられた任務はノイズの殲滅以前に人命の守護である。

 

 今、彼女にできることは周囲への被害を抑えながらも派手に戦い、ノイズの注意を引きつけること。

 至難ではある。だが、やりようはある。

 奏の槍術は良くも悪くも派手。しかして小回りは利く。先の【STARDUST∞FOTON】も地獄のような鍛錬の果てに完全に扱い切れるものとなり、威力を殺さずとも敵のみを狙い穿つコントロールさえものにしている

 視認できる道路に人はいない。居るとすれば建物内部。ならば───。

 

「外で派手にやりゃいいってことだなッ‼︎」

 

 振り払う一閃。

 ノイズを巻き込み、奏は更に敵の渦中へ飛び込んでいく。この声が枯れるまで精々暴れてやる。ただし、誰一人として死なせはしない!

 撃槍を携えた戦姫の歌声が響き渡る。

 有象無象と化した雑音が乙女の唄に掻き消されていく。

 

 数さえ居れど、装者にとってノイズ単体は脅威ではない。単調な攻撃方法。策もなければ技もない。

 その圧倒する数さえ捌き切れるならば、あとは何も懸念すべきことはない。

 無論、長期戦になればこちらが不利になる。体力的にも、彼女に許された戦士としての時間的にも。

 

 それまでに片付ける。押し切れないはずがない。この槍が砕けぬ限り、この唄が響き続ける限りは───。

 

 彼女の戦意はまさにノイズ如きでは止められないものであった。故に、予測不能(イレギュラー)の介入はある意味としては必然的であったと言える。

 なぜなら、それも雑音(ノイズ)にカテゴライズされる天災であったのだから。

 

「なんだあいつ」

 

 そのノイズは異質であった。

 純白の人型。ただ、その種別を統合している雑音の中ではどのカテゴリーにも属さない。ひとつの個体として完成しているノイズであった。

 有機物か無機物か、その判断を狂わせる見た目のノイズだが、それは明らかに生物としての一角を成す様式を保っている。

 四肢がある。顔がある。筋肉らしきものがある。そして、背中に折れた羽がある。

 

 ノイズには違いない。ただ、人体と何ら変わりない骨格を形成し、挙句の果てにその頭蓋は───。

 

「あれは(ヒョウ)か?」

 

『y×〆o=\u€ a@r""e/ ☁︎no*t =<t-h÷〒ゝe a‥g〆◎i^^to♪÷』

 

 ゆっくりと奏へ歩み寄る。

 人間じみた動きで、背後に多くのノイズを従えて。

 不気味な瞳が自分を捉える感覚に得体の知れない恐怖を抱かずにはいられない。こいつは違う。何かがおかしい。

 方向性すら、今までのノイズとはズレている。でなければ、こちらを恨めしげに凝視する理由がない。

 

『d#.dD@a───daga koro sa neba』

 

「ッ⁉︎」

 

 喋った……?

 奏の驚愕は直ぐに警戒心へと変わる。撃槍を構え、敵の襲撃に備える。

 ノイズは手の甲に二本の指を交差させる。十字を切り、神へ懺悔の祈りを捧げるように。

 

 〝おお、神よ我を赦し給え。

 主の創りし人間を天へと還すが故〟

 

「nN&……ningen de arukagiri wa agito e itaru nodakara‼︎⁈」

 

 〝この罪を赦し給え〟

 

 飛び掛かる純白のノイズ。奏は咄嗟に防御の姿勢を取る。

 だが、ノイズは奏の頭上を越え、後方に着地すると自身の肉体を変質させ、得物を抜き取る。

 

 それは〝槍〟であった。奏の《ガングニール》を模造したかのような同じ形式の槍。

 

「あいつ、やろうってわけだな……!」

 

『奏、挑発に乗るな!』

 

 無線から弦十郎の叱咤が聞こえてくる。

 奏は敵から目を逸らさず、一定の距離を保ちながら無線に耳を傾けた。

 

『状況は確認している! 信じ難いが、あれは五年前、米国で確認された《ロードノイズ》とデータが一致した。あれは自壊しない。そして』

 

 純白の雑音───ロードノイズが動いた。

 

『単純に強いッ』

 

 一瞬であった。

 十メートルは離れていたはずの彼我の距離を詰められ、一撃を見舞われたのは。

 ほぼ反射に身を任せてガードした奏はその衝撃に押され、吹き飛ばされてしまう。

 体勢を整えながら奏は悪態をつく。自壊しないということは、ここで仕留めなければ被害の拡大は免れない。大方の避難が完了しているとはいえ、万が一が起こるのが戦場である。

 

「だったら、どの道ここで倒す!」

 

 なぜなら、ここには天羽奏ただ一人の戦士しかいないのだから。

 片翼であれ、守らねばならないものはいつだってそこにある。

 既に第二撃の構えを取る豹型のロードノイズ。奏も神槍の矛先を眼前の敵へと合わせ───両者突撃した。

 

 閃光が爆ぜる。

 





クソみたいなオリジナルノイズさんぶっ込んで無茶苦茶にしていくスタイル。反省はしてるけどしてない。

どうでもいいけど、メイド調ちゃんが来なかったのでこれからも爆死を原動力にむしゃくしゃしながら書いていきます。次回あたりで一区切りして、原作に行きたい(祈り)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。