思いついた作品群   作:桜の果物

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天才怪盗←←お転婆お嬢様←天才執事


逃避行

天才怪盗・カルベッド。

 

その名は夜を駆ける怪盗にしては、世の中に広まりすぎていた。

 

金持ちを鼻にかける憎き金持ちの豚共の鼻を折る、美しき怪盗。

綿密に練られた計画に穴があったことはなく、人を殺めることもない。

幾度となく侵入経路として使われている変装は一級品。

丁寧に書かれた犯行予告のトレードマークは王冠と蝶。

 

そんな情報しかないのだ。

 

「カルベッド」の名も、大手の新聞記者が勝手につけたもの。

警察では彼女専用の部署を発足しようとしている噂があり、その美しき風貌とミステリアスさから、どこかでファンクラブができたともきく。

 

あまりにも完璧な、天才的怪盗だった。

 

 

 

 

「カルベッド」という名は気に入っている。

カルベッドというのは値段はもちろん純度も希少価値も高い赤色の宝石の名前だ。

恐らく犯行予告に使っているマークの赤が由来だろう、私の美しさに見合った美しい名だ。

この名をつけてくれた新聞記者には私の息がかかっていて、情報操作を任せている。

頼もしいことで、何よりだ。

 

今回の私の標的は、アルマリア家のペンダント。

40カラットの純度の高い青を持つ「アルマリア」という希少価値の高い宝石を大きくあしらうそれは、数千万という価値がつく。

それを盗むというのは大層骨が折れるが、目標は高く設定するものだ。

 

わざわざ犯行予告を出すのだって、相手に警戒させるため。

厳重である方が楽なこともあるし、何より楽しくない。

最近では極稀に、何も対策せず私に差し出してくる奴も存在する。

理由は語らなかったし聞く気もなかったが、恐らく裏でまた買い直す目処がついているんだろう。

その手間に比べたら「怪盗にまんまと盗まれた」という屈辱より、よっぽどマシなんだろう。

ご苦労なことである。

 

ま、それでお金が回るなら良いじゃないか。

 

金を持つやつから金を巻き上げる。

それが、私の怪盗業(金策)だ。

 

 

 

宝を抱え込む名家の警備を潜り抜けるのは容易ではない。

単に会得した忍び足と変装技術の賜物だ。

 

入念な調査で、私と同じ背格好の警備員がいつどこに配備されるのか、全て把握済み。

その過程で屋敷の構造もわかっている。

標的家の人間たちも知り尽くしている。

 

今回の最大の障壁は、アルマリア家当主の一人娘、クレア・アルマリアだろう。

当主はペンダントをクレアの首にかけた。

ただの酔狂に思えるかもしれないが、そうすれば常に目の届くところに置いておけるし、万が一の場合でもクレアさえ逃げることができれば良い。

私は殺すことはしないし、クレアの専属執事はそこらの人間より強いと聞いた。

周りは大反対したらしいが、実際は実に巧妙で、実に私が手をこまねいた部分である。

まあ、眠らせる方向で落ち着いたが。

 

問題はそのクレアがお転婆ともあって、箱入りお嬢様という肩書に似合わず身体能力が高いらしいということだ。

逃げられるとか、そういうことではない。

宝石に傷がついたり、ゴミが入り込んでしまったりして価値が下がる可能性のことだ。

そんなことがあったら大問題、早々暴落などしないが、万が一がある。

ちゃんとしたカバーをかけていて、彼女が馬鹿なことをしないことを祈るばかりだ。

 

さて、そろそろ予定の時刻だ。

しっかりと手袋もつけ、準備は万端。

 

 

 

「お疲れ様です。」

「ああ、もう交代の時間か。あとは任せたぞ。」

 

行くぞ、と2人の部下に声をかけて去る背中に、私と私の部下2人は敬礼する。

その背が見えなくなったところで、私は気を引き締めた。

 

「では、行くとするか。」

「はい。」

 

進行方向は今向いている方角より180度変わる。

部下は自然と私に背を向ける。

その無防備な肩を、ぽんっと叩いた。

 

どうされましたか?という油断しきった声。

隙のできた振り向き顔に、左手で隠し持った催眠スプレーを吹きかけた。

驚く暇もなく、崩れこむ。

もう1人は正しく驚きの顔をして私を見るが、遅い。

誰か、という声が響く前に、同様に眠ってもらった。

 

職務を全うできぬままお休みの時間だ。

私と対峙した、ということで勲章をもらえて英雄になる奴もいたらしい。

ぜひとも彼らもその枠に収まってほしいものだ。

多くの場合は降格もしくは退職だが。

 

一応手を合わせて心の中で「ご愁傷様」とだけ唱えてから、屋敷への侵入経路、3階の窓を見上げた。

 

 

 

 

 

首にかかるペンダントが重い。

 

高級なペンダントっていうのは、どうしてこうも肩が凝る物が多いのかしら。

私ならもっと軽くて、動きやすいものにお金を払いたいわ。

 

でもこれを守り切ってみせたら、お父様は私を外国に連れて行ってくれると約束してくれたわ!

男に二言はない!

 

「絶対、ぜーーったいに、守ってみせるんだからーーっ!!」

「僭越ながら、守るのは私で御座います、クレアお嬢様。」

 

部屋のベッドで両腕を上げて意気込んでみたら、いつの間にか専属執事のアレンがいた。

彼は小さい頃から私に仕えていてくれるけれど、本当に気配がない。

これが“空気が薄い”ということなのかしら?

 

「いるなら言ってくれない?」

「失礼しました。けれど、この程度も分からぬようでは、かの怪盗には敵いませんよ」

「知ってるわよ……」

 

あの怪盗はどこに潜んでいるか分からない。

気配もだけれど、人に化けるという意味でも。

それに騙されてしまう可能性を、彼は心配しているんだ。

私はとってもとっても、不本意だけれど。

 

アレンは露骨にため息を吐いて、テーブルにティーセットを置いた。

彼の紅茶は美味しいの!

 

「よく眠れる紅茶です。お役目こそありますが、クレアお嬢様は気にせずご就寝ください。」

「それじゃこっそり盗られてこっそり終わっちゃうよ!」

「畏れ多くも、私がこの部屋に残り見張っておりますので、ご安心ください。」

 

しれっと何でもないことのようにそう言って、紅茶を差し出される。

眠るレディの部屋に居座るなんて、なんてこと!

紅茶美味しいわね!

 

「いいですか、彼の者は外の警備如きで止まるような輩とは思いません」

「知ってるわ。だから鍵をかけたのよ」

 

“鍵”とは、チェーンの物のこと。

もし、怪盗がこのペンダントに触れることがあっても守れるようにしてあるのだ。

勿論これを外さないことには頭を通すことは不可能。

つまり私を動かさなければならないということで、そうなればアレンがすぐどうにかできる。

チェーンを切ろうとしても、ただではびくともしない頑丈さを持っている。

ペンチ、マッチの火、そんな程度では傷の1つもつかないだろう。

完璧な守りなの!

 

人差し指を天井に向けて立ててくるくる回す。

目を閉じちゃったらそれは説教モード。

聞いちゃったら最後、気を失っちゃう。

 

「ここに入ってくるぐらいは想定するべきです。ご当主様はクレアお嬢様にチャンスを与えるぐらいの気で楽観視してらっしゃいますが、クレアお嬢様に危険が及ぶ可能性は十二分にあるのです。それをご自覚し、気配に気づき起きるぐらいの気概を見せ…」

 

「寝てるし……」

 

 

 

 

 

みんなが寝静まった深夜。

 

たった今警備さえも眠らせた私は、バルコニーに下り立ち、窓の鍵に手を掛けていた。

ガラスを割るなんて、無粋なことはしない。

あくまでスマートに、ピッキングだ。

幾度もやれば師を持たずともものの数秒でできるようになる。

 

少し誇らしく思いながら静かに窓を開ける。

少しの隙間から中の様子を見れば、目立った人はいない。

クレアもベッドの中ですやすやと眠っている。

 

もういいか、と勢いよく開ける。

こつん、とヒールを鳴らして一歩踏み出した。

 

そしたら、目の前に迫る刃。

 

3歩後ろに下がることで避けてみた。

剣を持つ男は忌々し気に舌打ちをして剣を構え直した。

 

「アルマリア家を狙ったこと、心底後悔させてやるよ。」

 

成程、こいつが例の厄介な執事か。

確かに寝てる上司の私室で帯刀して待機してたとは、想像もしていなかった。

 

私も懐からナイフを取り出し、構える。

私用に作られた特別製ナイフだ。

 

「ナイフで何ができる。俺の強さはそんなちっぽけな物じゃ止まらないぞ。」

「ナイフでアルマリアのペンダントを頂戴できる。最後の仕上げだ。」

 

私の返答が気に入らなかったのか、男はまた突っ込んできた。

今度は横に逸れて避ける。

すぐさま薙ぐように横振りされたものは、ここからさらにバックステップしてさらに部屋に入り込む。

再度構えて斬りかかってくるのを尻目に、私はクレアに近づいた。

ナイフを振り上げれば、男の動きは止まった。

 

「貴様、人質にとるつもりか…!!」

「だからなんだ。」

「人を殺さない信条はどうした!」

「ああ、殺すつもりはない。命以外はどうなっても知らんが。」

 

ぎり、と歯ぎしりの音がこちらまで聞こえてくる。

なんと哀れな、剣をとり落としそうな勢いだ。

 

クレアに手を伸ばし、ぴくりと反応したところだ。

ナイフをその足に向けて投げた。

 

速効性の眠り薬(薬とは名ばかりのほぼ毒物だ)が塗り込められた“特別製”だ。

 

「きっさま………」

「おやすみ」

 

挨拶を済ませると、ぱたりと寝てしまった。

一応剣はベッドの下の奥の方に滑り込ませて、さて私はお宝の回収タイムだ。

 

…と、いっても。

さっきの少しの戦闘で大きな音を立ててしまった。

誰かがここを見に来るのは時間の問題だろう。

ではどうするか?

ではこうする。

 

「よいしょっと。」

 

クレアを慎重に横抱きにする。

ペンダントの輝きは失われていない。

これなら1度持ち帰ってゆっくりと外してもいいだろう。

 

それにしてもこの子起きないな。

恐ろしく眠りが深いのか。

まあいい。

 

 

そして私は再び新聞の一面を飾ったのだ。




この後起きたクレアはカルベッドに一目惚れしてついていく。
「邪魔ならば、このヒールも、スカートの裾も、髪も、全部とっぱらってやりますわ!」
って言って本当にやる。

ガルベッドは相変わらず守銭奴のクールだし、アレンは怪盗絶対捕まえるマン(クレア厨)になる。

元はもっと艶めかしい感じだった
機会があったらまた投稿したい
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