思いついた作品群   作:桜の果物

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普通の男の子→雨が好きな女の子


傘 ※※※

ずっと、雨が降っている。

ピンク色の傘を差して、僕は建物から出た。

 

 

 

「雨、降らないかな」

 

晴天を見上げてる先輩が、眉を八の字に曲げて呟いた。

 

「今日は1日晴れだって、予報が言ってましたよ」

「わかんないじゃない?外れることもある」

 

大きく鳴る古い扉を閉めて、先輩の隣を陣取る。

頼まれた焼きそばパンを渡して、僕はサンドイッチの袋を開けた。

 

この学校の購買では焼きそばパンが大人気で、争奪の様子はまさに戦争。

そこに突っ込ませる先輩は僕にとっては鬼畜の極みなのだけど、惚れた弱みで突っ込む僕も僕か。

 

「あーあ。雨、降らないかなぁ…」

「今日も持ってきてるんですか?」

「当たり前じゃない。……あー、焼きそばパン美味しい」

 

そこは雨じゃないのか。

 

先輩は雨が好きだ。

それはもう、毎日傘を持ってくるほど。

 

1度見せてもらった傘は、ところどころ色が落ちていて、でも、破れているわけではない、長い事大切にされてきたと分かるピンク色だった。

あしらわれている花柄は、先輩のフワフワとした雰囲気にとてもよく似合っている。

 

雨が好きなのか、その傘が好きなのか。一目瞭然だ。

 

だから僕は雨を求める理由なんて聞くことなく、毎日天気予報を伝えるだけのお昼休みを送った。

 

 

 

扉の不快な音は、かき消された。

 

今日は大雨。

 

夜を感じる暗さと、本日5度目の雷の音。

 

まさか、と少しの予感がしていつも通り屋上に来てみたら、まさかもまさか。

 

「……何してるんですか」

「雨、降ったね」

 

大雨に濡れながらいつもよりこころなしか輝いている笑顔を僕に向ける先輩。

 

アホですか、とか、風邪ひきますよ、とか、言いたいことは色々あるわけだけど。

 

その全てを飲み込んで、僕も一歩踏み出した。

 

「…濡れるよ?」

「先輩だけ怒られるのも、嫌なんで」

 

とても理不尽で、意味不明だけれど、ちゃんと説明することなんてできなくて、僕はそう言った。

 

すると先輩はまるで「困った後輩だ」なんて言うようにはにかんで、空を見た。

僕からすれば「困った先輩」なんだけど。

 

でもその雰囲気はとても近寄りがたい…いつものフワフワした雰囲気とは違った、なんとも言えない、神秘的、というか。

つまり、言葉にはできない、近寄りがたさがあった。

 

しかし僕には「惚れた弱み」という弱点があることを忘れてはならない。

 

そんな雰囲気の先輩でも美しいと思えて、けど、やっぱりいつもの先輩も好きで。

いつもみたいに雨を望んで、望みながらパンを食べて、美味しいって言って。

 

「今日は負けたので、メロンパンです」

「わぁ、雨の中では食べられないよ」

「じゃあ中入ってください」

「んー、メロンパンも捨てがたいけど…やっぱ雨だよ」

 

しばらく日照りで、久しい雨に高揚してるらしい。

 

カエルかよ。

 

「君は戻ったら?今ならまだ言い訳、できるよ?」

「どんな言い訳ですか。この雨の中屋上にでる馬鹿なんて、先輩ぐらいしかいませんよ」

「面白い冗談だね。君もでしょ」

 

言外に、僕に戻れと、戻ってほしいと、笑う先輩。

 

でも、気付いたから、知ってしまったから。

 

貴女が雨を望む理由を。

 

雨に紛れて流れる貴女の悲しみの理由を。

 

「…僕は、先輩の声が好きです。だから、中でお話させてくださいよ」

「えー?私は雨の中でお話する方が好きだなー」

「違う。それは傘の中、でしょう?」

 

初めて、驚きで目を丸くした先輩を見た。

でもそれは一瞬で、またいつもの笑みに戻る。

 

悲しいなぁ、なんてどこか楽観的に考えちゃうけど、僕はぐっと目に力を入れて先輩を睨む。

 

先輩は、悲し気の混じった笑みを見せた。

 

あ、また新しい表情だ。

 

「私の傘。私の下駄箱から1番近い傘立ての、1番奥にあるから」

「…僕は差しませんからね。あんなピンクの傘、恥ずかしいですから」

 

嫌な予感ばかり。

 

先輩は手すりに手を掛けて、また空を見上げる。

 

「それじゃあ、唐傘お化けになっちゃうのかな?結構想い詰まってるよ?」

「唐傘じゃないでしょ。強いて言うなら布傘お化けです」

 

どっちにしてもお化けなんだ、って、まだ空。

 

これじゃ埒が明かないなって、初めて、その冷たそうな腕に手を掛けようとした、その時。

 

「先輩っ!?」

「私ね、前から雨といっしょになれたらなって、思ってたの。可愛い後輩君に止められても、この夢は諦められないなあ」

 

やっとこっちを見てくれた、なんて思う暇なんてない。

 

手すりを越えた向こう、空のようで地上へと落ちる、一歩手前。

 

嫌な予感ほど、当たる。

 

今までの全ての茶番が、これへと向かうためのものだったなんて。

 

「僕は、貴女の声が好きなんです!だから、傘の中に入れてくださいよ!!」

「ごめんね」

 

隣に入れる人は、1人だけだって。

 

そこまで言わない先輩は、やっぱりとても優しくて、僕をからかうのが上手だ。

 

止めても無駄だって、誰かにとられるぐらいならって、僕も一緒にって。

頭の中で色んな考えが浮かぶけど、先輩の瞳はただ1つを語っていた。

 

「……後悔しても、知りませんから」

「そんな。私は信じてるよ」

 

最後に、なんの未練もないって、にっこりと、今まで見た事もない、最上級の笑顔。

 

 

 

それが最後に見た表情だなんて、僕は幸せ者なわけだ。

 

 

 

久々の雨。

 

差した傘は男の僕には似合わない、ピンクに可愛らしい花柄。

 

何度か友達にからかわれたりもしたけど、1度だってこれを捨てようだなんて思ったことはない。

 

ところどころ色が落ちてはいるけど、穴が開いてるわけじゃない。

骨のどこにも錆はない。

 

まあ、「後悔しても知らない」って言ってるんだから、ぞんざいに扱ったところで恨まれることはないだろうけど。

 

けど、「信じてる」って言われちゃったら、僕の弱点を突いたも同然。

 

先輩には敵わないなあ、と傘を回した。




別のところで出したもの

雰囲気や展開が好みで、キャラクターに思い入れはない
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