今の時代は世界じゃない、地球じゃない、宇宙じゃない。
天界、と呼ばれる別の次元にある。
上記に上げたそれらが絶望に包まれた何千年前、天界との扉が開かれた。
人が神と崇めるものが手を差し伸べてくれたそうだ。
……と、私は歴史の授業で習った。
最近の私には日課がある。
授業で連れられたときに初めて見た、犯罪人の収容所に行くことだ。
収容所といってもあまり危険人物はいなくて、広場も公開されてる。
さすがに透明なバリアみたいなので保護されてるけど、交流はできるから色んな人が見に来ている。
そこに、私の楽しいお友達がいるんだ。
「こんにちは」
「ああ、君か。こんにちは」
「君か、って言えるほどあなたに会いに来る人いるの?」
「痛いトコ突くね」
クスクスと笑うその表情にイラっとくるのはいつものことで、もう慣れた。
今ではそれも快感で、もっと見たいとさえ思う。
でもやっぱりイライラするから、あまり見たいとも思わない。
矛盾してるね。馬鹿らしい。
彼は大罪を犯したのだけれど、その人柄や行為から危険ではないと見做され、ここに来ることを許可された、らしい。
らしい、ということは彼に聞いただけなんだけど。
でも彼は毎日受刑してるから、本当なんだと思う。
しかもその刑というのも大分キツイようで、同じ者は大体気がおかしくなるらしい。
ここでもらしい、なんだけどね。
そんな彼はここでお友達らしいお友達もいなくて、私だけ。
ほんの少しの優越感。
そんなつまらない彼にわざわざ会いに来る理由。
それは、私のつまらない日常に刺激的な話を添えてくれるから。
「ねえ、今日はどうやって死んでしまうの?」
「君はそればっかりだ。今日は凍死だって」
「凍死?随分と楽ね」
「僕は嬉しいけどね。苦しいの嫌いだし」
彼の受ける刑。
それは繰り返される死。
生と死を繰り返すだなんて神の所業で、一番重い刑であることは言うまでもない。
顔も平凡、性格も平凡な彼がどうして、と思うけど、彼に何度聞いても教えてくれないから、私はもう諦めた。
どうせ私には思いつかないような重罪を犯したんでしょ。
できることなら死の瞬間を見てみたいものだけれど、まあ無理なのよね。
そして今夜も、彼の苦悶の表情を想像しながら眠ることになるのだ。
「ねえ聞いて。僕、そろそろ出れるんだってさ」
着いて早々、彼は喜々として言った。
私にとっては訃報。
でも、彼にとっては新たな人生の幕開けといったところだ。
だから表面上であったとしても「おめでとう」と返した。
「で、今日はどんな死に方するの?」
「君って取り繕うことを知らないね」
「おめでとうって言ったじゃない」
別に彼が出れようが出れまいが今日の死因に関係はなく、さっさと教えてほしいものだ。
そして彼は苦笑いを浮かべたままいつもみたいに言った。
「今日は焼死だって」
「あら、辛いってウワサの。見たいわ」
「駄目。君にあんな姿見せられないよ」
にっこりと、そこらの男じゃ言えないセリフを吐く。
そもそもあなたの意思以前に一般公開されてないわよ。
わざわざツッコむのも面倒だから言わないけど。
焼死だなんて、いつも以上にイイ表情をしてるんでしょうね。
想像すれば胸が高鳴って、眠るのがとても楽しかった。
「今日、出れるんだ」
「あらそう。てことは、面白くない日ね」
「酷いなぁ」
でもいつもの苦笑じゃなくて、満面の笑み。
だって出れる日ということは、死因は分かるもの。
「安楽死」
「聞いてない。知ってる」
「嬉しくなさそうだ」
当たり前のこと言って笑う彼はまったく面白くない。
最期なら、どうせなら。
「今日の質問、最期の質問、させてよ」
「しょうがないなあ。なに?」
「あなたの犯した大罪」
聞くのが楽しみで、私も彼と同じように満面の笑みを浮かべた。
それを見れたことが嬉しかったのか、彼も頬を染めて私を見る。
つくづく単純に私が好きだってわかる。
今まで一度も言ったことがないからか、無駄に出し渋ってる。
でも最期だからか、決心したように目を閉じた。
「自殺」
ああ、それは確かに大罪。
「こんな仕打ち受けちゃうんだから、君はしない方がいいよ」
「当たり前じゃない。私は見る専門なの」
「君のそういう好奇心はなくした方がいいと思うな」
「生憎」
雰囲気と設定重視