どうやらランキング入りもしたようで、お気に入りの方も同じく……。
戦々恐々としながらも、やはり嬉しいものは嬉しいです。
やっぱみんな一夏ちゃん好きなんすねぇ!
皆様、本当にありがとうございます。これからも精進して参ります。
以下、評価してくださった方々をご紹介!※順不同
サレナ様 月神サチ様
評価していただいてありがとうございました!
「はぁ……」
とある施設の視聴覚室にて、俺はとてつもなく重苦しい溜息を吐いた。何が原因かと聞かれれば、ハッキリとした原因はわかっている。
しかし、なんでそれが原因で落ち込んでいるのか自分自身でもよくわからない。そのため、こうして無駄に二酸化炭素を排出するばかり。
俺はどうにもかなり落ち込んでいるらしく、今日ほど集中ができていない日はない。まだISに乗る日でなくてよかったとだけ言っておこう。こんな精神状態では本当に怪我でもしていたかも知れない。
今日は朝から代表候補生とはなんぞやという心構えというか、あるべき振る舞いのようなものを教え込まれるという地獄のようなメニューをこなしている。
IS学園は多国籍の優秀な人材が集う。俺に阻喪でもあれば、それは日本の品格を問われることになるのだから確かに必要なことだ。
だけど何も一日かけてやることじゃないと思う。俺はそれなりにどこの国のやつとも仲良くできる自信はあるぞ。
まぁ、喧嘩っ早いというか、わりと頭に血が上りやすい部分があるというのも否定することはできないが。
「はぁ~……」
そしてまた俺は溜息をひとつ。今日だけで通算何回目だろうか。
机に突っ伏しながら携帯のカメラロールを起動。画面をスライドさせ、とある写真が映されたところで指先を止める。
それはハルの写真だ。晩飯ができたから部屋へ入ってみると、よほど絵を描くのに集中していたのか目もくれなかった。ゆえに一枚撮っておいたもの。
ハルはカメラを向けるとぎこちない笑みと控えめなピースを繰り出す。要するに自然体なんて撮影できたものじゃない。
そのため真剣な表情ではあるが、自然なハルを捉えたものとしてはとても貴重なのだ。こうしているとイイ顔しているのに、どうして普段はあんなにも難しい顔つきなんだよ。
(まったく、ハルはしょうがないやつ――――)
『別に朝食くらい今までどおりだって――――』
「……はぁ」
そこらあたりまで考えて、朝の一幕が頭へ過った。本当に思い出すごとに溜息しか出ない。ハルの困ったような顔を思い出すたびにだ。
というかなんだ、どうして俺はそんなので落ち込んでるんだよ。そもそもどうして朝食を用意しようと思ったのかも自分でも謎だし、わからないことだらけである。
別にハルが俺のためを思ってそう言ったんだから、じゃあ今までどおりでいいよなって、それで終わりでよかったのに。
いや、実際にそう伝えたけど、なんというかニュアンスが違うと思う。あの時ハルも何か言おうとしていたのに、無視するようなかたちで出てきてしまったし。
(だって仕方ないだろ……)
あれ以上あの場に居るのが怖かった。ハルが気遣ってくれた言葉を、なんか嫌だと思ってしまったのだから。ハルの言葉も嫌だったし、そう思っている俺自身も嫌だった。
重ねて言うが、自分でもなぜそう感じたのかまるでわからない。俺の心にはモヤモヤが募るばかりで、それを陰鬱と思うたびに溜息が止まらない。
このままではまずいな、ハルとどう顔を合わせていいのかもわからない。また逃げたくなる気持ちが沸いて出ては困るぞ。これ以上、ハルを困らせたくないしな……。
よし、この休憩時間中になんとか打開策を見つけてみよう。こういう時には誰かに相談するのが一番だ。ハルを見てると一人で悩むのは無駄って思い知らされる。
さて、ならばどうするべきか。電話帳や無料通話アプリ等々からふさわしそうな人物を捜していると、ある名前が目に留まった。
(悪くないかもな)
その子は同い年の女子で、同じ志を持ったゆえに知り合ったIS関連の友達である。大人しめな子なため当初は苦労もあったが、今では十分心を開いてくれていると思う。
というかそれ以外にもそれなりにいざこざがあったのだが、今それはおいておくことにしよう。なんといったって、二人そろって代表候補生に選出されたのだから。
なんでも今日は家の都合でどうしても予定が入れられないのだとか。詳しく詮索したことはないけど、なんかすごい家柄っぽい空気を感じずにはいられない。
それなら今日来られないのは無理もないと思う。もしかしたら日中ずっと忙しいかもしれないが、話しかけることだけはしておこうじゃないか。
【ちょっといいかな?】
某無料通話アプリにそういうメッセージを送ると、その数十秒後には既読がついてどうかしたのかという返信が。
時間があるかを問いただすと、またしてもすぐこういうやり取りをするくらいならと返信が。ならば申し訳ないがと前置きしてから、相談があるとメッセージを送る。
『彼のこと?』
【なんでわかったの?】
『彼のことばかり話すから』
まだ相談があるとしか送っていないというのに、それがハルに関する話題ということは向こうからすればおみとおしのようだ。
思わずどうしてわかったのかと返すと、彼女は俺がハルのことばかり話題にするからと言う。……そうか? そこまでハルのことばっか話してるわけではないと思うが。
まぁそれはいい。正解なのだからそれで合っているということを伝えてだな。……よし、ようやく本題に入れるな。
さて、ならばまずどこから話すといいのやら。長くはなってしまうが、俺の朝の心境から遡るしかないかな。じゃあ、まずどういうわけかハルの朝食を用意したくなったところから――――
そうやって一方的に相談の内容を送ることしばらく、最後はそれらすべて自分でもなぜそういう心境なのかわからないという旨で締めくくる。
するとさっきまでの反応はどこへやら、既読が付いたきりしばらく返信が来る気配がない。もしかすると、手が離せない状況になってしまったのだろうか。
そうやって待つこと数分後――――
『あのね』
【うん】
『本気で言ってる?』
【うん、本気】
本気で言ってるって、そりゃ相談なんだから冗談なんて言ってるわけないだろうに。というか、熟考したうえでその確認は今更過ぎやしないだろうか。
質問の意味はよくわからないながら、とりあえず本気であると返しておく。するとまた既読はつくが返信がない状況が続いた。
テンポがよかったり悪かったり、いったいどうしたというのだろう。やはりタイミングが悪いのに無理して付き合ってくれているのだろうか。
どことなくハルと似た部分がある彼女だが、ハルの傾向を見るにそういう場合は向こうから解散の意を示すことは絶対にないからなぁ。
ならばここは俺の方から大人しく退いておこう。そう考えた俺は、やっぱりまた今度で大丈夫と言う文字を入力し始めていた。すると、そのタイミングで返信がある。
『答え、ひとつだと思う』
【わかってるなら教えてほしいな】
『私からの指摘はなんだかなって気持ちもある』
答えはわかっているのに指摘がしづらいって、ますますもって意味不明だ。もっとこう、遠慮せずにズバッと言ってくれればいいものを。
でもなんか、ハルが言いたいことを言えないような状態とは少し毛色が違う気がするな。文章での会話ではあるが、答えが見えているのは間違いなさそうだし。
ならもいいじゃないか、俺は一刻も早くその答えがほしい。そうでなければハルに嫌悪感にも似たなにかを抱き続けなければならなくなる。
そんなのは間違ってもありえてはならない。許されていいはずはない。ハルは俺の幼馴染で親友で兄弟で家族なんだ。もはや半身とも例えていいアイツを拒絶する要因など、一刻も早く抹消しなければならない。
だからこそ俺は、とにかくその指摘とやらをしてほしいという意思を伝えた。それこそ文章だけで俺の覚悟が伝わったかはなだは疑問ではあるが、しばらく待っているとこんなメッセージが。
『恋』
【広島カープ?】
『反応が斜め上にもほどがある』
【誤字かと思って】
『その鯉じゃない』
たったひとこと恋と送られてきたもんだから、てっきり誤字かと思ったが違うらしい。そういや別にスポーツに興味があるやつでもないしな。
はて、それならいったいどういう意味でコイなんだろうか。そもそもコイでハルに嫌な感じを抱いたってのもよくわからん。
すると今度はURLが添付されたメッセージが飛んできた。訝しむようにそのURLをタップしてみると、どうやら辞書サイトのものだったらしい。
ふむふむ、なになに? こい【恋】 特定の異性に強く惹かれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること。恋愛。「恋に落ちる」「恋に破れる」……とな?
なんだそれは、もしかして俺がストレートにハルに恋をしているとでも言いたいのだろうか。いくらなんでもそれは話が飛躍し過ぎだろ。
なんてったって、男の時でさえ初恋はまだだったんだぞ? 確かに可能性は大いにあるみたいな話はおばさんとしたけど、それはあくまで例えであって――――
(例えであって……)
俺があれ以上あの場に居るのを怖がったのは、ハルに自分が必要とされていないかもと思ってしまったから?
なんとなくハルを嫌だと思ってしまったのは、自分のために頑張らなくてもいいと言われたから?
そもそもハルに朝食を用意しようと思ったのも、ハルに美味しいって言ってもらえたら嬉しいのも、ハルが前向きになりつつあるのを自分のことのように思えるのも。
それだけじゃなく、男のときよりも楽しく生きているのも。ハルと共にあれることを特別なことだと思えるようになったのも全部――――
俺がハルを好きって仮定するなら、なんとなくつじつまは合ってしまうんだが。
(え? え? ちょっと待て、待ってくれよ……)
もしかしてさっき自然体なハルの写真を見てたのもそうなのか? 胸が熱かったり切なかったり苦しかったのもそのせいだって言うのかよ。
っていうか、送られてきた辞書のサイトに切ないまでに想いを寄せるって書いて――――そう考えていると、まるで火でも着いたかのように顔へと熱がたまっていくのがわかる。
服の胸元をはたいて風を送ろうと、手で扇いで風を送ってもその熱はいっこうに収まらない。俺の混乱と羞恥はそれだけ大きかったのだろう。
そうだ、元男としてはやはり混乱が大きい。俺の想いが本物だとして、自覚がなかったものだからそのぶんの衝撃も大きいというものだ。
俺はもはやいっぱいいっぱいの状態となってしまい、目元からはジワリと涙が滲んできた。どうするんだよこれ、こんなのますますハルに合わせる顔が――――
ピリリリリ……
「うわぁ!?」
そんな折、突然に携帯が着信を知らせた。ディスプレイに表示されていたのは、ハルという文字。それを見たとたん、通話を切ってやりたい衝動がわいてしまう。
もちろん朝のやりとりが気まずいからではなく、たった今不確定ながらとんでもない事実が発覚してしまったからだ。
電話を無視することもできる。きっと、ハルは忙しかったんだろうと考えるはずだから。しかしここで通話を切ったとして、俺の帰るべき場所にはハルが待ち受けているんだ。
それではますます気まずさも加速するばかり。問題を後に残すと更なる問題が積まれていくものだ。そう自分に言い聞かせた俺は、通話開始の表示を恐る恐るタップした。
「も、もしもし」
『えっとナツ、時間とか大丈夫かな。どうしても話したいことがあるんだ』
「う、うん、今ちょうど休憩中だから大丈夫だよ」
『そっか、わかった。なるべく手短にするから』
自分の気持ちがハッキリとしない以上は、想いを向けている対象かもしれないと無駄に意識してしまう。おかげで普段のハルみたくしどろもどろだ。
でもハルは今朝のことが気まずいから程度にしか思わないだろう。というか、そもそも話したいことっていったいなんなのだろう。
あぁ、余計なことを考えると心臓がうるさくてしかたない。……この動機、というか胸の高鳴りも、ハルの声を聴いているから……なんだろうか。
もはや何がなんだかわからないが、ハルがどうしてもと言うのだからそちらに集中しないと。戸惑いながらも承諾の返答をすれば、安堵からくる長い吐息が受話器越しに聞こえた。
『あのさ、朝の話なんだけど』
(やっぱりそれか……)
『ナツの頑張りを無下にするようなことを言って、本当にごめん』
「え? そんな、気にしてないこともないけど……。と、とにかく、謝るなんて止めてよ」
ハルの切り出しはだいたい予想通りで、朝のことで話があるとのこと。俺としてはもう触れないでそっとしておいたほうが楽だと思っていただけに、またしても陰鬱な気分が過る。
何を言われるのかと待ち構えていたら拍子抜けもいいところ。頭を下げながら言っているのではと想像してしまうほど、そのくらい神妙な謝罪をされた。
確かにちょっと思うところはあったけど、やはりハルの世話は俺がしたいからやってる。だから謝られるのは少し違うような。
気にするなと言ってみるものの、ハルはそれでもと、朝の件はすべて自分の過失だと譲らない。ハルがここまで頑ななのは珍しいことだ。
『それでナツ、自分勝手って思ったら怒ってくれて構わないんだけど……』
「随分な前置きだね……。どうしたの? 改まって」
『本当にナツが可能な範囲で構わないんだ。けど、なるべくなら、その、ナツの手料理を食べたいなって、そう、思ったから』
「…………」
謝罪の次はすさまじく腰の低い前置きだった。自分勝手なんて、ハルはもっとワガママを言ってくれていいくらいだぞ。
というか俺がハルに対して怒った経験がそもそもないに等しい。それでも俺を怒らせてしまうようなことなのかと疑問に思っていると、ハルの口にした頼みはなんてことのないことだった。
だが俺が黙っているのは何もしょうもないとか思っているのではなく、ハッキリとした歓喜の念が胸の内に渦巻いているから。
さっき指摘されたことを考え過ぎているのか、これまであやふやだった熱く切ない感覚はより顕著なものに感じられる。
ハルが俺の料理を食べたいという言葉がただ嬉しくて、思わず服の左胸あたりをギュッと掴まねばやっていられないくらいだ。
『というか、それが俺の本心だったみたいでさ。食べたい癖して無理がどうのと誤魔化して、それが結果的に朝みたいなことになっちゃって……』
「…………」
『だからもう誤魔化さない。ナツ、いつも美味しいご飯をありがとう。ナツさえよければ、どうかこれからもよろしくお願いします』
普段なら俺がいっこうに返事をしないせいでしどろもどろになっているところ、ハルは堂々たる態度で自身の想いを伝えてきた。
こんなハルは見たこともなく重ねて言葉を失ってしまう。だが大きな原因はそちらにはなく、胸の切なさがより加速の一途をたどるせいだ。
あぁ……これはもう、本当に言い逃れができないのかも知れない。ハルの言葉がとにかく嬉しい。死ぬほど嬉しい。人生で最大級の喜びが俺を襲う。
そんなふうに思っていてくれたなんて、今の俺にとっては死体蹴りというやつに等しい。いや、むしろこれがとどめなのかも。
「……ハル」
『う、うん』
「晩ご飯、食べたいものとかある?」
『え? あ、あぁ、そ、それじゃあ……オムライス。トマトソースのやつで』
「わかった。でも、あんまりいいトマトがなかったら変えちゃうかも」
俺になんと言われるのを想像していたかは知らないが、ハルの返事はなんだか恐縮した様子だった。リクエストを聞かれるのは予想しなかったらしく、今度はハルが拍子抜けしたような声を上げる。
戸惑いながらも出てきたリクエストはオムライス。俺が知る限りでは間違いなくハルの好物の頂点に君臨する料理だ。
どうにもオムライスに人並外れた情熱を持ち合わせているようで、一度話させたらしばらく止まらないときもあるくらい。
ハルがそのくらい好きであることを知っているだけに、リクエストされると気合が入るものだ。腕によりをかけなくては。
でもリクエストがトマトソースだからなぁ。スーパーに新鮮なトマトがあればいいんだが。無理そうならケチャップソースでどうにか代替にならないだろうか。
まぁいいや、それもこれもすべてはスーパーに立ち寄ってからにすればいい。どちらにせよ副菜は考えなきゃなんないんだし。
「それじゃ、楽しみに待っててね」
『はい!? いやあの、なんだか話が急転し過ぎでは――――』
「……作るよ」
『へ?』
「ハルが美味しいって、食べたいって言ってくれるんなら料理くらいいくらでも作るよ。私も、ハルに食べてほしいから」
前向きになりつつあるにしてもそこはハルか。俺に文句のひとつも言ってもらわねば解決した気にならないんだろうが、もはや俺としてはスッキリ爽快とした気分だ。
なんだか通話が終わろうとしている雰囲気を察してのことだろうが、ハルは驚いたような声を隠し切れない。そんなハルに対して言うべきことはそれしかない。
もう、本当にそれだ。ハルが俺の手料理を食べたいと言ってくれたのなら、俺はそれに応えたいと思う。もちろん、ハルの希望通り無理のない範囲で。
なんでそう思うって、やっぱり俺がそうしたいからなんだろう。ここしばらくの俺がそういう想いを抱いてきたのは――――
俺が、ハルのことを想っているってことなんだと思う。
『そ、そう? えっと、じゃあ、残りも頑張って』
「ありがとう。ハルも何かしら頑張って!」
『何かしらって……。なら絵でも描いて待ってようかな。それじゃ、また』
「うん、またね」
ハルが俺の言葉の真意を理解することはないだろう。証拠によくわからないけど頑張ってくらいのエールがかえってきた。
だけど今はそれでいい。とても大事なことに気づくことができたんだ。あとはいつか思い知らせてやればいいのだから。
俺たちの別れの挨拶は朝とは異なり、いつものようなやりとりを繰り広げられることができた。お互い信頼しているがゆえのそっけなくなる挨拶。あぁ、やはり、当たり前というのはかくも尊い。
ハルとの通話を切ってから、またギュッと服の左胸あたりを掴む。刻む鼓動は異様に早く、過る感覚は熱く切なく、それでいてとても……温かかった。
「ハル……」
ポツリとハルと呟けば、今の俺にはそれだけで照れる要因となりうるらしい。自覚してしまえばこうも違うものなのだろうか。
それにしても、ハルのことに関する自覚が芽生えたと同時に酷く俺という一人称に違和感を覚えてしまう。確かに口にするのは私だったが、あくまで表面上のものでしかない。
「私……」
わたし……私……か。なんだか、初めて心の底から私を私と呼べた気がする。それまで演技としてしかカウントできなかった言葉が、突然すんなりとフィットするかのようだ。
それでも私が俺であった事実だけは絶対に変わらない。それでも、この胸の内に宿る想いにだけは嘘をつきたくはないじゃないか。
だから、私。せめてもの私。俺を知ってるハルに対する、精いっぱいの私でぶつかっていきたい。望み薄であることはわかっているけど、俺を完璧に私にしたハルには責任取ってもらわねば。
ああそうだ、相談にのってくれた彼女には感謝しておかないと。ハルから電話もあったし、それなりの時間放置したままじゃないか。
そこでたった今ハルから電話があったことと、問題が解決したこと報告しておく。すると末永くお幸せにとか返ってくるじゃないか。
物静かなくせして、けっこう面白い性格をしているというか、人をからかいたがるところがあるというか。まぁいい、別にムキになるようなことでもない。
気が早いと反論してから、しばらくは取り留めのないやり取りに終始した。やがて休憩時間の終わりも近づき、向こうも本格的に忙しくなるらしい。
お互いそれを把握し次第、私たちのやり取りは自然に終息へと向かっていった。適当に最後の挨拶を済ませると、それを期に返信は途絶える。
「ん~……よしっ、後半も頑張ろ!」
悩み事が解決したどころか新たな発見もあり、私としては大収穫と言ったところか。気分が晴れたと同時に背伸びをひとつ、それで更に心機一転できた気がする。
それから間もなく午後の部が始まり、引き続き代表候補生としてのありかたのようなものを説かれる。が、前半とはまた違った意味で集中ができずに再三注意を受けてしまう。
無論と言うかもちろんというか、ハルのことばかり考えていたせいだ。特に晩ご飯を美味しそうに食べてくれる姿なんかを想像してしまって。
委員会の人には悪いけど、もはや早く終わってハルに料理を振る舞いたいという想いが強かった。きっと注意を受ける私の顔は、だらしなくニヤニヤしてしまっていたのだろう。
けどこのせいで逆に長くなりでもしたら目も当てられないからね、うん。私は自分にそう言い聞かせ、意味があるようなないような話を必死に聞き続けた。
そして話が終わると同時に、頭を下げてからせっせと控室を飛び出す。そうして、全速力で自宅近くのスーパーへと向かうのだった。
(待っててね、ハル!)
一 夏 ち ゃ ん 完 全 陥 落
というわけで、ようやく【ハルトナツ】が始まった感じです。
ちなみに一夏ちゃんが晴人を好きになった最たる理由ですが、わけあって現在は核心に触れないようにしております。
ただ、いわゆる精神が肉体に引っ張られている現象は発生しているかと。
ハルナツメモ その6【半身】
一夏にとっての晴人、晴人にとっての一夏とは、大切な人物だとかそういう概念を超越した存在である。
前者は親に捨てられた経験から、後者は一夏が今の自分を作ってくれたという思いによるところが大きい。
そういった部分から互いに支え合ってこれまでを生きて来た二人は、これからも半身であり続けるのだ。