主人公の専用機についてここで軽く触れておきます。
じゃないと初戦で上手に描写し切れる気がまったくしませんので……。
「さてさて晴人くん、専用機とご対面といきましょうか!」
研究室と併設してあった更衣室で着替えた俺は、ブルーシートがかけられた何かを前に得意気な母さんを眺める。どうやら俺の相棒となるISは目と鼻の先のようだ。
俺は期待と不安が半々の心境である。期待に関しては男子特有の童心が影響しているから。不安に関してだが、どうにも隣に立つナツが訝しむ様子だからだ。
つまりブルーシートの上からでもわかる違和感を覚えている証拠であって、母さんの性格も影響してより不安を加速させる。
キョドッている間に母さんは前置きを終えたらしく、ブルーシートの端を掴んで俺へと差し出す。どうやら俺の手で露わにしろと言いたいらしい。
期待感に胸を躍らせ、消えぬ不安を抱きながら、腹を決めてブルーシートをはぎ取った。するとそこには、なんと言うか、素人目からでもわかる異形が聳え立っている。
「これぞ私作の第三世代型IS! この子の名前はヘイムダル! コンセプトは――――ってあらあら? 晴人くんってば反応薄いわよ?」
「いや、母さん。これ本当にIS……? なんていうか、いろいろバランスおかしくないかな。えっと、ナツ。ぶっちゃけこんなIS――――」
「こんな前衛的なデザイン見たことも聞いたこともない」
だよねぇ? 俺の前に聳え立つISは、銀と金、そして各所に虹色を散りばめた甲冑のようなデザインで、まるで重騎士のようなディティールだった。それだけならばそれで済んだろう。
しかし、あまりにも右腕が大きすぎる。それは太さにおいても長さにおいても言えることで、通常のIS七本ほど束にしたような太さであり、あまりの長さに指先が地面に着きそうだ。
まずこの
昨今のIS、母さんが言った第三世代機は胴体に装甲は存在しないのが主流らしい。しかしこのヘイムダルには、胸の部分にクリア素材で青く輝くXが刻まれた装甲が確と張り付いていた。
露出している部分と言えば腹部から太ももにかけてで、脚部装甲は膝あたりまで。要するにガッチガチのゴッツゴツの機体らしい。
「見たところ機動力を捨てた防御型って感じだけど」
「ピンポーン、一夏ちゃんせいか~い」
「それは、俺が上手くISを動かせないことを想定してるから?」
ISには絶対防御と言う機能が存在する。100%のものとは言わないが、操縦者の命を守るために生身への攻撃を防ぐ機能……だったと思う。
装甲が厚く多いということは、それだけ絶対防御は発動しにくい。つまり、もし俺が試合に出ても秒殺はされないための措置だと読んだ。
「ううん、それは偶然よ? だって晴人くんに合わせて造ったはずないじゃな~い」
「え、これ急ピッチで造った機体とかじゃ……」
「ないない! だってこの子、私が趣味で造ってた機体なんだもん」
「…………はい?」
「母さんとしては運命感じちゃうわ~。私が個人的に造ってた機体に愛する息子が乗ってくれるんだもの~!」
今この母親はなんと言ったろうか。趣味? 個人的に? ISのコアは諸事情により絶対数が決まっており、専用、汎用に関わらず467機しか造れないのに? その貴重な一機のうちひとつを趣味で?
俺は照れ臭そうにキャーキャー騒いでいる母さんを無視して、そこらで作業していた研究員さんたちに目を向けてみる。
すると向こうも遠巻きに視線を送っていたというのに、俺が目をやると同時に身体ごと視線をそらされた。この空間内で誰にやってもリアクションは同じで、この瞬間に俺は悟ることとなる。
母さん、変人と天才は紙一重のパターンのやつや……と。
というか父さん、趣味で造るからコア確保してってお願いを聞かんといて。そんでもって機体製造のゴーサインを出さんといて……。
「まぁ、その、元気出してよ。ほら、今に始まったことでもないし」
「ナツ、時として慰めほど残酷なことはないんだよ……」
「ほらほら、早くヘイムダルに乗っちゃって! 一夏ちゃんも白式の展開をお願い」
おお神よ。そんな調子で天を仰いでいると、ナツは俺の背を撫でながら気まずそうな励ましをかけてくる。
残念ながら今の俺にありがとうと返す余裕はなく、心底から疲れ切った声でそう言うのが精いっぱいだった。……あとでちゃんとありがとうと言っておこう。
そんな中母さんがヘイムダルへの搭乗を促してくるが、先にナツが白式なる専用機を展開するほうが早かった。いや、早いなんてもんじゃない。一瞬という言葉が遅く感じられるほどだ。
ナツの専用機、見た目の印象はまず第一に白。デザインはヘイムダルほどゴツくないながらも騎士の鎧ふうで、背中にある大きなウィングスラスターが目を引く。
それも相まってか、猛禽類のような猛々しさの中にも美しさを感じる。そのせいか俺は、思わず余計なことを口走ってしまう。
「……綺麗だな」
「ふぇっ!?」
「ああ、いや、ナツのことじゃなくて白式の――――あっ、いや、でもナツのこともそりゃ綺麗だって思ってるよ!? けど、その、なんというか、今のは別に、言葉の、綾的なあれのやつでさ……」
「わ、わわわわわかってるよ、大丈夫、大丈夫だから! でも、あ、ありがとぅ……」
いや、確かにナツ含めてというか、白式を纏うナツがとても綺麗だと思った。けどそれを無意識に口走ったからと言って、余計な弁明をしようとするから更に余計なことになってしまう。
しまったな、精神的には男なのに綺麗なんて言われたナツの心境はいかに。ナツが女の子になってけっこう経つせいか、俺も扱いに混乱してきてしまった。
それでなくても白スク水みたいなISスーツ着てて、ナツのボディラインが強調されて目を合わせられないというのに、ますますナツに視線を送れない。
二人して顔を真っ赤にしながらアワアワする空気感に堪えられなくなった俺は、急いでヘイムダルに搭乗して話を先に進めることにした。
「っ…………」
「晴人くん、気分が悪かったりしない?」
「……少し脳がピリッとする。けど、辛さはないかな」
「ただいま
俺の脳には初めてISに触れた際と同じような感覚が過るが、不思議と前とは違い痛みを伴うようなことはない。なんというか、馴染んでいくような気がする。
初期化に最適化……か。すなわちヘイムダルに俺のパーソナルデータを登録しているということなのかな。どちらにせよ、ゆだねる気でいたほうがよさそうだ。
そう感じた俺は、もっとリラックスして頭に流れる情報のようなものを受け入れる体勢をつくる。するとよりいっそう浸透していくような感覚に変わり、そして――――
「はい完了。後は
「な、何さその気になる感じは」
「んーん、なんでもないのよ。どのみち今説明しても晴人くんチンプンカンプンだろうからパ~ス」
「そ、そう……」
「ハル、感想はどんな?」
「うーん、なんか変なのがたくさん見える。それより前見てるのに背中が見えるという大矛盾だよこれ」
「アハハ、ハイパーセンサーの影響だね。白式でいうとこれ、ヘイムダルだとその角とかトサカっぽいパーツのことかな」
確かに今の俺の額には、角のようなトサカのようなパーツが貼りついている。右手が大きすぎて触れられないため、左腕を操作して触ってみた。
ハイパーセンサーというのはザックリ言うなら視覚補正等のサポートを行ってくれる装置らしく、今俺の目には白式がピックアップされて様々な情報が表示されていた。
そのうち意識しなくても自由に使えるとのことだが、今でさえかなり混乱しているのに本当に大丈夫だろうか。実際は戦闘中に確認しなきゃなんなくなるんだろうし。
「それじゃ晴人くん、ゆっくりでいいから歩いてみましょうか」
「え、えーっと、どうやって?」
「ハル、第三世代機はイメージインターフェースっていう機能が標準装備されてるんだよ」
なんだか今日だけで横文字の用語を沢山聞くな。
イメージインターフェースというのは、操縦桿やフットペダルを操作しなくてもISを動かせる機能のことらしい。むしろ第三世代機においてはほとんどの操作をそれで行えるらしい。
歩行、飛行、武装の展開等々をマニュアルとイメージインターフェース操作を併用することでセミオート的な運転が可能らしい。
それを可能にするのが名称のとおり操縦者のイメージ力。歩く姿をイメージすればそのとおり動くらしいが、果たして――――
(歩く、歩く……)
「うん、いいよハル、その調子!」
「な、なんだか変な感じだな。思ったよりも勝手に動いてるような気がする」
「これもそのうち意識しなくてもできるようになるよ。じゃ、頑張って練習練習!」
「ん、頑張る」
普段無意識に行っていることをイメージするというのはなかなか難しかったが、ヘイムダルは一歩前に踏み出してくれた。
それを見たナツは少しだけ地面から浮いてヘイムダルの左手を取る。右手が巨大なせいでバランスが取り辛かったから有難い。
よしよし、ナツのおかげでやり易くなった。ならば言うとおり練習あるのみ。IS学園に入学するまでそう時間もないのだから、せめて不格好でも飛行まではなんとかしたい。
ナツに手を引かれてそこらを何周も歩くことしばらく、ぎこちないながらもなんとかコツが掴めてきた気がする。
そこで手を離してもらってもう何周かしてみるが、躓くようなこともなく踏破に成功。まだ意識的にやっている部分はあるが、とりあえず母さんからは及第点をもらえた。
まぁ、時間がないのだからひとつのことに拘ってもね。今日はヘイムダルという機体についての説明が主なんだろうから、練習は今日以降ということにしよう。
「それじゃあ晴人くん、お待ちかねの武装面について触れましょう!」
「そう待ってもないけどね……。えっと、コンセプトについて言いかけてたけど」
「よくぞ聞いてくれました! その前に晴人くん、ヘイムダルってご存知かしら」
ヘイムダルねぇ。実のところ聞き覚えはあるのだが、それが何だったかに関しては思い浮かばなかった。そこで大人しく正解を乞うと、どうやら北欧神話に関係するらしい。
ヘイムダルというのは北欧神話の神々が地上とアースガルズ――――要するに神様の住む国とを繋ぐ虹の橋を守る番人らしい。
なるほど、それならヘイムダルやISスーツの各所に虹色が散りばめているのも頷ける。重騎士のような見た目についてもだ。でもそれとこの機体のコンセプトについてなんの関係があるのだろう。
「ヘイムダルの右腕装甲――――それは鎧であると同時に武装なの! その名も
「
「フッフッフ……。ズバリ!
「へ~……。なんかカッコイイような気が――――」
「へ!? えっ、おばさん、
な、なんだかよくわからないけど酷いらしい。ナツの異様な焦りようを見るにこれはよほどのことだな。
どちらにしろ
「
「どちらにせよめちゃくちゃだよぉ……。なんなのこのIS……」
「ま、まぁまぁ、別に存在しないってわかっただけでもいいじゃない」
よほどこのヘイムダルはいろいろとアレらしいのに、造った本人がもっとアレということにナツは頭を抱えだす始末。
俺には何が悪いのかはわからないが、母さんがあっけらかんと言いのけるとナツは少しばかりフラッと足元をぐらつかせた。
母さんの子だけに妙な罪悪感を覚えた俺は、巨大な右腕の中心あたりでナツの腰を支える。IS装着してるしでそう心配する必要はないと思うけど、まぁ一応ね、一応。
「で、晴人くん。武装展開をする前にコンソールを開いてくれないかしら」
「りょ、了解。え~っと……」
母さんに操作方法を習いつつ、ナツに手を借りながらコンソールを操作していく。
開いてほしいと頼まれたのは武装の状態を示す画面らしく、
さらにそれを開いてみると、確かに七つの項目が並んだ画面が表示された。……んだけど、様子がおかしいのは一発でわかった。
七項目のうち二つが緑色の鍵が開かれたようなマークがついていて、うち五つには赤で鍵がかかったようなマークが。これはつまり――――
「どういう理由かわからないんだけど、晴人くんが乗った途端に五つの変形機構にロックがかかっちゃって」
「えぇ……? そ、それは俺がふがいないって意味なのかな」
「ん~……半分くらい正解かしら」
ISと言うのは自己進化の可能性を秘めているらしく、専用機は乗っているうちに武装が構成、解放されることがあるらしい。
それは操縦者の経験値が一定まで上がると起こる現象らしく、これを俺に当てはめた場合、変形機構が解放されていくということになるようだ。
つまりヘイムダルのコンセプトである七段変形への道のりは遠いようで、全貌が明らかになるのは少なくともIS学園に入学してからのことになりそうだ。
「じゃ、解放されてる武装はここで試しましょ。晴人くん、名称未指定
「うん、確かに」
「叫んで」
「…………はい?」
「だから、
「……おばさん、イメージインターフェースでの変形は?」
「できないようになってるわね。だってそっちの方がかっこいいんだもの!」
今度こそ二人して頭を抱えずにはいられなかった。母親のぶっ飛びっぷりというか、研究者としてあるまじき発言にと言うか。
いや、ある意味では究極の研究者体質なのかも知れない。なんというか、ロマン的なものを追い求める姿勢とかそういう部分。そうか、母さんが趣味で造ったと言っていた所以か。
多分だけどこの機体、誰か他の人に譲渡する計画はあったのだろう。しかし、このアレっぷりを前に向こうから受け取りを拒否されたに違いない。
俺も正直なところ返したい気分になってきたが、そういうわけにはいかないのが今の俺の立場というものである。
ちなみにだが、武装の名称については俺が自由に変更できるらしい。それはどんな武装か、いや、どんな変形をするのか見てからにしよう。
それでは早速――――
「コ、
俺の声に反応してか、
手首あたりの装甲が半分浮いたような状態になると、手の甲のあたりにセーフティカバーのようなものがスライドして飛び出てくる。
そして浮いていたパーツが再びあるべき場所へと装着されると、セーフティカバーから赤色のエネルギーが放出された。
それは勢いよく回転していたが、時間の経過とともにゆっくりと止まっていく。ようやくその姿をじっくり観察できるというものだ。
薄く円形で細かいギザギザのついたこの感じは――――
「……丸ノコ?」
「その通り! その場で回転させるもよし。射程はそう長くないけど射出もできるわよ。あ、射出してる合間は他の変形ができないから気を付けてね」
「ツッコまない、もうツッコまない。ISの装備に丸ノコとか規格外だけどツッコまない」
母さんはISをどういう目で見ているのか。変形するって言われて武装って言うんなら普通は剣とか銃のことを考えるだろう。それが丸ノコって……。
いや、確かに剣とか銃に変形されたところでマトモに扱える気はしないけど、せめてもっと工具とかじゃなく武器にしてほしかった。
しかし困った。これでは他の変形機構に期待が持てなくなってしまったぞ。ナツなんかいよいよ現実逃避を始めてしまった。
とりあえず赤色にあたる武装、丸ノコの使用感を適当に試して次へ。どうやら色は青色らしく、俺はまたしても高らかに叫んだ。
「
そう叫べば、右腕に走っていた色が青色に変わる。
さきほどの順序とは逆にパーツが浮いてセーフティカバーが引っ込むと、右腕はいったん元の形状へ戻った。そしてそこからさらに変形。
右腕の中心あたりが大きく開き、そこから青色のエネルギーが放出される。それはいつしか湾曲を帯びた四角形を形どり、いわゆるタワーシールドのようなタイプの盾へと変形した。
「こんなガチガチな機体のうえに盾?」
「ナツもそう思う? というかこれ、大きさからしてハイパーセンサーなしじゃ前が見えないんだけど……」
「いやいや、その盾こそヘイムダルにとって肝心要の武装よ。それまでロックされちゃったらいろいろ詰んじゃってたかも知れないもの」
ヘイムダルが防御型機体であることは母さん自ら肯定した。だというのに、どうにもヘイムダルは盾を装備しているらしい。
それでなくても絶対防御が発動してしまう領域が腹部から太腿あたりまでしかないのに、この盾を構えている間は更にダメージを与えづらくなるだろう。
そこまで防御特化にするのは構わないどころか有難いのだが、これでは反撃の手があまりにも少ない。持久戦に持ち込んだところで、攻撃をせねば勝てるはずはないのだから。
母さんの様子からするにこの盾はヘイムダルの戦闘において鍵であるらしく、これがないと詰みとかそういうレベルの話らしい。
どういう基準でロックされたかはわからないけど、ヘイムダルも気を遣ってくれたのかな?
「晴人くん。さっきは七段変形って言ったけど、ヘイムダルにはもう一つ切り札になる変形機構が用意されているの」
「切り札……。そ、それっていったい……」
「ふふん、それはね――――」
中途半端な終わり方ですが、全貌は某イギリス代表候補生戦で明かします。
ちなみに専用機のモチーフになっているのは【ウルトラマンエクシードX ベータスパークアーマー】です。巨大な右手と脚部以外はだいたいまんまと思っていただいても。
どんな見た目かわからない? そんな人はウルトラマンXを劇場版まで完走してください。お願いしますなんでもしますから。
【ヘイムダル】
晴人の実母である恵令奈が趣味で開発した第三世代型IS。
とてもではないが常識的ISとは呼べない。それはデザイン、仕様などあらゆる要素においてと言えよう。
しかし、七段変形する右腕はクセの強い性能ながら、あらゆる局面に対応することが可能である。使いこなすことさえできればかなり猛威を振るうであろう。
が、現在はほとんどが未開放状態となってしまった。どうやら晴人の経験に応じて徐々に解放が進むようだ。
【虹色の手甲】
ヘイムダルの最大のコンセプトを担う、右腕装甲でありながら武装という異質な存在。
ただ大きな右腕ということではなく、パススロットを併用しつつも、むりくり七段変形の変形機構を詰め込んだために肥大化したようだ。
だが結果としては大きければ大きいほど良い。その理由は、恵令奈が語りかけた切り札と大いに関係している。
余談ではあるが、ネーミングは丸パクリ。かつて少年サンデーで連載していたマンガにおいて、主人公の使う必殺技の内ひとつだった。
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