ハルトナツ   作:マスクドライダー

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前三話があまりにもいちかわ要素が薄すぎる。
アホか。なんのためにこの小説書いてんだ。
と言う結論に自分で至ったので、いちかわ要素多め(当社比)でもう一話更新です。
IS学園に入る前にワンクッションといった感じの内容でお送りします。





以下、評価してくださった方々をご紹介!※順不同

如月提督様 the clock様 猫魈になりたい様

評価していただいてありがとうございました!


第14話 キミと共にあれること

 あれからヘイムダルも一次移行(ファースト・シフト)を果たし――――まぁ、サイズ調整があったくらいで大した変化はなかったけど、訓練も順調に進んでいる。

 IS学園への入学も週が明ければというところまで迫り、否応なしに様々な覚悟を求められる段階へと入ってきた。そんなとある休日――――

 

(こ、ここであってるんだよな……)

 

 俺は家でとっている新聞の折り込みに入っていた広告片手に、一人繁華街の美容室を前に右往左往としていた。まぁなんというか、少しばかりイメチェンをしてみようかなと思い立ってここに居る。

 根暗っぽく思われる最たる原因は、そりゃ俺のネガティヴ気質なんだろうけど、髪型とかでも少し印象は変えられるはず。

 ……少しずつでも変わっていこうと思うんだ。ISを動かせるということで俺自身が特別だなんてことを言うつもりはないけど、その事実をひとつのきっかけにできればと思う。

 ……そう思ったのはいいんだけど、やっぱり店の外観からして萎縮してしまう。こう、お前みたいな陰キャはお呼びじゃねーぜとでも言われている気分だ。

 

(いや、客商売なんだからそんなことは……。でもなんか店員さんとかもやっぱオシャレだし――――)

「あのーそこのお兄さん?」

「はいぃ!? す、すみません、その、営業妨害とかそういうのをするつもりじゃなくてですね!」

「そんなことは思ってないっすよ。こういう店は初めて……っぽいっすよねぇ。わかりますわかります、自分も初めてン時はビビりながら入りましたもん」

 

 緊張やら迷いやらで店の前を右に左に行ったり来たりしていると、突然話しかけられて心底から驚いた。

 慌てたせいで思わず謝罪しながら立ち去ろうとすると、声の主である店員さんは俺の肩を優しく掴んでグルンと回転させる。

 これでようやく目が合ったわけだが、店員さんの語るエピソードが嘘と思えるような見た目だ。えっと、悪い表現をするならチャラい感じ。

 でも接客するのに明らかに年下な俺に敬語を使っているし、キャラも朗らかでとっつきやすい。こういう人は無条件で怖いものだと思ってしまっていたけど、考えを改めなければならないようだ。

 

「で、どうします? 自分も無理にとは言わないっすけど?」

「あ、ああああの、じゃあ、えっと、よ、よろしくお願いします……」

「了解っす。そんじゃ、一名様ごあんな~い」

 

 ここまで来たうえに優しくされては断ることもできず、俺は動揺しながらも肯定して店内へと誘導される。一歩足を踏み入れると、やはりそこは別空間のようだった。

 髪を切ったりセットされている人たちはみんなして店員さんと楽しそうに会話しており、超絶陰キャの俺の場違い感が際立ってしまう。

 ひとつだけ救いがあったとするなら、席が空いていてすぐさまカットに入れたということだろうか。少しは周囲のことを気にしないで済む。

 

「今日はどのようなご用件で?」

「あ、あの、難しい注文かもしれないですけど、高校デビュー的なアレで。あ、でもあくまでイメチェンの範疇で済ませたいと言いますか、少し暗い印象が消えればいいなって……」

「ん~……じゃあ今の髪型を保ちつつ少し短くしましょうか。それだけでもかなり印象変わると思うっす」

 

 イメチェンだからって髪色染めたり、大きく髪型を変えるつもりは毛頭ない。しかし、ただ髪を短くしに来たのとは違うため、難しい注文をつけてしまう。

 しかも店を訪ねた理由が理由なだけに、恥ずかしさから早口になってしまいますます恥ずかしい。しかし店員さんは、気にした様子もなくカットを始めた。

 俺の性格を汲み取ってくれているのか、店員さんが話しかけてくることはない。だがこれはこれで気まずいというね。

 とにかく早く終われと思いつつ鏡の中の自分を見つめていると、同じく店員さんも鏡に映る俺を見ていた。

 

「あ、あの、どうかしましたか?」

「ん、すんません。いやね、なんかお兄さんどっかで見たことある気がするんっすよね~」

(や、やばっ……!?)

「ああ、ほら! なんか男でIS乗れるやつに似てません?」

「あ、あ~……そ、そうですね。実は似てるってよく言われるんですよ」

「やっぱりそうっすか? 世の中似た顔が三人は居るって言うっすよね」

 

 あ、危ない……! どうせ俺の顔なんて印象に残らないし大丈夫だろ、とか思って変装とかして来なかったけど今のはバレたかと思った。

 そもそも、変装なんて有名人気取りでしたくないんだよな……。やっぱり俺が特別であるとは思わないし思えないもの。

 でもまさか世界で唯一ISを扱える男が訪ねてくるとは思ってないのか、店員さんもあくまで似た奴と認識――――いや、どのみち俺が地味であるから気づかなかったんだろう。

 

「なんつーか、ちっとは世の中変わるといいっすよね」

「えっと、それはどういう意味で?」

「そいつが頑張ってくれりゃ、俺ら男の立場ももちっとよくなるかも知んないっしょ?」

「…………」

 

 何度だって言う。俺は特別なんかではない。ではないが、そうか、男性の人からは多かれ少なかれ期待を抱かれてしまうのはあるんだな。

 それをプレッシャーだとか思うつもりはない。人間、苦しい状況ならば期待をしてしまう生き物だろうから。

 ……そう思われていることだけは、忘れないでおこう。学園に行っても男だからと嘗められることもあるだろうが、せめて媚びたりとかはしないでおかなくては。

 

「……頑張りますから」

「お兄さんなんか言いました?」

「い、いえ! なんでも……」

 

 自然とやる気というか意気込みというかが口をついてしまったが、どうやら音量が小さかったせいで聞き取られはしなかったようだ。

 適当に誤魔化しつつ、後はピクリとも動かずひたすら完成を待った。店員さんも気軽に話しかけてくれるようになり、俺も緊張がほぐれたのか普通に会話は成立させることができて一安心。

 ……会話を成功させられるかどうかを考えるって、かなりコミュニケーション能力に問題のある発言かもな。

 とにかくそのまま待つこと数十分、洗髪もしてもらったところで全ての工程が終了したようだ。それを示すかのように、店員さんが散髪用ケープを外す。

 

「どっすかね。ご期待に添えたらよかったんっすけど」

「まさにイメージどおりですよ。すごいですね……」

「そりゃ自分も満足っす!」

 

 切る前と長さくらいしかほとんど変わらないが、自分の目から見ても爽やかな印象を与えるであろう髪型になっていた。

 腕のよさに驚きながら髪を弄っていると、鏡越しに店員さんはグッと力強くサムズアップを見せる。いやなんか、ホントにめちゃくちゃいい人で最初怖がってたのがますます申し訳ないな。

 まぁいいや、それはまた来店してお金を使うことによって償わせてもらおう。でもこの言い方だと金で解決してるみたいな感じだ。とにかく、会計を済ませてしまおう。

 

「あ、そうそう。自分こういうモンなんで、よろしかったら今後とも御贔屓に」

「わ、ありがとうございます。えっと、指名とかできるってことですか?」

「あんま大きい声じゃ言えないんっすけど、この店にもアレな女の人が居るんっすよ。電話とかして自分の名前出して予約してほしいっす。そしたら自分が対応しますんで」

 

 会計の前に店員さんが懐を取り出したのは、店の名前と電話番号、そして店員さんの名前が書かれた名刺だった。

 それをそっと財布にしまっていると、店員さんは目配せしながら女尊男卑主義の女性店員が居るのだと耳打ちしてくる。

 今日はたまたま店員さんの手が空いて、更に声までかけてくれてよかったものの、やっぱり追い返される可能性もあったみたいだな。この人に出会えたのはかなりの幸運らしい。

 

「あの、何から何までありがとうございます」

「いやいやいいんっすよ、お金払ってもらうンっすから当然っす。今度来た時とか、高校の話なんかを聞かせてくださいね」

「はい、その時はぜひ!」

 

 思わず感謝を述べると、店員さんはブンブン手を振りながら大げさだとでも言いたげだ。

 この人にとってはそれが当たり前なのかも知れないが、こんな丁寧な対応ができる人こそ客商売の鑑だと思う。

 きっと俺は、この人がこの店に居る限りはこの店へと通い、この人以外に髪を切られることはないだろう。そう思えるほど気持ちのいい接客をしてくれた。

 むしろ高校の話を聞いてほしいよホント。通う高校がIS学園だから話せないことの方が多いかも知れないけど、それでもだ。

 美容室ということでそれなりの金額を要求されるが、後に店員さんの給料になると思うなら安いもんだ。俺は躊躇なく臨時用の小遣いで支払いを済ませると、深々と頭を下げてから店を後にした。

 

(よし、店員さんのおかげでなんか調子が出てきたぞ!)

 

 見た目だけでも脱陰キャのつもりで外出したわけだが、とても気分がいいものだ。今の俺なら洒落た喫茶店なんかに一人で入れそうな気がする。

 まぁそれは当初の目的に含まれていないのでパスだ。次は服を見に行こうと思う。スケッチ以外で出かける時の、いわゆる余所行きの服を買おうと思う。

 俺がIS学園に行ったからと言って何か起こるわけもないと思うが、女友達くらい何人かはできるかも知れない。別に思春期特有の期待とは思わないでほしいわけだが。

 どちらにせよ俺の私服はあまりにもお粗末というか、着れればそれでいいの精神でこれまできたからヨレヨレになってしまった服なんかもある。

 それもイメチェンというか脱陰キャを目指すついでに、それなりにオシャレに気を遣ったような服なんかも買おうという寸法だ。

 よしそれじゃ、イメチェン目指して頑張っていこう。俺はフンスと大きな鼻息を鳴らして、趣味の合いそうな服の置いてある店を探しに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えっと、ごめん、どうしても一人で出かけたくてさ。昼までには帰ると思うから心配しないで』

「……って言ってたけど、ハルってば急にどうしたんだろ」

 

 冷凍庫に保存してある余ったご飯が溜まってきたため、チーズリゾットを作りながら一人そう呟く。

 リゾットのグツグツ炊ける音に負けそうなか細い声であり、誰か居たとして気づかれることはなかったろう。

 それはハルにやんわりと付いて来ないでと言われてしまったからだろうか。

 もちろんハルにそんなつもりがないのはわかっているが、好きになったせいか脳内乙女フィルターが作動してそう解釈して――――

 

(乙女、かぁ……)

 

 こういうことを考えると、どうしても心に暗雲が立ち込めてしまう。それはやっぱり私が男だったという事実があるせいだ。

 これはどういう感情に部類されるのだろう。やはり同性愛の類なのだろうか? 何も同性愛が悪であると言いたいわけじゃないけど、どうしても後ろめたさを感じてしまう。

 ハルは誰よりも男だった私を知っている。そんなハルに私が思いの丈をぶつけたとして、どういう反応が返ってくるのだろう。

 それを考えるだけで怖くて怖くてたまらない。ハルに至ってそんなことないとわかっているはずなのに、気持ち悪く思われたらどうしよう……とかさ。

 もしそうなら、きっと私は生きていけない。好きになってくれなくてもいい。ただハルに拒絶だけはされたくない。

 これはきっと、精神が男のままでもそう思っていただろう。だって、本当の私をわかってくれるのはハルだけなのだから。

 

(そうだよ、ハルに嫌われるくらいなら、こんな……こんな……)

 

 そこまで考えて思い出したことがあった。もうひとつだけ、似たような理由でやれていないことがあるから。

 それは単純明快、ハルにIS学園の受験日のできごとを謝ることができていない。

 ハルは私に本当に大丈夫かどうか確認してくれた。けど私は照れが勝ってそれをせず家から飛び出し、結果的にハルが受験票を届ける要因を作ってしまった。

 まさかハルがISを動かすなんてことは想定外であったとしても、あれさえなければハルは今頃行きたい高校に合格していたことだろう。

 だから私がハルの邪魔をしたのと同じ。ハルが夢を追いかけ始めたのに、私がハルから夢への道を遠ざける要因を作った。

 そもそもハルは、名目上スポーツとは言えISを動かして戦闘をするような性格じゃない。私がハルにそれを強いたのと同じ。

 謝って済むような問題じゃない。でも謝らないと。けど謝罪を口にしたところで、もし思っていたことを告げられたらどうしよう。そんなことを考えてしまい、もうすぐ入学っていう日までズルズルと先延ばしにしてしまった。

 それこそさっき言ったとおり、ハルは別にそんなことないよって、謝る必要なんかないよって言うに決まっている。そう、あくまで口では。

 けど本当は私のせいでとか思っているかも。今の私はそう思われることすら怖い。でも、このまま何もしないで謝罪はないのかって思われるのもあるな……。

 

(……ちゃんと謝らないと)

 

 私が謝れない理由はあくまで恐怖だ。私がそう思われたくないから、私が傷つきたくないがためにそう思ってしまっている。

 そんなの形だけでも謝らない理由にはならない。なっていいはずがない。口にしなければ伝わるはずもないのだから。

 心の中でそう決心していると、チーズリゾットの完成と同時ほどに玄関からただいまという声が聞こえた。

 火を止めてフライパンを鍋敷きの上へ置くと、サッと手を洗ってから小さくガッツポーズ。よし、と気合を入れてからハルを迎えに玄関へと足を運んだ。

 すると、私が目にしたのは――――

 

「ハル、おかえり。何の用事で外出――――ハル? えっと、何その恰好」

「い、いやー……驚かせようと思って。その、なんていうか、イメチェン?」

 

 髪が少し短くなっているし、とんでもなくオシャレをしているハルがそこに居た。

 白いワイシャツの上にネイビーのジレタイプベスト、ズボンは同じくネイビーのチノパンなんかを着ちゃって、靴はシックかつ動きやすそうな黒いロ-カットスニーカー。

 よく見たら他にも何式ぶんか上着やズボンを買っているようで、ハルの傍らには見たことあるメンズブランドの買い物袋が鎮座していた。

 へぇ、そう、イメチェンね。イメチェンかー……。

 

「あぁぁぁぁ~……!」

「や、やっぱり変かな? 服屋の人、お客さん顔普通だからなんでもいけると思いますよーって言ってたんだけど」

「ち、違うの! そうじゃない、そうじゃなくて……あぅ……」

 

 私は両手で顔を隠しながらしゃがみ込んでしまう。

 普通の人から見れば背伸びしたオシャレに感じるのだろう。しかし、長年ハルを隣で見てきた私からすれば大事件でしかない。

 ハルは着ることができればいい精神であり、当たり前のように外国人が買いそうな漢字Tシャツを着てしまうくらいオシャレに興味はなかった。きっとオシャレにお金を使うくらいなら絵のことにって話なんだろう。

 それがどう? 髪を少し短くして根暗っぽさは感じず、ハルの人当たりのいい感じのほうが前面に押し出されている。

 背伸びしたように見られはするだろうけど普通に似合っているし、ハルを好きであるという特別な感情を抱く私からすればクリティカルヒットだ。

 つまり、ハルがすごくかっこよく見えてヤバい。耳まで真っ赤なのが自分でもわかり、それがまた恥ずかしい。

 ううっ、前にハルが私が可愛くて直視できないなんて言ってたけど、こういうことだったんだ……。あぁ……恥ずかしい。

 

「に、似合ってるから……。似合ってるし、かっこいいと思うよ……」

「そ、そう? そっか、それはありがとう。……えっと、とりあえずこれしまってくるから」

「あ、う、うん……」

 

 相変わらず顔を隠しながらそう言うと、ハルの今の私の状態がよくわかってなさそうな声が聞こえてきた。一瞬だけ間が空いたのを見るに、よほど困惑しているんだろう。

 取り乱したところを見られていると思うとまた恥ずかしい。この状態を解除しなければ無限ループに陥ってしまう。

 無理矢理にでも気を取り直した私は、勢いよく立ち上がってリビングへ。そのまま食事の準備をして、テーブルについてハルが戻って来るのを待った。

 

「チーズリゾットか……。うん、今日も美味しそうだね。それじゃ早速――――」

「あ、あの、ハル! 少し話があるんだけど、いいかな?」

「……それは構わないけど、大事な話っぽいならなおさら後にしようよ。ナツの手料理、なるべくなら温かいうちに食べたいな」

「ふぁ……。はい……」

 

 もう、もうもうもう! なんなの!? 普段そんなことオドオドしながら言う癖に、どうして私が動揺してる時にそんな嬉しいことを!

 しかも恰好が相まってまた顔が熱いよぉ……! ここまでくると男がどうとか悩んでたのも全部意味ないじゃん。完全に女の子の反応できてるよ私。

 いっそ女の子に生まれたかった。そうすればハルとだって自信もって接することができたろうし、もしかすると今頃――――

 って、何を頭の中にお花畑を咲かせている場合か。そもそも謝ろうとしていたのに出端をくじかれまくっているんだからしっかりせねば。

 だが緊張は薄れることなく、チーズリゾットなんか味をほとんど感じない。もっと言うなら自分でも完食し切っていることに気が付かなかった。

 グルグル頭の中で様々な考えが渦巻いているうちにハルも食べ終わったらしく、丁寧なごちそうさまという声が聞こえてきた気がする。つまり、もうすぐ審判の時が訪れるということだ。

 

「えっと、話があるんだっけ。準備ができたら話してよ。俺はいつまでも待つからさ」

「だ、大丈夫、そんなに時間を取らせる気はないから」

 

 ハルは自分の役目である食器洗いの準備のため、食器を水に浸してから椅子に座り直した。そして私に心配そうな眼差しを向け、ゆっくりでいいから話してみてほしいとのこと。

 言葉どおり、そう時間を取らせる気はない。だいいち、もっと早くに済ますこともできたんだから。

 でもやっぱり私が抱く想いが邪魔をして、それなりの覚悟というものは必要みたい。

 しばらく大きく深呼吸をしてから、私はハルに対して頭を下げながら謝罪の意を示した。

 

「ハル、ごめんなさい!」

「な、何が? どれが? もしかして、描きかけの絵を破っちゃったとかそういうの?」

「私がちゃんと受験票のこと確認してたらハルは……。だから、ごめんなさい!」

 

 主語が抜けてしまったせいで、ハルは私が何に対して謝っているかわからないようだった。ハルがISを動かしてから時間が経つのも関係しているのだろう。

 今度はきちんとなんで私が謝っているのか説明してから、もう一度ごめんなさいと言っておく。その間私はずっと頭を下げたままだった。

 これは私の申し訳なさの現れ……というのもあるけど、さっきまでとは違う意味でハルを直視することができないせいだ。

 あぁ、やっぱり怖い。怖くて怖くてたまらない。今ハルがどんな顔して私の謝罪を聞いているのか。私の謝罪を聞いて何を思うのか。それを考えているだけで怖くてたまらない。

 ハルはしばらく黙ったまま大きく長い息を吐き、それからようやく口を開いた。

 

「えっと、とりあえず顔を上げてよ」

「ハル……」

「俺、そのことずっと考えてたんだけどさ、ひとつ思ったことがあって。どのみち同じだなーって結論にたどり着いたんだよね」

「同じって、何が?」

「遅かれ早かれこうなってたんじゃないかってことだよ。俺以外の家族全員ISに絡みがあったんだからさ」

 

 ハルはこう言う。自分は元国家代表である千冬姉の弟分であり、現代表候補生である私と姉弟分であり、ISを扱う部門の長をしている母の子であり、その企業のCEOである父の子なのだと。

 だから遅かれ早かれこうはなっていた。むしろ高校受験のこのタイミングでそれが発覚してくれてよかったとまで言い出す。

 怒ってほしかったわけじゃない。嫌われたくもなんかない。けど、ハルの言葉に私は納得できなかった。それは、自分で自分が許せていないからだと思う。

 

「そんな……! ハル、間違ってもそんなこと――――」

「確かにあの時のナツにまったく思うところがないわけじゃない。けど、ナツを恨むような感情はないかな。それにさ、俺にとっては嬉しくもあるんだよ?」

「……女の子ばっかりの学園だから?」

「違うよ! 間違ってもあの二人とは一緒にしないで! 俺は、そのえっと、嬉しいよ? うん、すごく嬉しい。またナツと、一緒に居られるって思ったら……さ」

 

 全く思うところがないわけではないと前置きしながら、それでも私に対してマイナスの感情を向けるつもりはないとのこと。

 これも納得がいかない。それはまるで、ハルが自分の夢を諦めるような言葉みたく聞こえてしまったから。

 私は思わず椅子を鳴らして立ち上がりながら反論をしそうになるが、それはハルの言葉に遮られて叶わなかった。

 あまつさえハルは嬉しいとまで言い出してしまう。やはり脳内乙女フィルターが作動して解釈がそっちの方向に流れるが、ハルは私と共にあれることが嬉しいと思ってくれているようだ。

 

「え……?」

「その、恥ずかしいから聞き直してほしくはないんだけど。……いや、言うよ。キミが納得するまで何度だって言うさ」

「あ、あの、ハル……」

「俺は、ナツと一緒に居られることが何よりも嬉しいよ」

 

 ハルの言葉を脳で処理することができず、私の口から出たのはもう一回言ってというニュアンスを孕んだ【え】という一文字のみ。

 するとハルは顔を赤くしてポリポリと頬を掻いてお茶を濁しにかかる。が、次の瞬間にはとても男らしいキリッとした顔つきに変わっていた。

 ハルも椅子から立ち上がると、テーブルを避けて狼狽える私に近づいてくる。そして優しく私の手を取ると、見ていると安心するような柔らかい笑みで例の台詞を言ってくれた。

 

「ずるい……よ……」

「ナツ?」

「ハルはそういうところが、ずるいよ……!」

 

 ああ、ハルは本当にずるい。なんだって普段は私がついてないと、とか言いそうになるくらいなのに、いざって時はこうも毅然とした態度なのだろう。

 ハルの道を邪魔してしまった罪悪感よりも、ハルの言葉が嬉しくて涙が止まらない。もちろん、この涙はそれだけじゃなくて多くの感情が入り乱れてはいる。

 懺悔、後悔、安堵、感動、もっと様々な感情をブレンドされているんだろうけど、やっぱり最たる要因は一緒が嬉しいと思ってくれていたこと。

 きっとIS学園での生活は大変であることはわかっているだろうに、それらを押しのけてでも私と一緒が嬉しいと言ってくれた。

 そんなの好きになった人に言われたら嬉しいに決まってる。そんなの涙が止まらないに決まっている。もう自分でも感情の制御が利かなかった。

 

「えっと、ずるいって言うのはよくわからないけど、とりあえずちょっと失礼して……」

「ハル……?」

「その、やましい気持ちがあるわけじゃないんだ。けど、前にナツに抱きしめてもらったらすごく落ち着いたからさ、その、お返しじゃないけど、まぁ、そんな感じ」

「……そういうのがずるいって言ってるんだけどなぁ」

「え、これも? 参ったな。えっと、それじゃ……」

「ううん、離さないで。お願いだから……」

 

 どうにも泣き止みそうにないのを見てか、ハルは遠慮しがちに私を抱きしめた。今では私の方が12cmも小さくなってしまい、頭がすっぽりハルの肩に収まる感じでなんだか安心する。

 それに、ハルはその優しい性格を表しているかのようにどこか温かかった。こう、体温の話じゃなくて、陽だまりのように温かい……。

 おばさんが名前と正反対みたいな内面になってしまったと嘆いたのを聞いたことがあるけど、おばさん、全然そんなことないですよ。

 ハルは、太陽だ。少なくとも私にとっては、温かくやわらかな日差しで包んでくれて、いつもそこに居てくれる……そんな太陽。

 今はただ、この温もりに包まれていたかった。この温もりに直に触れていたかった。こんなの、もう二度と手放せるわけないよ……。

 

「……ありがとう、ハル。それともう一回だけ、ごめんね」

「うん、じゃあこの話はもうなしってことで。……って、しまったな。部屋着に着替えといた方がよかったか」

「え? どうしたの――――あっ!? そっか、涙! 洗濯するからすぐ脱いで!」

「別にいいよこれくらい。そんな汚いとか思ってるわけじゃないし」

「ダメだよ、高かったでしょ? せっかくオシャレする気になったんなら、その絶妙にズボラっぽいのもなんとかして!」

「ああうん、わかったよ。じゃあ、よろしく。俺はちょっと着替えてくるね」

 

 何をそんなに慌てているのかと聞かれると、けっこう泣いたせいでハルのジレベストの肩あたりは涙で濡れてしまった。

 洗うと言えば相変わらず反応は暢気なもので、放っておいても大丈夫だと言うのがヒシヒシと伝わってきた。

 しかし、家事を長年やってきた身として、更にはせっかくハルがオシャレをする気になったというのに無視することはできない。

 多少強引にハルからジレベストを脱がすと、急いで脱衣所にある洗濯機を目指した。その際に、ジレベストに残ったハルの匂いを嗅いだのは……恋する乙女故、ご愛嬌と言うことでどうか。

 

 

 

 

 

 




キミと共にあれること。
それは何にも代えがたく、とても尊いことなんだ。







ちなみに私は美容室なんか行ったことないです。
やっぱりお金をかけるのがもったいない気がするんですよねぇ。

さて、晴人もイメチェンを済ませたことですし次回からIS学園編がスタートです。
隙あらば可愛い一夏ちゃんを描写したいものですが、全体として二人の恋愛模様は甘酸っぱい感じになると思われるので、何かと付けてもどかしいことになってはしまうかも知れません。





ハルナツメモ その8【普通に似合う】
日向 晴人は間違ってもイケメンではない。が、究極的に普通な顔つきが功を奏する場合もある。
今回における服装はその一端で、決して悪くはない顔つきにより、晴人はよほど奇抜でなければあらゆる服装が似合う。
ただし、イケメンが同じ服装をしようものなら一瞬にして霞んでしまうことだろう。悲しいなぁ。
ちなみに、一夏の提案により写真を撮って弾と数馬に送り付けたら爆笑されたらしい。
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