ハルトナツ   作:マスクドライダー

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そういえばお礼を言うのを忘れていたんですが、お気に入りの数が400件を超えました。
それもこれも日ごろから応援してくださるみなさんのおかげです。
本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

さて、今回よりIS学園編のスタートとなります。
まずはタイトルでお察しのとおり、侍ガールとの再会からお送りいたします。






以下、評価してくださった方々をご紹介!※順不同

吟路様 グレース王子様

評価していただいてありがとうございました!


第15話 始まりと再会

「視線が痛い。なんかもう物理的に痛い」

「まだ始まってもないんだから少し頑張ろうよ」

 

 IS学園入学初日、所属することになった一年一組へ向かうために歩いている……のはいいのだけれど、不特定多数、もっと言うなら同学年他学年に関わらず大量の女子の視線が辛い。

 意外や意外、俺みたいな地味なのでも注目されるもんなんだな。まぁそりゃ、世界で初めてとなったら見た目の地味さとか関係ないか。

 しかし、周囲を盗み見てみると、思ったよりも制服を遊ばせてる生徒が多いな。カスタム有りとは聞いたけど、リボンとか着けないのも自由なんだっけ。

 

(カスタムと言えば……)

「えっと、どうかした?」

「それ、自分で作ったのかなって」

「あ、うん、そうだよ。上は元の制服を短くしてから改造して、スカートは一から縫ったんだ」

「へぇ、相変わらず器用なもんだね」

 

 カスタムって言うなら隣のナツが例えに使いやすい。

 IS学園女子の制服は――――まぁ男子俺だけだけど、女子のはトップスとスカート部分が一体化しているデザインだ。

 しかし、ナツの制服はトップスとスカートではっきり分かれており、本人に直接聞いたことで真相が判明した。

 黒ベースに淵へ赤色のラインが入ったデザインのヒラヒラしたスカートだが、ナツが一から作成したためにそういうものらしい。

 あまりに自然で、俺はさっきまでこれが基本の制服だと思っていたくらいだ。本当、あまりの器用さに感心させられる。

 

「……えっと、可愛い?」

「はい!? あ、ま、まぁ……ね、すごく可愛いと思う。それに、個人的にもそっちのデザインのが好きだな」

「そ、そっか、それならよかった。えへへ……」

 

 とても恥ずかしそうに可愛いかなんて聞いてくるもので、思わず大げさなリアクションを取ってしまった。

 ワンクッション置くように咳ばらいをして心を落ち着かせると、偽るようなことはせずに率直な感想で返す。

 するとナツは恥ずかしそうながらも、とても嬉しそうにスカートの端を掴んで引っ張る。……角度によっては中身が見えてしまいそうだ。

 

「ハルは普通だね」

「俺に普通じゃないのを求める方がどうかしてるよ。というかわざと言ってるでしょ。まぁ、強いて言うならネクタイはなくてよかったかも」

「凛々しく見えて私はいいと思うな。でも、少し曲がっちゃって台無しだよ?」

「ああ、これね。妥協したんだ。何回やっても上手くできなくってさ」

「そうなんだ。じゃあハル、ちょっと止まって」

 

 俺に普通でないのを求めるなど、フユ姉さんに優しさを求めるのと同じくらい愚かな行為であると断言せねばならない。

 けどあえて言うのならではあるが、ネクタイがなしでいいなら着けるべきではなかったろう。単純に首元が狭まって窮屈だ。

 ちゃんと確認しておけばと結び目の部分を弄っていると、ナツは数歩分俺の前に出てネクタイのセンタリングを確認。そしてほんの少しだが曲がっていると指摘した。

 俺なりに簡単なネクタイの着け方とかを動画で学んでみたのだけれど、どうにも持ち前のぶきっちょさのせいで上手くいかず。

 こと俺の器用さは絵に関することにのみ通用するようで、何度か目にそれを悟ってまぁいいやという考えが浮かんでしまったということ。

 じゃあいっそ外してしまおうと思ったのだが、ナツから歩みを止めるようお達しが入る。さて何事だとナツを見守っていると―――― 

 

「……あ、あの~……ナツさん?」

「ん? 大丈夫だよ、慣れてるから。おじさんもネクタイ結ぶの苦手みたいで、けっこう私が直したりしてたんだよね」

「え~っと、俺が言いたいのはそうじゃなくて」

 

 おもむろに俺のネクタイを締め直しにかかるわけだが、視線が集中しているのをお忘れだろうか。それまではまだ潜めていたという表現で済んでいた声量も、ザワつきに変わった気がする。

 でもナツは完全なる善意でやってくれているんだし、何より楽しそうな様子なので止めてくれと強い口調で言うことができない。

 これは……ネタにされたりするのだろうか。普通に男子が居ればそれは確実だったんだろうけど。どのみち俺はともかくとして、ナツまでからかわれるのはどうも忍びない。

 うむむと脳内で唸っている間にネクタイも調整が終わったのか、ナツは満足気に結び目を軽くポンと叩いた。

 

「ナツ、ありがとう」

「うん、どういたしまして。……ところでなんだけど、その……ね?」

「えっと、どうかした?」

「練習とか、特にしなくていいからね。その! い、言ってくれれば、私がネクタイくらい巻いてあげる……っていうか、やらせてほしいなって!」

 

 手をモジモジとさせるからどうしたのかと思っていると、なんだかとんでもなく恥ずかしいことを言われた。なんなのホント、聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど。

 そんなのこうサラッと、言ってくれれば巻いてあげるからねーとか軽い調子で言ってくれればいいのに、おかげで脳が処理不全を起こしてしまっているじゃないか。

 実際のところ有難いし、じゃあお言葉に甘えてーと俺も軽く返せればよかったんだが、ナツのいじらしい様子がたまらなく可愛くて発声方法すらどこかへ飛んで行ってしまった。

 そして俺たちの時が止まって静寂が続き、しばらくが経ったその時である。

 

「解散! かいさーん!」

「……へ? ……あっ!? い、今の……見られて……?!」

 

 誰かが大きな声で解散の号令を放つと、それまで俺たちに興味本位の視線を注いでいた女子一同はゾロゾロとどこかへ去り始める。

 そこらでようやく一連のやり取りを見られていたのを思い出したのか、ナツは心配になるくらい顔を紅潮させるではないか。

 恥ずかしさのあまりか瞳に涙が溜まっているのも見える。男の時のナツなら、女子は何を騒いでるんだろうなで済ませていただろうに。

 いや、それよりもなんとかナツを落ち着かせるのに終始しよう。ここでまた抱きしめるの誰が見ているかわからないし、そうだなぁ……。うん、ちゃんと本心を伝えておくことにしよう。

 

「あのさナツ。できればこれからもお願いしていいかな」

「え……?」

「自分で言うのもなんなんだけど、全然上達する気もしないんだ。だから、まぁ、ナツに任せたいって思う」

「ハル……。……うん、わかった。ハルがそう言ってくれるなら、いくらでも頑張るよ」

 

 ナツが着けてた方がいいと言ったのならそうしておきたい。けど俺では上手く結べない。だとすると、お言葉に甘えるのが落ち着く。

 着けるのを止めるのは、ナツが世話をしてくれなくなった時でいいだろう。よくわからないけど、こうも献身的でいてくれるのだから。

 しかし、最近のナツは輪をかけてよくわからない。男の時でもここまで過保護じゃなかったというか、むしろもう少し一人でどうにかしろっていうスタンスだった気がするが。

 あれかな、無意識的にも女の子に近づいていっているのかも。こう、保護欲のようなものが沸いて出ているとか?

 それがいいことなのか悪いことなのかは微妙だが、まぁ、ナツに恋人でもできるのは時間の問題なのかも知れないな。

 

(その場合は腰抜を抜かさないようにしよう……)

 

 まだ見ぬナツの想い人に勝手な想像を膨らませつつ、とうとう一年一組教室前へとたどり着いた。いや、俺としては辿り着いてしまったというところ。

 これから始まるであろう修羅場を想像すると、いざとなって一歩が踏み出せない。すると、俺の横をナツが通り過ぎて教室へと入っていった。

 ナツは一歩入ったところですぐ止まってこちらへ振り返り、穏やかな笑顔を浮かべて手を差しのべてきた。

 するとどうだろう、先ほどまでの不安が嘘のように吹き飛び、俺は自分でも気づかぬうちにナツの手を取っているではないか。

 とても柔らかく温かい手の感触を味わう間もなく、俺はナツにより教室へ引き入れられる。

 よろけるようにして入室すると同時にまた視線が集中するのを感じてしまい、とりあえず軽く会釈をしてから自分の席に着いた。……のはいいのだけれど。

 

(なんで教壇の真正面?)

 

 席順はどうにも出席番号順のようなのだが、俺は右から数えて三列目の一番前という違和感の残る配置だった。

 俺の名字は日向であり、【ひ】から始まるので少なくとも四列目五列目くらいになるのに、どうして三列目の先頭なのだろうか。

 いや待て、冷静に考えたらこちらの方がまだいいのかも知れない。周りを女子に囲まれるよりは、ということだ。

 本来織斑の【お】で始まるはずのナツもなぜか左隣だし、俺たちだけ特殊と見た方がいい。誰かが旧知の仲と知って気を遣ってくれたんだろう。

 

(後はひたすら無心で――――ん?)

「普通だね」

「うん、普通」

「無理矢理にでも悪く言おうとすれば地味って感じだけど、それでもまぁ――――」

「「「普通だね」」」

 

 瞑想でもするお坊さんになった気分で居ようと思った矢先、俺の耳にはそんな会話をしているのが聞こえた。

 やはりここでも俺の評価は普通で落ち着くのか、最終的に声を揃えてまで普通だと言われてしまう。

 これが男の時のナツだったりすると凄かったんだろうなぁ。きっとだが、ワーキャーと黄色い声が飛んで収集がつかなくなっちゃってたんじゃないだろうか。

 

「というか、なんで玩具を持ち歩いてるわけ?」

「さぁ? 熱狂的な特撮ファンとかそういうのじゃないの」

 

 別の声に集中してみると、やはりこれも言われてしまうかと内心で大きな大きな溜息を吐いてしまう。

 彼女らの言う玩具というのは、俺の左腰にあるホルスターにぶらさがっているモノのことを言っているのだろう。

 俺の左腰にはなんとも形容しがたく、ブーメランと短剣を合わせたようなデザインで、特撮系の玩具のような見た目をした何かがぶら下がっていた。

 刀身の部分は虹色になっていて、側面にはタッチ機能のついたスライドパネル。グリップの部分にはトリガーがついていて、これを押すとご丁寧に光ったり音が鳴ったりするのだ。

 結局これが何かと聞かれると、ヘイムダルの待機形態である。大事なことなのでもう一度。この玩具っぽいものこそ、ヘイムダルの待機形態である。

 一次移行した後に待機形態に変換すると、俺の右手にこれが握られていたというわけ。これには思わずアクセサリー類になるんじゃないのかと叫び散らしたものだ。

 持ち主である俺の目から見ても玩具に感じるわけで。こういうのはとっくの昔に卒業しているから単純に持ち運びが恥ずかしいのだ。

 かと言って専用機を肌身離すわけにはいかないから、母さんに専用ホルスターを作ってもらって携帯しているに至る。

 しかも問題はそれに留まらず、悪ノリした母さんが――――

 

「は~い、みなさん揃ってますね~」

 

 ヘイムダルについての愚痴をこぼしそうになっていると、教室のドアが開いて緑色の髪をした女性が入ってきた。

 どうやら一組の副担任らしく、名前は山田 真耶さんと言うそうな。人を見かけで判断するのはよくないことだが、おっとりとした様子でどうもISで戦う姿が想像すらできない。

 だがここで教師をやっているということは、それなりの実績があることは間違いないはず。教える立場というのはプロフェッショナルでならねばならないのだから。

 それでも実力と性格までは必ずしも結びつかないのか、若干名が未だ俺のことを観察しているのを気にしているらしく、少し困ったような表情を浮かべていた。

 それだけでこの場に居ることへ罪悪感が生まれるような気がして、不必要に恐縮しながら動向を見守る。

 すると山田先生は、気を取り直してと自分に言い聞かせるようにしながら自己紹介を提案。一番右の席から順番にとのこと。

 

(ハル、あまり緊張しないようにね)

(だ、大丈夫、任せてよ。……うん、多分大丈夫と思う)

 

 この人数の女子を前にするのは俺にとってハードルが高いわけで、それを心配したのかナツが小声で話しかけてきた。

 同じく小声で返答するも、曖昧なことしか言えないで非常に申し訳ない。ま、まぁ……ヘタなことを言わなければ問題ないだろう。……多分。

 俺にできることがあるとするなら待つことのみ。徐々に順番が迫ってくるごとに緊張で鼓動が早くなるが、避けては通れないのだから覚悟を決めるしかない。

 

「では次、日向 晴人くん」

「は、は――――」

 

 そして訪れた運命の瞬間――――とまで表現するのはいき過ぎだが、山田先生に名前を呼ばれるのと同時に俺の番が回ってきたことを嫌でも思い知らされる。

 とにかく返事をしてから立ち上がろうとしたその時だ。教室のドアが再び開いたと思ったら、レディーススーツを纏ったフユ姉さんが――――

 

「フユ――――んんっ!」

「何か?」

「な、なんでもございません織斑先生……」

「よろしい。今回は見逃してやるが次はないと思え」

 

 思わずフユ姉さん!? なんて叫びそうになるが、口を押えてそれをなんとかこらえた。いつもの調子で呼んだら最後、なにかしら鉄槌がくだるのは請け合いだ。

 俺個人としてはギリギリセーフくらいのつもりだが、すっごい目つきで睨まれたぞ。フユ姉さん的には限りなくアウトに近いセーフくらいのカウントか。

 ただ実際に呼んだわけではないというのが効力を生んでいるのか、とりあえず今回は見逃してくれるらしい。

 しかし驚いた。現役を引退してから後進の指導でもしおているんだろうなとは思っていたけど、まさかこんなところで教師をやっているなんて。

 ……ナツは知ってたんだろう。そう思って左隣りへ視線を向けると、ナツは俺の視線を身体ごと回避するかのように腰を思いきり左方向へ捻っていた。

 うん、別に責めるつもりはないからそうまでしなくていいんだよ?

 

「諸君、私が一組の担任となった織斑 千冬だ」

 

 フユ姉さんが軽く自己紹介をかますと、ドガンと教室が爆発したのではないかというくらいの勢いで歓声が上がる。口から心臓でも飛び出るかと思うほどに驚いた。

 そうか、世界最強の女性ともなれば、今の時代はひたすた憧れの的か。……度を越した自堕落であることを知ったらどんな反応をするのだろう。

 黄色い声をあげる生徒に対してフユ姉さんは辛辣の極みであり、どうして毎年こうも馬鹿が集まるのかとストレートになじる。

 しかしだ、熱狂的な子にとってはご褒美の一種らしく、むしろもっと罵ってほしいとまで叫ぶようなのも居るほど。

 フユ姉さんの表情は相変わらず厳ついものだが、本気で鬱陶しがっていることは伝わってきた。付き合いが長いからこそわかる微妙な変化ではあるけど。

 

「日向、自己紹介を」

「あ、無視する方向で……。了解」

 

 確かにいちいち構っていたらキリがないのはわかるけど、なんのリアクションもくれずにスルーとは流石だ。ある種尊敬に値する。

 すぐさま自己紹介をするようご命令がくだったため、瞬時に立ち上がって後ろへと振り向いた。

 流石に唯一の男子の自己紹介ともなると興味がわくのか、さきほどまでやれフユ姉さんと言っていたような子たちもみんな一斉にこちらへ注目。

 ……そんな期待されると、あたりさわりのないことしか言えないからガッカリさせてしまうぞ。俺が自己紹介をした直後の空気を想像するとやるせない。

 だが俺という人間を一応でも知ってもらうのなら必要なことだ。軽く深呼吸をし、意を決して自己紹介を始めた。

 

「えっと、初めまして、日向 晴人と言います。ひょんなことからISを動かしちゃいまして、みなさんとここで勉強することになりました。ISに関する知識はないに等しいので、なるべく早く追いつけるよう頑張ります。それと、個人的には絵とか得意なので、興味のある人は声とかかけてくれると嬉しいです。え~と、それから……」

「いい、十分だ」

「あ、は、はい」

(やればできるじゃん)

(おかげさまでね……)

 

 ボキャ貧とまで思われはしないだろうが、やっぱりあたりさわりのない自己紹介だ。何かないかと試行錯誤している間にフユ姉さんからストップがかかり、あえなく席に着くしかなくなってしまう。

 すると左隣から今度はお褒めの言葉が聞こえた。本当、おかげさまとしか言いようがない。昔なら【あの】とか【えっと】とかがまだ多かったろうからな。

 自分でも思ったよりも上手くいったと安堵からくる溜息を吐いていると、時間がないから残りの自己紹介はまた後日と言うフユ姉さんの声が聞こえた。

 危ない、何気に気が抜けてしまっていたぞ。というか、フユ姉さんが担任という時点で気が休まる瞬間がひとつもないような気がしてきた。

 そんな事実を悟って衝撃を受けていると、授業合間の休憩と言うことで、フユ姉さんは山田先生を引き連れて教室を出て行った。

 特に入学式らしいものもなくいきなり授業とは気合の入った学園だ。そうでもしないとペースが追い付かないのもあるんだろう。

 

「ねぇ」

「何さ」

「千冬姉のこと、ごめんね」

「大丈夫。例によって口止めでしょ。まぁ、かなり驚きはしたけど」

 

 教師二人組の姿が見えなくなったと同時に、教室に張り詰めていた空気は一気に解放された。それはナツも例外ではないようで、すぐさまフユ姉さんのことを謝られる。

 不満に思う点はいくつかあれど、ナツは口止めをされていた側なのだから責めるのは筋違いと言うものだ。

 口止めをさせているフユ姉さんに関しても、やはりそれなりの理由があってのことなのだろう。なんたって、身内全員に釘を刺すくらいなのだから。

 ともなれば、言うだけ無駄。申し訳なく思ってもらうだけ無駄ということである。気持ちだけ受け取って、後は他愛もない話で華を咲かせた。

 

「少しいいだろうか」

「えっと、どっちに用事で――――へ? あ、あの、もしかして箒ちゃん!?」

「覚えていてもらえたようだな。晴人、久しぶり。まさかこんな所で再会するとは思ってもみなかったぞ」

 

 突如として凛々しい声色で呼びかけられたと思い目を向けてみれば、仏頂面ながらも文句なしに和風美人と表現できるような少女がそこに居た。

 このムスッとした感じにどことなく見覚えを感じたながらも即ひらめきが起きない。数秒の間を開けて、彼女がかつての友人であることを認識した。

 篠ノ之 箒。それが彼女の名だ。

 フユ姉さんとナツの通っていた剣術道場及び神社の娘さんで、俺はナツにひっついて行動していたので必然的に付き合いがあった。

 けど俺は正直言って苦手だったって言うか、むしろ箒ちゃんも俺をよく思ってはいなかったろう。理由は諸々あるが、問題は互いの性格にある。

 

「しかしなんだ、背が伸びたくらいであまり変わらんな。相変わらず自信のなさそうな顔をしおって」

「そ、そうだね、本当相変わらずだよ。なんかごめん」

「不必要に謝るなとも再三言ったろ。別に責めたいわけじゃない」

 

 このとおり、箒ちゃんは喋り方からして武人気質。ゆえに自分に厳しければ他人にも厳しい……ってほどでもないか、俺の情けない部分が気に入らないだけだろう。

 それ以外の時はそれなりに親交もあったというか、それなりに遊んだり笑い合った記憶もある。

 箒ちゃんは単に不器用なんだと思う。さっきのも俺のためを思って言ってくれているんだろうけど、優し目な言い回しができないだけなんだ。

 昔もそれを不満に思ったことはない。だって箒ちゃんは何ひとつ間違ったことを言ってはいないのだから。

 

「む、勝手に盛り上がって済まない。私と晴人は昔馴染みでな。わけあって転校を余儀なくされたのだが……そこらは置いておくか。篠ノ之 箒だ。よろしく頼む」

「あ~……」

(し、し、し……しまったぁぁぁぁああああ……!)

 

 箒ちゃんは射貫くようなナツの視線が気になったのか、さも初対面かのような挨拶を繰り広げるではないか。

 差し出された握手に困ったように頬を掻くばかりなのだが、ここでようやく違和感に気が付く。そう、箒ちゃんがナツとわかるはずがなかった。

 最近は俺の中でナツに対する感覚が狂ってしまっているのも大いに関係している。つまり、ナツが男であった感覚のほうが薄れてきているということだ。

 ナツが女の子なのは当たり前なんていう完全なる刷り込み現象が発生してしまっている。これはまずい、完全に出遅れてしまった。

 何がまずいって、例のごとく箒ちゃんもナツに恋慕を抱いていたという事実。蘭ちゃんに話した際の苦労が思い出される。

 俺とナツは自然に目を合わすと、何かを悟ったように頭を頷き合わせる。そして、ナツは非常に気まずそうにこう切り出した。

 

「え~っと、箒、久しぶり」

「何? 失礼だが、私はそちらに覚えは――――ん!? いや待て、待たんか。は? お前もしや、い、一夏……ではあるまいな……?」

「ア、アハハ~……。そのまさかっていうかなんていうか……」

 

 見覚えのない人物に久しぶりと言われれば訝しむのは当然のリアクションである。そのあと更に、見覚えのない人に想い人の面影を感じて混乱するのも同じく。

 箒ちゃんは女子のナツを必死に思い出そうとしている様子だったが、途中でナツそのものであることに感づいたのか目に見えて取り乱し始めた。

 昔含めてこうも混乱している箒ちゃんを初めて見るため、とてつもなくいたたまれない気持ちになってしまう。

 ナツとしては自分が織斑 一夏であることを肯定しないわけにはいかず。だがその肯定は、箒ちゃんにとって死刑宣告にも近かったろう。

 箒ちゃんはしばらく茫然自失といった感じで立ち尽くし、意識を復帰させるのと同時に俺とナツの制服の襟を勢いよく引っ張った。

 

「お前たち、少し顔を貸せ!」

「えっ、待っ――――箒、顔はいくらでも貸すから引っ張るのは止めてよ!」

「あだっ、膝打った! ほ、箒ちゃん、頼むからいったん落ち着こう!」

 

 取り乱す気持ちはよくわかるし、蘭ちゃんの時も同じように暴走はしていた。しかし箒ちゃんは少しばかりわけが違う。

 箒ちゃんは小学四年生の頃に転校して行って、今日で五年ほどぶりの再会になる。ただでさえ想い人が女になってるだけでも仰天なのに、五年で一体何が起きたってなる……よねそりゃ。

 だがあまりにも容赦がないわけで、俺とナツはそれなりに抗議しながらもどこぞへとグイグイと引っ張られて行ってしまう。

 俺は立ち上がらされた際に強打してしまった膝の痛みに耐えつつ、とにかく箒ちゃんをどう説得すべきかを考え抜くのであった……。

 

 

 

 

 




箒を始めとしたヒロインの扱いですが、とりあえず晴人を好きになることはないです。
ヒロイン……ではないかもですが、展開的に一人だけ迷っているのは居ますがそれは追々。
この作品のヒロインは一貫して一夏ちゃんなので、むしろ他ヒロインズの出番や影が薄くなってしまうことを案じているくらいです。
なんとか上手くやっていくしかないので頑張ります。

ちなみにヘイムダルの待機形態ですが、あれは【ウルトラマンエクシードX】に変身するために作中で使われたアイテムである【エクスラッガー】まんまです。
どんな見た目かわからない人はウルトラマンXを(ry





ハルナツメモ その9【ネクタイ】
頼んでくれたら自分が巻く。という一夏の提案だが、要するに単なる役得案件。
夫婦的なムーヴであることは理解しているようで、だからこその提案のようだ。
これから一夏の密かな楽しみになるのだろう。
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