ハルトナツ   作:マスクドライダー

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なんだかんだとそろそろ20話ですね。
そんな中、お気に入り600件突破&総合評価1000pt突破ありがとうございます。
少し他とは毛色の違ういちかわいい小説かとは思われますが、これからも応援のほどよろしくお願いいたします。


第19話 小さなことから

 あくる日の早朝。まだ薄ぼんやりと暗い中、俺は一周5kmあるらしいIS学園のグラウンドにて準備運動を行っている。

 オルコットさんとの模擬戦が決まったというのも大きな要因ではあるが、とりあえず小さいことからコツコツと頑張ってみようと思い立ったんだ。

 メニューはおいおい考えるとして、とりあえず体力作りの一環として走り込みや筋力トレーニングでもしようかと。

 まぁ、知り合いに見られたらどういう風の吹き回しだと聞かれるんだろう。けど俺の意志は固い。なぜなら――――

 

「どういう風の吹き回しだ。お前が率先して運動とは珍しい」

「お、おはようございます。織斑先生こそ、日課だったりするんでしょうか」

「そう畏まるな。外野の目がなければいつもどおりで構わん」

 

 誰かから声をかけられるとは思っておらず、突然の呼びかけについビクッと身体を反応させてしまう。

 慌てて振り向いてみると、そこにはジャージ姿のフユ姉さんが。どうにも悪戯っぽい笑みを浮かべて珍しいと評した。というかやっぱり言われたよ。

 ナツが出席簿で叩かれるのを目撃したせいで必要以上に丁寧な態度で接するが、どうにもその必要はなかったらしい。

 フユ姉さんの顔つきは基本的に厳ついが、教師として俺の前に立っている時とは雰囲気が異なる。それこそ、俺の知っている姉としての千冬さんだった。

 違和感がすさまじかったために有難い申し出だ。とにかく、話は走りながらということに。フユ姉さんが俺のペースに合わせてくれるそうな。

 

「で、なんだ。心境の変化でもあったのか?」

「とりあえず、なんでも絵のことに例えてみようと思ったんです。そしたら、俺の中ではいろんなことが鮮明になると言いますか」

「絵のこと、な。まぁ、晴人にとってはそれが最も身近な例えか」

「はい。今回の場合見えたのは、誰でも最初は初めてだ、ってことですかね」

 

 フユ姉さんとしても俺の諸々は心配してくれているのか、珍しいくらいにグイグイ質問してくるじゃないか。

 だから少し自分を生意気かもと思いつつ、ありのまま俺の中に芽生えた考えを口にする。フユ姉さんはそれを興味深そうに聞いてくれた。

 なんでもかんでも絵で例えると見え方が変わるんじゃないかって、そう思うようになった。というか、するようにしてみた。

 先ほど言ったように、今回は初めは誰でも初心者だ。という結論へとたどり着いたということ。

 俺もそれなりに絵を描くことに自信はあるけど、そりゃ最初は酷いものだった。あれはあれでアートかも知れないが、今回の場合は論点からずれる。

 俺はそこからたくさんの絵を描き、努力し、練習し、自分でも上手な方と思えるくらいの腕前になった。

 それを体力作りに当てはめるのなら、とにかく我武者羅に走ったりするだけでも、いつかは今の俺よりはマシになっていくはずと思ったんだ。

 

「結局、今まではずっと言い訳ばっかりしてたんです。何やっても凡才の俺が、多少努力したって何も変わりはしないって」

「ハッ、何を今更。晴人はガキの頃からそうだろう」

「ははは、厳しいな……。けど、だからこそもう言い訳も逃げるのも止めにしたい。変わるとか変わらないとかじゃなく、今俺はとにかく頑張ってみたいんです」

 

 正直、絵以外は本当にまるで上達なんかしないかも知れない。いくら頑張ったって体力なんてつかないかも知れない。

 俺は、努力の先に見返りを求めていた。努力しても結果が着いてこないのなら、初めから何をやったって意味なんてないって、そう決めつけてさ。

 けどもう、それでいいんだ。結果なんて出なくていい。だったらただの自己満足なのかも知れないけど、絵のことのように一生懸命頑張ってみたいんだ。

 ……それがきっと、俺にそういう考えを抱かせてくれたナツに報いることになると思うから。

 

「オルコットに自分の考えを言い切ったことといい……。フンッ、なんだ、生意気にもかっこよくなったじゃないか」

「はい!? あ、ありがとうございます……!」

「阿呆、この程度のことで動揺するな」

「いたぁーい! ごあぁぁぁぁ……ひ、額が割れる……!」

 

 フユ姉さんだって人を褒めたりはする。それがプライベートならなおのことであり、幼少期から世話になっている俺からしては割とよく聞く言葉だ。

 しかし、フユ姉さんにかっこいいなどと言われたのは生まれて初めての経験で、嬉し恥ずかしといった感情が心を揺さぶった。

 するとすぐさまデコピンを打ってくるあたり、多分だけどフユ姉さんも自分で言って自分で恥ずかしくなったんだと思う。

 動揺くらいするに決まっている。認識としては家族としての姉だが、少なからず美人のお姉さんとは思っているのだから。

 それにしても、何気に貴重な体験だ。世界規模で調査して、フユ姉さんにかっこいいと言われた男性がいかほどに居るだろうか。ナツを除けば初だったりしないかな。

 その後はトレーニングに際してタメになるアレコレを聞きながら、グラウンドを二周ほどしてお開き。去り際に学内ではそれ相応の態度をと釘を刺された。

 俺も命が惜しいからその言いつけは順守するとして、俺も帰って朝の支度をしなくては。ナツを起こさずにシャワーを浴びるのは難度高そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「ハル、ジッと食卓を見つめてどうしたの?」

「いや、チョイスが見事に日本だなぁと」

 

 食堂のテーブルには俺、ナツ、箒ちゃん、簪さん、それぞれが購入したメニューが並べられている。

 俺から順番に春の山菜うどん、サバ味噌定食、焼き魚定食(アジ)、卵かけご飯定食と、四人居て一人も洋食を頼まないのは何気にすごいと思う。

 まぁ、すごいと思うけど誰が何食べようと自由なわけで、俺の考えはとてもくだらないものなのだろう。

 みんなも特に気にした様子はなく、一斉にいただきますと宣言して食事に取り掛かった。地味に食堂の開放時間が短いからなぁ。

 

「はい」

「どうも」

「お前たち、ツーカーに磨きがかかっているな」

「息ピッタリ……」

 

 俺が箸を持つよりも前に、ナツは一味唐辛子の容器を差し出してきた。感謝はしつつも特に言及することもないわけだが、箒ちゃんとしては気になるところらしい。

 特に変な意味があるわけでも、特別な感情があるわけでもない。けど、時と場合によっては名前さえ呼んでくれれば言いたいことはだいたいわかる。

 だが、それを宣言したところで自殺行為。箒ちゃんの怒りを買うだけなので、一味をふりかけながら愛想笑いを返しておく。

 

「それにしても、冷静に考えれば考えるほど大事……」

「模擬戦のこと? 確かにそうなんだろうけど、今更引き下がる気もないし後悔もしてないよ」

「おっ、かっこいいこと言うじゃん。偉いぞ~」

 

 咀嚼した卵かけご飯を飲み込むと、簪さんは唐突に昨日の出来事について触れた。同じく代表候補生だからこそ、そう言いたくなるのだろう。

 個人の感想としては言葉どおりだが、楽観視してるわけでも自信があるわけでもない。むしろ先のことを思えば憂鬱な気分になる。

 かといって見栄を張っているつもりもないが、本当にどうしようもないからそう言うしかない。後は俺なりにやれることを全力でこなしていくしかないのだから。

 俺の言葉を受け、ナツは少し茶化すようにしながら肘で小突いてくる。心なしか、箒ちゃんの視線が少し厳しくなった気がした。

 

「と、とにかく、今日から本格始動ってことで。みんな、よろしく」

「任せろ。私でも動く的くらいにはなるぞ」

「機体の整備とか……そういうのは得意だから……」

「全体の指導役は私がやるね!」

 

 基礎はそれなりにできているつもりだ。その知識を補いつつも、模擬戦を想定してヘイムダルを動かしていくのも重要となる。

 具体的に何をどうするのかは見えていなかったが、俺の頼みにみんなは頼もしい限りの返事をしてくれた。きっと、こういう存在を仲間と言うんだろう。

 ……それにしても、聞いた話によると、簪さんは整備に関して豊富な知識と経験を持っているらしい。

 可能ならの話というか、あくまで希望的観測ではあるが、頼んだらヘイムダル展開の際に母さんが悪ふざけでつけた機能を解除してくれないだろうか。

 本当にいくらなんでもアレは酷い。アレだけはない。アレを許してしまっては余計に母さんが調子づく。これまで育ててもらった恩も吹き飛んでしまうぞ。

 

「あれれ~? かんちゃんにお友達がいっぱ~い」

「本音……。地味に傷つく発言は控えてほしい……」

「えへへ~。ごめんごめ~ん」

 

 すぐそこをノロノロと通りがかって足を止めたのは、制服の袖がダルダルで、いわゆる萌え袖というやつになっている女子だった。

 簪さんとのやり取りを見るに知り合いらしく、名前は本音さん? えっと、確かクラスメイトだったような気がする。

 うん、先を歩いていた二人も見覚えがある。自己紹介が途中で止まってしまったから全容は把握し切れていないが、片方は相川さんだったはずだから確定だ。

 ちなみに、ナツは簪さんは知り合いでも本音さんのことは知らないそうな。けど、彼女らしい人を示唆するような発言は難度か聞いたとか。

 二人の縁は時間がある時と言うことで、せっかくなので一緒に食事でもということに。しかし、ひとつだけ問題があるとすれば……。

 

(どうして円形テーブルなんだ……!)

 

 IS学園食堂のテーブルは円形、それすなわち人数が増えるほど両サイドの人物が接近してくるということである。

 さっきまで問題のない距離感だったが、一気に三人も増えてしまえばそれはもう。弾や数馬は羨ましがるだろうけど俺にはきつい。

 特に思うところはない、と言わんばかりにナツと箒ちゃんが詰めてくるから余計に……。おおふ、幼馴染二人の香りを意識してしまう俺が憎い。

 

「こういうの聞かれるの、嫌かも知れないんだけどさー」

「結局、二人ってどういう関係なわけ?」

 

 席に着くなりそう聞かれたわけだけど、てっきり俺とナツの間柄に関しては昨日のうちに説明したもんだと思っていたんだけどな。

 俺たちの関係、ね。まぁ間違っても彼女彼氏だとか、恋人同士でないことだけは確かだ。だが、ひとことで表現するとなると何が適切なんだろう。

 候補を挙げるのなら兄弟、相棒、幼馴染あたりが適切になるんだろうけど、どうにも他人行儀な表現はしたくないという俺なりのこだわりみたいなものがある。

 となると、それら全部をひっくるめた表現であるアレが一番近いのかも知れない。

 ぶっちゃけ俺とナツの関係なんて、隣に居ることが当たり前すぎて深く考えたことなんてなかったが、口に残っていたうどんを飲み込んで、考え付いた答えをそのまま述べておいた。

 

「ひとことで表現するなら、家族……かな」

「え、何その堂々とした俺の嫁宣言」

「意外と大胆だねー」

「「ブッ!?」」

 

 やはり俺としては家族という表現が一番落ち着く。父さんと母さんが保護者代わりになって以来、一緒に居なかった時間の方が短いから。

 けど言葉の受け取り方をどうも誤られたというか、別に俺は配偶者的なつもりで言ったつもりなんてないんですよ。

 思わず回答してからすぐに食べ進め始めたうどんを吹き戻しかけた――――というか、吹かないように耐えたせいで喉奥に一味唐辛子の刺激が走ってしまう。

 そのせいで盛大にむせ返してしまうわけだけど、どうしてナツも俺と同じような状態になっているのだろう?

 不思議に思いつつも、十年一緒に暮らした脊髄反射的なものにより、俺とナツはコップに入った水を差しだし合った。

 

「べっ、別に……ゲホッ! そういうつもりで言ったんじゃないんだ……ゴホッ!」

「え~。そんな息ピッタリなのに?」

「お互いまったく意識してないってことはないでしょ」

「うーん、まぁ、俺は無きにしも非ずだけど。どのみち俺にナツはもったいないからさ」

 

 ナツを彼女ないし恋人ないし伴侶とできた時点で人生勝ち組ルート一直線だろう。贔屓目なしでナツよりいい女は居ないと思うし。

 だからこそ何においても平凡な俺がナツをもらったって持て余すだけだ。そのうちナツを幸せにしてあげられる幸せな男性が現れることだろう。

 という本心からの発言なんだけど、気のせいでなく空気が少し重くなった。というか箒ちゃんの目が怖い。視線で人を殺せるなら俺はとっくにお陀仏だったろう。

 

「おりむー。どうか気をしっかり~」

「大丈夫、ハルのコレは鈍感とかじゃないから。それより、おりむー?」

「織斑だからおりむーってことなんじゃないかな」

「ひむひむの言うとおり~。ちなみに二人合わせてひむりむーだよ~」

 

 なぜだかナツが本音さんに慰められているわけだが、それよりも自分の呼称について気になったのか、話はそちらの方へ流れて行った。

 俺の場合はハルというあだ名があるわけだが、それはナツ専用の呼び方なのでどうにか勘弁――――と思いきや、ひむひむという全く新しい呼び方をされて一瞬困惑してしまう。

 更にはコンビ名も考えたらしく、【む】の文字で俺たちのあだ名が繋がるよう【ひむりむー】という珍妙なものを賜った。

 思わず顔を見合わせる俺たちだが、本音さんの天真爛漫な様子を見ていると何も言えなくなってしまう。そのまま大人しく、ひむりむーを拝命する方針で一致した。

 

「というかさ、いつからの付き合いなの?」

「昔俺が越してきて、それからかな」

「むっ、それは私も初耳だ。てっきり赤ん坊の頃からかと」

「ウチがいろいろ複雑だからね。そのあたりは意識して触れないようにしてたというか」

 

 俺を交えていないときはさほど根掘り葉掘り聞かれなかったのか、食事中はだいたい質問されては回答してを繰り返した。

 なんてやってると、フユ姉さんが食堂に乱入してきてダラダラしてるんじゃないよと全体を一喝。すると食堂は信じられないくらい静かになった。

 それは俺たちの席でも同じく、相川さんと鷹月さんは恐ろしいくらいに静まり返ってしまう。……逆にニコニコしてる本音さんは肝の据わった女性だなと。

 とにかく、楽しい食事ではなくなってしまったことに対して、実の妹であるナツは申し訳なさそうな苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向、専用機の調整はどうだ」

「きょ、今日から本格的に訓練を始めようと思っているので、話はそれからですかね」

「何か異常を感じたら報告するように。模擬戦をしようにも機体がなければ話にならん。それと、アリーナの使用には申請が必要なので覚えておくように」

 

 フユ姉さんのことを質問されたナツが普段の様子を聞かれ、意外とだらしないと答えようとしたその時のことだった。

 本当に虚空から現れたのではと疑いたくなるような、気配の微塵も感じさせずに登場。そのまま流れるような手際でナツの頭を出席簿で叩いた。

 俺が質問されたのはその直後のことで、あまりの切り替えの早さに戦慄したことは絶対に悪くない。顔に出てはいるのだろうが、叩かれないならセーフという認識でいこう。

 

「専用機!?」

「一年生のこの時期に!?」

「……もしかしてだけど、あの玩具が待機形態だったりする?」

 

 ナツとの関係性からして周囲のみんなも俺にそれなりのコネがあるという認識だろうが、まさか専用機持ちとは思わなかったようだ。そしてこの玩具が待機形態とも……。そりゃそうか。

 どのみちアレですよみなさん。ヘイムダルの全貌がトンデモ機体だと知ったらガッカリしますよ。いや本当に。

 それよりも、俺のステータスそのものが高いゆえの専用機持ちと思われているような気がしなくもない。

 それは困った。母さんにもナツにも全てにおいて平均的という、俺にとっては何も珍しくはないお墨付きをいただいているのだが。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で挑んで来るのではないかと思っておりましたものでして」

 

 すかさず俺に話しかけてきたのは、相変わらずお嬢様然としたオルコットさんだ。言葉そのものは挑発なんだろうけども。

 これも困った。生まれてこの方冗談っぽくない、つまり本気の挑発なんてされたことないからどう返していいのやら。

 ご期待に沿えるよう乗ってみてもいいんだけど、こと相手を罵倒する事柄に関してはてんで語彙が浮かばない。

 やはり当たりさわりもない返事しかできそうにもないかな。

 

「あ~……それこそ訓練機じゃハンデをもらう必要があったろうね。アハハ……」

「……向井さん。貴方、闘争心というものを持ち合わせてはいませんの?」

 

 俺が頬を掻きながら適当な返事を返すと、オルコットさんは嫌悪すら孕んだような視線をこちらへと向けた。

 これは単に女尊男卑主義によるものではなく、俺個人が気に入らないということなのだろうか。

 闘争心については間違いなく母さんの腹の中に置いてきたとして、それよりもひとつ聞き逃せないことがあった。

 流石に俺だって、それに愛想笑いを浮かべておくわけにはいかない。

 

「闘争心とかは別にして、たった今キミにひとつだけ言わなきゃならないことができた」

「あら? いいでしょう、言ってごらんなさい」

「あのさ――――え~っと、俺、一応は向井じゃなくて日向なんだけど……」

「「「ズコーッ!」」」

 

 わざとだろうがわざとでなかろうが、名前の呼び間違いについては指摘しておくのがお互いのためというもの。

 怒らせないよう遠慮しがちに指摘をすると、事の顛末を見守っていた女子たちのほとんどが新喜劇よろしくズッコケた。

 タイミングからしてそれしか言うこともないだろうに、教室を包むこのアウェー感はいったいなんなのだろう。

 ナツに箒ちゃん、それにオルコットさんまでもがとてつもなく呆れた表情を浮かべているではないか。

 

「ハル、みんな強気に言い返すのを期待してたんだと思うの」

「えっと、やっぱりそういうの要るのかな。じゃあ、その、と、闘争心は本番で嫌ってほど見せてやるぞー」

「棒読みになるくらいなら止めておいた方がよかったろうな」

 

 ナツにそう言われてズッコケの理由がようやくわかった。いやでも、そんなの俺に期待されたってと言う話ではあるんだが。とにかく、そういうことならポーズだけでもしておこう。

 必死に返しの言葉を捻りだしたまではよかったが、やはり相手を挑発する行為そのものが向いていないらしく、無意識のうちに棒読みになってしまう。

 だけど箒ちゃん、それ言われたらどっちが正解なのって話になっちゃうから勘弁していただきたい。

 

「もうよろしいですわ。貴方のような男性に、そういったことを求めたのが間違いでした」

「はぁ、それは、ご期待に沿えず申し訳――――な゛っ!?」

「貴様ら、いつまでやっとるか。とっとと席に着け」

 

 これが男の時のナツなら盛大な口喧嘩にもなっていたんだろうけど、いかんせん相手が俺である以上はよほどのことでも起きなければ……ねぇ?

 呆れた様子のままオルコットさんは身を翻し、自分の席へと戻って行く。最後の俺の言葉も聞いてはいないようだった。

 それでも一応は期待に沿えず申し訳ないと言い切るつもりでいたのだが、俺の脳天に突如として味わったことのないような衝撃が走る。

 何事かと騒ぐことすら許されないこの強烈な痛み、そしてその際に鳴った豪快な音から推測するに、どうやらフユ姉さんの出席簿が火を噴いたらしい。

 だが被害を被っているのは俺だけでなく、見物するために立っていた女子たちも同罪のようだ。

 痛みをこらえながら様子をうかがってみると、目にも止まらぬ速さで小気味よく女子たちを出席簿で叩いていく。その様は、まるでモグラ叩きを彷彿させる。

 ナツと箒ちゃんは大丈夫かと目を向けると、その時にはすでになにごともなかったかのように着席しているではないか。随分とちゃっかりしている。

 まぁ、俺が悪いんだから責めようって気はないのだが。……ないのだが、もうちょっとくらい何かあってもよかったんじゃないだろうか。

 とにかく、急いで座らなければもう一度出席簿の餌食になってしまう。さて、引き続いてのフユ姉さんの授業、集中して受けるようにしなくては。

 

 

 

 

 




走り込みは大事。古事記にもそう書いてある。
というわけでして、地味に変わり始める晴人でお送りしました。
セシリア戦では割と逞しい姿もお見せできるんではないでしょうか。
そういう感じで、次回、初戦闘と参りましょう。
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