ハルトナツ   作:マスクドライダー

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いきなりですがまずは謝罪から。
先週の更新ですが、いつもしている評価してくださった方のご紹介をド忘れしておりました。
なんだかスルーしてしまったのが心苦しくてならないです。
本当に申し訳ありませんでした。本更新で纏めてご紹介させていただきますので。

さて、前回予告したとおりにセシリア戦の決着です。
ヘイムダルの巨大な右腕の秘密も明らかに……?





以下、評価してくださった方々をご紹介!※順不同

アクアランス様 frodo821様 ムリエル・オルタ様

評価していただいてありがとうございました!


第21話 虹色の手甲

「フ、フンっ! BT一基を落とし、わたくしにダメージを与えたことは褒めてあげてもいいですが、墜落とは随分情けないですわね!」

(……母さんへの文句より、勝つために必要なことを考えないとな)

 

 オルコットさんの大声によって現実に引き戻された俺は、よっこいせというふうな速度でゆっくりと立ち上がった。

 彼女の煽りはまったくの事実だから思うところはないとして、ある一点の違和感を解消するために全ての思考を注がなくては。

 といっても、具体的にどのあたりに違和感があるのかもハッキリとはしていない。現段階では、強いて言えばくらいの範囲ではあるけれど……。

 

(なんかこう、BTの扱いが非効率的?)

 

 オルコットさんの意思で自在に操作できるBT四基は確かに脅威だが、もう少しやりようがあるのではというシーンが思い返せば多々ある。

 例を挙げるのならついさっき。俺が仮称識別色・黄(コード・イエロー)の矢弾を発射する直前の動きもそれに当てはまるだろう。

 確かに回避に重きを置くことは必要だったろうが、なぜオルコットさんは回避しながら妨害をして来なかったのだろう。

 要するに、その場で回避行動をしながら腕でも撃ち抜けばそれで終いだ。矢弾はあらぬ方向に激突して、オルコットさんへ損害はなかったはず。

 待てよ、それどころかオルコットさんは確かに一瞬だけ足を止めたよな? それと同時に、同じくBTもピタリと動きを止め――――

 

(――――しなかったんじゃなくて、できなかったんだとしたら!)

 

 そう、そうだ。違和感の正体はこれに違いない。オルコットさんは、これまで自身の行動とBTの操作を同時に行うことはなかった。

 特にひらめかなかったのは彼女が巧みに隠していたのだろうが、もし俺の仮定が正しいのならできないだけの話だったんだ。

 BTで取り囲みつつ、自分は動いてスターライトMk-Ⅲでの射撃とかをしてこないのもそれが理由だったらしい。

 オルコットさんかBTか、どちらかひとつの行動しか不可能というこの事実。逆転への一手になるかも知れないぞ。

 

「名称指定変更……」

『名称指定変更承認。キー入力、または音声で出力を願います』

「くっ、これ以上はやらせませんわ!」

 

 最大チャージを空中で撃つことができないのならば、逆を言うなら地上では撃てるということだ。

 俺は低空飛行、というかほとんど地面ぎりぎりを飛行するようなかたちをとりながら、仮称識別色・黄(コード・イエロー)の発射準備にとりかかった。

 それを見たオルコットさんはBTを仕向けてくるが、オルコットさん自身を警戒しなくていいとわかっただけに気分は楽だ。

 もちろん完璧に避けるなんて今の俺には無理のある話で、各所にレーザーを掠らせ、または直撃させながらにはなっている。

 けど今は我慢の時だ。これを試して上手くいきさえすれば、とりあえずBTの問題だけはどうにかなるのだから。

 ……よし、100%チャージ完了。後はコイツをオルコットさんへ向け――――発射!

 

黄色の弩砲(バリスタ)!」

「同じ手を二度も――――」

赤色の丸鋸(サーキュラーソー)!」

「なっ……!?」

 

 黄色の弩砲(バリスタ)のエネルギー矢弾が凄まじい速度でオルコットさんめがけて飛んでいくが、いくら早くても所詮は直線運動だ。緊急的横移動で回避されてしまう。

 が、そもそも矢弾を当てることが目的ではなく、オルコットさんに回避行動をとらせることこそが重要なのだ。

 自分かBTかどちらか一方しか動かせないなら話は早い。どちらかを動かしている時は、どちらかが隙だらけということになる。

 だからこそ矢弾を撃った次の瞬間には右腕を赤色の丸鋸(サーキュラーソー)に変形。エネルギーで形成されたノコを今度はBTへ向けて射出した。

 するとBTはまったく動くことなくノコは直撃。高速回転するエネルギーの刃により削り切られ、水平に真っ二つとなって爆散した。

 やはりこの戦法は通じるらしいという確信を胸に、俺は返ってきたノコを赤色の丸鋸(サーキュラーソー)で受け止めつつ再連結させた。

 

「まさか見破られてしまうなんて……!」

(けっこう動揺してるな。このまま攻めきれないだろうか)

「これが知れたのなら仕方ありませんわ。もはや形振り構いません!」

「うわっ!? ほ、ホントに形振り構わないって感じだな……!」

 

 自身の弱点を見抜かれたなら焦りもするだろう。しかも圧倒的格下に看破されたんだから悔しくもあるはず。

 その心の隙を狙ってなんとかこのまま一転攻勢をと思ったのだが、そうさせてくれるほど代表候補生というのは甘くないらしい。

 オルコットさんは地上と空中とで俺との距離が離れているのをいいことに、完全に足を止めて射撃を開始した。

 しかもスターライトMk-ⅢとBT二基を使ってだ。止まったうえで緩急さえつければほとんど同時射撃とかわらないことができるようだ。

 しかし、弱点を試すために地上へ降りたのがあだとなってしまった。この弾雨で黄色の弩砲(バリスタ)は撃てない。かといって赤色の丸鋸(サーキュラーソー)も撃ち落されるのが関の山。

 

青色の塔盾(タワーシールド)!」

 

 今の俺にできることと言えば、右腕を青色の塔盾(タワーシールド)に変形させ、弾雨をしのぎながら考える時間をつくることだった。

 だが現状、ヘイムダルの武装の少なさではどうしてもやれることに限度がある。それに、防御力にかまけてレーザーに当たり過ぎ、エネルギーがほとんど残っていないというのも問題だ。

 ……打開策なんて立派なものではないけど、オルコットさんそのものを倒せるかも知れない手はある。というか、今しがたようやくその用意が整った。

 しかし、それは絶対なんて言えるものではなく、むしろ失敗する可能性のほうが大きい。俺にとっても大きな賭けになるだろう。

 

(ナツ……)

 

 こういう迷いが生まれたときは、ナツのことだけ考えていればそれでいい。ナツならどうする? ナツなら俺にどう言ってくれる? ってさ。

 そしたら答えは単純明快、ナツは秒で行って来いと俺の背中を押してくれることだろう。本当、ナツは単純なんだから。

 ああ、わかったよナツ。キミがそう言うなら、キミがそう言ってくれるのなら俺はもう迷わない。怖くなんかない。むしろ勇気が湧いてくるくらいだ。

 俺は未だナツの温かみが残る左手を握り締めてから、覚悟を決めて最後になるであろう賭けに出た。

 

(とりあえず何も考えずに接近!)

(これまでの知性を感じさせる動きとはまるで……? しかし、もはや彼は風前の灯!)

 

 青色の塔盾(タワーシールド)を構えてオルコットさんめがけて突っ込む。てっきり逃げの姿勢に入るかと思ったが、足を止めて乱射を続けたままだ。

 いくら盾で防いでるからといって僅かにダメージは入るんだ。このまま削り切るほうの選択肢を取ったんだろう。

 俺としてもヘイムダル最後の隠しダネを使う前にエネルギー切れになるかどうかの瀬戸際だ。この点についてはオルコットさんにある意味感謝しなくてはならないだろう。後は母さんに習ったとおりに――――だ。

 射程圏内、いや、ヘイムダルの切り札が最も効果をなす距離まで入ると同時に、俺は自身を守る青色の塔盾(タワーシールド)を解除。

 なんの変形機構も使用していない状態になったヘイムダルを、オルコットさんは一瞬だけ驚きの眼差しで眺めた。

 しかし、すぐさま凛々しい顔つきに戻って冷静に射撃を繰り返す。それらのレーザーはヘイムダル各所に直撃。当たった個所に白煙を上げさせた。

 俺はこのタイミングで、ガッチリと拳を握りしめる。

 

(拳を固めろ――――)

(いったいどういうつもりなんですの、この方は!?)

(腕を振り上げ――――)

(ええい、こちらでとどめにしてさしあげます!)

(相手を見据えたのなら――――)

「残念でしたわね、BTは四基ではなくてよ!」

(思いきり腹から、こう叫べ!)

 

 思い出されるのはヘイムダルと初めて出会ったあの日のことだった。切り札が決まるかどうかの刹那、思い出が浮かんでくるのは走馬灯に似たものなのだろうか。

 自分でも笑ってしまうよ。オルコットさんもブルー・ティアーズの隠しダネであろうミサイルBT? みたいなものを使ってきているというのに。

 しかし、少なくとも切り札はミサイルで止めることはできない。そう確信めいた考えを浮かべながら、俺は母さんに習った最後の手順をこなした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「晴人くん。さっきは七段変形って言ったけど、ヘイムダルにはもう一つ切り札になる変形機構が用意されているの」

「切り札……。そ、それっていったい……」

「ふふん、それはね――――虹色の手甲(ガントレット)よ」

「え? 虹色の手甲(ガントレット)って、さっきこの右腕の名前だって言ってなかったっけ」

 

 もったいぶるような口ぶりのくせして、さっき聞いた名と同じ名称を聞かされて疑問符を浮かべるばかり。

 確かに母さんはこの右腕を虹色の手甲(ガントレット)と呼んだし、それは変形していない状態を指すということなんじゃないだろうか。

 俺が素朴な疑問をぶつけると、母さんは未だもったいぶるような態度で解説を始めた。妙に得意げなのが鼻につくが、俺は母さんの言葉に耳を傾ける。

 

「ヘイムダルのエネルギー表示の隣に、溜まりかけのゲージが見えるでしょう」

「……あ、ホントだ。え~っと、ナツ、読める?」

「ビ、ビ、ビ……あっ、もしかしてビフレストじゃないですか?」

「一夏ちゃん、冴えてるわね。そう、ビフレスト。虹色の手甲(ガントレット)に蓄積するとあるエネルギーをそう名付けたの」

 

 ハイパーセンサーにはヘイムダルのエネルギーが表示されている隣に、BIFROSTと書かれたほとんど空のゲージが存在した。

 ビフレストもさっき聞いた話で出てきたのを覚えている。確かヘイムダルの関わる北欧神話における、神の国と地上とを繋ぐ虹の橋の名前。

 ヘイムダルと虹とは密接に関係しているのはわかった。謎のエネルギーに対してビフレストと名付ける理由もだ。

 で、結局のところこの謎エネルギーの正体はなんなのだろうか? そう首を傾げていると、母さんはナツに意味不明な頼みをし始めた。

 

「というわけで。一夏ちゃん、仮称識別色・青(コード・ブルー)を攻撃してみて」

「どういうわけ!?」

「えーっと、ハル、加減はするからちゃんと構えててね」

 

 いきなり何かと思えば攻撃される必要があるんだとか。ちゃんと説明を受けていないこともあってか、なんだか納得いかない。

 ナツも意味はよく分かっていないようだが、指示に従わないことには話が前に進まないことをよくわかっているらしい。

 俺もそのこと自体はナツ以上にわかっている。それだけに、観念しながらナツの方向に仮称識別色・青(コード・ブルー)を構えた。

 するとナツは、手元に日本刀を思わせる流線形をした物理ブレードを展開した。……あれ、なんかどこかで見たことあるような刀だな。

 

「せぇい!」

「っ~~~~!」

 

 ナツは袈裟斬りと呼ばれる、斜め上から下に振り下ろすような太刀筋での攻撃をしかけてきた。

 仮称識別色・青(コード・ブルー)は問題なくそれを受け止めてくれるが、加減した威力と思えないのはなぜだろう。

 ナツに本気でやられた場合を考えるとゾッとするというか、模擬戦なんかをする時には覚悟しておこう。

 さて、この一連の作業にいったいなんの意味があったと言うのだろう。

 母さんの指示に従った俺たちは、そう仕向けた張本人に視線を向けた。

 

「はい晴人くん、もう一回ビフレストゲージを確認して」

「……さっきよりも少し、ほんの少しだけ増えてる?」

「そのとおり! ビフレストの正体はね、変形機構に使用された余剰エネルギーなの」

 

 本当に変化がわからないくらいではあるが、ゲージに溜まっているビフレストの量が増えた。母さんのリアクションからして、気のせいではないようだ。

 そして語られるビフレストの正体。それは、ずばり余剰エネルギーらしい。つまり、どうしても無駄が出てしまう部分をストックできるということなのだろうか。

 それはとてもエコであると思うけど、余剰エネルギーを溜めておいてどうするんだろう。ある程度はヘイムダルそのもののエネルギーに還元できるとか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時はそんなぬるいことを思ったけど、切り札と呼ぶにはエネルギー還元ではあまりにも弱い。そう呼ぶのなら攻撃的要素に用いられてこそだ。

 切り札、言い換えるのなら必殺技とも称すことのできる虹色の手甲(ガントレット)とは、ヘイムダルの右腕がこうも大きいことが関係していた。

 

虹色の手甲(ガントレット)ォォォォオオオオッッッッ!」

 

 俺の叫びを発動キーとして、右腕装甲全てが半分パージされたような状態で浮く。そしてそこから飛び出してきたのは、それはそれは大きなブースター機構だった。

 ブースターは爆発するような勢いでため込んだ余剰エネルギーであるビフレストを一気に放出。虹色の光が放たれ、ヘイムダルにグンと大きな加速をつける。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)の比では……!? 回避――――間に合わ――――)

「でぇやぁああああああっ!」

「っっっっ……! カフッ!?」

 

 爆発的加速に後押しされた右腕はいとも簡単にミサイルを突き破り、いきなりのことに動揺していたオルコットさんまで届いた。

 巨大な拳はオルコットさんの身体を軽くカバーできる範囲であり、激突の衝撃により息を漏らすような声が俺の耳には届いた。

 そう、虹色の手甲(ガントレット)の正体とは、爆発的超加速及びヘイムダルの右腕の大きさを利用し、対戦相手をぶん殴るという必殺技のようなもの。

 虹色の手甲(ガントレット)には絶対防御の発動による削りと、操縦者本人を気絶させるという狙いがある。どちらかひとつを満たせば勝利であり、ある意味では勝ちにこだわった機体ということだ。

 女性を殴っているという現状に思うところはあれど、これは勝負事だ。手加減というのは失礼に値すると思われる。

 俺はオルコットさんと接触している拳をグンと押し出し、そのままアリーナのシールドまで殴り飛ばした。

 

「これで……どうだああああっ!」

「キャアアアア! あうっ……!」

 

 すさまじい勢いで殴り飛ばされたオルコットさんは、乱回転しながらアリーナのシールドへ衝突した。

 しかし、俺の予想に反して気絶してくれる様子はない。ましてやブルー・ティアーズのエネルギーを削り切ったということもなさそうだ。

 これで決まりという確固たるものがあったせいか、俺は一瞬にしてパニックに陥ってしまった。なぜだ、どうしてだ、どうして彼女にとどめをさせていない。

 ミサイルにぶつかったせいで思ったよりも勢いが弱まったのか? いや、そんなことを考えている暇があるのなら攻撃を仕掛けろよ。

 数瞬遅れてからようやくその判断を下せた俺は、右腕を黄色の弩砲(バリスタ)に変形させようと口を開きかけた。そう、開きかけたんだ。

 

「……ブルー……」

(なっ、あんな状態からでも操作を……! だとしたらまず――――)

「ティアアアアズ!」

「グッ!? あっ……!」

 

 やはりそれなりに効いてはいるらしく、オルコットさんはフラフラとブルー・ティアーズの体勢を整えている。

 だが、その際に呟いた言葉を俺は聞き逃がさなかった。それが何を意味するか理解しているせいで、黄色の弩砲(バリスタ)を展開している暇ではないことを悟る。

 しかし時すでに遅し。恥も外聞もかなぐりすてて叫んだオルコットさんは、俺の近くにたたずんでいたBTを操作して射撃を繰り出す。

 吹き飛ばされる直前、ないし最中のオルコットさんにBTを操作する余裕なんてなかったろう。BTはオルコットさんを自動で追従するわけではない。だからこそ俺の近くにたたずんでいたんだ。

 パニックになってしまった俺は存在そのものが抜け落ちてしまい、マヌケにも近くで棒立ちという失態をやらかしてしまったんだ。

 そして二基のBTから放たれたレーザーは、ヘイムダルでもわずかに露出している部分である腰へと命中。

 もとからかなり削られている状態であったせいか、これが決定打となったらしい。つまり――――

 

『試合終了 勝者 セシリア・オルコット』

 

 俺の敗北が告げられた瞬間となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「晴人、惜しかったな。だが、まさかあそこまで追い込むとは思わなかったぞ」

「う~ん、まぁ、虹色の手甲(ガントレット)は初見殺しの要素も大きいからね」

「ISに殴られるの……かなり予想外だったと思う……。でも――――」

 

 試合が終わってピットへ戻ってみると、俺の負けをあまり気にした様子もなく二人が出迎えてくれた。一歩引いているナツにチラッと視線を向けてみるも、こちらによって来るようなことはない。

 そのことをなんとなく寂しく感じつつ、ヘイムダルを待機形態に戻してホルスターへとしまう。すると、簪さんから早速最後の棒立ちがいただけないとお叱りを受けてしまった。

 あれさえなければ勝っていたかも知れないし、そう言いたくもなるか。う~ん、自分で言ったとおりに初見殺し的要素はあったとして、勝てない試合ではなかったかもなぁ。

 

「どけお前たち」

「織斑せんせ――――あだぁ!」

「今すぐ席を外せ。山田先生もどうか」

 

 そのままささやかな反省会が開かれそうになっていたところ、二人の間を割って入るかのようにしてフユ姉さんが。

 そのままなんの用事か確認する間もなく出席簿で叩かれてしまい、俺は頭をおさえながら沢山のクエスチョンマークを並べた。

 しかもなんか説教になる流れなのか、フユ姉さんはこの場に居る俺以外に席を外すようお願い――――と言うより、雰囲気としてはそういう命令を下した。

 そんなフユ姉さんに逆らうわけにはいかないのか、箒ちゃんたちは一瞥もくれずにピットから出て行ってしまう。山田先生は……かわいそうなくらいにビビりながら、かな。

 さて、そしたら俺も姿勢を正すとしよう。とりあえず何かしら反省しなくてはならないみたいだから、正座とかしたほうがいいのかな。

 

「なぜ叩かれたかわかるか」

「いえ、わからないです」

 

 断っておくが、フユ姉さんは負けたからって怒るほど理不尽な人ではない。負けてヘラヘラしたりとか、逆に思い詰め過ぎていたらその限りではないだろうが。

 けど、さっきの俺はそのどちらにも該当しないはずだ。確かに詰めが甘いゆえの敗北ではあるが、それだけなら手までは出ないはず。

 わからないのに去勢を張ってもフユ姉さんの機嫌を損ねるだけだ。それを理解している俺は、素直にわからないと答えた。

 

「ならば聞こう。最後の一撃、なぜ手加減をした?」

「え……?」

 

 最後の一撃というのは、間違いなく虹色の手甲(ガントレット)のことだろう。だからこそわからない。俺は間違いなく本気で撃ったはずだ。

 どう返したものだろうか。そんなことはありません、本気でやりました。……なんて言っても、フユ姉さんの質問の意図とは関係ない気がする。

 困った果てに俺がオロオロとしていると、フユ姉さんは眉をひそめるようにしてこちらを見据えた。

 

「なるほどな、完全なる無意識か。お前の拳がオルコットに当たる寸前、機体を押し出していた虹色の光が一瞬だが乱れたぞ。こうならねば、あれでフィニッシュだったろうな」

「…………!?」

 

 そんなことあるはずがない。そう反論したかったが、フユ姉さんが映し出したリプレイ映像では確かにビフレストの放出が乱れている。

 その時俺の頭に浮かんだのは、俺に殴られる寸前のオルコットさんの表情だった。あの、殴られると悟ったような顔……。

 なんでだ。さっきまで平気だったというのに、息が乱れて脂汗が滲んでくる。もしかして俺は、今更女性を殴ったことに罪悪感を抱いているというのか。

 

「そのうえで、なぜ叩かれたかもう一度考えてみろ」

「……これがもし、試合でなかったら……」

「そうだ。もし試合でなく実戦だったのなら、今頃お前はどうなっていることか」

 

 フユ姉さんはなんだかんだ甘いところがあると言ったが、どうやら俺を想ってこんなことを言ってくれているらしい。

 俺がISを渡された理由は、ある程度の自衛の手段を得るため。そして、現実にISを用いたテロ組織等が存在すると言う事実。それはオルコットさんのような対戦相手とは違い――――敵だ。

 そして、その敵とは前提条件として女性となる。つまりフユ姉さんが言いたいのは、実戦で女性を全力で殴れるかどうか、ということなのだろう。

 

「…………はぁ……。晴人」

「は、はい」

「私はな、お前のそういう心優しいところを誇りに思うよ。だがな、もう少しくらい自分に優しくしてもいいんだぞ。まぁ、今回の場合は優しさとは言わんかも知れんが」

「けどそれなら……!」

「言うな、言わないでくれ。わかっているんだよ、晴人が自分の無事より相手の安否を選ぶことくらいはな」

 

 学内だというのに俺の名を出した。ということは、姉の言葉として聞いてほしいのだろうか。

 フユ姉さんの言葉は、どこかの誰か知らない敵より、個人的に俺が無事でいてくれるのが一番だと言っているかのようだった。

 いや、実際言っているのだろう。俺はフユ姉さんの不器用な優しさは理解しているつもりだから。

 

「晴人、自衛に限った話なら相手を傷つけることを躊躇うな。試合でそれができんのなら、実戦でもお前はそうするぞ。要するにあれだ、とっとと慣れてしまえ」

「…………」

「ただし、その優しさを捨てろと言っているわけではない。……わかるな? いや、頼むからわかってくれ――――弟よ」

「っ! は……い……」

 

 あのフユ姉さんが、俺の心優しいところを誇りと言ってくれた。こういうので容赦をするのとかは、そもそも優しいとかそうじゃないとかいう次元の話でもないのだろう。

 だがそういう前提でこの話を始めたのなら、フユ姉さんは本気で俺のことを心配してくれてるんだ。俺に傷ついてほしくないって、そう思ってくれているんだ。

 そしてとどめに弟よという言葉までもらっては、俺は返事をしないわけにはいかなかった。ああ、なんてずるい人なんだろうか。

 でもやっぱり、気持ちの整理はまだつかない。実戦なんてあるかないかわからないのに、とか思っているわけではないが、この議題は……もう少し考える時間が欲しいな。

 

「……一応でもわかったのなら、今日はもう帰ってゆっくり休め」

「……はい、そうします。あの、ありがとうございました」

 

 伝えたいことは伝えたのか、フユ姉さんはすぐ背を向けて歩き出してしまった。

 どうあれ気遣ってくれたことに変わりはないので、俺は去り行く背中に礼を言いながら深々と頭を下げた。

 頭を上げることにはフユ姉さんの姿はもうなく、ピット内は完全に俺一人になってしまう。……これ以上ここに留まる意味もなさそうだ。

 ……とりあえずフユ姉さんの言ってくれたとおりに帰って休もう。今日はなんだかいろんな意味で疲れたな。

 誰も居ない中溜息ひとつ。それから俺はロッカールームへと向かうのであった。

 

 

 

 

 




まず初戦は落としましたが、現状の晴人はこんなもんです。
といっても明確な成長が見られるのは学年別トーナメント編ほどからですかね……?
晴人の成長は一夏ちゃんとの心の距離と完全に比例するので、私としてはその過程を楽しんでいただきたいところであります。





黄色の弩砲(バリスタ)
ヘイムダルの右腕である虹色の手甲(ガントレット)に用意されている七つの変形機構のうちの一つ。
巨大な右腕そのものを砲身とし、超強力なエネルギー矢弾を放つその姿は、ボウガンでなくまさしくバリスタと呼ぶにふさわしい。
ただし、あまりに威力が高いため、現状の晴人では100%チャージを空中で撃つことは不可能。
もし100%チャージで撃ちたいのであれば、撃つ瞬間のみPICの数値を変更する必要がある。





【ビフレスト】
各変形機構に利用されるエネルギーを使用した際、余剰となるエネルギーの総称。
元ネタは北欧神話におけるヘイムダルの守る虹の橋とされるビフレストから。
ヘイムダルは元から備わった機能により、このビフレストを一定量右腕に蓄積することが可能。
当然ながら許容量は存在し、過度に上限を超えてしまうとオーバーフローし自爆の原因に繋がる。





虹色の手甲(ガントレット)(技名)】
ヘイムダルに用意された最大の切り札にして逆転の一手。
虹色の手甲(ガントレット)に蓄積したビフレストを一気に解放、放出することで爆発的な超加速を得つつ相手をぶん殴る技。
溜めたビフレストは発動と同時に0まで消費されるため連発は不可。どころか一試合に一度が限度といったところだろう。
しかし、最大チャージでなくともかなりの威力を誇るため、どんな状況からでも一発逆転を狙うこともできるかも知れない。
ちなみに最大チャージでの虹色の手甲(ガントレット)は、高機動型の機体が行う瞬時加速(イグニッション・ブースト)よりも速度が出る。




次回はロッカールームの晴人と一夏ちゃんからお送りします。
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