気づかれず読んでいただけない、みたいなことがなければいいんですが。
さて、今回は対セシリア戦を終えての話になります。
どうか晴人の心理描写にご注目を。
以下、評価してくださった方々をご紹介!※順不同
アマナットー様
評価していただいてありがとうございました!
(……こんなもんで大丈夫かな)
ロッカールーム内に併設してあるシャワールームで汗を流した俺は、着替えを済ませて制服姿へと戻った。
ネクタイは後でナツにやってもらうとして、他に阻喪がないかきちんと確認だけはしておかないとな。普通に汗臭いとかだけでもこの学校では死を招くぞ。
得てして人間自らの発する匂いというのは感知しにくいものだが、一応そこかしこをクンクンとかいでみる。
男子的主観では問題ないが、女子的主観ではどう感じられるのやら。最低限のマナーとして、清涼剤くらいロッカーに突っ込んでおくべきだった。
(それにしても……)
うーむ、考えれば考えるほど惜しい試合だった。ブルー・ティアーズとヘイムダルは割と相性がいいようだし、そのおかげだろうか。
試合の最中とはいえ、新たな変形機構が解放されたのも大きいのかも。欠点は多々ありながら、相手に大きなダメージを与えうる性能でよかった。
しかし、この調子なら他の変形機構も何かしらピーキーな要素を持っていることを覚悟しておいたほうがよいだろう。
どういうのを用意してあるのかくらい教えてくれてもいいのに、それじゃ面白くないからって母さんは口をつむぐばかりだから。
何が出てくるかわからないビックリ箱を右腕に抱えているようなもので、せめて普通の練習中とかに解放されるのを願うばかりだ。
後は、フユ姉さんに指摘されたとおりのことに気を付けさえすればいい。そうだよ、女の子を殴るって言ってもISなんだし、別に俺がそこまで思い詰めるようなことでも――――
(思い詰めるような……ことでも……)
だってよく考えたらお互い様じゃないか。オルコットさんとの模擬戦に例えるのなら、俺はとんでもない数のレーザーで攻撃されたんだぞ。
ISに乗る限りこれから先もっと銃で撃たれたり、剣で斬られたりするんだぞ。その反撃として、殴り飛ばすようなことがあったって悪くはないだろ。
そう頭ではわかっているつもりなのに、またオルコットさんの恐怖に歪む顔がフラッシュバックするのはなぜなんだろう。
(……おい、待て待て待て、いくらなんでもそれはおかしいだろ!)
人の怖がる姿を申し訳なく思い、罪悪感を抱くくらいならまだいい。だが、右腕が震えて止まらないというのは流石にないだろう。
だって俺は加害者だ。殴られたオルコットさんが被害者であるというのに、どうして俺に震えるような権利があるというのか。
俺は何を被害者面して、いったい何を恐れているというんだ。生まれて初めて人を殴ったこと? それもよりによって女の子を殴ったから? それとも怖がるオルコットさんへの罪悪感に押しつぶされそうなのか。あるいはそれら全てか……。
「ダメだろ……」
理由なんか肝心じゃない。ダメだ。とにかくダメなんだ。それら全ては、殴った俺に考えていい権利はないんだ。
「ダメなんだ……」
ダメだ。慣れないとダメなんだ。せっかくフユ姉さんが心配してくれたろ。もし今のが実戦だったら、俺はここに立ってすらないんだぞ。
死ぬのと怖いのどっちがいい? それは俺だって後者がマシだって即答するさ。なのにどうして俺は、こんなにも――――
「ダメなやつ……なんだよ……!」
本当に自分の性格が自分でも腹立たしい。偽善者ぶりやがって、そんなにも自分が可愛いのか。
俺の苛立ちは珍しくも代償行為として現れ、震える右手を鎮めるがごとく思いきりロッカーを殴った。
ガシャンと大きな音を立て、ジンジンと右手に鈍い痛みが走るも、それでも震えが止まるような気配はない。
「ダメなやつなんかじゃないよ」
「ナ、ナツ……!?」
震える右手を息を乱しながら恨めしそうに眺めていると、ロッカールームにナツが入ってきた。
いったいどこから見聞きしていたのか、まるで俺の呟きを否定するかのような言葉と共に現れたせいか、マナー違反とかそういうツッコミはどこかへ吹き飛んでしまう。
ナツは俺を咎めるような、それでいて悲しいことでもあったかのような複雑な表情をしてこちらへ近づいてくる。
俺は逃げたい衝動に駆られながらも、固唾をのんでただ近づいてくるナツを見守った。
「ハルは、ダメなやつなんかじゃない」
「……そんなことない。そんなことないんだよ。俺は、キミが思ってるほど強くはないんだ」
「うん、知ってる。ハルは普通だよ。どこまでも、どこにでも居そうな普通のやつ」
ナツは俺の目を真っ直ぐな視線で射貫ようにして、私の中では確固たる考えだと主張して言い切った。
ナツは慰めなんかでなく、本当に心からそう思ってくれているだろう。しかし、それは買いかぶりというやつだ。
いくらナツがそう思ってくれていようが、そこに関して肯定的意見は言えたものではない。
けどナツが俺に伝えたいのはそういうことではないらしく、普通なやつだと飽きるほど言われてきた評価をくだされる。
先ほどまで思い詰めていたと言うのに、俺はとてもマヌケな顔をしながら話の続きを待ち受けた。
「人を殴っておいて、悪いことをしたとか、怖いとか思うのって普通のことだと思う」
「普通……? ……普通、なのかな」
「うん。いきなり戦うような環境に放り込まれたんだからそれで普通だよ。マンガやアニメの主人公じゃあるまいし」
当たり前なんていうのは人によって異なるだろうが、IS業界においては戦闘をするということは当たり前に属するのだろう。
しかし、つい一か月前くらいまではありふれた一般市民であった俺には遠い話だ。だから別に俺は普通な俺のままだって、ナツはそう言いたいのかも。
けど違うんだ。何も特別になりたかったわけじゃないが、少しくらい変わりたいって思うようになった。だから俺は多分、悔しいのかも。
いや、少しは変われると信じていた。そう思い込んでいた。なのに結果としては相手を傷つけることを恐れてしまう。そんな俺が、情けなくて、嫌いなままなんだ。
「それにねハル。私はこう思うんだ」
「ナツ?」
「ハルの右手は、どこかの知らない誰かを感動させるためにあるんだって、心からそう思う。それって、すごく素敵なことじゃない」
ナツは俺の右手を両手で包み、慈しむかのような表情でそんな言葉を送ってくれた。それを聞いて、まるで目が覚めるかのような気分だ。
ダメなやつかどうかという議題からはだいぶズレがある。しかし、もはやそんなことどうでもいいと思えるくらいには嬉しかった。
ナツが言っているのはもちろんだが絵のことで、俺の右手はそのために、絵を描くためにあるのだと……そう言ってくれたんだ。
俺の右手は誰かを感動させるために。そんなこと考えたことすらなかった。そうか、俺の右手は、人を傷つけること以外にも使えるんだよな。
「……ナツ」
「んっ……。ハルの手は温かいね」
「ナツの頬も温かいよ」
「そうかな? それなら嬉しいな」
俺自身もこの行動になんの意図があったかいまいちわからない。ただ気づけば、右手でナツの頬に手を添えていたという事実だけが残ったかのようだ。
ナツは嫌がるような仕草は見せず、むしろとても愛おしいかのように、自分の頬に添えられている俺の手を握った。
なんだかくすぐったそうだったり、俺の体温を確かめるような動きだったり、一挙一動に注目してしまう。
そして、とても心が安らぐ。ナツの温もりは、この上ない癒しを俺に提供してくれる。この掌にナツの頬の感触や温度を、永遠に宿しておくことができたのなら。そう思うくらいには。
「「…………」」
それからしばらく俺たちは無言だった。時折互いの頬と掌を確かめるように、撫でてみたり頬ずりしてみたりはあった。
が、俺たちはあくまで息を漏らすような、クスッとしたような笑みをこぼすばかり。そう、なんというか、わかっていたんだと思う。互いに、この場で言葉を発するのは野暮なんだって。
心臓が跳ねて顔に熱が溜まるが、すぐ手を離すのはあまりにも惜しい気がしたから。まぁ、少なくとも俺はそう。
だから、何か余計なことを言ってはナツが離れてしまうかもって。そう思ったら、自然と無言の体勢が出来上がったんだと思う。
「ナツ」
「うん?」
「ありがとう。俺を普通のやつだって言ってくれて、ありがとう」
「ううん、私は思ったことを言っただけだよ。だって普通なんだもん」
けどいつまでもこうしてるわけにはいかない。……というのは建前かも知れない。無意識に恥ずかしさが勝ったのか、気づけば俺は感謝を述べていた。
やはり自然に手は定位置へと戻り、ナツも数歩だけ後ろに下がる。やっぱりさっきまでは無言でいることが正解だったか。
そしてナツは俺の感謝を大したことはしていないというふうに受け取り、最後に冗談の範囲で悪意を込め、普通のやつだと評してきた。
悪戯っぽく笑うナツはとても可愛らしく、しばらくの間目を奪われてしまう。
そんなボーッとした様子をショックを受けたとでも思ったのか、いきなり謝り始めるから困ったもんだ。
俺はそれを誤魔化すかのように、ある提案をナツに投げかけた。
「あーそうだ! 後で頼もうと思ったんだけど、その、今二人しか居ないからちょうどいいし、ネクタイ、着けてくれないかなって」
「…………! うん、もちろんだよ! じゃあハル、少し顎を上げて」
「りょ、了解」
俺がなんとなく手首に巻いていたネクタイを解いて渡すと、ナツの表情はパッと花が咲いたかのように明るくなった。
本当に俺にネクタイをつけることに楽しみでも見出しているかのようだ。鼻歌交じりに手順を進めていく姿がとても印象的である。
ナツとしても毎日俺のネクタイをつけるせいか上達したらしく、巻かれ具合は早くて綺麗だ。しかも絶妙な締めつけでとても快適ときた。
文字通りあっと言う間にネクタイを巻き終え、ナツはできたよと結び目の部分をポンと叩く。それを合図として、俺は感謝を述べた。
「ありがとう」
「ううん、やるって言ったのは私だもん」
「でも、結果的に頼んでるのは俺だし」
「アハハ、わかったよ。無限ループになっちゃうし止めようか。どういたしまして」
……可愛いなぁ。今のどういたしましては最高に可愛かった。こう、はにかむような感じがどうしようもなく。
できればもう一回見たいくらいのものだが、ナツが狙ってやってるはずもないし無理な注文というものになってしまう。
というかその前に引かれるわ、俺のアホ。でも、なんというか、いつかの話ではあるが、可愛いと感じたのならそれをきちんと伝えたい……とも思う。
「じゃあ私、先に行くね。食堂の席を確保して待ってるから」
「あぁ、そういや時間的にそうだっけ。了解。すぐ追いつくよ」
「うん、また」
放課後すぐに試合が始まって、準備片付け含めて二時間くらいだからちょうど夕食の時間だったか。
自分でも思った以上に緊張の糸を張り詰めていたのか、それを思い出させられると一気にお腹が減った気がする。
着替えたとはいえ、もう少し片しておかなければならない物品が諸々ある。ナツが席は確保しておくとのことだし、とっとと処理して追いつくことにしよう。
これからのお互いの動きを確認し終えると、ナツは小さく手を振りながら小走りでロッカールームを出て行った。
俺も小さく手を振り返していたんだけど、その時になってようやく気が付いたことがひとつ――――
「……あれ?」
俺の右手の震えは、いつの間にか完全に停止しているのであった。しばらく不思議そうに右手を眺めるも、よく考えなくたって理由は明白じゃないか。
俺は力強く右手を握りしめると、顔に火照りが宿るのを覚えながら、震えを止めてくれた少女の名を呟くのだった。
「……ナツ…………」
「そういうわけですので、一組のクラス代表は織斑さんで決まりました」
俺とオルコットさんの模擬戦から三日が経過し、すべての戦績が出そろったところでクラス代表が決定した。結果は山田先生の宣言どおり、ナツが二勝で代表と言うことになる。
対オルコットさん戦では、BTの張る弾幕を飛び回りかいくぐり、ブレード一本で勝利を収めてみせた。正確に言うなら、白式は近接ブレード一本しか積んでないらしいんだけどね。
で、俺とナツの模擬戦だが、十秒たらずで負けてしまった。その原因としては、白式が持つ特殊仕様が関係している。
本来は二次形態以降に発現する可能性のある単一仕様能力だかを、一次形態で使用できているんだとか。
その能力がヘイムダルと相性最悪であり、なんとバリアやらエネルギーを無効化する刃を形成する能力らしい。
ヘイムダルの武装は全てエネルギー兵装だ。
っていうか本当にどうすればいいんだ。これって一生ナツに勝てなくないかな。機体相性のみでそうなってしまうのは悲しいなぁ。
「クラス代表。就任について適当に述べよ」
「あ、はい! え~っと、改めまして、クラス代表になった織斑 一夏です! 文字通りみなさんの代表として精いっぱい頑張りますので、どうかよろしくお願いします!」
フユ姉さんにそう促されたナツは、すぐさま立ち上がって壇上へと立った。即興の挨拶なためか内容は当たり障りないが、ナツの誠実さは十分に伝わったようだ。
それを示すかのように、クラス内は大きな拍手で包まれる。もちろん俺も惜しみない拍手を送り、意外なことにオルコットさんにも不服そうな様子は見当たらなかった。
ナツ本人もここまで歓迎されるとは思ってなかったのか、なんだか照れくさそうな様子で拍手を受け取っている。
そして拍手が止まると、ナツはまずは初仕事と切り出した。おや、いったい何をするつもりなのだろう。少し悪戯っぽい表情なのが気になる。
「日向 晴人くん!」
「は、はい?」
「代表の権限において、貴方に副代表の役職を与えます!」
高らかに掲げた指先がこちらへと向いた。ナツに晴人と呼ばれるのはいつぶりだろう。とにかく姿勢を正してナツの言葉を待ち受けていると、それは俺の副代表就任を告げる内容だった。
それはつまり、ナツの補佐役ということだろうか? ぶっちゃけ代表として試合に駆り出されるのはごめんだが、ナツを支えることができるのなら願ったり叶ったりというやつだろう。
「えーっと、異論がないならそれで」
「……あれ? いいの?」
「うん。ナツの支えならむしろしたいくらいなんだけど」
「思ったのと違う!」
まぁ副だろうと補佐だろうと代表であることには変わりない。ナツの一存で決めていいものではないと思うので、一応は周囲の判断に委ねるよう付け加えておく。
すると、本人が俺を指名したというのに、ナツはおっかなびっくりした感じで目をパチクリとさせる。……もしかして冗談だったのか?
ナツの言葉が冗談であろうとなかろうと、俺の想いは本物だ。思ったことを包み隠さず率直に述べると、ナツは顔を両手で覆いながら何か違うと叫ぶ。
何が思ったのと違うかは知らないが、ナツが叫んだのと同時くらいにまたしても拍手が鳴り響く。これを見るに、俺も歓迎されているということでいいのだろう。
「クラス代表、責任をもって締めるように」
「じゃあ、ハル。副代表として、私をしっかり、さ、ささえっ、支えて、下さぃ……」
「了解。全力をもってナツを手伝わさせてもらうよ」
こんなことでナツへの恩返しができるなどとは思っていないが、小さなことからコツコツとやっていくことにしようじゃない。
よし、これからはナツの補佐として心機一転――――って、ナツさん? 今度はモジモジし始めていったいどうしたというんです。
ホームルーム中ということもあってすぐ問いかけるには至らず、フユ姉さんは手早くナツを座らせて今日のスケジュール等を機械的に話し始めた。
説明が終わり次第、質問の有無を確認し、ないと見るやすぐ教室を出ていく姿がより無感情さを増長させる。……なんだか軍隊に居る気分だ。
そのあたりはフユ姉さんだから仕方がないとして、ナツの様子の方をだね……。って、まだやってるじゃないか。耳まで真っ赤だし……。
「晴人、安請け合いしてよかったのか?」
「箒ちゃん。まぁ、ナツのためと思って頑張るよ。それより、ナツなんだけど――――」
「放っておけ。そのうち立ち直る」
ナツに声をかけるよりも先に、箒ちゃんに話しかけられた。彼女の方に目を向けてみると、今日も変わらず不機嫌そうな顔だ。
言い回しが厳しめであるが、箒ちゃんの言葉を翻訳するなら、本当に大丈夫かと心配してくれているだけのことだろう。そちらに関しても相変わらず。本当に不器用なことで。
補佐と言いつつ、ナツにもしものことがあれば俺が駆り出されることになるはず。箒ちゃんがしてる心配はそのあたりかな。
ナツの代わりと言うにはあまりにも力不足な俺だが、その時が来れば腹くらいくくるとも。その結果に関しては、まぁ、酷いことになるんだろうけどさ……。
それはさておきと話題を変なナツの様子について変えてみるも、箒ちゃんは呆れた表情で放っておけとひとこと。これは意図的に突き放しているように感じるが……はて?
「少しよろしくて?」
「またお前か……。話だったら私がしてもいいんだぞ。言っておくが、晴人は決してお前が思っているような――――」
「……まぁ、そう取られても仕方ありませんわね。ですがご安心ください。わたくしもそこまで愚かではありません」
オルコットさんが話しかけて来たので対応しようとすると、険しい表情の箒ちゃんが少し前に出た。どうやら態度に関して思うところがあったようだ。
俺にとっては怖くて厳しい印象のある箒ちゃんが弁護をしてくれるのは嬉しかったが、何もそんな喧嘩腰でなくても……ねぇ? とりあえず落ち着くよう促そうとするが、それよりも前にオルコット自身が場を制した。
そして箒ちゃんを避けて俺の前に立つと、スカートの端をちょこんと撮んでお辞儀をされる。その一連の動きは、優雅のひとことに尽きるものだった。
「わたくしの偏見にもそれなりに複雑な事情があったものではありますが、貴方の雄姿は十分心に届きました。どうかご無礼をお許しください」
「えぇ……? えぇ!? い、いやいや、全然そんな! 俺は多分、オルコットさんが思ってたような奴だよ」
「貴方が単に情けないお方ではないと、戦いを通じればわかりますとも。勝利に邁進するお姿、貴方自身がどう思おうと、少なくともわたくしには素敵な殿方に映りましたわよ」
もし俺のことを情けないやつと思っていたのなら、それはオルコットさんの大正解だ。こちらからすれば謝られるのは筋違い。
筋違い……のはずなんだけど、あろうことかオルコットさんは俺を素敵だったとまで評するではないか。リ、リップサービスってやつ? 本気にしない方がいいのかな……。
例えそれが上辺であろうとナツ以外の女性にこうも褒められた覚えはないせいで、ここからどう返していいのか想像もつかないな。
けど、これから仲良くしていこうという意図はあるのだろうから、例のアレを見せる流れでいってみよう。
「えっと、それならお近づきの印ってほどでもないんだけど、少し見てほしいものがあってさ」
「まぁ、絵がご趣味とは仰っていましたが、まさかここまでとは……。もしかして、わたくしをイメージして描いてくださったのですか?」
「うん、模擬戦の話が決まった時からコツコツね」
この学園に来て思ったのだが、いろいろと濃い人物が多い。よって、印象に残った人はそのイメージを絵にしてみようかと。要するに武者修行みたいなものかな。
まず出会いが衝撃的だったわけだし、オルコットさんは速攻で描いてみようと思い立った。記念すべき第一号である。
まずイメージしたのは気高さ、そして美しさ。色合いはなんとなく似合いそうだと感じ青を基調としたが、ブルー・ティアーズを見るに大成功だったと言えよう。
結局何を描いたのかと聞かれれば、青と金のカラーリングが施された鎧をまとった騎士だ。もちろん女性であることがわかるよう、シャープなデザインにするよう心掛けた。
それが豪勢な玉座につき、優雅にたたずんでいる感じ……かな。BTのことを知っていれば、従者として六人の騎士を描いてもよかったんだけど。
「……もしよければですが。こちらの絵、頂戴してもよろしいかしら?」
「え、貰ってくれるの? それは嬉しいんだけど、それならもっとちゃんとした用紙に描けばよかったな……」
しばらく絵を眺めていたオルコットさんだったが、再び視線をこちらに向けるのと同時につかぬことを聞いてきた。
もちろん欲しいと言うのならあげない理由はない。むしろ描いた絵を貰ってくれるのは本当に嬉しいことだ。
しかし、俺がその絵を描いたのは安っぽいスケッチブックの一ページ。額に入れるのを前提にしたような高級画用紙も所持しているんだが、どうせならそちらに描いたらよかったな。
オルコットさんはそれでも構わないと言ってくれるので、端の方にサインと日付を小さく書いてからページを破り取り、それをオルコットさんへ手渡した。
「ありがとうございます。機会を見つけて実家に飾らせていただきますわ」
「って言うと、お屋敷だったりするんだよね。……なんだかプレッシャーだな」
「フフッ、こちらとしては代々伝える気が満々ですわよ。それではまた、御機嫌よう」
オルコットさんは受け取るなりそんなことを言い出すわけだが、一般人と貴族に言われるのでは言葉の重みというものが違う。
俺がそんな率直な感想を述べると、オルコットさんはますますプレッシャーのかかるような返しをしてきた。
いやホントどうするの、そんな普通の紙に描いたのがオルコット家に伝わる名画とかになっちゃったら。それを思うと、次からはそれなりにいい紙に描くことにしよう。
もうすぐ次の授業が始まるということもあってか、オルコットさんはまたしても優雅なお辞儀を見せてから戻って行った。多分、あれが本来の彼女の姿なんだろう。
「ハル、すごいじゃん」
「うわっ、ビックリした……。 えっと、何がすごいって?」
「ハルの頑張りが、オルコットさんの物の見方を変えたんだよ」
いつの間に復活したのか、ナツに声をかけられて大変驚いた。ビクッと身体を反応させてから振り返ると、ナツはとても朗らかな笑みを浮かべている。
そして俺の頑張りがオルコットさんの女尊男卑主義を見直させたというふうなことを言いたいみたいだが、そこのところはどうなのだろう。
そもそも俺にそんな気はなかったわけだし、別に俺が口を出すようなことでもないし。でも本当にそうだとするのなら、なんだろう、頑張ってよかったなって思う。
「ナツ、箒ちゃん。なんか俺、ちょっとはマシになってるっぽい……のかな?」
「その微妙に自信なさげなのがなければな。だがまぁ、私もそう思うぞ。ちょっとはな」
「うんうん。ハル、もっと胸張っていこう!」
オドオドしたり自信がなかったりはするけど、とにかく必死に頑張れる程度にはなったのかも知れない。
客観的意見が欲しかっただけに身近な二人へ問いかけると、それこそ自信が持てれば100点というような評価をいただいた。
胸を張って……か。何をどうすればそうやって生きれるのかというのが本当のところだが、ナツがそう言うのならもう少しだけ頑張ってみようかな。
自分に自信が持てたのなら、きっと世界は見違えるのだろう。いつか違った世界を見れるその日まで、願わくばナツに見守ってほしいものだ。
俺にそんな想いを抱かせる張本人は、俺の視線に対してキョトンというような表情を浮かべて首を傾げるばかりだった。
今作品における一夏と一夏ちゃんの実力差に軽く触れますが、圧倒的に後者へ軍配が上がります。
むしろウチの一夏ちゃんは最強クラスの実力者と思っていただいても。
で、それにつけてヘイムダルとの相性差というね。
実はカカア天下のメタファーだったりします。
ハルナツメモ その13【思ったのと違う】
副代表発言は普通に冗談の類。
でもあっさり受け入れられた上に、その理由がむしろ自分を支えたいという要因で盛大に自爆。ゆえに思ったのと違う。
でも一緒に行動できる時間が増えるから結果オーライ。やったね私。伏せている間にこの結論にたどり着き、ようやく調子を取り戻したとか。
一夏ちゃんかわいい。