ハルトナツ   作:マスクドライダー

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またしても金曜の更新でござい。
ギャグ回なのかシリアス回なのかよくわからない話になってしまいました。
まぁ私の作風?的にはベースがシリアスになりがちなんですが……。
要するに申し訳程度のギャグ要素含む、といったところでしょうか。
それと、若干ですけど箒がキャラ崩壊起こしてるのでそこのところはご注意を。


第24話 大丈夫だよ

「あら、わたくしの存在を危ぶんでのことかしら!」

「おはよう。なんか盛り上がってるね」

「セシリアはいつもこんな気がするけど……。箒、何かあったの?」

「ああ、なんでも中国から代表候補生がやって来たらしい」

 

 やることを済ませて一組の教室に登校すると、入るなりセシリアさんのそんな声が聞こえて来た。視線を向けると得意気な様子のおまけつき。

 朝からいきなりのことで話しかけてみると、ナツは絶妙に辛辣とも取れなくもない言葉を放った。セシリアさんには聞こえていないようで一安心。

 それで、箒ちゃんに詳しいことを聞いてみると、中国代表候補生――――もとい鈴ちゃんと関わりのある内容だった。

 危ぶんでのことーとなると、セシリアさんは自分が脅威ゆえの中国から飛び入り参戦とでも言いたいのかな。

 ……セシリアさんのこういうのは冗談かどうかわかりづらくて困る。ナツや簪さんも代表候補生なわけだし、一概にセシリアさんだけのことを危ぶむということはないと思うが。

 しかし、いわゆるマジレスというやつをしても得はない。みんなもそうしてるみたいだし、ここは適当に聞き流させてもらうことにしよう。

 

「へぇ、中国。中国かー……。あの子は元気にしてるかな。ね、ハル」

「そ、そそそそ、そうだね。うん、確実に元気なことが判明してはいるんだけど……」

「……? 変なハル」

 

 やはり中国と聞いただけで思うところがあるのか、ナツは腕組みしながら遠く離れた故郷に帰って行った友人を懐かしむかのようだ。

 その友人が例の中国代表候補生と知ったらどんな顔をするだろう。

 結局のところ鈴ちゃんのことはナツに話せず終いで、罪悪感と動揺からか違和感を覚えさせるであろう返事になってしまった。

 ナツが追及するようなことがないのがせめてもの救いではあるが、少なくとも今日中にはエンカウントしてしまうだろう。

 ……困った。ナツにも鈴ちゃんにもどう説明したらいいのやら。

 

「何がそんなに感慨深いのかは知らんが、一夏は対抗戦に集中した方がいいと思うぞ」

「そうですわ、わたくしを下したのですから、必ず勝っていただきませんと!」

「それに織斑さんが頑張るとみんなが幸せだよー!」

 

 箒ちゃんやセシリアさんはクラス代表としての義務的なもので勝利を願っているようだが、少し毛色の違う声が飛び交い始めた。

 確か優勝したクラスには食堂のデザートフリーパスが贈呈されるんだったかな。それでぜひとも勝ってほしいってことなんだと思う。

 しかし、そうだとするなら俺は持て余してしまうがどうしたものか。同じクラスの人は二枚もいらないだろうし。

 そういえば、四組に簪さんという友達が居るじゃないか。彼女もあまり執着はなさそうだが、もしナツが優勝した場合は必要かどうか聞いてみることにしよう。

 

「うーん、そういうことなら人肌脱いじゃいましょうか!」

「今のところ専用機持ちは一組と四組しかいないし余裕だよ」

「その情報、古いよ」

 

 他力本願っぽいから士気が下がるかと思いきや、ナツは意外にもやる気を見せていた。昔なら俺にそんなこと言われてもなぁとかボヤいてそうなものなんだが。

 そしてナツが意気込みを見せると、一人の女子が専用機持ちのことについて言及を始めた。他クラスで言うなら簪さんだけだから問題ない、と。

 だが、それを否定する声が響いた。俺には聞き覚えがありまくる声であり、あらゆる気まずさからその場に居られなくなるようなプレッシャーが過る。

 

「中国代表候補生の凰 鈴音。宣戦布告も含めて挨拶に来てあげたわよ」

「あっ……! まさか本当にり――――」

「わああああああっ!?」

「何ようっさいわね! 晴人、アンタのせいで台無しじゃない!」

 

 壁にもたれかかるようにしてあからさまにかっこいいアピールしてる小柄な少女、寸分たがわず昨日再会を果たした鈴ちゃんだった。

 そしてナツ、まさかの再会に心躍るのはわかる。けど、今のナツが久しぶりなんて言おうものならすさまじくややこしいことになってしまうんだ。

 俺は思わず叫び散らしながらナツの口元を押さえる。すると自分の境遇及び状態を思い出したのか、こちらを見上げてコクコクと何度も首を頷かせた。

 だがその代償として、鈴ちゃんの機嫌を損なってしまったらしい。こうなると鈴ちゃんはとても厄介だ。

 詰め寄られてギャーギャーと文句を言われるんだろうと思ったのだが、鈴ちゃんは楽しそうに顔をニヤッとさせた。これはこれで嫌な予感がする。

 

「晴人、アンタ女の子ばっかで苦労してるかと思ったら楽しそうじゃ~ん。三人もはべらしちゃっていいご身分ね~。この~!」

「いや、みんなは別にそんな……。というか、そんなんじゃないってわかってるくせに。少し悪趣味なんじゃないかな」

「おっ、言うようになったじゃん。ふ~ん……表情もなんか違うし、アタシが帰ってからいろいろあったみたいね」

 

 鈴ちゃんはニヤニヤしながら近づいてきたと思ったら、ナツ、箒ちゃん、セシリアさんを順に指差してから俺を肘で突いてくる。

 まぁ俺を知る鈴ちゃん的にはからかいたくなる気持ちはわかる。俺自身かつてならあり得ないことだと思っているし。

 でも言うべきことは言わなくては、放っておくと鈴ちゃんはけっこう長いこと引きずるからね……。

 そこでそれなりに反論しておくと、鈴ちゃんは一瞬だけ驚いたような表情を見せ、また楽しそうな様子へと戻った。

 鈴ちゃんのその様子は、やはりそれなりに俺のことを心配してくれていたということをうかがわせる。鈴ちゃんとしても、俺は弟のように思っているみたいだ。

 

「で、さっきの様子からしてアンタがクラス代表よね。改めて、凰 鈴音よ。よろしくね」

「あ~……」

(おい晴人、どうするつもりだ)

(ど、どうするも何も……。そんなの俺が聞きたいくらいだよ)

 

 デジャヴである。完全に箒ちゃんの時のそれと同じシチュエーションじゃないか。自分を自分と認識してもらえないで困るしかないこの感じ。

 俺と鈴ちゃんのやり取りで知り合いということは察知したらしい箒ちゃんは、小声でそう語りかけてくるけど……。やっぱり誠心誠意、懇切丁寧に事情を話すしかないんじゃなかろうか。

 ナツや俺がどうするべきか困っている間に、鈴ちゃんも異変を察知したようだ。どちらかと言えば、初めて会うはずの少女に、想い人であった少年の面影を感じているといったところか。

 

「……なんかアタシ、アンタのこと知ってる気がするんだけど」

「え、え~っと、鈴ちゃん。後で必ず説明するから今は――――」

「説明? 何よ説明って! もしかして、やっぱり一夏がおん――――な゛っ!?」

 

 本当に今この場で取り乱してしまうのだけは防がなくてはならない。そもそも俺のことは知っていて、ナツのことを知らないようなリアクションを不思議に思っている子も居るようだ。

 そこで落ち着くよう促してみるも、やはり鈴ちゃんは既に感づいているらしく、かえって混乱に拍車をかけさせてしまったようだ。

 一夏が女の子になっているのかと、鈴ちゃんがそう叫びかけたその瞬間のことである。救世主の登場と言わんばかりに出席簿の音が轟いた。

 

「騒々しい。それと時間を守れ。聞けないのならもう一発だ」

「ち、千冬さん……」

 

 相変わらず音もなく現れたフユ姉さんは、二つの理由を付きつけつつ鈴ちゃんを睨む。すると鈴ちゃんは、借りてきた猫のように大人しくなった。

 鈴ちゃんは昔からフユ姉さんが苦手らしい。まぁ、基本的に身内以外には厳しい部分が印象に残るだろうから無理もないと思う。苦手じゃない人の方が少ないとも思うし。

 だが鈴ちゃんに至っては存在そのものがトラウマレベルなようで、もはや頭の中には逃げ一択しか残されていないだろう。

 

「っ~……晴人! 必ず説明しなさいよ!」

「う、うん、約束するから――――だっ!?」

「時間を守れというのは凰だけに言ったつもりはないが?」

「す、すみませんでした!」

 

 口惜しやという様子はぬぐい切れないものの、鈴ちゃんも命が惜しいみたいだ。でも俺への忠告はしっかり忘れないあたり、転んでもただでは起きない所も変わっていない。

 とりあえずこの場は一安心だと思ったのがまずかった。鈴ちゃんに牙をむいた出席簿が、今度は俺に振りぬかれたのだ。

 フユ姉さんが現れた時点で席についていないのがまずかったらしい。俺もひと睨みされてしまう。

 すぐさま謝罪して席についたことにより追撃は免れた。そして俺が犠牲になっている間に、やっぱりみんなは一足早く安置についているという。

 ……別に自己犠牲精神があったわけでもないが、みんなが無事ならそれでいいと開き直っておくことにしよう。そう言い聞かせておいたら楽だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔、貸しなさいよ」

 

 一時限目が終わり十分の休憩に入ると、すぐさま鈴ちゃんが再訪問してきた。

 親指でクイッと廊下の先を示して歩き出すあたり、もはや俺たちに有無を言わせる気はないらしい。

 それを悟った俺とナツは顔を見合わせ、しげしげと席から立って鈴ちゃんを追いかけるべく廊下へと出た。

 

「待て、私も付き合おう」

「え、でも箒ちゃんは無関係で――――」

「同じことを体験している身だ。私の言葉なら届きやすいやも知れん」

 

 俺たちを呼び止めたのは箒ちゃんで、なんと鈴ちゃんの呼び出しについてくるつもりらしい。

 その申し出は有難かったが、箒ちゃんはこの件になんの関りも持たない。勿論、部外者とか言いたいわけじゃなくて、自分から巻き込まれなくてもという意味。

 箒ちゃん曰く、恋焦がれた人物が女の子になって再会したという希少な体験を先立ってした身として、経験者は語るという旨のことをしてくれるつもりみたい。

 まぁ確かに、箒ちゃんと鈴ちゃんの置かれた状態はほぼ同じ。離れてしまった幼馴染で、ナツに恋をしていて、再会したら女の子になってたと……。

 こうしてみると、ナツを誘拐した連中はなんと罪深いことだろう。でもナツが女の子になってなかったら、そもそも再会しているということもないんだよな。う~む……。

 とても複雑な因果のようなものに頭を悩ませていると、人気が少なく少し死角になるような場所で鈴ちゃんがたたずんでいた。

 その出で立ちは不機嫌そのものであり、俺は思わず生唾をゴクリと飲み下さずにはいられない。

 

「その子、一夏なわけ?」

「……ナツです」

「へぇ、そう。久しぶりね一夏――――ってなるかこの馬鹿ああああっ! アンタ、昨日会ってんだからその時に教えなさいよおおおおっ!」

「い、いや、俺もどう説明していいのかわからなくて――――それより鈴ちゃん、首、首が!」

 

 まだ俺たちが合流し切っていない間に、鈴ちゃんはナツに向けてピッと指差し確認をとってきた。やはり大体の予想はついていたらしい。

 観念してそれを肯定すると、鈴ちゃんは昔と変わらぬ朗らかな様子でナツに挨拶を――――というわけにもいかず、俺に詰め寄りネクタイを掴んで前に後ろに押したり引いたり。

 確かにビビって説明しなかった俺にも非があるから仕置きは甘んじて受け入れるものの、あまりに首がガックンガックン揺れるものだから早くもギブアップを宣言。

 しかし、一度暴れ出したら手が付けられないのは相変わらずなようで、俺の言葉にはろくに耳を傾けてはくれずしばらくなすがままになってしまう。

 見かねたナツと箒ちゃんが引き離してくれはしたが、鈴ちゃんはまだ息を荒げて落ち着かない様子だ。

 

「何がどうなってるってのよ!? いったいどうしてこんな非現実なことが起きてるわけ!?」

「え~っと、鈴、落ち着いて聞いてほしいんだけど――――」

 

 俺にとってナツがこうなった理由を聞くのは通算三回目となる。やはり何度聞いてもいまいちピンとこない感じがするな。

 鈴ちゃんの方はなんだか百面相しながら聞いている。コロコロと表情が変わるのも彼女の特徴のひとつだろう。

 だが短気なところに変化がないとなると、聞き終わった後にどういう行動に出るのかわかったものじゃない。一応は身構えておかないとダメそうだ。

 

「――――ってことで、こんな感じになっちゃった」

「そう、よくわかったわ。とにかくその誘拐した連中見つけてボコればいいわけね……!」

「全然わかってない! り、鈴ちゃん、それができてたら苦労はしないから……!」

 

 鈴ちゃんが納得の表情を見せたのは束の間、次の瞬間には指をバキバキ鳴らしながらどこぞへと向けて歩き出そうとするではないか。

 流石に単純な力だけなら負けることはなかったというのに、羽交い絞めのようにしても俺ごと引きずってまるで止められる気配はない。それだけの怒りということなのだろうか。

 というか鈴ちゃん、きっとフユ姉さんとドイツ軍が協力して犯人は捜しまわったはずだ。それで見つからなかったがゆえにナツは女の子のままで――――

 いや、鈴ちゃんだって頭ではわかっているんだろう。けど、様々な感情の持って行き場がなくて、ただ誘拐犯に対して怒りを向けることしかできないんだ。

 

「だったら何よ! 一夏、アンタそのまま一生女の子でもいいわけ!?」

「うん、全然。戻る気もあまりないかな」

「は……?」

 

 謎の怒りパワーのまま俺を軽く振りほどいた鈴ちゃんは、ビシッとナツを指差してこのままでいいのかと問いかける。

 迫真とした鈴ちゃんに対し、余計ナツの呑気というかあっけらかんとした調子が光るよ。予想外の返答に、鈴ちゃんは思わず声を詰まらせた。

 やっぱり箒ちゃんの時とデジャヴだな。なんか元に戻れるかどうかの話で、似たようなやり取りをしていたような気がする。

 そして俺を見たりナツを見たりする感じも全く一緒だ。幼馴染という部分から、いわゆるシンパシーでも発動しているのかも知れない。

 そして俺とナツを交互に見るのを止めた鈴ちゃんは――――叫んだ。

 

「はぁああああああっ!? いやマジ……? マジなの!? 気持ちはわからなくもないけど、マジ!?」

「……本気と書いてマジ」

「晴人ぉ! アンタ何やらかしてくれてんの!」

「な、何が……?」

 

 う~ん、芸がないってくらいに同じリアクションだな。この焦ってナツに何かを問いかけるのまで箒ちゃんと一緒とは。

 しかしこの、なんと言ったらいいんだろう。女子特有の皆まで言わない感じで、俺には何がマジなのかまったくわからないんだけども。

 だというのに、鈴ちゃんの矛先は俺へと向いたらしい。小さな体躯から怒りがあふれ出し、オーラとなって視覚化できるかのようだ。

 そんなオーラを纏われてにじり寄られたら恐ろしいなんてものじゃない。鈴ちゃんの場合は手や足が出やすいからなお恐ろしい。

 

「まぁ待て凰とやら、少し私の話を聞くといい」

「……あえてスルーしてたけど、何者よ」

「私の名は篠ノ之 箒。だいたい凰と同じ境遇と言えばわかってもらえるだろう」

 

 ここにきて箒ちゃんが声を上げた。まるで自分の出番だと言わんばかりに俺たちを後ろにさげつつ、だ。ときどき思うけど、箒ちゃんは俺なんかよりはよほど男前な気がする。

 対する鈴ちゃんは訝しむように様々な角度から箒ちゃんを眺め、その素性を問う。返ってきた簡潔な答えで、そのすべてを悟ったようだ。

 警戒心は薄れないながらも、そういうことなら話くらい聞いてあげないこともないけど……みたいな視線を箒ちゃんへと送っている。

 しかし、いくら同じ体験をしているとはいえ、箒ちゃんはどう鈴ちゃんを説得するつもりなんだろう。今は信じて待つことしかできないが、果たして――――

 

「とりあえずだ。一夏の身体を元に戻すことを諦めていない前提での話にはなる」

「何よ、結局同じ穴の狢ってやつじゃない」

「そう焦るな。その前提で結論から言わせてもらうが、ハルナツはいいぞ」

「…………はい?」

 

 箒ちゃんは前置きのようにして前提の話をするものだから、てっきり一夏の気持ちそのものを無視するようなことがあってはならない。みたいな言葉を続けるかと思った。

 だが予想に反してというか、箒ちゃんにしては珍しくよくわからないことを口走る。鈴ちゃんも面食らっている様子だったが、昔馴染みのこちらとしてはそれどころじゃない。

 なんだか不安を過らせながらも箒ちゃんの動向を見守っていると、俺たちは更にらしくもない姿を目撃することとなった。

 

「私はどうも少女マンガやら架空の恋愛話なんぞ興味もなかったのだがな、最近になってハマる気持ちもわかったというものだ。目の前で繰り広げられるアイツらのこそばゆいやり取りに、当初は困惑したり苛立ったりしたが、どうにもこう、な、そのうち見守っていると和んでいる自分に気づいたのだ。特に何気ないやり取りはいいぞ。名前を呼び合うだけで互いの意図を察する所なんかはもはや尊いと表現すべき領域だと――――」

「ちょっ、待っ、スタァァァァップ! 初対面だから詳しく知らないけど、アンタ絶対普段はそんなキャラじゃないでしょ! 二人ともそうでしょ!?」

「そ、そうだね。俺も一度にそこまで喋る箒ちゃんは始めて見るかな」

 

 箒ちゃんがすっごい喋る。しかもすっごい早口。鈴ちゃんが待ったをかけても全然止まる気配がないし、むしろしゃべくりがどんどん加速しているように聞こえるのは気のせいなんだろうか。

 ナツのことは諦めていないらしいが、箒ちゃんはいつぞやから俺たちをラブコメ的視点に切り替えて見守っていたようだ。……もしかして、睨まれてたのってそういう意味だったの?

 いや、ある意味本能的な自己防衛が発動している可能性もあるな。なんというか、ナツをナツと認めないために、一種の娯楽として俺たちを見るよう視点を無意識に変えた……とか。

 だからこれも無意識的なもので、早々に鈴ちゃんを仲間に引き寄せなるべく傷つかないようにしている……とか。

 にしたって俺たちの知ってる箒ちゃんとはかなりかけ離れてしまうわけでありまして、率直に申しますと少し怖いくらいまであるなぁ……。

 

「聞いたアタシが馬鹿だったわ。一夏! 箒って子がハッキリしないんだったら、アタシが言わせてもらいますけどね」

「う、うん」

「アンタ、おと――――」

「っ……鈴ちゃん!」

 

 まだペラペラとよくわからないことを喋り続けている箒ちゃんを無視し、鈴ちゃんはすごい剣幕でナツへと詰め寄る。

 その様子をハラハラと見守っていたが、鈴ちゃんがとあるワードを言いかけたのを察してそれを遮った。

 瞬間、鈴ちゃんが身体をビクつかせてこちらに注目。俺に大声で呼ばれることが不慣れだからかも知れない。

 俺だって慣れてなんかないさ。なるべくなら、こんな非難するようなニュアンスを含めて他人に呼び掛けたりなんかしたくない。

 けど、だ。それでもそういった台詞だけは今のナツに言わせない。誰であろうと言わせてなるものか。そんなことナツが一番よくわかっているに決まってるんだから。

 俺は一度心を落ち着かせるために深く長く呼吸をしてから、鈴ちゃんを見据えてひとこと言い切った。

 

「ナツは女の子だよ」

「…………!」

 

 鈴ちゃんが言いかけた言葉とは、アンタ男でしょうがとかそんなのだろう。冷静でなかったにしても、今のナツに送るには残酷過ぎる言葉だ。

 わかっているに決まっていると言ったが、ナツ自身が一番わからないというのもまた正確なんだと思う。こう、自分の性別がどちらかってことは。

 けど、少なくともナツは女の子として生きようとしている。その様子はここ最近顕著なもので、俺に生じている混乱もそれが大きな要因だろう。

 俺の言葉に対し、鈴ちゃんは様々な感情が入り乱れているようだ。

 自分でもわずかながらに酷なことを言おうとしていた。そのことに対する戒め。そして、それでも納得がいかないという悔しさが主といったところか。

 

「……ごめん、出直すわ」

「む、まだ半分も話し終わってないぞ。時間が許す限り聞いていくといい」

「さっきからうっさいわ! ちょっとついて来ないでよ!」

 

 鈴ちゃんだってただ傍若無人なわけではない。自分に非があれば、素直に認めて謝ることのできる思いやりも持ち合わせた子だ。

 一気に脱力した鈴ちゃんは、多分だけどあらゆることに謝りながら去って行く。のだが、その背を追いかけられてまで箒ちゃんのトークを聞かされる気分はどうだろう。

 っていうか半分も終わってないって、無視している間もずっと喋っていたのに? ……次の休み時間までには落ち着いてくれていることを願っておこう。らしくなさ過ぎて、どう対応していいのかまったく見えないぞ。

 

「ナツ、俺たちも帰ろ――――」

 

 とはいえ今は授業合間の小休止。本来ならばトイレ休憩や次の授業の準備とかに使われるべき時間だ。

 移動含めてあまり猶予も残されていないだろう。ということで、ナツへ可及的速やかに教室へ戻ることを提案しようとしたところ、飛び込んでくるような勢いでナツに抱き着かれた。

 あまりに突然のことで混乱が生じてしまうが、ナツの様子がだんだんと俺の思考を冷静なものへと変えていく。どうにも嬉しかったりの感情だけでないような気配を感じたからだ。

 ナツの腕に込められている力はあまりにも必死で、まるでこちらにすがるかのような心情もにおわせる。何より、小刻みな震えが全てを物語っていた。

 

「……ありがとう」

「え?」

「……ありがとう」

「ナツ……」

 

 何事かを問うよりも前に、ナツはただひとこと、ありがとうと消え入りそうな声で言った。それが何を意味するか、理解すると同時に更に思考は冷静なものになっていく。

 多分ナツは、俺が女の子だとキッパリ言ったことに対して感謝しているんだろう。それでいて、どこか自分の生き方に迷いや後ろめたさがあるということなんだと思う。

 だから鈴ちゃんが言いかけたことも察していて、すがる様子とか震えはそこからくるものか……。

 もし鈴ちゃんがあの言葉を言い切っていたとするのなら、俺は――――初めて人を許せないと思っていたかも知れない。

 

「大丈夫だよ。大丈夫だから」

 

 基本的に慰められる場合が主なため、こういう時どうしていいのかはわからない。だから子供の頃母さんにされたことを思い出し、それを真似ることくらいしかできなかった。

 俺はナツの背中を撫でたり、軽くトントンと叩いたりしてみる。そして、ひたすら大丈夫だということを伝え続けた。

 こう言っては失礼なのかも知れない。ナツの悩みを軽視した発言かも知れない。けど、ナツが女の子じゃなかったらなんなんだって話でもあると思う。

 だって、探せばもっと女の子らしくない人は沢山居るはず。その点から言うなら、ナツは本当にとても可愛らしい女の子だ。だから、大丈夫だよ。

 俺はしばらくの間ナツに大丈夫だよと伝え続けた。それで次の授業に間に合ったかどうかだが、そのあたりはご想像に任せるとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 




ハルナツ限界オタク箒ちゃん爆誕。
晴人が考察しているとおり、自己防衛能力が無意識下で発動しているだけですが。
とりあえず、臨海学校編までは原作らしくない箒が散見するかも知れません。





ハルナツメモ その15【ハルナツ】
本人たちの知らぬところで、このような呼称が使われている。
合言葉はハルナツはいいぞ。
だが何も応援しよう、サポートしようというような、キューピット的なことをしようということは全くない。
どうせそのうちひっつくので初々しい姿を見守ろうというのが主な活動方針である。
主な勢力は一組であるが、簪も支持者の一人。
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