ハルトナツ   作:マスクドライダー

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長い癖して展開が遅いです。
というのも、ここから四話構成みたいなものでして。
もっと言うなら、この話は起承転結における起です。
ほとんど実りはないですが、どうか宜しくお願いします。





以下、評価してくださった方々をご紹介!※順不同

雪ん狐様 小傘様

評価していただいてありがとうございました!


第26話 テーマを掲げろ

 とうとうこの日が、クラス対抗戦の本番がやってきた。私にとってはあらゆることに審判がくだる日と言ってもいいのかも知れない。

 やれることはやったし覚悟も決めた。後は本番で結果を残すだけだ。しかし、対戦表を見るに運命めいたものを感じずにはいられなかった。

 ピットへ向かう道中にいくつも掲げてあるモニターには、第一試合のカードが表示されている。そこに映し出されているのは私と鈴だ。

 賭けを取り決めた私たちがいの一番に対戦とは。どうにも神様とやらは私に試練を与えるのがお好きなようで。まぁ、変に焦らされるよりはましだろうか。

 

「ナツ」

「ハル! ふふ、わざわざ見送りに来てくれたんだ」

「うん、そんな感じ。とりあえず、いつものアレはしておいた方がいいんじゃないかって」

 

 脳内で鈴との早期の決着がいいんだか悪いんだかと唸っていると、前方から私を呼ぶ声がして一気に意識が引き戻された。

 ピットの出入り口付近に居たのはハルだ。その姿を確認するのと同時に、自分でも笑ってしまうほど露骨に喜んでしまった。

 そのまま駆け足で距離を詰めると、下から覗き込むようにしてここに居る理由を尋ねた。するとハルは、少し恥ずかしそうにしながら見送りの儀式をしに来たのだと言う。

 子供の頃に考えたものを大事にしてくれているのはすごく嬉しいし、それをやるためだけに姿を見せてくれるのも嬉しいなぁ。

 

「調子はどう」

「ハルの顔見たら元気100倍」

「そ、そう? ならよかったんだけど。え~っと、それじゃあ、応援してるから。頑張って」

「うん、頑張る!」

 

 様式美がてらに調子を尋ねてきたんだろう。ハルの言葉に二ッとしながらありのままの答えを返すと、またしても恥ずかしそうに視線をそらした。

 でも当初の目的を思い出したのか、無理矢理にでも調子を戻してエールを送る。私はそれに意気込みを示すかのようにして、見送りの儀式という名の連続ハイタッチを行った。

 パチンパチンと小気味よく手が打ち合う音が廊下に響き渡り、その反響が消えるのと同時に私たちは微笑み合う。

 後はこれ以上の言葉は不要と、どちらともなく背を向け合ってそれぞれの歩くべき場所へと進んだ。

 ピット内に入ってみると、もうすでに出撃準備そのものは整っているようだった。後は私が白式を展開してカタパルトへ乗るだけと。

 

(白式、力を貸して)

 

 勿論だが負けていい試合なんて存在しない。けれど賭けの内容からしてこの一戦は大一番というやつになるだろう。

 日ごろ世話になっている相棒に内心で呼びかけると、そこから装甲を展開。なんだか気持ちいつも以上に装甲が馴染むような気がした。

 そのことを白式が応えてくれているんだと勝手に解釈し、カタパルトに両脚部をつけた。

 ゲートの表示がグリーンに変わるまでのわずかな間。私はそこで適度な緊張を味わいつつ更に調子を整える。

 そして表示されるGOの二文字。私は半ば条件反射じみた速度で白式を操作し、一気にゲートから飛び出た。

 

「一夏、アンタかっこいい機体に乗ってんじゃん」

「鈴こそ、トゲトゲしい感じがかっこいいね。ロックンロールって感じ」

「んなこと言われたのは初めてだわ。相変わらず独特な感性してんのね」

 

 お互いに公平を期すため、なるべく乗ってる機体の性能だのといった情報戦はなかった。ディティールすらここで初見となる。

 うんうん、白式のことは私も気に入っている。このウィングスラスターが特に。相棒を褒められると自分のことのように思えるね。

 社交辞令というかお返しというつもりもなく、鈴の乗っている甲龍なる機体も普通にかっこいいと思うので私も褒めておく。

 でも機体の大半を占めるカラーリングのそれは何色なんだろう。ピンクでもないし赤でもないって感じだ。後でハルに聞いてみよっと。

 

「ま、世間話はこのくらいにして――――一夏、負けないわよ」

「うん、私も負けない。負けられないの」

 

 鈴の朗らかな雰囲気は一瞬にして消え失せ、気づいた時にはまるでこちらを殺さんとばかりに鬼気迫る様子を見せつけられた。それだけの想い。それだけの覚悟ということなのだろう。

 思わず呑まれてしまいそうになってしまうが、ふと頭にハルの姿が過る。……うん、合言葉は勝ってハルとデート……だったよね。

 それを再確認した私は、鈴と同じく覚悟を抱いた姿を見せられた……と思う。だって殺気の出し方なんて知らないし。

 でも鈴のニヒルな笑みを見るに、それなりのものは伝えられたと思う。後は、私の想いの強さを示すのみだ。

 

『試合開始』

 

 今ここに、決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、みんな!」

「晴人か? 急に消えるものだから心配したぞ」

「まぁ、どこにいらっしゃったかは予想がつきますけれど」

「日向くんもなかなか過保護……」

 

 アリーナ内のモニタールームでみんなの姿を見つけた。嬉々として声をかけてみると、それぞれに思い思いのことを述べられる。

 箒ちゃんの言葉はもっともで、本来は俺もみんなと一緒にここへ向かう予定だったんだ。

 けど鈴ちゃんに限らずクラスの代表として出場しているから大事な時に該当するんだろうし、そうなると通例どおりに見送らないとこっちが落ち着かなくて。

 セシリアさんの含みを込めた笑み、それに簪さんの過保護という指摘は心外だが、こっそりと抜けてナツに会ってきたということだ。

 

「簪さん、試合の準備とかはいいの?」

「うん……。一夏の試合が終わってからでも問題ない……」

 

 そういえばというふうに思い立ったのだが、四組のクラス代表である簪さんが当たり前のようにこの場に居るのが気になった。

 すると余計なお世話なようで、第一試合が終わってからでもなんら問題ないそうな。とは言ってもナツの白式は短期決戦型だし、油断をしてるとすぐ決着がついてしまうのではないだろうか。

 ……と、考えていた俺は鈴ちゃんをなめ切っていたんだろう。軽い調子でモニターに目を向けて愕然とした。なにせ、そこにはナツが攻めあぐねているナツが映っていたのだから。

 あれはなんだ? わずかに空間の歪みのようなものが見える。それでナツはその歪みを必死に回避している様子だ。端からではさながらパントマイムのようにも感じられた。

 

「鈴ちゃんはいったいどんな攻撃を?」

「衝撃砲、ですわね」

「空間を圧縮固定し砲身を形成……。その際に余剰で発生した衝撃そのものを発射……する兵器だったと思う……」

「つまり空気砲か? 視認できんとはまた厄介な」

 

 俺では全く予想がつかなかったが、代表候補生二人は思い当たる節があるようだ。

 簪さんの解説を聞くに原理はわかった。それに伴いナツの不可思議な回避行動の謎も解けたも同然であろう。

 箒ちゃんが言った通り、あれは兵器クラスの空気砲。鈴ちゃんの肩付近に浮いている非固定のアレがそうかな。

 空気が透明であることなど当たり前で、子供ですら疑問に思うことはないだろう。だがその単純さが、鈴ちゃんの勇猛果敢な性格と上手く噛み合っているらしい。

 恐らく鈴ちゃんの機体は中・近距離戦を想定されている。

 先ほどから振り回している二振りの極大青龍刀で斬りかかり、離脱を図ろうものならその隙を衝撃砲で攻撃。相手が防御しても結果は同じだ。

 つまり、青龍刀か衝撃砲のどちらかの餌食になる道を選ぶしかないということ。ナツのように避け続けない限りはの話だけど。

 

「……相変わらずとんでもない……」

「ええ。一夏さん、わずかに動く彼女の視線を参考にして避けてますわね」

 

 そう、ナツはなんだかんだと言って避け続けてはいるんだ。いくら白式が高機動の機体とはいえ、それだけで片付けるにはあまりにも粗末に思える。

 するとナツと共に切磋琢磨した身であろう簪さんは、呆れるような畏怖するような、複雑な表情でとんでもないという評価を下した。

 何がとんでもないかを聞く前にセシリアさんが解説を入れてくれたが、もしそれが本当ならとんでもなく規格外だな。

 確かに射撃の際には狙っている方向を無意識に見てしまうようなこともあるらしいけど、それを主なヒントとして見えない攻撃を回避し続けるとは。

 

「おい、一夏が仕掛けるぞ!」

「真正面から!? あの方は何を考えているんです!」

「多分、今までのは慣らし……」

「うん、弾速や効果範囲をだいたい把握できたってことなんだと思う」

 

 ナツが急カーブして方向転換をしたのに合わせて、箒ちゃんがモニターを指差しながらそう叫んだ。

 するとナツは小細工なしの真正面から鈴ちゃんに突っ込んでいくではないか。これには思わずセシリアさんも驚愕の声を上げる。

 だけどそんな心配はない。根拠はないが、なんとなくナツがただ攻め手が見えずに避け続けるようには思えなかったからだ。

 どうやらこの点については簪さんと意見が一致したようで、そう、早い話が慣れたから大げさに避ける必要がないということなんだと思う。

 ナツは右脳派か左脳派かで例えるなら間違いなく前者のタイプ。天性のセンスともはや予知能力にも近いであろう勘が大きな武器だ。

 抜群の操作技量による接近からの一撃必殺こそがナツのファイトスタイルとなる。つまり、高機動性と零落白夜を備える白式もナツと相性がいいとみてよさそうだ。

 

「一夏の勝ち……」

「ああ、凰のやつは明らかに冷静さを欠いている」

「見えない攻撃を、見えてるように避けられるのはそりゃ焦るよね」

「わたくしは大いに気持ちがわかりますわ……」

 

 効果範囲や連射速度ないし回数を図ることができたのなら後は簡単――――いや、簡単ではないけどね、明らかに常人から逸脱した離れ業ではあるわけだが、ナツは鈴ちゃんとの距離を秒読みで詰めていく。

 必要最低限の動きで進路を細かく変え、それにフェイントも加えることで完全に鈴ちゃんを手玉に取っている状態だ。

 そんな二人の明らかな力関係を見てか、簪さんはナツの勝利を確信したかのような力強い口調で呟いた。声量そのものは相変わらずか細いけれども。

 鈴ちゃんもきっと、衝撃砲の視認が困難という単純でわかりやすいアドバンテージを信頼していたことだろう。

 だからこうも避けられることは想定していなかったろうし、その恐怖に駆られたかのような表情を見るに初めての経験と見た。

 そんな鈴ちゃんの姿にデジャヴを覚えたのはセシリアさん。確かに、BT四基による猛攻を割と簡単そうに避けられていた際に似たような表情をしていた。

 ナツはきっと、刀一本という白式の仕様で勝つ方法を考えたとき、避けて避けて避けぬくことが最適解だという結論にたどり着いたのだろう。

 前述したとおりにそれがナツの持つ天性のセンス、そして操作技量にピッタリハマったわけだ。やっぱりナツはすごい。まるで簡単そうにやってのけてしまうナツが、とても誇らしかった。

 

「そこだ、ナツ!」

 

 誇らしいついでにエキサイトした俺は、モニターに映るナツに呼び掛けるようにそう叫んだ。拳を掲げ、最初で最後の一太刀を見せてくれという想いを込めて。

 単なる偶然ではあるが、それと同時ほどにナツは鈴ちゃんを射程範囲に捉えた。そして、愛刀である雪片を振り上げ、万物を斬り裂くかのような強烈なひと振りを――――浴びせることはなかった。

 ナツは何かに気が付いたように首の方向を捻ると、雪片を振り切ろうとしていた手を止めて更に速度を上げた。

 そして、突進するかのように鈴ちゃんに抱き着いた次の瞬間のことだ。画面から目の眩むような光が放たれ、スピーカーから割れんばかりの音が鳴り響き、立っていられないような衝撃が地を走る。

 

「な、何ごとです!?」

「みんな、俺につかまって!」

「ありがとう……!」

「すまんな、支えに使うぞ!」

 

 本当に揺れが大きくて転倒の危険を感じるほどだった。

 これには俺も男としての本能のようなものが働き、周囲にいる三人に転ばないよう自分を掴むよう呼び掛けた。

 呼びかけに答えた三人が服や腕に掴まったのを確認すると、両の足をしっかり地に着けこれでもかというくらいに踏ん張る。

 俺がこけては本末転倒だ。みんなに怪我をさせるわけにはいかない。そう自分に言い聞かせ耐えることしばらく、さほど長時間でもない揺れは自然に収まっていった。

 やがて三人も俺に感謝を述べながらその手を離した。と、同時に代表候補生二人の行動に移すのが早い。手早く他の女生徒に怪我人がないか確認を始めた。

 こ、こうしてはいられない。それなら俺も――――と、意気込んで周囲を見渡し始めたその時、モニターに映るソレに反応を示してしまいそれどころでなくなってしまう。

 

「あれは、いったい?」

「日向く――――な……? あれは、Ⅰ……S……?」

「これは一刻を争う事態ですわね。晴人さん、簪さん、急ぎ織斑先生のもとへ!」

 

 モニターに映っていたのは、どう形容していいのかわからない何かだ。簪さんの抱えた疑問のように、確かにISであることは確かみたい。

 しかし、こう、なんだか取ってつけたかのように思える。ボディラインが女性を思わせる、膨らむところは膨らみ、締まるところは締まるところが特に。

 そして巨大な掌、不自然に長い手足、首がなく胴体から生えるかのような頭部と何もかもが異質だ。ヘイムダルのようにただ異質なのでなく、異質で、不気味で、あまり視界に留めてすらおきたくないように思える。

 俺と簪さんは愕然としてしまうが、セシリアさんの堂々とした声に現実へ引き戻された。なるほど、状況把握のためにフユ姉さんを頼ろうってことか。

 簪さんだけじゃなくて俺も呼ばれたのは、一応だが専用機持ちだからであろうか。よ、よし、もしもの時はせめて足手まといにならないようにしないと!

 

「……ああっと。箒ちゃん、すぐ戻ってくるから!」

「あ、ああ、気を付けるんだぞ」

 

 事態が急なのはわかるが、どうも無視するようで心苦しかったので箒ちゃんに一声かけておく。

 こんな状況ともなれば箒ちゃんも不安なのか、それとも一夏を始めとした俺たち専用機持ちが心配なのか。真偽のほどはわからないが、戸惑いながら俺の言葉に答えてくれた。

 本当はもうちょっと何かあってもよかったような気がするが、セシリアさんと簪さんは既に駆けだしている。これ以上は遅れるわけにもいかないので大人しく二人を追いかけた。

 流石に走力で二人に大きく劣ることはなく、ちょっぴり気合を入れて走ったらすぐ背中につくことができた。後はそのままフユ姉さんの居るであろう管制室の中へ直行だ。

 

「織斑先生、簡潔に状況の開示を求めますわ!」

「……お前らか。勿論その要求は呑むが、悔しいことに芳しくない報告しかできんぞ」

 

 管制室の中は慌ただしく教師の皆さんが走り回っていた。

 そんな中でフユ姉さんの悠然たる立ち姿は目立ち、すぐさま見つけることができた。しかし、声をかけたのと同時に、よくないことが続いていることを示唆するような発言で迎えられる。

 まずあの異形がISであることは間違いないらしい。しかし、未登録のコアを使用しているらしく所属等有益な情報は得られないそうだ。

 そして、外部からのサイバー攻撃か何かでシステムを掌握されたも同然の状態に。今はあらゆる扉がロックされてしまっているらしい。そ、それってつまり――――

 

「避難も援護も……!?」

「そうだ。教師や上級生が処理に当たっているが、果たして間に合うかどうか」

「そんな……。それじゃ、ナツと鈴ちゃんを信じて待つしかできないんですか!?」

 

 簪さんはナツを恩人だと言っていた。そんなナツがほぼ孤立無援の状況で、アリーナのシールドをも破壊する装備を備えたISと交戦せざるを得ないという事実に珍しく感情をあらわにした。

 かくいう俺もそうだった。そのせいで、努めて冷静であろうとしているフユ姉さんにわかり切ったことを聞いてしまう。しかもそのニュアンスはまるで非難するかのよう。

 

「無論すべての扉が電子ロックということはないが、逆に混乱を招く可能性があると考えるとどうも――――」

 

 フユ姉さんは少しだけ表情を苦いものに変えると、思い悩むかのようにそう呟いた。曰く、不足に事態の備えそのものはあるとか。

 外部からのサイバー攻撃で各扉がロックされた時に備え、手動で開く非常口はいくつか用意されているそうだ。

 しかし、あくまで侵入できるのは観客席まで。つまり、アリーナのシールドに阻まれて援護するまでには至らない。しかもこのパニック状態が事態を悪化させていた。

 今現在、客席で観戦していた生徒たちはパニック状態。多くの生徒が開く保証がない電子ロックの出入り口に殺到している。

 これだけでも危険だと言うのに、脱出できることがわかれば我先にとなってしまうのは目に見えている。将棋倒しのリスクを更に高めることになるだろう。

 

「――――とはいえこの状況に甘んじているわけにはいかんか。お前たち」

「「「はい!」」」

「それぞれ分かれて手動の非常口を解放せよ。ただし、それら全てISを展開して行え。押しつぶされては話にならん。そして、援護可能な兆候が見えるまではそのまま避難誘導に当たれ」

 

 そう、アリーナのシールドを破壊できるのだから、あのISの操縦者がいつ観客を人質にとるともわからない。ならば速やかに避難を進めるべきだ。

 フユ姉さんとしても苦肉の策と言いたげだが、俺たち三人の専用気持ちに的確な指示を与える。どうやら開放する方針で進めるらしい。

 指示を受けた俺たちは再度大声で返事をし、専用機へと送られたデータを参照に三手に別れ行動を開始した。

 この中では最も体力があり走る速度も速いであろう俺は、現在位置から最も遠い非常口に全速力で向かう。息を切らしながら隔壁の前に立つと、そこでヘイムダルを展開。

 

「位置、着きました!」

『同じく……』

『わたくしもですわ!』

『よし、随時解放を始めろ。断っておくが、解放と同時にするべきなのはまず生徒たちを落ち着かせることだからな』

 

 オープンチャンネル設定になっている通信機に叫べば、耳元でフユ姉さんたちの声が聞こえた。他のみんなも準備オーケーみたいだ。

 そして非常口を開ける前にフユ姉さんがひとこと。確かに俺たちの役目はここを開けるだけじゃなく、より安全かつ迅速に生徒を避難させることにある。

 苦手分野だがやるしかない。深呼吸してから意を決した俺は、隔壁に書いてあるガイドラインに沿って非常口の開放を始めていく。そして――――

 

「あ、開いた! 開いたわ!」

「やっと逃げれるのね!」

「みなさぁぁぁぁん! とりあえずいったん落ち着きましょうっ!」

 

 非常口の開放と同時に、やはりフユ姉さんの危惧したとおりの現象が起きかけてしまう。気持ちはわかるが、俺は心を鬼にしてそれを制す。

 パニック状態ということで俺の声が心にまで響いてくれるかは心配だったが、俺の必死な様子はなんとか伝わってくれたらしい。

 動きが止まったのを確認するのと同時に、すかさず避難の心構えを大声で伝えた。避難しようにも慌ててしまえば意味はない。という旨の言葉を誠心誠意。

 どうやら効果があったらしく、今度は慌てず騒がず歩いて女子の行列が非常口の奥へ向かって進んで行く。これには内心で思わずほくそ笑まずにはいられなかった。

 そのまま俺は女子たちの頭上を飛ぶようにして、慌てないよう心掛けることを啓発し続けた。それと同時に、ハイパーセンサーで逃げ遅れた人がいないかも確認。

 

「二人とも、状況は!?」

『問題なし……。スムーズ……』

『こちらもつつがなく』

「そっか、ならいいんだけど。……けど、ナツと鈴ちゃんは」

『……苦戦していらっしゃるようですね』

 

 一時はどうなることかと思ったが、なんだかんだ言っている間に俺周辺の生徒はほとんど避難が完了した。

 そこで二人にも避難状況を確認すると、どうやら向こうも特に問題らしい問題はなくことが進んでいるようだ。

 なら俺たちがここへ来たもう一つの理由にも集中していいだろう。独断ながらそう判断した俺は、未だアリーナ内で不明IS及び操縦者と戦闘を続けるナツたちに目を向けた。

 どうやらレーザー砲を警戒して迂闊に接近ができないらしい。それはそうだ。当たればISを装着しているとはいえ即死は免れない。

 しかもいやらしいことに、向こうは回転しながらレーザー砲を撃つことで、攻防一体の戦法をとっているじゃないか。

 

『あのままじゃ……もたない……!』

『ジリ貧とはこのことでしょうか……』

虹色の手甲(ガントレット)でもアリーナのシールドは破壊できないだろうし。くっ、ナツ……!)

 

 そもそもナツと鈴ちゃんは試合をしていたんだぞ。エネルギーもそれなりに削られた状態につけてのこれだ。ジリ貧にもなるだろう。

 エネルギー切れ=ナツと鈴ちゃんの死と言い換えてもいい。そんな切羽詰まった戦況だと言うのに、ただ黙って指をくわえて見ていることしかできない自分が悔しい。

 ただし思考を止めるようなことをしてはだめだ。ナツを助けるために必要なことがあるならすべてやりつくさなければ。

 しかし、どれもこれもアリーナに侵入するという一番の問題を解決することができない。悔しさ交じりにハイパーセンサーでナツをズームで映すと――――

 

「何かする気だ」

『えっ……?』

「ナツのあの顔、何かする気だ!」

『何かとはなんです!?』

「それはわからないけど……」

 

 ナツの目はまだ死んではいなかった。むしろあの顔は、イタズラ程度の悪だくみでも思いついたようなあの顔は、今まで何度も見てきたことがある!

 ただそういう場合は二つに一つだ。見るも無残に失敗するか。もしくは成功――――ながらもそれなりの自己犠牲の上に成り立つようなソレ。

 どちらにせよ悪い方向に転ぶ可能性のある、そんな危険な賭けに出る時の顔だ。なんで今なんだ。なんで今その顔なんだよ、ナツ……!

 これがちょっとした喧嘩くらいなら、失敗したって残念だったねのひとことで済む。しかし、アリーナのシールドを破壊する兵器を備える奴を相手にそれで終わるはずがない。

 俺の頭にはどうしても最悪のパターンが過ってしまい、息は荒くなり自分でも脂汗が浮いていくのがわかる。そんな危険な賭けは止めてくれ。そう叫びたい衝動を必死に抑えた。

 

『一夏ぁ!』

「へっ……?」

『箒さん!?』

『無謀にも程が……!』

 

 キィーンという甲高いハウリングがアリーナ内に響き渡った。瞬間、この場に居た全員は時が止まったかのような錯覚すら感じただろう。

 箒ちゃんだ。箒ちゃんが、なぜかアリーナの放送室にてナツに対して檄を飛ばしている。俺の抱いていたナツへの心配は一気に消え失せ、盛大に取り乱しながら異形のISを見やった。

 まずい。どうする。見ているぞ。あの操縦者も箒ちゃんのことを見ている。それまで一切合切を無視してナツたちと交戦していたと言うのに、挙句レーザーキャノンの搭載された手を放送室に向けているじゃないか!

 

「箒ちゃぁぁぁぁんっ!」

 

 やはり俺は、こうして叫ぶことしかできないのだろうか。自分の無力さを痛感するくらいしかやることはないのだろうか。せめてアリーナに侵入さえできれば。そんなないものねだりをするしか――――

 すると、一瞬だけ目の前の空間が揺らいだ。悔しさのあまりにめまいでも起こしたのかと思ったが、どうやらそうではない。これは、アリーナのシールドに綻びが生じている?

 ……例え話をしよう。あの異形のISが放った初撃にてアリーナのシールドは破壊されたわけだが、その際に修復機能にまで障害が発生していたとしたらどうだ。

 修復が十全に、完璧に行われていなくて、綻びが生じてしまったとしたら? 例えばこの綻びに突撃すれば、アリーナに侵入できたりはしないだろうか。

 考えるまでもない。試してみる価値は十分にある!

 

青色の塔盾(タワーシールド)ッ!」

 

 正直、俺がアリーナに侵入できたからって何ができただろう。でも俺は、この時少しだけ嬉しかったんだ。

 友達のために必死になれる自分が。考えるよりも先に動けた自分が。今までそうできなくて、そうありたかったはずの俺がすぐそこに居たから。

 酔いしれている。自己満足だ。そう言われたらそれまでだし、実際そうなんだと思う。例えそうだとしても俺は……。ナツ、ほんの少しでもキミに近づけた気がして、すごく嬉しいんだ。

 だから、だからここにテーマを掲げよう。キミが剣なら俺は盾だ。キミが全て守るために悪しきを斬り裂く剣だとするなら、俺はそれが届くまで全てを守り抜く盾だ。

 ならば俺のするべきはただひとつ。キミの守りたいものを守りたい。守りたいものを守るキミを守りたい。ただ、それだけなんだ――――

 

 

 

 

 




はい、というわけで地味に今作におけるテーマの一つが登場しました。
それはズバリ【剣と盾】です。何を示しているかはもうおわかりですね?
といっても、すぐ理想通りの関係になるわけではございません。というか現段階では、晴人の中だけで勝手に立ち上がったテーマですし。
二人が数多の困難を乗り越え、真なる剣と盾に成長するまでをお楽しみいただければと。
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