ハルトナツ   作:マスクドライダー

27 / 84
いきなりPCが立ち上がらなくなるものだから焦る焦る。
どうやらそろそろ買い替え時ということなのでしょうか……?

さて、26話で触れたことの続きですが、今回は起承転結の承にあたります。
前話で掲げたテーマがどう影響するのかご注目を。





以下、評価してくださった方をご紹介!

fokattya様

評価していただいてありがとうございました!


第27話 盾として

(ああ、うるさいな)

 

 俺が一番に抱いた感想はそれだった。

 それはみんなが心配してくれてる証拠なんだけど、そうも同時に叫ばれたら何を言っているのか聞き取れないよ。

 というか、そもそも返す言葉もない。言葉を返している暇もない。なぜなら、今俺は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされているからだ。いや、自ら飛び込んだと表現するのが正確かな。

 

『馬鹿者が、アリーナのシールドを貫通する破壊力だぞ! それを一介の装備で受け止めようなど無謀な真似を!』

 

 もはや俺の耳に届く言葉が罵詈雑言に変わりかけていたその時、フユ姉さんのよく通る声が聞こえた。そして、その言葉が俺の置かれている状況を簡潔に説明してくれる。

 俺は出力を最大限まで高めた青色の塔盾(タワーシールド)にて、箒ちゃんを狙って放たれたレーザーを受け止めている状況だ。

 例の綻びに突撃してみたところ、思ったよりも簡単に突破できてしまったというわけ。もはや俺には盾になるという選択肢しかなかった。ゆえにこの選択の先に何が起きようと後悔はない。

 

(後悔はないけど、ただで死んでやるわけにもいかない!)

 

 青色の塔盾(タワーシールド)がいくら盾だろうと、それなりにヘイムダル本体へダメージがフィードバックしてしまう。

 それは相手の放つ攻撃の威力に依存するわけだが、流石にアリーナのシールドを破壊するだけあって、まるで本体に当たっているかのようにシールドエネルギーがゴリゴリと削られていく。

 このエネルギーがゼロになった瞬間に俺の死が確定する。死がそこまで迫っている。死がこちらにおいでと手招きしている。

 そんな状況のはずなのに、なぜか俺の頭は至って平静を保ち続ける。パニックを起こしたらそれこそ死ぬと、俺の生存本能がそうさせているんだろうか。

 そのあたりはどうでもいいか、どちらにしたってやらねば死ぬんだから。

 俺はすぐさま回せるエネルギーの多くをシールドエネルギーと青色の塔盾(タワーシールド)に回す判断を下した。ぶっちゃけこれも危険な賭けではある。主に箒ちゃんが。

 

「づああああっ! ぐぅっ!」

 

 ほとんどの機能を停止させてエネルギーの確保を図ったということは、それまで空中での支えとしていたPICやスラスターも働かない。

 それに伴い俺はレーザーの勢いに押されて修復されたアリーナのシールドへと叩きつけられる。賭けと言ったのはこのあたり。綻びが生じたなら、俺ごと突き破られて箒ちゃんにも危害が及ぶ。

 だけどそうさせないための措置でもあるんだ。俺は青色の塔盾(タワーシールド)の出力を上げ、即死級の威力を誇るレーザーを受け止め続けた。

 

(この威力だ。逆を言うなら、そう長い間照射し続けることはできないはず!)

 

 はず、という希望的観測も含まれているが。そもそも攻撃している側と防御している側で力関係は歴然だ。

 しかし、ただひとつだけ揺るがない事実というものがある。それは、俺が決して一人ではないということだ。

 生と死の狭間に立たされ焦っていたのもある。レーザーの閃光が眩しくて前が見えなかったと言うのもある。

 しかし、ハイパーセンサーでようやく捉えることができた反応がひとつ猛スピードでこちらへ迫ってきている。

 俺はその瞬間に勝利を確信し、相棒と同じくイタズラっぽい表情を浮かべた。

 

「ハルに、手を、出すなああああっ!」

 

 俺の目に映るのは青白い刃を掲げたナツ。確と零落白夜を発動させた雪片を振るい、見事に異形のISを斬り裂いた。……あれ? ……斬り裂いたぁ!?

 勢い余って殺害してしまったのではとロックオンしてみると、切断面に生々しい血や臓物は見当たらない。そこにあるのはネジや基板等々の部品。……つまり、無人機だったって言うのか?

 そんなことが可能なのか。果たしてナツが無人機であったことを知っていたか。そのあたりの問題は残るが、謎の無人ISは力なく地に落ちた。

 ……ふぅ、なんとかなったみたいだな。それにしても、ナツのさっきの勢いは瞬時加速? 既にそれを発動させるエネルギーもないような状態だったと思ったが。

 

「……たっく、揃いも揃って馬鹿ばっか!」

 

 鈴ちゃんがいきなり悪態をついたと思い目を向けてみると、寸前に衝撃砲を放った形跡が非固定武装に残っている。

 ……そうか、ナツは衝撃砲の空気弾っていうエネルギーを外部から取り入れることによって、白式そのもののエネルギーを消費させずに瞬時加速をしてみせたんだな。

 つまりナツが企んでいたのもこれか。なかなか仕掛けなかったのは鈴ちゃんが渋っていたからかな。まったく無茶するよ。そんなの渋るに決まってるじゃないか。

 って、今回の場合は俺も人のことは言えないのか? とりあえずナツの反応をうかがってみようと、礼を兼ねて助かったと声をかけようとしたところ――――ものっそい剣幕で睨まれた。

 

「なんであんな危険なマネしたの!? わかる?! アリーナのシールドを破壊する武装だよ!?」

「わかってるつもり、だけど。うん、まぁ、わかってないからこその無茶ってのもあるかな。う~ん、でも、そうせずにはいられなかったんだ。心配かけてごめん」

 

 ナツの怒りはもっともであり、それだけ俺のことを心配してくれているという裏付けだ。そう言われてようやく実感することができた。俺がこうしているのは結果論に過ぎないんだって。

 自分で決めたやったことだから言い訳はしたくない。けど、少しでも胸を張ろうとしていたのは恥ずかしいことだと思い知らされてしまう。

 見過ごすことはできなかったとだけ伝え、後はひたすら謝ることくらいしかできなかった。それで許してもらえると思ってもないけど、謝罪するとしないでは大違いだ。

 

「……まぁ、私も人のこと言えないか。褒められたことをしたわけじゃないって、肝に銘じておこう。お互いに……ね」

「……そうか、フユ姉さんに絞られるコースなんだった」

 

 ナツは悶々とした表情のまま大きく溜息を吐くと、自分も人のことを言えたわけじゃないと大人しく引き下がった。

 今回の場合は脱出不可の状態だったらばこそだが、例え撤退できていてもナツは無人機と交戦したはず。ナツはそういう性分なんだ。

 そのあたり含め、お互いフユ姉さんに説教されることで真の反省を得ることにしよう。ナツはそう言いたいんだと思う。

 管制室には、間違いなくいい笑顔を浮かべたフユ姉さんが待っていることだろう。自分が悪いとわかっていようと、そう考えるだけで気分は陰鬱だ。

 さて、ならば覚悟を決め、甘んじて地獄の説教を受け入れることにしよう。例の無人機は回収したりした方がいいんだろうか。ヘイムダルは右腕が大きいから運ぶのは容易で――――

 

(……え?)

 

 少しでも教師陣の負担を減らすことができるのならばと、そんなことを考えながら胴体と下半身が別れた無人機を観察していた。

 すると、先ほどまですぐ隣を漂っていたナツが、焦るかのようにして無人機へ向けて急降下を始める。俺はその段階になってやっと気づけた。

 ――――動いている。まだ終わってはいなかったんだ。

 いわゆる死んだふり? それともシステムの復旧がたった今終わったとか? どちらにしたって小癪なと叫びたくなってしまいそうだ。

 無人機はまるでこれを待っていたかのように右手を真上に、ナツめがけて掲げた。……というかナツ、キミってやつは……さっき俺に言った言葉はなんだったんだ!

 瞬時加速を発動させるほどのエネルギーは残っていない。後はわずかに零落白夜を発動させることができるか否かに賭けている。少なくとも俺にはそう見えた。

 多分だけどレーザー発射のタイミングに合わせて零落白夜を発動させ、それでレーザーをかき分けながら進むつもりなんだ。

 

(ダメだ、それじゃ間に合わない!)

 

 いくら白式が高機動だとは言え、この距離を一気に詰めるにはやはり瞬時加速でもなければ無理がある。

 仮に間に合ったにしても刃を届かせるまでには至らない。もし最後の悪あがきとかでないなら、更に次の攻撃まで想定しておく必要もある。

 もしこれが最後でなく次があるのだとすれば、それは本当に、俺のように僅かな希望もなくナツは死ぬ。……死ぬ? ナツが? ナツが死ぬ。死ぬ……?

 理解ができない。例えそれが仮定であったとして、ナツが死ぬという言葉をまったく理解することができない。……頭が受け入れてくれない。

 

「…………嫌だ」

 

 ――――嫌だ。

 

「嫌……だ……」

 

 ――――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

「嫌だ!」

 

 ――――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

(それだけは……絶対に!)

 

 ――――嫌だ。

 

虹色の手甲(ガントレット)ォォォォオオオオッッッッ!」

 

 気づけば俺は、ヘイムダル最大の必殺技とも言える虹色の手甲(ガントレット)を発動させていた。

 青色の塔盾(タワーシールド)をフルパワーで展開、かつ無人機のレーザーを受けたことにより、ビフレストはたった一回の攻撃でオバーフロー寸前まで充填されていた。

 そんな状態だったためか、虹色の手甲(ガントレット)から飛び出たブースター機構からは、右腕ごと吹き飛んでしまうのではないかというほどの虹色のエネルギーが噴出される。

 ただでさえ100%状態なら瞬時加速を凌駕する速度が出ると言うのに、それが120%とか150%の状態なら、ただ急降下するナツと白式なんて簡単に追い抜く。

 そしてビフレストに包まれたヘイムダルの右腕は、とうとうレーザーへとぶつかった。

 

「ぐうっ! う……おおおおっ!」

「ハル!?」

「ナ……ツ……! そのまま……後ろに……!」

 

 よし、よし! 許容限界寸前の威力で放った虹色の手甲(ガントレット)に対して、向こうのレーザーはさっきほどの勢いを感じられない。

 レーザーはヘイムダルの拳に接触するのと同時にあらぬ方向へと飛んでいく。現状は想定のとおり防ぎつつ前進できている……が、このままではまずい。

 虹色の手甲(ガントレット)は爆発的な一瞬の加速を利用し、ヘイムダルの巨大な拳で殴りぬくという技だ。いくらビフレストを溜めようがそれは変わらない。

 つまり、このままの体勢でいる限り、いずれ勢いが死んでレーザーに押し返される時が来てしまうだろう。それではダメだ。俺だけならまだしも今後ろにはナツがいるのだから。

 どうする。いったいどうすればいい。ナツを失いたくないという一心で仕掛けたというのに、このままではヘイムダルの展開すら維持できないぞ。

 ……いや、まだひとつだけ手があった。エネルギーの確保についての問題も、勢いを殺さないための方法も、同時に解決することのできる一手が。

 だから俺はそっとヘイムダルに命令した。絶対防御に回しているエネルギーを、ヘイムダルの主要部に回してくれと。

 

「づっ、つぅ!? ぐがっ!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」

「ハル……? ハル、どうしたの!? しっかりして!」

「だいっ、じょうぶ……! だから、ナツは、とどめだけに、集中をっ、するんだああああ!」

 

 俺の右腕はビフレストに包まれた虹色の手甲(ガントレット)に守られた状態だ。しかし、絶対防御を切ったことによって熱量は十分に伝わる。

 考えられないほどの痛みが走り、思わず意識を手放してしまうところだった。いや、どちらかと言うなら今すぐにでも手放してしまいたい。

 俺の意識を引き戻したのはナツの心配するような声。気合の入ったようなシャウトとは違い、明らかな悲鳴を上げてしまったからだろう。

 こんな状況で心配させないも何もないが、俺は精一杯痛みに耐えながら大丈夫だという旨を伝えた。さぁ俺、そうしたらもうひと踏ん張りだ。

 痛みに思考が持って行かれてろくな操作はできたものじゃないけど、ゆっくりひと工程ずつ丁寧にこなしていく。

 スラスターからエネルギーを放出。放出したエネルギーを再度スラスターへ取り込む。そして爆発するかのような勢いで再放出。

 ああ、自分が勤勉な性格で本当に良かったと思う。そしてナツ、使いどころがあるかもと、この技術を教えてくれてありがとう。

 これぞナツ指導の下、一応は習得した――――

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!)

 

 ドゴンとヘイムダルのスラスターが大きな音を上げ、俺の背中をグンと押した。そしてそれまで死にかけていた勢いも息を吹き返し、自分でも大きく前進したことがわかる。

 向こうが息切れを起こしたのかも知れないが、今そんなことはどうだっていい。あるのはただひとつの事実。俺とヘイムダルの方が勝ったという事実だけだ!

 朦朧とする意識を引き戻すかのように、そして後のことは頼んだと言う意思を込め、俺は半ば根性のみで腹から叫んだ。

 

「ナァァァァァァァァツッッッッ!」

「っ……!? やああああああ!」

 

 虹色の手甲(ガントレット)が完全にビフレストを吐き切ったのと同時ほど、レーザーを弾き耐えることに成功した。

 レーザーを突き抜けてみると、例の無人機は目と鼻の先。とどめは任せるという意思は先ほどの叫びで伝わっていると信じ、俺は進路を斜めにそらして全てを慣性に委ねた。

 ナツが無人機を斬り裂くところを見届けておくべきだったのだろうが、単純に無理だ。もはや死力は尽くし切ったのだから。

 俺は勢いそのまま地面に墜落。当然だが絶対防御を戻す暇もないので、衝撃はかなりの物だった。それが俺をより深い眠りへと誘う。

 

(というより、これは……)

 

 そうだ、確か勉強したな。操縦者が一定許容量以上のダメージを受けた場合、それ以上痛みを感じないよう強制的に気絶させる機能がついているんだっけ。

 痛みで気絶しかけているのはあると思うが、眠く感じているのはその安全装置の方だな。けど待ってよヘイムダル。見たところで絶望するだけかも知れないが、これだけは確認しておきたい。

 俺は今にも消え失せそうな意識の最中、ヘイムダルの右腕装甲のみ展開を解除。すると俺の目に飛び込んできたのは、まさに焼け爛れたと表現すべきような手だった。

 覚悟はしていたつもりだが、いざ目の当たりにしてみるとすさまじい。命の心配よりも、もう二度と絵が描けないのだろうかとか思ってしまう。

 

(けど――――)

「ハル! しっかり! ハル! ハル!」

 

 よくはないけど、いいじゃないか。無事にそこで息をしているナツを見ると、そんな矛盾したような考えが浮かんでしまう。

 ナツが生きてくれていればそれでいい。まだまだ絵は描きたいからよくはない。どっちも正真正銘俺の本音だ。どちらも等しく正しくて、どちらも等しく間違っている。

 むしろ今ひとつ、たったひとつ後悔を挙げろと言われたのなら――――ナツを、僕を俺にしてくれた大切な半身を泣かせてしまったことだろうか。

 ごめん、泣かせてしまって。ごめん、こんな守り方しかできなくて。ごめん、それでも俺はナツの盾になりたいんだ。

 ……こんなことを言ったらますます泣かせてしまうかな。あぁ本当に、ナツほど上手くはいかないね。本当に、本当に――――

 

「ごめ……ん……」

「ハル……? ハル!?」

 

 必死に俺を呼んでくれるナツの姿を最後に、俺の意識をとうとう暗闇が包むのだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 なんとなく目を開いた。昼寝をしていたら目が覚めたとか、本当にそのくらいのつもりで。しかし、右手に走った痛みのせいで全てを思い出した。

 そうだ、無人機の一件で右手に大火傷を負ったんだった。俺はすぐに布団を蹴散らしながら上半身をベッドから起こす。

 ……ここはどこだろう。見渡した限り病室か何かではあるようだが、どうにもそれだけのようには思えない。なんというか、清潔感よりも無機質さを感じさせる空間だったからだ。

 見渡したついでに壁掛け時計に目をやると、時刻は日が暮れた後を指している。対抗戦開始が朝だったのを考慮すると、数時間ほど寝ていた計算だろうか。

 どちらにせよ学外に居るのは確定みたいだし、そう時間を気にしてもしかたないかも。すべては本当にここがどこかにもよる。

 

「…………」

 

 現在置かれている状態はほとんど把握したとして、次俺が気になったのは自身の右手のことだった。右腕と表現するのが正しいか。

 あの時は確認する余裕がなかったけれど、包帯の巻かれ方を見るにほとんど腕全体に火傷を負ってしまっているようだ。特に酷いのが右手……ってところかな。

 試しに軽く握ろうとすると、ジンジンするような痛みが走る。しかし、あの地獄を味わった身からしては、大したことのないように感じられた。ほとんど感覚が麻痺しているらしい。

 ならもう一度目撃したところで、抱く感想はほとんど同じことだろう。ならばと考えた俺は、おもむろに包帯を外しにかかった。

 慣れない左手で丁寧に巻かれた包帯と格闘することしばらく、ようやく半分脱いだような状態ができあがる。俺は、そこから一気に包帯を力強く剥ぎ取った。すると――――

 

「あ、れ? 大した事ない……?」

 

 なんとも拍子抜けだった。気絶寸前の段階で目撃した右手がまるで嘘だったかのように、ほぼ綺麗な状態ではないか。

 むしろ絵を描きすぎるせいでできたタコとか、擦り切れとか爪が割れたのも治って怪我をする前より綺麗にも感じる。

 だとしたらこの痛みはなんなのだろう? いや待て、火傷でできた傷って、そもそもこんな綺麗に完治しないよな?

 俺が眉間に皺を寄せて己が右手を観察していると、病室の出入り口が開いて聞き覚えのある声を聞かせてくれた。

 

「いわゆる再生医療というやつだ」

「父さん!? ……ってことは、ここ――――」

「そうだ。FT&Iの医療部門の部署になる」

 

 姿を現したのは、予想外にも我が実父である。その姿を確認したことで、ようやくこの場所の位置を特定することができた。

 曰くFT&Iにおける医療部門の部署でその病室。となると、まだ臨床試験段階の施術をしているのだろう。いい意味でのモルモット、というか患者さんたちが他にも居るわけだ。

 しかし、流石は未来的と謳うだけはある。俺が右手を負傷してからたった数時間だと言うのに、怪我をする前より綺麗になっているのだから。

 だが父さんからして、痛みを残している時点で実用化には程遠いんだとか。最終的に目指すところは、欠損した部位を完全再生させるところまでらしい。

 

「一夏くんと箒くんを庇ってのことだそうだな」

「う、うん。一応はそんな感じ」

「……どうしてそんな無茶をした」

「それは――――」

 

 父さんは来客が座る用途で置いてあるであろう椅子に腰かけると、俺が解いた包帯を巻き直しながら問い詰めてきた。

 様子を見に来たのは心配していたからということを察しているだけに、とてつもなく気まずいながらもなんとか受け答えをする。

 だって多分、無茶した俺に誤魔化したりする権利なんてないと思うから。だから、父さんの言葉にはすべて包み隠さず話した。

 箒ちゃんの時もナツの時もそうだが、本当に身体が勝手に動いたという曖昧な説明しかできないんだけどね。……特にナツの時は、失いたくない気持ちがとても強かったと思う。

 だからって箒ちゃんをなんとも思ってないと言いたいわけではないが、なんだか自分でもなんで虹色の手甲(ガントレット)を撃ったのかもいまいちわからないくらい必死だった気がする。

 

「心配かけてごめん。二人からもらった大事な命を粗末にするようなことをして、本当にごめんなさい。次はもうちょっと上手くやるよ」

「…………」

「……あの、父……さん?」

 

 本当に反省もしているし、周囲の人たちを心配させてしまったことを悔やんでもいる。しかし、俺にしかできないことだったとも思っている。

 今回はやり方が悪かった。もっと上手に立ち回って、怪我したりせずに済む方法なんていくらでもあったはずだ。

 だから俺の仕出かしたことは最悪で、誰からの称賛を貰えるものではない。だから今回の反省を生かして次は――――と思ったのだけど、父さんの様子に言葉が詰まってしまう。

 見たこともない表情だった。一瞬だったし相変わらず些細な変化だけど、父さんは険しい表情を確かにしていた。

 それは怒りからくるものだと言うのは明白で、何をそんなに怒らせるようなことを言ってしまったのかと脳内で自分の放った台詞がグルグルと渦巻く。

 そして父さんは顎髭を弄りながら溜息を吐くと、いつものように淡々とした調子でこう切り出した。

 

「晴人、ISから降りろ。後のことは私がなんとかしてやる」

 

 

 

 

 




テーマを掲げたその日のうちにISから降りろと言われる主人公とはこれいかに。
ただ私も晴人のメンタルを曇らせたいだけではないのでね、ええ。
意味のある発言といいますか、そのうち意味をなすといいますか。
ともあれ、パッパの真意は次回の更新でということで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。