タイトルからお察しのとおり、主人公の母親紹介のようなものです。
のっぴきならない理由にて、両親は早めに一度登場させる必要があるんですよね……。
その理由はIS学園入学直前には明らかになるかと。
「う~ん……」
「どうしたの? 悩んでるふうだけど」
「あのさハル、曇ってどう描けばいいのかな。なんだか少し幼稚になっちゃうというか」
ナツが女の子の姿となって帰国してから一週間弱くらいが経過しただろうか。近頃はやるべきことも落ち着き、俺もそろそろナツに慣れてきたところだ。
で、とある休日の河川敷にて、俺とナツは揃ってスケッチに出かけていた。昔は稀だったのだが、ナツが女の子になってからたいてい着いて来るように。
理由を聞けば気分転換になると言っていたが、どうあれ絵画に興味を持ってくれるのならそれは嬉しいことだ。
俺が調子よく筆を走らせている隣で唸り声が聞こえたかと思えば、どうやら雲の書き方に関して悩んでいたらしい。
確かに雲は難しいものだ。というか、雲に限らず色が白な物体は総じて書き辛い。鉛筆でのデッサンともなればなおのことだろう。
「ちょっと貸してみて」
「あ、はい」
「なんていうか、紙の白を活かすようにすればいいんだよ。こんなふうに――――」
まず雲の輪郭を大まかに描き、だいたいの空のあたりをつける。この時点では あまり細かいことを考えず雲の位置やバランスに気をつけたほうがいいかも。それと、実際の大きさよりもやや小さめに輪郭を描いて……。
次に大体の影を描くわけだけど、雲といっても自分に近い場所ほど濃い影ができ、人によって見え方は異なる。だから立体のデッサンのつもりで少し大胆に。
後は空の青さをどれぐらいにもっていくか。まぁ青と言っても鉛筆だから、この場合はどれぐらい黒くするか考えながら徐々に濃くしていく。
ある程度空と影が描きこめたら、雲の輪郭を練りゴムで抜いていく。要するに、書いた輪郭を練りゴムで消していくということだ。
この時に描いた影を消してしまわないようにするのが大変というか、あまり雑にやるとこの工程で台無しになっちゃうんだよね……。
どちらにせよ最後の仕上げで修正はするけれど。空の濃さと影のバランスに注意しながら整えていけば完成……っと。
その全行程を丁寧かつゆっくり、実践しながら順を追ってナツに説明を施した。なんだかいちいち感心するような声を上げられて少しむず痒い。
「えっと、こんな感じでどうかな」
「わぁ、すごいなぁ……。まるで今にも飛んで行っちゃいそうな雲だね」
「そ、それは大げさだよ。でも、まぁ、ありがとう」
デッサンは絵画の基本中の基本でありつつ、様々なジャンルへ通ずる部分がある。とりわけ、鉛筆の類を使用するならそれなりに上手なほうのはず。
俺の専門というか、得意とするのは色鉛筆画だ。今は亡き爺ちゃんが界隈ではそれなりに名のある色鉛筆画家だったため、憧れを抱いたのが全ての始まりだ。
爺ちゃんから直接テクニックを伝授されたり、爺ちゃんの業みたいなのを見て盗んだり……。ナツのリアクションを見るに、どうやらキチンと通じているみたいだ。
「…………」
「えっと、俺の顔に何か着いてる?」
「ううん、そうじゃなくて。絵を描いてるハル、なんかいいなぁって」
「な、なんかいい?」
「うん、なんか。なんか、いつもと少し違って見える」
照れながら感謝を述べていると、ナツがやけにニコニコとした視線をこちらに向けているのに気付いた。
なにも本気で顔に何か着いているものだとは思っていないけど、こう問いかければなにかしら反応があるのは確実だ。
ナツは思ったとおりに破顔していた理由を聞かせてくれたけど、聞いたところで実りのある内容には思えなかった。
曰く、なんかいいらしい。つまりはナツも言葉では表現し切れないながら、絵を描いている俺は雰囲気が違うよう感じるみたいだ。
そもそも絵を描いているのを近くで見られることは少ない。でも見られていたとして、同じようなことを言われた覚えもなかった。ふ~む、いつもと違う……か。
「う~ん……」
「もう、ハルはまたそうやって難しく考える。褒めてるんだから素直に受け取ってよ」
「ん? ああ、うん、それもそうだ。ありがとう、ナツ」
具体的にどう違うのかが気になった俺は、頬を手でマッサージするように触りながら頭を悩ませてしまう。
さっきまでご機嫌な様子だったナツだが、俺の唸り声を聞いた途端にジトッとした視線をこちらへ送り始めた。
どうやらいつものネガティブ思考だと思われたようだ。誓って後ろ暗い発想をしていないが、ナツはいつだって俺を心配してそう言ってくれているんだ。
そう思うと自然に出てきたのか感謝の気持ちであり、俺がありがとうと伝えれば、ナツはとても力強く首を頷かせた。
そんなやりとりを最後に、互いに止まっていた手が動き始める。河川敷で遊ぶ子供たちの喧騒をよそに、集中して絵を描くことしばらく。
「……へくち…………!」
「えっと、寒い? よかったら上着とか――――いや、今日はもう帰ろうか」
「だ、大丈夫だよこのくらい。無理言ってハルについて来たのは私なんだし」
すぐ隣で可愛らしいクシャミが聞こえたかと思い目を向ければ、ナツが少し身震いしているのが目に映った。
あ~……これは、配慮が足りないなんてもんじゃなかったかもな。今は真冬と表現していい季節だろうに。
俺の場合はとうの昔に慣れたというか、暑いだの寒いだの言っていたらスケッチなんてできやしないもの。
要は我慢ってことなんだけど、それを他人に強いる権利なんて俺にはない。なら早々に切り上げるのが吉といったところだろう。
ナツは俺の提案を呑むのは申し訳ないとでも思っているのか、小さなガッツポーズと共に続行の意志を示した。
それは嬉しいことだが、やはり無理はさせられない。男子と女子では体感温度も異なるだろうし、風邪でもひかれたらそれこそ大事だ。
「ほら、早く帰ってご飯にしようよ」
「……うん。じゃあ、何か温かいスープでも作るね」
「そっか、それは楽しみだな」
ナツは渋るような素振りだったが、俺が画材一式をリュックサックに詰め込むと観念したようだ。それこそ絵も描かないのにとどまってる意味なんかないし。
ズボンについた砂や草を払っていると、ナツは代わりといってはなんだけど、というようなニュアンスでそう提案してきた。
基本的にナツの作る料理は絶品であることが大前提だが、スープもまたレパートリーが多いので本当に楽しみだ。
コンソメ……は時間がかかるからないかな。ならばクリームスープやトマトスープが妥当といったところだろうか。
だとすると晩ご飯はその余りをリメイクしたパスタあたりが出てくるのだろう。それはそれで楽しみでしかない。
(あれ、なんだか餌付けされてるような……?)
「どうしたの?」
「い、いや、なんでも。ただ、本当に楽しみだなって」
「フフッ、それなら腕によりをかけないと!」
ハイスペック家事能力を有する幼馴染が居てくれるのは大変に素晴らしい。が、なんだかすっかり食道楽にされているような気がした。
いや、本当にそれくらい美味しいんだよ。上達してからは三食手を抜く素振りすら見せないし。むしろ手抜きで悪いなんて出て来た料理も、どのあたりが手抜きか小一時間ほど問い詰めたい気分だった。
……ナツが女の子の姿をしているせいだろうが、いわゆる胃袋を掴まれたような感じがして調子が狂う。昔はこんなことを考えもしなかったんだが。
まぁ、本当に惚れないようには注意しておかないとな……。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
ナツ手作りのカボチャスープを完食した俺は、しっかりと両手を合わせてご馳走様と感謝の意を示した。ナツはそれを満足そうに受け取る。
本当にちなみにだが、余ったぶんはグラタンにリメイクするんだとか。もはやパスタ類を思いつくのは凡人の発想だったらしい。
それを抜きにしても、ナツの料理の腕が上がったような気がするな。むしろブランクがあるはずなんだけど、不思議な話だ。まぁいいや、食事が終わったら俺の出番なのだから。
いくら俺もナツに全ての家事を任せているわけではなく、ある程度役割分担して日々を送っている。とは言っても、決して胸を張れるものではないが。
料理や裁縫はナツ専門。俺はいくらやっても手に怪我が増えるばかりだった。よって、俺一人に課せられているのは食器洗いだ。
掃除や洗濯に関しては二人で協力してやるし、だとするなら残されたのはそのくらいのものだったというか……。
まぁうん、何もしないよりましだよな。ナツもこれに関しては手放しで俺に任せてくれてるし。何よりそれがやりがいに繋がっている。
「そういえばさ、おばさんもおじさんもそんなに忙しいの?」
「みたいだね。ああでも、つい昨日に電話があったよ。その時はかなり落ち着いてきたって言ってた」
水道でバシャバシャと音を立てながら食器を洗っていると、テレビを見ながらくつろいでいたナツがそう切り出した。
どうにもここまで忙しそうな両親を見るのは俺も初めてなくらいで、長いこと姿を見ないせいで心配になったのだろうか。
いや、どちらかというのなら、早いところ姿を見せておきたい……かな。女の子になってからまだ一度も会ってないという話なんだろうから。
まぁ、そんなに心配しなくてもそのうち帰って来るだろう。父さんはともかく、母さんは自由人を体現したような人だし。
例えば今にも玄関の開く音がして、ただいま~なんて呑気な声が――――
「ただいま~!」
「わっ、噂をすればなんとやら」
(はぁ、俺の勘もなかなかあてになるもので)
脳内で例え話をシミュレートしていただけだというのに、その想像と寸分違わぬ様子で母親の声が耳元に届いた。
なんだか預言者にでもなったような気分を味わいつつ、食器洗いの手をいったん止めて溜息をこぼす。
どうして母親と久しぶりに出会うのに、どうしてそんな憂鬱そうなのかって? それはウチの母親を見てもらえばすぐにわかる。
「晴人く~ん! 一夏く~ん! お母さん帰って来たわよ~!」
「はいはい、おかえり母さん」
リビングの戸が勢いよく開かれたと思ったら、見た目は不自然なくらいに年若い女性が俺の腕の中目がけて飛びついてきた。
はい、これが俺の母親――――
本人曰くクォーターらしいのだが、真偽のほどはどうやら。だって母方の親戚に会ったことないし、実の母だというのに不詳の点が多すぎる。
俺は年齢も知らなければ職業も知らない。何度聞いてもそれとなくはぐらかされてしまうんだ。別に怪しい職種に就いているということもなさそうだけど。
「二人とも、お母さん居なくて寂しかったわよね~」
「うんうん、寂しかった寂しかった」
謎な点が多いにしても間違いなく俺の母親だ。いろいろと感謝している。それこそ忙しく働いてくれて、お金を稼いでくれて頭が上がらない。けどこれはいい加減どうにかしてほしい、切に
母さんは簡単に言うのならいつまでも子離れしてくれなく、俺たちの扱いはいつまで経っても幼児に対するそれ。
けど面と向かってそれを指摘すると泣き出してしまうわで、もはや俺には自発的に母さんが離れてくれることを待つしかできない。
怪物レベルに見た目が若いのはその気質からなんだろうか。街を二人で歩くと姉弟ですかなんて聞かれたりするくらいだからなぁ。
それでもって母さんはそれを否定しない。俺と腕を組みノリノリでそうで~すなんて言うのが常。わかるだろ、要するに痛い人なんだよ。実の母が痛い人なんです。
「それより、他になんか言うことがあるでしょ」
「おばさん、久しぶり」
「あらぁ? あらあらあら! 一夏くん、本当に女の子になってるじゃなーい! うーん、千冬ちゃんとはまた違ったタイプの美人さんね」
「殊の外驚かない!」
俺が母さんの戯言を適当に流していると、視界の端にソワソワした様子のナツが映った。いけないいけない、俺よりも今はナツだろうに。
泣かせないように配慮しながら母さんの意識をナツのほうへ向けると、なんともまぁ予想外のリアクションを見せる。いや、これが母さんクオリティだよな、そうだよな……。
普通の人ならまずナツかどうかを疑うところをすぐさま受け入れるし、むしろ喜んでいるようにも見えるその反応はなんなのさ。思わずツッコミを入れてしまったじゃないか。
あぁ、ナツが苦笑い浮かべててものすごく申し訳なく感じる。でもその気持ちは目くばせで伝わったようで、ナツは母さんに悟られないよう手をパタパタさせて大丈夫だと伝えて来た。
「それはそれとして、辛い思いもしたわよね。一夏ちゃん、なにか相談があったらすぐにするのよ? おばさん、全力でお手伝いしちゃうから!」
「はい。その時はぜひ」
いろいろ滅茶苦茶な人ではありつつ、締めるべきところは締める人でもある。しっかり者、と表現するには遠いけれど、間違いなく頼りにはなるのが母さんだ。
今のところは何もなさそうだが、ナツもそれはキチンと理解しているらしく母さんの言葉に素直な反応を示した。
まぁ、暴走しないようにしっかり監視する必要はあるんだけども。ナツもナツで断り切れないところもあるようだし注意が必要そうだ。
「と・こ・ろ・で~。一夏ちゃん、少し二人でお話できないかしら?」
「へ? 私は別に構いませんけど――――」
なんということだろう。監視しようと決意した瞬間に、二人きりにさせるシチュエーションを提案されてしまった。
どうやら俺――――というか、男が居ると話し辛いんだろう。いや、ナツも精神的には男だって言ってたけどさ。
けど、そうなると恐らくは性に関する話を取り扱うつもりなんだと思う。だったら俺もなるべく率先して聞く気にはならないな。
いくらナツが精神的には男だろうと、肉体が女性である事実ばかりは変えようもない。男女間の差は埋めようがないのだ。
そう考えるとなんだかナツが遠い存在のように感じられてしまうが、とにかく居ない方がいいのならとっとと退散しておくことにしよう。
なら俺は部屋で絵でも描いているから。俺はそう言い残し、有無も言わさず階段を昇って自室へと逃げるように入っていった。
「あの、話ってなんですか?」
「その前に念を押しておくけど、答えたくなかったら無理はしないでちょうだいね?」
ハルが自室へと帰っていき一瞬の間を置いてから、俺はおばさんに対して捻りのない質問を投げかけた。しかし、どうやら前置きがあるらしい。
おばさんはピッと人差し指を立ててそう告げ、その言葉に俺は頷くことで肯定してみせる。だいたい予想はしていたが、やはりそういう話だったか。
別に余計なお世話だとは思わない。むしろ嬉しいくらいだ。俺にとってハルの両親は本当の親であり、この人たちに育てられたと言っても過言ではないのだから。
心配されるということは、シンプルに喜ばしいことに違いない。
「一夏ちゃん、あなたの中身は今までどおりなのかしら?」
「そうですね、口調とかはこんなですけど」
やはりそこは気になるか。だいたいハルに話したことと同じ説明をおばさんにすると、向こうはふむふむと真剣に聞き入っていた。
ハルには話さなかったけど、単純に千冬姉が怖いっていうのもあるんだけどな。素のほうを出したらしこたま怒られたのが効いている。
なにもそんなに怒らなくってもなぁ。だってつい最近まで男だったんだぞ。いや、それこそ中身ごと女になったつもりはないが。
つまるところ俺はどっちなのだということになるが、そんなの俺が聞きたいくらいだ。ちゅうぶらりんとはまさにこのことだろう。
「じゃあ、それは苦痛?」
「初めは混乱したり戸惑ったりしましたけど、苦痛……ってことはないと思います」
それこそ当初うっかり素が出て怒られていた時期は苦痛そのものだったが、今では中身と外身の使い分けに慣れてそう思わなくはなくなった。
かといって女モノの服とかを着ていると、未だ女装をしている気分になってしまう。鏡に映る俺の姿は女の子そのものなのにな。
ブラジャーなんか着けるのには戸惑うし、スカート穿いてたらスースーするわであまりいいことなしな気がする。そうそう、座るときとかも足閉じるのが地味にきつい。
でもハルの可愛いだのといった誉め言葉は嫌じゃなんだなこれが。自分でも不思議なものである。ふ~む、わからん。
「……男の人、いつか好きになると思う?」
「それは、どう……ですかね」
おばさんは俺が戻れないということで話を進めているのだろうが、それはまったく想像がつかない域まで達している。
というか、酷いことされかけたせいで苦手意識が生まれているかも知れん。ハルと馬鹿二人は大丈夫っぽいのだが、他の連中はどうもな。
前も言ったが、どうも視線が気になるようになっている。なんとうこかこう、邪なオーラ的なものを感じると表現すると伝わるだろうか。
女になって初めて気づいたというか、男の頃の俺がそういったオーラを出していないことを祈るばかりである。
けどなぁ、確かに真剣に考えるべきなんだろうなぁ。俺の身体、どうにも初めから女だったみたいなレベルらしいし。
つまり俺の肉体は新しい命を宿すことができるということ。そうなると、おばさんの言うとおりいずれ……というのもアリなのかも。
「あのねぇ一夏ちゃん。もしよければなんだけど」
「はい」
「晴人くん、おすすめ物件よ?」
「ハル? ……ハル…………?」
おばさんにそう言われ、思わず首を傾げてしまう俺が居た。いやいや、なにもハルはありえないという話ではない。
ただ、俺にとってハルは身近過ぎる存在なためにそういったことを考えすらしなかった。表現的には弟が適当だと思っているし。
そうか、ハルか。周囲からすれば最有力候補に挙がるんだろうな。確かに間違いではない。ハルのことを一番理解しているのは俺だし、俺のことを一番理解してくれてるのはハルだろうし。
うん、ありえないどころか悪い話ではないと思える。いろいろと面倒なところもあるけど、それはハルの優しさの裏返しだしな。
人のことを思いやれるやつで。人のために全力になれるやつで。人の喜びを己の喜びに変えられるやつ。俺はそんなハルをずっと隣で見てきたつもりだ。
そんなハルが女性と恋仲に発展したのならば、間違いなく幸せであれるよう努力を惜しまないはず。きっとその誰かは、一途に愛され続けることだろう。
「もしハルが、私の中の俺を消したくなるようなことをしてくれた時は――――」
「ええ。その時は、どうか晴人くんをよろしくお願いします」
「と言っても、今もだいぶ世話を焼いてるんですけどね」
「あら本当だわ」
今のところは弟分を脱却してはいない。けどこれからのことは誰にもわからないだろ? いつの日か、ハルに男を感じてしまう時がくるかも。
あいつは普段はあんななのに、やる時は本当にやるからなぁ。いわゆるギャップ的なものにやられて案外アッサリいかれてしまったりして。
あくまで可能性は無きにしも非ず、くらいに落ち着いているが、おばさんはずいぶんと畏まった所作でハルのことを託すようなことを言う。
でもあれこれハルの世話を焼いているのは昔からだ。そう冗談めかして言うと、おばさんもわざとらしく驚くような仕草で返してきた。
なんだかそれが可笑しくて、私たちは二人同時にクスクスと小さな笑いをこぼす。ハルがこの場に居たのなら、居心地の悪そうな苦笑いを浮かべていただろう。
「あっ、今の話は晴人くんには内緒でお願いね」
「大丈夫ですよ、わかってます。ハル、あまりそういう話題は好きじゃないみたいですし」
するとおばさんは声の音量を落としながら、人差し指を唇に当てて内密にと念を押してきた。だけど問題ない。そんなのは最初からわかっている。
ハルとは対照的にあの馬鹿二人は浮ついた話を好むわけだが、会話の流れがそっち方面に向くと途端に居心地が悪そうになる。
まったく、もう少しばかり貪欲になったって誰も文句は言わないぞ。もっと堂々としてれば普通にモテもしそうだと思うんだがな。
って、やっぱりそれは近くでハルを見てきたからそう思うだけか? 確かにハルの良さはわかり辛いが、それなら逆に女子たちに見る目がないという可能性も出てくるぞ。
……まぁ、今のご時世じゃあハルの良さなんて見ようともしないやつがほとんどだろう。いずれハルの良さをわかってくれる子が現れてくれればいいが。
とにかく、話というのはだいたいそのくらいらしい。だったらハルを呼び戻して、食器洗いの続きでもやってもらおう。
それが終わり次第三人で出かけるという運びとなり、おばさんは鼻歌を鳴らしながらハルの手が完全に止まるのを待ち続けていた。
オリキャラ勢は日向家のみで済ませたいところ。
というか済ませます。それゆえの職業不詳。
恵令奈のプロフィールは……需要がないと思うので載せないでおきます。