でも一応は晴人と一夏ちゃんの距離は縮むので大丈夫かなと。
……何が大丈夫なんだろうか。
「鈴さん、前に出過ぎですわ」
「ハァ!? アンタがチマチマやってるから前に出なきゃなんなかったんでしょーが!」
「そうかしら? 一瞬でもわたくしに配慮したようなシーンはなかったように思いますけれど」
(ダメだこりゃ……!)
鈴ちゃん&セシリアさんVS山田先生で行われたハンディマッチだが、結果は言い争う二人を見ていただければわかるだろう。
タイプのまったく異なる二人ではあるものの、予想以上の噛み合わなさが影響し、その隙を山田先生に突かれたような形に見えた。
専用機の特化傾向と、本人たちの戦闘スタイルだけなら相性抜群のはずなんだがどうしてこうなるのだろう。やっぱり代表候補生のハングリー精神のせいかな?
それよりもフユ姉さん、さてはこうなることを見越してあの二人を組ませたのでは? うーん、でも割と何考えてるかはわかりづらい人ではあるし、そもそも俺の予想なんてあてにはならないか。
「見苦しいぞ。いい加減にせんか」
二人の言い争いが激化する中、それを一瞬にして鎮める裁きの鉄槌――――もとい出席簿が頭目掛けて振り下ろされた。……あれ、今絶対防御を貫通したような……?
そ、そんなことより、確かに責任の擦り付け合いは見苦しいかも。事実、二人のうちどちらかが折れていれば間違いなく勝てていた試合だったと思う。
俺とナツのタッグだったらどうだろうか。ナツが剣なら俺が盾、と謳うからにはコンビネーション抜群の自信はあるけれど。
……それは置いておくとして、フユ姉さんの言葉を肝に銘じておくことにしよう。二人をしかりつけるのと同時にこう言ったのだ。
「今のを見たらわかるだろうが、いくら実力者が組もうと合わせる気概を持ち合わせなければ話にならんというわけだ。いつ、どんな状況、どんな相手とでも即コンビネーションを発揮できるよう留意しろ」
うん、確かに。さっきの二人は実力の半分も出せていなかったように思う。それを考えれば、フユ姉さんのいつどこで誰とでもという言葉の重みがわかる。
逆にパートナーと互いに活かし合えることができれば、普段よりも実力を引き出し合える……ということなんだろうから。
俺を含めて多くの生徒が感銘を受けたのか、俺たちは自然に大きな声で返事をしていた。……悪い例とされた二人はバツが悪そうだ。
「では今度こそ実技訓練を行う。一般生徒は出席番号順に6つの班に分かれるように。各専用機持ち、お前たちは訓練機を取りに来い」
「打鉄とリヴァイヴが三機ずつあるので、早い者勝ちですよ~」
は、早い者勝ちって、それならどちらかの量産機に統一してしまえばいいものを。
こういう場合は損な性格をしているというか、そういう言い方をされると少し焦ってしまうんだよ……。俺は勢いそのまま、打鉄を選択して班員の元へ向かった。
「えーと、ごめん。勝手に打鉄を選んじゃったけど問題ない? 大丈夫?」
「日向、真っ先に打鉄を選んでたね」
「理由とかあるならレクチャーしてほしいな」
なるほど、流石はIS学園の生徒なだけあって着眼点が違う。その通り、俺もそれなりに理由があって打鉄を選んだ。
まず第一に、彼女らはISを動かすという行為そのものに慣れていない。そのうえで、今日行う訓練は主に歩行とかそこら。
となれば、重量があるほうが単純に安定感があって操作しやすいはず。そこで防御特化傾向にあり、重厚な打鉄を選んだというわけ。
そして第二に、操作感覚がなんとなくヘイムダルに近いから。
俺も試しに量産機を動かしたことがあるんだけど、その際打鉄の操作感覚になんとなくだが親近感みたいなものを覚えたんだよ。
個人的見解では同じ防御型ゆえということで、その感覚がなんとなくわかる方が、こちらとしても教えやすいんじゃなかろうかということだ。
「ふーん、なるほどね」
「どっちもウチらに気を遣って、か」
「日向くんらしーい」
「そ、そうかな? と、とにかく始めようか。まず誰から――――」
なんだかやんわりと褒められたような気もするが、別に大したことをしたわけでもないつもりなので恐縮してしまう。
そんな気分を振り払うかのように訓練開始を宣言しようとするが、遠くの方から女子のワーキャーと叫ぶような黄色い声が聞こえてくる。
何事かと目をやってみると、どうやらシャルルが女子をお姫様抱っこで持ち上げて訓練機に乗せてあげているようだ。
まぁ、そうか、そうだよね。そう叫びたくなる気持ちはわかる。もし仮に俺が女子だったら同じようなリアクションをしていたかも。
けどなんというか、あー……いいや、どちらにせよ俺にはあまり関係ない話なのだから。要するに需要がないってやつ。気にせず訓練に入ろうとしたのだが――――
「日向、あれやってよ」
「は!? い、いやいや、シャルルならともかく俺だよ?」
「アタシ、普通にアンタってアリなほうだと思うけど」
予想外の出来事である。まさかのまさかで、女子の一人がシャルルと同じことをするよう頼んできたのだ。
さっき言ったとおり、俺に需要があるとは思わないし思えない。だから本当にそうする必要があるのかと問いかけたら、またしても予想外の反応で困惑してしまう。
彼女がサバサバしたタイプの女性であることも関係しているんだろうが、ナツを除いてそういうことを言われたのは初めてだ。
な、なんていうか、少し調子に乗ってしまいそうだ。きっと今の俺は、わかりやすいくらいに顔を赤く染めているのだろう。
……羞恥心もあるが、せっかく俺をご所望してくれたのだから応えることにしよう。その流れからして、初めに乗るのは彼女からということになった。
「ヘイムダルはご覧のとおりの見た目だから、左腕に乗る感じでよろしく」
「ん、了解」
「それじゃ上げるよ。落ちないように注意して」
そもそもヘイムダルの両腕のアンバランスさからして、正当なるお姫様抱っこをするというのにはあまりにも無理がある。
そういうことなので、どちらかと言うなら左腕に身体を預けてもらうような形となった。右腕の方が乗りやすいんだろうけど、それだと完全に意味がなくなっちゃうからね……。
勢いあまって彼女を落とさないよう慎重に持ち上げると、おーと少し感心するような声を上げた。うんうん、立ってるだけでけっこう眺めがいいんだよ。わかるわかる。
後はそのままゆっくり彼女を打鉄の方に近づけた。問題なく打鉄に乗り込んでくれて、これでようやく訓練開始といったところか。
「どうかな、何か違和感があったりは――――」
「オーケーオーケー。問題ないよ」
「そっか、ならひとまず一歩目からいってみよう。右腕に掴まって、焦らずゆっくりでいいからね」
訓練機ゆえに初期化も最適化もないから気分が悪いということはないだろうが、一応そんな声をかけておく。
すると秒で問題ないという返事が。やはり杞憂というか、大きなお世話だったか。よし、それじゃあいってみよう。
俺は地面から少しだけ浮いて、打鉄の進行方向に合わせて右腕を差し出した。彼女がそれを掴んだのを確認すると、丁重にエスコートしながら進んで行く。
第三世代機と第二世代機では操作方法がまるで違う。今彼女らがすべきは、いかに丁寧な操作ができるかどうかだ。急ぐのは慣れてからでいいに決まってる。
だから俺は、ナツにISの操作を手解きしてもらった際を思い出しつつ指導に終始した。ナツの指導の仕方の丸パクリとも言えるんだけど。
「ハイパーセンサーにコースが表示されてるはずだけど」
「うん、見えてる」
「それに従って歩いて、一周したら交代ってところかな」
まるで自動車教習所の指導員にでもなった気分だが、やはり教材として歩くべきコースというようなものが組まれているらしい。
今俺の目にはガイドラインのようなものが見えている。フユ姉さんあたりが転送してきたんだろう。いやぁ便利なもんだ。
同じく彼女も見えているようなので、再度ゆっくり歩くよう促してから歩行訓練を再開。ガシンガシンと打鉄が地を鳴らす音が響く。
「はい、一周。お疲れ様」
「日向、アタシどうだった?」
「特に問題らしい問題はないと思う。初めてでそれだけできれば十分だよ」
「日向ってば誉め上手~」
第二世代機というか、マニュアル操作をしてみたらわかるが、あれはなかなか難しいもんだ。俺が問題なくヘイムダルを動かせてるのはイメージインターフェースありきだと思う。
にも関わらず、一回もつまずいたり転んだりしなかった彼女は普通に上手な方だとおもう。……それは暗に、俺がこけたりしたということだが。
とにかく、思ったことをそのまま述べただけだ。だが彼女はあまり本気で捉えていないのか、ケタケタとからかうような笑い声をあげた。
俺も一応ダメなところがあれば指摘するつもりだったんだけど、本当に言うべきことがないだけだったんだけどな……。
なんて唸っていると、彼女がこちらに向けて腕を伸ばしているのに気が付いた。その理由をしばらく考えてみたがまるで浮かばない。思わず首を頷かせてみると――――
「降ろして」
「へっ!? あ、ああそうか……りょ、了解」
まるで鈍いなーとでも言いたげなムッとした表情を向けられる。てっきり降りるのは自分でやってくれると思っていただけに、俺は慌てて左腕を差し向けた。
彼女が左腕に乗ったのを確認して、丁重に地面へと降ろした。去り際にありがとうという甘ったるい声色が耳へと届く。
……どうなんだ本当。これって浮かれていいやつなんだろうか。弾と数馬だったら舞い上がっていたろうが、そういうのを素直に表現できる神経が羨ましくなってきた。
「日向くん、よろしくね」
「ああ、うん、よろしく――――って、はい……」
今も変わらず馬鹿騒ぎしているだろう友人二人に想いを馳せていると、次の女子の準備が整っていたようだ。
気を取り直して指導に集中しなくてはと顔を上げると、彼女もニコニコとした笑みを浮かべて俺に対して腕を差し出している。
それで抱きかかえを所望していることを察した俺は、頬を引きつらせながらその望みに応えた。はぁ、どうしてこうなるのか……。
その後も順調に訓練をこなしていくが、意外なことに全員が俺のお姫様抱っこを要求してくる始末。俺の気苦労は加速していくばかりだった。
まぁいいや、結果的にみんな上手だったし怪我もなかった。それに教え方が丁寧でわかりやすかったというお褒めの言葉もいただいたしね……。
「ふんぬっ!」
授業は終わった班から随時片付けという流れだった。他のみんなは班員と協力しながら行っていたが、俺は勿論一人で引き受けた。
そりゃ女の子にこんな重いの押させるわけにはいかないし、俺にはヘイムダルって言う相棒も居るしね。
シャルル? シャルルはむしろ女子たちが率先して片付けてたよ……。何もしないでいいっていう状況に、彼もむしろ困惑しているようだった。
で、少し用事があるから手伝えないっていうのをわざわざ言いに来てから去って行った。別に気にしたことでもないし、俺としては快くシャルルを送り出したつもりだ。
「ハル、手伝うよ」
「ナツ。構わないって、なんのために女子を返したかわからないじゃないか」
「私が手伝いたいんだからいいじゃん。ほら、早く片しちゃお?」
とりあえずヘイムダルなしで台車に乗せた打鉄を運んでいると、ナツに声をかけられた。どうやら俺を手伝う気らしい。
確かに大変ではあるけど、ナツに手伝ってもらっては意味がない。既にアリーナには俺とナツしか残ってないくらいだ。
だがこういう時のナツは頑固である。とてつもなく頑固である。すぐさま俺のことは無視して台車を押し始めた。……でもなんだか、今日は少し棘があるような?
おっと、ボーッと眺めてる暇があるなら手伝わねば。そもそもこれは俺がすべきことなのだから。というわけで、二人で協力して打鉄をアリーナの格納庫へしまった。
「ナツ、ありがとう。助かったよ」
「このくらいならお安い御用。むしろハルはもっと人を頼らなきゃ」
「それはナツが言えたことじゃない。絶対」
「そうかな? 私はハルのこと頼りにしてるけど」
やはり一人の助けがあればそれだけで違うもので、打鉄の運搬はわりとスムーズに終わった。
すぐさま感謝を述べるも、このくらいなんともないから問題ないと逆に怒られてしまう。そうだろうか? 学園に入ってからかなり人を頼るようになったと思うんだが。
むしろそれはナツに言えたことじゃないと思う。だから言い返してみたのだが、なんとも照れる言葉をもらってう手痛い反撃を受けてしまった。
「ところで、随分と楽しそうだったねー」
「そうでもないよ……。確かに嬉しくはあったけどさ」
アリーナの出入り口まで歩き始めると、道中でナツはジト目をこちらに向けながらそんなことを言い始めた。それが何を差しているかはすぐに理解が及ぶ。
要するに女子をお姫様抱っこしたり褒められたりして楽しそうだった、と言いたいんだと思う。いやぁ……そうでもないって本当に。
褒められたことは嬉しかったさ、そこは認める。けど別に楽しかったってことはないかと。ああいうのには永遠に慣れないんだろうし。
でもナツの主観だとそう見えたんだよな。やっぱり鼻の下でも伸びてしまっていたんだろうか。だとすれば情けないところを見せてしまった。
「…………」
「何? どうしたの?」
「いや、なんかさっきから機嫌悪そうだなーと」
それにしても、と思い立ったと同時に足を止めてしまう。だってなんだか機嫌悪そうなんだもの。多分とか、もしかして、の範疇ではあるが。
でもわかりやすいことに、ナツはなんでばれたみたいな顔になった。いや、むしろ有難くもあるんだけどさ。
けど困ったな、なんでナツが機嫌を損ねているのか皆目見当もつかない。
自分一人で片づけをしようとしたこと――――なら手伝ってくれるよりも前に、もっと本格的なお説教をされていた可能性があるな。
だとするならいったいなんなのだろう? 足りない頭で考えてみるも、これといってナツを怒らせるような要因が思い浮かんではくれない。変だな、と感じたことはあるけれど……。
ナツは随分と楽しそうだったと言った。普段ならもっと皮肉っぽく言っていたんだろうに、それがなぜだか機嫌が悪いって感じだったからな。
となると流石にひとつの可能性が生まれるんだが、どうにも自分でたどり着いた答えを信用することができない。
理由は諸々だが、まぁ、とりあえず試すだけ試してみよう。それで俺の考えが間違っていたのなら、何をしてで許してもらうよう努めなければ。
「ナツ、ちょっとこっち」
「え、ちょっと何を――――」
「少しだけ失礼……っと」
「ふぇ……? ええっ!?」
ナツの腕を引っ張ってなるべく死角ができるようアリーナの外壁に近づくと、俺はおもむろにナツをお姫様抱っこで持ち上げた。
持ち上げられた方はたまったもんじゃないというか、何が起こっているのかよくわからないという視線でこちらを射貫く。
だが理由を口にする気はない。だってハズレにしても正解にしても、とんでもない自惚れになってしまうだろうから。
つまり何が言いたいかって、まぁ、そのー……ナツは妬いてたんじゃないかと思いまして。いや、俺だって自分でとんでもないこと言ってるのはわかってるよ。けど考えられるのはこれくらいしか――――
「ちょっ、や、お、降ろして! ほら、重いから!」
「う~ん、軽い重いじゃなくて、なんかしっくりくる感じだよ」
「そ、そんなことは……。あぅ……」
ナツは拒絶するかのように俺の顔をグイグイ押しながら降ろしてと喚くが、多分これは単に恥ずかしいだけで、本当に降ろしてとまでは思っていないはず。
自身の重みに関して羞恥心を覚えているのら安心してくれていい。俺もそれなりに筋力は上がっているし、なにより本当にナツを重いとは感じない。
よほど体重に自信がないのか、それとも恥ずかしいだけなのかはわからない。あるいはその両方だと思うんだが、ナツは顔を赤くして押し黙ってしまった。ついでに手元をモジモジとさせている。
……どうやら機嫌は直ったみたいだな。羞恥心でそれも吹き飛んだ、という方が正しかったりするかも知れないが。
しかし、この後のことを何も考えてなかったな。ナツも黙っちゃうもんだから気まずいったらない。まぁ、俺の幼馴染が今日も可愛いことだし、もう少しこのままでもいいかー……。
……読んだことないからわからないが、なんかライトノベルのタイトルかなんかでありそうな気がする。いや、本当になんとなくだけど。
「逞しく、なったよね」
「おぅふ……!? む、昔と比べたらそりゃ、まぁ。伊達に毎日頑張ってないさ」
「……うん、本当に頑張ってるもんね。ハルはすごいよ」
ナツは何かに気づいたように目を細めると、そっと俺の胸板から腹筋にかけてあたりを撫でた。それに伴い、物理的にも精神的にもくすぐったくて変な声が。
なんとか小声くらいに抑えて済ませると、すぐさまそれを誤魔化すために頑張りが日の目を見ているのだと強がってみせる。
ほんの強がりのつもりだったと言うのに、ナツはとてもとろんとした表情で俺を褒め始めるではないか。
これはいかん。直視できない。自分でも笑ってしまうくらいに、俺の顔には熱が集まっていく。顔から火が出るとはこのことだろうか。
しかし、そんな熱もナツの紡ぎ始めた言葉により急速に冷めていく。ナツは俺の腕の中で、ゆっくりと切り出したのだ。
「ボーデヴィッヒさんなんだけどね、多分だけど千冬姉のことで私を恨んでるんだと思う」
「それってもしかして、ナツがフユ姉さんの二連覇を阻んだって……?」
ナツは俺の腕の中で、沈黙しながら首を頷かせた。
確かにフユ姉さんに心酔した様子だったボーデヴィッヒさんだったが、それは流石にお門違いというものなんじゃないだろうか。
だってナツは被害者だ。攫われて怖い思いもしただろう。それに、限られた人しか知らないが、性別を変えられてしまうという目にもあった。
そのうえで、ナツが連覇を阻んだ? ……それは、それだけは絶対に違う。だって最後に連覇を捨てることを選んだのは――――フユ姉さんじゃないか。連覇よりも栄誉あることをしたじゃないか。
フユ姉さんは一時期だけど関係各所からのバッシングを受けていたけれど、だからってそんな、ナツのせいだなんて――――
「ハル……」
「ナツ……」
「ごめん。ごめんね、こんなのばっかりで。けど、ちょっとわからなくなっちゃう時とかあったんだ。私が二連覇目指してるのって、なんのためなのかなって」
ナツはこてんと俺の肩へ顔を埋め、そのまま続きを語りだした。……顔を見ないでほしいという意図が、痛いほど伝わってきた。
だから決して見ないように、むしろ大げさなくらい視界を前方に意識させる。けど、ナツの震えた声を聴いて、一瞬にしてその決意が揺らぎそうになってしまう。
ナツが二連覇を目指す意味。そしてその意味が時折揺らぐ……か。つまりそれは、誰がための二連覇かということなのだろう。
二連覇っていうのはナツの抱いた目標で、夢だ。しかしその夢が、自分のためではなくフユ姉さんのための、フユ姉さんへの贖罪のためのように思えてしまうことがある……と。
そんなことが時々あったうえで、ボーデヴィッヒさんの襲来……。つまりナツは、図星を突かれたかのような状態にあるということなのか。
「……そんなことを言わないでくれ! 夢を否定するようなことは、絶対!」
「ハル……?」
「僕に夢を思い出させてくれたのはナツなんだ。そんなナツが、自分の夢を否定するようなことがあっていいはずないじゃないか!」
ISを動かしてしまうなんていうハプニングは起きたものの、僕の抱く夢はあの日アトリエでナツが思い出させてくれたものと変わらない。
もっと自分の世界をまっさらな用紙に描きだし、その過程で誰かが喜んでくれればいい。それが、僕の右手は誰かを感動させるためのものにあると、そう言ってくれたナツが抱かせてくれた夢なんだ。
多分僕が声を荒げてしまったのは、悔しかったからだ。揺るがないものを抱かせてくれたのはナツなのに、そんな人にそんなことを言わせてしまった自分が不甲斐なくて。
どうすればいいのだろう。どうすればナツがもっと真っ直ぐ自分の夢と向き合ってくれるだろうか。残念ながら今明確なものは浮かばないけど、せめて励ますくらいのことはしたい。
「ああいうこと、言いたい人には言わせておけばいい。ただナツに覚えておいてほしいのは、俺だけは絶対に味方だっていうことだから」
「味方……?」
「うん。例えあの件でナツを責める人がどれだけいたって、俺だけは必ずナツの味方で、そんなことないよって言ってみせるから。だから、だから――――ごめん、そのくらいのことしかできなくて……!」
ああ、本当に情けない。
揺らがぬ決意をくれた人に、揺らがぬ信念を言って聞かせようとしているのに、話の途中でそんなことしかしてあげられないと思ってしまう。
所詮は気休めだ。俺一人がナツに寄り添ったところで何になるのだろう。そんなことを考えてしまって、途中から謝ってしまった。
だが言葉そのものだけは本当のつもりだ。クサかったりありきたりの台詞かも知れないが、ナツのためなら世界を敵に回したって惜しくはない。
……もう一度、もう一度だ。俺だけは絶対の味方だって、それくらいはちゃんと伝えよう。俺がそうやって再度口を開こうとすると――――
「そのくらいじゃ、ないから」
「ナツ……?」
「私にとって、それ以上に嬉しいことってないから。ハルさえ居てくれれば、私は……!」
「っ……!」
ナツは顔を肩へうずめたままの状態で、俺の首に腕を回した。そして関節技でもかけているのではないかという勢いで、その両腕に力を籠める。
俺たちはそれでより密着した状態となり、各所触れる部分も増えて嫌でも意識してしまう。それでも今は、ただナツの体温が惜しかった。
そして紡がれたナツの言葉は、俺の想いを一瞬にして俺の存在価値へと昇華させてしまうがの如く、俺の心に強く響いた。
なんだろう、胸が痛い。心臓がとかじゃなく、胸が。もっと言うなら、心? そしてこの痛みは、ただ痛いだけじゃなくて心地よさも内包しているかのようだ。
……ナツが苦しんでいるというのに何を寝ぼけたことを言っているんだろうか。ただ今はナツを落ち着かせることだけに集中しなくては。そう、ナツが望むのならばいつまでも……。
ラウラにヘイト溜まらんでしょうねこれ(心配)
これでまだ本番じゃないってのが胃に来ますぜ……。
一夏ちゃんヒロインだとタッグトーナメント編のさだめですかねぇ。
ハルナツメモ その17【割とあり】
入学からの数か月の学園生活により、顔も中身もいまいちパッとしないながら、真面目で誠実な性格はそれなりに女子受けがいい。
ただ恋人にはどうかと聞かれると、それはまた別の話。あくまで友達の範疇での誉め言葉である。
そもそも晴人には一夏ちゃんが居るという認識が大多数を占めるため、恋愛感情まで行きつかないのであろう。