ハルトナツ   作:マスクドライダー

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ちょっと内容詰込みスギィ!
一万字超えちゃって少し読みづらいかも知れません。本当に申し訳ない。
ただそれなりに内容が濃いはずなので、本編のほうをどうぞ。


第32話 これがデフォルト そんな二人

「晴人ってさ、なかなか濃い人脈もってるよね」

「うん、冷静になって考えると俺もそう思う」

 

 時間も進んで昼休み、俺たちいつものメンバーは屋上へ集合していた。新メンバーであるシャルルを加えて、かな。

 一カ月に何回か、こうしてお弁当だのを持ち寄って集まる。まぁ、俺の場合は基本的にナツが作ってくれるからなんにもしてなんだけどさ。

 で、専用機持ちとしての繋がりやら男子同士の繋がりやらにより、プチ歓迎会でも開こうということでシャルルも誘う流れになったわけだ。

 もちろんシャルルには寝耳に水なわけで、彼には購買を紹介しておいた。そこで総菜パンを楽しそうに物色しながら購入していたのが印象的だったかな。

 後から合流するなり代表候補生ズと箒ちゃんっていう濃いメンツに、シャルルは思わず考えていたことが口に出たんだろう。

 でも当のシャルルだってなかなかの濃さなんだよ? と本人にダイレクトな指摘はしないけどね……。

 さて、それはさておきお昼にしよう。俺はナツの隣へとおもむろに腰掛けた。

 

「よっこいせ」

「ハル、おじさんクサいからやめた方がいいと思う」

「言う事欠いてそれですかナツさんや」

「デュノアくん、私のお弁当はつまんでいいからね。取り皿とか箸とかフォークとかいろいろあるから」

「無視……?」

 

 ゆっくり座る際によっこいせと口にすれば、ナツはこちらに目もくれず刺さる言葉をくれる。

 すぐさまもうちょっとオブラートに包んでとお願いしてみるも、華麗なスルーを決められてしまった。たまにだけど意図的に無視されることがある。

 というか、ナツは相変わらず痒いところに手が届くことで、手提げかばんから次々に食事に必要なアレコレが出てくる。

 シャルルの転校を予期していなかったろうから、すなわち常備してるということになる。本当、よくできた女性だよ。

 

「…………」

「シャルル、どうかした?」

「えっと、晴人はいいの? 彼女さんの手料理なんか食べちゃって……」

 

 パッパとナツから差し出された紙皿やらフォークやらを受け取りつつも、シャルルは俺とナツを見比べてなんだか困った様子だ。

 どこに困る要素があるのかと尋ねてみると、シャルルは真面目な顔してとんでもない爆弾を投下してくれる。

 すると鈴ちゃんを筆頭に、みんなが吹き出してから笑うのをこらえるかのように震え始めた。そんな状況に、俺とナツはただ顔を赤くすることしかできない。

 

「え、え? あの、僕って何か変なこと言ったかな」

「いやいやデュノア~。もっと言ってやんなさ~い」

「核心を突かれて照れる姿……。尊さ測定器()……お仕事の時間……」

「五千兆点」

「あなた方は何を仰ってるんですの……?」

 

 この空気感で自分が余計なことを言ったと思ったのか、シャルルはかなり困惑した様子であっちこっちを見渡した。

 ここぞと言わんばかりに鈴ちゃんは煽るし、簪さんと箒ちゃんはよくわからないやりとりを繰り広げてるし……。 こうしてみると良心はセシリアさんのみか。いや、彼女も時折だが俺たちをそっち方向でからかってくるな。

 ……なんだろうか。弾と数馬、そして中学時代の男子たちが生易しく見えてきた気さえする。

 

「シャルル、俺たちは付き合ってるわけじゃないんだ」

「そ、そうそう。姉弟だったり家族みたいなものだから……」

「え、それ本気で――――いやごめん、なんでもないよ。じゃあ、お言葉に甘えていただくね。ありがとう織斑さん」

 

 俺たちは間違っても付き合っているわけではない。それなりに親密な関係であることは認めるが、その親密も別に恋愛方向へのベクトルは向かないし。

 でもそんなに強く否定するのもナツに失礼な気もするので、諭すような雰囲気を心掛けて一応の弁明をしておく。

 するとナツも続けて援護射撃をしてくれた。……んだけど、なんだかシャルルはあまり納得がいっていないように眉をひそめた。

 しかしそれも一瞬のことで、それ以上言ったらまた面倒なことになると判断したのだろう。途中言おうとしていたことを自分で遮り、貴公子スマイルでナツにお礼を述べた。

 

「あ、そういや晴人。アンタこの間の件だけど、真剣に考えた方がいいわよ」

「この間って、SNSの話? う~ん、やっぱりあまり興味がないっていうのが本当のところかな」

 

 適当に談笑しながら食事を進めていると、鈴ちゃんが思い出したかのように切り出した。この間の件というのは、鈴ちゃんにSNSを始めることを勧められたんだよね。

 とは言っても、単に独り言とかを投稿する目的ではなく、俺の描いた絵とかをアップしてみたらどうかって。鈴ちゃんはせっかく上手なんだから、とも言ってた。

 不特定多数の目に留まることによって、刺激になったり励みになったりもするんだろう。しかし、その反対に心無い発言をするような人もいるということだ。

 ネット上にて絵絡みでトラブルがあったというような話を聞いたこともあるし、そのあたりが起因していまいち踏ん切りがつかない。

 しかし鈴ちゃんは前回と違い、今回は絶対に始めた方がいいとでも言いたげだ。いったい鈴ちゃんの何がそうさせるんだろう。

 不思議そうに鈴ちゃんを見つめていると、俺たちの輪の中心あたりに携帯を置き、自身のユーザーページからとある投稿の画面を表示させた。

 

「晴人がくれた絵、友達が描いたやつってアップしたんだけどさ」

「無断で!? いや別に構わないけど、せめてひとこと……」

「フッフッフ、これを見ればそうも言ってられなくなるわよ」

「ほう、凄まじい数の拡散と高評価だな」

 

 前にも言ったが、武者修行気分でいろんな人をモチーフにし、沸いたイメージを直感的に絵にしている。鈴ちゃんの場合は龍人といったところか。

 どちらかと言うなら猫科のイメージが強かった彼女だが、甲龍を纏って戦う姿を見てがらりとイメージが変わったんだよね。

 巨大な青龍刀――――名前は双天牙月というらしいそれを振り回し、龍砲を打ち鳴らす怒涛と呼ぶにふさわしい戦闘スタイルに、俺はまさしく龍を見たのだ。

 中華風の龍は蛇に近いタイプが多いが、今回は鈴ちゃんと甲龍を融合させたイメージなので、龍人として描いたということ。

 色は主に甲龍と同じく紅色ね。背景は鈴ちゃんの怒涛っぷりを表現するために大荒れの空模様。鱗と大雨の描写で死ぬ思いをしたが、それが高評価につながっているのなら満足だ。

 

「これ、晴人が描いたの? すごい……まるで絵じゃなくて写真みたいだ」

「い、いや、俺なんて全然――――」

「晴人さん、謙遜はおやめなさい。デュノアさんはあなたを褒めているのですよ」

 

 お互い趣味の話とかしてる暇がなかったし、シャルルは鈴ちゃんの携帯に映る俺の絵を見て、こちらに尊敬のまなざしを向けてくる。そのあまりにも素直なリアクションに、俺は思わず遠慮したように返してしまった。

 するとすぐさまセシリアさんからのお咎めが。彼女にはどうも、俺の弱気っぽい発言をよく注意されるものだ。

 けど鈴ちゃんが俺にSNSの話を持ち掛けてくれたのは、多分だけど――――せっかく生のリアクションがもらえるんだから、それ見てアンタも自信持ちなさいよ……ってところなんだろう。

 鈴ちゃんの言葉にもセシリアさんの言葉にも一理ある。いや、一理どころの話ではないかも。実際、鈴ちゃんの投稿に寄せられている返信を見ていると、とても心が救われるような気分だ。

 

「じゃあ、せっかくだし、始めてみよう……かな」

「ハルが連絡手段以外で携帯を使う日がくるなんて……!?」

「はいそこ、妙な戦慄を覚えない」

「アカウントの作り方とかわかる? 無理そうなら一緒に操作しようね」

「なんでそこまでお爺ちゃん扱いなんですかねぇ!」

 

 俺がようやく始めてみるという決心を口にすると、周囲からは小さな歓声が上がった。が、違うリアクションをする者が一人――――ナツだ。

 確かにこれまで携帯を電話やメール以外の用途で使ったことは少ない。ゲームとかアプリとかも付き合い程度のものだったし、長続きした覚えもないかな。

 けどねナツ、SNSのアカウントを作れないほどネット音痴だったつもりもないけどね。まぁ、この時点で冗談なのは知れてる。

 けどもはや癖になってしまっているというか、ナツがボケたら脊髄反射のレベルでツッコミを入れてしまうんだよ。逆もまた然りなんだろうけども。

 

「日向くん……。ところでなんだけど……」

「ど、どうしたの、簪さん」

「私……描いてもらってないなって……」

「実は私も同じことを考えていた。晴人、随分と白状じゃないか」

「一番に私を描いてくれるものだと思ったんだけどなー」

 

 俺とナツの漫才が一区切りつくと、相変わらずか細い声で簪さんが話しかけてきた。そして少し残念そうに、自分はまだ描いてもらってないと――――

 それにナツと箒ちゃんも便乗するが、待ってくれ、待ってほしい。俺だってそれなりの理由というものがあるんだ。

 ……まぁ、簪さんに至って正直なことを言わせてもらうと、何も思いついていないというのが現状なんだけれど。

 だからって簪さんが地味だとか、思いつかないから全く描く気がないというわけでもないんだ。よりよい作品を描くには、時には腰を据えることも大事なのである。

 箒ちゃんの場合は、ボツになった作品が大量生産されているといったところか。

 箒ちゃんに対しては、モチーフとかイメージとかそれなりに沸くんだよ。でもね、俺としてはありきたりでつまらないんだ。

 何かって、日本刀とかそういうのが先行しちゃうんだよね。箒ちゃんを見知った人が誰でも浮かぶようなイメージを絵にしたところで、なんだか遊びがなくてつまらないでしょ? だから変わった何かが思いつくまで箒ちゃんは保留と。

 そんな理由と言う名の言い訳を繰り出すと、二人ともとりあえずは納得しておこう……みたいな返事をいただいた。が、なんだか締め切り間近かのような空気を感じずにいられない。

 えーと、最後にナツだが、これは、なんというか、みんなの前で理由を述べたくはなかったな……。

 

「ナツだから完成しないんだよね」

「私だから?」

「うん、テーマもモチーフもイメージもそりゃ一番に固まったよ。けど、もっと時間をかけてゆっくり、最高の一枚を描きたいなって思ってるんだ」

 

 現状で完成している鈴ちゃんとセシリアさんの絵や、思い付きで描いた絵。それだってかなりの時間と労力を割いて完成させている。けど、単にナツはその比じゃないって話なだけなんだ。

 本当のところ完成させるまで秘密にしておこうと思ったんだけど、俺の中でもいつの間にか超大作になってしまっていたので仕方がないか。

 やっぱりナツは俺の中でいろいろと特別っていうか、他のみんなと重ねてきた時間が違う。ナツのぶんは、これまで過ごした感謝とかも含まれているんだから。

 

「どうやらお邪魔なようですわね」

「そうね。ほら行くわよハルナツ愛好家筆頭」

「ちょっと待って本当無理しんどくて尊い」

「えーっと、篠ノ之さんは大丈夫なのかなこれ」

「大丈夫じゃないけど大丈夫……。デュノアくん、悪いけど手伝って……」

「……あるぇ!? ほ、ホントに行っちゃうパターンなの!? ちょっ、み、みんな!」

 

 どこか俺とナツの間に生ぬるいような空気が漂うと、セシリアさんが食べかけのサンドウィッチを片してから立ち上がった。

 すると、それに便乗するかのように次々と面子が屋上を去っていくではないか。新メンバーであるはずのシャルルでさえ、当たり前のようにみんなに着いて行く。

 箒ちゃんは、あー……なんか身悶えして動く気配がなかったからか、他の四人に両手両足を持たれて強制連行されていく。

 ……正直なことを言っていいだろうか。あんな箒ちゃん、心底から見たくはなかった。……なんて考えが浮かぶのも一種の現実逃避なんだけど。

 別にナツと二人きりなんて珍しいことじゃないのに、邪魔になるとか言われて立ち去られたら嫌でも意識してしまうじゃないか。

 

「「…………」」

「あ、あはは……」

「えへへ……」

 

 俺たち二人は顔を見合わせると、どちらともなくぎこちない笑みを浮かべた。そうだな、こういう時には笑ってごまかすのが一番なのかも知れない。

 これで調子を取り戻せたかと思えば、ナツはなんだか緊張した様子で周囲を見渡した。さっきみんなが立ち去ったばかりなのに、いったいどうしたというのだろう。

 不思議そうにその様を見守っていると、ナツは先ほどまで俺が使っていた箸を手に取った。ますます頭上にクエスチョンマークが出るばかりである。

 実際、そこですべてを察することのできない俺も、なかかな鈍いほうなんだろう。ナツがそんなことをするというのが意外でもあるけど……。

 ナツは弁当箱の中に入っていた厚焼き玉子を箸で掴むと、行儀よく左手を下に添えつつ、それをこちらへ差し出してくる。

 これはもう、なんの言い逃れもできぬ――――あーんというやつじゃないか。

 

「あーん」

「あ、あーん……」

「……今更聞くのもなんだけど、美味しい?」

「ナツの料理が美味しくなかったことなんてないよ。今日もありがとう、ナツ」

「そ、そっか……。えへへ、それなら嬉しいな」

 

 先ほどまで自分の手で口に入れていた厚焼き玉子だが、ナツに食べさせてもらったということで、より丁寧に咀嚼する。

 ちょうどよい焼き加減でトロトロフワフワ。味付けは素材を生かすために控え目な塩と砂糖。俺の健康に気を使ってくれていることもうかがえる。

 そんな想いのこもったナツの手料理が、美味しくないわけがないだろうに。俺にとって、ナツの手から作り出される料理は、いかようなものでも世界一美味しいと言っても過言ではない。

 しかし、そうやって口にするのを最近は疎かにしていた気がする。ナツの手料理を食べる機会が減ったのだから、よりそういうのは言っていかないとダメだろうに俺のアホ。

 そういうわけで、今回は逐一詳しい感想を述べ続けた。俺の言葉を聞いてナツが喜んでくれる。俺にとってもそれは嬉しいことで、相乗効果というやつが生まれた。

 だから、というわけでもなんだけど、うん、きっと今日のナツの手料理がいつも以上に美味しく感じたのは、まったく気のせいではないんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑さん、お引越しです」

「…………はい?」

 

 放課後、夕食や風呂を終えて後は寝るだけ、みたいな状態で1025室でくつろいでいると、突然山田先生が訪問してきた。室内に招いてみるとこれである。

 ……山田先生はあまり要領を得ないことがあるというか、言葉に主語しかない時があったりするよね。

 うん、とりあえずナツが引っ越しになるのはわかった。しかし、なぜ引っ越さなければならないのが謎である。

 ナツもかなりチンプンカンプンそうに首を傾げるばかりだ。とりあえずアシストしてみるかな……?

 

「山田先生、なんでナツが引っ越すことに?」

「デュノアくんが転校してきた影響ですね。当然、男性同士で同室になっていただきます」

 

 あぁ……そうか、シャルルか。確かにIS学園という特性上、二人しか居ない男子生徒同士を同室にするのは自然の流れかも知れない。男性同士なら、ね……。

 いやしかし、部屋割りの変更があったとするなら申し訳ない話だ。当然と強い口調で言ったのを見るに、担当したのは山田先生なんだろう。

 なんだろうか、土下座とかしたほうがいいのかな? って、この人の場合はそれに合わせて土下座で返してくるんだったな。ここは大人しくしていたほうがよさそうだ。

 

「山田先生、いつまでにここを出ればいいんでしょうか」

「ええ、できれば明日の放課後にはデュノアくんと交代という形で――――ヒエッ」

 

 ナツがようやく事情を呑み込んだかのように、俺よりも前に出ながら聞いておく必要があるであろう質問を述べた。

 山田先生もにこやかな様子で質問に答えようとしていたんだが、ナツの方へ顔を向けた瞬間に顔色が悪くなり始めるではないか。

 というより、小さく悲鳴を上げていたことを俺は聞き逃してはいない。だとしてなんで悲鳴なんだろう? 気になって二人を眺める角度を変えてみようとしたところ――――

 

「こ、こここここ、これ、織斑さんの新しい部屋のキーです! それでは確かに渡しましたので!」

(…………? なんだったんだろ……)

 

 二人の様子をその目で確かめるよりも前に、山田先生は慌ててナツにキーを手渡し逃げるように――――いや、実際ナツから逃げてるっぽいんだけど、そのまま部屋を飛び出して行った。

 まさか部屋が変わるごときでナツが山田先生を怯えさせるほど怒るはずもないし、だとすると本当になんだったというんだ。

 ……とにかく随分と急な話ではあるが、これで俺の安寧は消失したと同然か。叶うならナツと同部屋が理想なのだけれど。

 

「はぁ……。ハル、寂しくなっちゃうね」

「うん、今同じことを考えてたところだよ」

 

 流石は家族同然の幼馴染。十年も一緒に過ごせば思考も似通うのか、クルリとこちらへ振り向いたナツは寂しくなるとの感想を述べた。

 俺としては当然のことくらいのつもりなんだけど、ナツはまさかそう返してくるとは、みたいに驚いた反応を見せる。それどころか、少しずつ顔が赤くなっているような。

 なにさ、今更こういう言葉を恥ずかしがるような間柄じゃないだろうに。例え女の子になってしまったとしても、一緒に居て一番楽なのはナツに決まっている。

 

「そっか、そっか。えへっ……」

「ナツ?」

「よーし、そうと決まれば今のうちに荷物を纏めちゃわないと」

 

 ナツは突然はにかむと、かなり上機嫌になって引っ越しの準備に取り掛かった。鼻歌交じりで本当に楽しそうだ。

 俺はそんなナツの姿をクエスチョンマークを浮かべながら眺めるしかできない。何をそこまで喜ぶようなことがあったのだろう。

 それとも、俺と離れるのが嬉しい? ……なんてことは考えないけどね、鈍感帝王の名を欲しいままにするナツじゃないんだから。

 久々に言うことになるが、女の子ってわからない。

 

「ん、完了!」

「お疲れ様。じゃあ、少し話でもして過ごさない?」

「そうだね。ゆっくり話す機会も減っちゃうかも知れないし」

 

 ナツを見守るのを止めてからはスケッチブックに色鉛筆を走らせていたのだが、荷造りが終わったことを知らせるように元気な声が響いた。それを合図に目を向けつつ、ちょっとした提案を投げかける。

 提案といっても普段からしている何気ないことだ。ナツと少し会話がしたい。内容は別にとりとめがなくていい。これが最後になるわけでもないけど、同室状態ではという括りでは当てはまるのも確かだから。

 ナツだってシャルルがこちらに引っ越してくれば、そうそう入り浸るようなこともないだろう。そう思えば、ナツの言うとおりプライベートな時間は格段に減ってしまいそうだ。

 俺たちは互いのベッドに腰掛けると、学園に入ってからのことを振り返るような話題で盛り上がる。

 箒ちゃんや鈴ちゃんとの再会。オルコットさんや簪さんとの出会い。そんな仲間たちと繰り広げる何気ない日常。

 入学してからまだたった数カ月だというのに、こうしてみると話題が尽きないものだ。やはりみんながみんな濃いという裏返しなのかも。

 こちらとしては本当に少しのつもりだったんだけど、気づけば時計はいつもの就寝時間を少しばかりオーバーしているではないか。

 俺がチラリと時計を確認したのを見てか、ナツもそろそろお開きという雰囲気を醸し出し始めた。

 

「今日はこのくらいにしようか」

「ごめんね。なんだか長い間付き合わせちゃって」

「別に大丈夫だよ。私も楽しかったもん」

 

 今日はこのくらいに……か。ナツが意識したかどうかは知らないが、うん、いい言葉だと思う。だって今日はってことは、明日も明後日もそうしていられる時間が来るってことを示唆してるのだろうから。

 さて、それなら出しっぱなしにして放置してあるスケッチブックと色鉛筆を整理しておかないと。もしナツが遊びに来た時とか、私が居ないと散らかるんだからとか言われないようにしないと。

 そうやって色鉛筆を一本一本丁寧に、色ごとに整理しながらケースにしまっている時のことだった。ナツがなんだか遠慮したような声色で、背を向けたままの俺に話しかけてくる。

 

「……ねぇ、ハル。迷惑じゃなかったら、ひとつお願いがあるんだけど」

「ん? あまり無理じゃなければ、応えられるよう努力はするさ」

「そっか……。じゃあ、その、本当に迷惑じゃなければなんだけど――――」

 

 ナツのお願いのひとつやふたつ、あまりにも無理でなければ実現できるように頑張るとも。恩返しできるならなんだってやるさ。あまりにも無理じゃなければ。

 しかし、なんでそうも迷惑でなければ、という部分を強調するんだろう? 不思議に思い片付ける手をいったん止めてナツに目を向ければ、何かとても決心したような表情をしていた。

 ますますもって不思議だけど、実際にナツのお願いとやらを聞いて、そんな様子になるのも無理はないと思った。なぜなら――――

 

「フフッ……。流石に狭いかも。私たちが成長してる証拠かな」

「そ、そそそそそ、そうだね。子供ならまだしも、今の俺らが一人用のベッドに一緒に入るのは、は、入るのは――――」

 

 ナツは言ったんだ、一緒に寝てほしいって。それが添い寝であることは理解しつつも、脳が一瞬にして沸騰してしまうかと思ったぞ。

 けどナツには言ったんだ。さっきの無理でなければのくだりしかり、キミの望むことは叶えてみせるって。

 男に二言はない。というほど硬派でも男らしくもないが、大事な人にそう言い切った手前、小心者の俺に断るという選択肢はなかった。

 というか、ナツの様子も卑怯だったと思う。あんな断られたらどうしよう。みたいな表情されて、恥ずかしからそれは無理と言えるはずもない。

 枕を持参し俺のベッドの半分を占拠するナツは、とても楽しそうな笑みをこぼしている。……大丈夫かな、寝汗とかで匂ったりはしてないだろうか。

 

「…………」

「ナ、ナツ、なんでそんなに見てくるの?」

「うん? う~ん……。……秘密」

「えぇ……? なんか引っ掛かる――――むぐっ」

「ハル、おやすみ」

「う、うん、おやすみ」

 

 自分のベッドに女の子が入っているという状況に、その他不備がないだろうかと悶々としていると、ナツがジッとこちらを見ていることに気が付いた。

 何をそんなに見てくるのかと聞けば、ナツは気まずそうに視線を泳がせてから秘密だと教えてはくれない。女の子の秘密という言葉が重いのはわかるけどさぁ……。

 なんとか追及しようとしてみるも、唇を人差し指で押さえられて発言すらさせてもらえない。後は強引におやすみを言うと、ナツはさっさと目を閉じてしまった。

 俺もそれに倣って挨拶を交わしてから目を閉じるも、まったく眠れるような気がしない。むしろ寝られるはずもない。

 だって、意識するだろ。目を開けば至近距離で美少女が寝てるんだぞ。すぅすぅと立てている寝息が少し顔にかかってドキドキするし、最もまずいのは女子特有の甘ったるいような香りだ。

 鼻で呼吸をすれば、凄まじくフローラルな香りが鼻腔を突き抜けていく。もはやいい意味で酔ってしまいそうな気さえした。

 そんな感じでドギマギしながら目を閉じることしばらく、しばらく……? しばらくってどのくらいだ。30分? それとも一時間? 目を閉じっぱなしなせいで、時間感覚が完全にあやふやになってしまったらしい。

 

「…………ハル、起きてる?」

 

 考えが堂々巡りし始める最中、ナツのポツリと呟くような声が確と耳に届いた。そこで起きてるよと返事をするのは簡単だったが、変に意識しているのを悟られるのが気恥ずかしくて、つい俺は寝たふりなんかをしてしまう。

 俺が寝たふりを決め込むこと数十秒といったところか、ナツはまたしてもよしと小さくつぶやくと、布団を擦らす音を鳴らしながらモゾモゾと身体をよじらせ……ているのかな。

 だとすると、普通にベッドから出ようとしただけか。俺に起きてるかどうかの確認を取ったのは、起きてるか寝てるかで対応を変えようとしたんだろう。

 なんだそんなことか。寝たふりをしたままでも別に問題はなかったな。俺がそうやって、勝手に結論を導き出した時のことだった。

 

「……ごめんね、こんなの卑怯だってわかってるんだ。けどあの時のことが本当に嬉しくて、私――――」

(あの時……? 俺だけは味方だって言ったことかな)

「ちょっと、ちょっとだけ抑えられないの。だから、ごめん。このくらいは許してね」

(……………………は?)

 

 ナツが許してと呟いた次の瞬間のことだった。俺の頬に柔らかい感触が走り、それと同時に数秒だけ吸い付くような感触も。そして響くチュッというような水音――――

 それで全てを察した俺は、思わず叫んでしまいそうなのを必死でこらえた。自分でもどうして叫びたくなったのかはわからない。驚愕? 歓喜? 困惑? というか、それら全部だとは思う。

 だって、キスされたんだ。今間違いなく俺は、ナツに頬へのキスを受けた。これが驚かずに、喜ばずに、取り乱さずにいられるものか。

 本当に叫び出さなかった自分を褒めてやりたい。その代償として、一気にパニックになって何も考えられなくなってしまったわけだが。

 

「……ハル、おやすみ。また明日」

 

 寝たふりを決め込んだせいで、最後までナツがどんな表情をしていたかはわからない。見て見たかったような気はするが、絶対に見てはならないような気もした。

 ナツは俺の手を握りしめると、今度こそ眠りにつくつもりなのか、それ以降声をかけてくることはない。少しはこちらのことも考えてほしいところである。

 そりゃ、ますます堂々巡りに拍車がかかるばかりだ。もはや俺の脳内は阿鼻叫喚の地獄絵図と表現するほかないだろう。

 やがて混乱の境地にでも陥ったのか、俺はかえって気絶するように寝てしまったらしい。途中考えが途切れ、目が覚めたら朝だったから実際そうなんだろう。

 ナツは俺が寝たふりをしていたことを知らない。だから頬にキスしたことを知らないと思っている。それだけに、おはようと挨拶をしてくるナツにぎこちない笑みを返すことしかできなかった……。

 

 

 

 

 




ね、サブタイトルどおりだったでしょ?
こういうのが常日頃からできればいいんですけどねぇ。
何が一番楽しんでやってるかって、キャラ崩壊起こしてる箒の言動ですよ。ちょっとやり過ぎでしょうか。近頃変なことしか言わせてない気がします。
でも今後のことを考えておけば今のうちに……ね?






ハルナツメモ その18【SNS】
その後、晴人は青い鳥がトレードマークのSNSを始めることに。アカウント名はシンプルに【HAL】だとか。
近々に描いた絵をアップしてみたところ、始めたその日から拡散が凄まじく、フォロワーもかなり伸びた。
有難いことと思いつつも、小心者なせいで無意味にビビっているらしい。
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