まぁ初期から比べると、随分と成長していると思われます。
とにかく、今回の晴人の行動原理が【一夏ちゃんのため】である。
ということを念頭に置いていただきたい。
前回の更新で、評価していただいた方の紹介を忘れておりました。
大変申し訳ありません。というわけでして、以下、評価していただいた方をご紹介。
Bibaru様 四葉志場様
評価してくださってありがとうございました。
(話してみるって意気込んだのはいいんだけど……)
軽く着替えやらを済ませてからボーデヴィッヒさんの捜索を始めたところ、とある問題にいきついたせいで頭を悩ませていた。
それは彼女の行動パターン、ないしルーチンを把握していないという点について。ゆえに闇雲に歩いたところで見つかりはしないだろう。
そりゃ各所でチラチラ見かけたりはしたけど、ご存じのとおりの関係なせいでこっちから話しかけたりはしなかったからなぁ。
ボーデヴィッヒさん、クラス内外問わず友人を作る気すらないみたいだし、誰かに尋ねるというのもあまりいい手ではないか。
ここはお得意の食堂付近で待ち伏せ作戦を慣行すべきか? 軍人らしいから規則正しい生活は心掛けてるだろう。ならば食事を抜くということも考えにくい――――
「おい」
「ん……? わっ、ボーデヴィッヒさん。ちょうどよかった、少し話したいこと――――がっ!?」
「貴様、なんのつもりだ。私は貴様なんぞに用はないぞ」
突然背後から声をかけられたかと思えば、探し人のほうからやってきてくれたご様子。その小柄な体躯に美しい銀髪は、間違いなくボーデヴィッヒさんだ。
とりあえず見つかったことに安心していたのだが、彼女は目にも止まらぬ速さで俺の背後へと回り込むではないか。
驚く暇もなく、ボーデヴィッヒさんは後ろ手に取った俺の右手を内側へと捻り上げる。あまり詳しくはないが、CQCとかいうやつだろうか。
「貴様は確か絵を嗜むんだったな。それもかなり熱心に」
「だ、だとしたら?」
「あまり私に干渉するようならどうなるか、身体で教えてやらんといかんというわけだ」
フユ姉さんが話でもしたのか、ボーデヴィッヒさんはある程度俺のことも聞き及んでいるらしい。やっぱり俺といえば絵のことなのだろうか。
そしてそのことを確認すると同時に、右腕の捻りがより深くなるよう回転させられる。かなり無理な体勢なんだが、そこらでようやく彼女の目的が分かった。
つまり、あまり関わってくるようなら右腕を折ってやると言うことなのだろう。やり口が狡猾なような気がするのは、やはり軍人だからなのだろうか。
そりゃ右腕は命並みに大事だし、なによりナツとの約束もあるから無駄な怪我はできない。しかし、今回の場合は多分だけど大丈夫。
「しないよ」
「何?」
「キミは無駄なことはしない人だ。俺のことを興味ないっていうのも嘘じゃない。だとするなら、折るだけ無駄、だよね。流石に騒ぎになるのもわかっているだろうし」
きっとボーデヴィッヒさんは、フユ姉さんからこう聞かされてもいるんじゃないだろうか。俺は争いを好まず、少々臆病なところがあると。
だから右腕のことと絡めて脅せば、普通にそれに従う――――って思ったんじゃないかな。全部憶測だからなんとも言えないんだけど。
俺の推理がどこまで正解していたかはわからないが、ボーデヴィッヒさんは盛大に舌打ちしながら、乱暴に俺の右腕を解放した。
右手の無事を確認しながらボーデヴィッヒさんを視界へ入れれば、とても不機嫌そうな顔つきでこちらを見上げている。
「気に障る男だ。まるで私のことを見透かしたようなことを言う」
「いや、人の考えてることなんて全然読めないよ。ただ、人を見る目だけならちょっと自信あるかな」
人の考えを読めれば苦労しないというか、十年過ごしてきた半身の考えすら察してやれなかった俺にそんな大層なことは――――って、隙あらばネガティブ禁止! 今考えるべきはどうやってボーデヴィッヒさんを説得するかだ。
どちらにせよ聞く耳は持ってくれないことはわかっている。けど、どうしても伝えたいことがひとつだけあるのは確かなんだ。
そうこうしている間に、ボーデヴィッヒさんはこちらに一瞥もくれずにどこぞへと歩き出した。あー……困ったな、待ってと言ってそうしてくれたら苦労はしないわけだし。
と、とりあえず追いかけてみるか? 見失ったらそれこそ探すあてがないんだから、このチャンスを必ず物にしないと。
でも結局のところ、声をかける勇気がないんだから身も蓋もないよな。本気で怒らせたら冗談抜きで腕でも折られそうな気がするし、いったいどうするべきなのか――――
「鬱陶しい! 貴様、用があるのかないのかハッキリせんか! 終いには本気で折るぞ!?」
「あぁだだだだ!? タ、タイムタイム! 今のはゴメン!」
考え事をしながらとりあえず追いかけるという行動をしていたせいか、それこそボーデヴィッヒさんの機嫌を損ねてしまった。うん、無言でついて来られるとか俺でも鬱陶しく感じる。
悪気がなかったというのも事実のつもりなわけだが、またしても右腕を捻り上げられてしまう。むしろさっきより加減がないような気さえした。
弁明を図りながらとにかくボーデヴィッヒさんの腕をタップし続けると、荒い鼻息を鳴らしながら解放はしてくれた。……が、冗談抜きで折られるかと思ったな。
俺の右手に関してはこの際置いておいてだ、今のボーデヴィッヒさんの言葉は、無言でついてくるくらいならさっさと話せと捉えていいのだろうか。
三度目の正直というか仏の顔も三度というか、また怒らせたら今度こそ手酷いことをされそうな気がするも、やはりこれ以上のチャンスが巡ってくることはないと思われる。
二度の右腕へのダメージもあってか臆してしまう俺が居るが、ナツの為なのだと喝を入れることにより、恐る恐るながらも口を開いた。
「ええっとね、俺の周りって凄い人が沢山居てさ」
「は? なんの話だ。あまり要領を得んようなら――――」
「世界獲っちゃう姉貴分だとか、代表候補生になっちゃう幼馴染二人とか。ああ、剣道で全国制覇もすごいよね。あと、両親が社長だったり部長だったり。爺ちゃんが有名な画家だったり」
「…………」
言いたいことがあるっていったって、別に聞いてくれたからにはそのとおりにしてほしいなんていうことはない。
きっと、ボーデヴィッヒさんはボーデヴィッヒさんなりに譲れないものもあるだろう。あるがゆえに、考えた末で彼女も行動している。
俺たちの間に軋轢が生じるのは、価値観の差というものがあるせいだ。実際、俺もフユ姉さんに対する考え方に関して譲る気なんてないし。
でもそれではダメだ。自分の思ってるフユ姉さんはこうだからと言い合ったところで、より互いを傷つけあうこと他ならない。
だからわかってもらえなくたっていいんだ。あくまで、キミの焦る気持ちを少しはわかるやつがここに居るんだって、それを頭の片隅にでも置いておいてもらえればそれで。
というわけで、ボーデヴィッヒさんを無視しつつ言いたいことだけ言っておく。だってこれ、下手すると独り言みたいなものだから。
向こうも俺の意図を察しでもしたのか、依然として興味のなさそうな態度で廊下の壁へと背中を預けた。
「別に劣等感がどうのって話でもないんだけど、やっぱり俺の可もなく不可もなくっていうのが浮き彫りになっちゃうっていうか。まぁ本当のことだからどうでもいいんだけど」
冷静になって振り返ってみると、俺は本当にものすごい面子に囲まれて生きているというものだ。基本的にどこぞで名の知れている人ばかり。
それなりに思うところがあるのも嘘じゃない。でもそれは、どうして俺はダメな奴なんだろうって、俺が勝手に思っちゃってるだけのこと。
それこそ俺がみんなに劣ることなんて昔からの話だし、慣れてしまったというのもある。けど、ひとつだけどうしても払拭し切れない想いがあった。
「何が本当に嫌かって、置いて行かれてしまうんじゃないかとかさ、そんなことを考えちゃうんだ」
「…………」
努力が結果に結びつかなくてもいい、というふうに考えるようにはなれたけど、この恐怖に関しては未だ俺の奥底に眠り続けている。
そう、怖いんだ。いつしか、追いつけない遥彼方まで行ってしまうのではないかと考えると。
瞬間、俺の脳裏にはナツの姿が過る。そして、それまで興味がなさそうにしていたボーデヴィッヒさんの肩眉が動いたのを見逃さない。
多分だけど、ボーデヴィッヒさんは俺と同じような恐怖を抱いているんだと思う。俺にとってのナツのように、彼女にとってはフユ姉さんがそうなんだ。
気持ちがわかるだけに、俺は一概にボーデヴィッヒさんを排斥しようとは思えないんだろう。同情、のつもりはないが、きっと彼女はそう感じるに違いない。
でも意外なことに、ボーデヴィッヒさんが激高するような様子はみられない。ならもう少しだけ、このまま続けてみることにしよう。
「だから俺は、あの日差し伸べてくれた手を忘れられない。あれが、今の俺を創り始めた瞬間だから」
「…………」
「けどこうも思う。いつか俺が、そうなれるようになりたいって」
「何……?」
ここにきて、ようやくボーデヴィッヒさんが反応を示してくれた。壁にもたれかかっているのは相変わらずだが、とても怪訝な表情でこちらを観察しているように見える。
単に理解ができないのか、それとも一定の関心を得られたのか。真相のほどは定かではないが、何かしらの興味をもってくれたならそれでいい。
俺はなるべく柔和な雰囲気を心掛け、ボーデヴィッヒさんの方へ向き直りながら言葉を続けた。
「憧れの人みたくなりたいって、その人が自分にしてくれたことを、他の誰かにしてあげられればそれで成立するものだと思うよ。きっとそうやって、大切な何かが脈々と受け継がれていくんじゃないかな」
「教官が、私にしてくれたこと……」
なんて偉そうに言ってるが、俺なんてまだまだなんだけど。ナツのように人助けをしようにも、余計なお世話なんじゃとか考えちゃってさ。
でも、その芯を通す真っ直ぐなところって、フユ姉さん由来なんだと思う。それをナツがしっかり学び、見習い、受け継いだからこそ今のナツがいる。
ボーデヴィッヒさんだって、フユ姉さんの絶対的強さだけに惹かれているわけではないと思う。勝手な推測にはなるけど、あの人なりの不器用な優しさを受けたからこその心酔なはずだ。
つまり、ボーデヴィッヒさんは自身が望む強さを得られる準備はできているということ。それでもナツを責めるのだけは許容できないが、いつでもなりたい自分にはなれるはず。
「……なぜだ」
「なぜって、何が?」
「なぜ血縁でもない貴様の目に、あのお方を感じるのだ……!」
少し迷い戸惑うような表情を垣間見せていたボーデヴィッヒさんだったが、反動をつけて壁から離れるのと同時に、迷いの中にも俺を気に入らんとでも言いたげな成分が混じり始める。
いや、どうやら彼女は悔しいと見た。血の繋がりがあり顔立ちも似ているナツならともかく、どうして赤の他人である俺にフユ姉さんを感じてしまったのだ……と。
それはなんというか、ハハッ……とても光栄なことだな。俺なんかに、俺の中に、いつだってかっこいい姉でいてくれたあの人を感じてくれるなんて。
そうだね、ボーデヴィッヒさんの質問に答えるのならそれは単純明快だ。フユ姉さんが家族だからでも、姉だからでもない。それは――――
「それは多分、フユ姉さんがフユ姉さんだからだよ」
「意味がわからんぞ」
「ハハ、そうだよね。でもこれ以上の説明しようはないんだ。わかるっていうより、感じるって言った方が近いと思うから」
自分でも意味のわからないことを言っている自覚はあるが、やはり的確なツッコミで返されてしまった。
とりわけ、ボーデヴィッヒさんの合理主義ゆえのせいでもあるかも。いや、根本的にドイツ人はそういう傾向があったんだったかな?
どちらにせよ酷なことかも知れないけど、頭でなく心で理解してもらうしかない。投げやりで申し訳なくも思うけど、いくら時間がかかろうと、理解しようとすることが大切なんだろうから。
「これ以上の問答は時間の無駄らしい」
「あ、引き留めちゃってごめん。それじゃボーデヴィッヒさん、また明日」
「…………」
歯痒そうな表情を見るに、意味を理解しようとすることそのものを放棄してはいないようだ。だが、素直にわからないのを認めるのが癪なのか、ボーデヴィッヒさんは踵を返して歩き出してしまった。
どんどん小さくなっていく背中に対してはいらない言葉だったかもしれないが、別れの挨拶をしっかりしてから完全に視認できなくなるまで見送った。
なんとか一石を投じることはできたろうか。同情ではなく共感を得てくれていたら幸いなんだけど。……これ以上は、向こうの出方を見守るしかない。
せめてナツへの攻撃がなくなってくれればいいんだけどな。タゲ取りというか、ヘイト集めのための行動でもあったつもりだし。
これが知れたら、ナツにこっぴどく怒られることだろう。それでもナツ、今回の件に関しては少し張り切らせてもらうからね。
……なんだか気が緩んでしまったのか、一気にお腹が空いてきた。みんなに連絡を入れて、俺は一足先に食堂へ向かうことにしよう。
俺がボーデヴィッヒさんと言葉を交わして以降、特に事件らしい事件は発生せずにとても平和な時間が流れていた。
それは絶対にいいことなのだが、どうも解せないというのが正直なところかな。あのやりとりで、ボーデヴィッヒさんのすべてに決着がついたってことではないから。
そう、仮に表現するなら中途半端という表現が適切かも知れない。それこそ、何も起きてないってことは和解したってわけでもないんだ。
しかし、これ以上の干渉は本当に余計なことだよな。事情からして仲を取り持つなんてのはもっての外。ボーデヴィッヒさん自ら歩み寄ってくれるようになるまでは……だ。
現状からしてできることは限定されるだろうが、すべてが解決していないとなれば頭を悩ませてしまう性分だ。
ここのところ頭を悩ませてばかりで、今日も今日とてウンウンと唸りながら廊下を歩く。……授業合間の休憩で、トイレから教室に戻るまでの間もは流石に考え過ぎだろうか。
「…………ん?」
そんな折に俺の耳に届いたのは、誰かの話声であった。そうヒートアップしているようではなさそうだが、耳を澄ませてみると確かに聞こえてくる。
それはなんというか、困った状況になってしまったかも。位置からして人目を忍んでのことなんだろうから、そこを突っ切っていくのは俺としては胃が痛む所業だぞ。
でもなぁ、わざわざ話が終わるまで待つっていうのも変だと思うんだよなぁ。ちょっと気を遣い過ぎっていうかさ。
……まぁいいか、素知らぬ顔でもしながら歩き続ければさほど興味らしい興味も惹かないでしょ。別になにも見聞きしてないですけど? みたいなノリでいこうじゃないか。
そいうことで今にも口笛を吹きそうな軽快な足取りで曲がり角を進むと、俺の目に飛び込んできたのは早くも自身の判断を恨むことになりそうな光景だった。
(フユ姉さんにボーデヴィッヒさんとか……!)
「……先生、引き留めて申し訳ありませんでした。私はこれで」
「ああ」
向こうも条件反射じみたものだったとは思うんだ。しかし、ボーデヴィッヒさんに一瞬だけ向けられた、お前かみたいな視線に動きがフリーズしてしまう。
だがちょうど話が終わったところだったのか、ボーデヴィッヒさんは長い銀髪をなびかせながら早々に歩き去ってしまう。
それをフユ姉さんが短い返事で見送ったのを合図に、ようやく俺を縛り付けていた緊張はほぐれた。ふぅ、タイミングがいいのやら悪いのやら。
「おい」
「すっ、すみません! 俺もすぐ教室に――――」
「違う、そうじゃない。少し話がしたいだけのことだ」
胸をなでおろしていると声をかけられたため、てっきりお前もとっとと教室に戻れということでも言われるのかと思っていた。
だからこそ初手謝罪安定な俺として先読みのつもりで謝ったのだが、どうやらフユ姉さんは俺と話したいことがあるようだ。
もしかしなくてもボーデヴィッヒさん絡みのことなんだろうけど、やはりフユ姉さんとしても思うところがあるのだろうか。
「あいつのことで苦労しているようだな」
「確かに難しい問題ですけど、別に苦労ってことはないですよ」
「日向のは信用ならん。お前は苦労を苦労と思わんだろうが」
ボーデヴィッヒさんのことは俺がやりたくてやってるわけで、もし嫌ならそれこそ積極的に関わろうとも思わなかったろう。
それこそ彼女がただの傍若無人なだけなら軽蔑すら感じていたろうから、フユ姉さんの苦労を苦労と思わないというのは違うような?
「苦労をかけて申し訳ないと思う反面、嬉しくも思う私が居るのが憎らしいよ」
「嬉しく? 何をです」
「お前があのような気難しいのと、妹のことを気にかけてくれていることだ」
フユ姉さんが言おうとせんとしているのは、かつての俺なら二人の問題に首を突っ込もうとすらしなかったはずだという意味かな。つまり、俺が成長していると。
うん、まぁ、肯定半分、そして否定半分くらいで受け取らせてもらうことにしよう。俺の成長かはさておいて、確かに当てはまる部分があるのは合っている。
多分、部外者の俺が関わるべきことじゃないくらいのことは思ってたんじゃないだろうか。そう思えばなんとも情けない話である。
なんというか、今は部外者云々じゃなくて、もっと違うことを感じている。それは、いつの間にか俺の信念ともとれる想いに昇華した――――
「敵ではないですから」
「何?」
「ボーデヴィッヒさんは、織斑先生が言ったような敵ではないですから。例え、どれだけ乱暴だとしても」
そう、ボーデヴィッヒさんは敵ではない。俺たちと同じ年に生まれ、同じ学年に集ったクラスメイトなのだ。だから敵ではない。
俺は未だに敵じゃない人は本気で
言ってしまえばそれこそが敵だ。この間の無人機とか、もしかしたら交戦する可能性があるかも知れないテロリストとか。
その観点からしてもボーデヴィッヒさんは敵じゃないということになる。殺したいくらいの気はあるのかもだが、殺すことが目的ではないようだから。
で、相手が敵じゃないのなら、俺にはどうしても譲れないものがある――――というか、最近できた。それは、父さんとフユ姉さんが俺のある部分を誇りと言ってくれたから。
「相手がどんな人であっても、友達になろうとする気持ちを諦めたくはないんです。例え僕の気持ちが何百回裏切られたって」
人なんて十人十色で千差万別。例え生まれや人種が同じだろうといざこざが起きるのが常で、それが現実だというものなんだろう。
けど、それでも、諦めたくはない。諦めたくなくなった。僕は信じることにしたんだ。二人が誇りだと言ってくれた、僕の優しさというものを。
……まぁ、こうやって言ってしまうと上から目線っぽくて嫌なんだけど、ともかく僕の気持ちだけは本物だ。絶対にボーデヴィッヒさんとだって友達になれると信じている。
当初はすさまじく利己的な女性とも思ったりはしたけど、ちょっと触れてみただけで少し寂しがり屋な部分が暴走してしまっているとわかったんだ。
それだけでただの悪い子じゃないとわかったんだ。もっと彼女に触れることができれば、もっと彼女の善い部分を知ることができるだろう。
「……ハッ」
「いっつ……。な、生意気でした?」
「そうでもあるが、それが全部じゃないぞ。まぁ、いいんじゃないか。お前らしくてな」
フユ姉さんはクールな笑みを浮かべると、まるでドアでもノックするかのように、割と強めの力で俺の胸を叩いた。
小さな呻き声を漏らして受けたダメージを実感するのと同時に、なんだか頭が冴えてかなり恥ずかしい発言だったのではと思い知らされる。
俺の胸を叩いたのも生意気なことを言いおってみたいな意味かと思ったんだが、どうやらそれだけではないそうな。むむ、なんだか今日のフユ姉さんは読みづらい。
「すまん、余計な時間を取らせてしまった。何か用事があるなら走って構わん。私が許可する」
「後は教室に戻るだけなので大丈夫だと思います。織斑先生、失礼します」
「ああ」
この学園において、フユ姉さんの許可するという言葉ほど重い権限はないような気がする。内容は遅刻するか否かだけというのに、とんだ全能感を得たかのようだ。
だけど時間にはまだ余裕がある。ゆっくり歩いても絶対に間に合うと断言できるので、そうお気遣いなくと前置きしてから別れの挨拶を交わした。
誰に対してもそうなのはわかっていたが、フユ姉さんはボーデヴィッヒさんの時と全く同じリアクションを俺に寄越した。本当にクールビューティーという言葉がよく似合う女性である。
さて、ならばそろそろ頭を授業モードに切り替えることにしよう。え~っと、次は何の授業だったんだっけかな。
「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが、何百回裏切られようと。 それが私の最後の願いだ」――――ウルトラマンA 第52話 明日のエースは君だ! より
本編中に登場している晴人の台詞は、上記の名言の超簡略化版みたいなものです。
本当に大好きな言葉でして、私としても信条としているほどなんですよ。
晴人に言わせたかった台詞堂々のナンバーワン。というわけでぶち込ませていただきました。