そして珍しくも全編一夏ちゃん視点。私が知る限りはたぶん初ですね。
次があるかは未定ですが、試験的なものだとでも思うことにしましょう。
以下、評価していただいた方をご紹介。
月とミジンコ様 爆弾様
評価していただきありがとうございました。
ハルがボーデヴィッヒさんに対して何をしたのだとか、何を言ったのだとかは詳しく知らないけど、あれから私が襲われるようなことはなかった。
けど完全な説得に成功したわけでもないのか、ボーデヴィッヒさんに視線を合わせると睨まれたり威嚇されたりはするんだよね。
こっちとしては仲良くなりたいんだけど、今の段階では難しいみたい。むしろ軽率な行動は、即関係悪化につながってしまうだろう。
でもやっぱりボーデヴィッヒさんの意識が変わらないことには戦うつもりはないし、何かいい方法はないのかなぁ。
なんて頭を悩ませながら廊下を歩く。ここのところはハルと二人してずっとこんな調子だ。……あれ、ハルはそこまで悩まなくてもいいような?
「織斑先生!」
すると、千冬姉を呼び止めるような声が曲がり角の先から聞こえた。
この凛々しくも可愛らしさが感じられるこの声、どうやらボーデヴィッヒさんが正体のようだ。千冬姉になんの用事なんだろ。
いけないとは思いつつも、ボーデヴィッヒさんの本質を知るためのチャンスになるのではという考えが頭をよぎる。
よって、私は廊下の壁へと思いきり背中を張り付け、なるべくコンパクトになるよう意識しながら聞き耳を立てた。
千冬姉相手では間違っても少しだろうと顔を出すわけにはいかない。あの人の五感及び第六感の発達っぷりは異常なのだから、下手すると現段階でもバレている可能性は十分に考えられる。
少しでもリスクを減らそうということなんだけど、意味があれば幸いといったところだろうか。
「どうした。個人的な話でなければ聞いてやろう」
「恐縮ですが、とてつもなく個人的な要件です。しかし――――」
「ああ、わかったわかった。話してみろ」
「……ありがとうございます」
千冬姉はボーデヴィッヒさんの考えがある程度は読めていたのか、まるで先手を潰すかのように、事務的だったり勉学的な質問であれば聞くと言い放った。
そこを譲るわけにはいかないのか、ボーデヴィッヒさんも食い下がる。普段ならなんと命知らずなと思うけど、それだけ切羽詰まっていることの現れなのかも、とも思った。
お互い折れずに意地を張り続けるのは不毛と判断したのか、千冬姉は割と投げやりな様子でボーデヴィッヒさんの要求を許可。
それに対してボーデヴィッヒさんは、軍人然とした態度をまるで崩さず自らの質問を述べた。
「いくら考えようと、わからないことが二つほど」
「それは?」
「戦いと模擬戦とは違うという言葉。そして、貴女が貴女だからこそなのだということです」
「前者はいいとして、後者はまるで意味がわからん。誰にどういう状況で言われた」
千冬姉が千冬姉だからという言葉を受けてか、千冬姉は訝しむような表情をしながら腕を組んでみせた。
もっと詳しくという指示を受けるとボーデヴィッヒさんは敬礼をし、それから聞かれたとおりのことを答え始める。
どうやら発言者はハルのようで、ボーデヴィッヒさんはハルの目に千冬姉を感じたらしい。なぜだと聞けば、そういう回答が返ってきたとのこと。
う~ん、確かにわかりづらくはあるけど、なんとなくハルの言いたいことはわかる。わかるだけに、なんとも説明が困難であるということへ同意せざるを得ない。
「そうか、あいつがそんなことを」
「ええ、嫌に自信満々に」
「ハッ、馬鹿者めが」
あ、あれ嬉しい奴だ。今の千冬姉、絶対喜んだ。なんだかんだ言いつつ、千冬姉はハルのこと大好きだからなぁ。もちろん、姉としてという意味ですけど。むしろそれ以外だと困るんですけど。
喜ぶって言ったって露骨じゃない――――というか、近しい人間にしか絶対に見破れない程のものだ。むしろ不機嫌にも見える。
けどボーデヴィッヒさんは看破できているのか、少しばかり不満そうな視線を千冬姉に対して送り始める。
そんな視線を感じてか、千冬姉は気を取り直すかのように表情を引き締めにかかった。次の瞬間には、いつもの千冬姉の完成だ。
「で、戦いがどうのは織斑か」
「はい」
「ふむ。まぁ、わかるわからんの問題だろ。お前自身も気づいているのではないか、わかろうとしていないだけなのだとな」
「…………」
私やハルの言葉を真剣に考えてくれているのだと思えばとても嬉しいことだが、押し売りをするつもりはなかったので、悩ませてしまっているという事実に申し訳なさも感じる。
それゆえ千冬姉へと質問をしにきたんだろうけど、どうにも雲行きが怪しくなり始めてしまったかも。そうか、もしかするとボーデヴィッヒさんは……。
すべてを見抜かれていると悟ったのか、ボーデヴィッヒさんは歯を食いしばりながら苦い表情へと変わっていった。
そして、まるで絞り出すかのように想いを紡いでいく。
「……そんなことをしては、貴女が貴女でなくなってしまう」
「酷なことを言うようになるが……。お前の勝手なイメージを私に押し付けるな」
「っ……!?」
きっとボーデヴィッヒさんは、否定してほしかったんだと思う。私たちが千冬姉を知っているからこそ出た、千冬姉から受け継いだ意思を示す言葉を。
戦いと模擬戦? そんなものなんら変わらん。私の感覚が血縁でもないものに宿る? さて、何かの気のせいだろ。……そう言ってほしかったんだと思う。すべては、自らの中で生きる千冬姉を壊さないために。
そんなボーデヴィッヒさんの考えを見透しているからこそだろうが、千冬姉は完全に彼女を突き放しにかかる言葉を投げかけた。
向こうもそれが親心のようなものだと理解はできているようだが、とてつもない不安が瞳に宿っているのがひと目でわかる。
「答えを見出してみせろ」
「はっ……?」
「少しは思うところがあったんだろう。だから私を訪ねてきた。ならば思うまま、感じるままに答えを見いだせ。お前の理解が到底及ばん、馬鹿二人の言葉の真意をな。それができれば、もはやお前に私なんぞは不要のはずだ」
「それは、課題と考えればよろしいのでしょうか」
「さあな、好きに受け取れ」
ただただ厳しい鬼軍曹と思われがちな千冬姉だが、それだけの人じゃない。もしそうだとするなら、表舞台から姿を消した今でも慕う者なんていなかったはずだから。
馬鹿は余計だけど、突き放しつつも私たちの言葉をもっとしっかり考えてもらうことに成功しているあたり、飴と鞭が上手いっていうのもあるんだろうなぁ……。
顔つきを陰らせていたボーデヴィッヒさんだったが、どんどんいつもの凛々しい様子に戻っていく。きっと、期待に応えねばと気合が入ったのだろう。
なにはともあれ、千冬姉とボーデヴィッヒさんまで微妙な空気になるようなことがなくてなにより。じゃあ、そろそろ出歯亀は止めて私も用事を済ませに――――
なんて退散しようとしていた矢先のことだ。廊下の向こう側の曲がり角から突如としてハルが現れるではないか。
しかもそのまま通り過ぎればいいものを、気まずさのせいかフリーズしているご様子。えっと、これ、助けに入ったほうがいいのかな!?
「…………」
(あぁ、これ完全にバレてますねぇ)
現状私ないし、ハルとボーデヴィッヒさんの組み合わせはよろしくない。だから引っ張ってでも連れて行こうと思ったんだけど、ふと千冬姉を見ればあら不思議。腕組で隠して、さりげなく私を手で制しているではないか。
やっぱり無謀な挑戦だったのか、このぶんならきっと私が隠密を始めた時点で気づかれていたんだろう。……そう思うとなんか恥ずかしい。
とりあえず姉のまぁ待てという指示に従って二人を見守るものの、ボーデヴィッヒさんはすぐ千冬姉へお礼を言って去ってしまった。
杞憂、だったのかな? だとすると、少しボーデヴィッヒさんに失礼な考えだったかも。してお姉さま、私はいつまでこうしていれば?
こそこそしながらそんな視線を送ってみるも、千冬姉は自らハルへと声をかける。どうやらまだ見ていろってことらしい。
「あいつのことで苦労しているようだな」
「確かに難しい問題ですけど、別に苦労ってことはないですよ」
「日向のは信用ならん。お前は苦労を苦労と思わんだろうが」
うんうん、人のためになると一気に無理の上限突破しちゃうのがハルの悪い癖だよねー。確かにそこが美点でもあるんだけど。
そうやってまるで会話に参加しているかのように相槌をうったりしているが、千冬姉はどういう意図で私に隠れていろという指示したんだろ。
なんなら出て行って、それこそ会話に混ざったって不自然ではなかったはず。黙って見ていれば、何か面白いことでも起きるのかな。
そのまま見守り続けていると、ハルはボーデヴィッヒさんを敵ではないと前置きしてから――――
「相手がどんな人であっても、友達になろうとする気持ちを諦めたくはないんです。例え僕の気持ちが何百回裏切られたって」
(っ~~~~!?)
千冬姉がわざわざ私を見守らせたのはこのためなんだろうか。だとすると趣味の悪い。私が見ているのを知りつつ、私が悶絶しそうなセリフを誘発するなんて。
今のはかっこいい。多分だけど、贔屓目なしにそこらの女子もちょっとはドキッとするくらいには。
普通の女子がそうなら私にとってはクリティカルヒットなわけで、私は顔から火が出るという比喩を己が身で体感したかのような気分だった。
思わず両手で口元を隠し、まともに立ってはいられずフラフラと力なく廊下の床へとへたり込む。
きっと千冬姉は今私がこうなっているのもおみとおしで、それを想像して内心意地の悪い笑みでも浮かべているんだろう。ああ、本当に趣味の悪い。
でも、かっこいいよぉ……。かっこよかったよぉ……。あぅ、ダメだ、胸キュンが強すぎてちょっと涙が……。
「すまん、余計な時間を取らせてしまった。何か用事があるなら走って構わん。私が許可する」
「後は教室に戻るだけなので大丈夫だと思います。織斑先生、失礼します」
「ああ」
私が悶絶している間にも、どうやらハルは去ってしまったようだ。となると、これからしばらく地獄が続く。
う~……は、早く体勢を立て直すんだ私! さっきのハルは私の脳内メモリーにしっかりと刻み込んでおくとして、急がないと千冬姉のイジリが始まっちゃう。
「それで、愛しの王子様が奔走してくれている気分はどうだ、お姫様?」
「べ、別に私はそんなガラじゃないもん! というか、やっぱり気づいてるし!」
この姉上、いきなりぶちかましてくれる。ハルも私もそういうのが似合う性質ではないんですー! ……って、アレ? あ、ごめんハル、なんかさりげなく貶しちゃったけど、別にそんな性質じゃなくても大好きだから安心してね。
私が敬語も忘れて騒ぎ立てながら不満を述べるも、千冬姉はハッハッハと豪快な高笑いをするばかりでまともに取り合ってはくれない。
……ん? ちょっと待って、今のやり取りって何かおかしくないかな。王子様どうこう以前に、愛しの? ……おかしいな、確か私って――――
ミスリードというか、千冬姉の言葉に対する引っ掛かりを理解した途端、一気に思考回路が混沌としていくのがわかる。
私は恐る恐るながら、千冬姉に抱いた疑問を問いかけた。
「あ、あのさ千冬姉。私、千冬姉にハルを好きなこと、話してないよね」
「馬鹿かお前は。アレで隠している気なら、今すぐ演技のイロハでも習ってこい」
「私が言いたいのはそういうのじゃなくて! えっと、だって……」
「認められることはない、とでも?」
サラッとばれているのはこの際置いておくとして、私が言いたいのは千冬姉の言葉どおり。
話さなかったのではなくて、話せなかった。だって、てっきりハルへの想いを否定されてしまうかと思っていたから。
個人的な迷いや後ろめたさは振り切った。他人の意見にもあまり聞く耳を持つ気もなくなった。けど、血縁相手となるとそうもいかないだろう。それが、唯一のとしたらなおのこと。
何かしらの衝突は生まれるだろうと思っていただけに、その反動のせいか私はいまいちどうリアクションを取っていいのかわからない。
まるでハルみたくオロオロする私を見てか、千冬姉はクールな笑みを見せ、そっと私の頭に手を置いた。
「おかしいな。私の記憶違いでなければ、私には弟分一人と――――実の妹しかいなかったはずだが」
「っ!?」
千冬姉の目をジッと覗き込むと、その目が全てを語っていた。目は口ほどにものを言う、とはこのことだろう。何も心配することはないと、千冬姉の目が物語っているんだ。
だがあまりにも現実味がなさすぎるせいか、私はしばしの茫然としてしまう。すると向こうも恥ずかしくなったのか、なんだその腑抜けた顔はという声が聞こえたかと思えば、頭にものすごい衝撃が走った。
痛みに耐えつつ目線を上げてみると、千冬姉は手刀を構えている。となると、チョップか。本当に頭が真っ二つになるかと……。
「ただし、必ずモノにしろよ。私はアイツ以外を義弟に迎える気はないぞ」
「うん、任せて。絶対に振り向かせてみせるから!」
なんだかんだで、千冬姉もやっぱりハルを気に入ってるのがよくわかる言葉だった。
それでも普段から堂々としていられれば100点とかなんだろうけど、長く付き合ったからこそハルのよさはしっかり理解してくれているのかな。
いや、むしろ年さえ近ければ惚れていたかも。くらいのことはあったりして? 8歳の差があるから弟っていう認識が出来上がってる感じ?
ともあれ、千冬姉にこうまで言われてしまってはもう後には退けないね。もともと退くつもりもないけど、これからはもっと自信をもってハルと接することができるような気がした。
「大人の事情、ってやつかなぁ」
掲示板に表示されている【学園別トーナメントにおける試合形式の変更について】という文字を見ていると、なんとなくそう呟かずにいられなかった。
昨日緊急の委員会があって向かい、された話がタッグマッチ形式への変更が入ったという報せ。なんでも運営委員会のお達しだとか。
っていうかタイムリーだよね、この間の授業千冬姉がでタッグの話に触れてたし。もしや知っていた……っていうことはなさそうかな、うん。
千冬姉は実績のおかげか委員会とかでも教師代表の議長とかをするんだけど、心底からうんざりしてたというか、かなり機嫌悪そうだったもん。
千冬姉がいてなおゴリ押してくる運営委員会もなかなかやるね。そんな妙な関心を覚えつつ、私は掲示板の前を離れた。
(さて、私は誰と組もう?)
なんて、初めからハル一択だから白々しい自問なんだけどね。
いやいや、何も好きだからってだけじゃないんですよ? もちろん、戦略的な面からしてもハルをパートナーにしたい。
ヘイムダルの
それにつけて私と白式には一撃必殺の一振り、零落白夜がある。
高威力の代替としてエネルギーの大量使用があり、諸刃の剣的な弱点も存在するのだけれど、その点についても
(……思った以上にえげつないかも)
もともと相性のいいという認識はあったけれど、考えれば考えるほどそれはえげつないと表現するほうが似つかわしく感じられていた。
ま、まぁ、弱点を補いあえる素敵な相性だと前向きにとらえることにしよう。それにハルとヘイムダルは防御一辺倒ってことでもないのだから。
それにしても、根本的な問題として、ハルは私の申し出にイエスを返してくれるだろうか。もしかするとシャルルと組んだりしてとかも思ってるんだけど。表向きとはいえ男子同士なわけだしねぇ。
それにタッグ形式の話が出てから、何気に女子たちの間でも二人のタッグを望むような声もあったくらい。なんでだろ、他では絶対に見られないからとか?
声はかけてみるとして、どんな理由であっても断られたのなら大人しく引き下がることにしよう。やるなら勝ちたいけど、そこまでガッチガチでいかなくてもどうにかなるって。
ハル以外の私と組んでくれる可能性のある戦友たちを思い浮かべながら歩を進めることしばらく、一組の教室が見えてきたのだけれど。なんだろう、見えるけど見えないという矛盾した考えが沸いてしまう。
「あ、あの~! みんな、とりあえず落ち着いて!」
ハルが必死に宥めているのは、とにかく女子たちの群れ、群れ、群れだった。誰かが取り囲まれているのは容易に想像がつく。
ふむふむ、ハルは弾き出されていて、誰かが女子に取り囲まれている――――となると、状況は大体読めてきた。ズバリ、取り囲まれているのはシャルルだ。
おおかた、タッグマッチ形式になったのを知って女子たちが一斉に詰め寄ってきたっていうことなんだろう。
う~ん、女の子なのに女子にモテる心情はいかほどだろう。確かに事実を知るまでは美少年にしか見えなかったし、仕方ないと言えばそうなのかな。
考察はそれくらいにして、さっさと助けてしまうことにしよう。私はそこらを右往左往しているハルに、そっと近づいた。
「あっ、ナツ、いいところに! その、見ての通りシャルルが――――」
「大丈夫、わかってる。ハル、こういう時には魔法の言葉があるんだよ」
「ま、魔法?」
「うん、魔法。――――織斑先生、おはようございまーす」
「「「「おはようございまーす!」」」」
私が虚空へ向けてわざとらしくお辞儀しながらそう口にしてみると、それまでシャルルを取り囲んでいた女子たちは、一気に道を開けて深々とお辞儀の体制をとった。
もちろんだけど、千冬姉はまだ姿を見せていない。しかし、その恐ろしさを思い知らされたせいか、条件反射とかそういう次元を超え、その名が耳に入った途端に身体が動いてしまうのだろう。
私が思っていた数倍は効果覿面だったわけだけど、今ならシャルルが逃げるのも易い。
「ほらシャルル、今のうち」
「うん、織斑さんありがとう!」
「とりあえず、ほとぼりが冷めるまではこの場を離れよう」
「ハルに賛成!」
何の気ない感じでシャルルに手招きすると、向こうもあまりの変わり身の早さに驚愕していたのか、数秒遅れて輪の中心を脱した。
シャルルがこちらへ駆け寄った時にはもう手遅れなわけで。ハルの提案に乗って逃げの一手に出ているのだから、もはや安全は確保されたも同然だ。
遅刻しないよう一組を射程圏内にとらえつつ、廊下の死角に身を潜めつつ息を整える。だが、こちらを追ってくる様子も捜索する様子も見受けられない。
「これなら平気そうだね」
「本当にナツが来てくれてよかったよ。それよりシャルル、ごめん、ちょっと迂闊が過ぎた」
「さっきのハルが原因ってこと? なんで?」
「ううん、原因ってほど大したことじゃないよ! 織斑さん、実はね――――」
二人にもう大丈夫そうだよと安堵の表情を向けてみると、私とは対照的にハルは眉間にしわを寄せ、自らを責めるかのようにシャルルへと謝罪を述べた。
ハルの何かしら迂闊な行動によって、さっきの取り囲み事件が発生したみたいなニュアンスみたいだけど、どうして事の発端がハルってことになるんだろう。
私の想像が及ばない範囲だったために首を傾げると、シャルルはハルを庇うというか、フォローするかのように何が起きたかあらましを説明し始める。
なんでも二人で歩いていると、話の流れがタッグトーナメントの話になったとか。その流れからハルはその場で、つまり、多くの女子の目と耳がある場でこう言ったそうな。
――――ごめん。俺、どうしても組みたい人が居るんだけ。と……。
「それに対して僕が――――そういうことなら仕方ないよ、僕はくじで当たった人と組むから気にしないで……って返した途端に一気にああなっちゃって」
「一年のみんな、普通に俺とシャルルが組むって思ってたみたいでさ。だから、タガが外れて余計にヒートアップしちゃったんじゃないかな」
「そっか、そういう。うーん、ここの女子はみんなパワフルだねぇ」
壁に耳あり障子に目ありとはよく言ったもので、二人が組む気がないとわかった途端にあれとは。元男の身としてはよくわからない心理だ。
それはそれとして、ハルがシャルルとのタッグを蹴ってまで組みたい相手がいるというのは意外なものだ。いつものように、組む相手が見つかればそれでいいや。くらいな感じと思っていたのに。
……聞いてもいいやつなのかな。もちろん、誰と組みたいと思っているかってことだけど。もし私以外の名前が出たらちょっとショックかも。
断られるだけなら別にそれまでだよ。けど、どうしても組みたい人となったら話が変わってくる。う~ん、ちょっと迷う……なんて思っていると
「ナツ、そういうわけだから、俺と組んでくれないかな」
「……へ? どうしても組みたいって、私と?」
「そりゃ、まぁ、ね。というか、キミ以外に誰が居るっていうんだよ」
私の迷いをまるで知らない呑気な様子で、ハルはタッグの結成を申し込んできた。いやいや、そういうわけじゃないよ、どういうわけなの。
いや、待って、違うの、少しいきなりで受け止めきれないだけだ。だって、戦略的価値での申し込みじゃないのが一目瞭然なんだもん。
ハルは一個人としての私を必要としてくれている。それがちょっぴり私を混乱させているだけだ。落ち着け、嬉しいけど落ち着いて。
「で、できれば理由が聞きたいかな~なんて」
「ほら、ナツがこの間ボーデヴィッヒさんに言ってたアレ。戦いと試合は違うってさ。ナツの言いたいことは、俺も理解してるつもりだよ。けどというか、だからこそ――――」
「……あの子との決着を、ってこと?」
「そういうことかな。なんにせよ、彼女に立ち向かうなら俺とナツがベストだと思うんだ。因縁がある、って点は間違いないからさ」
口角が吊り上がってしまいそうなのをなんとか堪えながら、どうして私を相棒としようとするのか、その詳細を問いかけた。すると、話は以前に起きたアリーナでのひと悶着まで遡る。
ハルは何もわからせてやろう、思い知らせてやろうということはないが、だからこそ私たち二人がボーデヴィッヒさんに立ちふさがらねばならないという思いを抱いているようだ。
使命感とかそんなんじゃなく、ハルがそうしたいからこその提案なんだよね。……うん、だったら、ハルの想いを無駄にするようなことがあってはならないと思う。
最初から答えは決まっていたようなものだけど、理由をちゃんと聞いて腑に落ちたというもの。私は力強く頷いてみせた。
「そうだね、ハルの言うとおりだと思う。必ず勝とう、ハルと私で」
「ナツ、ありがとう。それじゃ、改めてよろしく」
もとよりハルに求められた時点で断る理由はないものの、しっかりとしたわけがあるのなら余計に私たちの信頼が大きくなるのを感じた。
やっぱり性別が変わろうと、ハルとのこういうのはいいものだ。なんていうか、燃える感じっていうか、熱いって感じというか。
恋慕を向けてもらうことばかり考えていたけれど、私たちを繋ぐ確かな友情に心が躍る。男だった時なら、よっしゃあ! とでも叫んで気合を入れていたのだろう。
「僕、もしかして邪魔だった?」
「え? わっ、シャルル。ごめん、別にそういうつもりじゃなかったんだ」
「いやいや、拗ねてるわけではないけど、割と心からの感想のつもりで……」
私たちが握手を交わしていると、非常に困ったような声色でシャルルが自身がこの場に留まり続けていることに罪悪感があるかのような発言が飛び出た。
すぐさまフォローを入れようとしたが、こういう時にはハルが異様なまでの反射速度をみせるため、私の出番は回ってこなかった。
代わりに同意の意味を込めて首を何度か縦に振るも、シャルルはいまいち納得のいってないような反応を示す。そんなに遠慮してくれなくてもいいのに。
「それよりほら、そろそろ戻らないとまずいかも」
「ああ、本当だ。みんな落ち着いてくれてるといいんだけど」
「どのみち今日はみんなに迷惑をかけそうだね……。授業中に適当な断る理由を考えておくよ」
なんとなく話題をそらす目的でそう言ってみると、ハルは携帯で時間を確認しつつ、どこか遠い目で一組の教室の方向を眺めた。
ただハッスルしていようがいまいが、遅刻を取られる前に戻らねばならないのが学生の性。どうにかこうにか頑張るしかない。
という共通認識のもと、野に放たれた草食動物の気分を味わいながら歩を進めていく。そして教室に戻ったところ、大半の女子の目がなんとなくギラついていたのは、残念なことに気のせいではないのだろう。
というわけでして、実は全部見てた一夏ちゃんでした。
加えて、ちょっとかっこいい台詞も実は誘導されていたという。
ですが地味に晴人の行動によって、セシリア&鈴襲撃が発生してないんですよね。
そこのところは素直に誉めてあげたいところであります。