どうにも昨今の幼馴染は負けヒロインみたいな風潮が不服でなりません。
なのでこの作品は二人が幼馴染であることをドンドン推していこうかと、ええ。
それはさておきお気に入り登録していただいた皆様、今更ながら謝辞のほどを。
誠にありがとうございます。単純にモチベーションに繋がるので本当に嬉しいです。
できれば感想や評価なんかもいただけたらもっと嬉しいです(クレクレ厨並感)
「ねぇねぇハル」
「ん、どうしたの?」
「クラス替え、どうなるかな」
「さぁ、こればっかりはなんとも。どういう基準で決めてるか全く想像つかないよね」
厳しい寒さも終わりを告げ、新しい命が芽吹き始める頃。つまり春を迎えた俺たちは、中学三年生へと進級して初めての登校に胸を躍らせていた。
ふとナツが訪ねて来たのはクラス替えについてであり、少し回答に困る質問ではあったが思ったことをそのまま述べておく。
俺とナツは中一、中二と同じクラスだった。このまま三年目も同じなのならばなにも言うことはないのだけれど。
まぁ、もし違ったとしても本当にこればかりはどうしようもないだろう。俺だってワガママ言わないとならないほどナツにベッタリしてるつもりはない。
「おっす、おはようさん」
「うん、おはよう弾。蘭ちゃんも」
「一夏さん、晴人さん、おはようございます」
「二人とも、おはよう!」
通学路を歩くことしばらく、途中で俺たちに合流してくる影が二つほど。紅蓮と称することができるような真っ赤な髪色が目を引く兄妹――――五反田 弾に五反田 蘭ちゃん。
弾は俺たちの悪友その1であり、いろいろと引き起こすトラブルに巻き込まれるのが常だ。もう一人の悪友含めて四馬鹿呼ばわりされるのが不服でしかない。これについてはナツも同感だと言っていた。
まぁそれを抜き差ししても普通にいい奴であり、どこか江戸っ子気質も持ち合わせているために頼りになるような一面も。
そんな一面だが、モテたいという思春期特有の願望丸出しであまり周知してはもらえないというね。残念なイケメンとはこのことか。
「あ~あ、私も皆と一緒の世代がよかったなぁ」
「なんだよ、その唐突な無いものねだりは」
「あ、むしろお兄と私の学年が逆なら最高かも」
「そうであって欲しかった」
「お~い晴人~? 聞こえてるからな~」
「痛い痛い! ご、ごめんって!」
弾と一歳差の妹である蘭ちゃんは、一人だけ学年が違うのを残念に思っている節があるようだ。弾の友達、つまりは俺たちに囲まれる機会も多いからかな。
弾と蘭ちゃんは仲良く喧嘩しな系統の兄妹に属する。妹の願望に対する兄の言葉としては辛辣に取れるが、蘭ちゃんも負けじと弾をスルーしながら話を進めていった。
その際に蘭ちゃんが呟いた何気ない提案を肯定してしまい、弾にヘッドロックのような体勢で捕まってしまう。
ギリギリと頭が圧迫されるような痛みに耐えながら謝罪、それに付け加えて弾の腕をタップしたら思ったよりアッサリ解放してくれた。
でも痛いには痛い……。頭がクラクラするような気が……。
「ハル、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよこれくらい。いつものことじゃないか」
「それもそうだけど、心配なのは心配なんですっ」
「今日も熱いねぇ、お二人さん」
「だっ……!? ……から、俺たちをそういうので弄るのは止めてくれって――――っひぃ!」
「ハル?」
「な、なんでも、なんでもないから」
小声で痛いと呟きながらこめかみあたりを触っていると、俺の顔を覗き込みながらナツが心配するように声をかけてきた。
特にやせ我慢ということもなく大丈夫だと告げると、それでも俺が心配なんだとか。そこまで貧弱なつもりはないぞ。
するとそんな俺たちのやり取りを見てか、弾は露骨に顔をニヤニヤさせながら余計なひとことを放ってくる。
ナツが女の子になってからというもの、弾とアイツとしては俺たちをそう弄るのが鉄板ネタとなってきているらしい。
ナツは素っ頓狂な表情を浮かべるばかりだが、俺はどうしても照れを交えて否定してしまう。それが余計に彼らを楽しませる、なんていうことはわかっているつもりなんだが。
なんて考えていたその時である。俺は背中に射殺すつもりなのではないかというほどの視線を感じた。犯人は目を向けなくてもわかる。だって蘭ちゃん以外にいないのだから。
「晴人さん晴人さん」
「ど、どうしたの?」
「本っ当になにもないんですよね」
「な、ないってば。その、一方的に俺が照れてるだけで」
きっかけは詳しく知らないけど、蘭ちゃんはナツに恋慕を抱いていた。好きだった男性が女性になって現れるなんて、それは混乱もするだろう。
悪友含めたいつものメンバーにナツが女の子になったことを報告して以降、蘭ちゃんのやり場のない気持ちの矛先は俺へと向いている。
男子同士のやりとりであれば仲良しで済まされるんだろうが、ナツが表面上で女の子してるからそれ以上の関係であることを想像してしまうのかな。
というか、それこそナツが復学してからしばらくは男子連中の嫉妬がすさまじくて大変だった。まだ蘭ちゃんの心配は可愛いほうだと思う。
別に直接的被害にはあってないし、精神ダメージなら別に耐えるのとか得意だし……。
「お~い! おいおいおい!」
「あ、数馬だ」
「なんで前からやって来るんだよ」
内心で溜息を吐きながら三人の背を追うように歩いていると、前方から快活な声が響いて俺たちを呼び止めた。
どうやら悪友その2が接近しているらしい。彼の名前は御手洗 数馬。背格好等含めて普通にイケメンの部類ながら、弾を超える残念っぷりを有する男である。
数馬の家の所在地からして、どう足掻いても合流するのは学校に到着してからになるはずだ。なのにこうして前からやって来る……ということは?
つまり学校に着いてからわざわざ俺たちの通学路を遡って来たとしか考えられない。よほど大きなニュースでもあったのだろうか。
数馬の呼吸が整うのを待って何ごとだと問いかけると、彼はサムズアップをこちらへ向け――――
「俺たちみんな同じクラスだった!」
「それ言う為にわざわざ?」
「馬鹿だろ」
「オメーには言われたくねぇっつの!」
「まぁ、数馬だけずっと違うクラスだったしね。みんな揃って俺は嬉しいけど」
「流石は晴人、話がわかる奴だぜぃ!」
四馬鹿と呼ばれる程度には仲の良い俺たちなわけだが、どうしてか数馬だけ同じクラスになることはなかった。
先に学校へ着いてクラスを確認したところ、ようやく数馬の念願が叶っていたというところか。それなら報告したくなる気持ちもわかるかな。
けど二人の反応は冷たいもので、弾なんかはストレートに馬鹿と評価を下した。残念ながら、馬鹿と言いたくなる気持ちもわからなくもない。
けどせっかく勢ぞろいしたのなら、細かいことは言いっこなしだ。数馬がいじけないうちに話を纏めようとすると、俺の言葉に感動したと腕を肩に回してきた。
「蘭ちゃんも仲いい友達と一緒だといいな!」
「本当にそうですね。って、そう言われるとなんか緊張してきたかも……!」
ぶっちゃけた話、数馬はあらゆる点において一級品のお馬鹿さんだ。迷惑被る言動も多々あれど、蘭ちゃんに投げかけた屈託のない言葉がその性格を物語っている。
なんというか、憎めない奴と表現すればいいんだろうか。どうして仲良くなったかいまいち経緯を思い出せないが、そのあたりも数馬の人のよさが成しえるに違いない。
悪友だのなんだの言ってはいるが、まぁ、二人と友人関係を築けたことは本当に幸運だと思う。直接伝えたら絶対につけあがるから言わないけどね……。
「お前よぉ、そんなに心配すんなっての」
「んー……? 何が?」
「何がって、一夏ばっか見てて説得力ねぇぞ?」
授業合間の休み時間、弾が俺の頭を軽く小突きながらそう告げる。俺はそれをボーっとした様子で聞いていたが、数馬にそう指摘されて一気に意識を覚醒させた。
そう、俺の視線の先にはナツが居た。とりあえず席は出席番号の並びなため、位置はかなりかけ離れている。
ナツもナツでクラスメイトの女子と楽しそうに談笑しており、こちらの視線に気づくことはなさそうだ。
「……そりゃ、心配するでしょ。だってナツは――――」
「元々は男ってか」
「まぁ確かに、最初の頃はアビキョーカンって感じだったもんなぁ」
ナツはフユ姉さんと議論を交わした結果、事情は包み隠さない方向で固めたようだ。ゆえに、復学初日は本当に大変だった。
女子たちは恋が終わったとむせび泣き、男子はTS美少女キタコレとかよくわからない歓喜の声を上げていたな。
俺が心配しているのは身の振り方についてだろうか。いくらナツの精神が男のままとはいえ、女子の間にコミュニティを作らないわけにはいかない。
しかし、元男が女友達を作れるものだろうかと本当に気が気でなかった。こう、女子ってなんかドロドロしてるとかよく聞くし。
でも俺の心配をよそに、ナツは持ち前のコミュ力で問題なく過ごすではないか。今話している子たちも、二年の終わりごろに仲良くなったと言っていた子たちだと思う。
……俺の杞憂であることはわかっているけど、でもやっぱり――――
「…………」
(お、おおう……)
モヤモヤしながらナツへ視線を送っていると、ナツと話している子が俺の視線に気づいたらしい。教えなくていいものを、俺が見ていると指摘したようだ。
するとナツはこちらへ向き直り、ニコッと笑みを浮かべて小さく手を振って来た。俺も同じく小さく手を振って返すと、ナツはまた会話へと戻ってしまう。
はぁ……びっくりした。きっとぎこちない表情になってしまっていたろう。後で指摘されたらどうしてくれようか。
「あらやだ弾さん今の見ました?」
「えぇえぇ、むしろ見せつけてきてますよねぇ」
「ああもう、頼むからそういうのは勘弁してよ」
俺とナツの交わした一連のやり取りを見るなり、数馬が井戸端会議中のおばさんの如く振る舞う。それに弾も同調し、なんとも不名誉なレッテルを張りにかかってきた。
たぶん通じ合ってるみたいなやり取りが気に入らないということなんだろうけど、それはナツが肉体的に女子だからであって、別に似たようなことは昔からあったんだって。
弾にも数馬にも、他の男子にもそう弁明したのだが全く聞き入れてもらえない。前者二人は頼むからそろそろ納得してほしいものだ。
なんて言いつつ、自ら地雷を踏んでるからそう二人を責めれたものではないのかもな。よし、俺ももっと気を付けてみることにしよう。
そう誓って今日を過ごしたが、特にそれといったことは発生せずに放課後がやってきた。今日は入学式と始業式がメインなため、いわゆる半ドンというやつだ。
「ハル、帰ろ!」
「あぁごめん、しばらくは一緒に帰れないと思う。流石に新入生が部活見学してる期間は顔を出さないと人手が足りないみたいで」
解散の合図が終わり次第、ナツは俺を帰路へと誘う。しかし、どうしてもしばらくは一緒に下校できそうになかった。
俺は一応だけど美術部に所属しているのだが、出席率はお世辞にも高いとは言えない。しかし、何もサボりということではないのだ。
ウチの家庭事情、両親が共働きなうえにめったに帰らないという部分で容赦をもらっている。家のことをナツだけに任せるわけにはいかないし。
だがナツに説明したように、美術部は在籍人数が非常に少ない。三年生なんて俺含めて四人しか居ないのだから驚きだ。やっぱり部活と言えば体育会系なのかな。
けど去年の傾向をみるに、新入生はわりと見学にだけは来たりするんだよ。とすれば、人手不足になるのは必然ということ。
「そういえば去年とかもそうだったよね、すっかり忘れてた」
「うん、そういうことだから――――」
「あれ、ちょっと待って。ハル、お昼どうする気なの?」
「どうする気って、別に昼くらい食べなくても――――おおおおっ!? ご、ごごごご、ごめん! 伝えておくべきだったよね!」
このまま和やかな雰囲気のまま解散と思いきや、俺が昼を食べない気でいることを知ったナツは掌を返したように豹変した。
顔は笑っているんだが目が笑っていない。というかもう、ナツの背後にオーラのようなものが見える気さえする。
そんなナツの静かな怒りを感じ取った俺は、数歩分後ろに飛びのいてから必死の弁明をしてみせる。すると、ナツのオーラは徐々に消え失せ――――
「はぁ……。言ってくれればお弁当くらい作るから。今度からはちゃんと教えること」
「う、うん、わかった。それと、ごめん」
俺としてもナツが早起きしなくても済むよう配慮したのはもちろんあるが、本人がそう言うのなら大人しく甘えることにしよう。
というか、ここで大丈夫だからなんて返したら、俺が折れるまであのオーラが出続けていたに違いない。ナツは昔から頑固一徹だからなぁ。
しかし、こうしてナツが頑張ってくれるのに、俺が特にしてやれることがなくて心苦しいんだよ。俺にできると言えば絵を描くくらい。
ナツが俺に対価を求めるなんてことは天地がひっくり返ってもありえないが、それでも俺だってナツに何かしてあげられないのだろうか。
「別に謝らなくてもいいよ。それじゃハル、夜は食べたいものとかない?」
「ナツに任せる。ナツが作ったらなんでも美味しいし」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、リクエストがあったほうが楽なんだけどな」
昼の話が終わったら、すぐさま晩ご飯の話へ移行した。これは割と聞かれる質問だけど、俺は毎回のようになんでもいいと答えている。
するとナツも同じく、なんでもいいが困るのだとリクエストを求める。もはや俺たちの間ではお約束というものに該当するのかも。
ナツの返しを受け、ここからようやく本格的にメニューを考え始める。実際本当になんでも構わないんだけど、ナツが困らないようになんとか……。
やっぱりパッとは浮かばないもので、そういう場合にはとある秘策がある。それは和・洋・中のいずれか、または牛・豚・鶏・魚介から無作為に選んで呟くというものだ。
そうすれば後はナツが適当に考えてくれる。その日の気分とかなるべく重複しないように考慮しつつ、今日はそうだな……。
「……じゃあ、鶏でお願いできるかな」
「鶏の気分? ん~それじゃあ……トリチリでも作るね」
トリチリ? つまりは鶏むね肉をチリソースで和えた料理ということだろうか。なるほどなるほど、そういうのもあるのか。
鶏はエビと違って下処理も簡単だろうし、ボリュームもお墨付き。口に入れればピリ辛ジューシーな味わいが広がることだろう。……なんだか想像するとお腹が空いてきた。
しかし、相変わらず引き出しの多さに感心させられる。ナツのすごいところは一年間で同じメニューが出てくることがほとんどないという点だ。
流石は幼少期から培われてきた家事スキル。男の時はなんとも女子泣かせなと思っていたりもしたけどね。
「それじゃもう行くから。ハルも部活頑張って!」
「うん、ありがとう。じゃあ、また後で」
「お腹すかせて帰って来てね!」
メニューの方針が決まったナツは、早々に教室を出て行った。きっと、晩ご飯の買い出しをして帰るんだろう。
そうか、しばらくは荷物持ちの役もやってやれないな。特に筋力が落ちたようなことはないみたいだけど、どうも今のナツに重いものを持たせるのはなぁ。
ナツは無理する場合もあるし、緊急でお米とか洗剤とか買いだめみたいな話になったら顧問に相談して帰らせてもらうことにしよう。
さて、それならもう部室に向かおうかな。一応だけど部長に声をかけて、それから美術室に行ったので大丈夫だろう。えっと、部活動見学の時間は確か――――
「晴人、お前今のでマジにアイツとなんにもねぇって言い張ってんの?」
「なんだ今の完全なる夫婦のやりとりは……。オエッ! 甘ったるくて胸焼けが……」
「いやだから、何度言わせるの……。ああいうやりとり、ナツが男の時から割と頻繁にしてたから」
いったいどこから見ていたのか、ナツと入れ替わるように弾が話しかけてきた。その表情は、茶化すというよりは困惑しているよう取れる。
弾の言葉はまだいいとして、数馬に至ってはえずいている始末。蒼い顔して弾に背中を撫でられていた。
いやしかし、さっき地雷を踏まないよう心掛けたんだから俺の弁明に説得力はなかったり? 確かに男子と女子で晩ご飯の相談とか、ちょっと特殊っていうかなんというか。
けど、俺の中ではやっぱり昔からそうしてきた当たり前のやり取りなわけで、きっとナツにとってもそうに違いない。
「いくら一夏と晴人の中ではそうでもな、周囲はそう受け止め切れねぇってわけだ」
「晴人晴人、あれ見てみ」
「あれ? あれって……」
「よし、飛ぼう」
「そうだな、来世では日向みたいな人生が送れるかも知れん」
「いざ、可愛い幼馴染がご飯を作ってくれる世界線へ!」
「うわああああっ!? ちょっ、ちょっと待って、早まらないで!」
数馬の指差した窓のほうへ目を向けてみると、何人かの男子が窓の外へ向けて足を延ばしている光景が映った。
何を馬鹿なことを、死にたくなるくらいに羨ましいとでも言いたいのだろうか。どちらにせよ冗談めかしたような雰囲気を感じられなかった俺は、急いで近づいて制服の背中部分を掴んだ。
掴んで後ろに体重をかけながら引っ張っているというのに、それでも前へ前へと進もうとするその執念はなんだというのか。
途中から弾と数馬も手を貸してくれて余裕ができた。そこで人生まだまだこれからだ。幼馴染は無理でもきっといつか恋人ができるから励ましてみる。
すると、いきなり力を抜いて飛び降りようとするのを止めるではないか。その反動で後ろに倒れかけた俺は、二人に支えられながら男子たちの様子を見守った。
「「「「異性のメシウマ幼馴染が羨ましいんじゃい!」」」」
「えぇ……? いや、だから、俺にそんなこと言われても困るんだけど」
声を合わせて高らかにそう叫ばれても、そういうのはナツを女の子にした謎の誘拐犯ないし組織に言ってほしいものだ。
困った末に弾と数馬に視線を向けてみるも、前者は肩をすくめて後者は頬を掻くばかり。そうですか、手に負えないですか。
それは俺だって同じなのだが、いつものとおりに嫉妬を向けられても困るくらいの反論しかできないな。だって俺、悪くない……よね?
「日向、今一度思い出すんだ。お前の取り得はその素朴さだろ」
「Mr.
「それが日向 晴人ってやつじゃなかったのかよ!?」
「そこのとこどうなんだよ日向! あぁん!?」
なんでこんな説得されるような流れになっているのだろう。やっぱり悪いのは俺なのだろうか。いやそれより、どさくさに紛れて酷い言われようである。
いや、まぁ、確かに否定できないところはあるけどさ……。今二番目の男子が言ったのは、まことしやかに囁かれる俺のあだ名のようなもの。
ナツ、弾、数馬のイケメン集団とつるんでいたら嫌でも有名になるわけで、俺を含めて四馬鹿呼ばわりされていたから知名度もそれなり。
だとすると、一人だけあからさまに普通な顔つきの俺が浮いてしまうという逆転現象が発生してしまうんだよ。それを抜きにしても、奇跡のレベルで俺の顔つきは可もなく不可もなくという自覚がある。
それだけならまだしも、特に頭がいい訳でもなく、悪いわけでもなく。運動ができるわけでも、できないわけでもなく。背が高いわけでもなく、低いわけでもなく。太っているわけでも、痩せているわけでもなく……。
そんな俺に二年の中ごろについたのが、Mr.
「おい晴人、時間大丈夫か?」
「こ、この流れでその質問? いや、実際もう行きたいところではあるけど、その」
「まぁまぁ、落ち着かせるのは任せときなって。俺ら晴人みたく部活やってないしよ」
ヒートアップしてきたのかギャーギャーと同時に騒がれて何を言ってるのかすらサッパリなところ、弾がぶっきらぼうにそう尋ねてきた。
そう言われて壁掛け時計に目をやってみると、そろそろ美術室に顔を出しておきたい時間が迫ろうとしているではないか。
落ち着かせずにほっぽり出すのもどうかと思っていたところ、数馬は非常になんでもないような態度で後のことを任せるよう提案を挙げた。
どうせ暇人だからとでも言いたげだが、それなら弾はともかく数馬は何か部活をやればいいのでは? とも思うが、この場合はそれで助かってるからなんとも言えない。
「そ、それは心から助かるな。えっと、じゃあ悪いけどあとよろしく。またね」
「おう、また明日」
「まったな~!」
申し訳ない気持ちはあれど、日頃から出席率が悪いのに遅刻するのは美術部のメンバーにも悪い。両者を天秤にかけた結果、美術部のほうへと傾いた。本人達が申し出たことは言え、なにか埋め合わせを考えておかないとな。
未だ呪詛の言葉を並べる男子たちから距離を置き、二人へ深々と頭を下げてから教室を後にした。廊下に出たあたりで聞こえた別れの挨拶に、片手を上げて応えると速足で歩き出す。
それにしても、茶化しはしても嫉妬しないだけやっぱあの二人はましのようだ。それを身を持って体感したできごとだった。
仲良かったぶん、例え見た目が可愛かろうと中身がナツだと理性にブレーキでもかかるのかもな。てっきりどちらかが惚れでもするんじゃないかと……。
実はけっこう失礼な目線で二人のことを見てしまっていたのかも。今日のも含めて一回謝ったほうが――――って、茶化されてるのも事実だろうに。要するにプラマイゼロ、あいこだ。
ならもう本格的に頭を部活動のモードへ切り替えなくては。新入生相手にたどたどしくなるのは流石に避けたいし。
そうやって部活紹介における俺の役割を思い出しつつ、美術部目指してどんどん進んでいくのであった。
メシウマ幼馴染に胃袋から鷲掴みにしてほしいだけの人生だった。
この作品は私の願望もモロに出てるので、一夏ちゃんのメシウマも推させていただきます。
本当に自分で書いてみると、一夏の設定ってとことんTS向けなんだなぁと。
家事万能、主人公特有の気遣いができる性格等々……。
そんな気心の知れた親友ないし幼馴染が美少女になったら惚れるしかねぇよなぁ?(盛者必衰)
ハルナツメモ その3【周囲の視線】
晴人が弁明していたとおり、一夏が男の時点でも夕飯の相談は多かったし、特に人目をはばかるようなこともなかった。
つまり現在は本当に周囲の二人の見方が変わっただけのことで、二人としてはいつものやりとりをしているつもり。
ただ、ここのところ一夏はとても楽しそうに料理を作るとか。
その真意のほどは晴人からしても不明である。