ハルトナツ   作:マスクドライダー

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臨海学校編プロローグです。
この臨海学校編にて、様々なことに決着がつく予定になります。
なので不穏な滑り出しですが、きちんと可愛い一夏ちゃんも描写していきますので。


第41話 ありかた

 夏という季節が猛威を振るい始める七月初頭。まさにうだるような暑さの中、俺とナツは大型ショッピングモールに足を運んでいた。

 というのも、もうすぐ次の学校行事として臨海学校がある。字面だけ見れば親睦を深める小旅行か何かに思えなくもないが、そこは天下のIS学園だけに甘い内容ではない。

 どうやら宿泊施設の一帯が兵器運用の試験場みたくなっているようで、そこで主に専用機の追加パッケージやらの試運転を行うことになるんだとか。

 スケジュールは二泊三日ということで、どうしても生活必需品の買い出しが必要になった。その流れで、ごく当たり前のようにナツと二人で出かけることになったんだけど……。

 

「…………」

「ハル、ボーっとしちゃってるけど、もしかして体調悪いとか?」

「ん……? い、いや、別になんともないよ! ほら、全然元気」

「ならいいんだけど、この暑さだからね。何かあったら早めに言わなきゃだめだよ」

 

 ……まただ。最近本当におかしいな、無言でナツに注目してしまうことが増えるなんて。

 そもそもの話、最近のナツはどうも可愛くなったというか、綺麗になったというか、そんな気がしてならない。

 実際のところどうなのだろう。俺の視点が変わっただけのことなのかな。こんなことに関して、他人の感想を求めるわけにもいかないし。

 とにかく、ナツに余計な心配をかけるのはやめておこう。それに、下手すると本当に倒れてしまいそうな気候なのだから。

 

「それより、必要そうなものはこれで全部かな」

「うん、リストアップしてあるものは揃ってるよ」

 

 俺が強引に話の流れを変えると、ナツは特に気にした様子を見せずに携帯のメモ機能を起動した。

 配布された旅のしおり的なものに書かれていた品。そしてその他必要であろうとリストアップしておいた品。それらを照らし合わせてみるが、やはり間違いなく全て揃っているようだ。

 そいつは重畳、これでやっと暑い中をほっつき歩かないで済むというものだ。

 だとしたらこれからどうしよう。無難に喫茶店でも入ってしばらく休憩ってところかな。それとも少し早いけどお昼?

 自分一人なら迷わず喫茶店だが、ナツと一緒に来ているんだから意見交換が必要だ。さっきの二択とは別に、第三ないし第四の選択肢が挙がるかも知れない。

 

「ナツ、これからどうしようか」

「あ……。えっと、実は行きたい場所があって」

「へぇ、そいつは。わかった、じゃあそこへ向かおうか。場所はわかる?」

「う、うん、一応。こ、こっちだよ」

(……? なんか変なナツだな)

 

 行きたい場所があるなら別に構わないんだよ。俺の性格からして、誰かに合わせているほうが楽でいいし。けど、ナツの反応に少しばかり疑問を感じる。

 その行きたい場所がどこかまでは明かしてくれない。それになんなんだろう、その少し恥ずかしそうというか、気まずそうな様子は。

 それに腕を引っ張って多少強引な印象を受けるのもナツらしくない。う~む、あまりにもいきなり様子が変わるものだから変な感じだなぁ。

 まぁ、着いて行ったところで美人局なわけでもあるまいし、ここは黙って大人しくしておくことにしようかな。

 そんなこんなでナツに誘導されることしばらく、服などを販売するフロアまでたどり着いた。そして、ある店の前で足が止まる。

 

「こ、ここだよ」

「ここ? ここって――――」

 

 店構えの見た目はそれこそ服屋に見えるけど、ウィンドウに並べられているマネキンが身に着けているのは、サマーシーズンにピッタリの水着だった。

 なんだかこのブランドの店は見たことがある気がする。いつもは普通に服を売っていたと思ったが、つまりこの時期に合わせて水着の大売り出しをかけていると。

 で、ナツがここに連れてきたということは、水着を買いに来たということでいいんだろう。

 ああ、初日の午前は確かに自由行動があったかな。その時間を利用して海で遊ぼう。そうやってクラスメイトたちが盛り上がっていたような気がする。

 ふむ、謎は一部解消されたわけだけど。どうしてそんなに気まずかったり恥ずかしそうだったりしたのかな。そこのとこどうなんです? ナツさんや。

 

「それで、その、ハルにひとつお願いがあるの」

「今? 内容にもよると思うから、とりあえず言ってみてよ」

「私の水着、一緒に選んでくれないかな~……なんて」

「…………はい?」

 

 やけにモジモジしながら何を言い出すかと思いきや、どうやらナツは俺に水着を選んでほしいそうだ。

 ……うん、うん? いや待て、言葉の意味は理解できるけど。なんかすんなり頭に入ってきてくれない。選ぶ? 俺が? ナツの水着を?

 ナツは女の子になって間もなくISに乗り始めて忙しかったし、それから一緒に海へ遊びに行ったりはしなかったっけ。俺自身、猛暑の中で出かけることに関しては消極的だし。

 つまり学校の授業とかを除いては、ナツにとっても初水着なわけだ。……それを俺が選ぶと? ……え? 選んでいいんですか?

 

「いいんっすか!?」

「あ、あれ、意外とノリノリ……。てっきりハルのことだから、大慌てするんじゃないかって思ったんだけど」

「あっ、いや、今のは違うくて! なんていうかその、勢い余っちゃったっていうか!」

 

 いや待て待て待て待て待て待て、俺のキャラじゃないよ落ち着け、落ち着くんだ無理にでも落ち着いて!

 ってか、いいんっすかってなんだよ! 恐れ多いと思ってるのに、そんな軽率な感じていっちゃってどうするんだよ!

 この際だから認めるけど、嬉しいっていうかとても名誉なことだとは思う。だけど思春期男子特有のアホさをふまえてもない。いいんっすかだけはない。

 大丈夫だろうか。引かれているようではないけど、少しばかりナツを驚かせてしまったようだ。弁明に説得力ってもんがないな。

 とにかく、そういうことなら喜んで受けさせてもらおうじゃないか。画家の端くれの美的センスが問われるっていうもんだよ。

 それを冷静に報告ね、冷静に! 心の中で深呼吸。いつもの優しく穏やかな俺で、完璧に返事!

 

「ゴホン! えっと、うん、俺でよければ選ばせてもらうよ」

「うん、ありがとう! じゃ、さっそく入ろっか」

 

 ナツの中では俺が断るという未来もあったのか、意外にも乗り気となればとても嬉しそう。ちょっとタガが外れかけただけに、若干の罪悪感がなくもない。

 けど気にしてばかりではいつまでも前に進めない。ということで、ナツと一緒に店内へと足を踏み入れた。

 こういう店にはこぞって来るようなタイプじゃない。水着なんて大型スーパーとかで大安売りしてるやつでいい、って人ですし。

 そのせいか、水着という存在そのものに親しみがあっても、店内に並べられている商品は、俺にとって奇抜な部類のように感じられた。

 ざっと見る限り女物7割男物3割ってところか……。うん、さっそく居心地が悪い。けど、ナツに大見得斬ったしそうも言ってられないかぁ。

 

「さて、まず何から決めようか」

「うーん、無難に色……とか?」

「ナツのっていう前提なら、俺の中では一択だけどな。まぁ、安直だけど白かなって」

「わっ、それ嬉しい! 私としても最近白ってお気に入りなんだ。えへへ、ありがと、ハル」

 

 な、なんかそこまで喜ばれると逆に複雑だな。適当なつもりはないけど、ナツのパーソナルカラーが白式からの流れで白っていう、本当に安直な考えなのに。

 ナツは私のことをよくわかってくれてる、みたいな反応を示す。なるほど、ナツとしても白は最近お気に入りと……覚えておこう。

 いやぁ、でもなぁ、ナツには本当に白式がよく似合ってるよなぁ。純白の塗にナツの肌艶がマッチしてるっていうか、黒髪との対比がグッとくるっていうか。

 初めて見た時も口を滑らせたけど、やはり考えれば考えるほど綺麗だ。何よりそんな白式を纏って戦ってる姿が美しい――――って、そのあたりは後にして、水着選びに集中しよう。

 

「次はデザインって話になるんだろうけど、流石に女性用水着のタイプって、細分化されててよくわからないんだよね」

「じゃあ、その、おおまかなことを聞くから答えてほしいな。ろ、露出度とかは控えたほうがいい? それとも、少し大胆くらいがいい?」

 

 

 な、なるほど、そうだよな、女性用ともなれば、そのあたりのことも当然のように選ぶ基準に入ってくるか。

 う~~~~~~ん……難しいなぁ。仮にこれが一般客、つまりは不特定多数の男性が居る場所に向かうっていうなら、俺は間違いなく控え目でと答えていたろう。

 かといって、男が俺だけだからと大胆にというのも何か違う気がする。というか、あまりアレだと直視できないのでは……?

 ナツの体型を客観視したとして、間違いなく抜群のプロポーションという結論が出る。出るところは出ていて、締まっているところは締まっているみたいな。

 となれば、それを晒さないのもなかなか勿体ない話なのかもしれない。画家の端くれ的視点で言わせれば、肉体美ってのはアートで間違いないのだから。

 よし、ならここは俺個人の願望も踏まえて、正直な裁定を下すことにしよう。

 

「少しくらいなら冒険してもいいんじゃないかな。ほら、えー……せっかくスタイルいいんだからさ」

「そうかな? カロリー制限以外あまり意識してないんだけど」

「そうだよ、幼馴染の俺が言うんだから間違いない。それにさ、俺個人としても、ちょっとばかりセクシーなほうが、まぁ、テ、テンション上がると言いますか……」

「そ、そっか。ハルがそう言うなら頑張るね! 私、ちょっと条件に合いそうなの探してくる」

 

 勢いそのままいつもの俺を貫き通し、いくらかはセクシー路線でと伝えようとしたのだが、羞恥心に耐え切れず最後の方は顔を隠しながらになってしまった。まぁ、ある意味これもいつもの俺だが。

 そして方針が定まったのと同時にナツは奥のほうへ消えていくわけだけど、頑張るねって何さ頑張るねって。恥ずかしいなら別に無理しなくても構わないぞ?

 ……なんて伝える暇もなく、と。一度決めたら一直線というか、そういうあたりはやっぱり女の子になっても変わらないなぁ。

 ふむ、しみじみとしている間があれば、俺も適当に一着買っておくかな。流石に普段着みたくこだわらなくていいでしょう。

 そんなわけで、数少ない中から、黒地に白でハイビスカスやヤシの木がデザインされた、アロハって感じのものを手に取る。我ながら超がいくつも付きそうなほど無難だ。

 これでも一応迷ったほうだ。まぁ、迷うったってカラーリングの差くらいだけども。でも実際世の男性ってどうなんだろ。水着で迷うって人は少なそうな気がするんだが。

 

(……やっぱり俺のほうが早いよな)

 

 元の位置に戻ってみるも、まだナツの姿はない。そもそもそんなに時間が経過したわけでもないし、相手は女の子なんだから当然のことか。

 別にこのあたりは気が長いほうというか、多分だけど何時間だって待てるタイプだと自負している。地味に好きなんだよね、何もせずボーっとしてるのとか。

 まぁ頭の中ではいろいろ考えてる。主に絵に関することとかだけど、外面にそれが出ないから少々不審がられたりもままある。

 とにかくそのくらい気長にってことだ。女性がより可愛く、美しくなるよう努力する時間を待つことに目くじらを立てるほうがおかしいってもんでしょう。

 

「お待たせ! ごめんね、けっこう迷っちゃって」

「ううん、全然だよ、全然。むしろ気に入ったのが見つかったなら何より」

 

 我ながら気の長さに感心していると、俺が思っているよりもずっと早くナツは戻ってきた。向こうからすればかなり待たせてしまった気分みたいで、とりあえずは謝罪から。

 でも所要時間をカウントしてないし、あんなのは待ったうちに入らないとも。それより、ナツがどんな水着を持ってきたかのほうが気になる。

 ナツも少しばかり焦らすつもりなのか背に隠している。だからってソワソワするなんてことはないけど、よほど気に入ったと見てよさそうだ。

 まるで俺の予想が的中したかのように、ナツは少しばかり得意げに選んだ水着をこちらへ差し出した。

 

「じゃーん! こんなのでどうかな」

「おお、これは……」

 

 ナツが選んだのは、色が白でビキニタイプの水着だ。ここまでならさっき話し合ったとおりの条件に見合っている。だがデザインを見るに、ナツのセンスの良さが光っているように思えた。

 何かって上も下もつなぎ目となる部分が、蝶結びにされたリボンのようになっている。これならただセクシーなだけでなく、キュートさも印象として大きい。

 何より、そのリボンって感じが可憐なナツにはぴったりだと思う。そう、まるでナツのためにデザインされたかのようだ。

 となれば俺の答えはもう決まっている。俺は両手でサムズアップをしてみせ、ニッと歯を見せて笑いながら感想を述べた。

 

「100点満点中で200点。ナツによく似合うと思う」

「あはは、やったねダブルスコア! よかったぁ、気に入ってたから似合わないって言われたらどうしようかと」

 

 俺があまりにも好感触なせいか、ナツはおどけるようにしながら両腕で小さなガッツポーズを作って見せた。その後はホッとしたというか、安心したかのように胸を撫でおろす。

 それで似合わないって感想が出るなら、俺の感性はきっとどうかしてる。絵とかもピカソのようなエッジの効いたやつしか描けなかったろう。

 ……思ってみたら、前衛芸術とか挑戦したことなかったな。……って、そんなのは後回し。店の人に迷惑がかからぬよう、速やかに会計を――――    

 

「ほう、デートで水着選びか?」

「ふ、ふ、ふ、フユ姉さん!?」

「どうしてこんなところに!?」

「なに、完全なる偶然だ。真耶の奴に引っ張って来られてな」

 

 レジに向かおうとしたその矢先、俺たちの背後にはいつの間にかまさかの人物が。フユ姉さんだ。

 完全にオフであるせいか、それとも俺たちをからかっているせいか、その表情はいつもより幾分か柔らかい。

 それにしても偶然、か。どちらが先にこの店に訪れたかは別にして、世間というのは広いのやら狭いのやら。

 本人の談のとおり、自分だけでレジャー用の買い出しをするとは考えにくい。来店を提案したのが山田先生となると、更に奇跡的なエンカウントに思えるな。

 ちなみにそんな山田先生だが、気に入ったデザインなのにサイズが小さかったりで四苦八苦しているらしい。なるほどなぁ、女の人ってそうなるわけだ。

 

「ところでだ。今から会計なら、私のも一緒に頼めるか」

「それはいいけど、どうして?」

「少し晴人と話があってな。ほれ、奢ってやるからとっとと行ってこい」

「うん、そういうことなら……。でも千冬姉、あまりハルをからかっちゃダメだからね」

 

 あまりに驚きすぎて気が付かなかったが、フユ姉さんはその手に黒色の超大胆なビキニを持っていた。どういうわけか、俺やナツの水着とまとめて支払いをするよう言伝る。

 理由は俺と話がしたいから、だそうだ。つまり支払いをしている間に軽く済むような内容なんだろうけど、何か嫌な予感がするのは俺だけだろうか。

 けどからかうだけなら、俺とナツがセットのほうがフユ姉さん的には楽しいよな。だとすると、本当に真剣な話なんだろうか。

 そんなことを考えている間にあれよあれよとことは進み、ナツは俺とフユ姉さんの水着、そしてクレジットカードを受け取ってから会計へと向かって行ってしまう。

 

「……さて、晴人」

「う、うん、どうかお手柔らかに」

「そう警戒するな。――――と言いつつ、お前に対しては荷になることを聞くんだろうよ」

 

 こちらを射抜くフユ姉さんの視線は真剣そのもの、というほどには鋭くない。かといって、悪ふざけの要素は微塵も感じられなかった。

 こういう言い方をすると変なのかも知れないが、珍しく中途半端って感じで違和感を覚える。いったい俺の何が気になるって言うんだ。

 

「晴人、お前は一夏との将来をどれだけ真剣に考えてくれている」

「……言葉どおりの意味って捉えていいんだよね」

「先のやり取り、かつての晴人ならば全力で否定していたろうからな。とするならば、いずれは――――と思ってくれていれば、あいつの姉としてこれ以上安心なことはない」

「それは、恐縮です」

 

 相変わらずフユ姉さんは俺たちのことをよく見ている。時には自分自身でもわかっていなかったことを見透かしてくる場合もあるのだから、もはや知れたことか。

 フユ姉さんの言う否定していたとは、デートという部分についてだろう。確かに、かつての俺ならただの買い物ですなんぞほざいていたはず。

 俺たちの関係は恋人同士ではない。そこについては現状揺らぐことのない事実だ。しかし、今まさに俺たちがしているのは、間違いなくデートだとは思っている。

 それを踏まえて、というか、本当に恐縮としか言えない言葉をもらっておいてなんなんだけど、ここで自分の気持ちを偽ったって何も始まらない……とも思う。だから、俺の答えは――――

 

「ごめん、わからない。ナツとの未来どうこう以前に、僕は、僕の気持ちが……本当にわからない」

「……そうか」

 

 わからない。本当にこの言葉に尽きる。

 ただ、他の女性とナツを同一視するほどではないんだ。特別だよ。ナツはあらゆる意味で、俺にとって特別な女性だ。

 他の女性からはナツほどの安らぎを、緊張を、庇護欲を、高揚を感じない。感じたとして、ナツの足元に及ぶことはないだろう。

 だがこれを恋愛感情かと自分に問いかけたとき、本当に何も答えが返ってこないのだ。まるで初めから答えが用意されていないかのように。解答欄が真っ白なのが正しいかのように。

 多分、俺の性根が影響しているんだろうなとは思う。

 よく言うならば謙虚。悪い言い方をするなら自分がない。他人に何も感じさせないために、自分の感情を抑圧して生きてきた。

 だからわからない。時として俺は、自分が悲しんでるのか怒っているのかすら曖昧な自覚すらある。

 

「フユ姉さん」

「なんだ?」

「僕がナツの傍に居ることは、ダメなことなのかな」

 

 最近はこんな思考回路にならなかったと言うのに、そう考えると途端に自分がダメな奴と思えてならない。

 そもそも、ナツが女の子になってからは感じたことはあった。なんていうかさ、お互いがお互いをダメにしているような、そんな感覚を。

 周りのみんなに流されるってことじゃないつもりだけど、俺とナツは恋人であって然るべきみたいに思われているのは――――正直に言えば納得のいく部分もある。

 だというのに、幼馴染だから、恋愛感情関係なしに大切な人だからって、そんな関係をずるずると続けてしまっては、ナツのためにならないんじゃないかって。    

 

「晴人。それ以上言うのなら、私はお前を殴り飛ばさなくてはならなくなる」

「フユ姉さん……。けど――――」

「ダメなこと? 笑わせるな。晴人と出会って、あいつがどれだけ――――いや、この話は止めておこう」

 

 ああ、わかっていたさ。自分の感情もわからないくせして、そういうのは察しがいい。わかっていたさ、フユ姉さんがそう言ってくれることくらい。

 端から聞くと厳しい言葉なのかもしれない。けど、逆だ。フユ姉さんのそれは俺を甘やかしている……と俺は思う。どうせなら、本当に殴ってくれれば――――いや、俺のこんな考えもまた、甘えなんだろう。

 フユ姉さんの顔つきはいくらか悲しそう。俺のネガティブ発言でそうさせてしまったなら、なんと申し訳ないことだろうか。

 そして何かを話しかけていたフユ姉さんは――――途中でそれを止めてしまった。それと同時に、先ほどまでの表情へと戻る。

 

「とにかくだ、そんなことだけは冗談でも言わないでくれ。例えそれが、どういう感情のもとにあろうとな」

「……うん、ありがとう」

「すまなかった、やはり聞くべきではなかったな。晴人は晴人らしく、あいつの隣に居てやれ。今はただ、それだけでいい」

 

 フユ姉さんはそれだけ言うと、ナツから水着を受け取るつもりなのか、会計の方へ歩いて行ってしまった。俺はただそれを眺めることしかできない。

 今はただ、か。今ならば、いつかがあるということでもある。全ては俺に委ねるということなんだけど、フユ姉さんだってプレッシャーを与えたかったわけじゃない。

 ……だったら、今はそっとしておこう。難しく考えるのは一人の時だってできる。なんたって、今はナツとのデート中なのだから。

 フユ姉さんと入れ替わるようにこちらへ歩いてきたのはナツだ。俺は決して心配をかけぬよう、表情も雰囲気も元通りへと戻した。……見抜かれる可能性は大いにあるけど。

 

「ハル、お待たせ。千冬姉、なんの話だったの」

「やっぱりそれなりにからかわれたっていうか。うん、別にただそれだけだよ」

「…………そっか、ならいいんだけど。ん? よくないのかな。ほら、ああいう時の千冬姉って厄介だし」

 

 あ、これはバレてますわ。一瞬の沈黙があったのは見逃さないぞ。まぁ、内容までは察知してないだろうけど。

 でもやっぱり、俺の想いをくみとってか聞かないではいてくれるんだよな。本気で落ち込んでるようなら、ガンガン聞いてくるんだろうけど。

 とにかく、見て見ぬふりをしてきた部分はあるんだ。例えどれだけ暗い思考回路になろうとも、それなりの答えは見出さなくてはならないだろう。

 ナツとのありかたとか、これからってきっと、俺の一生を左右する案件なんだろうから。

 

 

 

 

 




久しぶりの面倒臭い系主人公な晴人回。
二話前のかっこよさはどこへやら。
でもこいう恋愛感情に際して、あまり軽率な言動または行動をしてほしくないというのもありまして……。これ一番面倒臭ぇの私だなさては!
まぁ、どうか一夏ちゃんとの将来に真剣であることの裏返しとでも捉えていただければと。
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