ハルトナツ   作:マスクドライダー

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徐々に雲行きが怪しくなってきます。
今回はそれほどですが。むしろギャク調のが強いかも知れません。
とりあえず今後のフラグのため、追加パッケージの紹介回といきましょう。





以下、評価してくださった方をご紹介

らいち様

評価していただきありがとうございました。


第44話 ギャラルホルン

 臨海学校二日目の朝。集合場所は入江のようになっている場所だった。流石にそこらの砂浜に集まるわけにはいかないだろう。なんたって、今から俺たちは追加パッケージのロールアウトを行うんだから。

 チラリと少し離れた場所に目をやると、仰々しく様々なデザインのコンテナが鎮座している。あれが、各国ないし各企業の用意した件の追加パッケージ。

 テーマは主に高空域での戦闘を想定したパッケージ……だったかな。そもそもヘイムダルには無用の長物に思えるものの、しっかりFT&Iと刻まれたコンテナも。どのみち母さん作というだけで嫌な予感しかしない。

 これから待ち受けているであろうゲテモノに関して想像を膨らませつつ、フユ姉さんの有難い話に耳を傾ける。

 昨日あれほど呑んでいたというのに、何食わぬ顔して注意事項を述べる姿は流石というか。やっぱり強いんだろうなぁと。

 物珍しくもラウラちゃんが遅刻するというハプニングもありつつ、解散をかけられ各自やるべきことへと取り掛かり始める。一般生徒は訓練機の武装のチェック。俺たち専用機持ちは、それぞれのコンテナへと向かい始めた。

 

「ねぇハル。今話すことじゃないと思うんだけど、昨日の晩ってどうなったんだっけ?」

「お、俺が風呂から帰ってきた時には寝てたよ。フユ姉さんはそのまま山田先生のところに遊びに行ったから、俺が布団に運んでおいたんだ」

「へぇ。う~ん、寝落ちか気絶せもさせられたのかな……?」

 

 ナツはこの通り、昨日の出来事をすっかり忘れ去っているようだ。朝ナツが絶叫しながら飛び起きたから何事かと思えば、俺と一緒の部屋で寝ていたことに驚いたらしい。それですべてを察した。

 ナツもあまり酒が残っている様子はない。甘えん坊になっても会話自体は成立していたし、やっぱり姉妹揃って強いのかも知れない。

 それはさておき――――    

 

「…………」

「ハル、どうかした?」

「っ……ご、ごめん」

 

 ナツは記憶が飛んでいるので普通に接してくるけど、俺からすると心中穏やかでいられないできごとだ。……昨日の罪悪感が、まだ尾を引いているから。

 なんなら、どの面下げてナツの隣を歩いているのだとすら思う。だからつい、ナツが様子を伺うために聞いてきた言葉にごめんと返してしまう。

 本当なら、なんでもないよと答えるのが普通なんだろう。ワードチョイスに失敗したことに気が付いた俺は、ただナツから視線を外すことしかできない。

 

「ハル」

「な、何?」

「何かあるなら早めに言ってよね」

 

 どうやら俺が隠し事をしているのはお見通しで、それでいて聞かないことにしておいてくれるらしい。

 確かに聞かれたところで答えられなかったろうが、なんだかナツの優しさに甘えるようでとても自分が情けなく感じられてしまう。

 ……後でちゃんと話そう。それからちゃんと謝るんだ、キミが酔ってるのにかこつけて、キスをしようとしましたって。

 ただ今そんなことを謝っても仕方がない。そもそもフユ姉さんの監視下であるため、もたもたしているとひどい仕打ちを食らってしまうこと請け合い。

 そういうわけだから、FT&Iとペイントされたコンテナの前で足を止める。どうやら指紋認証式の電子ロックがかかっているようだ。えっと、このパネルに五指を――――って、あれ?

 

「ナツ、白式の追加パッケージって……」

「ないよ」

「……ないの?」

「うん、ない。いろいろと事情がある機体でさ、そういうのが想定されてないんだよね。っていうか、拡張領域の容量が雪片一本で限界な時点でお察しでしょ」

 

 コンテナが一つしかないことに今更気付いて質問してみると、ナツは割とあっけらかんとした様子で白式のはないと語る。

 ナツの言葉にはなんとなく納得してしまうが、本当に謎の多いISだな。単一使用能力を一次形態で使用できたり。

 諸刃の剣っていうぶっ飛んだ能力からして母さん作と思っていたが、そういえば本人やナツの口からしっかりとした製作者を聞いたこともない。

 ……おかしいな。企業が開発したISなのだとしたら、互換性のあるパーツを造ることくらいできるはず。できるのなら、どうしてやらないのだろう。ナツは代表候補生なのだから、それだけ宣伝にもなるはずなのに。

 

「ほらほら、細かいことは気にしないで、早く開けちゃおうよ。私はハルのサポートが今日の課題みたいなものだから」

「ん、了解。それじゃあいくよ」

 

 気にはなるけど、気にしても仕方のない内容だ。きっと父さんの経営方針みたいなものが絡んでいるんだろうから、俺が口出しすることじゃない。

 そう判断した俺は、今度こそパネルへと五指を重ねた。するとアンロックを示すであろう緑色のライトが光り、コンテナは稼働し開帳を始めた。

 するとその中に入っていたのは、なんと言ったらいいのかな。ほら、一昔前の暴走族がさ、すんごい曲がったマフラーなんかをバイクに着けてたじゃない? あんな感じのブースターを二基備えた装備だった。

 これには俺とナツは顔を見合わせるも、次の瞬間ヘイムダルがメッセージを受信した。どうやら録画データらしい。多分、コンテナが開くと同時に送信される仕組みだったのだろう。

 

『はいは~い、晴人くんに一夏ちゃん、お母さんですよ~』

「この導入はなんとかならないのだろうか」

「ならないと思う」

 

 待機形態のヘイムダルから空間投影型のディスプレイが出現すると、そこには件のブースターを後ろに母さんがこちらへキャピキャピした様子で両手を振る。

 相変わらずの痛い母親っぷりに辟易としていると、ナツから別の意味で痛いツッコミが飛んできた。……そうだよな、なんとかなってたら俺は気苦労なんて感じてないよな。

 せめて映像の中の母さんが、真面目に追加パッケージの説明をしてくれることを祈るばかりだ。

 

『ん~……まず名称から話しましょうか。その高速移動用追加パッケージの名前はギャラルホルン。形状は角笛を意識したわ』

「ギャラルホルン……。ヘイムダルが、ラグナロクを報せる時に吹くっていうアレか」

「詳しいんだね。勉強したんだ」

「うん、つい本家のことが気になっちゃって」

 

 ラグナロクというのはキリスト教で例えるところの終末のようなもの。ヘイムダルは、何気に北欧神話におけるけっこうなキーパーソンなのだ。

 やっぱり自分の乗るISの元ネタだからというか、暇があるときにネットや本でいろいろと知識は得ておいたんだよね。おかげでギャラルホルンがどういうものか丸わかり。

 ……まぁ、あれが角笛かどうかって聞かれたら、なんとも反応しづらくはあるんだけど。

 

『でね、まず言っておくことがあるの。ぶっちゃけ晴人くんの技量からして、今は高空域戦闘って無理だと思うのよね』

「ちょっと待ってちょっと待って。ナツ、解説お願い」

「高空域の戦闘って、アリーナみたいな閉鎖空間と勝手が違うんだよね。例えばほら、逃げようとすれば制限がないに等しくなったり。つまり、戦術もより多岐に渡るようになるから――――」

「なるほど、それだけ操作技量も求められると」

 

 母さんの言っていることがいまいち理解できなかったので一時停止。すぐさまナツに助けを求めると、すさまじくわかりやすい解説を施してくれた。

 高空域での戦闘となると、文字どおり広い範囲を行ったり来たりすることになるだろう。戦闘機のドッグファイトみたいなイメージかな。

 そんな高速戦闘の中、できることがアリーナよりも増えてくる。ということは、より考えて戦いつつも、その考えを実現させる操作技量が必要になってくるというわけか。

 確かにそれなら分不相応なんだろうなぁ。まだまともにマニュアル操作だって上手くいかないし、なんならイメージインターフェースの操作もとちる時だって。

 それはわかったけど、母さんはどのような措置をとったのだろう。よし、動画の再生を再開することにしよう。

 

『そういうわけで、とりあえず味方に置いてぼりとか、とにかく現場に急行できるよう心掛けて設計したの。つまりほら、車で例えるなら直線番長みたいな!』

「嫌な予感がする!」

「あー……そうだね、実際動かす時は慎重に行こうよ」

 

 母さんの言っていることは的を射ているし、ヘイムダルのコンセプトからして移動速度に重点を置いた設計は珍しくも正しいのだろう。しかし、直線番長という言葉で一気に不安が生じた。

 ナツもこれから起こりうるであろう事態を想像したのか、俺を安心させるような笑顔を浮かべつつ、ゆっくり慎重にやれば大丈夫だと諭した。

 ま、まぁ追加パッケージという話なら、母さんの独断で制作されたとは考えにくい。会議なんかもしてるだろうから、きっと止めてくれた人もいたと思いたいな。

 

『それじゃこの映像はここまでだけど、再生が終わり次第一夏ちゃんの白式に続きが送信されるわ。それを参考に、ふ・た・り! で協力して換装してみてね。またね~』

「……あ、ほんとだデータ飛んできた。ハル、ヘイムダルの展開よろしく」

「ん、了解」

 

 ヘイムダルを展開してしまえば確かに映像はみづらくなるわけだが、どうしてそういう配慮をもっと常識の部分に持ってこれないんだろうか。

 はぁ、とにかくやるか。という感じであまりやる気は出ないけれど、せっかく父さんが予算を下してくれたであろう装備を蔑ろにするわけにもいかない。とにかくヘイムダルを展開し、ナツのナビゲートを待った。

 換装とはいっても既存の装甲を外す必要はないようで、現在のスラスターと連結できる仕組みになっているようだ。

 ナツの説明通りにスラスターのある背中を向けると、ヘイムダルとギャラルホルンの双方からガイドビーコンのようなものが発せられる。

 そのままある一定距離まで接近すると、今度はお互いが引き寄せられるように連結。大きなマフラーを背負うようなかたちとなった。

 これにて高速移動形態、ヘイムダル・ギャラルホルン仕様の完成というわけだ。……っと、ハイパーセンサーに新しいデータが二つほど? 一つは映像の更に続き見たいだけど、もう片方は果たしていかほどかっと。

 

『はい、無事に連結できたみたいね。じゃあお次は、もう一つデータがあるはずだから、それをダウンロードしてくれないかしら』

「ダウンロード……開始っと。え~なになに? Version Gjallarhorn」

「これは聞いてみないとよくわからないね。多分、ダウンロードできたら説明してくれると思うよ」

 

 ダウンロードしたらまた続き、か。本当に至れり尽くせりだな。

 それほど長い時間を待つようでもないが、かといって無言でいるには少しという感覚かな。

 そこでフユ姉さんに怒られない程度にナツと談笑を始める。話題は運用試験に関わることについてでとどめておいたから、きっと聞かれても制裁はないだろう。

 ナツとためになる話しやら真面目な話を繰り返していると、どうやらバージョン・ギャラルホルンなるデータのダウンロードが終わったようだ。

 またしてもナツと二人して画面をのぞき込むと、母さんの解説の続きを再生した。

 

『晴人くん、一つ考えてほしいんだけど、さっき言ったとおりにギャラルホルンは移動にしか使わないわけじゃない? 戦闘中はどうすればいいのかしら』

「……あ、ほんとだ。すっごい邪魔」

「それでなくても重鈍なのにね」

『多分、考えてる通り邪魔になるわよね。お母さん、流石にそこらは考えてあるのよ』

 

 母さんは言った。味方に置いてけぼりを喰らわないためとか、とにかく現場に急行せねばならない時に用いられる直線番長だと。

 となれば、戦闘開始と同時に邪魔になることを示唆していたのも同然。嫌な予感がしていたせいで考えもしなかった。

 ならば一回こっきりの使い捨て、というわけでもないらしい。それはそうか、いくらかかったか知らないが、これ一基数百万じゃ済まないだろうから。

 じゃあいったい、戦闘が始まったらどうすればいいというのか。流石にちゃんと考えていると、得意気にしている母さんを信じるとしよう。

 

『今ダウンロードしてもらったのは、ギャラルホルン仕様になった際の専用OSってところかしら。そっちに切り替えれば、PICなんかを自動で調節してくれるわよ。それと、専用の拡張領域(バススロット)も込みね。つまり――――』

「……はぁ!? つ、追加パッケージを後付武装(イコライザ)として常に持ち歩けるのと同義ってこと!?」

「え、えーと、つまり?」

「なんでも入る便利なポケットが、もう一つ増えたってことかな。おばさんサラッと言ってるけど、拡張領域(バススロット)二つ持ちなんて聞いたことも……」

 

 専用OSの方はなんとなく理解できたが、次いで出た母さんの言葉に、ナツが何をそこまで驚いているのかわからなかった。

 えー……拡張領域(バススロット)っていうのは武装をしまっておくポケットみたいなもので、基本はこの一つのポケットに容量限度までの武装を詰め込むわけだ。

 例外となるのが後付武装(イコライザ)。その名前のとおり、後付けとして拡張領域(バススロット)に容量を確保して、そこにしまうという定義だったかな。

 ……あ、確かにこれ異常だ。後付けで確保するのに対して、後付で拡張領域(バススロット)そのものをつけちゃいましたよってことじゃないか。

 しかもそれが武装用でなく換装パーツ用。つまり、これでヘイムダルはいつでもどこでも高速移動形態になれるということになる。

 いや、ちゃんと理解すると本当にとんでもない。これを考えると、やはりシャルルにデータを渡さなかったのは正解のようだ。

 

『ギャラルホルンは手動操作かイメージインターフェースで即パージが可能よ。そして、パージと同時に自動で量子変換されて、専用の拡張領域(バススロット)にしまわれるってことね』

「おお、画期的な仕組み」

「がっつりISの勉強した私から言わせると、超非常識な説明が続いて頭痛いんだけどね」

 

 さきほどからナツの反応を見るに、母さんのほうが異常なんだろうな。ISの勉強を始めて数か月になるんだが、異常と思えない俺も少し危機感を覚えたほうがいいのだろうか。

 とにかく、これでようやく試運転に入れそうだな。他のみんなは……ちらほら始めてる専用機持ちもいるみたい。出遅れているってことはなさそうだ。

 とりあえずギャラルホルンの起動は最後に回すとして、PICと脚部のスラスターを用いて宙へ浮いて行く。それなりに高度を上げてからストップだ。

 

「ハル、墜落してもちゃんとフォローはするから安心してよね」

「了解。もしもの時は任せたよ」

 

 ナツも白式を展開し、俺より低い高度を漂っている。何かあったら受け止めるつもりなんだろうけど、このギャラルホルンはそういうことをしてる暇はあるのか?

 母さんは注意事項があったらちゃんと言ってはくれるし、変な取り扱いをしたら爆発するみたいな話はまったくなかった。

 なら大丈夫かと聞かれればそういうわけでもない。何が心配って、やっぱり単純にどのくらいの速度が出るかなんだよなぁ。

 運用モードをバージョン・ギャラルホルンに切り替えて、コンソールをいろいろと弄ってみると、出力調整の項目を見つけた。

 どうやら制限をかけられるみたいだけど、やっぱり使わない手はないかな。最初から100%で始めたら、絶対ろくなことにならないだろうし。

 

「ナツ、とりあえず半分の出力で始めるから!」

「オッケー。いつでもいいよ!」

 

 そのまコンソールを操作して、出力を最大の50%に制限。流石に半分まで落とせば、即墜落ってこともないだろう。

 えーっと、母さんが言うにはいつもと同じように飛べば、後はギャラルホルンのほうがいろいろ自動でやってくれるとかだったな。

 それでも不安は薄れない。というわけで、些細な事でもナツに報告しておくことにした。声を大にして呼び掛ければ、力強いサムズアップが返ってくる。

 やっぱりナツが一緒だと心強い。おかげで、少しは不安が解消されたかも。よし、それじゃあ始めるとしますか。

 俺は心の中で、静かにゆっくり十から数えてカウントダウンを始める。そしてカウントがゼロになった瞬間、思い切り前方に飛び出てギャラルホルンをブースト!

 そして俺は次の瞬間、たった次の瞬間に思い知ることになるのだ。やはりISが絡んだ事案で、母さんを信用してはならないのだと。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?!?」

「ハルーっ!?」

 

 ギャラルホルンが轟音を鳴らして虹色の光を噴くと共に、背中にとんでもない衝撃を感じた。ISを装備しているというのに、背中が弓なりに反れるほどにだ。

 だーかーらー! いろいろやり過ぎなんだってばもーっ! 出力50%に抑えて制御がままならないってなんなんですかぁ! というか、PIC自動調節の話はどこへいっちゃったんだ!

 というか速い、とにかく速い。制御できないうちに景色がどんどん後ろへ流れていく。既に動作は停止させているというのに……って、つまるところこれって余韻!? ますます意味がわからんよ!

 いや、母さんに文句言ってる場合じゃない。とにかくすぐギャラルホルンをパージして、モードを通常運用に戻して――――って、そんなの間に合えば、普段からISのことで苦労してないかー。アハハハハハー!

 なんて現実逃避を始めて数秒、バッシャーンなんて大きな音を立て、見事に海へと墜落した。そして腹が立つことに、海中でようやくギャラルホルンがパージされるっていうね。

 

「最っ悪だ」

 

 とにかくヘイムダルの展開を解除して海面へ浮上。完全に身体を脱力させ、浮力のみを利用してひたすら海面を漂った。

 自分でも珍しく思うストレートな悪態が飛び出たが、幸いに聞いている人は俺以外に居ない。だって海の真っただ中ですもんねぇ!

 ……はぁ、こういうのもやめておこう。そもそも母さんのぶっ飛びっぷりを見誤った俺の過失でもあるんだから。

 そして慌てて俺を追いかけてきたであろうナツと白式が見え、そこでようやく立ち泳ぎを始めた。そのまま片手を挙げて左右に振ってみると、ゆっくりと高度を落としていくのがわかる。

 余計な心配をかけてしまっただろうか。とにかく、回収してもらったら一番に謝ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、本当に助かったよ」

「はぁ~……びっくりしたぁ……! 本当に怪我とかしてない? 瞬時加速(イグニッション・ブースト)なんて目じゃない初速だったけど」

「うん、被害っていったらビショ濡れになったくらいさ」

 

 とりあえず、大事をとって陸まではナツに運んでいただいた。IS越しとはいえ、女の子におんぶされるのは少し気恥しかったけど。

 お手本のような墜落っぷりだったせいか、ナツはこうして救助してからもかなり心配なご様子。さっきから身体のあちこちを触って確認しているようだ。

 けど本当に痛むような箇所は心当たりがない。仮にもISのまま墜落したわけだし、絶対防御が発動して俺を守ってくれたんだと思う。

 とはいえ、あれが100%のまま試運転していればどうなっていたことか。……だめだ、これに関してはあまり想像しておかないことにしよう。

 さて、ならばこれからは、もっと出力を落として、どのくらいなら安定して飛行できるかを検証しないと。何度も言うが、今日のこの場は試運転のためにあるのだから。

 俗にいうトライ&エラーみたいな? 要するに、失敗は成功の基というわけだ。

 

「ナツ、目測どのくらいの速度で安定しそう?」

「今のを見るに、10%くらいから徐々に上げていくのでいいと思うよ」

「それも言えてるか。遊ぶ目的でもないのに、また海に落ちるのは勘弁だし」

 

 普段から高機動ISに乗っているナツに意見を求めるも、なんとも言えないというニュアンスの言葉が返ってきた。

 でもそうだな、50%から落としていくやりかたよりも、わずかなエネルギーから上げていくほうが安全策か。

 よし、ならそれでいこう。なんとかこの実習中に、形くらいはものにしたい。さっきも言ったけど、FT&Iの、ひいてはギャラルホルンの開発に携わった全ての人に報いなければならないのだから。

 それじゃあ気を取り直して。そうやって待機形態に戻したヘイムダルを手に取った瞬間のことだった。

 

「はっくーん!」

「……ナツ、今のは俺の幻聴だよね。お願いだからそう言って!」

「ご、ごめん、私にもハッキリ聞こえた。でも、本当にこんなところに?」

 

 声が聞こえたんだ。そう、声。甘ったるいような、もっとストレートに言うなら媚びたような声色だった。

 そして何より、あの人しか絶対に呼ばない固有の俺用あだ名。間違いない。俺に特別女性への苦手意識をつくった、ある種トラウマとも表現できるあの人!

 周囲を見回すがあの人の姿はない。ならば俺の幻聴であったらと、淡い希望を抱いてナツに聞こえたかと問いかける。

 だが空しくも、ナツも確実に声を聴いたという。ちぃっ! ならやっぱりどこかに居るのは確定か……。どこだ、いったいどこから――――    

 

「ん……? なんか周りが暗く――――ええええええっ!?」

「ニ、ニンジンが降って――――ハル、危ないっ!」

 

 警戒度MAXでどこから来るのかと様子を伺っていると、不自然に俺たちの周囲だけがフッと暗くなった。

 太陽に雲でもかかったのかと思ったがそれは違う。何を言っているのかわからないと思うが、超巨大なニンジンが降ってきているのである。うん、俺も何を言っているのかわからない。

 瞬時に例のあの人だと察するも、驚愕が大きくてその場から動けない。俺たちを直接狙ったわけではなさそうだが、慌ててナツが俺に飛びついてその場から退けさせてくれた。

 俺たちが地面に倒れ込んで数秒後くらいか、ズドンという大きな音と共に、突風と砂埃が舞ったため着地したとみてよさそうだ。

 ナツが覆いかぶさっている状態だから首しか動かせないが、件のニンジンを眺めていると、まるでSF作品の宇宙船みたく出入口らしきハッチがスライドして開いた。そして、その中から出てきた例のあの人とは……。

 

「やぁやぁはっくん、遠出してるって聞いて、この束さんが会いにきたよー!」

 

 ウサギの耳を模したカチューシャ。不思議の国のアリスで見たようなエプロンドレス。隈があったり顔色が悪かったり、それさえ除けば100点満点と評してよろしい美人さん。

 しかしてその実態は、頭の中身が母さんをも超すぶっ飛びっぷりを有し、世界のパワーバランスを覆したISを生み出した自他ともに認める天才科学者。

 そしてそんな人が、近所に住んでた友達のお姉さんであるという事実。この人こそ、知る人ぞ知る世紀の国際指名手配犯――――篠ノ之 束さんである。

 そして何より、俺がこの世で最も苦手とする人物だ。

 

 

 

 

 




ヘイムダルみたいなゲテモノを生み出しておいて、今更普通のブースターなんて面白くない。というコンセプトで生まれたのがギャラルホルンです。
といいつつ、いつものようにメリットとデメリットが極端って感じに仕上げてます。
そのあたりは詳しく解説を入れるとしまして、はい、天災兎さんがやって参りました。
彼女は本当に作品によって扱いが変わって面白いですよね。
この作品での立ち位置はどうなるか、次回をお楽しみに。





【ギャラルホルン】
晴人の実母である恵令奈が主導となり、FT&IのIS企画開発研究部が造り上げた高速移動用パッケージ。
特徴としては直線での速度。恵令奈の言葉どおり直線番長と呼ぶにふさわしく、逆を言うなら曲がることはほぼ不可能なほど。
だが更に逆をいうなら直線での最高速度は他のISを凌駕するものであり、現状で超すISはしばらく生産されることはないだろう。
また実用性も優れており、その場の即時換装。専用OSを用いることにより、自動でのPIC制御などの操縦者に優しい仕様となっている。
晴人が運用に慣れさえすれば、とてつもなく心強いパッケージになることだろう。
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