一応はフラグ立てでもあったりするんですけど、話せないことのほうが多すぎて何かを勘付くことはまずできないかも……?
(はぁ……。何も逃げなくったってよかったのになぁ)
波に削られたゴツゴツとした岩が目立つ磯に、一夏は隠れるように身を小さくして座り込んでいた。
きっかけはもちろん束の到来。一夏は束の姿を見て思い出したのだ。在りし日の彼女が、いったいどういうふうに晴人と接していたのかを。
当然ながら一夏の記憶には、確と束の晴人に対する過剰なまでのスキンシップが刻まれている。男の時ならまた晴人が餌食になるなで済んだ。そう、男の時ならば。
今となっては恋する乙女そのもの。思考や感情もほぼ女性のソレに染められている。ともあらば見ていられないという気持ちが沸き、こんなところまで逃げてしまったというわけだ。
(ハルに気安く触らないでください。なんて言えないしなぁ)
一夏はどこか彼女面、ないしそれと取れる行為を敬遠する傾向にある。前も言っていた、幼馴染というのを傘に立て、という部分と関連するのだろう。
実際のところ、幼馴染とひとことで済ませられる関係でないのが問題なのだろう。なんせ互いに離れていた時間のほうが短いくらいなのだから。
それでいて、ただ依存しているというわけでもない。これは恋愛感情を抜きにした話だが、とても大事な相棒なのだ。
一夏が右腕なら晴人は左腕。晴人が左足なら一夏は右足。一夏が剣なら晴人は盾。というふうに、揃っていて当たり前とでも表現すべき存在である。
なんとも皮肉な話だが、このあたりが互いにいま一歩踏み出せない要因ともいえる。最初から異性同士であれば今頃……な二人のため、本当の本当に皮肉でしかない。
(ん? そういえば、さっきからなんか爆発音が聞こえるような……)
「おい一夏、大丈夫か?」
「うわあ、ビックリした! 箒……それにそのISは?」
かなり深い考え事にふけっていた一夏だが、どこか遠くから爆ぜるような音が響いてきているのに気が付いた。
なにごとかと顔だけ岩から出して覗こうとしていると、真後ろから何かが降り立つ音と、聞き覚えのある友人の声が。
驚いた拍子に尻もちをつきながら視線を向けると、箒があからさまに専用機であろうISをその身に纏っているではないか。
先ほど箒が訓練の場を離れたのは、一夏の様子を心配してのことだった。束が晴人にひっつくのを見ていられない、というのを察したのだろう。
「私の姉が不安にさせてすまない。昔から、アレに関して真意を語ってくれなくてな」
「箒が謝ることじゃないよ。私がもっと堂々としてればいいだけの話なんだから」
IS、もとい紅椿を解除した箒は、未だ座り込んでいる一夏に深々と頭を下げた。
一夏からすればなんとも筋違いな話であり、両手をブンブン振ってそんなことは止めてくれと乞う。
箒の性質からしてそうせずにいられなかったのか、さっきとは違う意味ですまないと言いながら姿勢を正した。
そしてそのまま一夏の隣に座り込むと、なんとも言えないため息を吐いて見せる。
ギクシャクとまではいかないながらも微妙な空気が漂うが、更に空気を悪くしてしまう覚悟で、箒は重苦しく口を開いた。
「一夏。私はな、どうしていいかわからんのだ」
「えっと、何が?」
「時折お前たちにらしくない姿を晒しているだろう。あれも私の本心のつもりなのだが、それでもまだ私は――――」
「……私に男に戻ってもらいたいって思ってる?」
今度は澄み切った空を見上げるあたり、一夏はかなり重症そうだと判断を下した。元より一人で抱え込むのが箒であるため、話してくれるだけましという気持ちもあるが。
しかも自分が関わっているというのならなおのこと。一夏は人の問題に首を突っ込まずにはいられないのだから。
そして箒は自嘲するようにして、学園での二人を見守るスタンスについて語り、その反対の気持ちを持ち合わせていると正直な言葉を述べた。
もっともそれは見抜かれていて、箒は無言で首を振ることで肯定したのだが。
「前にも言ったけど、私はそれで全然構わないよ。だって箒には悪いけど、私の想いが揺らぐことってないだろうし」
「……以前から思っていたが、それは一種の油断なのではないか。一夏は誰も晴人に惚れないという前提で言っているような気がする。……どうも嫌な予感がするんだよ。あの人の晴人を見る目が昔と違う」
「それってどういう――――」
「シッ! 静かに……」
一夏の無意識的油断を指摘するよりも、箒には優先して気がかりなことがひとつ。束の晴人に向けての態度である。
周りの目から見れば子ども扱いのように思えるだろう。本人もからかわれているものだと考えている。箒だって、先ほど相対するまでは照れる晴人を面白がっているものだと感じていた。
だが違う。妹としての勘と表現しては自分でも忌々しいが、第六感的な部分が先ほどから警鐘を鳴らしていた。
いつも以上に眉間へ皺を寄せる箒に真意を問おうとすると、口元に指をあて静かにするよう指示を出される。
そして箒はコソコソと岩の影から様子を伺い、一夏もそれに倣って顔を出す。視線の先に映るのは、件の晴人と束であった。
「……ねぇ、箒」
「どうした」
「なんか、私も嫌な予感がしてきたかも」
「……私の思い違いであればと願うばかりだ」
二人の様子をというよりは、今の束をよくよく観察してみれば、一夏も拭い切れない違和感を覚えた。
いつも無邪気で天真爛漫かつ、いろんな意味でフワフワした人物である。というのが一夏の抱く束の印象だ。
確かに今だってその様相を呈してはいるが、どうにも表に出てしまっている。普段からは想像できないような、女としての表情が。
それこそ自分がそうであった覚えがあるため察しやすい。わけもなく頬が緩み、いつの間にやら熱視線を送ってしまう。そんな男を想う女の顔――――
一夏はまるで全身が凍り付くかのような思いだった。何かの間違いだ。それだけはやめてと内心で懇願するも、想定していた最悪のパターンが現実となってしまう。
「はっくん」
「はい、なんでしょう」
「束さんと結婚しない?」
「……はい? いや、あの、は、はい?」
「っ…………!?」
「一夏!? おい、しっかりしろ」
むしろ想定しうる最悪を、更に上回る最悪である。なんといっても、告白を軽くとおり越してプロポーズを目撃してしまったのだから。
瞬間、一夏の身体からは力という力が失せる。なんとか岩を支えにするも、顔を真っ青にして座り込んでしまった。
まだ晴人がオーケーすると決まったわけじゃない。むしろ一夏は、晴人がそういった問いに即答することができないことを知っている。
それでも、ここ最近さんざん言われてきたことが効いているのだ。あまりボーっとしていたら、いつの間にやらかっさらわれてしまうと。
一夏はどこかこうも思っていた。なんだかんだ、いつしか晴人は自分の想いをわかってくれるものだと。
そういった自分の油断がこの光景を招いたとするなら、一夏は絶望を感じずにはいられなかったというわけだ。晴人を、自分にとって唯一の男を取られてしまうという絶望を。
(あの人は……)
箒の中で黒い何かが沸き起こる。
誰が誰に対して恋慕を抱こうが、そのこと自体に罪がないことは箒も理解している。そうでなければ、晴人に恋する一夏など、到底受け入れられたものではない。
しかし、元より箒からして束の印象は悪い。これ以上がないくらいには悪い。
そんな人物が友人としての織斑 一夏を追い詰めているとなれば、冷静でいられるはずなどなかったのだ。
箒は振り向きざまに紅椿を展開。地面を強く蹴り上げ飛び上がり、一目散に束へと斬りかかった。
「貴女という人はああああああっ!」
「ほ、箒ちゃん!?
躊躇いもなく放たれた一撃は、ヘイムダル自慢の盾にて防がれてしまう。今の箒には束しか映っていないため、幸い晴人にヘイトが向くようなことはなさそうだ。
むしろ普段の箒からして、晴人は例え相手が誰であろうと庇うといった認識である。晴人の日ごろの行いが功を奏したともいえよう。
おかげで距離を離して着地した後も晴人のことが目に入らないレベルだ。しかし、向こうとしては目が離せないといったところか。
なぜならば箒は、様々な感情が渦巻いた結果、滅多に見せないであろう涙を流していたから。
「箒ちゃん、いったいどうしたっていうんだよ!」
「姉さん、貴女は、貴女は! まだ私の大切なものを壊さなければ済まないのか!」
箒の涙のわけ、それはすべてこの言葉に集約されているのだろう。
姉は友との絆を壊した。姉は家族との絆を壊した。姉は自分の取り巻く環境の、それらすべてを壊したのだ。
形は違えども、かつての友二人と新たな絆を紡ぎ始めた。それも今、姉の手によって壊されようとしている。箒は、それが悔しくて仕方がなかった。
箒だって自身の願いが成就されること、つまりは一夏が男に戻れる時が来たなら、同じように大切なものが壊れてしまうのはわかっていた。
だから、箒は一夏にどうしていいかわからないと呟いたのだ。だが自分の葛藤をよそに、やはり人の想いを踏みにじるかのような、そんな行いを平気でする姉が許せない。
「待って箒、落ち着いて」
「ナ、ナツ……? ん? えっと、二人してこんなところで何を……」
「え? えっと、それは、まぁ、置いといて……。とにかく、私は大丈夫だから。ね?」
「……一夏にそう言われては、従わんわけにはいかん」
姉を憎む妹という構図を見ていられなかったのか、一夏は急ピッチで気を取り直し、晴人と箒の間に割って入る。
箒はともかく一夏の登場に、晴人は首を傾げずにはいられない。一夏が誤魔化しにかかったのは見え見えなため、ますます気になってしまう。
追い詰められかけた本人の要望とあってか、箒は慣れた手つきで空裂を鞘へと納める。そして、そんな金属の擦れる反響が響き渡ると、空気も読まずに束が叫んだ。
「あったー!」
「ずっと探してたんですね……。あの、それってやっぱりもしかして――――」
「うんうん、束さん科学者だから
身体中をまさぐって何を取り出したかと思えば、清潔感のある小さなケースだった。晴人は前置きを聞いているので、その中身についてある程度の予測がついていた。
だからこそなのか、晴人は脂汗が止まらない。心臓の鼓動も、みるみるうちに早くなっていく。もし本当に自分の予想どおりとして、自分がどう立ち回るかを必死に考えているようだ。
実際はそれどころの話ではない。この場に居る全員が一応の関りをもち、それひとつで今後の運命すら左右するものなのだから。
「いっくん、というか、いっちゃん! 束さんの二年越しのリベンジだよ!」
「二年……? そ、それってつまり――――」
「そうそのとおり、性別を反転させる薬!」
二年前。とてつもなく正確に言うのなら、一年と数か月。間違いなく、織斑 一夏の性別が反転した年月だ。
リベンジというワードは置いておくとして、一夏の性別が反転する要因となった薬品を、束は見事に完成させて見せたとのこと。
そして空気が凍り付く。何を言えばいいのか、何を言うべきなのかがまるで見えないせいだろう。だから今できることがあるとするなら、束の反応を伺うことくらいだった。
とはいっても、彼女は彼女で相変わらず朗らかとした様子を崩さないわけだが。
「あ、あの! あまりに突拍子もないわけですから、みんなで状況確認……しませんか?」
「ん、そだね。いっちゃんも規約どうこうで、二年前のことも話せてないんだろうし」
「もしや一夏、事件の直後に姉さんと会っていたのか?」
「うん、事件から三日くらい経って、いきなり病室のベッドの下から出てきたからびっくりしたよ」
晴人に場を和ませようなどという気はまったくなく、とにかくこの状況はいろいろと整理をしていくことが大事だと考えた。
まず遡るべきは二年前というワードで、実のところ束本人から答えが示されているようなものでもある。つまり、そこらをゆっくり紐解いていこうということ。
箒も大体の事情を察して一夏に声をかければ案の定。いきなり出現と表現すべき行動をされた一夏としては、心底驚かされたできごととして刻み込まれているようだが。
「出て来かたはともかくとして、現れたときはやっぱりなって思ったかも」
「まぁ、束さんがそんな未知な現象をほっとくわけないもんね」
「どこで聞いたかはさておいてな」
「やだなぁ箒ちゃん、照れるぜ」
確かに晴人の言うことにも一理ある。
篠ノ之 束とは、恐らくその気になりさえすれば、できないことのほうが少ない大天才。そして性別の反転とは、当時の束においてできないにカテゴライズされる現象。
だからこそ束は悔しさ半分、興味半分ほどで一夏を尋ねた。自分にできないことを、誰かが成し遂げたゆえの悔いと興味であった。それこそ、箒の言うとおりどこで聞いたかはさておいて。
「いろいろ試してくれたんだけど、やっぱり束さんでもダメだったみたいで」
「束さんはそのまま退散ね! まードイツ軍にめっかっちゃったってのもあるんだけどー」
「……あぁ、規約ってそういう」
「束さんと接触したってことで、凄い数の規約書に署名させられました……」
先に束が言っていたとおりに、科学者であれども化学者ではない。興味本位で出向いたはいいが、準備が足りずに断念といったところだろうか。
ここにきて、近しい存在である自分がなぜそれを聞き及んでいないのか、晴人は納得したように呟いた。同時に、一夏に少しばかりの同情もむける。
あまりにも普通に接してはいるが、束が国際指名手配犯であることばかりは揺らがない。
それが自ら接触しにきて、なおかつそれなりの施術をほどこしたとあらば、それなりに口止めせねばならないこともあったろう。
一夏は腱鞘炎になりそうだったアピールなのか、トホホといった様子で手首を軽くブンブンと振った。
「まぁそのままってのは束さんのプライド的に許さなかったからさ、それでようやく形になったって感じ」
「だが結果的にとはいえ、貴女はソレを自分のために使いたいのでしょう」
「やだなー箒ちゃんってば! もし本当にそうなら、いっちゃんが寝てる時にでも投与しちゃってるよ」
「む、それは、まぁ、一理ある……」
注射器の入っているであろうケースを手にはしゃぐ束を前に、三人は一瞬だが顔を見合わせた。
そのアイコンタクトには、仕組みだとか原理だとか成分だとか、そういったものを確認するべきかどうか。という意味が含まれているようだ。
聞きさえすれば、束は懇切丁寧に教えてくれることであろう。だが丁寧に説明されたところで、常人では理解できない。という共通認識のもと、とりあえず言いたいことを述べることに。
先陣を切ったのは箒。相も変わらず、束を懐疑的に見ている旨を伝えた。例えそれが、自分に当てはまる言葉であろうとも。
しかし思惑外れ、束の反論に納得してしまう箒が居た。本当にそうならと前置きしているとはいえ、とんでもない畜生発言なのだが、実際に一夏への配慮がなったなら彼女はそうする。そうしていた。
嘘か真かあの篠ノ之 束が他人への配慮を見せているという事実に、実の妹が最も怪訝な顔を浮かべるという奇妙な光景が繰り広げられてしまう。
「んでんでんで~。ぶっちゃけていっちゃん、さっきの聞いてた?」
「は、はい。えっと、なんかすみません」
「まぁまぁ気にしない気にしない。束さんは気にしてないよ!」
それまで晴人の隣を離れようとしなかった束だが、跳ねるように移動して一夏の目の前で止まった。
若干たじろく一夏をよそに、束はここでひとつ事実確認。先ほどの晴人に対する求婚を聞いていたかどうかだ。
成り行きとはいえプライバシーがなかったと反省を口にする一夏だが、束はまったくもって気にしてやいない。そんなことを気にする性質なはずがない。
ではなぜそんなことを聞くのか。前述したとおり、ただただ事実確認。本当にそれだけのことだ。
「まぁお恥ずかしながら束さんもけっこう本気なわけですよ。さっきはしないって言いはしたけど、箒ちゃんの言葉も間違いじゃなかったりするしね」
「……私にソレを使ってほしい。ってことですか?」
「端的に言うならそうかな。けど強制もしない。でもねでもね、もしいらないって言うならさ、束さんをここで諦めさせてくれないかな~って思うんだよ」
しないとは言ったが間違いではない。その言葉には、かなうなら一夏を男に戻してしまいたいという思惑が微塵も隠れず露見していた。
誰もが見惚れてしまいそうな笑顔の下に、一夏は束の本気度というものを感じる。それこそ別にプレッシャーをかけられているわけではないが、思わずはいと返事しそうになりそうなほどには。
それでも念を押すように一夏の意思は尊重すると告げるも、ちょっとばかりの交換条件付きらしい。
諦めさせてくれないかという言葉に、箒は思わずピクリと片眉を上げる。どことなく違和感を覚えたというのもあるが、淡い希望を抱いてしまったといったところか。
(もしや姉さんは、一夏を煽っているのか? いや、だがしかし……)
第三者が他人の恋愛に干渉して成就させる、俗に言うキューピットのような役を買って出ているのではと箒は考察した。
そもそもの問題として、箒からすれば束が人を愛することができるのかどうか怪しいものである。それも相手は八つ齢下の、元は毛嫌いしていた男ときた。
だが、晴人に告白する際の束の表情を見るに、まるっきりそれ自体が嘘ではなかったというのが箒の抱く印象だ。その矛盾とズレが違和感を生み、期待と失望がせめぎ合う。
もし本当にキューピットのつもりならば、少しは見直すこともできるのではないかと。しかし、箒の魂はこう叫ぶ。期待するだけ無駄なのだと。
だからこそ全ては一夏に委ねることにした。もしここで一夏が束を諦めさせにかかったその時はと、そうやって覚悟を決めて顛末を見守ることを選ぶ。
「束さん。あなたの本心がどこなるのか、どうしたいのか、私には全然わからないです。けど、あなたのおかげで一つ決心がつきました」
(……そうか一夏、やはりその道を選ぶか。ならば、もはや私に言うことはない)
「ハル」
「う、うん」
織斑 一夏は元来より意志の強い性格である。先ほどまでの動揺っぷりのほうがらしくないのだが、その瞳には確かな決意が宿っていた。
やはり性別が変わろうとも、その根本までは覆らない。箒は今の一夏に対して、かつての一夏の姿が重なった。
その決意が晴人に対する恋慕から来るものだと思えば、どこか晴れやかにも思える感情が過る。それは間違いなく諦めであると言うのに、箒自身も不思議なくらいにあっさりとしたものだった。
そして一夏は晴人の名を呼び注意を引く。己の抱き続けた恋慕をここで示すのだと、様々な覚悟を決めて。そう、例え結果がどう転ぼうとも
「私、私はね――――」
『お前たち!』
「っ~!? お、織斑先生!?」
だが一夏が想いを告げようとしていたその時、通信機から千冬のよく通る声が鳴り響いた。その声色はいつものクールな様子とは打って変わり、隠しもしない焦りが聞き取れる。
瞬間、三人は先ほどまでの空気感を振り切った。特に一夏は代表候補生としてゆえか、特に顔つきが険しいように思える。
すかさず軽く二人へ目配せすると、晴人と箒はそれに応え力強く頷いて見せた。なんだか頼りがいのあるその姿を受け、一夏は自信をもって話を進める。
「織斑先生、トラブルですか」
『話が早いようで何よりだ。詳細は旅館内に配置した仮の会議室で話す。とにかく急げ!』
「「「了解!」」」
「束さん、そういうことなんで、話の続きは――――って居ない……?」
トラブルという言葉に対して否定が入らず、更には会議室を作ってまで話さなければならない。この時点で、やはりかなりの大ごとであるのは確定のようだ。
千冬の通信も要点だけ伝えてすぐ途切れてしまう。ということは、言葉どおりにとにかく急いで戻らなければならない。
が、やはりその性格上からか、束のことが気になる晴人が居た。せめてひとこと伝えてからでもと目を向けるも、既にそこへ彼女の姿はなかった。
「ハル!」「晴人!」
「ご、ごめん! すぐ行く!」
やっぱりよくわからない人だと首を傾げていると、遠くから憤りを含んだような幼馴染二人が己を呼ぶ。
現在置かれている状況を忘れたわけではないが、やはり配慮なんて考えている暇ではなかったと反省する次第。
要するに何をチンタラやっているのだと注意されたわけで、己の限界を超えるかの如く速度で二人を猛追。花月荘を目指してひた走るのであった。
ヒントを挙げるとするならば。
1.本編中で束が発した言葉の全ては
2.そもそも一夏が女性にされた理由
3.2を踏まえて、束が一夏を男性に戻したい理由
くらいですかね……。
これらのヒントでいろいろ想像を膨らませていただければ、私からしても楽しい気分になりますので、よろしければどうぞ。
ちなみに、真相は本編最終回あたりで明かすことになるかと。