臨海学校編における一連の事件が、晴人にとって大きなターニングポイントとなります。
「今より二時間前、運用試験中であった軍用IS
「…………!」
花月荘の大広間にて、比較的大きめな空間投影型ディスプレイを用いつつ、フユ姉さんが険しい顔つきで説明を始めた。
俺はのっけから動揺を隠せずにはいられない。軍用IS、暴走、空域を離脱……。これを聞けば俺みたいな素人だってわかる。それを俺たちで止めろってことも、これが実戦だってことも。
俺の予想を裏切らず、件の暴走ISは五十分後にここから二キロ先の空域を通過する見通し。なんとおあつらえ向きな。
だが動揺してはいられない。俺と箒ちゃんは変な話でただの専用機持ちだが、それを除いたみんなは確かに国家の元選出された実力者たち。
こういった事態に対する心構えも学んでいるのか、みんなして一切の表情を崩さない。特にラウラちゃんは、それを上回る真剣っぷりを発揮しているようだ。
そんなものを見せられた日には、俺だってナヨナヨしてるわけにはいかないだろ。だから唇を噛みしめ、それからフユ姉さんへと視線を戻した。
「それでは
「はい。ISのスペックデータの開示を要求します」
あれよあれよという間に作戦会議が始まってしまう。俺も何かあれば意見を述べようと脳をフル回転させていると、早速セシリアさんがスラリとした腕を伸ばした。
その内容はもっともというか至極真っ当というか、敵を知り己を知れば百戦危うからずというやつ。というか、相手のことを知りもせず懐に飛び込むなんて愚策にもほどがある。
フユ姉さんから許可は下りるものの、重要機密なため漏洩が確認された場合は査問委員会により面倒なことが起きると釘を刺された。
軍事機密というやつなのか、確かに
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型IS……」
「わたくしのブルー・ティアーズと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「えっと、これは、スラスターと射撃武装が一体化してるって認識でいいのかな」
「晴人、合ってるからそんな不安そうな顔しない。ってか、この時点でかなり厄介ね」
「逃げ回られながら攻撃されたらたまらないね。本国から防御用パッケージが送られてきてるけど、連続で受け切れるかどうかは怪しいかも」
「射撃性能は把握できたが、このデータでは格闘性能が未知数だぞ。格闘型の機体は外れたほうがいいのではないか?」
「自分で言うのもなんだけど、零落白夜の一撃必殺を捨て置くのはちょっともったいないと思う」
情報の開示を皮切りに、俺たちは思い思いのことを述べて作戦を固めようと奔走する。なんか俺だけ確認することしかできてないけど。
しかし、こんな時に考えることじゃないとは思うけど、この感じはなんかいいな。みんなで一つの目標へ向けて一体化してるっていうか、俺たちの絆が今試されてるっていうか。
とにかくいろいろ話し合いが続く中、機動性を考えるとアプローチは間違いなく一回が限度という結論へとたどり着いた。
なるほど、となるとやっぱりナツの言葉どおりの展開が理想か。本人がそれを一番よくわかっているのか、ナツの眉がキリリと吊り上がった。
「だが問題は、姉さまをどう運ぶかだな」
「移動にエネルギー使うのは……本末転倒……」
「超高感度ハイパーセンサーも必要でしょ」
(超高感度ハイパーセンサー……? そ、それってもしかして!)
鈴ちゃんの呟いた単語に覚えがあった俺は、邪魔にならないよう振り返りながら待機状態のヘイムダルを操作した。
インストールしたばかりのバージョン・ギャラルホルンのOS細部を確認すると、やはり機能の一覧に超高感度ハイパーセンサーという項目がある。
決まりだ、ナツを運ぶ適任は完全に俺とヘイムダル。上手くいかなかった際の保証も考えればなおのことだ。
俺が確認を行っている間にセシリアさんが自身の出撃を申し立てているが、それを遮って意見具申をするべく手を挙げた。
「織斑先生! 適任、俺です!」
「……とりあえず聞かせてみろ」
セシリアさんに注目が集まっていたせいか、いきなりな俺の大声に驚いたメンバーが数人いた。意見が固まりそうだったからか、セシリアさんは失礼なとでも言いたそう。
そんなセシリアさんの視線も流し、フユ姉さんの要求通りなぜ俺が適任なのかを述べ始めた。
まず最低条件である超高感度ハイパーセンサー備えていること。第二にギャラルホルンへの換装が文字通り一瞬であること。かつ、速度も折り紙付き。
そして第三に、失敗した際の退路の確保を想定できるという点。
零落白夜をもし外しでもした場合、ナツは正直お荷物同然。だが俺と一緒に出撃したことを考えれば、ヘイムダルには
シャルルは連続して受けるのは厳しいかもと不安を滲ませたが、俺は断言して見せよう。
そして後続としてセシリアさんに備えてもらい、援護を受けつつ空域から離脱。もちろんナツは俺が運ぶという想定だ。
俺としてはこれほどにない適任であると自負しているが、対するフユ姉さんは迷いがあるのか悩んでいる様子。
それは俺の実力不足を考えてのことなんだろうけど、そんなことは俺が一番よくわかってるよ。それでもなんだ、フユ姉さん。
「いけるか、日向」
「いけます! 俺にやらせてください!」
フユ姉さんは短く俺の覚悟を問いただしたように思える。
ここで迷っているようなら、フユ姉さんは却下という判断を下していたかも知れない。だから今までにない覚悟を示すため、俺も短い言葉でいける旨を伝えた。
そんな俺の珍しい様子に、フユ姉さんはこんな場だというのに姉の顔を一瞬だけ見せる。フッとクールに笑って見せると、作戦内容の決定をここに――――
「よろしい。それでは本作戦は日向と織斑の――――」
「ちょーっと待った―!」
「ぐぇっ!?」
「ハルーっ!?」
いきなり束さんが降って来た。ピンポイントに、俺の上にだ。
いくら束さんが女性と言えども、その質量はざっと見積もって40~50キロ強ほどか。そんな物体が天井から落ちてきたとしてその衝撃は――――
計算するのが面倒なので省くけど、俺はとにかく潰れたカエルみたく地面へとへばりつく結果に。それはもう、ビターン! という感じだ。
姿を消したかと思ったら、異変を察知して先回りして侵入したみたい。相変わらず絵に描いたような神出鬼没ぶり。
そのままフユ姉さんと束さんは出ていけとかやり取りを繰り広げるけど、とりあえず俺の上から降りてもらえないだろうか。
「……わかった、もういい。話を聞いたら問答無用で追い出すからな」
「えっとねえっとね、ここは紅椿の出番なんだよ!」
束さんを相手するなら諦めが肝心だ。どこまでも我を通そうとするから、欲求ないし目的をさっさと済まさせてしまったほうが早い。
そうやってフユ姉さんが折れるや否や、束さんはいきなり紅椿……と、間接的にその操縦者である箒ちゃんをやり玉に挙げた。
いきなりの提案に本人はびっくりしているようで、ついでに言うなら相変わらず怪訝そう。確かに、束さんが箒ちゃんに危険な真似をさせるなんて珍しい。
……もっとも、箒ちゃんは単に束さんが信頼できないだけだと思うけど。
「紅椿の展開装甲をもってすれば、パッケージなしで高速移動形態になれちゃうのだ! おばさまの造ったパッケージもなかなかだけど、総合的な戦闘能力を考えたら紅椿に軍配が上がっちゃうわけ」
「展開装甲? 要するに変形? なんか、ナツの雪片弐型と構造が似てるんですね」
「おやおやはっくんご明察! なんたって白式と紅椿は――――」
「え!? 束さんちょっと待って!」
「馬鹿者! それは日本のIS委員会に置ける最重要機密――――」
「束さんお手製の第四世代型ISだもんねっ!」
束さんがコンソールを弄ると、それまで
わかりやすく映像として紅椿の高速移動形態とやらの説明が入るわけだけど、なんだか俺には既視感というものがわいた。
なんとなくだけど、スライド変形の機構が雪片弐型と被る。そんな率直な感想を呟くと、突如としてナツとフユ姉さんがこれまでにないくらい焦り始めた。
いったいどうしたのかと問う暇もなく、束さんから超サプライズ的な爆弾が投下されてしまう。聞いてみてわかったが、そりゃ焦るよなって感想しか浮かばない。
代表候補生のみんなも驚きを隠せないのか、けっこうな音量で声を上げる者もいた。束さんに冷ややかな目を向けられ、それもすぐ止んだけど。
「お前たち、土下座でもなんでもしよう。今聞いたことはどうか内密に――――」
「だ、大丈夫ですよ織斑先生! 僕なんかほら、FT&Iに恩がありますし!」
「そ、そうです……。私たち……何も聞いてません……から……」
世界が第三世代の開発に躍起になってるっていうのに、第四世代造っちゃいましたなんて笑える話だし。いち代表候補生が束さんの手が入った専用機を駆ってるなんて大ごとだよなぁ。
詳しく言うなら白式は母さんと束さんの合作みたいだけど、これも大問題。いち企業のIS制作に束さんが関り、なおかつそれを日本政府が黙認ないし容認をしたということになるのだから。更にそれを隠蔽と……。
これが知れた日には、FT&Iは今後ISの作製や研究をできなくなるかも知れない。白式やヘイムダルも没収って話になるかも。
束さんはもう少し、自分が世間に与える影響力をわかってほしい。って言って聞く人なら誰も苦労しないよな。はぁ……。
「で、で? どうするどうする? 作戦内容、変更する感じでいっちゃう?」
「……篠ノ之、お前はどうだ」
「それが私のすべきことなら、選択の余地はありません」
「よし、ならば織斑と篠ノ之はすぐ準備を始めるように」
「は!? お、織斑先生、自分は――――」
「日向を含め、他の者は別室で待機するように」
俺の時とは少し毛色が違うようには思えたが、フユ姉さんは箒ちゃんにも覚悟を問う。向こうも安定の武人気質で答えた。
こうして箒ちゃんにも出撃許可が下りたようだが、さも当然のように俺の名が呼ばれず困惑せずにいられない。
抗議の声をあげてみるも、フユ姉さんはあくまで冷静に俺の作戦への参加を認めない。ちょっと待ってくれ、下すにしても正当な理由を話しほしい。
「納得いきません! 確かに紅椿が居れば事足りるかも知れないですけど、盾があって困ることはないと思います!」
「お前は失敗したパターンを想定しているようだが、織斑だけでなく篠ノ之も守ろうとするだろう」
「仲間なんだから当然のことです!」
「だからこそだよ日向。ハッキリ言っておく。高空域の戦闘で高機動の敵勢ISの相手をしつつ、なおかつ高機動の僚機二機をカバーする技術はお前にない」
時間がないことはわかる。信念の話なんてクソ喰らえな状況だってことも。けど、ここばかりは引き下がるわけにはいかない。
だから俺はあくまで食い下がった。普段なら一睨みされてそれで黙り込んでしまうけど、フユ姉さんにそんな目を向けられても決して怯まない。
それがかえって面倒くさそう。よりによってこんな時に、みたいな顔をしたのを俺は見逃さない。それでますます火がついてしまい、俺は完全に冷静さを失ってしまった。
そこまでやって、ようやくフユ姉さんは俺を出撃させない理由を語る。それは確かに正論で、いつもなら言いよどんでしまうところなんだろう。
しかし、それでも、だけど、さりとて、されど。やっぱりここで引き下がるわけにはいかないんだ。
「それならやっぱり俺とナツの二人で――――」
「紅椿で事足りるなら間違いなく篠ノ之を選ぶ」
「だからその理由は!」
「お前は……私にそれを言わせてくれるな! 足手まといだというのがわからんか! いや、わかっているんだろう、聡いお前ならな!」
「っ…………!?」
「……確かに努力は認める。お前はお前なりに頑張っているよ。だが、センスだけ見れば完全に篠ノ之のほうが上だ。それが天災手製の機体に乗った場合、日向との溝はますます大きくなる。……これ以上はもう勘弁してくれ」
あくまで出撃する姿勢の俺を前に、フユ姉さんは目元を抑えてからついに怒声を上げた。ただ鬱陶しいのが理由で怒鳴られたなら、まだ俺は駄々をこねていたかもしれない。
でもだめだ、これ以上はもう何も言えない。だって、フユ姉さんだって言いたくないっていうのがわかってしまったから。私にそれを言わせてくれるなって、絶対そういうことだと思う。
フユ姉さんは言いたくなかったんだ。俺のこれまでの頑張りを踏みにじるような、端的かつ単純で分かりやすい足手まといという言葉を。
そうとも、わかっているさ。わかっているとも。俺が紅椿を与えられた箒ちゃんに適わないことくらい。
箒ちゃんにもこれまで模擬戦の相手をしてもらってはいるけど、結果は俺の全戦全勝。それは箒ちゃんのISが打鉄だったから。
逆を言うなら、俺はヘイムダルを扱っているから勝たせてもらっていただけのこと。けっこう勝ちに拘った機体ではあるから。
けど、その時にわかっていたことがある。やっぱり箒ちゃんは、ISを操縦するセンスがあるって。専用機なんかを扱っていたら、きっと勝てないんだろうなって。
それが今、まさに現実と化してしまった。そのうえで、フユ姉さんがなぜ箒ちゃんを選ぶのかを説明させてしまった。勘弁してくれと言わせてしまった。
だったらもうダメだ。息を乱し、歯を食いしばり、強く拳を握ってこの悔しさに耐えることしかできない。そんな中、全力でたったひとことを絞り出す俺が居た。
「くっ、ぐっ……うぅ……! くそっ……! くっそぉ……! 了……解……しました……!」
「あーん、はっくんそんな顔しないで~。束さん、別にはっくんを傷つけたいわけじゃ――――」
「束ぇっ! それ以上余計な口を開くならば貴様を殺す!」
「わぁお、ちーちゃんってばぶっそーう! でも死にたくないから黙りまーす。お口チャ~ック」
本当にめちゃくちゃ物騒なやりとりだったが、正直フユ姉さんのフォローは有難かった。今の俺に何を言われても、理不尽な八つ当たりをしてしまっていたかも知れないから。
それからフユ姉さんは、悪くなってしまった空気を振り払うかのように、作戦開始の音頭を取った。……俺も気持ちを切り替えなくては。
専用機持ちたちの大半は、作戦をより強固なものにするため会議を継続。俺は男ということもあり、率先的に機材の運搬等の力仕事を引き受けた。
束さんは紅椿の調整をしているみたい。あれから律儀にフユ姉さんの宣言を守っているのか、鼻歌を除いて声というものを発しない。
……フユ姉さんと束さんには悪いことをしてしまった。それだけじゃなくて、他のみんなにもだ。さほど気にしてはいないかも知れないが、らしくない俺を見せたよな。
ほんとのところを言うなら、アレが本来の俺というのもあるんだけどね。どこまでも、どんな状況だってナツの隣に居なきゃ俺じゃない。そんな意志の希薄な僕が本当の俺で――――
「よーっし、準備オッケー! ちーちゃん、いつでも行けるぜぇ。あっ、これ余計な口じゃないからセーフだよね! って、これが余計な口だよねーっ」
「織斑、篠ノ之、準備はいいか」
「私はいつでも」
流石は製作者。俺からすれば何をやってるのかサッパリだったけど、その早さだけはすごいというのがわかる。……これ、紅椿起動の時にも似たようなこと言ったな。
とにかく、これでようやく本格的に作戦開始というわけだ。あとはこちらに飛来してくる
とはいえいくら機体がオーケーだとしても、作戦参加当事者の心の準備というものもある。それこそ待っている暇はないかも知れないが、待たなければならなくもあると思う。
けど余計な心配だったみたいで、箒ちゃんはいきなりの実戦にも全く動じていない。相変わらずかっこいいや、見てて安心できる。
それに続いてナツも大丈夫と宣言するかと思いきや、両手をキュッと握って少しばかり顔を俯かせている。
思わず顔を覗き込んで安心させる言葉をかけようとすると、ナツはそれと同時に姿勢を正してフユ姉さんにこう求めた。
「織斑先生、五分――――いや、一分でいいんです。少し時間をください」
「……許可する。ただし、一分だ。それ以上は待てん」
「ありがとうございます! ハル、ちょっとこっち」
「他の者は先に指定した部屋にて待機を。日向、用事が済んだらお前も即刻待機するように」
「え、あ、は、はい、わかりました……」
たった一分、されど一分。
だからナツが求めた一分は最低限。フユ姉さんが与えた一分は最低限、なのだろう。それこそ一秒も無駄にできないのに六十秒とは、ある意味で破格とも取れる。
さてその一分を何に使うのやらと漠然としながらナツを見ていると、その手が俺の手首を掴んで別室へと導いていく。
そのままフユ姉さんは待機指示を出すわけだが、さらりと後から合流するよう言われてなんだか拍子抜けだ。ナツに連れられていることもあってか、気のない返事をしてしまう。
と、とりあえず落ち着こう。時間厳守なんだから、俺が変にこまねいているとナツの貴重な一分を浪費してしまう。
それまでは引っ張られるような形だったが、しっかりナツについて行くよう歩を進め。すぐ隣の大広間へと入った。
反射的に襖を閉めてしまったが、そしたらそしたで薄暗いな……。かといって電気を探すのは、結局のところ時間の無駄なんだろうし。
そうやってうむむと唸っていると、俺の身体は柔らかく暖かい何かを感知した。それはもちろん、言わずもがな。
「ハル……」
ナツだ。ナツがヒシっとでも表現できるかのように、固く俺へと抱き着いてきたんだ。
もしや唐突な実戦にプレッシャーでも感じ、不安になってしまったのではないだろうか。
そう思考を巡らせて思わず抱き返すも、ナツの身体が震えているような様子はない。むしろいつもどおり過ぎて、逆にこっちが安心させられるような。
……待て待て、これから重要任務に赴くナツに安心させられててどうする。えっと、何かそれらしいヒントでもあればいいんだけど。
そうやってナツを観察し始めると、あることに気が付いた。何ってその表情。ナツのこちらを見上げる表情が、見たこともないくらいにウットリとしたものだったんだ。
「私のことであんな必死になってくれて、本当にありがとう」
「あ、ああ、さっきの? むしろかっこ悪いところ見せちゃったなって反省してるくらいだよ」
「でも、それだけ守りたいって想ってくれたんでしょ? だったら――――って、アハハ、今のはちょっと自惚れかな」
何かと思えば、俺が考えていたことよりもずっと単純だった。感謝してくれること自体は嬉しく思うけど、ちょっと自己嫌悪してたからなんだかなぁ。
でもナツは、そんなことはないという。自分を想ってくれた、その裏返しなんだって。でも、自分でそれを言って、自惚れてしまったと苦笑いを浮かべる。
……自惚れであるはずがない。感情の起伏はあまり激しいほうでない。それに無理してまでフユ姉さんに逆らうような性質でもない。
だというのに、俺はあれだけ必死になった。ならざるを得なかったんだ。それもすべてナツがそうさせたのだから、絶対に自惚れなんかでない。
「思ってるよ。俺とヘイムダルの力は、間違いなくナツのためにあるんだって。なのに――――」
「今回は出撃できない?」
「……うん」
そうとも、俺の得る力ないし得た力、それらすべてはナツのためにあるべきで、何より俺がそうありたいと心の底から思う。
なのに、単純に実力不足で着いて行けないなんてふがいなさの極みだ。俺にもっと才能やセンスがあればと、ないものねだりをしてしまう。
あるいは、もっともっと頑張っていれば、今回出撃するに足る実力を得ていただろうか。……これもだめだな、机上の空論ってやつだ。
これでは俺の掲げたテーマなんて、夢のまた夢というやつ。こういう時にナツの近くに居れないと、なんの意味もないじゃないか。
「ハル、そんな顔しないで。私はやっぱり、そうやって心配してくれるだけでもすごく嬉しい。絶対に、ハルの隣に帰って来なきゃって思える」
「ナツ……。うん、じゃあ俺の想いはナツに貸すことにするよ。だから必ず返しに来てほしい」
「ウフフ、じゃあその時は何倍にもして返すね。だから今は、お願い……」
想いを力に、か。なんともナツらしい言葉だ。きっと頭の固い人なんかは鼻で笑うんだろうけど、ナツは科学では証明できないようなパワーをとても大切にしているからな。
何度もう言うが、織斑 一夏がこういう人となりだったらばこそ、救われてきた者が山ほどいる。そして、俺がその最初の一人。
そう思うと、なんだかとても誇らしかった。俺の想いを力に代えてくれるということが。俺の想いがナツの力になれるということが、とても誇らしい。
後はご所望通りに力を与えるべく、ナツを強く抱き寄せた。多分、痛いと感じてしまうくらいの力は込めたであろう。でも不思議と、今はこれでいいんだと思える。
「……よしっ、充電完了! ハル、そろそろ時間だから――――」
「待ってよナツ、一番大事なの忘れてる。んっ」
「おお、いけないいけない。私としたことが、ついうっかり。それじゃ……」
ナツは少し強引なくらいに俺の腕から脱すると、言葉どおりに充電完了したかのような、そんな眩しい笑顔を俺に見せた。
そしてそのまま立ち去ろうとするが、手を挙げながら大事なのを忘れていると告げれば、すぐさまブレーキをかけて再度俺へと近づく。
まずは両手をそろえ、上下に交互にハイタッチ。お次は右手と左手で、それが終われば今度は左手と右手で小気味よくハイタッチ。最後に正面から両手のハイタッチ。
要するにいつものアレ、俺たちが大事な時に行う見送りの儀式。普段は最後の両手正面ハイタッチが終わればどちらともなく行動を始めるのだが、俺はすかさず指を滑らせてナツの手を握った。
「ナツ、信じて待ってる」
「うん。信じて待っててね、ハル!」
それだけ告げ合うと、ナツは今度こそ襖を開け放ちながら勢いよく飛び出て行った。
大丈夫、だよな。うん、大丈夫に決まってる。気心の知れた箒ちゃんだって着いてるんだ。なら負ける要素を探すほうが難しい。
……はずなのに、いったいこの胸騒ぎはいったいなんなんだ。こう、拭い切れない何かが、俺の胸中や頭でグルグル渦巻いているような……。
待て待て、数秒前に自分から信じて待つって言っといてなんだよそれは。そうだ、ナツと箒ちゃんなら必ずやってくれる。
ならばあとは、果報は寝て待てくらいのつもりで構えておこう。よし、俺も拘束なんかをされてしまう前に、待機指示が出された部屋へと向かおうじゃないか。
福音戦に一戦目から参加しない系オリ主ってどのくらいなんでしょうね?
福音戦はそうやって、出撃パターンが作品ごとに違って面白く思います。
まだ見たことのないのは、一戦目でそのまま勝っちゃうパターンでしょうか。
でも負けないと一夏のアレをどうすればいいのか、という問題も。う~む。
そういうわけなので、ウチの展開も乞うご期待であります。