ハルトナツ   作:マスクドライダー

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お気に入り1000件突破ありがとうございます!
コツコツ、ヒソヒソとやって参りましたハルトナツですが、なんだかんだ多くの皆様にご愛読していただいてこその4桁であると思います。
どうかこれからも、ぜひとも応援していただければ。

今回の後半より銀の福音(二戦目)に入ります。
ここから長くなりますけど、中盤における大きな見せ場なので張り切って参りましょう。





以下、評価してくださった方をご紹介。

ゆーまる様 ゆうびかなや様

評価していただきありがとうございました。


第49話 キミの代わり

 目指していた場所が近くなると、流石に足音を小さくする必要がある。見つかっても面倒ということもあり、最終的にはコソ泥のように抜き足差し足忍び足。

 念には念をというやつなんだけど、このぶんなら杞憂で済みそうだ。なら、後は最後の関門を突破するばかり。もっとも、それは僕の気持ちの問題でもあるんだけど。

 

(ここがナツの寝かされてる部屋、でいいんだよな)

 

 この襖一枚隔てた先に、ナツが眠っているんだ。厳密にいうのなら、大怪我をして昏睡状態のナツが、といったところか。

 躊躇うくらいならやめておいたほうがいいのかも知れないけど、どうしても会っておきたいというのも確かだ。それできっと、ようやく、全てに準備が整うと思うから。

 襖の前で数回深呼吸をしてから、ゆっくりと室内へと侵入を図る。時分としては夕方だけに、電気をつけていなくても視界は確保されていた。

 すると僕の目に飛び込んできたのは、ピッピッと一定のリズムの音を鳴らす心電図モニター。そして傍らに置かれている点滴パック。

 ……やはり、それらがないと心配なくらいの容体なんだと思い知らされる。知らず知らずのうちに生唾を飲み込むも、確かな足取りで布団へと近づいた。

 

「ナツ……」

 

 覚悟を決めてその姿を覗き込んだつもりが、苦い顔を浮かべずにはいられない。

 なんとか呼吸は安定しているようだが、あちこちを痛々しいであろう傷を保護するための包帯が巻かれている。もはや包帯をしていない個所を探すほうが難しそうだ。

 僕はもう一歩だけナツに近づき、それからゆっくりと腰を降ろした。しばらくナツを眺めて、まず第一に僕の口から出たのは――――    

 

「はぁ……まったくナツは。作戦どおり短期決戦狙ったほうが、密漁船もよっぽど安全に決まってるじゃないか」

 

 まるでナツが目を覚ましているかのような。そういう体で進める文句というかクレームというか、呆れが混じったような言葉だった。

 本当に起きていたら、どんな反論をしてきただろうか。なんて勝手な想像をふくらませつつナツを眺めていると、不思議と少し気持ちが軽くなったように思えた。

 医学的に見ても意識不明者に声をかける行為は、十分やる価値のある行為と聞いた気がする。興の乗った僕は、意識せずともいつものように、一人での会話を進めていく。

 

「うん、わかってるよ。身体が勝手に動いちゃったんだよね。それに皮肉を言っただけだし、ナツの行動そのものは、心から誇りに思ってる」

 

 ナツになんでそんな危ないマネをしたんだ。なんて聞いて、帰ってくる答えなんて初めから目に見えている。考えるよりも先に身体が動いたから、だ。

 本当に昔から何ひとつ変わってない。ヒーロー気質で、大きなことから小さなことまで、とにかく困ってる人たちを見過ごすことができないんだ。例えそれが、罪を犯している者たちだとしても。

 今となっては、ナツが密漁者を見放さないで少し安心しているのかも。犯罪者だから自業自得だなんて、そんなことを言うナツを見たくはない。

 その結果が怪我につながっているんだけど、だからこそ誇りに思う。今回のことで、ナツがより立派な人間であることの証明になっている気がしたから。

 

「けどさ、鈴ちゃんに前のナツと同じ顔してるって言われちゃった。そしたらちょっとだけ、思うところもあるかなって」

 

 あの時はナツとの関係修復に躍起になっていたせいか、僕が気絶した後のことなんて考えもしなかった。例によって、考えようもしなかったが正しいんだろうけど。

 だから鈴ちゃんに同じ顔だと言われ、きっと気持ちも同じだったんだと思った。目の前が真っ暗になって、何もする気なんて起きなくて、己の無力さを思い知らされるかのようなあの感じ。

 それをナツも味わったんだと思った時、ようやくなんてことをしてしまったんだと感じた。ナツを悲しませたと知った当時より、ずっとずっと。

 でもこれから僕がしようとしていることは、またしてもそんな気持ちを味わせてしまう可能性がある。完璧でない僕には、無事に帰ってくるよなんてとても言えない。

 だから僕は、逃げようと思う。弱気な僕からだ。無事で済まないかも、なんて考えてしまう僕から逃げるんだ。

 

「僕はキミを守る盾だ。僕がナツを守って、ナツが敵を討つ。今はそれができないから、だからせめて、守り続けるよ。ナツの代わりに、ナツの守りたいものを守るんだ」

 

 他のみんながどうでもいいなんて言わないが、ナツの大切なものだからこそというのは正直ある。

 僕に敵を討つだけの力がないならば、せめてナツが戻ってくるまで、ナツの守りたいものを守り抜こうと思う。

 僕は布団に手を潜らせ、慎重にナツの手を取った。壊れ物を扱うかのように優しく、ナツの手を両手で包む。

 

「だから、ちょっと行ってくるね」

 

 それだけ言うと手を離し、静かにその場から立ち上がる。またしても目撃なんかをされないように、コソコソと部屋を離れた。

 さて、ならみんなを探さないと。僕よりは絶対に立ち直りが早いだろうし、そろそろ集まっている頃なんじゃないだろうか。

 なんのための集合かって、そんな野暮なこと誰にも言わせない。もちろん僕らの目指す目標はただひとつ。

 銀の福音を撃破し、操縦者を救い出すことだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、みんな!」

「あ、やっと来た。おっそいわよもう。女の子待たせるなんてマナー違反なんじゃない?」

「えぇ……? 流石に今回は勘弁してほしいんだけど」

 

 そこらを探し回ると、特に苦も無く専用機持ち一同の姿を発見した。一応は声を抑えて呼び掛けながら駆け寄ると、鈴ちゃんがジト目で僕を見ていきなりのお小言攻撃。

 勘弁してくれとは言いつつ、やっぱり僕が悪いのは間違いじゃないからなんとも複雑。気まずそうに後ろ頭を掻くことしかできなかった。

 すると、複数の視線が僕のことを射抜いていることに気が付く。というか、鈴ちゃんとラウラちゃん以外の全員に注目されてるな。

 多分だけど、あっけらかんと僕がこの場にやって来たことが意外なんだろう。けっこうお恥ずかしいところも見せちゃったし、当然と言えば当然か。

 

「僕のことなら心配しないで。ちゃんと吹っ切れたからさ」

「心配するなって……無理がある……」

「そうだよ。なんなら、僕らはそっとしておこうって思ってたんだけど」

「鈴さんとラウラさんが、晴人さんは必ず来ると聞かないものでして」

 

 信用がないのとは違うけど、みなさんなんとも懐疑的なご様子で。……いや、信用がないのか? 今までの僕が僕だし。

 そう思うと、信じて待っていてくれた鈴ちゃんとラウラちゃんには感謝感謝だな。思わず視線を向けると、鈴ちゃんは何見てんのよと言いたげに睨み返してくる。

 ラウラちゃん? ラウラちゃんは、皆まで言うな弟よと言わんばかりにクールに微笑んでる。やっぱりこの子、僕よりずっと男前なんじゃないだろうか。

 

「銀の福音、追うんだよね? 全員が反対したって着いて行くよ。僕はナツの代わりをしに来たんだから」

「一夏の……代わり……?」

「ナツがダウンしてる間は、僕がみんなを守ってみせるよ。それが僕の役割で、僕がしたいことだから」

 

 本当、ここにきてヘイムダルの耐久性と長期戦闘能力が有難くて仕方がない。母さんは偶然だと言っていたが、まるで僕の意思を反映しているかのような機体だから。

 僕はやっぱり、相手を倒すぞ! って柄じゃないし。虹色の手甲(ガントレット)の殺意はそりゃ高いけど、結局のとこ本気で撃ててないという事実でお察しだ。

 にしても、みんなしてそんな驚いたみたいなリアクションをしなくていいじゃないか。確かに、こんなこっぱずかしいことなんて言ったことなかったけどさ。

 僕の意思に対してみんながどう返してくるかを待ち構えていると、尻に慣れ親しんだ衝撃を覚えた。していたのは心の準備だぞ、鈴ちゃんや。

 

「何があったか知らないけど、アンタ数段飛ばして成長し過ぎでしょ。アタシら口説こうったってそうはいかないわよ」

「えぇ!? 今のは別にそんなつもりじゃ――――」

「ん~……じゃあ一生守ってもらっちゃおうかな?」

「なるほど、ジャパニーズ俺の嫁宣言というやつだな? よろしい、ならば結婚だ」

「不束者ですが……」

「オルコット家も安泰ですわね」

「ここにきて悪ノリ!? ああもう、成長したっていじられる運命なのか!」

 

 鈴ちゃんの言葉が冗談だってのはわかるけど、間違えようのない美少女にそう言われちゃったら照れてしまうじゃないか。

 大慌てで訂正を入れたのかまずかったのか、みんなして悪ノリをし始めてしまうじゃないか。

 まるで僕の言葉を告白と捉え、更には口そろえてそれを肯定するかのようなことを言う。もっと言うなら、パーソナルスペースまで接近してから。

 みんな僕が恥ずかしがるのを期待してるんだろう。それなら狙いどおり、僕は更に顔が真っ赤になるのを感じた。

 僕が頭を抱えながら叫ぶと、みんなが一斉に笑い声を上げる。それがまたなんとも恥ずかしいという悪循環。こんな言葉を聞いたことがあるけど身に沁みたよ、無限ループって怖くね?

 

「晴人」

「箒ちゃん、ナツのことなら言いっこなしだよ」

「いや、ひとつだけ言わせてくれ。勝つぞ」

「もちろん!」

 

 手を団扇のようにしあおいで顔の火照りをどうにかしようと試みていると、みんなを少し退かせて箒ちゃんが近づいてきた。

 すぐに何を言おうとしているのかわかったので先手を打ってみるも、どうやら僕が思っているのとは少し違うらしい。

 帰って来たばかりの箒ちゃんも意気消沈してたから、てっきり謝られでもするんだと思った。これは少し失礼な考えだったのかも知れない。

 箒ちゃんは短くひとことだけ、強い覚悟の感じられる表情で、必ず勝つぞと意志の統一を図る。僕は力強く頷くと、視線をみんなにやってから前へと手を突き出した。

 すると鈴ちゃんがニッとした表情を浮かべ、俺の手へ手を重ねる。そして箒ちゃん、簪さんと、みんな次々と手を重ねていった。

 みんなの手が重なったのを確認すると、僕は再度みんなを見渡す。そしてスーっと大きく息を吸って、腹の底から声を出した。

 

「打倒、福音ーっ!」

「「「「「「おーっ!」」」」」」

 

 僕の声を合図のようにして、みんなが手を少し沈めてから大きく振り上げた。瞬間、とてつもない一体感というものが生まれた気がする。

 そして僕らはISが展開できるよう距離を置き、各々の専用機を身に纏い、空へと飛びあがっていく。

 僕はナツの手を取ったその両手を見つめ、小さくキュッと握る。それから待機形態のヘイムダルを手に取り、展開。みんなを追いかけるように飛び立つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………目立ぁつ! 晴人、アンタなんつーキラキラ放ちながら飛んでんの!」

「文句なら母さんに言って!」

「それ……お母様のセンスだったんだ……」

「はっ!? 自白しちゃった!」

 

 福音の位置については、ラウラちゃんがドイツ軍の協力を得て割り出したらしい。善は急げということで、僕もギャラルホルン仕様に換装して高速移動してる。

 もう思い切って出力を抑えに抑えたら普通に飛べた。それでも紅椿や高速移動形態のブルー・ティアーズに追い付けてるから驚きだ。

 のはいいんだけど、いかんせんブースターから虹色の光が放出されるもので。鈴ちゃんの言うとおりに超目立つ。

 僕もどうかと思っているだけに、ついつい文句は受け付けてないと返してしまう。……製作者が母さんという自白のおまけつきで。

 集中せねばならないというのに、いつものようにギャグっぽいリアクションをしてしまう。緊張していない証拠とかならいいんだけど。

 

「鈴さん、運んでいただいているのですから文句はご法度ですわ!」

「それにラウラが先行してるから、バレるとかバレないは勘定に入れてもしょうがないよ!」

「とにかく、追いつくことを頭に入れなければな」

 

 鈴ちゃんの甲龍に用意されたパッケージは攻撃型。そして簪さんの打鉄弐式は、事情があってパッケージを用意できなかったらしい。

 ゆえに、二人はヘイムダルの左右の腕へ捕まっている。本当はどちらかを背に乗せられればいいんだが、ギャラルホルンは背負うような形だからそれは無理。定員オーバーってことで、シャルルは箒ちゃんが担当だ。

 そしてちょっとした文句を言う鈴ちゃんを、こういう状態なんだからとセシリアさんが咎めた。続けてシャルルがラウラちゃんが先行しているからと続けた。

 現在のラウラちゃん、というかシュヴァルツェア・レーゲンは、砲撃形態であるパンツァー・カノーニア仕様へと換装している。そこで今回の作戦はこうだ。

 ある程度ラウラちゃんが先行し、長距離射撃で奇襲を仕掛ける。流石に射程圏外からの奇襲を受ければ、たじろぐないしのリアクションを取るだろう。

 その隙を狙い、高速移動のできる僕らが一気に接近。僕が鈴ちゃんと簪さんを、箒ちゃんがシャルルを連れてるから、専用機六機による物量にかまけた攻撃を仕掛ける。というものだ。

 つまりやることそのものは、ナツの時と根本的には変わらない。奇襲からの速攻。反撃を許さず一気に落としきることが目標だ。

 

『お前たち、目標を射程圏内へと捉えた。五秒後に撃つぞ。最大加速の準備をしておけ!』

「「「了解!」」」

『五、四、三、二、一……発射ぁ!』

 

 箒ちゃんの呟きを最後に、件のラウラちゃんから通信が入った。福音をいつでも攻撃できる射程へ捉えたとのこと。

 それを合図に、僕らは一気に表情を引き締めた。そしてラウラちゃんの指示に従うべく、密かにコンソールを操作して、加速の準備を始める。

 そしてラウラちゃんがレールカノンを発射した瞬間に合わせ、僕、箒ちゃん、セシリアさんは脱兎の如く勢いで福音へと突っ込んでいく。

 ギャラルホルンの半分くらい本気の速度に鈴ちゃんがギャーギャー言ってるが、それでも無視して一直線だ。

 

『初弾命中!』

「鈴ちゃん、簪さん、離すよ! 黄色の弩砲(バリスタ)!」

 

 通信機をとおして、僕らの耳には作戦の肝とも言えるラウラちゃんの奇襲成功の一報を得た。と同時に、二人を振り払ってギャラルホルンを一瞬だけ大きく吹かす。

 背をグンと押されるような感覚を味わったのと同時にギャラルホルンをパージ。後は慣性に任せても十分なほどの加速を得られている。

 そしてすぐさま右腕を黄色の弩砲(バリスタ)に変形させ、チャージさせながら福音へと狙いを定める。本当ならギリギリまで引き付けてから撃ちたいところだけど、奇襲の意味も薄れてしまうので――――

 

「いけぇ!」

 

 チャージ率は最大出力の半分ほど。それでも引き金を離したと同時に、黄色いエネルギー矢弾はものすごい勢いで福音に向かって行く。

 しかし、相手は高機動のIS。やはりいくら速かろうが直線運動しかしない矢弾は、ヒョイという軽い感覚でよけられてしまった。

 ところがどっこい、最初から当てる気なんてないんだなこれが。むしろ僕の目的といえば、福音に回避行動を取らすことそのもの。

 僕はヘイムダルをとおり越していく三つの機影、紅、青、橙、そしてその操縦者たちの名を呼んだ。

 

「箒ちゃん! セシリアさん! シャルル!」

 

 一瞬でとおり過ぎた故に僕の声が届いたかどうかすらわからないが、なんだか力強い返事か戻ってきたような気がする。

 その力強さを証明するかのように、福音の上方の三方向から手数にかまけた遠距離攻撃を仕掛ける。まるで絨毯爆撃のようだ。

 これにはいくら高機動型であろうと逃げ場などなく、ボディのそこらにレーザーや弾丸のヒットが確認できる。……それでもクリーンヒットがないのはすさまじいな。

 だがまだまだ、僕らの人数にかまけた作戦はこれで済まないぞ。

 

『————————』

「その反撃は想定済み……。日向くん……! シャルロット……!」

 

 暴走したISがこのままで終わるはずもなく、福音は強引な反撃にうって出た。そも、相手は種別分けするなら広域殲滅型。このような多対一の状況が一手でひっくり返る可能性だってある。

 福音はその場で回転上昇してみせると、スラスターから無数のエネルギー弾をまき散らす。目には目を、といったところだろうか。だが、これを予期して簪さんには微妙な射程を保ってもらったわけだ。

 ここで頼りになるのが打鉄弐式の代名詞とも言える、マルチロックシステム搭載ミサイルの山嵐。なんと簪さんが手動で軌道などを自在にコントロールできる優れもの。

 山嵐から放たれたミサイルは、まるで戦闘機のような三次元の編隊を組み、福音がまき散らしたエネルギー弾へと向かっていく。

 とはいえ手数で言うなら圧倒的に向こうが上。そこで、僕とシャルルの出番になるというわけだ。

 

「了解! 青色の塔盾(タワーシールド)、最大出力!」

「二人とも、僕と晴人がカバーするよ!」

「頼もしい限りですわ!」

「まったくだ。感謝するぞ!」

 

 簪さんの呼びかけに答えるべく、右腕を青色の塔盾(タワーシールド)に変形させ、すぐさま出力を最大まで引き上げた。

 RRCⅡを防御型に換装したシャルルも、ガーデンカーテンという名の物理シールド、そしてエネルギーシールドが二枚ずつ備わったソレを構えた。

 簪さんと打鉄弐式による反撃と防御を兼ね備えた攻撃は、正直に言うなら僕らへのダメージ度外視したものだ。だが被害を最小限に抑える努力を怠ってはならない。

 よって僕らは背中合わせになり、前後を大きくカバーしあう陣形を取った。その間に、箒ちゃんとセシリアさんが滑り込むような形だ。

 本当に紙一重、次の瞬間にはミサイルの爆ぜる音がそこらに響き渡る。そして爆煙に紛れて、福音のエネルギー弾もいくらか流れ弾として襲い掛かってきた。

 だがそれは向こうも同じ。見れば、鮮やかな軌道を描くミサイルがいくらかヒットしているようだ。よし、今のところ上手くいってる! となれば後は、彼女の仕上げを残すのみだ!

 

「アタシの距離っ!」

 

 これまで僕たちが仕掛けていた攻撃は、鈴ちゃんを福音の至近距離まで接近させる言わばお膳立てだったというわけだ。

 ミサイルの残した爆煙を突っ切るように福音の目の前に現れたのは、攻撃特化形態である崩山に換装を済ませた甲龍。その特徴となるのが、両肩に備えた龍砲が姿を変えている部分だ。

 普段の二門から四門に増設され、しかも熱殻拡散能力も追加されているという。要するに、空気をより圧縮させることにより発火し、衝撃砲に炎属性が加わったというところだろうか。

 

「これでも! これでもかってくらい! 味わい! なさいよぉ!」

 

 至近距離、というかもはやゼロ距離まで接近した鈴ちゃんは、個人的な恨みつらみも混じったような形相で熱殻拡散空気弾を連射し浴びせる。

 ドン! ドン! ドン! と大きな衝撃音が鳴るたび、まるで杭打ちのように福音は強制的に高度を落とされていくではないか。

 えげつないのが、ぶっ飛ばしてはまた距離を詰め、ぶっ飛ばしてはまた距離を詰め。というふうに、常にゼロ距離射撃を保ち続けているところだろうか。

 でも効果覿面なのが見て取れる。炎弾を受けるたび福音の装甲が熱を持ち、融解してひん曲がっているのがハイパーセンサーで確認できる。

 

「こいつで、とどめええええっ!」

 

 まさにとどめの一撃と呼ぶにふさわしい様相であった。

 鈴ちゃんは海面が限界まで近づくと、最大まで溜めに溜めて、それから最後の一発を発射したのだ。それも四門同時に。

 福音は視認するのが難しいくらいの速度で海面へと叩きつけられ、その衝撃の強さを表すかのような、それはそれは大きな水柱が立った。

 それこそ至近距離にいた鈴ちゃんはずぶ濡れだろうし、少し間を開けた場所にいた僕らも、降り注ぐ海水の雨にそれぞれ独自のリアクション取った。

 箒ちゃんは若干引いてるっぽく、セシリアさんは呆れてるみたい。シャルルは苦笑いを浮かべていて、簪さん……は、いつもの無表情だからわからないや。

 僕? 僕と言えば、きっと胸を撫でおろすような感じだと思う。だって、なんとか勝つことができたんだから。

 これは油断でもなんでもなく、ハイパーセンサーで福音の反応を感知できないからだ。それこそ海に沈むまでの一瞬、カーソルでロックしていた福音のエネルギー表示にEMPTYの文字も観たしね。

 だとすると操縦者さんを探さないとならないんだけど、今の感じ……不謹慎かもしれないが、死んじゃったりしてないよな? ……なんだか怖くなった。急いで無事を確認することにしよう。

 勝ちムードを壊すだろうが、みんなにも呼び掛け全員で捜索すればすぐ見つかるかな。なんて、僕が発声しようとしたその時だった。

 

『警告 熱源反応を感知』

「っ……みんな!」

「問題ない、こちらでも確認した! 総員、些細な疑問は捨てて身構えろ!」

 

 視界に映るのは赤い警告表示。そして耳元で鳴り響くのは、甲高いサイレンにも似た警告音。どうか間違いであってほしいという意味を込め、同じ現象が起きているかと呼び掛けた。

 代表として答えをくれたのはラウラちゃん。多分だけど、動揺するみんなを一喝するためでもあるんだろう。流石は現役の軍人さん、頼りになる。

 僕もおかげでいくらかは気が引き締まった。再度青色の塔盾(タワーシールド)を構えつつ、福音が倒れ墜落したはずの海を見つめる。

 しかし、ラウラちゃんは疑問を捨てろといったけど、本当にどういうことなんだ? 絶対、確実にしとめたはずなのに。

 

「あれは……何……?」

「エネルギーのドームに包まれてるみたいだけど……。って、もしかして!?」

二次移行(セカンド・シフト)!? なんというタイミングです!」

 

 海面から浮上してきたのは、半透明に光り輝く球体。その中心に、身を丸めるような状態の福音がわずかに確認できる。

 その姿でだいたいの事情を把握したのか、代表候補生たちは一気に顔色を悪くした。僕と箒ちゃんは、あるワードを聞いてようやく事の重大さを把握する。

 二次移行(セカンド・シフト)を簡単に説明するとしたら、モンスター育成系ゲームでレベルが一定まで達すると起こる……そう、いわゆる進化のようなもの。

 専用機七機との戦闘が、多大な経験値を与えてしまったとか? いや、このタイミングとなると、まるで福音が搭乗者を守りたがっているようにも――――

 

「いいじゃん、正直ちょっと物足りなかったとこなのよね!」

「うむ、何度立ち上がろうが、何度でも止める。私たちでだ!」

「箒ちゃん、鈴ちゃん……。……ラウラ姉さん、プランBでいいのかな!」

 

 鈴ちゃんのそれは、すぐさまやせ我慢からきた台詞だとわかった。どんな時でも強気な姿勢を崩さないのが彼女だから。

 それを知ってか知らずか、箒ちゃんが続く。それは僕らを激励し、士気を挙げるための言葉。私たちでという部分がとても背中を押してくれた気がする。

 二人の幼馴染が折れないんだ、男の僕が怖気づいてどうする! と、気合を新たにラウラちゃんへと呼び掛けた。あくまで戦闘が続くだけのこと、そう、それだけのことなのだから。

 プランBとは、先の奇襲作戦が上手くいかなかった場合を想定したもの。すると、指揮官であるラウラちゃんからはGOのお達しが。

 

「そうだな、それで構わんだろう。みなよく聞け、連携こそ我らの強み! 今度こそ確実にしとめるべく、心と気持ちを合わせていくぞ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 ラウラちゃんは、またしても軍人らしい振る舞いで更に士気を上げにかかった。

 これには不安げだった簪さん、セシリアさん、シャルルも完全に気を持ち直したらしい。了解と返事をする彼女らは、とても頼もしい顔つきをしていた。

 そう、そうだ。数の有利とかじゃなく、深い絆を育んだ僕たちが、急繕いの二次移行(セカンド・シフト)に負ける理由なんて絶対あるはずないんだ。

 逆にここにきて、ここまで負ける気がしない勝負は初めてかも知れない。僕はみんなと同じく、勝利を確信したような目つきで光る球体を真っすぐ見据えた。

 

『搭乗者の経験値が一定まで達しました。仮称識別色・橙(コード・オレンジ)仮称識別色・紫(コード・パープル)をアンロック』

 

 

 

 

 




二戦目第一ラウンドは割とアッサリ終わらせまして、次回からが本番といったところです。
それこそ晴人は牽制とカバーくらいしかしてないですからね……。
何より次回は新変形機構2つのお披露目もありますことですし、そのあたりも楽しみにしていただければと思います。
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