ハルトナツ   作:マスクドライダー

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話数からして節目となる50話ですが、はかったようなタイミングで内容にも要所要所へ大事な部分がちらほらと見受けられます。
神がかりとまでは言いませんけれど、一人で勝手に盛り上がっていたり。
そんなこんなでVS銀の福音 二戦目第二ラウンド開幕です。


第50話 真なる盾

(新機構解放!? それも二つ同時!? このタイミングで!?)

 

 今にも福音が進化を遂げようとしている真っ最中、耳にはヘイムダルからのアナウンスが入った。

 これでようやく七種類解放だと大手を振って喜びたいところだが、本当の本当にタイミングというものが悪い。

 ヘイムダルの変形機構及び武装は使用感が極端というか、なにかしらのデメリットを持っている場合が多い。いわゆるピーキーというやつ。

 試合中なら迷いつつも試運転を兼ねて使ってもいいが、これは実戦だ。それも周りには連携を取るべく仲間たちもいる。

 変な性能であることが発覚して僕だけが困るならいいけど、僕のカバーが必要になったりしたら最悪のパターンだよな。

 

(とりあえず、みんなにこのことを報告だけはしておこう)

 

 みんなに迷惑がかかることだろうが、絶対に使わないでおくと断言もできない。なぜなら、単に有能である可能性もあるからだ。それこそ逆転につながるような。

 ここにきて、母さんがどういう機構を用意したのか教えてくれなかったのが痛い。知ってさえいれば、迷う必要もなかったというものを。

 ともかく、情報の共有というのは大切だ。秘匿通信(プライベート・チャンネル)を用いて、変形機構が二つ同時に解放されたことだけは伝えておく。それと、行き当たりばったりな行動に出るかも知れないということも。

 手早くそれを伝え終えると、指揮官であるラウラちゃんから意外なひとことが返ってくる。

 

『弟よ、福音が動き始めたと同時にどちらか使え』

『賭けに出るってこと?』

『そうとも言う。が、使わず終わるのはもったいない』

 

 これは共有の回線のため、みんなも聞いていることだろう。それでもラウラちゃんの正気を疑うような表情は一切なかった。

 どうやら躊躇っていたのは僕だけらしい。確かにラウラちゃんの言うとおり、有能か無能かの五分五分なら、使わないでいるのはもったいない話だ。

 ならばすぐさま覚悟完了。みんなの信頼というものを一身に受け取り、僕は真っすぐ右腕を福音に伸ばす。

 後は橙と紫、どちらを先に使うかの判断を迫られるな。……ならここは、虹色を上から順番に唱えて二番目にあたる色――――橙からだ!

 

『――――――――』

仮称識別色・橙(コード・オレンジ)!」

 

 福音を囲う球体が弾けるのと同時に、コード・オレンジと高らかに叫ぶ。すると毎度おなじみ、右腕が橙色に発光。それから変形を始めた。

 手の甲の部分のパーツが浮いて、腕の中心あたりまでスライドして下がる。それに元から腕中心部に位置していたパーツと連結した。これは、台座か何か?

 後は僕の予想通り、台座らしき部分から、量子変換されていたであろう四つ連なった細長い砲身が生えてくる。ってことは、砲撃系の武装なのだろうか。いや、それにしては砲身が細すぎるし……。

 ……って、それは撃てばわかるものじゃないか。みんなの厚意に甘えさせてもらっている以上、考えている暇はない。すぐさま射撃用のトリガーを引いて、発射だ!

 

「どうかまともでありますように!」

 

 そんな僕の祈りが届いたのか、砲身から発射されたのは、橙色のレーザーらしきもの。つまりこれは、照射型のレーザーだなやった、すごくまとも! よし、橙色の熱線(ヒート・レイ)と名付けることにしよう。

 だが威力がそれなりにあるのか、発射し続けると徐々に後退してしまうようだ。威力はまだ全開じゃないみたいだし、これはまたPICの設定に気を遣う必要があるかな。

 あと問題があるとすれば、威力故に僕の足が止まってしまうこと。そして、黄色の弩砲(バリスタ)と同じで真っすぐにしか撃つことができなさそうだ。

 もっと言うなら、福音のような高機動型相手には楽勝で避けられてしまうことかな。

 

『――――――!?』

「ま、曲がった!?」

「曲がるどころの騒ぎではなさそうだぞ」

「ホーミング機能付きのレーザー砲、ですか。いったいどんな構造なのでしょう」

 

 今にもレーザーの先端が福音の横を通り過ぎようとしていたその時、橙色のレーザーがカクンと直角に曲がって再度福音に迫る。

 避けられそうになってはまた曲がって、避けられそうになってはまた曲がってを繰り返す。二次移行(セカンド・シフト)の影響か、福音の速度は上がっている様子だと言うのにしつこいったらない。

 仕組みのほうは置いておいて、これは思った以上に使える兵装かも知れない。照射している間が無防備なのは変わらないが、相手を追いかけてくれるのなら話は別だ。

 僕はPICの設定を変えてきちんとした支えを作ると、橙色の熱線(ヒート・レイ)の出力を上げた。すると予想通り、威力だけじゃなくて速度も増す。そして――――

 

「ヒット……!」

「晴人、やっちゃいなさい!」

「任せて! 最大出力!」

 

 決して僕の力ではないが、ついにレーザーは福音に命中。照射型なためそのまま出力を上げさえすれば、更に大きなダメージを機体できる。

 鈴ちゃんのどこか鬼気迫る声を受け、音声認識で一気に最大出力まで引き上げた。極太になったとはお世辞にも言えないが、砲身を上回るくらいの威力にはなったんじゃないだろうか。

 それに伴い、福音を後退させる速度も上がったように思える。よし、どうせならこのままっ削り切ってしまうつもりで――――

 

 ――――ボン!

 

「…………ボン?」

『過熱状態。冷却に時間を有します』

「晴人、いったいどうしたの!?」

「……ごめん、オーバーヒート!」

 

 突如として右腕が軽く爆ぜた。それはもう、なんともマヌケな感じにボン! と。それと同時にレーザーの照射も完全に止まってしまう。

 やけに有能が過ぎると思ったが、ここのところが欠点だったか! いや、これはちょっと考えたらわかることだったかも知れない。福音にダメージを与えることができて、調子に乗ってしまったか。

 過熱状態、つまるところのオーバーヒートとなった右腕は、冷却しきるまで他の変形も行うことはできないようだ。

 それはヘイムダルにとって致命的も致命的。右腕の変形が行えないヘイムダルなんて、ただの鈍足な木偶かなにかだぞ。

 素直に謝りながら現状を伝えると、みんなして一気に動き出す。その優しさが申し訳なさを掻き立てるが、僕は何より冷却のことを考えなきゃならない。

 

(となれば、海だ!)

 

 日も落ちて海水温もそれなりに冷たくなっているはず。というか、この熱気が上がってる右腕より温度が下回るのは考えなくてもわかること。

 みんなの援護を受けている間にさっさと済ませてしまわなければ、盾の役割を果たせなきゃ着いてきた意味ってものがないじゃないか。

 鈍足に鞭打って急降下をしかけると、ハイパーセンサーが警告音を鳴らした。つまりこれは、僕狙いか!? 隙だらけだから定石と言えば定石。   

 何度も言うけど福音は広域殲滅型。そこまで正確な射撃を行うことはできないはず。つまり、狙い撃ちなんてきような器用なことは――――

 

『――――――――』

「なっ、光る翼……?」

「っ……晴人さん!」

「へっ? ぐああああっ!」

 

 福音の射撃武装兼スラスターである銀の鐘(シルバー・ベル)から、神々しく輝く光の翼が現れた。これも二次移行(セカンド・シフト)の影響だろうか。

 いったいどんな用途なのだろうかと警戒を怠らないでいると、意外なところから攻撃が飛んでくる。完全に不意打ちであった。

 高火力ライフルで僕を見事に狙撃してみせたのは、射撃の名手と呼ぶにふさわしいセシリアさん。味方からの攻撃に一瞬だけ混乱したが、あの焦りようは何か理由が?

 制御を失って半ば墜落状態となると、僕のすぐ横を別の何かがとおり過ぎて行く。それは、ブルー・ティアーズのライフルなんて目じゃないくらい高密度エネルギーの塊だった。

 そして着水。鈴ちゃんの攻撃の際と同じく、巨大な水柱がその攻撃の威力を思い知らされる。

 僕といえば、もしセシリアさんが攻撃してくれなかったらと、肝を冷やしながら海面ギリギリで体勢を立て直す。そして、今の攻撃を仕掛けたであろう張本人を睨んだ。

 

「今のはいったい!?」

「多分……攻撃性エネルギーそのものを翼に……」

「かつ、それを収束して放出できるようになった。といったところか」

「それってまずいよ! 僕と晴人の盾コンビが要なのに、ガーデンカーテンじゃあれは受け切れない……!」

 

 ラウラちゃんの談では、これまで弾幕のように放っていたエネルギーを、チャージして発射できるようになったということか!?

 いやそれだけじゃない。注目すべきは形状を変化させることができるという点だろう。

 つまりあの翼に丸々包み込まれてしまえば、ほぼゼロ距離であの高密度エネルギーを受けることになってしまうってことだ。

 それはまずい、本当にまずい。発射されるだけなら、青色の塔盾(タワーシールド)の出力を上げれば四~五回は受け切ることができるだろう。けど、アレをゼロ距離かつ全方位からやられたら確実に沈む!

 シャルロットの言うとおり、プランBの要は僕らの盾。みんなのダメージを僕らが肩代わりする算段だったのに、これでは根本から破綻してしまうじゃないか。

 

「ならば目には目をだ。私と紅椿がスピードで翻弄する。お前たちは後方支援を!」

「待て箒! 今の奴に近づくのは自殺行為――――」

「何言ってんの、離れててもデッカイのぶっ放されんのがオチでしょ!」

「ええい、それもまた事実か……! 各機、箒を支援しろ! 誤射をせぬよう細心の注意を払え!」

 

 これといった打開策が見当たらないでいると、箒ちゃんが殿を名乗り出た。というか、僕らの意見も聞かずに福音へ向かって行ってしまう。

 独断専行だと叫ぶべきところなのかも知れないけど、福音に匹敵する機動力を有するのは現状で紅椿のみというのも間違いではない。

 だけど自分を囮にでもしろとでも言いたげで、そこは間違っても賛同はできない。だから、今は箒ちゃんを傷つけさせないこと。それが僕らのやるべきことだ。

 僕も遅れを取らないように、本来の目的であった右腕を海水で冷却する手に出た。かなりの温度まで達していたらしく、浸水させた瞬間にジュ~っと蒸発したかのような音が響く。

 と同時に、冷却が完了し、システムが復旧したことを報せるアナウンスが。とりあえず、よほどのチャンスがない限り本戦闘で橙色の熱線(ヒート・レイ)を使うのは止めておこう。

 

(けど、これからどうする!?)

 

 右腕の変形機能が元に戻ったが、すぐさま青色の塔盾(タワーシールド)を出して前線へ戻ることはしない。こんな状況だからこそ、局面を冷静に見極めるべきだ。

 福音はこちらが数で攻めると知るや否や、二次移行(セカンド・シフト)前と同様の戦術を取り始めた。つまり、高機動にかまけて弾幕を張るやりかただ。

 そうだよな、収束エネルギーよりはそちらのほうが格段に当てやすいはず。そうなると困るのは、僕の盾としての価値が薄れてしまうという点だ。

 福音に追い付けるのが紅椿のみというのなら、棒立ちになって困ったときに箒ちゃんから隠れにくるという手もあるけど、それなら今度は僕が標的になってしまうよな……。

 くそっ、このあたりがフユ姉さんに言われた足手まといってことなのかも。逆に盾としての役割が強すぎるんだろうか。

 

(だったら、賭けを続行だ!)

 

 そうこうしているうちに、みんなは弾幕のせいで攻めあぐねている。本来なら、やっぱり少しでも盾としての役割に徹するべきなんだろう。

 だがまだ可能性が残されている。仮称識別色・紫(コード・パープル)という、もう一つの変形機構が。

 相も変わらず全くの未知数ではある。が、先ほど橙色の熱線(ヒート・レイ)はダメージを与えることそのものには成功している。やはり使ってみるまでわからない。なら使うべきだ。

 こいつがその状況を打破してくれることを願って、腹から思い切り声を上げた。

 

仮称識別色・紫(コード・パープル)!」

 

 僕の声に呼応し、右腕に紫色のラインが走って変形を始めた。

 今回は珍しく指のパーツがキーとなるのか、右腕の五指の装甲がカバーを外すかのように浮いて行く。そしてそれぞれが伸びては連結し、一本の棒のような形状に。

 その棒が手首あたりに連結。先端に長方形のパーツが出現したかと思えば、そこから飛び出た紫色のエネルギーが何かを形成した。

 この綺麗なカーブを描きつつも、どこか恐怖心や禍々しさを印象付ける形状。間違いない、どうやら仮称識別色・紫(コード・パープル)の正体とは――――

 

(鎌か! なんか死神が持ってそうな感じの!)

 

 それならシンプルに剣なんかでいいんじゃないかとか、いっそのこと手に持って使うタイプでいいんじゃないかとか、言いたいことはいろいろあるが悪くないかも知れないぞ。

 恐らく想定されているのは中距離における範囲攻撃。前方180度をまんべんなく攻撃できるような、そんな変形機構は今までなかった。

 その用途が正しいとするのなら、これ以上に試すにはもってこいの状況はない。ならば命名、紫色の大鎌(ヒュージサイス)

 心中で新たな変形機構に銘をうつのと同時に、僕はヘイムダルにおける全速力をもってして弾幕へと正面切って突っ込んでいく。

 みんなの何をやっているんだこの馬鹿は、みたいな視線をよそに、僕は右腕を大きく薙ぎ払うように振るった。

 

「でぇやああああああ!」

「福音の攻撃を弾いてる!」

「しかも……一度にたくさん……」

「晴人、そのままいけ!」

「おっけぇええええい!」

 

 やたらめったらな弾幕ゆえに、適当に振っただけでも勝手に当たってくれる感覚だ。そして狙い通り、紫色の大鎌は福音の射撃を弾くことができる!

 どうやらこの紫色の大鎌(ヒュージサイス)、スイングスピードによって、エネルギーで形成されている刃が少し肥大化するらしい。ならこの武装において重要となるのは、回転だ。

 箒ちゃんの激励に返事をすると、またしても大きく右腕を薙ぎ払う。だが今度は勢いを殺さぬよう、振り切った遠心力を使って回転。それを繰り返して何度も何度も薙ぎ払う。

 流石に大きくなり続けるということはないが、こうするとかなりの大きさを保ったままでいられる。これで更に福音の攻撃を弾けるというものだ。

 しばらく無我夢中で紫色の大鎌(ヒュージサイス)を振るい続けることしばらく、右腕に走る攻撃がヒットする感覚が完全に消える。つまり――――  

 

「素敵ですわ、晴人さん!」

「は、はは……それはどうも」

「いいぞ弟よ! お前一人で奴を無力化できることが実証された!」

 

 紫色の大鎌(ヒュージサイス)は見事に僕やみんなの期待に応えてくれた。ここまで完璧に弾幕を防ぎきることができたのだから、自分でも驚いてしまう。

 だからセシリアさんの言葉への返事は曖昧になってしまった。というか、みんなのよくやったみたいな視線がなんともむず痒い。

 しかし気を緩めてはならない。これで防御の要は僕が担うことは確定なんだから、シャルルの補助も受けつつなら作戦を立て直せるかも。

 僕がそう意気込んだ瞬間のことだ。ロックオンの警告がハイパーセンサーに表示され、僕自身もかなりの嫌な予感を覚えた。

 どこか本能的に、または身に着いた習慣的に青色の塔盾(タワーシールド)を展開させると。気付いた時には目の前で閃光が炸裂し、僕は大きく後方へ吹き飛ばされていた。

 

「ぐぅっ!?」

「日向くん……!」

「だ、大丈夫! ギリギリセーフだから!」

 

 僕を襲ったのは間違いなく福音の収束エネルギー。あと一瞬でも対応が遅れでもしていたら、あれを直撃させられるところだった。

 どうやら完璧に油断してしまったらしい。一筋の光明が見えたことにより、気持ちが浮ついてしまったのだろう。

 やはり青色の塔盾(タワーシールド)で防いだにしても威力が半端ではない。だが、憶測ではあったが五発くらいまでなら問題ないというのも合っているようだ。

 それってつまり残り四回までって話になってくるんだけど。しかもそれ以外の攻撃を喰らえば、もっと回数は減ってしまう。

 それよりも最もまずいのは、福音が完全に僕へターゲットを絞ったことかな。ラウラちゃんの時と同じで、厄介なのからとっとと潰そうって意図がヒシヒシと伝わってくる。

 だが裏を返せばこれは好機。機動力については相性最悪だが、ヘイムダルの鬼耐久に対処できていないなら、他の六人は福音への攻撃に専念できるだろう。

 

(けど問題があるとすれば――――)

『――――――――』

「やっぱりそうくるよな……! みんな、なるべく耐えてみせる。ここは僕を信じて、福音へ攻撃を!」

「チッ……! 弟を救いたいと思うのならば、弟の指示に従え!」

 

 ジッとこちらを観察していた福音だったが、一気に僕へ接近をかけてくる。魂胆としては、例の翼で捕まえてゼロ距離からの集中砲火を浴びせる気だろう。

 それをやられては間違いなくヘイムダルでも耐え切れない。福音は機動力に任せて、鈍足なヘイムダルを捕まえるつもりなはず。だから逃げの一手という策にも出ることはできない。

 だから僕にできることがあるとするなら、耐えられるだけとにかく耐えて、みんなにチャンスを与えることだ。これも、僕の盾としてできることなはずだから。

 僕の覚悟を理解してくれたのか、ラウラちゃんは苦虫を嚙み潰したような顔つきながらも提案にのってくれた。ありがとう、ラウラちゃん。期待には応えてみせるから。

 

(だけどやっぱり速い! 青色の塔盾(タワーシールド)でドッシリ構えてるだけじゃどうにも――――)

『――――――――』

「っ……フェイント!?」

 

 前方に青色の塔盾(タワーシールド)を構えつつ必死に後退。しかし、目に見えて福音との距離は詰まる一方だ。このままでは健闘する暇もなく落とされてしまう。

 そんな僕の焦りを嘲笑うかのように、福音は真横をとおり過ぎてすぐさま反転。見事なフェイントをしかけてくるではないか。

 そして弾幕を張り、エネルギー弾を引き連れるようにして再度突進をかけてくる。だったら、みんなを信じて弾幕を防ぐ!

 

紫色の大鎌(ヒュージサイス)!」

 

 多分というか絶対なんだが、紫色の大鎌(ヒュージサイス)で弾幕を防ぐ選択をするなら捕まってしまうだろう。だが捕まえるまでの数秒は完全に隙ができるはず。

 みんながその隙を突いてくれることを信じ、みんなの活路を開くのが僕の仕事だ。これまで築き上げてきた信頼関係が勝利のカギだなんて、なんだか燃えるはなしじゃないか。

 ハイパーセンサーである程度コースを予測。まず当たりそうにないのは完全に無視して、みんなのところに飛んでいきそうなのを優先して弾いていく。

 ああでも、いくらみんなを信じるっていってもコレは心臓に悪い。鳴り響く警報、徐々に近づてくるのがわかる福音。そしてついには光の翼が僕を――――

 

「させるか貴様!」

「わたくしたちの目の白いうちは!」

「晴人に指一本触れさせない!」

「以下同文……!」

 

 あわや撃墜寸前のところ、文字どおりの援護射撃が僕を救った。

 元より遠距離機であるブルー・ティアーズ然り、砲撃形態のシュヴァルツェア・レーゲン。そしてもちろんシャルルと簪さんの射撃も正確だ。

 向こうも攻撃寸前のところが影響したのか、いくらか攻撃を受けてから逃げの体勢へと入る。しかも毎度のように弾幕の反撃つきだ。

 

(となると、箒ちゃんと鈴ちゃんが……)

 

 四人が射撃での援護を試みたのをみるに、僕を救助するのと同時に福音を牽制する目的があったと見た。ならば攻撃に参加しなかった二人は、近接戦闘を仕掛けるであろうことも。

 ハイパーセンサーで紅椿と甲龍を捉えると、そこには攻撃に入ることをどこか躊躇っている様子の箒ちゃんと鈴ちゃんが見える。

 攻撃は最大の防御なんて言ったりするけど、福音の場合は防御と攻撃を兼ね備えている感じだよな。

 だがそっちがその気なら、正面から押し通らせてもらうことにしようじゃないか。

 

青色の塔盾(タワーシールド)! 箒ちゃん、鈴ちゃん!」

「晴人!? ……お前がそう言うのであれば致し方ない!」

「無理はすんじゃないわよ!」

 

 僕は素早くギャラルホルンを装備し、瞬時加速(イグニッション・ブースト)のように一瞬だけブースターを吹かして福音の頭上へと躍り出た。

 そしてパージと同時に、今度は右腕を青色の塔盾(タワーシールド)へ変形。盾を構えて急降下し、福音へ突っ込んでいく僕を見て、二人は意図を察したのかヘイムダルの背後へとついた。

 つまりそういうこと。僕が盾となって弾幕を受けることにより、二人を近接格闘の射程範囲内へと送り届けようということだ。

 弾幕は狙いが荒いとはいえエネルギー弾の数が数だ。この場合は青色の塔盾(タワーシールド)の大きさが仇となって余計なやつももらってしまうが、二人を守れるなら安い!

 

『――――――――』

「なっ……!? 初めからそれが目的――――ぐああああっ!」

「晴人!?」

「しっかりしなさいよ! 晴人がくれたチャンス、無駄にするわけにはいかないでしょ!」

「くっ、ごもっともだなっ!」

 

 好調なままエネルギー弾を放ち続けていた福音だったが、それをピタリとやめて僕へ向けて収束エネルギーを放って来る。

 速度がついていたしあまりにいきなりなことで、当然のように回避は間に合わず直撃。僕はまるでバットに撃ち返されるボールのように、大きく後方へと吹き飛ばされる。

 幸いなのは、その際に二人を巻き込まなかったことだろうか。

 箒ちゃんは僕を案じるせいで少しばかり気がそれてしまったようだが、鈴ちゃんの一喝によって調子を取り戻したようだ。

 そして、二人の強烈な近接格闘が福音を襲う。

 

「はぁっ!」

「これで、どうよ!」

 

 まず斬り込むのは速度で勝る紅椿。箒ちゃんの見事な太刀筋による空裂と雨月の連撃が入る。

 そしてその隙を突くように甲龍。両手もち状態の双天牙月を豪快に同時に振るい、それはそれは大きな刀身を福音へと叩きつけた。

 特に鈴ちゃんの一撃に関しては、福音の胴体へと一瞬だがスパークが走ったように見える。決定的ではないが、文句なしの大ダメージではなかろうか。

 よし、そういうことなら僕とヘイムダルが身体を張った意味があるというものだ。ただその代償として、青色の塔盾(タワーシールド)へのフィードバックダメージを受けてしまったわけだが。

 

(……あと二回ってところか)

 

 油断して収束エネルギーを受けて残り四回。箒ちゃんと鈴ちゃんを守る目的弾幕を受け残り三回。その際にまんまと罠にはまり、収束エネルギーを受けて残り二回……かな。

 あくまで収束エネルギーを受けて大丈夫な許容範囲であり、もっと大げさに言うならヘイムダルの稼働限界が目と鼻の先ってことだ。

 大ダメージは与えられても致命的ではない。僕の盾があるのとないのじゃやり易さってのが違うだろうし、いい加減に何か決め手になるような何かを見出さなくては……。

 それは福音も同じことを考えているだろう。なんだかんだ、追い詰めることができているのは僕一人だけなわけだし。

 そうなると、これから福音はどんな手に出てきてもおかしくはない。十二分に気を引き締めていかなくては、風前の灯が一気に消えてしまうことだって    

 

『――――――――』

「……!? 箒ちゃん、鈴ちゃん!」

「くっ! な、なんだというのだ、いきなり晴人に興味を失ったかのように!」

「あれだけしつこかったのに……見向きもしない……?」

 

 何か大きな一手を打てないかと考えを巡らせていると、福音は比較的に近場であった箒ちゃんと鈴ちゃんへ向け、それぞれ収束エネルギーを放つ。

 しばらくターゲットを僕に絞っていたのが嘘のよう。というより、あの様子を見るに実際外されていると見たほうがいい。

 ……もはや脅威ではないとみなされた? もしくは僕の盾という役割からして、しつこく狙わなくても勝手にダメージを受けてくれると判断されたとか?

 いや、今はそんなことどうだっていい。確かにここまで削られている以上、無視されるというのが最も効果的であるというのは事実なんだ。

 だから僕が考えるべきことは、いかように僕を無視して攻撃する福音の妨害ができるかだ。

 けど福音の速度を勘定に入れた場合、僕の技量不足によってあらゆる攻撃を当てることは難しい。変に攻撃をしかけ、ラウラちゃんが言ったように誤射が起きては本末転倒だ。

 

(だとするなら、だとするなら……!)

 

 僕の実力不足を呪うよりも、もっとできることがあるはずだ。でなければ、僕は何をしにここへきたのかわかったものではない。

 そう、思い出せ、僕はここにナツの代わりをしに来たんだ。いつだって真っすぐに、誰かのためにありつづけるナツの代理なんだ。

 だから僕にしかできないことを。僕がするべきことを全力でやるしかない。それなら初めから答えは一つ。僕にはやっぱりコレが一番性に合ってると思うから!

 

(やはり砲撃形態では機動力に難が……!)

「ラウラ、危ない!」

「しまっ――――」

「させないさ! ぐぅぅぅぅ!」

 

 福音は弾幕と収束エネルギーを巧みに操り、逃げ場を塞いで一気に打ち抜く戦法に切り替えていた。恐らくこれといったターゲットは定めておらず、隙を見せたものから順に落とす予定だったのだろう。

 その最初の一人となったのが、砲撃形態へ換装しているがゆえに機動力が落ちているラウラちゃん。射撃で応戦するも、福音が攻撃を躊躇う様子はない。

 もはや福音からすれば的のように思えたのか、偏差射撃をしっかり計算しつつ、ついにラウラちゃんへ収束エネルギーが放たれる。

 だからこそ僕のとった行動は――――まぁ、先ほどまでとあまり変わってはいない。

 ギャラルホルンを装備してラウラちゃんの元へ急行。そして、青色の塔盾(タワーシールド)にてダメージを肩代わりしたのだ。

 

「あと……一回……!」

「馬鹿者! 何をそんな無謀なことを!」

「ごめんラウラ姉さん。でもさ、やっぱり、僕にはこれしかないから」

 

 そう、やっぱり僕にはこれしかない。僕にはみんなの盾になるくらいしかできない。

 とはいっても、かつてのようにネガティブな意味を込めているつもりはない。だからあえて言うなら、盾になることができるんだ……って感じ。

 僕にしかできなくて、僕にならできること。だから僕がこの場で選ぶのは、最後の瞬間までみんなを守り通すことだ。

 自己犠牲じゃなく、みんなと共に前へ進んでいくために。みんなと共にいたいから、僕は盾になりたい。僕は壊れるためにあるんじゃなく、みんなと共にありつづけるために。

 

(そうだろ、父さん……)

 

 無人機の一件が終わったあの日、父さんが僕に言った言葉の意味がようやく分かった気がする。

 盾の役割っていうのは、永久的でなくちゃならない。例え守り切っても、壊れてしまえばまるで意味がないんだ。

 やはりあの日の僕は、全てが自己満足だったらしい。どこか壊れない盾なんてありえないと決めつけ、その身を犠牲にして、ナツを守っていた気になっていた。

 僕は前に出てこその盾と思っていたが、それもどうやら違ったみたい。そうだよな、盾は使う人が持ってないとならないんだから、前でも後ろでもなく、あるべき場所は隣しかないじゃないか。

 それが今になってようやく、やっと答えを見出すことができたというのに――――

 

「晴人おおおおっ!」

 

 眼前に迫るは福音。耳に鳴り響くは警報。もっとよくみてみれば、福音はエネルギーの翼を開いて今にも僕を包もうとしている。

 収束エネルギーを受け続けたせいか、僕にも疲労が蓄積してしまったらしい。完全に、なんの回避行動をとることもできなかった。

 ここまで、なのか? 答えを見出すことができたのに、何もできないまま終わってしまうのか? 父さんが僕に言ってくれた、真の盾になれるチャンスだったというのに。

 

(……願わくば、ナツ。もう一度でいいから、キミの隣で、キミと一緒に戦いたかった)

 

 僕がそうやって、悔恨の念を抱きながら目を閉じたときのことだった。すさまじい轟音を鳴らし、収束エネルギーが弾けたであろう衝撃波を感じる。

 だが、不思議なことに僕へのダメージは一切ない。収束エネルギーが外れたわけでないとするなら、どうして僕は無事でいられるのだろう。

 あまりにも不可解な事態に、僕は顛末を確認すべく目を見開いた。そして僕の視界に広がる光景は、混乱と納得を同時に呼び込む。

 確かに昔からいろいろタイミングのいい奴ではあったというか。でもそれってピンチにならないと現れてくれないってことっていうか。

 ほんっ……とにもう、人の気も知らないでさ。ヒョコっとやって来てはサラッと僕のこと助けてくれちゃって。やっぱりキミはすごい奴だよ。でもさ、今回ばっかりはちょっと――――

 

「遅刻が過ぎるんじゃないの? ナツ!」

「あはは、ごめんごめん。でも、憎い演出って感じじゃない?」

 

 ナツだ。僕の目の前には、間違いなく織斑 一夏が居る。こっち皮肉を言うので精一杯だっていうのに、いつもの綺麗な笑みを浮かべているではないか。

 本当はいろいろ捲し立てるよう質問攻めにしているところだが、あんな大怪我した姿を見せられた後ではそんなことどうだってよく思えてしまう。ただ、そこでナツが笑っていることが重要なんだ。

 というか、僕が命を救ってもらったっていう事実は変わらないから、そうナツのことを気にするのは止めておこう。しかし、雪片弐型で収束エネルギーを裂いたってことなのか?

 

「で、あれ姿が変わってるけど、パワーアップしちゃってる感じかな」

「そういうナツこそ」

「そうだね、寝て覚めたら二次移行(セカンド・シフト)してた」

「随分と簡単そうに言ってくれちゃって」

 

 ナツの白式はどこか西洋の鎧じみたデティールだったが、デザイン的にはどちらかというなら武骨な様相を呈していた。

 しかし、ナツが今装備している白式は、よりシャープに、より繊細に。といった感じで、各所のラインがどこか女性を思わせる姿に変わっている。

 よくみなくてもウィングスラスターが四枚に増設されているし、なんなら雪片弐型も白銀って感じの色合いだったけど、機体に合わせたような真白(ましろ)に。

 これを見て二次移行(セカンド・シフト)であると考えたけど、寝て覚めてって本当簡単に仰ってくれる。でもきっと、それまでに何かナツにも心境の変化があったに違いない。

 

「ところでナツ、ひとつお願いがあるんだけど」

「一緒に戦ってくれる? とかなら聞くまでもないからね」

「あれ? ははっ、おみとおし? まぁ、じゃあ、そういうことだから――――いこうナツ、キミと僕ならなんだってやれるさ!」

「うん! 私とハルの最強タッグ、ここに復活!」

 

 てっきり現状の僕を見て下がっててなんて言われるかとも思ったけど、どうやらナツは僕を必要としてくれているみたいだ。

 それなら話が早い。ようやく真なる盾としての道を歩み始めたんだ。何より守りたい人で実践できるとは、これ以上のことはない。

 ある意味で福音には感謝――――はありえないか、何があろうとアレがナツを傷つけたことに変わりはない。

 とにかく、ナツの言うとおり白式とヘイムダルが揃ったなら怖いものなしだ。よし、とにかくナツを送り届けて、零落白夜での短期決着を――――

 

「――――と言いたいところなんだけど」

「ナツ?」

「さっきハルへの攻撃を防ごうとしたとき、零落白夜使っちゃった」

「…………マジ? ……あ、うん、マジだね。今確認したよ」

「「…………」」

 

 意気揚々と今度こそ福音を討つべくシミュレーションをしていると、ナツは構えを解いてまで何か言いたいことがあるようだ。

 いったいどうしたのかと向き直ると、さっき僕への向けて放たれた収束エネルギーを防ぐ際、零落白夜を使用したとのこと。

 はぁ~……なるほどなるほど、零落白夜でかき消したから、あたかも弾けたように感じたわけだ。まぁそうだよねぇ、普通の雪片であんなの斬り裂けるわけもないし。

 はい、ではここで復習。零落白夜とは何かについてだ。

 白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に当たり、ザックリ説明するのなら、多大なエネルギーを消費して、バリアを無効化する刃を形成する能力ってところだろう。

 ではここにご注目。多大なエネルギーを消費して。大事なことなのでもう一度。多大なエネルギーを消費して、だ。

 ナツは僕を助けるためにそれを使った。つまり今の白式に残されたエネルギーと言えば、一撃いいのを貰いでもすれば、命の心配をせねばならないくらいスッカラカンというわけ。

 

「し、し、し……締まらなああああああああいっ!」

 

 真夜中の海に、僕のそんな叫びがこだまするのだった。

 

 

 

 

 




盾としてどうあるべきかを悟った晴人。そして一夏ちゃん大復活。
剣と盾コンビ、ここに再集結! ……最後のほう締まりませんけどね
次回、VS銀の福音 いよいよ大詰めとなります。

ちなみにですが、二次移行後の白式に関してはかなりのオリジナル要素を入れてます。
詳しく触れるのは次回となるので、解説はまた後程ということで。





橙色の熱線(ヒート・レイ)
ヘイムダルの右腕である虹色の手甲(ガントレット)に用意されている七つの変形機構の一つ。
四連装の砲身からなる照射型レーザー砲で、発射したレーザーはロック対象を自動で追尾するホーミング機能を持つ。
威力は通常の状態でもPICを弄らなければヘイムダルの後退が止まらないほどであり、当たれば大ダメージは免れない。
その反面、特に冷却機能を保有していないため、照射し続けているとオーバーヒートを起こすという欠点が。
オーバーヒート中は他の武装への変形も不可能なため、使用する場合はしっかり照射時間を頭に入れておかねばならない。





紫色の大鎌(ヒュージサイス)
ヘイムダルの右腕である虹色の手甲(ガントレット)に用意されている七つの変形機構の一つ。
主に中距離、前方180度への範囲攻撃を想定した武装。
ヘイムダルの巨大な右腕から延びる大鎌は、単純に薙ぎ払うだけでもかなり効果的であり、なにより剣術等の技量も必要とはしない。
また、エネルギーで形成されている鎌部分は、スイングの速度によってある程度瞬間的に肥大化する機能も持つ。
これにより、それでなくとも前方へと広い攻撃範囲を更に拡大することができ、扱い方によっては相手に接近させない戦闘も可能だろう。
ただし、懐に潜り込まれると完全に無効化されてしまうため、完全に中距離戦専用武装と考えたほうがよい。
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