ハルトナツ   作:マスクドライダー

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久しぶりの金曜投稿。
紛らわしかったら申し訳ないです。

今年も残すところ後わずか。皆様はどうお過ごしでしょうか。
こちらは前回言ったようにいよいよ大詰め、クライマックスです。
正直なところ福音戦に尺を取り過ぎ感が否めないですが、どうか今回もよろしくお願いします。






以下、評価してくださった方をご紹介。

masa ハーメルン様

評価していただきありがとうございました。


第51話 絆 繋がる力

「アンタ何しに来たわけ!?」

 

 一夏のあまりにもなやらかしっぷりを前に、恒例行事だの様式美よろしく鈴音が罵声を浴びせた。

 とはいえ一夏を一概に責めることができないのもまた事実。

 晴人に飛びつくなりして射線から退かせるのは容易だったものの、その晴人がラウラを庇って自ら射線に入ったのが一番の問題点である。

 二人の位置はあの瞬間においてほぼ直線上。つまり一夏が零落白夜を発動させていなければ、ラウラが直撃していたことになる。

 ……のだが、暴走したISを相手取るのにほぼ戦闘不能状態の味方が二機はキツい。ぶっちゃけてしまうのなら、邪魔の一言に尽きる。

 

「なんかものすごく申し訳ない……!」

「や、ハルのせいじゃないよ! 私がなんの考えもなしに使っちゃったから」

「いやぁ、結局使わせたのが僕ってなると……」

「キミら状況わかってる!?」

「晴人さんはせめて青色の塔盾(タワーシールド)を構えなさいな!」

 

 晴人の選択もまた正しい正しくないの判断は難しいが、いかんせん本人が自らを省みる性格なため、なんとも難しい顔をしながらうなだれてしまう。

 すかさず一夏はフォローを入れるも、晴人がまたそれに反省を重ねていき、まさに侃侃諤諤の様相を呈し始めた。

 と、今度はセシリアとシャルロットから鋭いツッコミが飛んできた。特にセシリアの声を受け、晴人は大慌てで一夏を隠すようにして青色の塔盾(タワーシールド)を構える。

 そんな晴人を福音はやはり無視。完璧に相手取る対象として除外されているのか、まるで初めからいないかのような扱いだ。

 ならば味方も二人に構っているような暇はなく、各自福音との交戦を再開。それぞれの戦闘スタイルをいかんなく発揮し、攻撃を仕掛けていく。

 

「……ふっ」

「箒……?」

「いや、すまない。こんな時だと言うのに、少し昔を思い出してしまってな」

 

 無論だが箒も交戦する専用機持ちに混じっていたが、いきなりクールな笑みが飛び出してくる。

 それを察知した簪が何事かと問いかけると、在りし日のことを思い出し、笑いが込み上げてきたのを止められなかったとのこと。

 デジャヴというほど完璧に同じではないものの、似たようなことがあったのを箒は確と記憶している。なにせ箒にとって、一夏と晴人と過ごしていた時ほど輝かしい思い出はないのだから。

 

(あの時は確か、私と晴人が二人だった時のことだった)

 

 時は箒ら三人が小学三年生の頃。稽古のあるなしに関わらず一緒に帰宅するのが通例だったが、その日一夏は用事があり、箒と晴人が先に二人で帰路に就くことになった。

 当時の二人は時折だが怒り怒られる関係でありながら、そういった時を除けばいたって良好。とてもよい友人同士であった。

 そこで今日学校であったことを振り返るように談笑をしながら歩を進めていたが、ここでちょっとしたハプニングが起きてしまう。

 二人の背後からいきなり囃すような声が。その正体は、箒を男女とからかっていた連中のようだ。

 晴人も箒も、一夏や互いくらいしか胸を張って友達と呼べる者はいない。だからこそ必然的に一緒に居ることも多いのだが、二人きりというのは珍しい。それがいじめっ子には格好の餌だったのだろう。

 晴人は無視を推奨するも、箒は仕上がり始めていたというか、既に嘗められたままで終われるような性格ではなかった。

 

「お前たち、そっちがその気であるのなら――――」

「いや箒ちゃん、竹刀はまずいって!」

 

 晴人は晴人で、当時も変わらず争いを好まない。

 いじめっ子たちに歩み寄りつつ、おもむろに竹刀を取り出そうとする箒を全力で止めにかかる。

 例え相手が悪かろうと手心は加えて然るべき。という考えなのはわかるが、そんな純粋な晴人の気持ちはいじめっ子たちの手によって踏みにじられてしまう。

 晴人が箒を止めている間に、竹刀を奪われてしまったのだ。箒は無手でもそれなりの腕を持っているが、流石に武器を前にしては分が悪い。

 対していじめっ子たちは勝ちでも確信しているのか、竹刀を持った一番大きな少年が意地の悪い笑みを浮かべ始めた。

 どうやら標的にされているのは箒の方。何回か返り討ちに合っているせいか、溜まり溜まった鬱憤というものがあるのだろう。

 にじりにじりと煽るかのように接近し、頭上に掲げた竹刀がなんの躊躇いもなく振り下ろされた――――瞬間のことだった。

 晴人はすかさず箒の前へと躍り出て、身代わりとなるべく身体を張って見せるではないか。

 箒が晴人と叫んだ時にはもう遅い。向こうにとっても箒のつるむ相手とならば危害を加えるべく対象であるのか、そのまま晴人の頭へ竹刀が激突――――

 

「まぁたお前らかこのっ!」

「ナツ!」

 

 竹刀が晴人の頭に当たるか当たらないかの瀬戸際、二人を追いかけて来た一夏が現れた。

 一夏はここまで走って来た速度に乗せ、竹刀を持っていた少年に飛び蹴りをくらわせる。

 ランドセルを背負っているため蹴りそのもののダメージは少ないが、思い切った威力だったために少年は前方に大きく吹き飛ばされた。

 それに伴い竹刀も手から離れ、持ち主の元へと帰るかのように転がっていく。箒は一安心したような顔を一瞬だけ浮かべ、すぐさま顔つきを険しくした。

 

「さてお前たち、覚悟はいいだろうな? やるぞ、一夏!」

「ああ! ……って言いたいところなんだが」

(ナツが乗り気じゃない? もしかして、暴力はなるべく止めたほうがいいってわかってくれたのかな!)

 

 箒が竹刀の先端をいじめっ子たちへと向け、一夏に戦闘開始の合図を持ちかける。

 しかし、一度は威勢のいい返事をしたものの、それを打ち消すような言葉で遠慮しておくとでも言いたげだ。

 自分たちから手は出さないが、反撃でも暴力に訴えることを快く思っていなかった晴人からすれば、ようやく自分の気持ちが通じたのかと内心で小躍り。

 しかし、その実態は――――

 

「足捻ったぁ……! 右足っ、着地の時にやらかしっちまったぁ……!」

「だ、大丈夫!? えっと、病院!? 救急車!?」

「ハ、ハル……後は任せた……」

「ええっ、無理無理! それは無理! 俺のパンチとかじゃ虫も殺せないんだからな!」

「それ自慢気に言うことじゃないだろ……」

 

 一夏が涙目になりながら蹲り、挙句には泣き言を口にするかなりレアな光景が繰り広げられた。本人の談のとおり、かなり派手にやらかしたことが伺える。

 そんなレアな光景を長い付き合いの晴人が目の当たりにすると、心配性な性格も相まってか、状況が状況だというのにプチパニックを起こす始末。

 それにつけて、一夏が自分の代わりに戦えなんて言い出すものだから更にパニック。全力で申し出を拒否。

 晴人と一夏間でこういったやりとりは茶飯事なのだが、どうやら存在すら忘れ去られている気分になったのか、いじめっ子たちは輪をかけて憤慨。

 二人のやりとりに仲間ながら呆れた視線を送っていた箒だったが、いじめっ子たちの騒ぐ声を耳にして我を取り戻した。

 竹刀を取り戻した箒はまさに怖いもの知らずであり、役立たずの男二人をよそに、結局のとこ単独でいじめっ子たちを撃退してしまう。

 

「箒ちゃん、なんかごめんね」

「別に大したことはない。いつものことだしな」

「おい箒、ハルがダメなやつみたいな言い方するのは止めろよ」

「私もそう言いたいわけでは――――というか、晴人に背負われながら言う台詞でもないだろうが」

 

 結果的に箒に助けられたことを、または対向する勇気を持てないこと。それらに関して情けなく思うのか、晴人はため息交じりに謝罪を述べた。

 箒としては晴人のそういった部分を良しとしないため、どこかツンケンした返事が。それを今度は一夏がムッとしながら咎める。

 が、何も箒も責めたいわけではない。いわゆる愛の鞭のようなものであるつもりのため、不名誉なことを言ってくれるなと視線を一夏に合わせる。

 すると箒の目に映るのは、晴人におんぶされた一夏であった。どことなく語気を強めていたように聞こえたので、逆に情けなく感じてしまうのは気のせいでないのだろう。

 とにもかくにも、箒は心底からこう思った。

 

「はぁ……。まったくお前たちは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ、あの時と一緒なんだ!)

 

 倒すべき相手を前にして、なんとも晴人と一夏がふがいないこの状況。例え相手がいじめっ子だろうが暴走したISだろうが、規模は違えど根本は変わらない。

 ならば自らの役割もあの日と大きく変わらない。箒が本気でそう感じた途端、どこか曖昧だった道筋が一気に拓くかのようだった。

 すると紅椿が箒の想いに応えるかのように、ハイパーセンサーに新たな機能を表示させる。

 ――――――――――――絢爛舞踏。

 その名しか刻まれていないというのに、箒はやはりこれの発動と同時に何が起こるか手に取るようにわかる。

 だからこそか思わずほくそ笑むと、進路を晴人と一夏のほうへ急転換。その機動力に任せ、みるみるうちに距離を詰めていく。

 

『――――――――』

「お前たち、なんだかわからんが箒を死守しろ!」

 

 だがそう一筋縄にいかないのが現実であり、明らかに不穏な行動に福音が興味を示さないはずがなかった。

 この場合は無断での単独行動であり、足並みを乱す行為に変わりない。しかしその不可解さは仲間にとって光明に感じたのか、箒絶対死守命令がラウラ指揮の元下される。

 そんなことを想定しつつ、福音は四方へエネルギー弾をまき散らす。もちろんそれは、十分に箒を射程圏内に収めていた。

 セシリアはスターライトMk-Ⅲによる狙撃。鈴音は崩山を乱射。シャルロットはガーデンカーテンを駆使して。簪は山嵐のミサイルを盾とし。ラウラは大型レールカノンで堅実に。

 それぞれの専用機ができることを全力でこなすことにより、幾分か弾幕の厚さは薄まっていく。そして紅椿を駆る箒にとって、抜群のIS操作センスを持つ箒にとって、背後から迫る薄い弾幕をかいくぐるのは容易であった。

 

「二人とも、手を伸ばせ!」

「箒ちゃん!? わ、わかった!」

「箒!」

「まったくお前たちは――――」

 

 わざわざそうまでして接近を試みる理由なんぞ考えてもわからないが、とにかく箒の要望に応えるべく手を伸ばす。

 三人の手が繋ぎ合わさったのは、晴人が左手を、一夏が右手を差し出した次の瞬間のこと。二人が手を掴むことで、ブレーキの役割をはたしているほどの勢いだった。

 箒の位置が余力で少しばかり前のめりになってから二人の目の前へと落ち着くと、これから何が起こるのかと誰しもが息をのんだ。すると――――

 

「私がついていなければダメだな!」

「これは……!?」

「エネルギーが……回復していく!」

 

 紅椿を金色の光が包んだかと思えば、それに呼応するかのように、ヘイムダルと白式もまばゆい光を発した。

 かと思えば、撃墜寸前まで削られた、あるいは不慮の事態で使用したエネルギーがみるみるうちに回復していくではないか。

 これぞ紅椿に目覚めた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、絢爛舞踏の効果である。

 その効果を正確に表現するならエネルギー増幅能力だが、そのあたりの細かい部分を箒たちが今のところ知る由はない。

 ただ、従来のISであればコアのシンクロ等の手段を踏まねばならないところ、機体の接触のみで行えるのはとんでもない汎用性を誇ることだけは確か。

 

「その台詞、あの時のだよね」

「覚えていたか?」

「あ~……なんか聞いたことあると思ったら、ナツがおもっくそ足捻ったあの――――」

「そういうことは思い出さなくていいから! とにかくやるよ、ハル、箒! 今度こそ三人で、ね!」

 

 一夏は金色の光に包まれながら、箒の台詞に既視感を覚えて思わず頬を緩ませた。あの日の出来事は、一夏にとっても記憶に新しいらしい。

 晴人も同じく。こちらは颯爽と登場した一夏が、足を捻った部分が強く印象に残っているようだが、それでも箒の言葉そのものを同じく記憶している。

 わざとらしく余計なことを口にする晴人を怒鳴った一夏は、気を取り直すかのように箒の左隣へと陣取る。それを確認した晴人は、箒の右隣へ。

 そして一夏は口にする。今度こそ三人で、と。今度はそれを耳にした晴人と箒が頬を緩ませ、それぞれの主兵装を構えて見せる。

 

「ああ、もちろんだとも!」

「僕だって、もう昔の僕じゃないからね!」

「そうこなくっちゃ! それじゃ幼馴染組、レディ~……」

「「「ゴー!」」」

 

 一夏の呼び声に応えるがごとく、二人が意気込みを口にする。三人が自分たちを繋ぐ確かな絆を再確認すると、打倒福音へ向けて再スタートがかかった。

 まず前に出るのは晴人。ギャラルホルンを装備し、しばらく一気に前方へ進んで前線へと立った。無論、高出力の青色の塔盾(タワーシールド)を構えてだ。

 福音がし相手をしているのは、もちろん晴人たち三機のみではない。

 集中砲火を喰らっている現状、収束エネルギーで晴人のみを狙い撃ちにするのは好ましい判断ではない。という結論に至ったのか、エネルギー弾をそこらにばら撒いた。

 

「そっちなら全く問題なし……! ナツ、箒ちゃん!」

 

 晴人の一直線上に並ぶことによって弾幕をやり過ごした二人は、左右に分かれて前へと飛び出した。

 一夏は二次移行(セカンド・シフト)の影響により形態変化した雪片弐型――――天津真雪(あまつさねゆき)で、箒は空裂ですれ違いざまに福音を斬りつける。

 そこから更に息の合った飛行を見せ、すれ違いながらの斬撃を何度も何度も繰り返す。白式・雪華(せっか)と紅椿の機動力をもってこそできるコンビネーションだろう。

 しかし、これで黙っていられるようなら苦労はしない。

 福音はその場で強引にも回転上昇。もう一度弾幕を張ることによって、やられっぱなしの状況を防ごうとしたのだろう。

 だが、先ほどの一夏の言葉に不満を持つ約一名がそうはさせなかった。

 

「幼馴染ってくくりで――――アタシをハブってんじゃないわよぉぉぉぉっ!」

「わっ、たたっ……! ちょっ、ちょっと鈴、謝るからそれ止めて!」

「あと一息で当たるところだったな……!」

 

 自分も他より絆が強い立ち位置なはずなのに、この疎外感はなんだと鈴音は咆哮を挙げつつ崩山四門をとにかく連射。

 その様相はもはや誰を狙っているのかわからない無差別級であり、一夏と箒は味方の攻撃に慌てて離脱せざるを得ない状況に。

 だが結果的に福音も攻撃を中断し、結果的に上昇したのみとなる。隙だらけとなっているのは明白であり、その点で言うなら結果オーライなのかも知れない。

 

「ヨーロッパ組、続きますわよ!」

「イギリスとドイツは――――まぁ、国際問題なんぞ我々には関係ないか」

「ラウラ、そのとおりだよ! 僕らの気持ちはひとつなんだから!」

 

 一夏の言葉を真似てか、セシリアは自分たちをヨーロッパ組とくくる。シュヴァルツェア・レーゲンが射撃特化の形態なため、そのあたりでもちょうどよい。

 その性格上ラウラが余計なことを口走りそうになるも、そこらは自重し大型レールカノンの照準を福音へと合わせる。

 それにシャルロットも同調し、ヨーロッパ組は一斉に引き金を引いた。

 セシリアとシャルロットの手数の多い射撃で翻弄し、その隙をラウラが確実に狙う。

 ここにきてようやく、大型レールカノンの弾丸が福音へと命中。爆音とともに、福音の周囲を煙幕が包んだ。

 

「それなら……妹トリオでよろしくどうぞ……」

「オーケー簪! どんどん混ざっちゃって!」

「言われてみれば、そこも共通点だったな!」

 

 煙幕から脱した福音が見た光景は、自分に迫って来る無数のミサイルだった。

 簪を見ればスフィア・キーボードを展開し、ラウラの射撃がヒットした際には既にミサイルを放っていたことが伺える。

 こうなれば福音は弾幕を張るしかなくなる。むしろ簪の目的は、選択肢をその一つに絞らせることだった。

 案の定福音は我武者羅にエネルギー弾をばら撒き、ミサイルを次々と小気味よく撃退していく。が、その後に共通点を持つ二人が控えている。

 それは同じく姉を持つ一夏と箒。おまけに姉があらゆる意味で超人でというおまけつき。なんなら苦労人妹組と名付けてもよさそうだ。

 

「箒!」

「ああ!」

 

 またしてもコンビネーション飛行からの連続攻撃。示し合わさずここまで出来るのは、互いに剣の心得があるからだろうか。

 なんなら何かのショーにすら見えるその飛行と剣さばきは、見るものを惹きつける美しさがある。一種の舞踊にすら感じられた。

 そんな美しい舞いを邪魔する無粋な輩が一人――――いや、一機? 暴走している福音にそのような感性があるはずもなく、光の翼を巨大にしてからその場で高速回転。二人を蹴散らせてから離脱した。

 しかもそこらで学習したのか、福音はその場に留まることを止めたようだ。

 広い空域を広く飛び回ることにより、まず接近というものをさせない。そして安全圏から弾幕を張ることにより、接近するのはより困難になってしまう。

 

「これは、どうしたものか」

「僕が前に!  出ただけじゃ気休めだよねぇ……」

「箒……さっきの回復は……?」

「すまない、何より検証不足だ。発動するかどうかの保証はできん」

「なら無理は禁物だね。でも、そろそろどうにかしないと僕らも動けなくなりそうだよ」

「それこそ、当たらない保証などきませんものね」

 

 先ほどの総攻撃で福音も虫の息ではあろうが、こうなってしまっては劣勢に立たされずにはいられない。

 だがまだ形勢逆転とまで至らないだろう。なにぶん数というものが違うし、内三機に至ってはエネルギーがほぼフルの状態だ。

 だからこそ全員で知恵を絞って策を見出そうとするも、何より福音の機動と攻撃を両立できる仕様がネックとなる。

 しかも接近したら接近したで、ゼロ距離集中砲火を喰らう可能性もあると来た。未だ犠牲者は出ていないながら、カウンターというものは警戒せずにいられないものだ。

 幸い距離が離れている現在は弾幕を避けながら議論することも易いが、ボロが出るのも時間の問題。シャルロットの言うとおりエネルギーの問題もある。

 そろそろ議論に決着をつけなければといったところで、それまで沈黙を守っていた一夏が口を開いた。

 

「手、あるかも」

「ナツ、本当!?」

「うん。でもちょっと、というか、かなり賭けになると思う」

「……具体的には、何を賭けることになりそう?」

「私の安全、かな」

 

 一夏が提案をすぐ出さなかったのは出し渋っていたからではなく、単に却下される可能性が高かったからだ。

 その理由としては、自らの命が危険にさらされる可能性が多分にあるせい。となれば、優しい仲間たちは自分のことを止めるだろうと考えたから。

 事実、それを聞いた途端に周囲の顔つきが難しいものになった。それさえなければ大手を振って、一夏が言う策に乗ったのに――――とでも言いたげだ。

 しかし、そんな中で異なる顔つきの者が一人。今までならば一番に反対の意を示していたであろうに、沈黙を裂くかのように一夏の背を押すではないか。

 

「ナツ、やろう」

「晴人、アンタ本気で言ってんの!?」

「そうですわ! 一夏さんは病み上がりでしてよ!」

「何がなくとも()がいる! ()(ナツ)を届かせる! 前と違って壊れないで、ちゃんと隣でだ!」

「……ならば足が必要だろう。白式の速度も上がっているようだが、まだ紅椿のほうが速い。一夏、今度こそお前を」

「僕に!」 「私に!」

「「守らせてくれ!」」

「ハル、箒……」

 

 晴人が自ら一夏を危険に晒させることがよほど衝撃なのか、特に鈴音は過剰なまでの反応を示した。

 周囲はすぐさま考え直すよう説得を試みるが、どうやら晴人の意志は固いらしい。あの時とは違うのだと、自分は一夏のためにある盾なのだと主張する。

 前と違うという部分に、箒はある種のシンパシーを感じた。なぜなら、箒も一夏を守れなかったという自責の念を抱えているから。

 だが今は違う。どこか束の造ったというだけで紅椿に振り回されていたが、もはやそんなことは関係ない。友を守るためにならISを使いたいと、箒は心から想っている。

 晴人と箒の気持ちはひとつ。ならば自分も気持ちをひとつにしなければならない。それは義務感や使命感などではなく、一夏の魂がそうさせるのだ。

 一夏は真雪の切っ先を天高く掲げると、引き締まった顔つきである能力を発動させた。それは白式・雪華に目覚めた、いわゆるもう一つの零落白夜――――

 

「零落白夜・斑雪(はだれ)ええええっ!」

 

 一夏の叫びと共に、従来の零落白夜と同じく真雪がスライド展開。しかし、そこからバリア無効化のエネルギーブレードが伸びる様子は見られない。代わりにそこから放たれたのは、青白いエネルギーの塊だった。

 その青白いエネルギーはかなり上空で爆ぜると、細かい粒子のようになってあたり一面を包み込む。その様はまるで季節外れの雪。美しい白銀の雪そのものだった。

 

「これは……いったい……?」

「あ、見て! 粒子が集まっていつものブレードが形成されてるよ!」

「……そうか! そういう能力なのか!」

 

 このままではまるでそういった能力かまるでわからなかったために、状況が状況ながら考察合戦が始まる。

 見ていれば気付けることだが、どうやらシャルロットの言葉どおりに、放った粒子は真雪に向かって集まっているようだ。そして、その粒子がいつもの零落白夜のようにエネルギーブレードを形成。

 これだけでラウラはピンと来たのか、思わず声を上げた。流石の洞察力である。ちなみに、ラウラの読みはこうだ。

 これまでの零落白夜はエネルギーをそのまま変換してブレードを形成。バリア無効化能力を持つソレで、一撃必殺を狙う能力だった。

 一方の零落白夜・斑雪は、エネルギーを射出し粒子に変換。そしてその変換した粒子が真雪に吸収されることにより還元。そのプロセスを踏んでから、バリア無効化能力をもつブレードを形成する。……とのこと

 

「えーっと、つまり?」

「つまりこの粒子が舞っている間、姉さまは継続的に零落白夜を使い続けられるということだ。しかも従来のと違って、散布するエネルギーは姉さまの任意で決められるのだろう」

「本当ですわね。十分動けるほど残っていますわ」

「な、何よそれ! 反則でしょ、反則!」

「ははは……。まぁ、致命的な弱点もあるんだけどね」

「弱点……? ……!? 一夏……絶対防御が……!」

 

 つまりどういうことかと晴人が要する説明を求めると、ラウラは端的に零落白夜・斑雪のメリットを述べた。

 鈴音辺りは自分が相手取った場合も想定して反則だと喚くが、相変わらず致命的弱点を背負わなければならないのが零落白夜である。

 簪が気付いたが、どうやら白式の絶対防御が中途半端にしか機能していないらしい。これこそが、デメリットに当たる部分である。

 なぜ零落白夜・斑雪であればかなりのエネルギーが残るのか。それは単純に普段ISが大きくエネルギーを割いている絶対防御を半停止状態にさせることにより、エネルギーを確保するからである。

 発動後にピンチになるのとどちらがより弱点かと聞かれれば難しいところだが、どちらにせよ攻撃に当たってはならないというのは変わらないということだ。

 

「まぁ、そんなデメリットあってないようなものだけどね」

「ナツ?」

「だって、守ってくれるんでしょ?」

「っ……! うん、もちろんだよ! だよね、箒ちゃん!」

「ああ! 一夏、背中に乗れ! ラウラの言葉が本当なら、時間がないのだろう!」

「ふふ……! よろしく、二人とも! これで終わりにするよ!」

 

 チャンスでもあると同時に大ピンチであると言うのに、一夏は涼しい顔して関係ないとうそぶく。周囲が何を言っているのかという顔をしたのを無視して、一夏は晴人に視線を向けた。

 守ってくれるのだろうという言葉に、晴人はそう言われては黙っていられない。何より晴人は、一夏にそう言ってもらえたことこそが嬉しいのだ。

 これで終わりにするという一夏の宣言に大きく声を張り上げ同意し、遠方の福音へと眼差しを向けるのであった。

 

 

 

 

 




予告どおり、オリジナル要素マシマシの白式でお送りしました。
なんかここで雪羅に形態変化するのは違うな。という謎の電波を受信したために、頭を捻って必死こいた結果がコレであります。
いろいろガバガバではありますけど、結局気には入ってるのでオッケーです(隙自語)
というわけでありまして、引っ張りに引っ張ったVS銀の福音、次回で決着!





【白式・雪華(せっか)
女性である一夏が異なるかたちで白式を覚醒させた、いわばもうひとつの可能性の体現とも言える二次移行形態。
ウィングスラスターの増設こそ雪羅と同様だが、装甲がよりシャープなフォルムを形どり、どこか女性らしさを思わせるシルエットとなった。
また、シャープさが増すことによって、装甲の厚みもかなり差が。
すなわち著しく防御力が低下しているものの、相対的に機動力は雪羅を上回るものとなっている。






天津真雪(あまつさねゆき)
白式の二次移行に伴うかたちで雪片弐型が形態変化した物理ブレード。
形状に関して大きな変化は確認できず、カラーリングが白銀から純白になった程度。
しかし、通常運用時の刃が高周波振動する機能が追加され、格闘性能に大きな威力の向上が見込まれる。
ちなみに、そのネーミングから雪片の二文字が消去されているのは、千冬からの借り物でなくなったということを意味しており、一夏のオンリーワンへと進化を遂げたことを顕著に表している。





【零落白夜・斑雪(はだれ)
白式の二次移行に伴うかたちで変化した単一仕様能力。
従来の零落白夜とは異なり、展開装甲された真雪からバリア無効化エネルギーを射出、散布する。
散布されたエネルギーは周囲一帯(使用されるエネルギーによって範囲は異なる)を雪のように舞い、それから真雪へと吸収、還元。
このプロセスを踏んで、従来と同様バリア無効化エネルギーブレードを形成する。
この散布したエネルギーが真雪へと吸収しきられるまでの間、継続的に零落白夜が使用可能。必殺の可能性が飛躍的に向上した。
しかし、射出するエネルギーは絶対防御に用いられるものから使用され、発動と同時に半機能不全状態となるので注意が必要。
何かしらの攻撃に被弾すれば一夏の生命が危ぶまれるものの、高速移動など必要最低限の行動は問題なく行えるので、向上した機動力は損なわれない。
注釈しておくが、それは一夏の白式の運用法にも依存するので、骨折などの可能性を考えれば、どちらにせよ発動中無茶はできないと考えたほうが良いだろう。
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