8対1の状況であるとはいえ、出番の配分がちょっとおざなりなのは反省点ですね。
まぁこんなシチュエーションもなかなかないのはありますが。
「箒ちゃん、初めに言っておくけど、さっきフユ姉さんに言われたことも間違いじゃないんだ。僕が足手まといってやつ」
「私はそうは思わんが。で、それがどうした」
「ギャラルホルンで接近してなるべくカバーできる範囲に陣取るから、危なくなったら箒ちゃんのほうから
「遮蔽物とでも思えということだな。承知した!」
旧幼馴染組とでも命名すべき三名が福音への接近をかける中、言っておかなければならないことがあると晴人が箒に声をかけた。
その発言はいつものネガティブ気質からくるようなものと捉えられなくもないが、どうやら今回は己の力不足を正面から受け入れたからこその発言のようだ。
箒としてはどう反応してよいか微妙なものだったが、晴人が無力を受け入れているのならと、その言葉を肯定的に解釈して同意した。
そんな箒の力強い返事に頷いて返すと、晴人はそのまま別のメンバーにも指示を飛ばした。
「鈴ちゃんと簪さんは中距離。セシリアさん、シャルル、ラウラ姉さんは遠距離で、それぞれ福音の退路を塞いで!」
「任せときなさい!」
「了解……」
「お株を奪われちゃったね、ラウラ」
「構わん。それぞれの長所を客観視した適格な判断だ」
「なら、余計に期待に応えなければなりませんね」
これに関しては晴人も自覚があったことだが、かねてから他人を客観視することが上手い。
こういった局面でそれぞれのすべきことがポンポンと浮かぶのか、シャルロットがラウラに意地悪を言いたくなるような指揮官っぷりを発揮する。
別に思うところはないと平静を装っているラウラだが、その実この短期間で義弟がとても成長したことに喜びを覚えている様子。
だからこそセシリアの言葉どおり、その成長に報いるためにも出された指示をこなさなければ。ラウラはそうやって己を鼓舞した。
「ナツはわかってると思うけど、チャンスがあったらとにかくトライで。でも身の危険を感じたらすぐ退避」
「うん! 前と違ってワンチャンスじゃないから、のびのびやらせてもらうことにするよ」
零落白夜・斑雪の効果持続時間は未知であるが、少なくとも従来と比べれば長くなっているはず。
それを考えるなら、例え絶対防御が無効になっていても気を楽にして臨むよう勧めた。何より、自分が絶対防御の代わりのようなものなのだから。
一夏の防衛は晴人と箒に左右される部分はあるが、そのあたりで危険に晒されている本人は全幅の信頼を寄せている。
晴人の気持ちも察したうえで、正直な感想を述べてから凛々しい顔つきへと戻った。
これにより方針は固まった。後は制限時間内に一夏が一撃を叩き込めば勝利となる。そのために必要なことは何も変わらない。全員が心と力を一つに合わせることのみだ。
「一夏、行くぞ!」
「よろしく!」
(やっぱり速いな……。ギャラルホルン、真っ直ぐしか進めないのさえどうにかなればいいんだけど)
箒が紅椿を高速移動形態へ変形させると、ノータイムでぐんぐんと加速し福音に迫っていく。隣に居た晴人からすれば、まるで横から消えたように思えた。
紅椿の速度を再確認させられると共に、つい弱音が出てしまう。が、そんなことを考えている暇はないのだと雑念を振り払った。
すぐさまギャラルホルンを装備して真っすぐ箒を追いかける。ISは滑らかに三次元飛行をするのがデフォのため、だいたいのあたりをつけ、停止してからまた真っ直ぐに追いかけるのを繰り返す。
もちろんだがその間も福音は攻撃を継続させている。だがあくまで晴人が必要となるのは、箒が危険を感じた時のみ。
絶対防御なしの一夏を背負っているながら、大胆に攻めねば勝ちはないとなるべく弾幕をかいくぐっていく。しかし――――
「くっ、これはキツイか……! 晴人、頼む!」
「了解! みんな、福音を逃がさないで!」
福音もとにかく一夏を接近させまいと必死なのか、これまでにない弾幕が箒めがけて飛んでくる。
これは無理だと早急に判断すると、その場で急旋回して背後に控えていた晴人の背に隠れてやり過ごす。
隠れている時間に距離を離されてしまえば本末転倒なため、ほんの一瞬のことだ。それでもやはり福音との距離は遠ざかってしまう。
それは候補生たちの援護射撃で最小限にとどめられるが、このままではこのいたちごっこが続いてしまうと全員の脳に過った。
だがここで焦ってはならないというのも共通認識。確実に距離を詰めることはできているのだから、いつしか必ずチャンスが回って来ると信じるしかない。
(いや、このままではダメだ!)
口にして異議を唱えるわけではないが、これが続けば福音に軍配が上がると箒は顔をしかめる。
何よりこの作戦において最大の要は自分だと言うのに、まず福音に追い付くことができなければ話にならない。
だが背に一夏を乗せている以上、多少は大胆になれても無茶はできない。先ほどのトライだって、箒としてはかなり粘ったつもりだった。
それでもまだ足りないというのなら、そのしてはならないはずの無茶をしなければならないのかも知れない。
自分が守ると意気込んだのはいいが、そんなジレンマが箒に最大限の動きをさせないでいた。
ふがいなさやらで歯噛みする箒に対して、自分の背中に乗っている一夏から声がかかる。
「箒、私に気を遣わなくても大丈夫だよ」
「一夏!? だが、しかし……」
「私だってただ箒の背中に乗ってるだけじゃないよ。ある程度は真雪でなんとかしのいで見せるから」
一度は敗走を余儀なくされた要因が自分にも大いにあることが尾を引いているのか、一夏の言葉にすぐさま頷くことはできない。
一夏でなく自分の命がかかっているなら箒はいくらでも無茶をしたろうが、やはり根は優しい性格が邪魔をしてしまう。
だが箒がハイパーセンサーを使って一夏の様子を確認してみると、その目があることを雄弁に語っているではないか。
その覚悟の決まった瞳は、例え性別が変わろうと何も変わらない。一度決めたらそれしか見えなく、どこまでも愚直で真っ直ぐな目だった。
一夏は箒を信じたからそんな目を向けている。つまり、それなら信頼が揺らぐなんてことは微塵もないというわけだ。
箒は思う、女になってもこいつはずるい奴だと。
目を閉じ大きく息を吸って吐く。そしてキッと目を見開くと、雄たけびを上げてから福音への接近を試みた。
「うおおおおおおおおおおっ!」
(箒ちゃん、行くんだな……。なら僕も!)
二人のやりとりを聞いていたわけではないが、晴人は箒の雄たけびとその表情でだいたいの事情を察してから動き始める。
そうしてまた箒と福音との駆け引きが開始した。強制的に先手は福音になるわけだが、向こうからすればどれだけ一夏を危険に晒させるかが肝だ。
だからこそいやらしい攻め手というか、徐々に縫う場所がなくなるかのような弾幕の張り方をしているようにみえる。
無論、援護射撃のために控えているメンバーへの牽制も忘れはしない。そういったことを同時に行えるのも福音の強みと言えよう。
大した援護もできない状態となってしまった候補生たちは、これでは先ほどの二の舞いかと、一夏と箒の安否を確認すべく顛末を見守った。
「なっ、アイツら正気!?」
「信じるしか……ない……!」
「ああ、我々はただ控えるのみだ」
「頑張れ箒! 頑張れ一夏!」
「あともう少しですわ!」
これまでならば完全に退いていたであろう弾幕を前にして、箒はかなりギリギリのところで回避しながらそれでも前へ前へと進んでいく。
実際はもうギリギリと表現するのも無理があるくらいで、一夏は自身の宣言通りに真雪でいくらかエネルギー弾を防ぎ凌いでいた。
これには候補生たちもより頑張らずにはいられなく、応援を口にしながら必死に福音の足止めに尽力する。
その甲斐あってか、福音が追い詰められているのは素人でもわかるくらいに明白。むしろ決着を予期させるほどのものであった。
「「捉えた!」」
そしてついに、ついに、IS学園勢待望の瞬間が訪れた。一夏と箒の決死の飛行にて、ついに福音を射程圏内に捉えたのだ。
それまで箒にまたがるように乗っていた一夏も、しゃがみ座りのような体勢となって飛び出す気が満々。呼吸を整えつつ、今か今かとその瞬間を待ち続ける。
集中力ゆえか緊張ゆえか、一夏は時がスローモーションで進んでいくかのような錯覚を感じた。ドクンドクンとうるさい心臓の鼓動を無理矢理にでも打ち消し、そして――――
「一夏、いけええええええええっ!」
「はああああああああああああ!」
箒の叫びを合図とし、その背中を思い切り踏み台にするようにしてジャンプ。ウィングスラスターをフル稼働させ、福音へと肉薄した。
距離、速度、タイミングのどれもが完璧。そのすべてのピースが揃っており、まず間違いなく当たると確信せざるを得ない。
一夏はこれまで覚えた件に関するあらゆる技術や心得、それらすべてをこのひと振りに乗せるかのような、そんな覚悟で真雪を横一線に振りぬいた。
『――――――――』
「そ、そんな!?」
「これでもだめですの!?」
「一夏……逃げて……!」
しかし、時として現実は非常である。いや、この場合はよく避けた、敵ながら天晴と福音を褒めてもいいほどなのかも知れない。
福音は収束エネルギーを撃つ要領でエネルギーを一点集中させると、それを放つというよりは爆発させるようにして推進力を得たのだ。
推進力といっても大きく飛び出たわけでもないが、避けられたという事実は変わらない。真雪のブレードは、福音の足先をかすれる程度で終わってしまった。
この光景を前にして、候補生はこれだけやってもダメなのかと絶望感を露わにした。
だがそんな中でラウラは見逃さなかった。渾身の一振りを避けられたはずの一夏が、少し口元を釣り上げていることを。
「――――なーんちゃって!」
「晴人、アンタ!」
「隙を生じぬ二段構えってね!」
すぐさま振り返って前後を反転させると、一夏の背後にはヘイムダルの右手を大きく開いた晴人が迫っているではないか。
もちろん一夏は先の一撃を外すつもりなんてない。だからこそ晴人は、外した場合を想定してフォローに回っていたのである。
それもまた晴人の性格ゆえ。なにごとにも細心の注意を払い、そのうえで保険すら用意する周到さは流石と評価する他ない。
晴人は飛んでくる一夏を細い腰をわしづかみにする形でキャッチした。一方の福音はというと、何もする様子がみられないではないか。
否、今は何もできないのだ。
福音が収束エネルギーを使用すると、わずかながらリチャージの時間が必要となる。
銀の鐘はスラスターと射撃兵器の複合武装であり、攻撃性エネルギーを推進力とするのも同義である。つまり、この一瞬は完全に無防備であるということ。
このシチュエーションは偶然訪れたものだが、晴人はその弱点については既に見抜いている。これも持ち前の観察力の賜物だろう。
「ナツ、覚悟は?!」
「随分前から!」
「よし、それじゃあいくよ!」
これから晴人がしようとしていることは、どちらかと言うなら一夏の覚悟を試される。本当は聞く必要ないとわかっていながらも、ついつい問いかけてしまう。
対する一夏は晴人の意図を察した時点で既に覚悟は決まっており、いつもの揺るがぬ瞳でただ福音だけを見つめていた。
その言葉を聞くことができたのなら、もはや何も言うことはない。むしろ自分も一夏の覚悟に報いるべく、溜めに溜めたモノを一気に爆発させる。
「
晴人のシャウトを感知すると、ヘイムダルの右腕が変形して大型かつ大量のブースター機構が飛び出る。
つまりオーバーフロー寸前のそれを解放した加速度はすさまじく、瞬時加速を超えるかのような、文字通り爆発的なスピードで福音との距離が詰まる。
そんな晴人の手に握られているのは、零落白夜・斑雪が確と発動している真雪を構えた一夏。前述したとおり福音は未だ半棒立ち状態。
これほどうみても。これは誰が見ても。完全に覆すことができない決着の瞬間――――
「この勝負、僕たちの!」
「私たち全員の!」
「「勝ちだああああああああああああああああっ!」」
一夏の振るった真雪は、今度こそ福音のどてっぱらに叩き込まれた。
すぐさま握った柄へと力を籠めなおすと、グッと強く押し付けながらエネルギーブレードを滑らすようにして斬り払う。
それに伴い
そのまますれ違うようにして振りぬくと同時に、周囲に舞う雪の如く粒子が完全に鳴りを潜める。零落白夜・斑雪の効果時間が終了したのだ。
だがもう何も案ずることはない。なにせ決着はついたのだから。
ヘイムダルの巨大な掌から解放された一夏は、まるで残身のように通常形態へと戻った真雪を腰元へと納めて見せる。
その一連の動作が終わると、図ったようなタイミングで福音の装甲が量子変換され光の粒となって消えた。
バリア無効化攻撃を受け、機体の形成に過大な負荷がかかり、機体が強制解除されたのだ。
操縦者は重力に従い海へと真っ逆さまに落ちていくが、そこは箒が危なげなくキャッチして事なきを得た。
機体が
「お、お、お、終わったぁ~……! よかったぁ~……みんな無事だぁ~……!」
「アンタのおかげでね。何度も助けられたわ。ありがと」
「最後の機転も本当にすごかったよ」
「うん……私もそう思う……」
「よくやったぞ。流石は我が弟だ」
「先ほども言いましたが、素敵でしたわ、晴人さん」
晴人は引き締まっていた表情を身体ごと脱力させ、精神的疲労が一気に襲ってきたかのように項垂れた。
なんなら勝敗よりも全員が大した怪我がないことに最も安心しているようで、他のメンバーが声をかけている間もしきりによかったと呟き続ける。
そんな晴人の気を取り戻させたのは箒で、彼女は様々な意味を込めつつただ無言でヘイムダルの肩あたりをノックするように叩いた。
一瞬視線を箒に向けた晴人だったが、何か鈴音が顔をニヤつかせながら背を押すので大体の事情は読めたようで、またそうやって茶化すんだからとゲンナリした表情を浮かべる。
だが導かれた先にたどり着くころには、既に穏やかな様子へとなり替わっていた。なぜなら晴人としては、彼女の前でそんな顔をするわけにはいかないから。
「ハ、ハル……。あの、え~と」
晴人の視線の先には一夏が。手を弄ぶようにして、とても気まずそうに様子を伺っている。
福音との戦闘中だったこともあり話は飛んだが、一夏が無茶をした末に重体となった事実はいかようにも変えることはできない。
本人からすれば晴人に信じて待っていてと宣言した手前、約束を破ってしまったという負い目もある。
そんな一夏を前にして、晴人は失礼と思いながらもつい笑いが込み上げてきた。もちろんそれは馬鹿にするようなものでなく、微笑ましさからくるもの。
確かに言いたいことがあるのは間違いじゃない。けど今更それを責めたって何も始まりはしない。だから小言は後々にして、今はただひとこと。
「ナツ、おかえり」
「っ……! うん、ただいま!」
自分でも意外なくらいに穏やかな声が出て、今のはどこから出てきたのだろうかと困惑の色を示す。きっと、それだけ本気のおかえりだったのだ。
晴人のおかえりを聞いた一夏は一気に多くの感情が募ってしまい、無遠慮にその腕の中へと飛び込んだ。そんな一夏を見てか、晴人はまぁいいかそんなことはと左腕で抱きとめる。
相変わらずナチュラルに不可侵の世界を作り出すもので、あまりの目もくれなさぶりに煽ったはずの鈴音が一番つまらなさそうにその光景を眺めていた。
セシリアやシャルロットがそれをまぁまぁと宥めていると、満足したのか二人はどちらともなく離れていく。そうして晴人がみなに目を向けると、相変わらず穏やかにこう告げるのだった
「じゃあ、僕らもおかえりを言ってもらいに行こう。…………地獄の鬼教官に」
「……あっ!? ああああ~……アンタ! なんてこと思い出させんのよ!」
「誕生日だというのに、今日が命日になさらければいいが」
「せめて骨を拾ってもらえればいいけどなぁ」
「えぇ……? 四人とも、そんなおおげさな――――」
「シャルロット、帰れば二度と大げさなどと言えなくなるぞ」
前半のほうは変わらず穏やかな様子だったというのに、徐々に徐々にその表情は死んでいく。そして晴人の顔は最終的に無となった。
勝利のムードですっ飛んでいたのか、自分たちが命令違反をしてこの場に居ることを思い出した。そして、そのうえで何が待ち構えているのかを。
かねてから件の鬼教官と付き合いのあるメンバーも無の境地へとたどり着き、そろいもそろって物騒なことを口にし始めた。
流石にそれは大げさでないかとシャルロットは言うが、どっこいこれが大げさで済まされないから彼女は恐ろしいのである。
そうしてシャルロットは知ることになる。ラウラの言葉が本当にそのとおりであるということを。
「作戦完了、ご苦労だったな。操縦者も無事に救出することができた。まったく大したものだよお前たちは。本当に本当に…………大した馬鹿者ども、大馬鹿者どもめがっ!」
僕らは帰って来るなり満面の笑みで迎えられ、作戦会議を行った大広間へとおされた。この時点で嫌な予感しかしなかったせいで、みんなして自発的に正座してかしこまる。
フユ姉さんはデブリーフィングが始まるまで笑顔のままだったけど、それはいわゆる導火線のようなもので、爆弾に着火する前振りそのもの。
そしてついに爆発。フユ姉さんは一人一人の頭にゲンコツを見舞っていく。文字どおりの鉄拳制裁といったところか。
そしてクドクドといかに僕らが愚かしいことをしたのかという説教が始まるわけだが、実際のところはこれで済ませてもらえるだけ有難いんだろう。
気軽に命令違反なんてことをしちゃったわけだが、なんならもっと公の場で相応の処分を下されてもおかしくはない。
これで済むならフユ姉さんが偉い人に働きかけたと考えていいと思う。だから僕らのすべきことは、フユ姉さんの言葉を肝に銘じてしっかり反省することなんだろう。
でもフユ姉さんはここからが長いんだ。よくもまぁそんなに罵倒の羅列が考えつくなと思うくらいで、下手を打つなら数時間単位でそれが続く。
僕を始めとした日本人と日本での生活が長かった鈴ちゃんはまだ平気だが、セシリアさん、シャルル、ラウラちゃんは正座がかなり辛そうに見える。
流石に不憫に思えてきたのか、オロオロとした様子だった山田先生が、その顔に決意を浮かべて助け舟を出してくれる。
率先してフユ姉さんの説教に口出しなんてしたくないだろうに。ましてや普段からして臆病な山田先生となると、なんだか胸が熱くなる想いが込み上げてきた。
フユ姉さんも山田先生の想いを買ってか、大きなため息を吐いてから説教をお開きの方向へ持っていく。
「あ、あの、織斑先生、今日はこのあたりでお開きにしませんか? その、みなさん疲れているでしょうし」
「……はぁ。全員、学園に戻り次第すぐさま反省文を提出するように。それと懲罰用のトレーニングも組んでやるから覚悟しておけ。そして、最後になるが――――本当によくやった。大事なかったようでなりよりだ」
懲罰用のトレーニング? なんでそんなものがプログラムとして存在するのだろう。でもなんか、風のうわさで機能を停止させたISを纏わせたうえでグラウンドを歩かされた。とか聞いたことがあるような。
僕は思わず戦々恐々としてしまうが、そんな考えフユ姉さんの最後の言葉で吹き飛んだ。
あのフユ姉さんが、僕たちを称賛し身を案じてみせた……? そりゃフユ姉さんだってたまにはするんだろうけど、説教の最中であったのが大きいのかギャップが凄まじい。
僕らが揃いも揃って目を丸くしたせいか、フユ姉さんも以上と宣言してからとっとと大広間を出て行ってしまった。
となれば後は自分の出番だと言わんばかりに、山田先生が簡易的なメディカルチェックを受診するよう指示を出す。どうやら男である僕は邪魔になりそう。
正座のせいでかなり痺れる足を笑わせながら、不格好な歩行でゆっくりと歩みを進めていく。部屋に戻るまでになんとかなればいいんだが。
「おい」
「織斑先生!? まだ何かあったり……」
「ああ、お前には個人的に言っておかなければならんことがある」
出先でいきなりフユ姉さんと遭遇。というよりこれは待ち伏せされていたらしい。どちらにせよ驚かずにいられないんだけど。
わざわざ一人になるところを待ち構えていたなら、必然的にみんなの前では言えないようなことってなるんだけど、やっぱりそういう類のことらしい。
いったいなんだというのだろう。むしろ心当たりがあり過ぎて、どれか一つに定めることができないという。いや、むしろその心当たり全部だったりするのか?
ならいったいどんな恐ろしいことが起きるのだろう。果たして生きて帰ることができるだろうか。なんて早くも諦めムードでいると、ふいにフユ姉さんの頭が下がり
「すまなかった」
「え!? ……え? どれのことなんでしょうか」
「お前を足手まといといったことだよ。結果を見るに、どうやら私の見当違いだったようだ」
怒られる心当たりは幾分にもあれど、謝られるなんて予想外で逆に考え込んでしまう。素直に教えを乞うことにすると、作戦会議の時のことを言っているらしい。
フユ姉さんは最初からお前を出撃させていれば、なんて付け加えるけど……う~ん、そこは正直なところどうなのだろう。
束さんとはナツでなく僕が大怪我するオチって結論で落ち着いたし、実際そうなっていたとしか思えない。ならどう受け取るのが正解なのか。
「間違いじゃないから気にしないでくださいよ。少なくとも、あの時点では絶対そうでした」
「そういえば、表情が生き生きしているな。何があったかは聞かんが、少なくとも今は違うと?」
「……はい。事件の中で、わかったことがたくさんありましたから」
ただナツを守りたいだけの僕では、確実に足手まといになっていたことだろう。でもそうじゃない。あの場合なら、ナツを守って、操縦者を救うというとこまで考えられなければ。
ようやく本当の意味でナツと共に戦うこと、剣と盾としての関係というのがわかったような気がする。そして目指すべき目標も。
僕のあるべき姿は、壊れぬ盾。壊れることがなく、剣の隣に永遠にあり続けること。それが僕の目指すべきもので、役割なんだと思う。と、フユ姉さんに言って聞かせてみる。
その身を犠牲にし続けてまでナツを守ってみせる。そんな姿勢から脱却したのが驚きなのか、今度はフユ姉さんが目を丸くする番だった。
「ならばその見つけた答え、魂まで刻み込んでおけ。そうすれば、お前はまだまだ伸びる」
「はい、ありがとうございます」
「フッ、いい返事でよろしい」
魂までとは、なんともフユ姉さんらしいアドバイスだと思った。だが同時に世界最強の人物でもあるため、なんだか妙な説得力がある。
きっとフユ姉さんにも譲れない信念があって、強さの根底はそこなんだろう。我が姉ながら誇らしい。
フユ姉さんは僕の返事に満足したような笑みを向けると、またなと片手を挙げてから今度こそ去っていった。
……そうだよフユ姉さん。それが僕の見つけた答えで、僕のありかたなんだ。だからこそ僕は――――
待機形態のヘイムダルをホルスターから抜くと、ディスプレイを表示させてメッセージを打ち込んでいく。後で話がしたいという旨を伝えるためだ。
本文なんてほんの短いものだというのに、僕は指の震えに耐えながら入力をしているせいか、本当に無駄としか言いようがない時間を浪費して、ようやく送信することができた。
メッセージを送った相手はナツ。今晩で全てに決着を、僕のナツに対するありかたにケジメをつけよう。
最後は晴人と一夏ちゃんの合わせ技でフィニッシュです!
学年別トーナメント編において、ヘイムダルの巨大な右腕は女性のウェストを軽くつかめる。という描写をしたのは地味に伏線だったというわけですね。
そんなことはさておき、次回は大事な一話となります。作者的にもようやくこの瞬間がきたかという感じで。
そういうわけですので、乞うご期待!
ハルナツメモ その24【指揮官向け】
何事も並みで落ち着きやすい晴人だが、じつは指揮能力は十分に高いポテンシャルを持っている。
持ち前の観察能力から他人の長所と短所を察知し、なおかつそれを状況に応じて的確に扱うことが可能だからだ。
これまでそれらが十全に発揮できなかったのは相変わらず性格の問題。
自分ごときの指示で場を混乱させるわけには、という考えが根強く、なるべく発言は控えるようにしていた。