ハルトナツ   作:マスクドライダー

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割と普通なデート回です。もう、超がつくほどサブタイトルどおりです。
可もなく不可もなくという感じですが、たまにはのんびりいきましょう。


第58話 僕と君とでテーマパーク

「わぁ、すっごい混雑」

「今時分だから覚悟してたつもりだけど、想像してたよりずっとごったがえしてるね」

 

 この夏ようやく僕らにとって大掛かりなデートということで、とあるテーマパークへ足を運んでいる。

 しかし、僕らと目的を同じくする人々が、文字どおり波のように押し寄せているではないか。正直なところ気が滅入る。

 その点についてはナツも同意見のようで、二人して苦笑いを見せ合うことで意思の疎通をはかった。

 とはいえここまで来ておいて引き返すという選択肢もなく、僕らは覚悟に覚悟を重ねてチケット購入のため長蛇の列へと並ぶ。

 

「やぁっと入れたー! なんかすごい達成感」

「こんなところでそれ感じちゃったら身も蓋もなくない!?」

 

 入園できたのはそれからしばらくのことで、ナツはメインエントランスに立った途端に背伸びをしたのち、なぜかドヤ顔で達成感がどうのと言い始めるではないか。

 思わずいつもの調子でツッコミを入れると、ナツはなぜだか急に真剣な面持ちで僕を見据える。

 い、いったい何がどうしたというのだろう。もし失言があったのなら謝らなければならないが、流石に今のツッコミでそれにあたるようなことはないはず。

 

「ハル、真面目な話なんだけど」

「どうしたの?」

「テーマパークって、何して遊べばいいんだろ」

「何って……。…………確かに、なんだろう」

 

 凛々しい顔つきで何を言い出すかと思えば、なんだそんなことか。……なんて笑い飛ばそうかと思ったのだが本当だ。テーマパークって何すればいいんだろ。

 父さんも母さんも僕らが幼少期からあまり家にはいなかった。フユ姉さんもバイトしてたみたいだし、爺ちゃんは爺ちゃんでアトリエに籠ってることがしょっちゅうだったしなぁ。

 なるほど、僕らはあまりにもこういう場所に不慣れなわけだ。なんなら冗談抜きでほぼ初めてと言ってもいい状態かも知れない。

 だがアトラクションに乗ったりだとか、そこらの基礎的な部分までわからないなんてことはない。それは不慣れ以前の問題だろう。

 となれば、オーソドックスだったりスタンダードだったり、なんならベタな楽しみ方でもすればいいんじゃないんですかね。例えるなら――――

 

「とりあえず、記念撮影でもする?」

「それいいね! じゃあ、あのロゴが入るように撮ろっか」

 

 なんかよくわかんないけど、インスタなんたらとかでこういう場所の自撮り? とかが挙がってる気がするようなしないような。

 世で言うところのリア充――――いや、ナツが恋人の時点で間違いなく僕はそれにあたるんだろうけど、とにかくそういう感じの人たちの真似をしたら自然にベタになるんじゃないだろうか。

 そんな軽い考えで携帯を取り出すと、ナツは疑問が解消されたのかスッキリとした表情を浮かべる。それなら僕も満足なんだけど。

 さて、それでは携帯のカメラを起動。カメラモードを画面側のものへと切り替え、収まりがよくなるようなるべく腕を前に伸ばしてロゴが入る角度を探した。

 

「ん、この辺なんてどうかな」

「お~……流石は画家さん。構図取り上手~」

「ははっ、それ最高の誉め言葉かも。じゃあナツ、暑いけど構わない?」

「もちろん、むしろそうしてくれなきゃ拗ねてるところだよ」

 

 すぐさまピッタリの位置を探し当てた僕に対し、ナツは流石は画家だとなんとも嬉しい誉め言葉をくれる。

 パースとかの勉強しておいてよかったなぁ……。なんてしみじみと考えてしまうのは少し不純だろうか。

 後は僕とナツが画面に入ってシャッターを切るだけ……なのだが、僕はとあることを確認しながら左腕を大きく広げた。

 無論、ナツを抱き寄せてよいかどうかの確認だ。これが秋や冬ならその必要もなかったかも知れないが、現在は問答無用の真夏。暑苦しいからパス、というなら仕方のないことだと思う。

 しかし、ナツとしてはそうしてくれないと拗ねるとのこと。どこまで本気かはわからないが、そういうことなら遠慮なくいかせてもらおう。

 僕は左腕をナツの腰に回すと、ナツは目いっぱいこちらへと寄り添ってくる。二人してなんだか照れ臭い笑みを浮かべたところで、僕は画面をタッチしてシャッターを切った。

 

「うん、初めてにしてはいい感じじゃない。……待ち受けにしようかな」

「なら私もそうしよっと。ハル、私の携帯に送信よろしく」

「後でまとめて送ることにするよ。今日だけで何枚撮るのか見当もつかないから」

「ふふっ、そうだね。さっきまで何するかで悩んでたけど、写真撮って回ってるだけでも楽しめそう!」

「はは、本当に。適当にぶらつきながら写真撮って、混んでなさそうなアトラクションを見つけたら並んでみようか」

 

 味を占めたと言うには少し表現が違うような気がするけど、なんてこともないくらいあっという間に僕らの方針は定まった。

 案内板に従うこともなく宣言どおり気ままに歩を進め、景色やランドマークを背景に記念撮影をしたり、アトラクションに乗ったりして過ごす。

 あっちへ行ったりこっちへ行ったりしてみると、時間帯によってさまざまな催し物もあるようで、さっきとおりがかった場所に人だかりがあるのに気が付いた。

 見ると園内にある大きな湖のような空間に、船を模したような水上ステージができあがっているではないか。

 近場に居たスタッフさんに何事かと問いかければ、もうすぐショーの公演が始まるんだと。なるほど、そういうのもテーマパークの醍醐味……で、合ってるよね?

 

「ナツ、どうしようか。せっかくだから観ていく?」

「そうだね。そうしよう。観て損はないと思うよ、絶対」

 

 興味があるかどうか尋ねてみると、かなり好感触の返事が。まぁ確かに、たまたまとおりがかってもうすぐ公演っていうのなら、むしろ見ないと損くらいまであるかも。

 人だかりとはいってもまだまだ疎らで、強引に進む必要もなくほぼ最前列ほどに陣取ることができた。して、どんな内容のショーなんだろう。パンフレットくらい貰っておけばよかったかな。

 期待を膨らませながらナツと談笑をしていると、奥の方から数隻の船がこちらへ接近して来るのが見えた。雰囲気からして、あれは海賊船?

 そうだよな、わざわざ水上のステージを用意するくらいなんだから、内容はそれ相応に水に関わりのあるテーマになるのが必然か。

 

「お頭ぁ! アレが例の船で間違いないようです!」

「よぉし、野郎ども! 帆を畳めぇ! 錨を降ろせぇ!」

「う~ん、雰囲気からして悪い海賊かな」

「海賊に良いも悪いもないと思うけど」

「リアリティかつシビアなこと言わないでよ……。え~っと、じゃあ、悪役かな」

 

 船が接近すると船員らしきナリをした男性が威勢のいい声を上げ、ステージを指さした。それを受け、キャプテンらしきナリの男性が船を停泊させるよう指示を飛ばす。

 そんな短いやり取りから、ナツは彼らを悪役ではと推測。確かにキャプテンは眼帯してるし片手がフックになってるしで、いかにもっていう感じ。むしろ狙いすぎでは?

 そんな感想を抱いていたせいか、ナツのちょっとした問いかけに対して無駄にマジレスをしてしまいちょっと反省。細かいこと言うね、みたいな視線もおまけだったからなおのこと。

 ナツがわざわざ訂正を入れたのを聞き、僕は小声でごめんと謝っておく。

 当然のようにあまり気にしてはいないようで、海賊たちに注目したまま別に大丈夫だよとお許しの言葉をいただいた。

 

「こいつが俺たちの探し求めた秘宝が積んであるという伝説の……!」

「クックック……。随分と長い航海になっちまったが、その甲斐もあったってもんよ!」

「ん~? さっきからなんだぁテメェら! 見せモンじゃねぇぞ!」

「見せモンなんだよなぁ」

「ナツ、それこそマジレスしたってどうしようもないと思う」

 

 こういった冒頭の芝居は説明も兼ねているというか、どうして彼らがここにやって来たのかが一瞬にしてわかった。なるほど、そういう設定なのね。

 とてつもなく自然な流れにどこか関心を示していると、船員のひとりが観客席へと向けて話しかけてくるではないか。

 僕らが参加型の設定なんだろうか。ということは、海賊の襲来に集まった野次馬ってところが妥当かな。

 だがその際に放たれた見世物ではないという発言に対し、今度はナツがマジレスをかます。いや、ものすごく正論ではあるんだけどね、うん。

 

「お頭ぁ、どういたしやしょう!」

「んなもん決まってらぁ。海賊稼業はなめられちゃならねぇ! いっちょビビらせてやんな!」

「へい、承知しやした! オラ仕事だ野郎ども! 全砲門、開けぇーっ!」

 

 彼らが悪役の設定で僕らが野次馬なら、導入としてはかなりの高得点だよな。採点なんて何様って話ではあるかも知れないが。

 いやだって、容赦なく砲撃って彼らが疑いようのない悪人だって描写できるし、僕らも砲撃されたってことでよりショーに引き込まれるであろう。

 これはよほど優秀なシナリオライターが作った演出に違いないと、海賊船の側面に並ぶ大砲が除く小窓を眺める。

 だが安心していたのもつかの間、大慌てしないとならない事態が発生した。

 

「撃てぇーっ!」

「え、ちょっ、水!?」

「そういうパターンのやつか!? てっきり空砲かと……!」

 

 キャプテンが僕らへ剣先を向けて発射命令をすると、大砲から飛び出してきたのはなんと大量の水。アレは放水用シャワーのようなものだったのだ。

 多分、時期が時期だからそういう感じになっているんだろう。濡れることに目をつむりさえすれば、気持ちいいには間違いないだろうから。

 だがまずい。今はとにかくまずい。よりによってこんな時にかと、いろいろとタイミングの悪さを呪ってしまいそう。

 僕は慌てて着ていた青白のチェックの上着を脱ぎ、それを用いてナツをくるむように包んだ。

 

「ハ、ハル!? 別にそんな、夏だし濡れるくらい――――」

「ナツ、白Tシャツを着てるキミを濡れさせるわけにはいかない。だってほら、透けちゃうじゃないか」

「あ……そ、そっか、確かにそうだね。えっと、ありがとう」

「どういたしまして。他に濡れて困りそうなものは?」

「うん、それは大丈夫だと思う。必要最低限のものしか持ってきてないから」

 

 僕がずぶ濡れになることも加味し、ナツはなんと過保護なと言いたげな声を上げる。しかし、僕がこうまでするのはある条件が揃っているからだ。

 それはナツが白Tシャツを着ているということ。胸には大きなポップ調のプリントが描かれているけど、それを考慮してもナツの濡れ透けなんて晒させるわけにはいかない。

 そんなの目撃していいのは絶対僕だけだし、ただの下着ならまだしも、ナツが着用中のソレが濡れて透けて見えちゃうなんて余計目にエッチだと思うから完璧に防がなくちゃならない。

 僕は結果的に、あっという間に水中に落ちたのではというほどの状態になってしまう。が、それでもナツのアレコレを死守できているなら安い。

 ナツもナツで、どこか合法的に大手を振って後ろから抱きしめられている状況を楽しんでいるようだ。ならば、もはや何も言うことはないのかも知れないな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからショーの流れをざっくりと説明するのなら、ヒーローサイドにあたる海軍が海賊たちを懲らしめ、争いの種となりうる秘宝は破壊してめでたしめでたしという感じ。

 一連の流れで何度か理由をつけて放水が行われ、まったく油断はならなかった。それこそ秘宝って言うのは、海を自在に操ることができるようになるとかそんな設定の代物だったし。

 おかげで僕はズボンの下までずぶ濡れという、まったく誰も得しないであろうあり様になってしまった。

 流石に放水の量が量だったので、ナツを完全に守り切ることもできなくて、僕としては一番の気がかりはそこなんだけどね。

 そこで僕らはいったんお土産を売っている店まで赴き、代わりとなるであろう服一式を購入することに。

 案の定というか、上着もズボンも、果ては下着までキッチリ売られていたので一安心。ついでに身体を拭く用にタオルなんかも買っておくとよいだろう。

 ……まぁ、水浸しの僕が店内に足を踏み入れるのは、迷惑になるだろうから遠慮したんだけどね。揃ってたっていうのはナツから伝え聞いた話だ。

 とにかく、ナツの買ってきてくれたそれを手にし、トイレの個室を使って着替えを行った。……のはいいんだけど、この格好だとエンジョイし過ぎているようで少し恥ずかしい。

 本当、鈴ちゃんなんかがこの場に居なくてよかった。居たら確実に大爆笑されてるに違いない。

 どこか僕に対して容赦のない友人の姿に溜息を吐きつつトイレから出ると、そこで待ち受けていたのは、僕と同じくパークのロゴがデカデカとプリントされたTシャツを着ているナツだった。

 

「あれ、ナツも買ってたんだ」

「うん、これもらしいことかなって思ったから。ほら、ペアルック!」

「ああ、なるほど、そういう。……ははっ、ナツは本当にやることなすこと可愛いなぁ」

「なんかそれ、あざといって言われてるみたいで好きじゃないかもっ」

「いじらしいって言ってるんだよ」

「……もう、ハルの意地悪」

 

 少し驚く僕を前に、ナツは悪戯が大成功したみたいな、無邪気な笑顔を向けてくる。そして続いて出てきたペアルックという言葉は、まるで華が咲いたかのような笑顔だった。

 ペアルック、ね。うん、間違いなくそれもベタに分類されるもののひとつだろう。実際やるとちょっとだけ恥ずかしいような気がするけど。

 それでも、どちらかというならナツへの愛しさが勝ってそれどころではないのが正直なところ。無自覚なんだろうけど、やっぱり男心をくすぐるのがお上手なことで。

 でも僕の誉め言葉を素直に受け取るのが恥ずかしいのか、口先を尖らせながらブーブーと文句を言い始めるではないか。

 あざといっていうのは、どこか小賢しいみたいなニュアンスを含んでいる。が、僕がナツに感じているそれは、いじらしいという感情のみ。

 こちらに関しては、健気で可憐といったニュアンスを含めた言葉だ。双方の違いをキチンと理解していることを期待して、僕はズイっとナツの顔に自身の顔を近づける。

 そのまま真っすぐ瞳を射抜けば、確かにその宝石のように美しい相貌が揺らいだのを見逃さない。どうやら、期待どおりに違いをわかっているらしい。

 その証拠かのように、僕は何度か目になる意地悪という評価を受け、ナツは顔を真っ赤に染めて視線を逸らす。

 ……だからさ、そういうのが可愛いって言ってるのがわかんないかなこの子は。……わからないんだろうね、元キング・オブ・朴念仁だもの。

 そこから先に進んでしまいそうな衝動を必死に抑え、その代償としてナツの髪を傷めない程度にワシャワシャと頭を撫でまわす。

 理性を保つための行動ゆえ、考えるよりも先に手が出てしまったが、ナツも気持ちよさそうにしてたから結果オーライというところだろうか。

 

「じゃあ、そろそろ次に行こうか」

「またいろいろ見て回りながら、そろそろお昼も考えないとね」

 

 あまり意地悪が過ぎて本気で拗ねさせてしまっては本末転倒。なので、適当に切り上げてから次の目的を探すことを提案した。

 ナツは未だに頬を染めつつ、静かに僕の手を取る。決して痛くしないよう注意して握り返し、それからナツの言葉に力強く頷いた。

 その後も僕らは探検気分でテーマパーク内をあちこち歩きまわり、各所それらしいことができそうなスポットを探し当てては楽しんだ。

 やがて時は過ぎ、太陽の様相は夕焼けへと変わり始める。夜になってもまだまだ楽しむことはできるんだろうが、なにぶん学生の身なのでそろそろタイムアップが近いと思っていたほうがいい。

 だから次が最後になるであろうという議題が挙がるのだが、僕らは多分だけど互いに意識して避けていたスポットがひとつある。

 それはもちろん、それを意図的に最後のひとつとするためだ。ではそれはなぜか。答えは簡単。恐らく恋人とこういった場所に来たとして、ド定番中のド定番であるからだ。

 だけれど、ずっと疑問ではあったのだけれど――――

 

「どうしてここ、テーマパークなのに観覧車があるんだろ。普通は遊園地だよね?」

「まぁまぁ、細かいことはいいじゃない。現に、えっと……狭い場所で二人きり、なんだし」

 

 外観が崩れるとか、上から細部を見渡せないようにするためとか、そういう理由でテーマパークには観覧車が作られないと聞いたことがある。

 そのせいか、入園するなり我が物顔で鎮座していた観覧車のことはずっと気になっていたり。乗ったはいいが思わず疑問が口に出るほどだ。

 もとよりナツに問いかけて正解が返ってくるとは思っていないし、特別同意を求めたわけでもない。要するに単なる呟きというやつ。

 実際のところナツが強調するようにして、密室で二人きりだと発言した瞬間に心底どうでもよくなってしまった。

 なぜかって、そんなのどうでもよくなるに決まってるじゃないか。そんなことを言われては、意識なんてもはやナツにしか向かなくなってしまう。

 

「あっ……。ハル、見てよあれ!」

「……うん」

 

 この狭い空間に僕らが作り出したなんとも言えない空気が漂い始めたが、ナツはふと視線を外へと向け何かを発見したかのように指をさす。僕はそれに、曖昧な返事で応えた。

 だって、ナツが何を言いたいかなんてのは知れたこと。観覧車と時間帯からして、ナツは夕日が綺麗だとでも言いたいのだろう。

 窓に張り付くようにして、目を細め、どこかうっとりしたような表情を浮かべているからほぼ正解なはず。

 でもナツには悪いのだけど、今の僕には夕日の美しさなんて霞んでしまっている。それはそうだ、こんなにも美しいものを目の当たりにしているのだから。

 それは言うまでもなく、夕日に照らされているナツ自身。煌めくようなオレンジ色に包まれ、柔らかな雰囲気が何倍にも増長されたナツは、贔屓目なしにこの世のあらゆる存在よりも美しい。

 

「綺麗……」

「ああ、本当に綺麗だ」

「え? ……あっ…………。や、やだなぁハルってば、そんな急に褒められても――――」

「困る?」

「こ、困るけど困らないっていうか……。嬉しくはあるんだよ!? でも、なんていうか、私……」

 

 溜息を吐くようにして感想を口にするナツに同意するフリして、というかどさくさに紛れてナツを綺麗だと褒めておく。

 僕があまりにもナツを凝視していたせいか、すぐさま何に対する感想かはバレたようで、言われた本人はおどけるようにして誤魔化しにかかった。そうでもしないと受け止めきれなかったんだと思う。

 その証拠に、僕が普通に困るかと問いかけただけで追い詰められた様子になってしまった。ならば、これ以上のことを口にするのは止めておこう。

 なんだかいたたまれない気持ちになってしまうし、何よりこれより先は喋るだけ野暮。そう、残された道なんてたったひとつなんだ。

 僕らは向かい合うようにして座っていたが、少し腰を浮かせて前後を反転。そのままナツの隣へ競るようにして着く。

 そして僕の右手が目指す先はナツの頬。触れる時はいつも壊れ物を扱うようにしていたが、今日は触れた瞬間泡沫となって消えてしまいそうな繊細さを覚えた。

 注意に注意を払って、いわゆるフェザータッチというやつで頬を撫でてみる。するとナツは、心地よさ半分もどかしさ半分といった様子で身じろぎしてみせた。

 

「ハ……ル……。いじわる、しないで……」

「いやごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど。まぁとにかく、ご所望とあらば」

 

 気遣いのつもりが焦らしと解釈されたあたり、どうやらもう少し欲望に正直であったほうがよかったみたい。というより、口では冷静なこと言ってるけど、僕も内心では我慢の限界だ。

 細かいところをいうならば、ナツに我慢の許容量を一気に振り切らされたといったところか。

 そんな切なそうな声色して、少し目元を潤ませたナツに、意地悪しないでなんて言われて耐えられるわけがあるまい。

 さっきも言ったが僕はもはや我慢の限界。必死にいつもの様子を取り繕っている。

 だから決して乱暴になってしまわぬよう心掛け、いつも以上にゆっくりというのを意識してナツへと顔を近づけていく。……これもまた焦らしと思われるのだろうか。

 

「んっ……!」

「むぐっ……!?」

 

 そんな一瞬の疑問が生まれた瞬間、珍しくもナツが僕を引き寄せるかたちで唇と唇が重なった。少しいい加減にしろよと言われた気分。

 後出しのようで申し訳ないが、僕もここにきてようやく一切の躊躇いの類が消えた。

 なにぶん狭い空間だ。勢い余ってナツの頭をぶつけさせないようには注意しつつ、徐々に力を込めて奥へ奥へと追いやっていく。

 いつしかナツの背は反れていき、その着地点はフカフカとは言い難い座席だった。

 そこから先には進みようもないというのに、それでもまだ込めた力を緩めない。唇でナツの頭ごと抑え込むように、かなり力強いキスを送り続けた。

 いつしかナツも僕の首へと腕を回し、更に引き寄せるかのように力がこもる。さっきも言ったが、これ以上は進みようもないのに。

 あぁ……まるでひとつになったかのようだ。僕らが深く求めあっているゆえだとするなら、なんと甘美な響きなのだろう。

 いつまでだってこうしていられるし、こうしていたい。いつまでもナツの唇を味わっていたい。時なんて永遠に止まってしまえばいいのに。

 でも残念ながらそれはどだい無理な話。だから僕らはその代わりと言わんばかりに、時を忘れて唇を重ね続けた。

 もはやここが観覧車であるということは完全にすっ飛んでいたと思う。誰に見られようがお構いなし。というか、そもそもそんなことは眼中にすらない。

 実際そうだったからこそ、僕らが乗る観覧車はこんな位置に居るんだ。

 ナツが夕日を眺めていたのはほぼ頂点に位置した時。そして今現在昇り始めているということは、一周近く僕らはこうしたままだった。ということになる。

 

(どう考えても最長記録更新だな……。はぁ、流石に息が――――)

「ハル……」

「ん、どうかした?」

「えへっ、大好き……」

「……ああ、僕もだよ。ナツ、大好きだ」

 

 している最中は気にならないんだけど、唇を離してから一気に疲れが襲ってくるかのようだ。得に息なんて絶え絶え――――というほどはないにしても、しばらく整わせる必要がある。

 今回に至ってはあまりに長時間であった影響もあってか、呼吸とキスの余韻というダブルパンチでいつも以上に頭がボーっとしてしまう。

 漠然とどこでもないどこかへ視線を送っていると、未だ僕の下になっているナツが声をかけてきた。

 僕はなんとかして気を取り直さねばとナツの呼びかけに応えるが、どうやらナツもまだ呆けているらしい。

 こちらへ照れ笑いしながら僕を好きだと伝えてくれるが、その様子は完全に夢心地。文字どおり夢か現かが曖昧になっているのがよくわかる。

 これは頭が冴えてから反動がすごいんだろうなぁと思いつつも、とにかく好きだと言われたなら好きと返すのが礼儀というもの。

 うわべだけでなく、心からの言葉でナツへの愛を囁く。僕の愛しい人はさっきよりも照れ臭そうに、それでいて幸せそうに笑みを零した。

 そして――――

 

「やっちゃったぁ……!」

「まだマシなほうだって言い聞かせるしかないんじゃないかな」

「ハルは割り切れちゃうんだ……。なんか、そのへん割とオープンだよね」

「う~ん、そこはほら、ナツを愛することを躊躇うみたいで嫌だし」

「そこがオープンっていってるんだけどなぁ」

 

 すっかり日も暮れた帰路の途中にて、ナツは耳まで真っ赤にしながら両手で顔を覆い隠し、観覧車内で起こった出来事を省みた。

 やってしまったものは仕方がない。それに僕もナツも止まることができなかった。のなら、まだ羞恥心を覚えるだけマシなのではとフォローを入れておく。

 僕があまりにもアッサリとした対応であるためか、ナツは僕がかなり積極的であるほうと再確認したようだ。

 前は気安いのではと一瞬の迷いが生まれたが、ナツに遠慮しなくていいと言われたからには別にそういうのは必要ないってわかった。

 なら僕に躊躇っている暇はない。なぜなら、僕にはナツを世界一幸せな女性にする使命がある。それに随分と待たせてしまったのだから、遅れを取り戻すという意味も含まれていたりも。

 

「季節が変わったらまた来てみようか。いろいろとシーズンに合わせたイベントもやってるんだろうし」

「うん、そうしよ。でも、水浸しになっちゃうようなのは勘弁だけど!」

「いや本当だよ。完全に予想外というか不意打ちっていうか……」

 

 テーマパークという場所の楽しみ方も把握したことだし、とりあえずデート地の候補としては十分に擁立されたのではないだろうか。

 そのあたりについてナツの同意を求めてみると、やはり好感触だったのか二つ返事が得られた。ちょっとした皮肉つきだけどね。

 いや、でも、そういいたくなる気持ちはわかる。実害があったのはどちらかと言うなら僕のほうだし、思い出になるとはいえ服の出費も痛かったし……。

 シーズンに合わせたイベント、か。自分で発言したはいいけど、いったいどういうのが繰り広げられるか想像もつかない。

 とはいえ、先の季節まで楽しみができたのは僥倖なことだろう。ナツとの季節を重ねていく感覚も悪くない。

 まだ見ぬナツと共にある季節へと想いを馳せながら、僕らは今日一日のことを振り返るように語り合った。……もちろん、観覧車でのことは避けて――――ね。

 

 

 

 

 




Q.どうしてテーマパークに観覧車が?
A.ご都合です

本当はテーマパーク内の噴水が放水中に、その前でキスしたカップルは永遠が約束される。みたいな都市伝説の流れで進めていたんですよ。
それだと後々にどうしてもやりたい描写を潰しかねないことに気づき、あえなく断念。
人前にならないシチュエーションのために、観覧車先輩に急遽出動していただきました。
ありがとう観覧車先輩。流石は簡易的密室のプロでございます。
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