ハルトナツ   作:マスクドライダー

60 / 84
晴人、一夏、それぞれの友人とのやりとりをメインにした回。
夏休み編で二人が絡まない回はこの一本としまして、それでもたまには気分を変える意味も込め、思い切り騒いでいただきました。





以下、評価してくださった方をご紹介。

響@ユウキ推し様 マウントベアー様

評価していただきありがとうございました。


第60話 ウィズ・フレンド

(今日は特に暑いなぁ)

 

 舗装された歩道がどこまでも敷かれた閑静な住宅街。暑さに負けて思わず足を止めてみれば、遠くのほうへ陽炎が立って見えて余計うんざり。

 これが明白な目的のあった外出ならば、僕はなんとも思わず向かうべき場所へと歩を進めていたことだろう。

 あまり気乗りがしていないのは、先方がこちらを呼び出した理由がまったくの不明という不可解な理由があるからだ。

 

(弾、いったいなんの用事なんだろう)

 

 携帯を起動してチャットアプリを開き、五反田 弾という友人の名で登録されている項目をタップ。するとそこには【ちょっと顏貸せや】というシンプルな文面が。

 後は日時が指定してあるくらいで、何の用事で僕を呼び出したのかまるでわからない。何度聞き返そうにも明らかに意図的な既読スルーの嵐だ。

 問答無用で顔を貸せということは、何か怒らせるようなことでもしてしまったのだろうか。

 しかし、疎遠とは言わないけど、僕が学園に入ってからは顔を合わせるのも減ったからな。むしろ怒らせようというものがないはず。

 

(……なんか面倒な予感)

 

 僕が最も忌避しているのはそこなんだ。

 ただ怒らせているのならまだいい。原因が僕と言うなら誠心誠意の心得で、許してもらえるまで謝ってみせよう。

 でも相手は弾だ。言い方は悪いけど、しょうもない理由という可能性も十分にある。普段は兄貴肌なんだけど時々……ね。

 それもこれも行ってみればわかることなんだけど、そもそも行くのが億劫というどうしようもないジレンマに苛まれていた。

 とはいえ僕の性格からしてやはり行かないという選択はできず、歩くことしばらく五反田食堂という看板が掲げられた大衆食堂が見えた。

 弾のお爺さんである厳さんが経営している店で、中学時代の僕たちはよくここへ食事をしに来ていた。サービスしてくれることも多かったっけ。

 久方ぶりとなる暖簾に手をかけ戸をくぐると、食器と箸がぶつかる音や、食欲をそそる料理の匂いなど、懐かしい感覚が五感を巡った。

 

「よぅ、晴人の坊主。久しいな、元気にしてっか」

「あ、はい、このとおり! むしろなかなか顔が出せなくって申し訳ないくらいで」

「んなこたぁいいさ、オメェさんが元気なのが一番ってもんよ。ほれ、あの馬鹿ならいつもどおり二階で待ってるぜ」

「ありがとうございます。それじゃ、お邪魔します」

 

 時間帯としては昼時で忙しいだろうに、厳さんはこちらへ気さくに声をかけてくれた。まったく有難い限りである。

 恐縮しながらお久しぶりですと返せば、更に嬉しいひとことが。話し方からして江戸っ子気質というか、義理人情に篤い人だからなぁ。

 でも実の孫である弾には異様に厳しいことに定評があり、弾を端的に馬鹿としながら顎で二階へと続く階段を示した。

 まぁそこのところに深く突っ込むのは他所様の事情に口を出すことになるので、丁寧なお辞儀をしながら階段を昇った。

 

「弾、来たよ。いったいなんの用……で……?」

 

 一応は気乗りしていないことを面には出さず、いつものように軽い挨拶をかましながら扉を開いた。

 するとどうだろうか、僕の目に飛び込んできたのは、狭めの部屋にぎゅうぎゅうに押し込まれた机と椅子。向かい合わせに二組ずつ。

 そしてカーテンを閉めてどこか暗い部屋を、デスクスタンドが照らす。……これはもしかして、取調室? やっぱり僕は何か悪いことをしたのだろうか。

 

「容疑者、日向 晴人。席に着け」

「うわっ、びっくりした! 数馬もいたんだ、暗くて見えなかったよ。……あれ、今容疑者って言った? あの、僕は何か二人を怒らすようなことでも――――」

「ほう……? しらばっくれるとはいい度胸だな。こっちにゃ確かなタレコミが入ってんだよ!」

「え、ちょっ、落ち着い――――眩し、っていうか熱っ!? それLEDじゃなくて白熱電球じゃないかぁ!」

 

 聞き覚えのある声がしたかと思ったら、部屋の隅に厳かな雰囲気で数馬が立っていた。そして僕を名指しで容疑者とし着席を促す。

 やっぱり何か怒らせたらしい。そこで理由を問いかけてみると、しらばっくれるのかときた。しかもそれまで座っていた弾はキレ気味に立ち上がり、胸倉をつかんでデスクスタンド顔に近づけてくる。

 やっぱりこれは刑事ドラマのノリで――――なんて思いながら弾を落ち着かせようとするのだが、なんとデスクスタンドに使われているのは白熱電球。温まったそれは容赦なく僕の顔を焼く。

 一瞬でそれどころでなくなった僕は弾を無理にでも引きはがし、これでいいでしょと言わんばかりに席へと着いた。

 弾もそんな僕に一瞥くれると、ふてぶてしい態度で再度席に着く。いやほんとなんだって言うんだよぉ……。

 

「日向 晴人、罪状に心当たりはないか」

「ない、です。ごめんなさい、人を怒らせることとは無縁なつもりなので」

「よし、なら仕方ないな。罪状の前に物的証拠を見せてやろう。御手洗刑事、例のものを」

「ハッ!」

 

 別に刑事ドラマノリに付き合うつもりはないが、こう威圧的にこられたら自然にかしこまった態度になってしまう。いつも言ってるけどそういう性格だし。

 だが何やら向こうとしては怒らせた確たる証拠があるようで、それを提示するためか数馬は携帯を弄り始めた。っていうか、やっぱり刑事ドラマノリですかそうですか。

 

「これを見てもシラを切るつもりか!」

【あいつら付き合ってんだからそりゃ遠慮するでしょ】

「はい……? これは――――」

 

 示された証拠とは、鈴ちゃんと数馬のチャットアプリでのやり取りだった。

 流れとしては数馬が中学の頃よくつるんでいたメンバーで外出しようと誘い、鈴ちゃんがそれを僕とナツの関係を理由に断りを入れている。という感じだろうか。

 どうやら鈴ちゃんは僕が報告しているものだと思っていたようで、この後は知らなかったのかという問いを最後に既読スルー。なぜかって、数馬に問い詰められてるから。

 えーっと、それってつまり、抜け駆けって言いたいのか?

 

「それはおかしいでしょ、キミら中学の頃さんざん弄んでくれた癖してよく言えるね!」

「うるせぇ、いざ晴人に先越されたってなると悔しいんだよ!」

「つーか、晴人のほうこそ言ってたろ! 俺とナツはそんなんじゃないーとかなんとか! なっとるやろがい!」

「はいはいそこは謝るよ! けど、それを抜け駆けとかどうの言われる筋合いはない!」

 

 あの頃は本気でナツのことをラブのほうで好きになるなんて思わなかったというのもあるし、そのうえで逐一弄られてたのにこちとら本気で頭を悩ませていたんだぞ。

 というか、この二人は同じことを何度言わせるんだ! キミらは変にモテようとせずに、全力で青春を送ってたらそのうち彼女なんて勝手にできるんだって!

 いろいろ納得というものがいかないせいか、僕としても珍しく苛立ちを露わにしながら二人の言葉へ反論を重ねる。まさに売り言葉に買い言葉だ。

 けど叫んではいても頭の片隅でこうも思っている。心底帰りたいと。

 はぁ……今頃ナツはどうしてるかなぁ。箒ちゃんと鈴ちゃんと遊びに行く予定があるとかで今日は別行動だけど、そしたらわざわざこんなと来なくてよかったなぁ。

 間違いなく友人ではあるが、どこか面倒くさい弾と数馬を前に、僕の意識は愛しのナツがどうしているかという方向に向かうのだった。……うん、多分だけどこれ現実逃避…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご注文はいかがなさいますか?」

「ショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホイップエクストラソースで」

「これが噂に聞くコーヒーショップでの呪文詠唱というやつか」

「まぁ、ここまでやる人ってそう居ないと思うけどね」

 

 突然鈴からメッセージが飛んできて何かと思えば、幼馴染女子会というのを催すから顔を出せとのこと。

 ハルとはお互い束縛するでもなく、友人同士の付き合いは大手を振って了承してくれた。そもそも、同じ日に向こうも弾に呼び出されたとか言ってたしちょうどよかったかな。

 そこで街へ繰り出し適当に駄弁ることができる場所を相談するところから始めたんだけど、箒が一度行ってみたかった場所に某有名コーヒーチェーン店を挙げた。

 駄弁るのには最適なんだろうけど、なんでも和風を好む箒からして珍しい提案だと思った。けど、たった今謎は解けたと思う。

 箒はこのコーヒーショップ特有のカスタムマシマシの注文が見たかったんだろう。だって、慣れた様子で超カスタム注文する鈴を見る目が輝いているもの。

 まぁ、自他ともにな印象だと思うけど、そういうのは縁遠いもんね。だからある種憧れている部分はあるのかも。

 

「えーっと、箒はどうする? 初めてなんだよね。なんなら抹茶ラテとかもあるけど」

「いや、せっかくコーヒーショップに来たんだ。私自身めったに飲むものではないし、もっとシンプルなやつがあればそれが好ましいな」

「それじゃあ……。あ、期間限定でコールドブリューコーヒーがあるみたいだから、それにしたら?」

「こ、こーるどぶりゅー……?」

 

 いまだ鈴を尊敬の眼差しで眺めている箒に注文を促す。前述のとおり和風を好む箒に最適であろう抹茶ラテを勧めてみると、もっとシンプルなのというオーダーが。

 じゃあアイスコーヒーくらいしかと店内の看板を眺めていると、私の目にはコールドブリューの文字が止まった。

 コールドブリューっていうのは、簡単に言うなら水出しコーヒー。アイスコーヒーとの差を聞かれれば、水出しだから氷で濃さが薄まることなく、冷たいコーヒーを楽しめる。と言っておこう。

 箒にそう説明すると、なんだか感心した様子で頷きながらそれでという了承が。オーダーに応えることができたみたい。

 私はカフェラテに濃い目のキャラメルソースをトッピングするという、比較的シンプルなカスタムで注文。というか、私としてもさっきの鈴はちょっと何言ってるかわからないですね。って感じ。

 やっぱり女子力なのかなぁ、と思えば覚える必要があるようなないような。今度ちょっとご教授願うことにしよう。

 私たちの注文したコーヒーはすぐに完成し、私たちは涼しいクーラーのついた店内の席へ。まずはひと段落と脱力していると、鈴がいきなり携帯を取り出した。

 

「ごめん、ちょっと時間ちょうだい」

「インスタなんたらとかいうやつか? 私には一生理解しえん心理だろうな」

「あのね、承認欲求とかそういうニュアンスのこと言わないでくれる? やってみたら意外と楽しいんだから」

「代表候補生なら仕事のうちにも入るもんね」

「それそれ、広報てやつも含まれてんのよ、こーほー。それ言うと、アンタも何かしらやったほうがいいと思うのよね」

 

 何かと思えば、カスタムしまくったコーヒーを写真に収め、SNSにアップするつもりらしい。

 それに関して箒は……多分悪気はないんだろうけど、取りようによっては喧嘩にも発展しそうな毒を吐く。

 鈴も幾分かムッとしながら返すが、それだけで済みそうでなにより。ホント、命かけてる人も居るだろうからさっきの発言は是正しておかなくては。

 ちなみに私は双方に一票。箒の気持ちも、鈴の気持ちもわかる。箒に一票って言っても、行き過ぎた場合にのみ適応されるけど。

 それこそ命を懸けてる人、口には出さないけど理解できない。評価欲しさに食べ物を粗末にした、なんて話も聞くし。まぁ、きっと一部の人なんだろうけどね。

 そして鈴の単なる承認欲求で片付けてほしくない。というのと、楽しさというのはなんとなくわかる。別に私はSNSなんてやってないけど。

 自分の何気ない日常とかを写真に撮ってそれをアップして、何かしらの反応があるならそれはきっと嬉しいことだ。

 何より、私は愛する人――――ハルがそれに近いことやってるわけですし。そう思えば、そういう気持ちを一概に否定してなんかならない。

 ハルは間違いなく承認欲求のために絵なんて描かない。純粋に描きたいものを描き、そのうえで自分の作品を楽しんでもらいたい……ってスタンスなはずだから。

 

「あ、そうだ。箒、悪いんだけどそれ撮らせてもらっていいかな」

「お、ついに一夏もやる気になったっての?」

「それは構わんが、既に手を付けてしまったぞ。自分のものを撮ったほうがいいのではないか?」

「う~ん……そういうんじゃなくて、ちょっとね」

 

 ハル、写真、というワードでちょっとした思い付きがあったので、箒にコールドブリューコーヒーの撮影許可を願う。

 飲みかけでもいいのかなんて聞かれるけど、残っているならなんでもいいんだよねこれが。詳しい理由についてはぼかしておく。

 だって、そんな友達の前で堂々と惚気るのってよくないでしょ?

 撮影させていただいたコールドブリューコーヒーの写真を添付し、チャットアプリでハルへとメッセージを飛ばす。

 すると今は弾と遊んでて忙しいだろうに、すぐさま既読がついてすぐさま返信が。……ふふっ、そういうところも好きっ。

 そして私は箒と鈴の視線も忘れて、しばらくハルとのちゃっとに勤しむのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいたいね、キミらはその努力が逆に――――」

 

 この際だから言いたいことは言わせてもらおうと反論を続けていると、ポケットにしまってあった携帯が着信を報せるため振動した。

 ちょっとタイムと片手で二人を制しつつ、携帯を取り出して誰からの連絡かを確認。するとディスプレイに表示されているのはナツの二文字。

 はい、優先事項変更確定。僕はギャーギャー言ってる二人を片手でステイさせるのを継続させつつ、ナツとのチャットに勤しむ。

 初めのうちは二人も不満を漏らしていたが、まぁそれくらいならとやがて完全に沈黙した。……ずっとそうしてくれてるということないんだけど。

 

『ハル、これ見て!』

 

 そんなメッセージと共に添付されてる画像は、なんの変哲もないアイスコーヒーに見える。

 これがいったいどうしたというのだろう。

 

【アイスコーヒーがどうかしたの?】

『これね、水出しコーヒーなんだよ』

【へぇ、それは珍しいね。で、感想は?】

『ううん、私は飲んでないんだ。箒のだから』

【じゃあ、今度二人でに飲みにいこう】

『その言葉を待ってました!』

【ご期待に添えてなにより! それじゃ、また。で、大丈夫かな】

『うん、大丈夫だよ。またね!』

 

 てっきり珍しいから報告してきたのかと思って感想を聞けば、箒ちゃんのだから飲んでないとのこと。

 じゃあなんでわざわざ報告してきたのかって、それを察してやれないと恋人失格というやつですよ。

 要するにこれは、デートの口実というやつだ。ナツのメッセージにそんな隠された意図を察した僕は、二人で飲みに行くことをこちらから提案。

 するとナツは、文面だけでも上機嫌が伝わってきそうなメッセージを飛ばしてくる。それを見た僕は、思わず可愛いやつめと笑ってしまった。

 そのついでにこちらも元気に返して別れの挨拶もしておくと、用はとりあえずそれだけなのかやり取りは途切れた。

 幸せ全開で携帯をポケットにしまえば、待っているのは友達二人との言い合いという現実か……。

 ……って、近っ!? いつの間にやら、二人してめちゃくちゃ近くに僕を挟むように立っていらっしゃる。気配を感じ損ねたから余計ビックリしてしまった。

 しかしこの距離、確実にのぞき見していたと考えていい。ならば僕に放たれる言葉はきっと――――

 

「「爆発しろ!」」

「言うと思った!」

 

 これを皮切りに僕らの言い合いは第二ラウンドへと入るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レスポンスはっや。ま、普通にアイツのいいところよね~。一夏的には好きなとこ、なんでしょうけど~」

「尊いっ……! デートの約束っ、尊いっ……!」

「わぁっ!? ちょっと、覗き見はナシでしょ!」

 

 ハルとのやりとりが終わると、気付けば両サイドを箒と鈴に固められていた。いや、箒に至っては少し離れた位置で目頭を押さえながらなんかブツブツ言ってる状態だけども。

 どのみち見られていたということには変わりなく、いくらなんでもそれはプライバシーの侵害だと私は声を荒げた。

 だけど鈴は固いことを言わないとお茶を濁しながら自分の席へと戻る。そしてコーヒー……とも取れないような何かを一口すすると、何か思い出したような閃いたような顔を見せた。

 

「一夏、そういえばさぁ。アンタ綺麗になったわよね」

「そう、かなぁ。あんまり自分ではわからないけど、より気を遣うようにはなったよね」

「とか言って、原因はそれだけじゃないでしょ」

「え? 別に思い当たる節はなにも――――」

「何ってアンタ、ナニでしょ」

 

 鈴と言えば無人機騒動の時の私の落ち込みぶりから、ハルへの想いの強さを理解して身を引いてくれたんだけど、我ながら元男として綺麗になったという誉め言葉をどう受け取ったらいいのやら。

 心当たりというか、ハルのためにも綺麗になるよういろいろ努力はしてる。けど、それが実っているのか自分ではいまいちピンとこない。

 でも物事をハッキリ言うタイプの鈴がそう思うならそうなのかもと、否定も肯定もしないような中途半端な答えに落ちついた。

 しかし、なぜか鈴のほうが心当たりがあるかのような物言いだ。心なしか顔つきがニヤニヤしているのが気になる。

 鈴の動向を見守っていると、あろうことか拳を握るようにしながら、人差し指と中指の間に親指を突っ込んで見せた。つまり、そういうことの暗喩である。

 私からしては割とタイムリーな話題であり、思わず飲んでいる最中のカフェラテを噴き戻しかけてしまう。

 慌てて飲み込むもむせかえってしまい、そんな私を見て正気に戻ったのか、箒が大丈夫かと私の背を撫でる。

 

「鈴、今のはいったいなんの合図なんだ」

「はぁ? アンタそういうのに無知なのほどほどにしときなさいよ。つまりねぇ――――」

「ふむ……。……なっ!? なななな、なるほどそういう意味なのか。そうか、一夏、せ、赤飯でも焚くか?」

「いやいやいや! なんで勝手に私が経験済みって感じになっちゃうの!?」

「はいダウト。アンタすーぐ顔に出るんだから。わかんないほうがおかしいっての」

 

 箒は何の暗喩か本気で知らないようだった。私としてはそのままの箒で居てという謎の親目線をしたくなるけど、いらないことに鈴がその内情を吹き込んだ。

 もちろん不特定多数の人がはびこる場ということで耳打ちで。

 てっきり破廉恥な! とか言って大騒ぎするかと思いきや、驚きはしたようだけど案外大人しいものだった。けど、赤飯どうのはちょっと余計かなって。もちろん、箒が純粋な気持ちで言ってくれてるのはわかるけど……。

 ……って危ない! 箒があまりにも純粋なせいか、そのままありがとうと答えてしまうところだった。急いで決めつけはよくないと主張してみるも、どうやら時すでに遅し。

 鈴曰く、吹き戻しかけた頃には既にバレてしまったようだ。うーん、そんなにわかりやすいかなぁ……? と、火照った頬をマッサージするように撫でてみる。

 

「で、実際どうなのよ。やっぱ痛かった?」

「ノーコメント」

「まぁ晴人に至って乱暴にってことはないでしょうね。じゃ、気持ちよかった?」

「ノーコメント!」

 

 鈴の質問は好奇心や後学のためということでなく、ただ私をからかう目的だというのはすぐにわかった。

 後学のためというならいろいろぼかしつつも真剣に話してみようという気になった可能性もあるが、そういう目的なら絶対に何ひとつ話してなるものか。

 身を乗り出しながら意地悪な質問をしてくる鈴に対し、私も同じく身を乗り出してムキになりながらノーコメントと回答。

 そうやってムキになるのが鈴の思う壺なんだろうけど、事細かく説明すよりは随分とましなはず。

 期待通りのリアクションをどうもと、ケタケタと笑う鈴が少し癪だけどね……。

 

「ところで鈴、先ほどから話しながら携帯を触るのは感心しないぞ」

「あー悪いわね、もう終わるから勘弁して。ま、騒ぐ男子にちょっとした着火剤をね~」

 

 少しばかり機嫌を損ねていた私は、この時の鈴の言葉を完全に聞き逃してしまっていた。

 まさにこの瞬間鈴の悪ふざけの矛先が、ハルにまで向けられていたというのを顕著に表した言葉だというのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、そんな馬鹿な……!」

「俺たちの努力そのものが、モテない原因だったなんて……!」

(う~ん、少し言いすぎちゃったかな……?)

 

 言い争いの最中、常々思っていたそれぞれのモテない理由を客観的に説明したところ、弾と数馬は膝を抱えて座り込み、酷く落ち込んでしまった。

 不満があったのは確かだけど、俺の時の僕なら絶対こうはならなかったよなぁ。でも流石になすがままってわけにもいかなかった。

 僕が変に慰めをかけるとお前が言うなとかで騒ぎ出すんだろうし、いったいどう対応するのが正解なのやら。……いっそこのまま帰っちゃう?

 い、いや、彼らが友達であるという事実は変わらないんだから、なんとか気を取り直させるのも僕の仕事だよな。よし、なんとかそれらしい台詞でも――――

 と、僕が近づこうとしたその時、机に置きっぱなしだった数馬の携帯が震えた。送信相手や内容を見るのは失礼なのでしないが、遠目でもわかる緑色の画面は例のチャットアプリのはず。

 とりあえず見るだけ見たらどうかと声をかけると、数馬はノロノロとまるでゾンビのようにスローな動きのまま携帯を手元に収めて確認作業を始めた。

 

「こ、の……クソ野郎がああああああっ!」

「ええっ、なんでまたこのパターン!?」

「このパターンにならずにいられるかぁ! 晴人、これはどういうことだよ!」

「見えないからな!? ほっぺに画面押し付けられて見えるはずないだろ! ええーっと、なになに……」

【晴人、非童貞確定】

「鈴ちゃああああああん!」

 

 突如として数馬は激高。勢いそのまま僕の胸倉をつかんで前後に揺らした。この流れ数分前に見たよ。お腹いっぱいだよ。

 すると数馬はこれをどう説明するつもりかと、携帯の画面を頬に押し付けてくる。数馬、そんなに近づけられたら物理的に見えないからね。

 そう怒鳴ると落ち着いてはいないようだが、画面を確認できる程度のは離してくれた。しかし片手はしっかり胸倉を掴んでいるあたり、逃がさないという執念を感じずにいられない。

 いったい何が数馬にそこまでさせるのかと画面を見ると、そこには数馬あてに鈴ちゃんから超いらないメッセージが。要するに、僕が童貞卒業しているのを報告しているのだ。

 僕らが遊んでいることは知っているのだろう。それでいてこのメッセージを送信したということは、面白半分ということが確定している。

 やっぱりどこか僕に対する扱いが雑な鈴ちゃんに対し、僕は心底から不満であると彼女の名を叫んだ。空しいかな、それが本人に届くことはないだろう。

 ……いや待て、なんで鈴ちゃんがそのこと知ってるんだ!? もしかしてナツ、執拗に迫られて喋っちゃったかなぁ……? それはそれで不憫というかいたたまれないというか。

 

「ほわぁ!? 晴人、貴様ああああ!」

「いやね、この際だから否定はしないけど、別にこれも文句言われてもしょうがなくて――――」

「いったいどんな感じだったか吐いてもらおうか……? それはもう事細かく!」

「僕もうキミらと縁切りたくなってきましたけど!?」

 

 いったいどうしたのかと弾もメッセージを読み、様式美よろしくこちらへ詰め寄って来る。そして今度は両肩を掴まれた。

 僕にはもはや反論するためのネタがないので、最初の頃と同じく落ち着かせることに重点を置いて言葉を紡いでいく。が、弾はどうやら怒りが頭の大半を占めているようではなさそうだ。

 うん、むしろそれなら怒ってくれたほうがよかったけどね。だって最低だもの。この男、僕に初体験の感想を求めてくるではないか。

 そろそろ我慢の限界というか、むしろなんでこの二人と今まで友達でやってこれたんだろう。という想いがつい口から出てしまうくらいには残念でならない。

 それからしばらくは、ちょっと文字に書き起こすことはできないようなアレコレを根掘り葉掘り聞かれた。無論、ナツとの大切な一夜を汚さないためにも回答は断固拒否。

 どうにか強引に帰るタイミングを見計らっていると、僕の背後からとんでもなく大きな音が響いた。

 

「あのですね、ここにはお年頃の女の子が住んでるんです。下世話な話をするなら出て行ってくれませんか?」

「「「すみませんでした!」」」

 

 そこに片足を挙げて立っていたのは、ラフな格好に身を包んだ蘭ちゃんだった。どうやら扉を蹴破ったらしい。

 そしてとてつもなく素敵な笑顔で、それでいて全てを凍り付かせるような笑顔で、下ネタで騒ぐ男三人に注意を――――もとい、要約すればとっとと出ていきなと言い放った。

 逆らっても絶対にいいことはないと本能的に察した僕らは、揃いも揃って直立した状態で素直に謝罪をば。そのままの流れで、厳さんに怒らない程度に急ぎ五反田食堂を飛び出た。

 そして僕らは、しばらく何もするでもなく店の外観を眺め続ける。

 

「「「…………」」」

「……ゲーセンでも行くか?」

「それよか冷たいもんでも食いに行かね? 晴人、なんかいい店知らねぇのかよ」

「提案するのにノープランなんだ……。ん~……かき氷専門店が駅前にできたとか聞いたけど」

「んじゃまずそこ目指すか。晴人、財布は持ってるよな」

「うん、外出するときは必ず持つようにしてるから」

 

 弾がぼやくようにそう提案し、数馬が別の案を挙げる。惜しいことにノープランみたいだけど。っていうかなぜ僕に振るんだ。まぁ知ってるには知ってるけど……。

 それこそナツとデートするのによさそうと思ってた店、なんて言ったらまた騒ぐので口にチャックをしておく。

 喧嘩みたくなった後もこうやって自然な会話ができるあたり、縁を切りたいなんて思わず口走ってしまったけど、やっぱり二人は僕にとってかけがえのない友人なんだろう。

 最近はナツのことばかり考えていたし、今日は頭を空っぽにして馬鹿騒ぎをすることにしよう。切っても切れないであろう縁で結ばれた、このお馬鹿さん二人と。

 

 

 

 

 




鈴のめっちゃカスタムしそうとか、箒のコーヒーより緑茶派とかは、完全に独断と偏見によるものですがあしからず。
ですがキャラそれぞれの個性を軸にそういうことを考察するのは楽しいものでして、他にも犬派か猫派かなんて想像していたりします。
これも二次創作の醍醐味というやつなのかも知れませんね。





ハルナツメモ その27【レスポンス速度】
晴人とメールやチャットでやりとりをすると、時間帯問わず恐ろしい速度で返信がかかる。本編のように、相手が一夏だったから特別早いというわけでもないのだ。
無論だがその性格ゆえ、待たせては悪いからという気持ちが先行してしまうため。
ゆえに見逃した、ないし気付かなかったということが起きると、ものすごく謝る。それはもう謝り倒す。
ちなみに、逆に既読スルーをされたりしても、緊急を要する時以外であればこれっぽっちも気にしない。
しっかりしていそうで、その実マイペースな面も持ち合わせているのかも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。