まさにあっという間のできごと。それだけ充実しているということでしょうか。
ともあれこうして続けてこれたのは、この作品を読んでくれる皆様のおかげです。
もうしばらくの間、引き続き応援いただければ幸いです。
以下、評価してくださった方をご紹介。
藤紗月様
評価していただきありがとうございました。
時刻はそろそろ夕暮れ間近。刻一刻と沈みゆく夕日を眺めながら、僕は玄関先にて胸を躍らせながらナツの準備が整うのを待ち構えている。
今日は箒ちゃんち、正確に表現するなら篠ノ之神社で夏祭りが催される。神事? 神楽? みたいなことで舞踊をするからぜひと、本人から招待があった。
箒ちゃんと共に過ごした小学校時代では、毎年の恒例行事だったなぁなんて懐かしい気分に想いを馳せてしまう。
晴れ舞台をぜひ観てほしいとあらば、友達として幼馴染として出向かないわけにもいかない。と言いつつ、箒ちゃんはデートのアシストをしてくれてるんだろうなぁとも思う。
それはいらぬお世話どころか大歓迎だ。だって夏祭りと言えば? そう、浴衣! ナツの浴衣姿を見られるのだからこれ以上のことはない。
(本当、父さんと母さんに感謝!)
渡したいものがあるから少しだけ帰ると予告があったかと思えば、そのプレゼントとやらはかなりいい生地で織られているらしい特注の浴衣だった。
僕は実際ナツが着た時にということでデザインは見せてもらえなかったけど、届けに来た母さんが帰ったあとにだいぶ恐縮してたし、本当に相当なやつだと考えたほうがよさそう。
ちなみにだが、その際にだけど僕らの交際がスタートしたということを報告しておいた。そりゃもう大手を振って喜ばれたよ、失神するくらい。もちろん、僕じゃなくて母さんがね。
『あ、そうそう、僕ら付き合い始めたから』
帰り際にそんな感じで思い出したように言ったのがいけなかったんだと思うけど、それはよかったわねぇなんて口にしながら倒れなくてもいいと思う。どこまで引っ付けたかったのか。
まぁうん、有難いことだとも思うよ? 多分だけど、母さんは僕が無意識的にナツへ想いを寄せてるのもわかっていたんだろうし。
父さんのほうはアッサリしたもので、電話でひとことおめでとうという言葉をいただいた。それと、命に代えてでも愛し続けよという至言もおまけつき。
そろそろナツも姿を見せるだろうし、閑話休題ってところかな……。
「ごめん、一人で着るの凄く難しくって!」
玄関を隔てて慌ただしい音が響いたかと思えば、テンポよく戸が開閉する音が響いた。
ナツが特殊な装いに身を包む時って、いつもこんなやりとりをしてる気がするなぁ。別に謝らなくても、というのはいつも言っているんだが。
でも親しき中にも礼儀ありという言葉の大事さも理解してるし、今回もしっかり待ち時間も楽しんでいるんだってことを伝えておかなくては。
ナツの方へと向き直り、口を開いたまではいい。だけど僕はそのまま続けて声を発することができずに、マヌケにもあんぐりとしてしまうという醜態を晒してしまった。
髪をアップにまとめ上げ、いつもよりどこか凛とした印象を受けたから。というのは大きいけど、何よりその浴衣のデザインが僕にそうさせたんだ。
ベースとなるのはナツのパーソナルカラーである白――――というよりは、雪色と呼ぶにふさわしいような澄み切ったもの。そしてなにより、大きく虹色の蝶があしらわれているではないか。
虹と言えば僕の相棒であるヘイムダルの象徴。蝶に関しては単純にナツの優美さや儚さに起因するものだろうけど、それはたしかにナツへ僕を刻むかの如く所業である。
そんなデザインの浴衣がナツの美しさを際立てているのに一役買っているとなれば、僕が抱く感想なんてただひとつ。
「この世に生を受けて本当によかった……!」
「そこまで!? 嬉しいけど、流石にそこまではおおげさだよー」
噛み砕いて言うのならありがとうってことなんだけど、本当にそれしか言葉がみつからない。
なんなら今僕にこんなナツを見させてくれているあらゆる要素に、ありがとうと拝み倒しても足りないくらいだ。
地面に頭をこすりつけて有難みを表現したい気持ちをなんとか抑えるも、悶えるのばかりはどうしようもできず非常に気持ち悪い感じになってしまう。
ナツが絡むとどうにも柄じゃなくなってしまうのは、そろそろどうにかしないとな。でも、いつまで経っても新鮮なリアクションをしたいというのもあるし、そこらは難しいものだ。
宥められてなんとか気を取り直した僕は、ナツの手を取り箒ちゃんちを目指して歩き始めた。そういえば、彼女と再会したというのに一度も訪れていなかったな。
「それにしてもっていうか、箒ちゃん自ら観に来てっていうのは珍しくないかな」
「そういう家系に産まれたからには、巫女としての役目は誉れあることって言ってたよ」
「へぇ、恥ずべきことじゃないと。それもそれで箒ちゃんらしいか」
「ふふ、そうだね。着いたらまずは挨拶しておこう」
実はずっと気になっていたことなんだけど、なにかと目立つことを敬遠する傾向にある箒ちゃんが、間違いなく晴れ舞台であろう行事を自ら見に来るよう言ったのが信じられなかった。
直に聞いたナツの言葉を耳にして、ようやくそれもある種箒ちゃんだと思える。彼女がかっこいい女性であることに間違いはないのだから。
巫女さん、ねぇ。なんだか弾や数馬あたりは聞いただけでテンションが上がりそうなフレーズだけど、やっぱり神職に関わりのある人物が友人っていうのもまた特殊だよね。
なにかこう、萌え? みたいな邪な思考はこれまで抱いたことはないんだけど、ナツがもしそういう格好をしたとするなら確かに気持ちもわかるかもなぁ。
「ハール、なーに考えてるのかな~?」
「ナツの巫女服姿を見てみたいなって」
「う゛っ、なんかカウンター喰らった気分……。む~……昔は可愛く照れてたのに~」
邪念を抱いてナツを凝視していたせいか、完全に考えを読まれてしまったようだ。そしてナツの言い方からして、一種の意地悪だということも。
別に主導権を握らせたくないというわけではないが、そう来られては期待どおりの反応をしてやるわけにはいかない。ということで、嫌に堂々とそのままの考えを伝える。
ナツとしては僕が大慌てで考えを誤魔化しにかかるというのを期待していたようで、少し口先を尖らせて抗議されてしまった。
……やっぱり僕って意地悪なやつだ。いつか必ず見せてよねって言いたい。耳元で囁いて顔を真っ赤にさせてやりたい。
そんな衝動を必死に抑え、とにかくナツをなだめることに終始する。いろいろ奢ってくれたら許してくれるとのこと。
いつもどおりのやりとりを繰り広げつつ歩くことしばらく、ようやく篠ノ之神社が見えてきた。仄かに輝く行灯がそこらに飾られており、耳には賑やかな祭囃子が届いてくる。
「おーい、箒ーっ!」
「二人とも、来てくれたか!」
「もちろん来るよー。だって箒の頼みだもん」
「嬉しいことを言ってくれる。むっ、一夏、その浴衣……随分といい生地を使っているな」
「わかるんだ!? そうなの、おじさんどおばさんがプレゼントしてくれてね」
長い階段を昇って境内の方へお邪魔すると、仮に設けられた控室へと通された。自ら招待しただけあり、箒ちゃんに緊張した様子は微塵も感じられない。
そして繰り広げられる女子特有? のキャピキャピとしたやりとりを邪魔せぬよう、少し離れた位置で二人の様子を見守る。
なんだかナツと箒ちゃんがはしゃぐ姿はホッコリさせられるというか、よくわかんないけど保護者的視点で見てしまう。
そんな僕の視線に気が付いたのか、箒ちゃんが遠慮なく混ざれと僕を手招く。
別に遠慮していたわけではないが、そういうことならお言葉に甘えることにしよう。
「それにしても、並んだ姿が様になってきたじゃないか。……尊い」
「あはは、それは嬉しいな。けど箒ちゃん、どうか暴走はしないように」
「はっ!? そうだ、写真を撮ってもいいだろうか!」
「なんで箒のほうが私たちの写真を欲しがるの……」
並び立つ僕らを見るなり、箒ちゃんはからかうでもなく様になってきたと褒めてくる。それだけなら感謝の言葉を返すだけで済んだんだろうが、ボソッとまた変なことを呟いているのは聞き逃さないぞ。
なんとか箒ちゃんのテンションを上げまいと釘をさすも、どうやら手遅れみたいでなぜか向こうが僕らのツーショット写真を要求。
ホクホクとした様子で携帯を構える箒ちゃんを見て、僕らは顔を見合わせてから半歩ほど接近。記念になるのは間違いないしね。
そして表情を明るくした箒ちゃんは、ものすごい勢いでシャッターを切った。しかも連射モードで。……いったい彼女の何がそうさせるのか。
「ふふふ、休み明けの集会で使えるネタが増えた……」
「ちょっと今のは聞き捨てならない。箒ちゃん、なんかキミがどんどん遠くへ行っちゃってる気がしてならないよ!」
「もう言うだけ無駄なんじゃないかな……」
「お願いだから諦めないで!」
箒ちゃんが自分の世界に入っていることを表しているのか、普通にこちらへ聞こえる音量で不穏なことを口にし始める。
集会? それって絶対にハルナツとやらを応援してる人の集まりだよね。もしかしてファンクラブみたいなことになってるんじゃないだろうな。
いや、別に僕らのプライベートさえ侵害されなければいいんだ。けど箒ちゃんがよからぬ風潮に染められていくのを見過ごせないというか。
確かにナツの瞳が物語るように、既にドップリはまっているような気はするが、なんとかクールでかっこいい箒ちゃんに戻ってもらいたいものだ。
「二人とも、婚姻の契りはぜひウチで交わすといい!」
「今度はすさまじく話が飛躍し始めた!? っていうか、ここは結婚関連のこともやってたんだっけ」
「機会がなかっただけの話だが、普通に承っていたぞ。それより晴人、一夏の白無垢姿を見てみたいとは思わんのか!」
「む、それは魅力的な口説き文句で……。……ちょっと詳しく話せる?」
「ハル、収拾がつかなくなるから今は戻ってきて! 箒ごめん、私たちもう行くから!」
どういう妄想を繰り広げていたのか知らないが、箒ちゃんは最終的に僕らへ結婚式はぜひ篠ノ之神社でと迫って来るではないか。
ツッコミを入れつつも、普通に疑問に感じたことがあるのでちょっと質問。説明が過去形なのが引っかかるけど、神前式も執り行っているらしい。
ほーん、とかへぇ、みたく内心でそうなのかと相槌を打っていると、いきなり箒ちゃんが僕の心を揺さぶることを言い始めるではないか。
そりゃ王道のウェディングドレス姿も最高だろうが、何かと和装が似合うナツに白無垢もまた最高としか言いようがないだろう。
そのあたりのことはまだ考えたことはなかったが、善は急げと言うやつだ。ぜひとも今後について箒ちゃんと話し合いを――――と思ったのだけれど、ナツに服を引っ張られてそのまま退散させられてしまう。
このまま去るのもなんなので、またねと大きく手を振ってみる。すると向こうも、またなと手を振り返してくれた。
ん、ならとりあえずは大丈夫そうかな。それじ僕も気持ちを切り替えて、ナツと祭りを楽しむことにしよう。
実際のとこ祭りを楽しむって言ってもオーソドックスなもので、縁日を回っていろいろものを食べたり、型抜きとか射的とかで遊んだりだ。
重要なのは僕とナツでってことだと思う。やっぱり恋人同士ということもあってか、周囲に舌打ちされてしまいそうなやりとりをしていた自覚はある。
というより、うん、舌打ちされてた。主に男性諸君から。気にしないようにはしてたけど、これを見るにIS学園が共学じゃなくて本当によかったと思う。
どのみち僕らにとって今日のメーンは箒ちゃんの舞踊であるわけで。どちらかというならそれが始まるまでの時間つぶしみたいなものだ。
いやしかし、本当に見事なものだった。箒ちゃんも大和撫子って表現がピッタリな女性だし、和の美しさというものを十分に堪能させてもらった。
でもあんまり話すとナツが拗ねるから割愛。別に他意はなく見ていたつもりだけど、ちょっとナツは面白くなさそうだったし。可愛い。
後は祭りの醍醐味をもう一つ残すのみとなり、僕らは昔馴染みだけが知る特等席へと足を運んでいた。
それは篠ノ之神社の裏手あたりにある雑木林――――の中に、まるで図ったように木々で囲われたちょっとした広場がある。
ここだけは葉や枝が邪魔することなく空を仰ぐことができ、人が現れることもまずないまさに特等席と言うわけだ。
かつては織斑姉弟と篠ノ之姉妹と共に祭りの最後はここに集っていたわけだが、それも今や二度と再現されない光景なのだろうか。
「祭りが終わりそうになると、なんだか寂しい気持ちになっちゃうよね。わかるわかる」
「へ……? そう、なんだよね。楽しい時間ほどあっという間に過ぎちゃうっていうか」
あの日あったはずの僕らには戻れないのだろうか。なんて考えてしまっていたせいか、少しばかり顔つきが不穏ものになってしまったようだ。
ナツは僕の心をどこまで読んだのか。本当はわかっていて誤魔化しながら聞いてくれるのか。そのあたりは定かではないが、寂しさを紛らわすようなことを言ってくれた。相変わらずナイスフォローなことでして……。
そういうところも好きだなぁと感じつつ、僕は指を絡ませながらナツの手を取った。そうだ、この手だけは離してなるものか。
「……ねぇハル。ずっと立ちっぱなしもなんだし座らない?」
「おっと、ごめんごめん。気が利かなかったかな。よ……っと、ほら」
「なに言ってんの、十分利いてるじゃん……」
感傷に浸り過ぎてしまった。あの頃をただ昔のことだ、今は今を生きているんだと割り切れるほど僕は強くない。けど、少なくとも今は最愛の人と刻む時を生きよう。
僕はナツの提案に乗ると、すぐさま足を開いてから腰を降ろす。映画を観たあの日と同じく、ナツが僕に身体を預ければ楽だろう。
そんな僕に対して気が利くと言うナツだが、そもそも座ることを提案させてしまったのでプラスマイナスゼロってところじゃないだろうか。
まぁこういうね、なるべく互いに下手に出るのが円満のコツなんじゃないだろうか。僕らはそんなことしなくたって永遠に円満だろうから知らないけど。
しかし、やっぱり早く来すぎてしまっただろうか。なら実はずっと気になっていたあの話題について、とりあえずナツのイメージを聞くことにしよう。
「ナツ、さっきの話なんだけどさ、実際どうなの? どっちを着たいとかあったら聞かせてほしいんだけど」
「さっき? ……あぁ、う~んそうだね。和式も洋式も同じくらい憧れるっていうか。むしろそれならハルの希望に合わせるけど。あ、でも、あまり派手婚にする気だけはないかな~」
「そこに関しては僕も同意。親族と弾たちと、専用機持ちのみんなにはぜひ来てもらいたいよね」
ナツもそれなりに関心は持っていたのか、割とスラスラと意見が出てきた。未だに尻込みするようなことがないなら言うことはない。
でもなんかこの会話、本当に結婚する寸前みたいなノリなんだがそこはどうなんだ。我ながら、後は籍を入れて式を挙げるだけとは思ってるけどさ。
とりあえず様式については置いておいて、参列者を多く呼ばないという部分については大賛成。……というか、呼ぶような友達が居ないって言うのもまた正しい。
そ、それはそれとして、問題は少なくとも卒業してからになることだよなぁ。候補生のみんなは国に帰っちゃう可能性が高いだろうし、無理なくスケジュールを合わせることができればいいんだが。
「……ハルは――――」
「うん?」
「ハルは、俺を、お嫁さんにしてくれるのか?」
「……嘘でしょ!? 今更!? 数秒前までのくだりはなんだったのさ……」
「だ、だって、冷静に考えたら俺、すげぇこと言われてる……。結婚するの前提みたいに言われたら、頭が一気にパンクしちゃいそうで……!」
前言撤回、全然大丈夫じゃなかったらしい。
聞いてなかったってことじゃないみたいだが、よくよく考えてみたらこれなんかおかしいぞという感じになっちゃったのかなぁ?
それにしても、どうやらナツはそっち方面に混乱がピークに達すると男口調に戻ってしまうようだな。つまり100%素直な言葉と考えていいわけで。
ナツの心の牙城を崩せているようで、それもまた嬉しいような気はするが、もっと言うなら泣かせちゃってるってことか。
あ~……でも、これ以上言おうものなら余計にナツを泣かせてしまうような気も。……不本意だけど、皮肉っぽく言っておく?
「あのですね、僕に手まで出した女の子と結婚しないって選択肢があると思いますか? 昔から責任感だけはあったつもりだけど」
「それはそうだけど、私のいらない心配だっていうのはわかってるけど! ……私の前からは、いろんな人がいなくなっていったから。私が、本当にこんなに幸せで――――」
僕はナツの想いを見誤っていたようだ。数秒前まで軽い話で済むと考えていた自分をぶん殴ってやりたい。
物心つく前のことみたいだが、ナツの前からは血のつながりがあるはずのご両親がいなくなった。本当の孫のように可愛がってくれた爺ちゃんがいなくなった。
家族ぐるみでの付き合いだった篠ノ之一家がいなくなった。そしてその穴を埋めるかのようにやって来た鈴ちゃんも。
爺ちゃんは寿命というか天命ゆえに仕方ない部分はある。箒ちゃんと鈴ちゃんは巡り巡って再会することができた。しかし、ナツはあまりにも目の前から大切な者がいなくなることを体験し過ぎていたのだ。
……なんてふがいないことなんだ。もちろんショックなことだとは思っていたけど、そこまでナツの心に暗い影を落としてしまっていたなんて。そのことに気づくことができなかった……。
だけど、弱みを晒すことをよしとしないナツが、こうして心の内を話してくれたことは嬉しく思う。だからこそ僕は、これ以上ナツにネガティブな発言をさせるわけにはいかない。
自分が本当にこんな幸せでいいのか。そう言い切ってしまう前に、僕はナツの唇を短く奪うことで黙らせた。
「前に話したよね。ナツが望み続ける限り、僕はキミの傍を離れないって」
「……うん」
「けどね、それはもうナツだけの望みじゃないんだ。ナツの隣にあり続けることは、今じゃ僕自身が望むことなんだよ」
「ハル……」
初めはナツの隣を離れられない臆病なやつだった。それを乗り越えた僕は、ナツの望みがままナツの隣に居ることを決意した。そしてナツの望みは、いつしか僕の望みとなったのだ。
世界広しと言えども僕にとって世界で一番愛しいナツと、共に泣き笑い、共に分かち合い、共に育み生きていく。むしろ今の僕にとって、それが生きる意味なのだから。
だから僕とナツは運命だって思う。例えどのような形であれ、出会ったその日から方時も離れることなくここまでたどり着いているのだから。そして、これからも離れることはないだろう。
僕が、僕だけは、ずっとナツの隣に居た。多くの人がナツの前から姿を消すのに対して、僕だけは……。これを運命と呼ばずになんとする。
「それに、約束を違える気はないし、むしろ幸せを堂々と受け入れてもらわないと困るよ。だって僕には、ナツを世界で一番幸せな女性にするっていう使命が――――いや、夢があるんだから」
「…………!」
僕がずっと言い続けているこれだって、僕のしたいことなんだ。ただナツを幸せにしたい。だから幸せを受け入れてもらわないと困るっていうのは、少し本音が混じっちゃってるかな。
要するに遠回しではあるけど、ナツは幸せになっていいんだと伝えたつもりだが、僕の想いは届いてくれただろうか。
黙ってただ顔を見せまいとするナツを待つことしばらく、ゆっくりではあるが首を斜め上に向け、その顔を僕へと晒した。
ナツの顔は薄暗い中でもわかるくらい、涙で頬を濡らしている。しかし、僕はとても美しいと感じてしまう。それはきっと、ナツが幸せを感じて流している涙だから。
……堪らない。とても身勝手な感情なのかも知れないが、ナツを幸せで満たせていることこそが幸せだ。……あぁそうか、これもきっと、分け合うことなんだろう。
僕は肩越しにナツへと顔を近づけていく。そうして僕らの唇が再度重なりかけたその時――――空に燦然と華が咲いた。
言うまでもなく僕らは花火を観にここへと来た。そのための特等席であるというのに、もはやただ人気を避ける目的になってしまいそうだ。
だって僕らは、お互いのことしか見えなくなってしまっているのだから。
「んんっ……! ハル……ハルっ……!」
「ナツ……!」
僕らは自然に舌同士を絡ませ合い、僅かな息次の間を縫って互いの名を呼び合う。まるで求めるかのような切ない声色が、思考をより鈍らせ甘美の坩堝へと落ちていく。
幸いにも艶めかしい水音は、花火が咲く音にかき消されてあまり耳へは届かない。本当に幸いなことだ。
なぜなら僕は、これ以上何か思考を鈍らす要因があったとして、きっと外だと言うのにもかかわらず、ナツとひとつになるべく行動を起こしてしまっていただろうから。
いつしか僕らはどちらともなく距離を置き、舌と舌には激しく求め合った証拠である銀の橋がかかった。それが途切れると、ナツはなんだかこそばゆそうな笑顔を見せる。
そうしてすかさずハンカチを取り出しナツの口元を拭く。なんか浴衣はいい生地らしいし、どちらのものとわからない涎で汚すわけにもいかない。
それからの僕らは、珍しいことにただ無言で花火を眺めた。語るべくことはキスで伝え合ったというのもあるけど、なんだか言葉にするのも憚られる何かがあった気がするんだ。
そして、最後を締めるべくひときわ大きな火花の輪が広がる。ドンという音と共に儚く消えゆくが、この刹那的な美しさが花火の醍醐味。その余韻を楽しむこともまたしかり。
花火の打ち上げが終わってしばらく、まだ僕らは無言のままだった。暗く静かに感じてしまう夜空を見上げ、ようやくナツがぽつりと呟く。
「……花火、終わっちゃったね」
「……うん。けど、夏が終わったわけでもないんだし、また来年観に来ればいいよ。だって僕らは、永遠に一緒なんだから……さ」
「あはは、ハルって変! いつもは平気そうなのに、今のなんでちょっと恥ずかしそうなの?」
「な、なんでだろ。自分でもちょっと不思議だよ」
寂しげに呟くナツに対して、今すぐはそうかも知れないけど、これが最後になるわけじゃいない。なんて声をかけながら、立ち上がって手を差し伸べた。
だけど最後のほうが気恥ずかしさで少しどもってしまい、ナツに笑われてしまう。さっきまでもっと恥ずかしいことをしていたのに、本当にどうしてだろう。
なにも恥ずべきことと言いたいわけじゃないが、むしろキスしたからこそ言葉に詰まってしまった可能性がある。今度からは気を付けることにしよう。
まぁ、とにもかくにも――――
「ナツ、僕らはずっと一緒だ。必ずキミの傍にあり続けるよ」
「ハル……。うん、ずっと一緒に!」
いい花火鑑賞にはなったんじゃないだろうか。
拙者、TS娘の恋愛感情が暴走して、無意識的に男口調に戻るの大好き侍
なんたって極論まで詰めればそれが完全なる「素」なんですもの。
それが恥ずかしくってつい出ちゃったってのが可愛いんだよなぁもぉ!
でも逆もまた然り。
いつもは男口調で喋ってるけど、相手役のドキっとさせられる言動に、つい女の子口調で喋っちゃうTS娘もいいぞ。
結論ですが、やっぱりTSってジャンルは最高なんっすよぉ……。