そのあたりは今話を読んでいただいて、あとがきで説明したいと思います。
「「…………」」
放課後の1025室、僕らはベッドの上で正座しつつ、気まずい空気の中互いに見つめ合っていた。
ナツの引っ越しはあれよあれよという間に進み、本当に今日中に僕と同室になってしまったというわけだ。
なんか生徒会長の権限とか言ってたけど、寮の部屋割りにも介入できる生徒会長の権限っていったいなんなのだろう。
いや、生徒会及び更識の正体を知ったら自然なことかも知れないけど。一年の部屋割り担当っぽい山田先生があまりにも可哀そうだったもんだから……。
楯無先輩に急に直訴され、あまりにも急なため渋っていると、フユ姉さんが協力してやれという鶴の一声を放つという。
あの様子からして、フユ姉さんは生徒会の正体を知っているとみていいな。というより、学園内で正体を知っている人は聞いておけばよかったかもね。アハハ~……。
「無理ぃ! 絶対に無理ぃ! 絶対に普通の学校だったら即退学クラスの不純異性交遊的なことをしてしまうのがみえてるじゃないかぁ!」
「うわビックリした! ハ、ハル、そんなことばかり考えてても仕方ないと思うよ? うん!」
展開の急さに話題を別方向に持っていこうとしたものの、やっぱり上手くいくはずもなく。僕は正座したまま上半身を反らし、ベッドに背が着いたような状態となった。
終始無言のままいきなりそんな奇行に走ったためか、ナツをかなり驚かせてしまったようだ。事情を知らない人が見れば、さぞかしシュールな光景だろう。
自分でもらしくないと感じるだけに、ナツがなんとか気を取り直させようとしてくれているのが逆に痛ましい気もする。
でも本当に僕の言葉どおりなんだよ。今までなんとかやってこれたのは、周りの目があるからっていう理由が一番大きい。
なのにその枷すら半ば外されたも同然なんて、ある意味でこんな殺生なことはないと思う。いや、正確に言うなら生殺しなんですけれども。
「う~ん、何かハルをリラックスさせる方法は……。あっ、これなんてどうかな。ねぇ、ハル」
「なんでございましょう……」
「ほら、こっち来て、耳かきしてあげるから。リラックス効果があるって言うでしょ?」
「……ぜひお願いします」
ごそごそと何かをまさぐる音が聞こえたから、ナツがまだ荷解きの済んでいないカバンを漁っていることを察した。
とても興味深いことを言われたので上半身を起こしてみると、ナツがその手に持っているのはなんの変哲もない綿棒ではないか。
僕らの関係上それが何を意味するかなんてのは言わなくてもわかるというか、ナツが女の子座りして膝をポンポンと叩くものだから、余計に想像するまでもなくなるよね。
……恋人同士というよりは、一種のセラピーみたいな気持ちで受けてみることにしてみよう。今の僕にリラックスが必要っていうナツの見解も間違ってなさそうだし。
僕はベッドの上をズリズリと移動すると、適切な距離感を保ちつつ左耳が上になるように横になる。
頭の着地点はちょうどナツの膝の真上。いわゆる膝枕されている状態となった。
「……既にリラックス効果を実感中」
「ふふっ、それはなにより。言ってくれれば、いつでも使わせてあげるからね」
「なら、今度ナツの膝で昼寝でもさせてもらうことにしようかな」
とても快適な頭の乗せ心地だった。
やっぱり僕らの関係性や心情によるところが大きいのか、現段階で寝落ちしてしまう未来しか見えない。
ナツの膝枕で昼寝か、それはいい。欲を言うなら春の陽気に包まれて、とかいうシチュエーションならもっと最高なんだけど。
……って、まずいまずい、想像してるだけで眠気が襲ってくる。なるべく起きて、ナツの耳かきをしっかり体感しておかねば。
「じゃ、早速始めるね。まずは耳の溝のところから……」
ナツは開始を宣言すると、耳の溝みたいになってるとこ――――正式名称とか知らないからなんとも言えないんだけど。とにかく、そこらを綿棒で優しくこすり始めた。
力は強すぎず弱すぎず、なんとも絶妙な加減だ。マッサージが特技だったりするし、力の強弱を調整するのはお手のものなのかも。
綿棒が一定のリズムで僕の耳の溝へと擦れるたび、シュッシュッとかすれた音が響く。これもまた耳に心地いい気がする。
その後しばらく、ナツは丁寧に丁寧を重ねて溝の掃除を続けていく。本人も集中してるのか楽しんでるのか、口数のほうはほとんどないに等しい。
「ん~……よし、こんな感じでいいかな。じゃあ次、耳の穴のほうをやっていくからね。あ、痛かったらすぐに言ってよ?」
「うん……了解……」
「ふふっ、いいお返事です。そのままジーっとしててくださいね~」
満足したのか、それともナツの思う綺麗にまで到達したのか。とにかく溝掃除は終わりと見ていいらしい。
そのまま穴の中の掃除を始めるというナツの忠告が入るものの、僕は眠気のせいか曖昧な返事しかできないでいた。
それを全く不満に思う様子もなく、ナツはむしろ僕がリラックスしている証拠としているのか、楽しそうな様子を継続させつつ耳かきを進めていく。
そして、耳の穴は綿棒が入り込む感覚を確と捉えた。なんかこう、言葉では言い表せない気持ちよさがあるよね。
ひと昔前の流行りで今はどうなのか知らないけど、マッサージ店感覚で耳かき専門の商売があったのもなんとなく頷ける。
「あんまり見当たらない、かな……。うんうん、綺麗にしてるのはいいことだよ」
「なんか、勝手に出てくるから本当は耳かき必要ないんだって。これ豆知識」
「えっ、そうなの!? なら私が今しているこれはいったい……?」
「別にいいんじゃないかな、恋人同士の戯れってことで」
どういう原理か忘れたけど、耳垢っていうものは勝手に耳から出てくるものらしい。耳かきっていうのは、むしろ耳垢を奥へ押し込んでしまう可能性もあるんだとか。
それを聞いたナツは衝撃の真実を知ったかのようなリアクションを見せた。なら奥にやってしまうことは言わないでおこう。愛ゆえに中断されてしまうかも知れない。
だってこんなの止められるなんてもったいないよ。膝枕されてるし、実際気持ちいことには変わりもない。
ナツも僕の説得が効いたのか、しばらく考えたのちに耳かきを再開。少し控え目にはなったものの、続行してくれるのなら何も言うことはない。
「じゃあ、そろそろ反対の方をやろっか。はい、クルっと回って」
「ん~……」
「あっ、こっちいいね~。ハルのトロ~ンってした顔がよくみえる」
「……なんか恥ずかしいからあまり見ないでほしいな」
「え~……なんで? すっごく可愛いのに」
左耳の方は終わったらしく、反対側である右耳が上にくるようにしてほしいという指示が。
眠気を感じながらも大人しく指示に従い、少し体を浮かせてからそのまま回転。必然的に顔の正面がナツの側になる。
するとナツが少し悪戯っぽく、僕の顔が見えるからいいなどと言い出すではないか。流石にちょっと恥ずかしいんですが。
抗議ではないがそうお願いしてみるも、ナツは相変わらず悪戯っぽい口調で肯定も否定もせず耳かきを始める。
目を閉じているからわからないけど、きっと鼻歌でも鳴らしてそうな上機嫌な顔をしてるんだろう。
そうしてナツは、左耳の時と同様に耳の溝、耳の穴の順で丁寧に掃除を進めていく。やっぱり最初よりは遠慮気味だったけれども。
ただ、この想いだけはずっと変わらない。
(……幸せだなぁ…………)
本当にこれだ。この想いしかない。ナツの好きが伝わってくるたび、僕の脳はこれしか考えられなくなってくる。
ナツが僕を好きでいてくれる。この事実を俺だったら、なんで俺なんかに、なんて思って悩みぬいていたことだろう。
でも、そんなのどうでもいいじゃないか。ナツが僕のことを好きでいてくれるのなら、十分にこの世界で生きていく価値となる。
ナツは僕の生きる意味だ。そんな存在が僕のことを好きでいてくれるのに、なんで、どうしてなんて疑問を持つ方がおかしい。
だから僕が考えるべきは、報いること。ナツはそんな必要なんてないって言うんだろうけど、こんな幸せを感じさせてくれるというのに、僕がそれにお返しできないのはおかしいじゃないか。
「はい、終わったよ。私も名残惜しいけど、ハルもだいぶ落ち着けたんじゃない?」
「…………」
「……ねぇ、ハル。もしかして、寝てる?」
「……ナツ。僕らが望んでることは、そんなに許されないことなのかな」
あまりに幸せ過ぎるものだから、ついそんなことを口走ってしまった。だってそうだろ、僕かナツ、あるいはその両方がテロリストに狙われているなんて。
僕は、いや、僕らはただ幸せに過ごしていたいだけなのに、どうしてそっとしておいてくれないのだろう。
僕の考え過ぎでなければ、そう、まるで世界が僕らの平穏を邪魔しているかのようにすら思える。
確かに僕は世界で唯一ISを扱える男性だ。確かにナツは、世界最強の姉を持ち、なおかつ自身もその頂に近い女性だ。
だからって狙うだとか襲うだとか、どうしてそんなことに巻き込まれなくちゃならないんだ。
ああ、愛しい。あまりにも愛しい。こんなこと考えたくもないのに、なくなってしまう可能性がわずかでも発生しているとなると、余計にこの少女が愛しくてたまらない。
気付けば僕は、体重と筋力に任せてナツを引き倒し抱き留めていた。……いや、どちらかと言うなら、僕が縋っていると表現したほうが正しいのかも。
「やっぱり、ナツだけでいい。……ナツだけでいいのに。僕が言ってることは、そんなに贅沢なことなのかな……」
「ハル……。……うん、贅沢なのかも。少なくとも私はそうなんじゃない? だって、世界一幸せな女の子だし」
「っ……ナツ……!」
「してみせるって、言ってくれたよね。そのためにいろいろ努力もしてくれてる。でも、私はあの時も言ったよ。もうなってるって、世界一幸せだよって。……幸せ。比べるものじゃないのはわかってるけど、絶対に、絶対に絶対に私は――――世界で一番幸せな女の子」
やはりナツは僕のほしい言葉をくれる。
もし幸せという概念で死んでしまうのなら、僕はナツの言葉で無限に死ねることだろう。そのくらいに嬉しいことだ。
あぁ、確かにそう考えるのなら贅沢なのかも知れない。こんなにも僕を好きでいてくれる人を、僕は大好きでいられるのだから。
狂喜乱舞とはまさにこのことか。以前ナツに狂っているとは言ったものの、ますます頭がどうにかなってしまいそう。
「……手放させる、もんか。テロリストなんかに、この、贅沢を、絶対に手放させたりするもんか……!」
「……嬉しい。ハル、もっとギュってして。苦しいくらいに抱きしめてっ」
「ナツ……! 好きなんだ、キミが、ナツが、好きで、大好きで、僕は……!」
「もっと、もっともっと、好きって言って。あぁ……ハルっ、好き好き好き、大好きっ」
自分でもあまり泣くほうではないと思う。悲しくても悔しくても、嬉しくても感動してもだ。
でもこんなのに耐えられるはずがなかった。ナツへの愛しさが溢れかえり、自然と相貌から熱いものが流れ出てしまう。
僕は震わせた涙声のまま、募る思いの丈を感情のまま口にする。するとナツも、僕の耳元に震えた声を響かせた。
後はもう、僕らは自分自身でも感情の制御が効かず、壊れたラジオのように互いへの愛を囁くばかり。本当にそれ以外、何も考えられなかったから。
最後は……どうなったのだろう、正直あまり覚えていない。そのまま疲れ果てて眠ってしまったのか、それとも機械的にするべきことをして眠ったのか。
実際、どうでもいい。どうでもよかった。ナツ以外の全てがどうでもよくて、覚えておく必要がないと脳が判断したのかも。
けど、まぁ、必要最低限の生命維持活動くらい、意識するようにはしておこう……。
晴人と一夏が愛を語り合っている同刻の某所。とある高級ホテルの廊下を、赤いドレスを着こんだ女性が歩みを進めていた。
目の覚めるようなブロンドの髪。男女問わず見入ってしまいそうな美貌。なんとも扇情的なボディライン。まさに完璧とも取れる容姿をしたこの女性を、誰がテロ組織の幹部と思うだろう。
彼女は亡国機業のスコール。あらゆる意味でミステリアスな女性だが、幹部という役職に就く自覚をキチンと持つ女性である。
ゆえに、間近に迫る襲撃予定日に際し、他の幹部――――というか、唯一幹部として機能している者を訪ねるつもりでいた。
彼女らは高級ホテルを根城にしているものの、人数の兼ね合いで三人ずつ二部屋に分かれていた。
各部屋に頭となる人物がいなければ、他のメンバーはかなり自由人なためにそうする必然性があったのだ。
面倒だと思いつつ、やはり自覚があるだけに、大事な話し合いを顔を合わせずにするのはいかがなものか。そんな思いがスコールを突き動かしていた。
「オーディン、居るかしら」
『その声はスコールか。この通り私は居るとも。遠慮なく入ってくれ』
部屋の扉をノックしてから呼び掛けると、聞き慣れた女性の声が。
どうにも尊大に聞こえるその口調がスコールは得意でなかったが、自分も似たようなものだからなんとも言えない気分になる。
まぁ、日本の女性演劇団体のようなものと捉えればいいか。短く息を吐きながらそういう思考にもっていくと、スコールは返事のとおり遠慮なくドアをくぐった。
「オーディン、今後のことで少し話が――――あなた、それはどういう状況なの?」
「どうにも拗ねてしまっているんだよ。気の済むまで放置しようかと思ってね」
「……ロキ、オーディンから離れなさい。これから大事な話し合いがあるの」
「いーやーでーすー!」
リビングに入ってみると、スコールの目にはなんとも言い難い光景が映った。
オーディンと呼ばれた女性は、優雅にソファへ腰掛けている。それだけならよかったのだが、顔には前後を入れ替えた肩車のようにして、少女がへばり着いているではないか。
年齢的には中学生程度に見えるが、どうにも小柄。フワフワで豊かな緑髪が幼さを増長させるのかも知れない。
かつ、本人そのものも幼稚な性格らしく、拗ねた結果の反抗でオーディンにへばりついてるそうな。
スコールがやんわり邪魔だから離れろと伝えるも、これまた幼稚な態度でそれを拒否。頭の痛いことである。
「はぁ……。文句があるなら一応聞いてあげる」
「だっテ、いい加減暇にもほどがあるヨ! 組織が大掛かりに動いたノ、もう一年半前じゃんカー!」
「私たちがどういう集まりかわかってる? あなたの退屈凌ぎは関係ないのよ」
「はいはイ、異議あリ。オータムはめっちゃ動いてますけド!」
「あの子はキチンと仕事として動いてるでしょ。ロキ、少なくともあなたには任せられないわ」
ロキも一応は幹部に含まれる。だけに、やはりマトモなのは自分とオーディンだけかとため息が止まらない。
明らかに見た目が外国人であるものの、ロキは日本語に慣れていないのか言葉の最後の発音を怪しくさせながらも激しく抗議。もっとも、子供らしくだが。
拗ねている内容もやはり例に漏れないらしく、要するに退屈だから仕事がしたいということらしい。
とはいえ、スコールが任せたくない気持ちは十分に伝わって来る。仕事を仕事と思わないであろうことも同じく。
スコールはロキの反論を全く寄せ付けず、ピシャリと壁を作るかのようにしてシャットアウト。取り付く島もないというやつ。
「ロキ、キミは自身の役割を理解しているだろう?」
「それハ、まぁネ。ロキちゃん賢いシ」
「ではそんな賢いロキちゃんは、話し合いの邪魔なんかしたりしないよね」
「うっワ、出たよオーディンの言葉狩リ。はいはイ、わかりましたヨー。ロキちゃんはスルトをからかいに行くことにしまース」
「ほどほどにしなよ。彼女は冗談が通じないのだから」
ロキが渋々ながらオーディンから離れると、白銀の髪と黄金の瞳が露わとなった。
そんな彼女はセミロングの髪を小さなポニーテールに結っていて、そのあたりもなんとなく男装を思わせる。
ロキはスルトなる人物をからかいに行くと部屋を出て、ようやくこれで話せる状態が整った。
オーディンはすまないねと謝罪し、スコールはお互い様でしょうと労う。そして、まったく同じタイミングでため息をこぼす。
「……ところで、トールは席を外させたほうがいいかな」
「いいえ、聞かれて困る内容ではないわ。というか彼女、よく飽きもせず寝ていられるわね」
「戦闘以外のことをまったくする気がないのが困りものなんだ。起きてる時間の方が短い気さえするよ」
これで問題は解決かと思いきや、オーディンはチラリと窓際にある一人掛けのソファを眺めた。
そこには腕を組みながら座り込み、口をへの字に曲げたような、いかにも厳格そうな女性が座っている。
だがあまり女性らしさというものは感じさせない。
短髪も短髪、これでもかと言わんばかりのベリーショート。服装のせいで露わになっている両腕には、生々しい傷痕が見て取れる。
そんなトールだが、なんとも間抜けなことにただ寝ているだけらしい。初見の者ならば、ただ座っているだけでなんという存在感だ。なんて思ったりもするだろう。
どうにも豪胆な性格なのか、戦闘以外の仕事はまったくしてくれないとオーディンが愚痴をひとつ。さて、この場合ロキとどちらがましなのだろう。
「ま、放置でいいならそのまま進めよう。オータムの進捗でも伝えにきたのかな」
「ええ、そのとおりよ。どうやら順調みたいね。今すぐにでも潜り込めそう、なんて言ってたわ」
「言葉そのものは信用するとして、彼女は調子に乗りやすい傾向にあるからね。本当にやりかねないから、一応は釘を刺しておいてくれ」
先ほども話題に挙がったオータムというメンバーは、どうやら裏方としてIS学園の警備状況等を調査しているらしい。
ロキの発言とも照らし合わせると、実際に攻め込むのもオータムである可能性が高い。
ただ、やはり他のメンバーと同じく問題を抱えているようで、オータムの場合は調子に乗りやすい性格だとか。
それがどの程度なのかは察しがたいが、スコールが言われなくても釘を刺したというあたり、リーダー格二人に文句なく心配されるレベルのようだ。
つまり、それを除けば非常に優秀であるという裏返しでもあるのだが。
「それで、ティルヴィングとヘイムダルの伸びの方はどうなんだい?」
「織斑 一夏と日向 晴人のことでいいのよね。わかりづらいから普通に呼んでくれないかしら」
「はは、まぁいいじゃないか。皮肉なことに、彼の扱うISが我々と同じく北欧神話絡みなんだ。もののついでというやつだよ」
スコールはオーディンが述べたティルヴィング、ヘイムダルという名詞に顔をしかめた。
どうやら自分たちのコードネームが北欧神話と関連があるのに対し、晴人と一夏のこともそれに絡めて呼称しているようだ。
ヘイムダルの方は言わずもがな、一夏がティルヴィングというのは少し気になる。なぜならそれは、北欧神話における呪われた剣のことだから。
「……日向 晴人だけなら、どうあがいても私たちの誰一人にも勝てないでしょう。その評価は揺るがないわ。ただ――――」
「ただ、ティルヴィングと共にある場合の爆発力は警戒すべし、か。ふふっ、愛とは偉大なものだ。でもやはり問題ない。こちらは動揺を誘うタネを持っているのだから、ティルヴィングも最高のパフォーマンスはできないさ」
「最終確認だけど、本当に明かしていいの?」
「どうせいつかは明かすこと。運命には抗えないと知れば、彼女も大人しく捕まってくれるかも知れないよ」
晴人のをなめての発言ではないのだろう。スコールにとって、ただ淡々と事実を語っているだけのこと。
それだけならまだ気にすることでもないのかも知れないが、どうにも一夏に対しての評価が引っかかる。
実力そのものは認めるかのような、自分たちでも快勝は怪しいとも取れるが、ある事実を握っているだけにそれはありえないと言っているかのようだ。
そのある事実というのが、呪いないしティルヴィングという仮称に繋がっているのだろうか。
運命には抗えない。いったい一夏は何を背負って、いや、何を背負わされているというのだろう。
「総合的にみると、問題はなし。ということでいいかしら」
「そうだね、それでいいんじゃないかな。後のことはオータムに任せよう。……あの短気さえなければ、完全に信頼できるんだが」
「……今日は呑むことにしましょう。付き合うわ」
「それはいい。では、ワインで構わないかな」
我らの計画に滞りなし。そう締めようとしたのだが、オーディンとしてはオータムの性格が最後の気がかりらしく、やれやれと目元を抑えるような仕草をみせた。
そんなオーディンを見てシンパシーを覚えたのか、スコールはこれから酒盛りでもどうかと提案を挙げる。
それに快く同意したオーディンは、すぐさま立ち上がり備え付けてある室内用ワイナリーからワインボトルを取り出し、近場の棚からグラスをふたつ手元へ。
グラスを机に並べて栓抜きにてワインのコルクを抜くと、鈍い音が室内に響き渡った。
こうして静かな夜会が始まる。個性の強い部下たちへの愚痴を肴として、頭役二人は大いに盛り上がるのだった。
幹部六名としましたが、ダリル&フォルテを除いてプラス三名したという意味でございました。
そもそもの話、以前から公言しているとおり学園祭編は終章にあたるので、登場させる意義も薄いかなと。
ではなんで終章にもなって、わざわざオリジナルで追加人員なのかと聞かれますと、それこそ最終回を迎えた後でなければお答えできない状況であります。
まぁ、なんです、一応ちゃんと締めはしますので、その点についてはご安心いただきたい。