ハルトナツ   作:マスクドライダー

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だいたいタイトル通りの回です。以上!






以下、評価してくださった方をご紹介。

ryougetsu様 萩史利様

評価していただきありがとうございました。


第71話 いざ学園祭巡り! part1

(お、思っていたよりもお客さんが多い……!)

 

 僕に似顔絵を描いてほしいって人が、一人も来ないであろうということはまずないと思っていた。が、逆にここまで人を集めるなんて思ってもない。

 学園の生徒しかり一般の来場客しかり、物珍しさに惹かれるようで、これまでかなりの人数が僕の作品を所望してくれた。

 待機用の席もいくつか準備してあるが、今もそれが埋まり切っている状況だ。一組のみんなとしても予想外なのか、いろいろ滞り初めてしまっているぞ。

 しかもけっこうな人数を手早く描かないとだから、右手への疲労の蓄積が顕著だ。

 更には描いている間を退屈させないように軽いトークで繋がないとっていう、精神的な気苦労も絶えない。これはいったい何重苦になるんだろう。

 いろいろと僕を焦らす要素が盛りだくさん。けど焦りに負けてクオリティを落とすわけにはいかない。ましてや、疲れを顔に出すなんてもってのほかだ。

 というわけで、上手くいっているかはわからないけど作り笑顔で接客を心掛ける。それ以外のことは、全て似顔絵のことに全霊を捧げた。

 

「次の方どうぞ~」

「どうも、よろしくお願いしますね」

 

 次、また次と似顔絵を描いて描いて描きまくっていると、対面の席に腰掛けたのはレディーススーツに身を包んだ女性だった。

 どうして学園祭にわざわざスーツ? なんて思ったりしたが、ここがIS学園であることがすっかり頭から抜けてしまっていたか。

 天下のIS操縦者育成学校が催すのなら、普通に来賓の人なんかも来場するんだろう。目的はスカウトだったりになるんだろうけどね。

 ならこの人もそのうちの一人っていうことになるのかな。でも僕に絵を描いてもらうのが目的じゃないってことになる。だとすると、嫌な予感がするなぁ。

 

「もしよろしければなんですけど、お名前を伺ってもよろしいですか? 宛名を書こうと思うんですけど」

「申し遅れました。わたくし、巻紙 礼子という者です」

「はぁ、これはどうも」

 

 一応お客さん全員に聞いていることを尋ねると、嫌な予感が的中してしまったことを思い知らされる。

 名前を尋ねた途端に名刺を渡されたところをみるに、この人はどこぞの企業からの回し者――――っと、この言い方よくない! え~……来賓みたいだ。

 まぁ、むしろよく今まで現れないでいてくれた。だって、僕なんか最高のセールス相手なんだろうからさ。

 そのあたりは父さんがなんとかしてくれてたんだろうけど、確かにこういう場なら僕という個人に合うのは容易だよな。

 さて、それなら絵を描ききるまでなんとかお茶を濁さなければならなくなる。が、そういう手合いに対処すべく、魔法の言葉はあるにはあるんだけど、実際効くのか否かは未知数。

 とりあえず巻紙さんから受け取った名刺を懐にしまうと、気にせず似顔絵を描くことへと集中した。

 

「失礼ですが、日向さんは事実上FT&Iの所属と小耳にはさんだのですが」

「ええ、そうですね。候補生とかではないんですけど、ちょっとした縁がありまして」

「やはりそうでしたか。実はこの度お伺いいたしましたのは――――」

 

 僕がCEOの実子であることは漏れてはいないだろうけど、流石にFT&Iの贔屓になっていること自体は広まりを見せているみたいだ。

 いつだったか世の中は情報戦みたいなことを口にしたが、僕の情報なんかも高値で取引されているんだろうか。

 僕のそんな懸念をよそに、巻紙さんは鞄の中からいくつか資料らしきものを取り出した。つまるところ、僕をパイプラインにして、FT&Iとの業務提携をってことだよなぁ。

 絵を描いていることを盾にして、聞いてるんだか聞いてないんだかな生返事を繰り出す。後は例の魔法の言葉さえ使うタイミングを待った。

 ……効くよな? 効くよね? むしろこれ言われたら一発で詰みのはずなんだけど、そう上手くいくかどうか心配になってきた。

 とはいえ試しもせずにこのまま生返事を続けるわけにもいかない。僕は全力の営業スマイルを意識し、大人しく退いてもらうべく魔法の言葉を繰り出した。

 

「――――ということなのですが、いかがでしょうか?」

「え~っと、長く話していただいておいて申し訳ないんですけど、僕は本当に籍を置いてるだけみたいなものなので、そういうのはなんとも。でも一応こういうのなら渡せますから、どうか受け取ってください」

 

 魔法の言葉の正体とは、早い話がすっとぼけ&丸投げするような内容の台詞ってことだ。

 いや、何も面倒だからとかそういう理由ではなく、むしろ母さんからそう対処しろって指導されてのことなんだよ。

 すっとぼけと言いつつ、僕は実際に母さんがどういう取引相手と接しているのかや、どういう経営方針なのかとかもまったく知らないし。

 むしろ僕に話すよりもきっと、母さんと直接会って話した方が実りのある取引ができるはず。

 ゆえに、僕の手から母さんの名刺を渡された巻上さんは、他の企業よりもかなり大きくFT&Iに接近できたというわけだ。

 まぁこれだと結局パイプラインになっているのに変わりないけど、たかが父さんと母さんの息子ってだけの小僧っ子が一存で肯定的な返事をするよりはいいだろう。

 いやしかし、母さんのアドバイスどおり常日頃から財布に忍ばせておいてよかった。こういう日が来ることを想像してなかったからなぁ。

 巻紙さんは差し出した名刺を感謝しながら受け取るが、一瞬だけ雰囲気が乱れたからたぶん営業スマイル。お互いさまってやつか。

 

「それでは、また後日お会いできるのを楽しみにさせていただきますね」

「はい、そう言っていただけると僕も助かります。っと、はい、ちょうど完成しましたよ」

「あら、この短時間でこれを……? ありがとうございます、大切にいたしますので」

 

 なんかこう、フユ姉さんとは違うベクトルで仕事に忠実って感じの女性だな。

 目的が済めば手早く退散しようとしたみたいだけど、嘘でもいいから描いた似顔絵くらい受け取ってほしいものだ。

 僕の作画速度がなんとか間に合ってくれたおかげで、巻紙さんが立ち上がろうとした寸前あたりでちょうど絵は完成した。

 向こうも受け取ってくださいと言われて断るわけにもいかないのか、色紙は資料と一緒に鞄に詰められていく。

 うん、いらないならいらないで、後で捨てていただいても構わないので、とりあえず受け取らないっていうのだけは止めてほしい。

 ちょっと驚いてたっぽいし、そのリアクションがもらえただけでも僕は満足。やっぱり反応を直にみられるのはいいもんだ。

 

「では今度こそ、失礼しますね」

「はい、他の出し物も楽しんでくださいね」

 

 準備が整い次第、巻紙さんは綺麗なお辞儀をしてから去っていく。

 はぁ……やっぱりいろいろとメンタルが削られちゃってだめだな。今日のうちに、もう企業の人に出会わないことを願っておかなければ。

 ……うん、それはもういろんな企業の人に、ね。本当に、このまま来てくれないでいれば最高なんだけど。

 って、悲観的になっちゃったらせっかく作った表情も崩れてしまう。僕待ちのお客さんもまだまだ居るんだから、せめて表面上くらいは明るくいかないと。

 気を取り直して待機席に声をかけると、次なるお客さんが僕の対面へと着席。適当な挨拶もほどほどに、僕は色鉛筆を握りなおした。

 

「第一波突破完了のお知らせ……」

「ひとまずお疲れ様。や~……思ったよりも来てたねぇ。はい、紅茶」

「うん、ありがとう。ちょうど心の安らぎを欲してたとこ」

 

 バックヤードに戻るなり、フラフラと椅子に座り込み、ヘナヘナとしおれるように机に突っ伏す。

 すると聞こえてきたのは、僕にとって世界で一番慣れ親しんだ声――――ナツの僕を労う言葉が耳に届いた。更には紅茶まで用意してくれるとは、やはりいい奥さんをもったものだ。

 力なく身体を起こし、カップのつるへと指をかける。ひとまず冷ます目的で息を吹きかけるのと同時に、紅茶のいい香りを静かに鼻へ通した。

 すごく落ち着く香りというか、疲れた心に沁みわたるというか、なんだか自然に落ち着いて行く僕がいる。

 思わずほっと溜息をついてから紅茶を啜ると、口内には独特の甘みと香ばしさが広がり、口から鼻へとまた違った香りが抜けていく。

 うん、いいものだ。嗜好品的な飲料に特別なこだわりはないが、堂々と紅茶派ですと宣言してしまいたくなってしまう。

 そうやってリフレッシュしているのが見てわかるのか、ナツはなんだか僕を眺めて楽しそうな笑みをこぼした。

 

「どうかした?」

「ふふっ、わかりやすいなぁと思って」

「え、ナツにはあまり言われたくないかも。……って、こんなところで油を売ってて大丈夫?」

「それがねぇ、なんかみんな気を遣ってくれてるみたいで。休憩はハルと一緒のタイミングでいい、だってさ」

 

 なんかナチュラルにダベり初めてしまいそうになったが、引き留めてしまうのは悪かっただろうか。

 そう思って暗に戻らなくても平気かと問いかけてみるも、ナツの言葉を聞いて即納得。と同時に、なんだか恐縮してしまう。

 メイド喫茶やりますって言っても、流石にみんな出ずっぱりなわけじゃない。

 それこそ各々に休憩時間をもうけないとダメだし、なんなら所属している部活の方でも出し物があるなら、そっちの手伝いをしに途中抜けしなければならないかも。

 ぶっちゃけナツと休憩時間を合わせられるかどうかを懸念していたけど、このぶんならみんなのフォローのおかげで実現しそうかな。

 

「ならゆっくりしてないで出かけようか。ほら、ナツは着替えとかもあるんだからさ」

「私はそれでも構わないけど、ハルはもっとゆっくりしてたほうがいいんじゃない?」

「このくらいなら平気だよ。それよりも、ナツと一緒に楽しんでる時間の方が断然大事」

「そっか、そう言ってくれるなら断る理由もないかな。じゃあ、着替えてくるね。どうせ時間かかるから、その間くらい紅茶でも飲みながらゆっくりしてて?」

「ん、了解。ナツの方こそ、ゆっくり着替えてくれればいいから」

 

 時は金なり。時間は有限だ。しかもみんながくれた時間となると、二人で全力で楽しむことが最高の報いとなるだろう。

 疲れていないと言えば嘘になってしまうけど、出かけるのが億劫になってしまうほど追い込まれているわけでもない。

 というか、どれだけ疲れ果てていようが、僕はナツと出かけることを選んだんだろうけど。

 ナツは断る理由がないと言いつつ、隠し切れないほどに嬉しそう。相変わらず可愛いやつめ。

 ゆっくりしていてという言葉を最後に、バックヤード内に設置された更衣室へと消えて行ったが、確かにメイド服の着脱は時間がかかりそうだ。

 ナツの淹れてくれた紅茶を、冷めないうちに飲み切る。くらいのペースでいればちょうどいいかな。

 僕はまたテーカップを傾け、ほっと一息つくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ナツは見てみたい場所とかあるの?」

「う~ん、実はいろいろあるんだけど、全部回る余裕はなさそうだよねぇ」

 

 学園祭の喧騒に身を投じるのはいいのだが、適当にふらつくだけではあまりに建築的でない。時間さえあれば、気ままにっていうのも悪くないんだけど。

 廊下に出てからしばらく歩いて、すぐさま目的地を決める話し合いを開始。

 僕がそう話題を振ると、ナツは悩ましそうな表情をしながら指折り候補がいくつかあるとか。

 折れた指は四本。予測をつけるなら、鈴ちゃんと簪さん、他クラス二人の様子を見に行くために二組か四組へ。そして、フユ姉さんが顧問をやってる茶道部の見学ってとこ?

 残ったひとつは……ちょっとわからないな。ナツが所属してる剣道部が何かやってるとは聞かないし、だとしたらナツと関係することってまだあったかな。

 

「そう言うハルは?」

「ん~……僕は一か所だけ。だから、まずは僕の方から片付けよう。ナツはその間に絞ればいいし」

「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうね。それじゃあ、行こう!」

 

 僕の場合は無欲というか、初めから見に行ってみようと決めていた場所がある。……まぁ、わざわざナツを連れまわす必要もないんだけど。

 それはともかく、ナツが候補をひとつに絞る時間くらいは稼げるのではないだろうか。

 僕らの話し合いはいったんそういう方針で落ち着き、ナツはそうと決まればと言わんばかりに僕の手を取り歩き始めた。

 こういうアグレッシブなところ、意味は変われど今も昔もやっぱり好きだ。まぁ、ナツは僕が行きたい場所を知らないはずだから、引っ張って行くのは不毛なんだけどね。

 あえて黙っていると、しばらく経ってからそのことに気づいた。そして、あえて黙っていたのも普通にバレてしまう。

 するとナツは期待どおり、ムッとしながら僕を意地悪だと評する。久しぶりに聞いたけど、やっぱり何度言われても飽きないなぁ。

 でもあまりやると本格的に拗ねてしまうので、ごめんと謝ってから僕が先導を始めた。えーっと、場所は確か実習棟の奥だったかな。

 

「着いたよ。ここ、漫画研究部なんだって」

「漫研? ……この学園って、部活の数が尋常じゃないね」

「部員数とか、規定さえクリアすれば割と自由って聞いたけど」

「生徒会長の正体を知ったからには納得の緩さだよ」

 

 奥の方に追いやられている感は否めないが、僕が向かいたかった場所こそ漫画研究部――――いわゆる漫研と呼ばれる部活動である。

 ナツとしては存在そのものを知らなかったのか、若干だけど訝しむように部室の外観を眺めた。

 でも人の出入りは割とあるみたい。やっぱり日本人にはサブカルチャーってだけで、十分に興味を惹く対象なのかな?

 じゃあ僕はどうかって、そういう理由でここに来たかったわけじゃないんだよな。……って、それについてはナツに謝っておいたほうがいいかも。

 

「ナツ、ごめんね。こんな時でも絵のことばっかりで」

「なるほど、スキルアップのためのここってわけ。なら謝っちゃだめだよ。むしろ惚れ直したくらい」

「えぇ……? 気持ちは嬉しいけど、流石に惚れ直される要素がわからないかも」

「好きなことに熱中できるって、とても素敵なとこだと思う。だから、絵のことを考えてるハルを見てるのは、うん……好き」

 

 せっかくの学園祭だ。やろうと思えば、もっと恋人らしい回り方だってできただろう。

 でも僕はそれを推しても絵のことを優先し、らしさを放棄したにも等しい。ナツの言うとおり、自分とは違う傾向の絵のことについて勉強するためにだ。

 だから謝罪をってことなんだけど、ナツはあろうことか僕に惚れ直したとまで言うではないか。

 それはあまりにも盲目が過ぎるのでは? と指摘してみるも、僕が思っていた以上に僕のことを想っての発言だったらしい。

 ……くそっ、学園祭だからこそ引き出せた言葉だろうけど、学園祭であることが恨めしい大矛盾! 今すぐ抱きしめてキスしたい!

 そういう衝動に駆られ、それを必死に抑えるためにしばらくフリーズ。ナツが呼び掛けても答えられないくらいに、僕はとにかく必死だった。

 

「よし、とにかく入ろうか」

「うわぁ、ものすごく何もなかった感じにしちゃったよ。まぁ別にいいけど。お邪魔しま~す」

「あ、いらっしゃ~――――げぇっ! 日向くんに織斑さん!?」

 

 様々な衝動を処理し終えると、すぐさま部室へ入るよう促す。ええ、仰るとおり別に何もありませんでしたとも。

 僕、ナツと続けざまに扉をくぐるなり、なんだかあまり歓迎されていないご様子。僕らが来ると、何か不都合でもあるのだろうか。

 驚いていた女子を不思議そうに眺めていると、隣に居た女子から軽い肘打ちを喰らわされていた。うん、やっぱり何かあるらしい。

 

「え~っと、帰ったほうがよかったりします?」

「や、優しさが逆に刺さる……! め、滅相もないから、ご自由にどうぞ……」

「はぁ? それなら遠慮なく」

 

 理由はよくわからないけど、なんだか遠慮したほうがいいような気さえした。

 一応は声をかけてみると、やっぱりそこまで歓迎はされていないながら、ご自由にという許可は下りた。

 い、いったい僕らの何があなたがたをそうさせるんです? なんだか、展示されてる見本を覗くのが怖くなってきたぞ。

 思わずナツと顔を見合せてから、机に並べられている一冊を手に取って開く。

 ああいう反応を見せられると、ナツも内容がかなり気になるのか、僕の横から割とグイグイくる感じで漫画を覗き込んだ。

 ふむ、これはジャンル的に少女漫画ってやつか。やっぱり女子高であるIS学園ともなると、最大手になるのは必然なのかな。

 って、こういう言い方は失礼かもだけど、僕は内容よりも絵の描き方について勉強しに来ているんだった。したらば、吸収できそうな技術をだね。

 

(……やっぱり人の描き方は参考になるなぁ。僕らは基本こんな角度から描いたりしないし)

 

 絵画と漫画、どちらも同じ絵ではあるが、根本的に諸々のことが異なる。

 僕らは人物画ってなるとモデルの動きを切り取って描くのが主流になるけど、漫画は読み手にわかり易く登場人物がどういう体勢なのか伝える必要がある。

 そこに集中線等のエフェクトも加えることにより、まるで実際に動いているのではないかと錯覚してしまうような描写もちらほら。

 特に僕なんかはオリジナルだったり風景画を描くのがだいたいだから、いろんな角度からみた人の描き方は大変参考になるぞ。

 いや、本当に内容そっちのけなのは申し訳なくあるんだけど。うん、お詫びに全部一冊ずつ買ってから帰ろうね。

 

「……ねぇハル、なんか見たことあるんだけど」

「ん? 参考にしてるってことかな。ナツって少女漫画とか読むんだね」

「そうじゃなくて、ちょっとこれ貸して!」

 

 ナツがふとそんなことを言い出すものだから目を向けてみるが、どうも様子がおかしい。真に迫っているというか、ただ見覚えがあるだけでそんな反応はしないって感じのリアクション。

 僕はすぐにそれを察することができなかったために、世間話くらいのつもりで当り障りのない返答をしたのだが、ナツは違うのだと我が手から漫画を奪い取った。

 そして一度ページを先頭まで戻してから、ペラペラと凄い速度でめくっていく。目線の動きからして、ひとコマも逃がさずチェックしているみたい。

 いったいナツにとって何が琴線に触れたのだろうかとその姿を見守っていると、今度はなんだかフッと諦めたような顔つきへ変わる。

 そんな微妙な笑顔のまま、ナツは僕によく見えるようひとつのページを開いて僕へ見せつけた。

 

「ハル、この場面に見覚えがないとは言わせないよ」

「見覚えって、なんで僕にそんな心当りが――――ある! ありまくるよこのページ! え、どうなってんの!?」

 

 いやいや、まさかそんなことあるわけないじゃないですか。なんていう調子で返そうとしたら、思い切り心当たりがあってノリツッコミみたくなってしまった。

 開かれたページに描かれていたのは夏祭りのシーン。ただそれだけならなんの問題もないんだが、気になるのは登場人物たちが繰り広げているやりとりだ。

 話題に挙がってるのは主人公とヒロインの結婚式に関連したもの、そしてそれをもう一人の女性キャラにからかわれている。

 もっと言うならヒロインの衣装である着物の柄が、この間行った夏祭りでナツが着てたのと同じ柄ぁ! つまりこれ、僕らをモチーフにした作品じゃないか!

 

「さてはというか、犯人は箒ちゃんだな!」

「だろうね。内容的に箒しか知りえないし」

「……って、ネタ提供されたからって描いちゃダメでしょ!? プライバシーの侵害ですよ!」

「ごっ、ごごごご、ごめんなさい! そのぉ、わたくしハルナツ同好会のメンバーでしてぇ、名誉会長からのネタ提供に気持ちが抑えられなかったと言いますか……」

「ちなみに、売り上げのほうはいかほど?」

「同好の士には爆発的に売れております!」

 

 あの時休み明けの集会がどうのと言っていたが、これはその集会が開かれた結果により生まれたものだな。

 いったいいつどこに集まって、どんな話し合いをしているというんだ。流石にそろそろ行き過ぎなところもあるような気がする。

 それよりも名誉会長ってなんだ、名誉会長って。むしろ箒ちゃんが立ち上げた組織であることも視野に入れないとダメなんですか。

 僕ら本人にそう指摘されては立つ瀬がないのか、さっき焦っていた女子が描いた作品らしく、すぐさまこちらへと謝罪を述べた。

 観念したのか僕が売り上げについて問うと、これまた素直に白状してくれたんだけど……。そうか、同好会メンバーとやらの手には渡ってしまっているみたいだな。

 

「よいしょっと」

「ナ、ナツさん? そんな大量のブツをいったいどうするおつもりで――――」

「全部、ください」

「え? で、でも……――――」

「ぜ・ん・ぶ、ください」

「は、はい、お買い上げありがとうございまぁす!」

 

 ナツはおもむろに平積みしてある漫画本を抱え上げると、それら全てを会計へと置いた。そしてひとこと、全部買い占めるという旨を会計役の女子へと伝える。

 あぁ……僕としてはいつものやつだな。ナツの頑固が効果を発動。これは何を言われようが、例え会話が成立しなかろうが、向こうが折れるまで全部買いますとしか言わないやつだ。

 会計女子はそれを知らないんだろうけど、ナツの威圧に恐怖して買占めを許諾したようだ。わかるわかる、ちょっと怖いよね、頑固発動状態のナツ……。

 とはいえ流石にこれを持ち歩くわけにもいかないしで、交渉の末にこれ以降は僕らモチーフの作品を売らないことで決着した。

 そうだね、身内で楽しんでもらうぶんには――――まぁ、正直言えば止めてほしいんだけど、あまり大っぴらでないなら僕らもそこまで目くじらを立てる気はない。

 立てる気はないけど、とりあえず箒ちゃんは説教ルート確定で。ナツはもちろんのこと、僕もちょっと厳しめの対応を取らせてもらうことにしよう。

 

 

 

 

 

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