「うわぁあ!? いっだ!」
「ハル、大丈夫!?」
「う、うん。痛いには違いないけど、そこまで高さがあるわけでもないから。それより、ナツは平気?」
「このとおり。ハルが守ってくれたから無傷だよ。ありがとう」
咄嗟にナツを抱きしめたのはファインプレーとして、引きずり込まれたということもあってまともな着地はできなかった。
背中から叩きつけられてしまったが、大した高さではないおかげでそう騒ぐようなことじゃない。といいつつ、もう少し高かったら呼吸困難になってたかも。
僕はいたたと呟きながらナツを離して上半身を起こすと、案の定血相を変えながらこちらの安否を問う。
偽りなく自身の状態を聞かせると、安心したような表情を見せてくれた。それこそ、こういう時ナツに嘘をついていいことはない。
というか、僕からしたら僕よりもナツなわけで、ちゃんと守ることができたか聞いてみる。
するとナツは、非常に表情を蕩けさせながら無事だと口にした。……こちらこそありがとうございます。何がとは言わないけど。
「それにしても、ここはアリーナの地下通路……だよな。ここに引き込まれたってことは、かなり学園の細部まで熟知されてるってことかも」
「考えたくはないけど、学園に内通者なんかが居たりしないよね」
和やかムードはこのくらいにして、確実に周辺に敵が居るんだから気を引き締めないと。まずは現状の確認から、かな。
場所はアリーナ地下通路で間違いないんだけど、随分と狭い場所をフィールドに選んできたな。そのままアリーナ内で襲ってきた方が、向こうも戦い易かったのでは?
だけど僕らが二人ってことを考慮されたとかかな。狭い道が真っすぐ続くこの状況下、他人数での有利を存分に生かせないかも。
しかし、どうして地下通路の存在や、アリーナ内部と直接通じる隠し扉の存在を知っていたのだろう。
と考えた時、残念なことにナツが挙げた例の可能性も考慮しないとならないな……。その場合は教師っていう線が妥当――――
「人聞きの悪い考察は止めてやりなよ。安心しな、ウチの独自調査による結果だ」
「誰だ!?」
「誰だぁ? おいおい悲しいじゃねぇの。さっき会ったばっかだってぇのによぉ」
突如として、地下通路内に僕ら以外の声が響いた。すかさず臨戦態勢に入りつつ、無駄とわかっていても一応何者かと問いかける。
すると、向こうは幾分か楽しそうというより、意地悪な口調で僕と会ったことがあると示唆した。
確かにそう言われてみれば、どことなく声に聞き覚えがある。……いや、少し低めになってるけど、この声あの人のもので間違いない!
前方後方どちらから来ても対処することを考慮し、背中合わせになっていた僕とナツ。すると、まるで狙っていたかのように、薄暗い通路の奥から現れたのは――――
「巻紙さん……!」
「知ってる人?」
「いや、そこまで知ってるってほどでは。さっきお客さんとして来てくれた人だよ」
「んまぁそういうこった。上手くかわされちまったけどな」
レディーススーツを身に纏い、大人の余裕に溢れた女性というのは仮の姿だったらしい。
ビジネススマイルとはいえ、ニコニコと人当たりのよさそうな笑顔を浮かべていたのが一変。たったひとことで凶悪と表現できる、そんな表情に変化していた。
口調も荒々しい品性を感じられないものになっているし、これが素だとするならかなりの演技派だな……。地下通路を自己調査したことといい、敵ながら天晴な諜報能力だ。
思えば、僕への過度な接触をしてきたのはこの人だけだった。あの段階でどうにか怪しさを覚えることができれば、もっと早期に抑えることができたろうか。
自分で言うのもなんだけど、こういう時ばかりは人を疑えない部分が短所に思えるな。
「率直に聞きます。あなた達の目的はなんなんですか!」
「あ~? 目的ねぇ。そうだな、率直に言や――――」
「っ……
「そっちのお嬢ちゃんをいただきに来たってところだよ!」
僕らには狙われる理由を知る権利というものがある。答えてくれるとは思っていないが、素直に質問を投げかけた。
すると巻紙さんはクックックと不敵な笑みを零すと、次の瞬間ISを展開――――って、アレは本当にISでいいのか!?
ヘイムダルなんていうゲテモノISを扱ってる僕の目にすら、巻紙さん操る専用機と思わしき機体は異形そのもの。
蜘蛛の形をした下半身から、女性の上半身が映えているようなこのディテール。まるでフィクションで見かける蜘蛛女だ。
複数の脚をガシガシと鳴らしながらこちらへ迫る姿は、脚の多い生物が苦手な人が見たら発狂するのでは。というくらいにはリアル。
僕も思わず狼狽えてしまったが、すぐさまヘイムダルを展開して右腕を
なるほど、脚の先端部分が刃物に――――何っ、ナツの誘拐が目的!? くそっ、いろいろ情報過多で頭の整理が追い付かない!
とにもかくにも、向こうの目的は割れた。僕が目的に入っていないのなら、積極的に注意を惹くことでナツへの注意を逸らすことができるだろう。
ただ僕の奥さんは、黙って見てられるほどお淑やかな女性ではないけどね!
「ハル!」
「わかってる!」
「おっと、そうはいかねぇぜ!」
ヘイムダルは巨体ゆえ悠々というほどの余裕はないながら、隙間を縫うようにして真雪を構えたナツが斬りかかった。
当然ながら通常の武装も持ち合わせているらしく、巻紙は両手にカタールと呼ばれるタイプの剣を展開しナツの攻撃を防ぐ。
「い~い太刀筋だ。が! 私のアラクネを前にしちゃ、剣の腕なんざ関係ねぇ!」
「くっ! ふざけた見た目にみえて、意外と、理に適ってる!」
カタールとの鍔迫り合いを繰り広げるナツに対し、行われたのは他の脚による同時攻撃。これぞまさに手数が違うというやつ。
ナツはすぐさまカタールから真雪を離して防御の体勢に入るが、六本の近接武器を前にして防戦一方。反撃の瞬間を見出せないのか、徐々に後退していく。
真雪一振りでよく凌いでいるまであるが、このまま静観しているのはあまりにも旦那として失格だ。というわけで――――
「ナツ!」
「うん!」
「
「なっ……ぐおおおおおっ!」
名前を呼ぶのみでの意思疎通を図り、僕らはまたしても前後を入れ替わることで攻め手も交代。
今回変形させるのはオレンジの機構。
四連装からなる高出力レーザーを間髪入れずに発射するが、ナツはあえてスレスレで避けることによって目くらましの役を買ってくれたみたい。
オレンジの光を放つレーザーはそのまま真っすぐ突き進み、見事アラクネなるISにヒット。甲高い金切り音を響かせ、強制的に機体を通路の先へと追いやっていく。
「ちぃっ! てめぇも一緒に着いてきな!」
「わっ! な、なんだこれ、蜘蛛の糸……!?」
「待ってて、すぐに斬るから!」
「いや待った! ま、ずい……体勢が、崩され――――うわああああっ!」
「ハル!」
巻紙さんがアラクネの掌を僕に向けたかと思えば、そこから何かが射出され
それはアラクネのデザインからして蜘蛛の糸のような物質で間違いなく、
それにこの引っ張られる感じ、巻紙さんが後退してるから、それに比例して僕も引き寄せられてしまっているんだな。
ナツがすぐさま糸を切断しようとするが、それはもはや遅い。というか、むしろ危険を招く。
ヘイムダルは地に足を着けているから踏ん張りが効くし、あくまでアリーナ内ということも考慮して、そもそもの威力を抑えている。
以上ふたつの点が油断を招き、PICの設定を変えてもいない。ということは、強い力を加えられれば転倒するまでそう時間はかからないということ。
変に手を加えてナツにレーザーが当たる可能性を排除するため制するも、やはり予測通りに僕はすぐさま転んでしまう。
そして後退する巻紙さんに引っ張られるという、なんともマヌケなかたちで道連れにされた。
「ぐぅお!? ……あん? っち! 広い場所に出ちまったか……。まぁいい、どうせガキ二人なんざどこで相手したって一緒だ」
「ふ、二人……? そういえば、楯無先輩は――――」
『私から説明させていただきます』
「虚先輩!?」
僕と巻紙さんが、ガタガタとなぎ倒したのは――――ロッカー? 地下通路はロッカールームに通じていたってことか。
巻紙さんが苛立っているように、狭くはあるが通路よりは確実に戦いやすい。
その際に彼女が言い放った二人という言葉に、僕はとあることを想いだした。それはもちろん、学園最強である楯無先輩の援護である。
戦闘開始からそこまで経ってないし、現れなくても不自然ではない。しかし、なんの連絡も寄こしてくれていないという事実に、僕は懸念を隠し切れない。
こちらからコンタクトを取ろうかと思いはじめた次の瞬間、通信機には虚先輩の声が響く。……その時点で、僕の嫌な予感は的中も同然か。
だが、現実はもっと深刻な問題へと直面していた。
なんと専用機持ち六人――――僕の頼りになる仲間たちを、壊滅させるレベルの敵増援が現れたというではないか。
楯無先輩は、そんな強大な敵を僕らの元に到達させないため、時間を稼いでくれているらしい。つまり、巻紙さんは僕らだけで倒さないとならないということだ。
『最後に、お嬢様から伝言が。【さっさと倒して、必ず向かうから】とのことです』
「虚先輩、大丈夫ですよ。このくらいの敵、私とハルでなんとかして見せますから!」
「ナツ……。うん、そうだね! 虚先輩、報告ありがとうございます。俄然やる気出ました!」
僕と同じく事情は耳に入っていたのか、追いついて来たナツはあくまで強気の姿勢を崩さない。
もちろん、ナツだって援護があるに越したことはないと思っているだろう。しかし、あえてそう言い張った気持ちはなんとなくわかる。
だからこそ安心させようっていう気持ちとか、僕たちだけで撃退して見返してやろうって気持ちとか、援護が不可という話を耳にした途端そんなやる気が湧いてきた。
何より楯無先輩は、僕らを守るために敵を食い止めてくれている。そのうえで援護を期待しているような心構えでは、きっと巻紙さんにだって勝てない!
「あのクソガキ、どういう了見だ……? まぁいいさ、どうせ出番は回ってこねぇだろうよ」
(なんだか釈然としてない感じだな……。彼女にとっても増援は想定外?)
何をブツクサ言っているのかまでは聞こえないが、巻紙さんはどうにも自身にとっての援軍が来ていることに違和感を覚えてるようだった。
彼女にとっても想定外の出来事ということは、やはり内通者等の線は薄いということになる。それと同時にひとつの疑問が生まれてしまう。
単純に内通者もいない。その前提で亡国機業にこちらの作戦もバレてはいない。ならどうして敵増援が現れてしまうかということ。
考えても仕方のないことだが、なんだか悪い予感がするな……。こう、僕らの人知を超えた何か。そんな得体の知れないモノが向こうにはあるのではないだろうか。
「さて、んじゃぁいっちょ仕切り直しついでに自己紹介といこうか。私の名はオータム。悪の組織の幹部様ってところだ!」
「
巻紙さん、もといオータムさんは、またしてもガシガシと前進する奇妙な歩行でこちらへと接近。勢いそのままに、脚での攻撃を試みてみた。
右腕に付着していた糸は既に取り払っているため、すぐさま
「学習しねぇ小僧だ。手数に対して防御一辺倒は悪手だろうがよ。そらそらそらそらぁ!」
(ぐっ! くっ! これは確かに、一人だったら詰んでたかもな……!)
アラクネの脚六本のうち二本は、地上において機体を支える役割を果たしているようだ。
裏を返せば残り四本は攻撃の用途。更に両手のカタールも含めると、同時に六つの近接武装による連続攻撃となる。
僕が真っ先に取った行動は
あまりに連続攻撃が過ぎるために、防ぎ続ける以外の手が選べなくなってしまっている状況だ。格闘ゲームとかでいう、固めという手法を取られているのと同等か。
が、詰みかもしれないっていうのは、あくまで僕が一人だった場合の話だ! 頼んだよ、僕の頼れる
「正中線を――――叩き斬る!」
「おっと、そう簡単にやらせるかよ!」
僕の頭上に躍り出たナツは、真雪を高めに構えてそのまま縦回転。回転の威力を利用し、兜割りがごとくアラクネの頭部をめがけ真雪を身体ごと振り下ろした。
だがオータムさんは危なげない様子でカタールを交差させ、その交差点で真雪を受け止めた。
惜しい。もうちょっとだったのに。なんていう悔いが脳を過ったが、これはナツが離脱に手を貸してくれているのだと気付いた。
カタール二本はナツの攻撃を防ぐために利用され、オータムさん自身もナツに集中しているのか、四本の脚による攻撃もいくらかか緩くなっている。
それでいて、アラクネの弱点は頭上からの攻撃! 脚はあくまで脚。頭より上には挙がらない構造にいち早く気づき、そういう攻撃手段に出たんだな!
やっぱり一緒に戦っていると、僕の奥さんはすさまじいセンスの持ち主なんだと実感させられる。
なんだかとても誇らしい。――――ので、僕もかっこいいところを見せないとって気になるよ!
「
「ぐおっ!? こ、このガキ――――」
「もういっちょ! せーのっ、せっ!」
「うおおおおおおおおっ!?」
多少のダメージを貰いながらも、無理にでも一歩引いてから右腕を
転んだということは、やっぱりアラクネは地上戦を主に想定してるらしい。PICで機体の安定を図っていないという証拠だ。
……もしくは単純にオータムさんが油断してるかだが、この際そのあたりはどちらでも構わない。
僕はアラクネが完全に立ち上がりきる前に、鎌の先端部分をフックの要領で引っ掻け、アッパーカットくらいの勢いで右腕を突き上げた。
アラクネを引っ掻けられたオータムさんは、機体ごとそのまま宙へ浮いた。ついでに言うなら上下さかさまの状態で、というところ。
「ナツ!」
「ナイス! ハル、かっこいいよ! せぇええええやぁああああっ!」
ナツは宙に浮きあがったアラクネの脚部を確実に捉え、素人目でもわかる見事な太刀筋でそれを迎撃。
真雪は高周振動による切削能力を保持しているため、触れた刃はこれでもかという火花を上げ、アラクネの脚部が悲鳴を上げるが如く金切り音が響く。
そしてやがては両断。空中で弾かれた脚部のうち一本は重力に従い、ゴトンという音を立てて地面へと落ちた。
よし、これで六本あるうちの一本を奪った。これだけでも大きな戦闘力の差につながるだろう。
オータムさんそのものは、いまだ宙に浮いたままか。……なら更に追撃だ!
地上戦ということは僕にとっても有難いことでもある。なぜかって、こいつをいろいろ気にせず撃てるからだよ!
「
「がああああああっ!?」
高威力ゆえに空中ではあまり使う気の起きなかった変形機構――――その名も
空中では撃ちにくいだけあって威力はお墨付き。
最大までチャージされた雷にも似た黄色のエネルギー矢弾は、発射と同時にタイムラグを感じないほどの速度でオータムさんの腹部へ直撃。
PICで制御されていないアラクネはそのまま吹き飛ばされ、ロッカーをなぎ倒しつつ向こう側の壁に激突することでようやく停止した。
アラクネは
「…………ほんとにかっこいい……!」
「ナツ、有難いけどそういうのは後にしよう」
「ご、ごめん、つい……。でも確かに、かなり雰囲気が変わった感じがするね」
「チッ! んだよ、普通にやれんじゃねぇか! それともアレか、二人一緒だからですっての!? おーおーそいつぁ仲睦まじいこって!」
僕の隣にポジショニングしなおしたナツだが、僕の予想外の活躍に惚れ惚れしてくれているようだ。
それは有難いことだ。この上なく有難いことだし、正直なところを言うなら内心テンションが爆発しそうでやばい。
だけど敵と戦っている合間に集中力を切らせるのはまずいので、当社比ナツに対して厳しめな口調で厳しめな意見を発した。
一瞬だけシュンとした様子になったナツだが、ハッと気づいたようにオータムさんを見つめなおすと顔つきが戻った。
……確かに雰囲気だけでも苛立っているのがよくわかる。よほど僕にしてやられたのが不快みたいだな。
だけどそのキレられ方は……まぁ、なんというか、少しばかり幼稚過ぎやしないだろうか?
でもヒートアップしているのだけは確かだ。もしかすると、ここからは予想外の攻撃を仕掛けてくるかも。
「いや、待てよ……。そういやアレは言ってもよかったんだっけなぁ」
「む……。何? なんか言いたいことでもあるの」
「いやいやなんでもねぇさ。どっちかっつーなら、小僧のほうに聞きてぇことがある」
オータムさんは子供のように喚き散らしていたというのに、突如として態度を一変させた。
その表情に浮かべているのは、さきほども見せたような意地の悪そうな笑み。ニヤニヤと顔を歪め、隠そうともしない悪だくみが露呈している。
そんな笑みの視線の先にはナツが。本人も視線を感じたらしく、訝しむような様子でなんの用事かと語りかけた。
確かに見ていたのはナツだと言うのに、どうやらオータムさんは僕に質問があるらしい。
正直なところ別に耳を傾けなくてもいいんだろうけど、どちらにせよ戦闘中も無理に話しかけてくるだろう。
そう踏んだ僕は、言いたいことは言わせてやることにした。
「小僧よぉ。お前、戦いは嫌か?」
「は? ……まぁ、なければないほうがいいとは思いますけど」
「ははっ、だろうな。戦いとは縁遠いみてぇだもんなぁ」
「建設的じゃないな……。何が言いたいかは知りませんけど、僕らに戦いを強いているのはあなた達じゃないか! 確かに戦いは嫌ですけど、必要に迫られたなら、僕だって尻込みなんかしませんよ!」
「ハルの言うとおり! そんな質問するくらいなら、私たちのことはそっとしておいてよね!」
いきなり何を聞いてくるかと思いきや、僕にとっては野暮な質問をしてくれる。
自分でも思うが、僕は間違いなく平和主義者に分類されるはず。争いごとはどんなことだって忌避すべき、なんて考えてるし。
……なんだか僕の回答がある程度わかってて聞いたみたいだな。期待どおりの返答をしたせいか、意地悪な様子が増長されている。
だからこそ、少々の苛立ちを覚えた。悪の組織を名乗る輩が、戦いが嫌かどうかなんて聞きくもんじゃないでしょうに。
それこそ、そっちがその気なら、戦って倒すくらいの気構えは僕にだってあるぞ。
特に僕とナツの平穏を脅かす者は、全力をもって排除するくらいの表現だって似つかわしい。
ズビシとオータムさんを指さしながらそう告げてやると、僕に同調したナツも、そんなこと聞くなら最初から襲ってくるなと真雪の切っ先を突き付けた。
「クハッ……! クックック……! ヒャーハハハハハハ!」
「っ!? なにが可笑しいんですか!」
「そりゃ可笑しいさ! 戦いを強いてるのが私らだぁあ!? ハッハッハ、何も知らねぇってのは幸せなモンだねぇ! 幸せで、幸せで、心底愚かしいにも程があるぜ!」
別に笑うような場面ではなかったと思われるが、オータムさんは突如として上半身が弓なりに反れるほどの大笑いを上げた。
思わずなんの笑い声だと問いかけると、何かとてつもなく含みを持たせた言葉が返ってきた。……まぁ、答えにはなっていないが。
この人は いいや、亡国機業という組織は、何かを知っているということなのか……?
……まぁいい、どちらにせよろくでもないことなのは目に見えている。知らないほうが幸せっていうなら、彼女が喋りきる前に倒してしまえばいいだけのこと。
「ナツ、会話にならないから無視していこう。さっきの調子なら、僕らでも倒せない相手じゃないはずだ」
「うん! 勝つよ、ハル!」
オータムさんの言葉は恐らくハッタリではない。
核心を突く部分を口にされたとして、僕かナツ、あるいはその両方を動揺させるほどの効力をもつ何か。そんな秘密を握ってはいるのだろう。
気にならないと言えば嘘になるが、やっぱりろくでもないことなので、オータムさんの言葉どおりに知らないままでいる方向でいこう。
ナツとそう示し合わせると、だいたい同じことを考えていたのか、気合の入り方のベクトルが変わった様子だ。
そうさ、いったい何が待ち受けていようとも、僕とナツが揃ってさえいるならなんだってできる。
悪の組織の幹部を倒すことなど造作もない。くらいのものだ。
そんな心意気を抱きなおし、僕は未だ下卑た笑みを浮かべるオータムさんを、睨むようにして眺めるのだった。