ハルトナツ   作:マスクドライダー

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第80話 織斑 マドカ

「なぁ、そろそろいい加減にしておかないか。私と長時間戦い続けるのは苦しいだけだぞ」

 

 スルトはレーヴァティンを肩にかつぐようにして置くと、あくまで食い下がってくる専用機持ちの残存戦力を眺めた。

 残っているのは箒、鈴音、楯無の三名。なのだが、そもそも残っているという表現も似つかわしくはない。

 接近するだけでもダメージを受けてしまうこの現状の打開策がみつからず、箒有する紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)である絢爛舞踏で延命を続けているだけようなものだ。

 何より学園最強である楯無の専用機ミステリアス・レディが、単純にスルトと相性最悪であるという要因も大きい。

 その特色を簡単に説明するのであれば、起爆する性質のナノマシンにより水を操ることで、さまざまな状況下においてトリッキーに相手を翻弄するのが主だ。

 しかしスルトの放つ炎のせいでこれが全く機能しない。そう、水そのものが温度によってことごとく蒸発させられてしまう。

 本来は水蒸気になってもナノマシンを関節のわずかな隙から機体に侵入させ、そして爆破という戦術も可能なのだが、接近するまでもなく蒸発してしまうのでこれも無意味。

 絢爛舞踏ありきとは言いつつ、それでも落ちないでいられるのは学園最強としてのプライドか、それとも十七代目楯無としての使命をまっとうするためか。

 少なくとも楯無含め、三人ともまだ引く気はない。むしろ威勢のいい態度は崩さず、こちらを見据えるスルトに対して噛みついた。

 

「ざーんねん。あなたが諦めるまで、諦めるわけにはいかないのよね」

「ってか、しとめきれないアンタが温いんじゃないの!」

「私と紅椿がいる限り、これ以上の脱落者は出させんぞ!」

「ならば仕方ない。殺さないようにと加減をしていたが、ここから先は命をとるつもりで――――ん?」

 

 ただそこに在るだけで脅威となるスルトにとって、これだけ馬鹿らしい話はなかった。

 確かにただ通すわけにはいなかいということは理解している。目の前の敵が、友のために戦おうとしていることもだ。

 だが物事に関して諦めというのは肝心で、自身についてまったく対策がとれていないというのに、これでは悪戯にあらゆるものを浪費してしまうだけだ。

 個人的な理由も加味して箒たちを傷つけることが吝かだったスルトは、変に苦しめることよりも確実に撃墜するという覚悟を決めた。

 が、ここにきてハイパーセンサーに映るアラクネの動向に変化があったことに気が付く。

 そもそも反応がいつの間にやら消えていて、代わりに白式とヘイムダルの反応が移動を始めている。

 これを見るに、何が起きたかということは一目瞭然。

 当然ながらスルトはオータムが敗北することが前提で現れたわけだが、ここにきてあるひとつの欲というものが生まれてしまった。

 

「前言撤回だ。申し訳ないが、もう少しばかり苦しんでもらうぞ!」

「こ、これは……!? いったい、奴の底はどこだと言うんだ……!?」

「まるで小さな太陽ね……」

「んなもん言ってる場合じゃないでしょ! これは流石に退避――――」

「ムスペルヘイム・トルナード!」

 

 スルトは己の欲を満たすため行動を開始した。まず手始めに文字通りに火力をアップ。

 今日イチの炎を纏う姿を目撃した楯無は、顔を引きつらせながら小さな太陽だと形容した。

 この時点で何かする気なのは明白。スルトがレーヴァティンを振りかぶっているから、もっともっと明白。

 こういった時に冷静でいられる鈴音の存在は希少だが、残念ながら呼び掛けるのが数秒ほど遅かったようだ。

 スルトが技名らしきものを叫びながらレーヴァティンを振るったかと思えば、猛スピードで渦を巻く火炎が箒たちに迫った。

 三名とも絢爛舞踏の発動のために手の届く範囲に居たことが仇となり、全員見事に火炎旋風の渦中へと拘束されてしまう。

 

「ああもう、なんつーえげつない技使ってくれんのよ!」

「くそっ! 二人とも紅椿から手を離すな!」

「でもこのままじゃジリ貧ね。箒ちゃん、頑張って! 対策は必ず考えるから!」

「重ねてすまんな。用が済んだらすぐに解く」

 

 それでなくとも操縦者とISにかなりのダメージを与える炎だ。そんなものに囲われた先にある未来など、まるで想像もしたくない。

 間違いなくこの場に居るだけで敗北確定の最中、スルトは嫌味でもなんでもなく謝罪を残してその場から飛び去って行った。

 思わず待てと叫びそうになってしまうが、こんな状態ではそんなことを言っていても仕方がない。

 そんな暇があるならまずは打開策を立てることこそが重要だ。

 楯無はとにかく急いで脱出をと、普段の不真面目な様子を一切見せずに思考をフル回転させた。

 一方のスルトが向かう先はただひとつ。晴人と一夏が現れるであろうアリーナだ。

 目的は一夏の誘拐? それともスコールの回収? 今のスルトにとって、そのどちらにも該当しない用というものがあるのだ。

 閉じられたドームの天井をレーヴァティンにて焼き斬ったスルトは、アリーナ内へと難なく侵入。徐々にこちらへ近づいてくる反応に目を輝かせた。

 そして、スルトにとって待望だった瞬間がついに訪れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリーナの地下道がなんであんなに複雑なんだ!」

「ISのナビがなかったら完全に迷子だったね……」

 

 あれから移動を続けることしばらく、ようやく地上へと繋がる隔壁を発見し、しばらくぶりに元の場所へと戻ってきたわけだ。

 しかし、あまりに道順が複雑すぎて思わず文句が飛び出てしまう。ナツが僕をたしなめないあたり、怒って当然だということかな。

 だがギャーギャー騒いだところで、失った時間を取り戻せるわけじゃない。早く状況を把握して、可能ならみんなの援護を――――

 そうやって周囲を見渡しているその時だった。確認するまでもなく、見覚えのないISとその操縦者が僕らの目の前に佇んでるではないか。

 ということは、みんなは……!? ハイパーセンサーで上手く反応を追えないことのなんともどかしいことか。

 この現状、とにかく交戦は必至というわけだ。ならばまずオータムさんの安全を確保しないと、右腕が使えなければ僕は戦えない。

 ジリジリと退いて敵増援の黒いISを眺めていたが、どうにも様子がおかしいことに気が付く。なんというか、操縦者の動きが変……?

 そのフラフラとした足取りで一歩一歩ゆっくり近づいてくるその姿は、映画か何かの感動的再会シーンを思い起こさせる。

 いったい僕らの何が彼女にそうさせるのか。

 ある意味怪しい動きをみせる操縦者を警戒していると、右手に握っている大剣を上下逆さまに掲げるような仕草をみせた。

 瞬間、ゾワリと得体の知れないもの背中を這うかのような……。とにかく、不快感を孕んだ圧倒的なまでの嫌な予感というものを覚えた。

 

「あぁ……!」

「っ~~~! ナアアアアアアアアアアアアツっ!」

「は!? ちょっとハル、いったい何して――――」

「ようやく逢えた……!」

 

 本当に死さえも予感させる嫌な予感に屈した僕は、後方へと思い切りオータムさんをぶん投げた。

 当然ながら落下すれば即死するくらいの高さと勢いをつけてだ。そうすれば、ナツがキャッチしに向かうと踏んだから。

 そうすれば、恐らく次の瞬間に襲い来る脅威からナツを退けさせられると思ったから。

 例の操縦者といえば、纏っているISが真っ赤に染まるほどの炎を放ちつつ、同じく赤く染まった大剣を地面へと突き刺した。

 

「ムスペルヘイム・リンナイトス!」

「地面から炎が……!? ハルーっ!」

 

 操縦者が技名らしきものを叫んだかと思えば、地面から炎が噴き出しドームのように閉じていく。

 僕とナツを分断させるつもりなのか、実質的に一対一の状況へと持ち込まれてしまったぞ……!

 いや、オータムさんをナツに預けたから、これでヘイムダルの右腕もフリーだ。

 相手は楯無さんが言うには国家代表クラスである可能性が高いわけだが、そんなのは知ったことではない。

 やはりナツを攫おうとする連中なんて、どちらにせよ無視するわけにはいかな――――

 

「くっ……!? こ、この、熱さは、いったい……!?」

 

 己を鼓舞して戦闘へのモチベーションを上げようとしたその時だった。足に力が入らず膝をついてしまう。

 考えられる理由はただひとつ、この炎の熱さにやられているからだ。

 だからこそ逆におかしい。僕はISを纏っていると言うのに、この炎はなぜこんなにも熱い……!? みれば、徐々にダメージも受けているではないか。

 だとすると、この状態でヘイムダルが解除されてみろ。それは負けどころか本当の本当に死を意味するぞ。

 まずい。なんとか脱出しなければ。

 そうやって行動に出ようとするも、単純に身体へ力が入らなくて何もすることができない。

 見れば、操縦者は徐々にこちらへ歩みを進めている。

 その手から剣が離れているのに炎が消える気配がないということは、性能そのものはISに依存しているということなのか……?

 しかしそれに反して、先ほどまで赤く染まっていたISの装甲各所は、冷却が施されたのか元の黒色に戻っている。

 ……そこらあたりに何かヒントが、きっと打開策があるはずなんだ! 考えろ、思考を止めるな! こんなところで死ぬわけにはいかない!

 だというのに、操縦者は既に僕の眼前までたどり着いてしまう。できることといえば、必死にその姿を睨むことくらい。

 これから何をされるのだろうかと嫌な思考が過りそうになったその時、操縦者は僕と同じく膝を折り――――その両腕で僕を抱き留めた。

 

「…………は………………?」

「長かった……本当に……。この瞬間を、いったいどれだけ……! 晴人、お前が居てくれたからこそ、私は……!」

 

 まるで意味がわからない。

 なぜ彼女は、感動したように打ち震えているのだろう。

 なぜ彼女は、感動のあまりに涙声になっているのだろう。

 なぜ彼女は、僕との出会いに歓喜しているのだろう。

 なぜ彼女は、僕のことを知っているのだろう。

 わからない。わからない。考えても考えても、まるで答えは出てこない。

 当然だ。だって僕はこんな子のことは知らないから。むしろ、どうして僕がテロリストなんかと面識がなければならない。

 だけど彼女のリアクションが僕を混乱させるためとか、嘘の類であるとは不思議と思えなかった。

 長かった? この瞬間を? 僕が居たから? これらのピースから過去に会ったことがあると仮定することができるが、それでも僕はやっぱり――――

 

「僕……は、キミのことなんか……知らない……!」

「……そうだろうな。わかっていたことだが、やるせない……。しかし、今一度やり直せばいいだけのこと。晴人、私の名は――――」

「!?」

 

 今日という日はいったいなんなんだ。

 あまりにも衝撃的なことが起きすぎて、もうそろそろお腹いっぱいだぞ。

 僕を離して一歩だけ退いた操縦者は、おもむろにバイザーを解除してその素顔を晒した。

 見れば一発で気づくと読んでのことなんだろう。ああもちろん、僕に至ってその顔に違和感というやつを覚えないはずがない。

 だってその顔立ちは、ナツやフユ姉さんを思わせるような、言い換えるなら織斑の血筋を感じさせるものだったから。

 それでなくても混乱している僕に対し、操縦者は更に畳みかけるようにこう名乗った。

 

「織斑 マドカだ」

「織斑って……。本当に、ナツとフユ姉さんの血縁だって言うのか!?」

「それは……。……すまないが言えん。というより、言えんことの方が多い。だが、手短に伝えなければならないことがある。熱いのは少し我慢してくれ。それだけ重要なことだということだ」

 

 織斑と、ナツやフユ姉さんに似た顔立ちの少女は確かにそう名乗った。

 先ほどのオータムさんの話を聞くに、織斑の両親はかなり密接に亡国機業と関りがあったと思われる。

 だから邪推しようと思えばこのマドカって子にもいろいろ予測が立つけど、やはりあまりにも衝撃が大きすぎて頭が着いて来ない。

 いや、正直に言うなら僕はこうも思っている。テロリストなんかが、僕の大事な姉妹と近しい存在であってなるものかと。

 どことなく拭えない嫌悪感の正体はこれ……? そんな感情すら抱く相手が話をしたいって、僕は真剣に耳を傾けることができるだろうか。

 

「織斑 一夏をこちらに渡せ。そして願わくば……晴人、お前も私たちと一緒に来い」

「話せないことの方が多いんだろ!? そんなこと、理由も知らずに受け入れられるか!」

「私が話さないのは! …………私の都合ではないんだ。真実を知れば、きっと晴人は壊れてしまう。だから話さない」

 

 どうせそんなことだろうとは思っていたが、僕にとって断る一択しか浮かばない提案を挙げる。……スカウトは少し意外だったけど、どちらにせよろくなものではない。

 だがマドカは話せないことの方が多いと前提した。それだけに、要求だけ告げるものだからまったく中身が見えない。

 理由を話されたところで僕の意志は揺らがないだろうが、百歩譲って納得してほしいならそれくらいは教えるべきだ。

 僕は首を縦に振ってほしいならと声を荒げるが、それに対してマドカは悲しそうに顔を歪める。

 理由を話さないのは組織的な思惑を知られないためではなく、他でもない僕のためにだと主張するではないか。

 ……本当に、この子にとって僕はいったいなんなんだ? 絶対に会ったことがないと、そう断言することができるくらいには覚えがないというのに。

 

「晴人、私はお前を愛している。私に生きる意味を与えてくれたお前のことを、心から」

「は!?」

「だが愛してくれとは言わない。既に織斑 一夏と結ばれているのは……理解しているつもりだ。だから私が望むものはひとつしかない。生きていてほしい。ただ、それだけなんだ」

 

 またひとつ驚かされた。

 こんな場にふさわしくないような反応をしてしまったけど、いきなり愛の告白なんてされたら誰だってそうなる……よな?

 さておき、意を決して想いを口にした今の表情なんか、ただの純朴な乙女という感じだった。これにもやはり偽りを感じられない。

 そして続けざまに出てきた僕に生きていてほしいという言葉。それは暗に、ナツを愛し続けることが僕の死を意味しているかのようだ。

 ……あり得ない話ではない。とは思う。

 ナツの抱えている事情は大まかに理解したつもりだが、因子の件はもっと掘り下げないと、たくさんの隠された真実はあることだろう。

 例えば過剰摂取は寿命を縮めるみたいな、そういうリスク的な何かを持っているかも知れない。

 確かにそれはよくないな。もちろん、僕が死んだらナツが悲しむという意味で。

 けど、だからといってそんな要求を呑むわけにはいかないに決まっている。だって今しがた一緒に生きると誓い合ったばかりだ。

 だから、僕とナツが隣り合っていなければまるで意味がないじゃないか。

 だから、例え僕が先立つようなことがあったとしても――――

 

「ああ、生きるさ。キミに言われなくたって、ナツの隣で生きるとも!」

「っ……! 頼むからわかってくれ! さもないと――――」

「さもないと、なんだよ。ナツを手放して生きたって、その先に何もあるはずがない! それこそ僕にとっての死は、ナツが隣で笑ってくれないことだ!」

 

 僕は決死の覚悟でその場から立ち上がった。

 だってこんな主張を、膝をついたままするわけにはいかないから。

 皮肉たっぷりにそう返してやると、マドカは聞き分けがない僕に流石に苛立ちを覚えたのか、眉間に皺を寄せてわからず屋と怒鳴った。

 なるほど、キミが僕を本気で心配してくれていることはわかった。理由はわからないけど、そこに関しては有難く思っておくことにしよう。

 だけどねマドカ、それは僕に死ねって言っているようなものなんだよ。

 それこそナツと出会う前の僕は生きてはいなかった。

 ただ息を吸ったり吐いたりするだけ。ただ心臓が脈打っているだけ。ただ与えられた食事を摂取するだけ。ただ生命維持活動をするだけの、空虚な何かだった。

 だがナツとの出会いが僕を変えた。ナツが僕に世界を教えてくれた。

 だから僕の命はナツなんだ。

 ナツが隣に居ない僕なんて、それは死んでるも同然なんだ。

 ナツが僕の隣で笑っていてくれるから、僕は今もこうして生きているんだ!

 だから僕の世界を、命を奪おうとする要求になんて、死んでも首を縦に振ってやるもんか!

 

「そう……か……。わかった。話し合いでの解決は諦めよう。晴人が主義を通そうとするのなら、私もそうすることにするよ。私は、死んでも晴人を生かす。例えそれを、晴人自身が望まなかろうとも」

「やってみろ、ナツは僕のものだ! お前たちなんかに絶対渡さな――――くっ!? あ、足……が……! このっ、動け! 動けええええええええええええ!」

「強がりはよせ。叫ぶと余計に体力を消耗するぞ。安心してくれ、ただ気を失ってもらうだけだ」

 

 マドカは僕の想いを耳にすると、とても悔しそうな表情をみせた。

 だがそれで納得してくれるのなら、僕らと同年代らしき子がテロリストなんてやってないだろう。

 僕が意地を貫くのならと、マドカはナツを誘拐するという意識を強く固めたらしい。

 バイザーを装着し直したのを見て戦闘再開の合図だと察するが、ガクリとまた膝に力が入らなくなってしまい、無様にもその場に崩れ落ちた。

 気合でどうこうの問題ではないとわかっていても、ここで立たねば男が廃る。……廃るのに、喝を入れるため叫ぶことしかできない。

 そんな僕を冷たく見下ろしたマドカは、右手を手刀のように構えて頭上へと掲げた。

 すると、その右手が一気に真っ赤に染まるではないか。

 シールドエネルギーはまだまだ残っている。そもそもマドカに僕を殺す気はない。にしても、それを喰らえば確かに気絶くらいは簡単か。

 わかっていてもどうすることもできない僕は、ただ灼熱の手刀が振り下ろされるのを、黙って見ていることしかできなかった。

 

「おやすみ、晴人。また会えるのを楽しみに――――」

「さぁああああせぇええええるぅううううかぁああああっ!」

「ほう。なるほど、考えたな」

 

 マドカが別れの挨拶をしようとしていると、僕の後方でドカンと大きな轟音が鳴り響いた。

 何事かとハイパーセンサーで背後を確認すると、一瞬だけ炎の壁に風穴が開き、その一瞬を利用してナツが炎の内部へと侵入した。

 そして勢いそのままマドカへと迫り、振り上げた真雪を灼熱の手刀へと合わせる。

 奇襲気味だったというのにマドカは冷静に対処し、直前でターゲットを僕からナツの方へと切り替えたように見えた。

 この炎が厄介なのもあるが、単純にマドカの実力も計り知れないか……。

 

「ナツ、いったいどうやって!?」

「鈴と甲龍の龍砲だよ! 要するに空気砲だから、一瞬だけでも炎を退けられたってわけ!」

 

 ……ハイパーセンサーの不調につき確定はできないが、どうやら少なくとも鈴ちゃんは無事ということでいいらしい。

 だけど天敵とまではいかないが、まさか龍砲が打開策になるなんて思いもしなかった。きっと鈴ちゃんも鼻が高いことだろう。

 さぁこれで二対一だ。……と言いたいところだけど、この空間に居る限り、いずれナツも体力を奪われ僕のようになってしまうだろう。

 なんでもいいから、早く完全脱出の方法を考えなければ手遅れになるぞ。

 

「ふっ、標的自ら現れてくれるとは都合のいいことだ。が、今はまだその時ではない」

「あっ、待て!」

「待たん。そもそも、今回の私の目的は他にあるのでな」

 

 マドカはバイザーの露出している口元を、これでもかというほど楽しそうに歪めた。

 確かに、これでは文字通りの飛んで火にいる夏の虫。あまりにも格好の餌になってしまう。

 僕は焦りに任せて強引にナツとの撤退を進めようとしたが、次の瞬間にマドカはバックステップのように後方へ跳んでナツとの距離を置いた。

 そしてそのまま超低空飛行で後方へ下がると、地面に刺さりっぱなしになっていた大剣を回収。

 それと同時に、ゆっくりだが僕らを閉じ込めていた炎が徐々に収まっていく。

 とはいえ消えたからって失った体力が戻るわけでもなく、僕はそのまま顛末を見守るしかない。

 再びマドカが僕の視界に映った姿は、小脇にオータムさんを抱えている状態だった。

 

「しまった!?」

「せっかくハルが倒したのに……!」

「そういうことだ。一応だが返してもらうぞ。……それでは失礼する」

 

  マドカはどうやらオータムさんを回収するためにIS学園にやって来たみたいだけど、確か到着したのは僕らが交戦を始める前だったよな。

 だとしたらおかしい。マドカはまるで初めからオータムさんが負けるのをわかっていたかのようだ。でなければ、そんなタイミングで現れることができるわけがない。

 回収がスムーズだったのもまた然り。

 僕らが対処に入ろうとするよりも前に回収しきるなんて、知っていなければ間に合うはずがないだろう。

 いったいどうなっているというんだ……? これではまるで、未来を読んでいるかのよう。

 いくら考えたところでオータムさんを確保しきれなかったという事実は変わらない。

 マドカはバイザー越しでもわかるくらいに僕へ目配せをして、それから律儀に別れの挨拶を言い放ってから飛び去っていった。

 

「アンタたち、無事!?」

「うん、鈴ちゃんのおかげでなんとか。それより、他のみんなは!?」

 

 スルトが飛び去ったのと入れ替わるように、鈴ちゃんが僕らの身を案じながら近づいてきた。

 心配をしてくれるのは有難いけど、僕にとってもみんなの無事というものを手早く確認しておきたい。

 鈴ちゃんにみんなのことを尋ねるも、返って来たのは苦虫を嚙み潰したような表情。

 それだけでよくないことが起きているのには違いないんだろうけど、今は正確な情報を直接口頭で伝えてほしいところだ。

 聞けば簪さん、セシリアさん、シャルル、ラウラちゃんの四名は撃墜されてしまったらしい。

 箒ちゃん、鈴ちゃん、楯無さんの三名は、ついさっきまで僕と同じく炎の空間に閉じ込められており、龍砲を用いてなんとか鈴ちゃんだけでも脱出を図ったそうな。

 

「ま、方法思いついたのはアタシじゃなくて会長さんなんだけどねー」

「楯無先輩……? そうだ、先輩に話しておかなくちゃならないことが――――っ……!」

「ちょっと、無理してんじゃないわよ! なんか知らないけど、どうせあの人も忙しそうだから今は休みなさい」

 

 鈴ちゃんがふと呟いた会長という単語にて、楯無先輩に早急に話さなければならないことがあるのを思い出した。

 いろいろと目まぐるしくて何から話していいのかわからないけど、ナツやマドカに関わる得た情報は、きっと更識の今後の動向にとって重要視されるはず。

 今すぐにでも向かおうとしたのだが、やはり身体が上手く言うことを聞いてくれない。

 そんな僕を見てか、鈴ちゃんは声を張り上げて叱りつけてくる。ついでに、楯無先輩はどうせ忙しくて時間が取れないと付け加えた。

 そう、だよな。それでなくても学園祭中にテロリストが襲撃をしかけてきたんだから、関係各所への説明等の事後処理に追われているはず。

 ……こうなることはわかっていたはずなのに、楯無先輩は自分一人であらゆる責任を背負うつもりなのか? だとするなら、楯無の名はそれだけ重いものってことなんだろう。

 

「……ナツ」

「うん、ありがとう。私は大丈夫だよ」

「……そっか。それじゃあ、ひとまず僕らは待機……ってことでいいのかな?」

「そうしましょそうしましょ。ったく、身体中ヒリヒリするったらないわ。あいつ日焼けマシーンかっての」

 

 よくよく考えれば、気持ちの整理がついていないであろうナツの意見を聞かないのはどうなんだ。

 そう思って名前を呼び掛けてみると、楯無先輩に報告しても構わないという返事が。

 それなら報告に関しては僕だけですることにしよう。でないと、それでなくてもショックを受けたナツを前に、僕自身上手くマドカのことを話せる気がしない。

 ならば現状は待機を継続という音頭を取ると、鈴ちゃんは甲龍を解除しながらわざとらしく座り込んだ。

 どこかその言動に賑やかしを垣間見れるが、きっと僕らに何かがあったことを察して、あえてそうしていてくれるんだろう。

 昔からどこかぶっきらぼうで不器用だけど、こういう時にはいつだっていい子だなって思い知らされるよな。

 僕とナツは顔を見合せて、鈴ちゃんなりの優しさに少しばかり笑みを零した。

 なお、その瞬間を目撃され、僕は何よとひと睨みされてしまったわけだが。

 

 

 

 

 

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