ハルトナツ   作:マスクドライダー

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第81話 葛藤

「チクショウ、あのクソガキがぁ!」

 

 亡国機業(ファントム・タスク)による学園祭襲撃及び織斑 一夏奪還作戦の失敗から数時間が経過した頃。

 スルトにつつがなく回収されたオータムが目を醒まし、第一声として放ったのがヒステリックに叫んだ悪態だった。

 他の幹部五人も反省会よろしく一部屋に集合しているため、声を上げるオータムに様々な視線を向ける。

 が、その中の約一名は煽りのプロ。

 こんな姿のオータムを見てしまっては、弄りにかからないほうがおかしいというものだった。

 

「元気そうでなによリ。それだけ叫べるなら大丈夫そうだネ」

「ロキ、てめぇ……!」

「あれれ、なんで怒るノ? ロキちゃん心配してあげてるのニ~」

「ぶっ殺す!」

 

 盛大にニタリニタリとわざとらしい笑みを浮かべているその姿、誰がどう見たって心配しているようには感じられない。

 にもかかわらず、オータムが睨み返すや否や急にカマトトぶって被害者面。

 これが一気にオータムを爆発させ、ロキへと掴みかかろうと手を伸ばした。

 だが、それを意外にもトールが制する。

 もちろん普段から反りが合わないトールからしてオータムの気持ちもわかるが、今回の件に関して言うならロキのおかげで無事でいられたのだから。

 止めにかかったのがトールという点からそれを察したのか、オータムは今一度きつい視線をロキへと向けた。

 

「まさか、スルトはてめぇの差し金か!?」

「そうだヨ。正確に言うならオーディンとスコールの差し金かナ?」

「そういうことよ、オータム。少しの戯れくらいは許してあげなさい」

「…………チッ!」

 

 あくまで自分はスルトが向かえば助けられると提案しただけ。そう予防線を張るあたり、ロキの強かさというものが伺える。

 オータムにとっては小癪なことながら、ロキは要するに恩人というわけだ。

 恩人であるロキに対してその態度は後々が面倒になる。という意味を込めて、スコールはオータムをたしなめた。

 それなりに付き合いも長いため、オータムもロキの面倒臭さを十分に理解している。

 舌打ち混じりではあるがとりあえず納得したのか、オータムはトールの手を振り払ってドガッと粗暴な態度でソファへ座りなおした。

 

「さて、それじゃあ仕切り直しましょうか。まずは結論から言って、作戦は失敗。おまけに織斑 一夏は真実の一端(、、)を知って、日向 晴人は二次移行(セカンド・シフト)に到達ときたわ」

「プハッ! ここまで綺麗な失敗だと笑えちゃうネ。ね~オータムゥ?」

「いつか殺す」

「何もオータムだけの責任じゃない。話していいと判断を下したのは私だし、何よりヘイムダルのことをあまりに過小評価しすぎていたようだ」

 

 とりあえずオータムとロキの喧嘩に決着がついたところで、スコールが会議の再開の音頭をとった。

 議題はもちろん今回の作戦について。

 スコールの失敗という単語に反応してか、オータムはバツが悪そうな表情を浮かべ、それを見たロキがすかさず煽りにかかった。

 オータムが今回は我慢ということを理解したおかげで小競り合いにはならなかったが、着実に恨みつらみというものが蓄積している模様。

 そんな二人を尻目に、オーディンは自らが責任を負うべきかのように話を持って行った。

 晴人が二次移行(セカンド・シフト)を果たしたのは、皮肉なことに一夏の真実を知ったからという要因が大きい。

 その要因を話していいとしたのは自分だし、何より晴人が二次移行(セカンド・シフト)に辿り着くまでのポテンシャルがあるとは本気で考えていなかった。

 あくまで爽やかにそう語るオーディンに対し、トールが口を開いた。

 

「誰の責任かなど、どうでもいいことだ。失敗の事実は覆らない」

「トール。キミが発言するとは珍しい」

「思うところがある。是非を問いたい。あの少年、その実まだまだ利用価値があるのではないか?」

 

 トールは自分がないから意見をしないというよりは、単に面倒だったりするから口を開かない場合が多い。

 だからこそトールの発言はよほどの事ということになり、オーディンは少しからかうように彼女を見つめた。

 そしてトールは他の五人へ問う。少年――――日向 晴人の利用価値についてだ。

 亡国機業(ファントム・タスク)において晴人がいずれISを動かすのは想定内。

 それこそが一夏の因子が正常に働いているという証拠であり、言ってしまえば実験動物(モルモット)以上の評価が下されたことはない。

 後は煮るなり焼くなり――――いや、むしろ放置でもいいくらいのどうでもいい存在だったのだが、トールは考えを改めるべきだという。

 それはもちろん、今後とも実験動物(モルモット)としての話だが。

 

「少年の二次移行(セカンド・シフト)は、明らかに織斑 一夏の影響ありきだ」

「つまり、彼の経過はまだまだ見守るべき。ということかしら」

「ああ。もっと言うなら、こちらに引き入れるのも手だと考える」

「んだとぉ!? トール、こちとらぶん殴られてんだぞ!」

「ロキちゃんは大賛成だヨ!」

 

 トールの中でも晴人の評価は凡人、またはそれ以下のIS操縦者でしかない。

 むしろこの口ぶりを聞くに評価を改める気もなさそうというか、大半は一夏の持つ因子の影響と考えているようだ。

 もし自分の考えが妥当であるならというトールの意見は、スコールとオーディンというリーダー格二人の心を動かすには十分。

 だがこっぴどくやられたオータムばかりは否定的。ロキはロキで個人的な都合で大賛成な様子。

 そして、晴人に対して明確な恋慕を抱くスルトは――――

 

「スルト、キミの意見も聞こう」

「なぜ私に。好きにすればいいだろうが」

「そういうわけにもいかないわ。あなたにとって、彼はいろいろ特別でしょう?」

 

 スルトは主に体裁のため話し合いの場には必ず立ち会う。だがいつも興味もなさそうに聞いているのみで、周囲からも意見は求められない。

 例に倣ってボーッと夜景を眺めていると、突如としてオーディンがそう問いかけてくるではないか。

 顔も向けずに流そうとするが、今度はスコールの追及が入る。この時点でスルトは探り合いが始まっていることを察した。

 スルトにとって組織の目的なんてどうでもいい問題で、その活動の全てはただ晴人を生かすということのみにささげられている。

 それに伴って一夏の誘拐が必須なだけであり、それさえなければ既に組織なんて裏切ってしまっていることだろう。

 だからこそスコールとオーディンは、スルトを試すつもりでいるのだ。

 オータムとトールを除く三人はスルトの抱く想いを知っている。が、リーダー格二人でさえ晴人を生かしたいということまでは知らない。

 むしろ現時点では、一夏を誘拐した後晴人を自らのものに。くらいに思われている。

 しかし、スコールもオーディンも念には念を尽くすタイプ。実際、いつ裏切られてもおかしくはないという認識なのだ。

 つまりここでスルトに求められるのは、いかようにして自分の目的を悟られず、なおかつ組織への一定の信頼を感じさせること。

 だがこの程度の回答で熟考は許されない。漫画的な表現をするのだとすれば、この間コンマ5秒程度。

 スルトは必死にリーダー格達が思っている自分を想像し、完璧な演技で完璧な回答をしてみせた。

 

「賛成だ」

「中身がないね。理由もどうぞ」

「経過を見守るだけなら外部からでも可能だが、第三勢力(篠ノ之 束)がいることを考えると、手元に置いておくのがベストだろう」

「なるほど、確かにそれを勘定に入れてなかった。うん、貴重な意見をありがとう」

「それはどうも」

 

 スルトが選んだ回答は、賛成しつつも自分の為ということを理由にしないこと。

 間違っても一緒に居られるのならばそれに越したことはない。なんてことを言ってはいけないシーンであった。

 理由は単純。自分がこんな場でそんなことを言うタマではないことを理解しているからだ。

 そこから生かすことを察知されるのは難しいだろうが、不安材料は少ないほうがいいに決まっている。

 むしろさきほどのソレは、スコールとオーディンがだいたいこんなことを言うだろうなと想像していたほぼそのまま。

 にもかかわらず貴重な意見などとほざくオーディンに対し、スルトはこれでもかというくらいに内心で舌を打った。

 

「よし、それでは方針が定まったね。我々の目的に、ヘイムダルの勧誘も追加だ」

「あレ、結局誰もお咎めなシ? つまんないノ~」

「いろいろと不安定要素はあったけど、そもそも挨拶みたいなものだからよしとしましょう。オータム、勧誘に関してはあなたも納得して頂戴ね」

「わぁったよ。ただ、リベンジだけはさせてもらうがな」

 

 誰かがなんらかの理由で裁かれることを期待していたのか、ロキはプクーっと頬を膨らませた。

 確かに失敗したのなら誰かがなんらかの責任を負うべきなのかも知れないが、トールが言ったように悪い者探しをするようなこともまた無意味。

 前提として失敗すれば組織が危ういなんていうほどの作戦でもなかったため、特にそういった人物を割り出すことはしない。

 そうやって幹部勢の今後が明確に定まったところで、自然と解散の雰囲気が湧き始めた。

 と同時にスルトは立ち上がり、誰にも一瞥もくれることなく、出入り口のドアノブへと手をかける。

 

「スルト、どこに向かうかくらい言ってから出かけなさい」

「馬鹿にしてるのか。ロキならともかく。少し風に当たりに行くだけだ」

「ムー! ロキちゃん一人でお出かけできるもン! ちょっとスルト、聞いて――――」

 

 それこそロキは何をしでかすかわからないため、半ば外出を制限されているようなものだが、急な招集に応えることさえできれば基本自由の身だ。

 ゆえにこのタイミングでそう声をかけてきたということは、どこか釘を刺すという意味も込められていることを察知した。

 そんなことで動揺していれば獅子身中の虫でいることなど不可能に近い。

 スルトはあくまでいつもの様子で返事をし、いつもの様子で退出してみせた。

 しかし、スルトは内心穏やかではない。なぜなら、ただ風に当たりにいく目的ではないからだ。

 

(……目的まで悟られなければ問題ないだろうが、私が何かをするつもりなのはバレていると思ったほうがいいな)

 

 どこか食えない女二人――――もちろんスコールとオーディンのことだが、スルトは普通にこの二人のことが嫌いである。

 無意味に意味深な言動といい、全て見透かしていますと言いたげな態度といい、スルトからすれば一から十まで気が気でないのだ。

 さきほどの短時間でそれぞれ一度ずつイラつかされたせいか、どこか足取りが早いようにも思える。

 するとふいに携帯が着信を報せ、ディスプレイに表示された名前を見てまたしても苛立ちがスルトを襲った。

 無視してやろうかとも考えたがそうもいかないというのが現実問題。

 スルトは観念して画面の通話表示をタップした。

 

「今連絡を入れようとしていた。敷地内で接触して来るのは止めろ。……と、再三言ったはずだが?」

『だぁーいじょーぶ、どーせ盗聴しようとしてたらわかるから。って、再三言ったけど?』

「はぁ……。貴様のお気楽さにはほとほと呆れるよ、カニ」

『す~ちゃんこそその呼び方止めてってばー! 日本語だと甲殻類のほう想像しちゃうじゃん。気軽に束さんでいいよ!』

「それこそ電話口で口にするわけにもいかんだろうが」

 

 カニとは、フィンランド語において兎の意。兎ときてこのテンションに該当する人物はただ一人。そう、ISの開発者――――である可能性が高い、篠ノ之 束その人である。

 スコールあたりがこの事実を知れば卒倒するだろうが、二人は自身の達成すべき目標が一致しているために手を組んでいる。

 言うまでもないが、晴人に関連したことだ。

 きっと臨海学校で晴人に告白した一件も、一夏に男性に戻るよう頼んだのも、このあたりが理由なのだろう。

 

「まぁいい……。朗報だぞ。晴人は勧誘する方向で合致した」

『おーっ、いいね! 始末の可能性が限りなくなくなったよ』

「ただ、引き入れる理由に貴様を使った。第三勢力に手出しされる前に、とな」

『あーいいよいいよ、間違ったこと言ってないし。怪しまれないならそれが一番ってもんよ』

 

 晴人に対する方針は主に放置だったが、邪魔するなら始末してよしという暗黙の了解的部分はあった。

 だが勧誘とくれば殺してしまうのはあり得ない。方針が変わらなければであるが、その間晴人の無事は保証されたようなものだ。

 それでもまだ完璧ではない。

 勧誘の理由が束に余計なことをされる前に保護し、実験動物(モルモット)として経過を見守るというものだからだ。

 逆に言うのであれば、完全に利用価値がなくなれば始末しやすい。という意味でもある。

 まさに一長一短だが、とりあえずは喜ぶべき部分らしい。

 その後も手短に伝えるべきところを伝えていると、話題はとある部分へと触れる事となった。

 晴人の果たした二次移行(セカンド・シフト)についてだ。

 

「で、晴人の二次移行(セカンド・シフト)は奴の影響なのか?」

『ん、もちろんはっくん自身の強い意志にヘイムダルが応えたのも間違いじゃない。けど、やっぱり摂取した因子が活性を促した? みたいなとこはあるだろうね』

「……そうか」

『……ねぇ、それ約束と違うよね? 今さぁ、逆だったらって思ったでしょ。それ、一番のタブーだって、自分が一番知ってるんじゃないかな』

 

 いくら束と言えども明確な答えを示すことはできないが、専門家がそういう認識でいいと言うのなら、限りなくそれに近いのだろう。

 束の見解に業務連絡的な返事をするつもりが、どうしても生まれてしまった一瞬の沈黙。束はまったくそれを聞き逃してはくれない。

 そして先ほどまでの朗らかな態度が一変し、泣く子も黙るような声色でスルトを責める言葉を並べた。

 

『今思ったこと、言ってみ?』

「……殺したくなった。アイツも、晴人も」

『でしょー? 私たちのしようとしてることと真逆でしょ? はっくんが死ななきゃ幸せなんだよ、私たちは』

「ああ、わかっている。愛されることは、私たちの役目じゃない」

 

 因子を摂取したということは、晴人が一夏の遺伝子情報を口にしたということ。大概の場合はキスをしたと思っていい。

 スルトはそのことに嫉妬を覚えてしまったのだ。

 晴人を生かすことのみが目的を理念にしながらも、恋慕という私情のせいで自ら真逆の感情を抱いてしまった。

 だからこそ束は端的に約束が違うと表現したのだろう。

 二人のやりとりは、どこか自分に言い聞かせているようにしか聞こえないが。

 

『んまーいいや。とにかく、はっくんの因子の摂取はほぼ防げないから、ホントに勧誘する気ならなる早でね』

「わかった。どことなく次の作戦を急ぐ空気を出しておく」

『それは有難いけど慎重に頼むよ~。あのミドリイロのがきんちょが厄介みたいだし』

「そこに関しては運次第としか言いようがない。科学者であるお前は嫌う言葉だろうがな。……いや、むしろ――――」

『泳がされている可能性もあり、だね』

「わかっているのなら軽率な行動は控えてくれ」

 

 二人が愛し合う限り防げないことだと割り切っているらしいが、なるべく早くと付け足すほどなら晴人の身に危機が迫っているということなのだろうか。

 スルトは間髪入れずに束の頼みを了承するも、少しばかり待ったがかかった。

 束の言うミドリイロのがきんちょとは、十中八九ロキのことだろう。

 ロキの行動理念は自身が楽しむことであり、彼女もまた組織の動向なんてものはどうでもいいタイプ。だからこそ、あらゆる要素において未知数と言わざるを得ない。

 むしろ自分たちの目的や繋がりも知ったうえで、今後を楽しむためにあえて知らないフリをしている。なんてことも十分に考えられるのだ。

 だからこそ慎重な行動をと再度釘を刺すと、スルトの耳には反省の欠片も感じられない照れ笑いが届いた。

 

「今話すべきはこのくらいだ」

『ん、おっけぇ。じゃあまた何かあったら連絡よろ~』

「ああ」

 

 あくまで協力関係というだけの話なのか、それとも単にスルトがドライなだけなのか、かなり淡泊な様子で二人の通話は終わった。

 スルトが束からの通話履歴を削除する頃には、すでにロビーやエントランスをとおり過ぎはじめ、携帯をしまうのと同時に絢爛な自動ドアをくぐった。

 ヒールが高めの靴をカツカツと鳴らして数歩進むと、バサリと大きく草木が揺れるような一陣の風が吹く。

 闇夜に靡くスルトの漆黒の髪は美しいもので、入れ違いでホテルへと入って行った男性は視線を奪われてしまったようだ。

 ただしその男性は女性連れであり、当然ながら軽く小突かれることで無理矢理にでも正気を取り戻させられてしまった。

 

『逆だったらって思ったでしょ?』

「思わなかった瞬間など、あるはずないだろうが」

 

 入れ違えた二人はいわゆるカップルか、それとも既に戸籍上でも契りを交わした夫婦なのか。

 そこのところは重要でないが、スルトに束の刺さるひとことを思い出させるにはお釣りがくるほどだった。

 逆だったならばというような無いもの強請りをしたところで、失った幸せを取り戻すことなんてできるはずもない。

 だが、考えられずにはいられないに決まっている。そうでなければ、自らの意思も揺らいでしまいそうになるから。

 あったかも知れない晴人との日々。あったかも知れない幸せな日々。あったかも知れない晴人と歩んでいく未来。それら全てが自分のものだったかも知れない。

 そんなふうに考えては一夏への憎しみが強まるばかりなので、さきほど束に咎められてしまったのだろう。

 

「……なぁ晴人。お前は、私のことを好きになってくれたかな」

 

 スルトは天を仰ぎ、思わずポツリとそう呟いた。

 もし自分が一夏のように寄り添うことができたなら、その心を奪うことができただろうか。

 それとも晴人が一夏を選んだのは、一夏だからこそなのか。

 後者であるならあまりに救いようもないようにみえるが、スルトにとってしてみれば完全に諦めのつく要素があるならそのほうがよかったのかも知れない。

 それすなわち、スルトの未練はいまだ大きく残り続けている。ということだ。

 

(っ……! 私は、何を今更……。死んでも晴人を生かすと言っておきながら、今更……!)

 

 女としての幸せよりも、愛する男の幸せを願ったはずだ。

 むしろそれを糧にして生きてきたというのに、それでもまだ共に幸せになりたいという想いを殺しきれない。

 スルトはそんな自分に嫌気がさしてしかたなく、なんと浅ましいことかと半ばののしるかのようにして戒める。

 そうでもしなければ、スルトはきっと壊れてしまうのだろう。

 あらゆる相反する感情の板挟みに苛まれて苦しみあえぐその姿は、スルトのような年頃の娘がしていようなものではない。

 

(一応の決別はした。次会う時はあくまで敵同士。……そうだ。私は晴人に憎まれるべく敵なんだ)

 

 全貌を話せないゆえにわかってはもらえない。それゆえに強硬的に一夏を連れ去るしかない。つまり、晴人と相対するのは敵としてしかありえない。

 スルトは自らに暗示をかけるようにして、何も期待を抱くなと言い聞かせた。

 それはそれでどうしようもない悲しみが襲い来るも、落ち着きを取り戻させるには事足りたらしい。

 今にも倒れてしまいそうなほど追い詰められていたスルトだったが、ゆっくりと乱れた呼吸が元通りになっていく。

 額ににじみ出てきた脂汗を手の甲で拭うと、いつものクールビューティーな少女へと様相を整えた。

 

(…………もう少し、ここらを歩くことにするか)

 

 気分が落ち着いたとはいえ、モヤモヤが完全に晴れたというわけでもない。

 本当はもう少しホテルの出入口周辺にてたむろして、それから寝したくをしてから床に就くつもりでいたが、このままでは眠れぬ夜を過ごすことになりそうだ。

 そう判断したスルトは気の向くままに歩を進め、煌びやかな街頭が輝く夜の街へと消えていく。

 スルトの気分転換の意味も込めて始まった夜中の散歩は、結局それから数時間にわたって繰り広げられるのであった。

 

 

 

 

 

 

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