ハルトナツ   作:マスクドライダー

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第82話 織斑の血統

 亡国機業(ファントム・タスク)による学園祭襲撃事件も発生から数時間ほど経過し、完全にとはいかないながら着実に終息へと向かっていった。

 幸いにもナツのみをピンポイントに狙っていたおかげか、学園という広い目で見て被害というなら、戦闘が発生した箇所くらいのものだ。

 詳しく言うなら僕とナツがオータムさんと戦ったロッカールームに、マドカが燃やしたアリーナの人工芝といった感じ。

 後は学園祭の片付けが後日に回されたことくらいかな……。

 いや、肝心なことを忘れていた。マドカと交戦し撃墜された専用機持ちについてだ。

 撃墜されたのは簪さん、セシリアさん、シャルル、ラウラちゃんの四名。いずれも軽い火傷を負っているが、命に別状はないらしい。

 専用機そのものについても大破とまではいかないらしく、学園内の設備で十分に修復が効く程度のことみたい。

 ただ本人たち曰く、それはマドカに手加減をされていたからだと口をそろえていたが。代表候補生としてのプライドがそうさせるのかな。

 

(……それにしても、まだ時間がかかりそうなのかな)

 

 騒ぎが終息したというのは、あくまで一生徒単位での話であることは理解している。

 不測の事態が起きた場合、いわゆる説明責任というものを問われるのは上の立場の人間だ。

 そう思えば今もどこかで頭を下げているのかといたたまれない気持ちになるが、到着を待ちわびている僕からすれば少しでも到着が早くならないかとも思ってしまう。

 僕しかいない生徒会室は、普段の明るい雰囲気の反動もあってか、よりいっそう寂しさを増長させた。

 もしかしたら今日の内は現れないかもな。

 できれば僕の覚悟が薄れない間のほうが、いつも以上に堂々としていられるから都合がいいんだけど。

 

「日向くーん! ごめんなさいね、随分待たせちゃったでしょ」

「まぁ、できれば今日のところは勘弁してほしいんだがな……」

「二人が大変だったのは承知の上だよ。けど、絶対に早いうちに話しておかなきゃならないことなんだ」

「…………。そうか、わかった。ならば聞こう」

 

 諦めが過りかけていると、騒々しく出入口が開いてフユ姉さんと楯無先輩が姿を現した。

 IS業界においてあらゆる面で頂点に立つフユ姉さん。そして、古来より続く暗部組織の十七代目。

 先ほど起きた目まぐるしい出来事について、この二人に話さないでおくという選択肢があるだろうか。

 フユ姉さんに至ってはナツの血縁だ。しかもたった一人の。

 そんな大切な妹に隠された真実について、もしかしたら知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない。

 けれどそこは重要じゃなくて、なんと言ったらいいんだろう……。上手い表現は見つからないけど、とにかく事実確認めいたものはするべきなんだ。

 ただ、それが必ずしもいい方向へ転ぶなんてことは思っていない。

 もしものことがあれば、その時は……。だからこそこの場にナツを連れてはこなかった。

 そんなもしもの場合を想定したことも含めた覚悟が漏れてしまったのか、疲れ切った表情だったフユ姉さんの雰囲気がいつもの様子へと変わる。

 対面に並んで座ったIS学園ビッグツーとも言うべき二人を前に、勝手にプレッシャーを感じつつも僕は口を開いた。

 

「話を始める前に、まず楯無先輩に聞いておきたいことが」

「ええ、何かしら」

「先輩は、ナツのことをどこまで知ってるんですか?」

「しらばっくれる場面でもなさそうね。元男ってことでしょう? そうね、知ってたわ」

 

 楯無先輩の正体を、もしくは更識という組織の存在を知ってからというもの、僕の頭の片隅にあったひとつの懸念のようなものだった。

 ナツが男性であったという事実を、政府関係者等一部の人間は知っている。ということは知っていた。

 それだけに対暗部用暗部の頭目なんていう肩書の楯無先輩耳に、そんな事実が届いていない可能性は限りなく低いと。

 今まで気にしなかったのは触らぬ神に祟りなしだとか、藪を突いて蛇を出すとか、そんなことにならないようにするため。

 でもナツの因子について話すのであれば避けては通れない道であり、むしろ知っていてもらわなければいろいろややこしいことになっていたところだ。

 というか先輩がそこに触れなかったのって、多分僕らの間柄―――――――デリケートな部分に考慮してのことだろうから。

 楯無先輩はどこか警戒した目つきで僕を一瞥するが、これはただの確認だからまだ力を抜いていてほしい。という旨を伝えると、かなり雰囲気は丸みを帯びた。

 

「ねぇフユ姉さん。なにがあっても、ナツはフユ姉さんの妹だよね」

「当たり前のことを。そうに決まっているだろう」

「……そっか、わかった。……二人には、僕が学園祭で見聞きしたことを知ってほしいんです」

 

 僕のフユ姉さんへの信頼は絶大だが、どうしても確認せざるを得なかった。だって、それこそ立場というやつがあるから。

 だけど僕に穏やかな様子で決まっていると返すフユ姉さんは紛れもなくただの姉で、教師や諸々の立場なんかにそれが劣るはずがないと思わせてくれる。

 ……フユ姉さん、ありがとう。あなたがそうやって厳しくも優しい姉でいてくれるから、僕らは安心して道を歩んでいけるんだ。

 本当に本当の覚悟は決まった。だから話そう。僕が、僕らが見知った襲撃事件での全てを。

 

「まだ絶対の確証があるわけじゃない。けど、いろいろ辻褄が合ってるから事実なんだと思う。……僕がISを動かせる原因は、ナツらしい」

 

 まずはナツの抱える事情について。

 恐らく亡国機業の陰謀ないし計画のうえでナツが生まれたこと。

 そしてナツは出生当初からISを動かすために必要な因子―――――――現状では女性のみが持つであろう因子を蓄えていること。

 その因子についてナツが男性だと亡国にとって不都合だったため、女性に変えられてしまった可能性が高いということ。

 そして因子は十年に及ぶ長い歳月を経て他者へと感染にも似た現状を起こし、それが例えば男性だった場合ISを動かせるようになること。

 結果的に誕生したのがこの僕、世界で唯一の男性IS操縦者であるということ。

 時間を惜しまず懇切丁寧に、洗いざらいを話した。変に濁すと余計にややこしいことになってしまう。

 僕の告白について楯無先輩は難しい顔をしながら、フユ姉さんは思った以上に落ち着いた様子で聞き入っていた。

 ナツの事情については一応話し終えたのだが、いっこうに誰一人口を開こうとせず、ただ無意味に時間が流れていく。

 

「晴人。一夏は亡国の生まれだと、確かにオータムとやらはそう言ったんだな」

「うん、確かに。でも、だからって―――――――」

「構わん、落ち込んでるわけじゃない。更識姉。すまないが、そこにある金物を取ってくれないか。スプーンでもフォークでもなんでもいい」

「はぁ……? まぁ、それは別に構いませんけど」

 

 ついにフユ姉さんが切り出したかと思えば、何やら楯無先輩に意図のよくわからない要求をし始めた。

 意図をはかりかねているのは先輩も同じみたいで、不思議そうに首を傾げながら立ち上がり、生徒会室にあるティーセット一式の仕舞われた棚から、ひとつフォークを拝借。

 それをフユ姉さんに手渡すと椅子に座りなおし、いったいこれから何が起きるのかと、僕と二人して事の顛末を見守った。

 

「後で必ず弁償しよう」

「はい? 先生はいったい何をするつもり―――――――で……?」

「あれでも普段はセーブしているつもりなんだ。この事実は誰にも明かしていない。もちろん一夏にもな」

 

 確かにフユ姉さんはあらゆる意味で超人的な女性だが、今目の前で繰り広げられている光景にばかりは現実味が湧かない。

 フユ姉さんはおもむろにフォークの両端を指でつまんだかと思えば、そのまま手首を利用してグリグリと捩じってしまったのだ。

 当然ながらフォークは鉄製。のはずなのだけれど、傍からみたらまるで粘土などのように変形しやすい物体を弄んでいるかのように錯覚してしまう。

 これでは人間離れどころか人間業じゃない。単に怪力というだけでは説明できないその光景に、僕も楯無先輩も思わず息をのんだ。

 本気を出しているらしいフユ姉さんにデモンストレーションの材料にされたフォークの末路は悲惨なもので、最終的にはむりくり潰されあちこちがひん曲がった鉄塊へとなれ果てた。

 

「フユ、姉さん……?」

「これを見るに、その因子とやらの件は本当だろう。私も連中に関連づいて生まれた可能性が高い」

「つまり、その、先生のご両親は……」

「さて、見当もつかん。せめてスパイか何かであることを願うばかりだが」

 

 確かにそれは自然なことかも知れないが、あのフユ姉さんが誰にも明かしてこなかったと言った。

 どちらかと言うなら抱え込む性格ではあるけど、これは本人が隠したかったから隠してきた事実。というのが嫌でも伝わってきてしまう。

 恐らくだけど、僕の思うフユ姉さんの考えだけど、単純に化け物じみた力を恐れられたくはなかったから……。

 それでもフユ姉さんは話を進め易くなるという理由で、隠し通してきた事実を明かしてくれた。もちろん僕が一定の信頼を得ているということでもあるんだろう。

 ならこの信頼にはどう応えたらいい? 慰めも同情も違う。それはもっともこの人からはかけ離れていることだ。

 それにフユ姉さんに聞きたいのはこれだけじゃなく、マドカという少女の件についても触れなければならないことがとても心苦しい。

 

「晴人。束に何かされなかったか」

「えっ、あっ、束っ、さん……? ……どこまで本気かわからないけど、告白されたっていうか―――――――いや、待って。そういえば、ナツを男に戻したがっていたような……」

「なるほど、やはりアイツは知っていたか。更識姉。お前には一度話したがおさらいだ」

「はい、先生」

 

 僕が悶々とした考えを渦巻かせていると、ふいにフユ姉さんは束さんのことについて問いかけてきた。

 束さんと接触した臨海学校で彼女に覚えた違和感と言えば、心当たりがあるのは僕に告白―――――――を通り越してプロポーズしてきた件について。

 勘ではあるけど、告白自体に嘘はないと思われる。が、あの際ナツを男に戻す薬があると提案したのは、きっとナツの事情と無関係でないのだろう。

 そして福音事件の解決した直後ほどに、フユ姉さんは束さんと接触していたみたい。

 その去り際、ナツの事実と僕の因果関係についてほのめかす言葉を残してから消えて行ったらしい。

 

「織斑先生、少し待ってください。一夏ちゃんが女性であり続けること、それが世間ないし日向くんにとって危険だとするなら、なぜ彼女は強硬的手段に出ないんです」

「どうしたいのかがわからん、というのが正直なところだ。あいつは個人的都合で動いていると言ったが、ゴールがどこになるかで話がまったく変わって来るからな」

 

 ゴールによって話が変わる……か。確かにそれは言えているかも知れない。

 もしかすると世界や人間に興味がないっていうのは嘘で、必要最低限の人しか巻き込まないようにしているとか。

 でもそれだと、束さんの目的は世界を救うこと? なら、それこそナツは強硬的に男性へと戻らされていたことだろう。

 束さんは手段を選ばないと思うから。

 そう、あまりにも無理にナツを戻さなかったことの説明がつかない。

 あの時点で僕はナツと付き合ってはなかったし、僕らの男女関係について配慮したっていうのも考えにくいよな。

 あちらを立てればこちらが立たない。まさにその表現がふさわしく、束さんの目的を仮定することすらかなわない。

 

「一理どころか百理ありそう……。う~ん、保留かしら?」

「いいんですか!?」

「馬鹿者。隠し事をしていることは割れたんだ。次現れたら問答無用で締め上げればいい」

「目的がどうあれ、二人のことを知っていたなら自ずと現れるでしょう」

 

 楯無先輩の考えを放棄するような保留発言に思わず声をあげるが、そうか、フユ姉さんみたいな考え方だってできるのか。

 僕らのことを知っていたのは割れて、きっとまだまだ隠していることがあるだろう。

 なおかつ一度僕らに接触を図ったということは、少なくとも次があると考えるのが自然だ。

 だけどその場合、本当は束さんがどういう立場であっても対立は免れないってことだよな。

 ナツを守るためなら何者でも殴り飛ばすと誓った矢先だが、もしその目的が世界にとってプラスなことであったなら―――――――僕はいったいどうすればいいんだろう。

 

「しかし、私の妹と弟が出会った瞬間から定められた運命……か。そこだけ聞くとロマンティックだと言うのに……」

「ええ、まったく。すべて亡国の掌の上と思うと、十七代目的にも腹立たしくて仕方ないですよ」

「……フユ姉さん。妹ってことなんだけど、どうしても話さなければならないことがあるんだ」

「妹? 一夏の件、まだ何か続きがあるのか?」

「フユ姉さん、違うんだ。妹って言ってもナツの事じゃなくて―――――――織斑 マドカって名前に心当たりはない?」

 

 妹という単語に関連付け、フユ姉さんにマドカについてのことを問いかけた。

 どう転んでもフユ姉さんが年長で、マドカは僕らと同じか、離れていてもふたつ下くらいと推測してのことだ。

 織斑 マドカという名を聞くなり、フユ姉さんは深く考え込むようにして、記憶から情報を引き出そうとしているらしい。

 一方の僕は動機が早まっていくのを止められなかった。

 もしフユ姉さんに心当たりというものがあってしまえば、マドカという存在を認めるしかなくなってしまう。

 あの様子をみるに、僕との間に何かがあったのは間違いない……はず。

 多分だけど、思い出せないことや忘れてしまっていることにもそれなりの理由があるんだろう。

 彼女には申し訳ないけど、今更なんだ。僕にはナツというものがあるし、僕もまたナツだけのもの。

 なのにどうだ、忘れた過去で将来を約束でもしてたらさ。例えかつてのナツが男だったとしても、これは重大な裏切りに値してしまう。

 そこなのかって思ったりした人が居たらば、僕にとってのナツという存在の大きさをまるでわかってはいない。

 

「……思い出せん。ということは知らん、はずだが……。晴人、まずはその織斑 マドカとやらについて詳しく聞かせろ」

「!? 要するに、心当たりはないんだね!」

「ああ、ない。現状では荒唐無稽としか思えんな」

「…………っ、そっか……! そっか、よかった……!」

 

 フユ姉さんが嘘をついているかくらいは見抜ける自信がある。

 知らないと語るフユ姉さんの様子から判定するに、完全に全く知らないであろうという結論に至る。

 これを一概によかったとしていいのかはわからないが、何よりフユ姉さんが隠し事をしていたわけじゃないことが嬉しくて、ついつい胸を撫でおろして安堵してしまう。

 そんな僕に何がそこまで嬉しいのかとチンプンカンプンな二人の視線が刺さる。

 おっと、いけない。どちらかというならここからが本番でもあるのだから、要点をまとめて説明責任とやらを果たさなくては。

 スルトの素顔はナツやフユ姉さんに似た容姿で、なおかつ自身で織斑 マドカと名乗った。

 そして、僕がその存在を忘れているかのような言葉を仄めかし、これ以上ナツと共にあると危険であると忠告してきた。

 最後に、ナツ然りマドカ然り、織斑という血統にはまだまだ隠された真実があるであろうこと。

 このあたりがマドカ関連で伝えるべきことであろう。

 

「ますます両親への疑惑が濃厚になってきたな。晴人、お前も覚えはないのだろう」

「ないね。キッパリとそう言える。だって、昔の僕ってナツ以外と一緒のことなんてなかったし」

「だとすれば、私たちの出自はやはり亡国―――――――と仮定して、なぜそのマドカとやらのみが残った……?」

「もっと言うなら、残ってるはずなのに日向くんのことを知ってる。……実は日向くんも亡国関連―――――――」

「それもないです。元は地方に住んでて、四歳ごろに越してきたんですから」

「そうよねぇ。というより、FT&Iが超絶ホワイト企業なのは更識的にも周知の事実だし」

 

 記憶を消されるないし操作でもされない限り、僕の過去において同世代の友人なんてナツしかいない。

 つまりマドカはナツの出自も絡めて亡国産まれということになるが、彼女が僕を知っているらしい事実が議論を停止させる。

 咄嗟に僕やナツといった家族しか知らないような質問をすることができればよかったんだが、なにぶん熱さと混乱のせいでろくな思考がままならなかったからな……。

 いや、本能的にマドカに答えられることを恐れていた部分があるのかも知れない。それすなわち、やはり既知であることがほぼ確定してしまうから。

 すると楯無先輩が強引に矛盾を解決できるような可能性を挙げる。

 確かに僕が亡国機業の出身であるならマドカが僕を知っていてもおかしくない。けど、僕には朧気ながらも地方に住んでいた記憶があるからそれはないと思われる。

 楯無先輩としても言ってみただけくらいのものなのか、お手上げと書かれた扇子を開いて大きなため息をついた。

 

「保留」

「いいのそれも保留で……?」

「いい。次現れた時は私も出る。晴人、一夏、私の三人と家族会議ができるんだ。そのマドカとやらも本望だろ」

「出る……って、フユ姉さん。流石に暮桜がないと―――――――」

(日向くん、シーッ……)

 

 束さんの時と同じで締め上げるってことなんだろうけど、流石にマドカの件も同列にするとはいかがなものか。

 という想いを込めて聞き返すが、曰くマドカが現れ次第自分も出撃し、直接話すべきことを話すとのこと。

 まぁ確かに、どことなくマドカのことは僕ら家族の問題でもあるような気はするよな。

 けど、流石のフユ姉さんでも量産機でマドカの相手は厳しいのではなかろうか。

 暮桜はどうにかできないのかと口を開きかけると、楯無先輩は無言の圧を放ちながら人差し指を唇へと当てた。

 なるほど、理由はわからないけど僕には話せない機密事項ってこと。

 それは悪いことを聞いてしまったと、僕は大げさに首を何度も縦に振った。

 

「私としては、晴人の身が危ういらしいことのほうが気になるぞ」

「うん……。何がどう危ないのかわからないけど、とりあえず僕らは検査にかかったほうがいいとは思うんだよね」

「それは同感だ。後日おじさんとおばさんに相談だな」

 

 早くナツと離れなければ取り返しがつかなくなる。

 という旨をマドカは語っていたけど、その実どう危ないのか話せないらしいから見当がつかない。

 やっぱりいの一番に思いついてしまうのが、ナツの持つ因子に関連した副作用とかそういうの。

 どうかそれだけはあってほしくないというか、さもなければ今後ナツとのキス禁止令が発令される可能性が考えられる。

 プラトニックな関係でもそれは構わないんだけど、一度知ってしまったのならそれはもう……ねぇ?

 でも、本当に寿命なんかを縮ませてるならナツの方がさせてくれなさそう。

 とにもかくにも、まず最優先されるのは科学的もしくは化学的にあらゆることを明るみにすることだ。

 そのあたりのことは既に頭に入っていて、フユ姉さんと楯無先輩への報告が済んだら電話をかけようとおもっていたところ。

 まぁ、いろいろ話すのは直接会って話すのが間違いないだろう。父さんと母さんのスケジュールを確認しておかなければ。

 

「……ねぇ日向くん。私からも質問いいかしら?」

「はい、もちろん」

「この話だけど、そもそもどうして私たちに報告したの? 言ってる意味はわかるわよね」

 

 楯無先輩が威圧感を放ちながらそう聞いてくるということは、どういう意図での質問かなんて想像に易い。

 更識家とは要するに毒を以て毒を制す暗部稼業。世に平穏をもたらすためなら手段を選ばないという、大っぴらに善と下し難い組織。

 そしてフユ姉さんは僕らの身内ではあるが、世界最強の肩書を得ると同時に、どこか中立の立場で物事を見守っている節がある。

 ということはだ。僕がナツの真実を語ったことにより、ナツを政府か何かに引き渡す方針になってしまったらどうするつもりだったのか。

 現状では定着まで十年を要するらしいナツの因子だが、政府からしたら格好の研究対象としてしか映らないことだろう。

 ……定着しきっている僕にも同じことが言えるか。

 とにかく、もし方針が確保に固まったら、僕たちはどんな目に合っていたかはわかったものではない。

 なのにどうして話したのか。もちろん二人を信頼しているというのが最も大きな要因だけど、もしそういうことになったその時は―――――――

 

「何かあったときは押し通る気でした。流石に逃げ出すくらいなら、僕でもなんとかできたでしょうし」

「脱走……!? する気でいたの? 日向くんが?」

「ま、妥当だな。保護目的の学園でさえ敵同然となれば、わざわざ所属している意味が薄い」

 

 どうにも僕が強硬的手段に訴えることが意外なのか、楯無先輩は威圧感を放つのも忘れて目を白黒させた。

 まぁ、後は大体フユ姉さんの言ったとおりかな。

 僕はあらゆる政治的思想から保護されるため、またはその力を得るために学園に在籍している。

 なのにそれがナツの真実を知るや否や政府に引き渡しなんて、そんなの今の僕から言わせれば敵同然どころか敵そのものだ。

 逃亡生活ともなればナツに迷惑をかけるだろうが、少なくともモルモット扱いよりはそちらのほうを選んだほうがいいに決まっている。

 

「……お前は真実を知ってなお、そうまでして妹と一緒に居てくれるのか?」

「もちろん。ベタな台詞だけど、世界がナツの敵なら僕は世界の敵だ」

「……そうか。……晴人、お前は一夏に必要な男だ。どうかこれからもよろしく頼む」

「……フユ姉さん、ありがとう。一生かけて大事にするって誓うよ」

 

 古くから僕のことを知るフユ姉さんだ。そう聞いたところで僕がどう答えるかなんて知っているはずなのに、確認せずにはいられないくらいヘビーな話しなんだろう。

 こういうことを言うとナツが悲しむからあまり口にはしないが、ナツのためならば命さえも惜しくはない。

 例え世界がナツの敵にまわっても、僕だけは絶対にナツの傍を離れない。

 そういう覚悟はとうの昔に決めていたが、今回の件でより決意が強固になったと言っていいだろう。

 僕の真摯さや覚悟の度合いが伝わったのか、フユ姉さんはおもむろに立ち上がって深々と頭を下げた。

 気持ちは嬉しいが、僕からしたらそうまでされる義理はない当たり前のことだ。

 本当に大丈夫だからと声をかけると、フユ姉さんはあらゆることに言っているであろう、すまないと謝罪してから座りなおした。

 とはいえ流れはほとんど解散のようなものだ。後は軽く今後について意見を交わして、それから―――――――って、そうそう大事なことをひとつ忘れていた。

 

「ねぇフユ姉さん。美術室ってまだは入れるかな?」

 

 

 

 

 

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